説明

偏光子

【課題】本発明の目的は、表面の一方向に延在した周期的な凹凸を有する透光基材と、該透光基材上に、前記透光基材の凹凸周期を反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層を積層形成した透明体と、該透明体を構成する透光材料層間の所定位置に、前記透光材料層の凹凸の延在方向と同一方向に形成してなる複数の微細線状の光吸収体とを有する偏光子において、従来の偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性に優れ、しかも反射光の発生を抑制できる偏光子を提供することにある。
【解決手段】前記透光材料層の膜厚をT(nm)、入射する光の波長をλ(nm)、前記透光材料層の屈折率をnとするとき、前記膜厚(T)が、T<λ/(2n)の関係式を満足する偏光子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶プロジェクタ、液晶表示装置等の偏光を利用した光学機器に用いられ、入射光のある特定方向の直線偏波成分のみを透過させる機能を有する偏光子、特に、反射光を発生しない吸収型の無機偏光子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光子は、複数の偏光を含む光から特定方向の直線偏光を取り出すための光学素子であり、各種の構成、形態のものが広く利用されている。特に、液晶表示技術等の分野では、小型化、軽量化、高輝度化等の技術革新が進み、各種用途に偏光子を用いた液晶表示装置が急速に普及している。
【0003】
一般的に用いられる偏光子としては、例えば、特許文献1に開示されているような、ヨウ素や染料系等の高分子フィルムからなる多層積層体として構成された、いわゆる有機偏光子が挙げられる。しかし、高分子フィルムは熱に弱く、現在の小型化、高輝度化等を実現する装置においては、高密度の光を扱うため、熱及び紫外線による偏光子の性能の劣化が問題となっている。
【0004】
上記問題を解決した偏光子としては、例えば、特許文献2に開示されているように、ガラス透光基材の中に細線状の金属(ワイヤ)を一方向に規則的に配列した構造を有するワイヤグリッド型の偏光子が挙げられる。この偏光子は、耐熱性及び耐光性(耐紫外線性)に優れ、高い消光比を有する。
【0005】
また、上記問題を解決した他の偏光子としては、例えば、特許文献3に開示されているように、高屈折率透光材料の第1層と低屈折率透光材料の第2層からなる1ユニットの複層膜を多数ユニット積層した多層構造体、いわゆるフォトニック結晶タイプの偏光子が挙げられる。この偏光子は、溝方向に平行な偏波成分と垂直な偏波成分とに分離できる構造を有し、無損失の材料を用いるため、内部における吸収はなく、高い密度の光に対しても劣化の問題はない。
【0006】
しかし、特許文献2及び特許文献3で開示されている偏光子は、いずれも、熱及び紫外線による偏光子の性能の劣化については有効に防ぐことができるものの、偏光子に入射した光のうち透過しない光については反射させる、いわゆる反射型の偏光子であるため、光通信またはプロジェクタなどの用途で用いられる場合、偏光子から反射した光が、信号や画像の低下を引き起こすという問題があった。
【0007】
そのため、上記のような用途に好適な偏光子としては、例えば特許文献4及び特許文献5に記載されているように、細線形状の光の吸収体が同一方向で同一面上に配置され、かつ配置された細線形状の光の吸収体が同一方向で複数重ねられて、透明体中に埋め込まれているような偏光子が挙げられる。この偏光子は、透明体に無機物を用いることで耐熱性及び耐光性を有しつつ、所定の金属からなる吸収体の効果により、反射光を抑制する効果を有する。
【0008】
しかしながら、特許文献4及び特許文献5に開示されているような偏光子に光を入射させた場合、いずれも、入射光のうちTEモード光の大部分を前記吸収体で吸収し、一部の光を反射する。前記吸収体が積層してなる偏光子では、各層の吸収体が反射した光は微弱だとしても、入射光が特定の波長になったとき、それぞれの反射光の位相が一致し、干渉効果によって特異的に反射光が大きくなるため、その結果、いずれの偏光子も反射光をある程度低減することはできるものの、厳密に反射光の発生を抑制する必要のある用途に用いることはできない。
【0009】
そのため、偏光性能が高く、耐光性に優れ、しかも反射光の発生を抑制できる偏光子の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2001−228332号公報
【特許文献2】米国特許第6108131号明細書
【特許文献3】特開2001−83321号公報
【特許文献4】特開昭58−42003号公報
【特許文献5】特開平11−237507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来の偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性に優れ、しかも反射光の発生を抑制できる偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、表面の一方向に延在した周期的な凹凸を有する透光基材と、該透光基材上に、前記透光基材の凹凸周期を反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層を積層形成した透明体と、該透明体を構成する透光材料層間の所定位置に、前記透光材料層の凹凸の延在方向と同一方向に形成してなる複数の微細線状の光吸収体とを有する偏光子において、前記透光材料層の膜厚の適正化を図ることにより、各吸収体の反射光の干渉効果によって特異的に増大する反射光の発生を、従来の無機偏光子に比べて抑制できることを見出した。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)表面の一方向に延在した周期的な凹凸を有する透光基材と、該透光基材上に、前記透光基材の凹凸周期を反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層を積層形成した透明体と、該透明体を構成する透光材料層間の所定位置に、前記透光材料層の凹凸の延在方向と同一方向に形成してなる複数の微細線状の光吸収体とを有する偏光子において、前記透光材料層の膜厚をT(nm)、入射する光の波長をλ(nm)、前記透光材料層の屈折率をnとするとき、前記膜厚(T)が、T<λ/(2n)の関係式を満足することを特徴とする偏光子。
【0013】
(2)前記偏光子は、光の入射側に位置する透光材料層の少なくとも一層に代えて、前記透明体の第1層と前記透明体と屈折率の異なる透光材料の第2層からