説明

偏光フィルム製造用ニップロールおよび偏光フィルムの製造方法

【課題】 ポリビニルアルコール系フィルムの切断を抑制することができる耐久性に優れた偏光フィルム製造用ニップロール、およびこれを用いる偏光フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 ニップロールの少なくとも表面が、カーボンブラックを含有しかつ過酸化物で加硫したEPDMを主成分とするゴム層である。ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理および乾燥処理の順に処理し、該処理工程のうち膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理工程の前、および/または膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理のうち少なくとも1つの処理中に、フィルム搬送する2つのニップロール間に周速差を付与してフィルムを延伸して偏光フィルムを製造する方法において、前記ニップロールが使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造工程において、特にフィルムを湿式延伸するために用いるニップロール、および該ニップロールを用いる偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとしては、従来から、ポリビニルアルコール系フィルムに2色性色素を吸着配向させたものが用いられている。すなわち、ヨウ素を2色性色素とするヨウ素系偏光フィルムや、2色性染料を2色性色素とする染料系偏光フィルムなどが知られている。これらの偏光フィルムは、通常、その片面または両面にポリビニルアルコール系樹脂の水溶液からなる接着剤を介してトリアセチルセルロース等の保護フィルムを貼合して、偏光板とされる。
【0003】
偏光フィルムの製造方法として、ニップロール、ガイドロールを使用し、ポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬させて膨潤させた後、前記二色性色素で染色し、これを延伸し、ついでヨウ素をフィルムに定着させるためにポリビニルアルコール系フィルムをホウ酸処理し、水洗した後、乾燥する方法が知られている。この際、処理浴前後のニップロールに周速差を与えてフィルムの延伸を行い、ガイドロールによってフィルムの搬送方向を変更し、処理液へのフィルムの導入、取り出しを行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記のようなポリビニルアルコール系フィルムの湿式延伸においては、従来からフィルムが切断しやすいという問題があった。このようなフィルム切断の原因としては、フィルム自体の問題のほか、使用するニップロールが長時間にわたってフィルムに付着したヨウ素、ホウ酸、ヨウ化カリウムなどの影響を受けて劣化する(特にロール表面が硬くなる)ことが考えられるが、これに対する有効な対策は見出されていなかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−170721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来例の問題点を解決して、ポリビニルアルコール系フィルムの切断を抑制することができる耐久性に優れた偏光フィルム製造用ニップロール、およびこれを用いる偏光フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、延伸に使用するニップロールの材質として従来から使用されているNBRが製造工程において長時間にわたりフィルムに付着したヨウ素、ホウ酸、ヨウ化カリウムなどの影響を受けて劣化しやすいのに対して、カーボンブラックを含有し、過酸化物で加硫したEPDMを主成分とするニップロールを使用するときは、上記のような問題がなく、フィルムの切断を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の偏光フィルム製造用ニップロールは、少なくとも表面が、カーボンブラックを含有しかつ過酸化物で加硫したEPDMを主成分とするゴム層であるであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる偏光フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理および乾燥処理の順に処理し、該処理工程のうち膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理工程の前、および/または膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理のうち少なくとも1つの処理中に、フィルム搬送する2つのニップロール間に周速差を付与してフィルムを延伸して偏光フィルムを製造する方法において、ニップロールとして、前記ニップロールを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のニップロールは、表面が、カーボンブラックを含有しかつ過酸化物で加硫したEPDMを主成分とするゴム層であるので、長期間にわたってフィルムに付着したヨウ素、ホウ酸、ヨウ化カリウムなどに対する耐久性にすぐれ、重量変化や摩擦係数の変化が少ないので、偏光フィルム製造過程においてフィルムが切断されるのを抑制することができ、その結果、偏光フィルムの生産性および製品歩留りも向上するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の偏光フィルム製造用ニップロールは、過酸化物で加硫したEPDM(エチレン‐プロピレン‐ジエンゴム)を主成分とするゴム層を表面に有する。EPDMは、よく知られているように、エチレンとプロピレンとの共重合体であるエチレン−プロピレンゴム(EPM)に、少量の第3成分(ジエン成分)を導入し、主鎖中に二重結合をもたせたものである。第3成分としては、例えばエチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、ジシクロペンタジエン(DCP)などが挙げられる。EPDMはヨウ素価が5〜24であるのが好ましい。
【0012】
EPDMを加硫(架橋)させるための過酸化物としては、例えばベンゾイールペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,1′−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチレンシクロヘキサン、1,3−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−ジイソプロピルベンゼン等がある。
【0013】
本発明における上記ゴム層は、EPDMを主成分とし、これに他のゴム成分を配合してもよい。このような他のゴム成分としては、例えばEPM、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
この場合、本発明におけるゴム層は、EPDMを100〜70重量%の割合で含有しているのがよく、EPDMの配合量が70重量%未満であると、耐摩耗性や耐薬品性が低下するおそれがある。
【0014】
また、本発明においては、過酸化物以外に、種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えばカーボンブラックなどの補強剤、充填剤、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等のプロセスオイル、さらにステアリン酸、亜鉛華等の加硫促進剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、補強剤、充填剤としては、カーボンブラックと共に、シリカ、クレー等の耐酸性を有する添加剤を添加してもよい。
【0015】
このような各種添加剤の所定量を、EPDMを主成分とするゴム材料に混合し充分に混練した後、所定の押出し成形などによりロールの芯金の外周面上にゴム層を被覆し、ついで加圧下で加硫し、研磨することによりニップロールが得られる。加硫温度は、使用する過酸化物の分解温度以上である。
前記芯金とゴム層との間には接着層を介在させてもよい。この接着層の硬度は、特に限定されないが、表面ゴム層のゴム硬度以上であるのが、ロール使用時の耐圧性や薬品による接着層の剥離防止のうえで好ましい。接着層は、エポキシ化ゴム等の、前記芯金との接着性に優れたゴム種が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0016】
得られるニップロールは、偏光フィルムの製造用途で使用するうえで、ゴム層表面の硬度(JIS Type A)がゴム硬度計で60〜85、引張り強さが12〜30MPaであるのがよい。
表面のゴム硬度が60未満であると、ロールの寿命や耐摩擦性が悪くなる。一方、表面のゴム硬度が85を超えると、クッション性が悪くなり、被処理フィルムに悪影響を及ぼすおそれがある。表面のゴム硬度(JIS Type A)は65〜80であるのがより好ましい。
【0017】
さらに、本発明におけるゴム層は、引張り強さが12〜30MPa、好ましくは12〜20MPaであるのがよい。引張り強さが12MPa未満であると、耐摩耗性が悪く、使用時に磨耗分が多く発生し、異物混入のおそれがある。一方、引張り強さが30MPaを越えると、ゴム層の表面を研磨する際に、研磨性が悪く、仕上げが困難になるおそれがある。
【0018】
本発明のニップロールにおけるゴム層は、後述する劣化促進試験において、重量変化が+150g/m2〜−50g/m2の範囲であり、表面の硬さ(JIS Type A)変化がゴム硬度計で±5の範囲であり、引張り強さが70%以上、好ましくは80%以上保持されるのが好ましい。
【0019】
このような特性を有する本発明にかかるニップロールを、フィルムの延伸を行う処理浴の前後に設置し、これらのニップロールに周速差を与えて延伸を行う。
なお、ニップロールを処理浴の中に設置して延伸を行ってもよい。
【0020】
本発明に係るニップロールの生産性を考慮すると、前記表面ゴム層は、過酸化物で加硫したEPDMを主成分とし、かつカーボンブラックを含有しているのが好ましい。すなわち、ニップロールは、通常、直径が300mm以上で、面長が2500mm以上であるから、このような比較的大きなニップロールを製造するには、プレス機などによる成形方法が採用できないため、あらかじめ未加硫のゴムシートを用意して、これを芯金に巻きつけたり、あるいはリボン状の未加硫ゴムを押出し成形する、いわゆるリボン成形等の方法を用いて、芯金表面にゴムを被覆する。その際に、ゴムシートやリボンの合わせ目が生じ、場合によっては、その部分に欠陥が生じることがあるが、上記のように過酸化物で加硫しかつカーボンブラックを含有していることにより合わせ目に欠陥が生じるのを抑制ないし防止することができる。
ここで、カーボンブラックは、ゴム層を形成するEPDMを主成分とするゴム材料の総量100重量部に対して40〜80重量部であるのがよい。
【0021】
次に、本発明に係るニップロールを使用する偏光フィルムの製造方法を説明する。本発明におけるポリビニルアルコール系フィルムを形成するポリビニルアルコール系樹脂は、通常、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものが例示される。ケン化度としては、85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは99モル%〜100モル%である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度としては、1000〜10000、好ましくは1500〜5000程度である。
【0022】
これらのポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用しうる。通常、偏光フィルム製造の開始材料としては、厚さが20μm〜100μm、好ましくは30μm〜80μmのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの未延伸フィルムを用いる。工業的には、フィルムの幅は1500mm〜4000mmが実用的である。
【0023】
この未延伸フィルムを、膨潤処理、染色処理、架橋処理、水洗処理し、最後に乾燥して得られるポリビニルアルコール系偏光フィルムの厚みは、例えば約5〜50μm程度である。
【0024】
本発明にかかる偏光フィルムは、2色性色素を吸着配向せしめたポリビニルアルコール系一軸延伸フィルムであるが、その作製方法としては、未延伸のポリビニルアルコール系フィルムを水溶液で膨潤処理、染色処理、ホウ酸架橋処理および水洗処理の順に溶液処理し、ホウ酸架橋処理工程および/またはその前の工程で湿式にて一軸延伸を行い、最後に乾燥を行う方法である。
【0025】
前記の方法において、一軸延伸は、1つの工程で行ってもよいし、2つ以上の工程で行っても良いが、複数の工程で行うことが好ましい。延伸方法は、フィルムを搬送する2つのニップロール間に周速差をつけて延伸を行うロール間延伸である。また、処理浴の数や、処理条件などに制約は無い。
【0026】
膨潤処理工程は、フィルム表面の異物除去、フィルム中の可塑剤除去、次工程での易染色性の付与、フィルムの可塑化などの目的で行われる。処理条件はこれらの目的が達成できる範囲で、かつ基材フィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。あらかじめ気体中で延伸したフィルムを膨潤させる場合には、例えば20℃〜70℃、好ましくは30℃〜60℃の水溶液にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は、30秒〜300秒、更に好ましくは60秒〜240秒程度である。はじめから未延伸の原反フィルムを膨潤させる場合には、例えば10℃〜50℃、好ましくは20℃〜40℃の水溶液にフィルムを浸漬して行われる。フィルムの浸漬時間は、30秒〜300秒、更に好ましくは60秒〜240秒程度である。
【0027】
膨潤処理工程では、フィルムが幅方向に膨潤してフィルムにシワが入るなどの問題が生じやすいので、エキスパンダーロール、スパイラルロール、クラウンロール、クロスガイダー、ベンドバー、テンタークリップなど公知の拡幅装置でフィルムのシワを取りつつフィルムを搬送することが好ましい。浴中のフィルム搬送を安定化させる目的で、膨潤浴中での水流を水中シャワーで制御したり、EPC装置(Edge Position Control装置:フィルムの端部を検出し、フィルムの蛇行を防止する装置)などを併用したりすることも有用である。本工程では、フィルムの走行方向にもフィルムが膨潤拡大するので、搬送方向のフィルムのたるみを無くすために、例えば処理槽前後の搬送ロールの速度をコントロールするなどの手段を講ずることが好ましい。また、使用する膨潤処理浴は、純水の他、ホウ酸(特開平10−153709号公報に記載)、塩化物(特開平06−281816号公報に記載)、無機酸、無機塩、水溶性有機溶媒、アルコール類などを0.01重量%〜10重量%の範囲で添加した水溶液も使用可能である。
【0028】
2色性色素による染色工程は、フィルムに2色性色素を吸着、配向させる目的で行われる。2色性色素としては、ヨウ素、2色性染料のいずれも使用可能であるが、通常ヨウ素が使用される。処理条件はこれらの目的が達成できる範囲で、かつ基材フィルムの極端な溶解、失透などの不具合が生じない範囲で決定される。例えば、2色性色素としてヨウ素を使用する場合を例にとって説明すると、10℃〜45℃、好ましくは20℃〜35℃の温度で、かつ重量比でヨウ素/KI/水=0.003〜0.2/0.1〜10/100の濃度で30秒〜600秒、好ましくは60秒〜300秒浸漬処理を行う。ヨウ化カリウムに代えて、他のヨウ化物、例えばヨウ化亜鉛などを用いてもよい。また、他のヨウ化物をヨウ化カリウムと併用しても良い。また、ヨウ化物以外の化合物、例えばホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルトなどを共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合、ヨウ素を含む点で下記の架橋処理としてのホウ酸処理と区別される。水100重量部に対し、ヨウ素を0.003重量部以上含んでいるものであれば染色槽と見なせる。
【0029】
前記したように染色槽でフィルムを延伸させてもよい。延伸は染色槽の前後のニップロールに周速差を持たせるなどの方法で行われる。また、膨潤処理後、染色処理前にポリビニルアルコール系フィルムを湿式延伸処理してもよい。
【0030】
本発明において、ホウ酸架橋処理は、ホウ酸を架橋剤として含有する水溶液に浸漬処理することにより行われる。ホウ酸架橋処理液としては、水100重量部に対してホウ酸を4重量以上含むのが好ましく、より好ましくは4〜6重量部である。ホウ酸と共に、ホウ砂、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどの架橋剤も使用することができる。通常架橋剤に加えて、ヨウ化物などが使用される。ヨウ化物としてはヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛などが挙げられるが、通常、ヨウ化カリウムが用いられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムなどを共存させても良い。ホウ酸架橋処理液の好ましい組成は、水100重量部に対して、ホウ酸4〜6重量部を含むものである。
【0031】
前記ホウ酸架橋処理液を使用する処理条件としては、処理温度が50℃以上、処理時間が50秒以下であるのが好ましい。処理温度が50℃を下回ると、架橋処理が不十分で、最終の光学特性が得難くなる。処理温度は通常60℃以下が好ましい。処理温度が60℃を超えると、フィルムの外観が損なわれる傾向がある。処理時間は50秒以下が好ましく、処理時間の下限値は通常30秒程度である。
【0032】
前記ホウ酸架橋処理後、フィルムは洗浄処理される。この洗浄処理は、例えば、ホウ酸架橋処理したポリビニルアルコール系フィルムを純水などの洗浄水に浸漬、洗浄水をシャワーとして噴霧、あるいは浸漬と噴霧を併用することによって行われる。洗浄処理は、2段以上の多段で行ってもよく、その場合各段の処理条件は、前記の範囲内で同一でも、異なっていてもよい。
【0033】
本発明では、膨潤処理、染色処理、ホウ酸架橋処理工程の前または工程中の少なくとも一つの工程において一軸延伸を行う。あるいは、上記の工程の間に一軸延伸を行うための湿式延伸工程を加えてもよい。一軸延伸は、1つの工程で行ってもよいが、複数の工程で行ってもよい。延伸方法は、フィルムを搬送する前記した2つのニップロール間に周速差をつけて延伸を行うロール間延伸が挙げられる。また、膨潤工程の前にあらかじめポリビニルアルコール系フィルムを空気あるいは不活性ガスなどの気体中で一軸延伸を行ってもよい。最終的な積算延伸倍率は4.5〜7.0倍、好ましくは5.0〜6.5倍である。
【0034】
このようにして製造された偏光フィルムの少なくとも片面に保護フィルムを接着剤で貼合して偏光板が得られる。
保護フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂からなるフィルム、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂からなるフィルム、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルム、シクロオレフィン系樹脂からなるフィルムが挙げられる。市販の熱可塑性シクロオレフィン系樹脂としては、例えばドイツのティコナ(Ticona)社から販売されている「トパス」(Topas)(商標登録)、ジェイエスアール(株)から販売されている「アートン」(商標登録)、日本ゼオン(株)から販売されている「ゼオノア」や「ゼオネックス」(いずれも商標登録)、三井化学(株)から販売されている「アペル」(商標登録)などがある。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜したものを保護フィルムとすることになるが、製膜には、溶剤キャスト法、溶融押出法など、公知の方法が適宜用いられる。製膜されたシクロオレフィン系樹脂フィルムも市販されており、例えば、積水化学工業(株)から販売されている「エスシーナ」や「SCA40」などがある。
【0035】
本発明においては、保護フィルムに、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能、光学補償フィルムとしての機能など、光学的機能を持たせることもできる。この場合、例えば保護フィルムの表面に、位相差フィルム、輝度向上フィルム、反射フィルム、半透過反射フィルム、拡散フィルム、光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムを積層することにより、このような機能を持たせることができるほか、保護フィルム自体にこのような機能を付与することもできる。また、輝度向上フィルムの機能を持った拡散フィルムなどのように複数の機能を保護フィルム自体に持たせてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
EPDMとして住友化学株式会社製の「エスプレン 501A」(ヨウ素価12)を使用し、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイドを使用し、以下の処方でゴム組成物を配合した。
EPDM 100重量部
カーボンブラック 50重量部
パラフィン系オイル 5重量部
ステアリン酸 1重量部
亜鉛華 5重量部
有機過酸化物 3重量部
上記の各成分をゴム練り機にて充分に混練りした後、カレンダー機に掛け、約1.5mmの厚さの未加硫のゴムシートを作成し準備した。予め表面にブラスト処理を施し、接着剤を塗布した芯金に、上記ゴムシートを数回積層しゴムを被覆した。これによって、表面に厚さ35mmのゴム層を有するゴムロールを成型した。ついで圧力0.5MPa、温度160℃で480分加硫し、冷却後研磨を施すことにより、ロール表面に厚さ25mmのゴム層を有する実施例1のニップロールを得た。
【0038】
[比較例1]
EPDMに代えて、NBR(日本ゼオン株式会社製の「ニポールDN1042」)を、加硫剤として硫黄を使用し、以下の処方でゴム組成物を配合した。
NBR 100重量部
カーボンブラック 50重量部
ナフテン系プロセスオイル 5重量部
ステアリン酸 1重量部
亜鉛華 5重量部
硫黄 2重量部
加硫促進剤(ノクセラーDM) 2重量部
上記の各成分をゴム練り機にて充分に混練りした後、カレンダー機に掛け、約1.5mmの厚さの未加硫のゴムシートを作成し準備する。予め表面にブラスト処理を施し、接着剤を塗布した芯金に、ゴムシートを数回積層しゴムを被覆した。これによって、表面に厚さ35mmのゴム層を有するゴムロールを成型した。ついで圧力0.5MPa、温度160℃で480分加硫し、冷却後研磨を施すことにより、ロール表面に厚さ25mmのゴム層を有する比較例1のニップロールを得た。
【0039】
[比較例2]
有機過酸化物に代えて、硫黄を2.0重量部、さらに加硫促進剤を適当量配合したほかは、実施例1と同様にして比較例2のニップロールを得た。
【0040】
<劣化促進試験>
上記実施例1、比較例1,2で得た各ニップロールに代えて、これらと略同じ条件で厚さ2mmのシートからなるサンプルを作製した。ついで、ホウ酸7重量部、ヨウ化カリウム20重量部、ヨウ素1モルを含む70℃の水溶液に前記各サンプルを4週間浸漬して、浸漬前後の物性値の変化を調べた。評価項目と評価方法は、以下の通りである。
【0041】
(1)重量変化
浸漬前後のサンプルの乾燥重量を測定して、重量変化を調べ、下記の判定基準によって評価した。この重量変化が大きいほど、膨潤が著しいことがわかる。
(重量変化の判定基準)
A:+50g/m2以下または−20g/m2以上であった。
B:+50〜+150g/m2または−20〜−50g/m2であった。
C:+150〜+350g/m2または−50〜−100g/m2であった。
D:+300g/m2以上または−100g/m2以下であった。
【0042】
(2)硬度変化
浸漬前後のサンプルの硬度を硬度計JIS Type Aにて測定して、硬度変化を調べ、下記の判定基準によって評価した。
(硬度変化の判定基準)
A:±2の範囲内であった。
B:±2を超え±5の範囲内であった。
C:±5を超え±15の範囲内であった。
D:+16以上または−16以下であった。
【0043】
(3)引張り強さの保持性
浸漬前後のサンプルの引張り強さをJIS K6251に準じて測定し、引張り強さの保持性を調べ、下記の判定基準によって評価した。
(引張り強さ保持の判定基準)
A:引張り強さが90%以上維持された。
B:引張り強さが80%以上90%未満維持された。
C:引張り強さが70%以上80%未満維持された。
D:引張り強さが70%未満に低下した。
【0044】
評価結果を表1に示す。なお、特に支障がない限り、各サンプルはそれぞれ対応するニップロールと同じ実施例1、比較例1,2と呼ぶものとする。
【表1】

表1から、実施例1は全ての項目で比較例1よりも劣化が少なく、しかも過酸化物で架橋した実施例1は、硫黄で架橋した比較例2よりも劣化が少ないことがわかる。
【0045】
[実施例2]
(偏光フィルムの製造)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレビニロンVF−PS#7500、重合度2,400、ケン化度99.9モル%以上)を30℃の純水に、フィルムが弛まないように緊張状態を保ったまま約130秒間浸漬しフィルムを十分に膨潤させた。次にヨウ素/ヨウ化カリウム/水が重量比で0.02/1.5/100の水溶液に浸漬して染色処理をしつつ一軸延伸を行った。
その後、フィルムをホウ酸5.0重量部、ヨウ化カリウム12重量部、水100重量部の組成を有し温度が54℃のホウ酸架橋処理液に約39秒間浸漬して架橋処理をしつつ原反からの積算延伸倍率が5.9倍になるまで一軸延伸を行った。その際、ホウ酸架橋処理槽の前後に実施例1で得たニップロールをそれぞれ設置して一軸延伸を行った。
ついで、15℃の純水中で9秒間洗浄処理を行った。次に温度60℃で2分乾燥して、偏光フィルムを得た。
この実施例2の製造工程を用いて偏光フィルムの製造を12週間連続して行ったが、フィルム切れなどのトラブルは発生しなかった。これに対して、比較例1のニップロールを用いた場合には、同じ期間の操業でフィルム切れがしばしば起こった。
【0046】
<摩擦係数の変化>
実施例2の上記延伸操作において、実施例1、比較例1,2で得た各ニップロール表面の摩擦係数を延伸前後について測定し、その変化率(低下率)を測定した。この場合、延伸前のニップロール表面の静摩擦係数は0.5以上であった。
摩擦係数変化の評価は以下の基準で行った。
A:摩擦係数の変化率が10%未満であった(すなわち、摩擦係数が殆ど変化なかった)。
B:摩擦係数の変化率が10%以上20%未満であった。
C:摩擦係数の変化率が20%以上30%未満であった。
D:摩擦係数の変化率が30%以上であった(すなわち、摩擦係数が大きく低下した)。
評価結果を表2に示す。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が、カーボンブラックを含有しかつ過酸化物で加硫したEPDMを主成分とするゴム層であることを特徴とする偏光フィルム製造用ニップロール。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤処理、染色処理、ホウ酸処理、水洗処理および乾燥処理の順に処理し、該処理工程のうち膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理工程の前、および/または膨潤処理、染色処理およびホウ酸処理のうち少なくとも1つの処理中に、フィルム搬送する2つのニップロール間に周速差を付与してフィルムを延伸して偏光フィルムを製造する方法において、前記ニップロールが、請求項1に記載のニップロールであることを特徴とする偏光フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−110819(P2011−110819A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269641(P2009−269641)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000142436)株式会社金陽社 (25)
【Fターム(参考)】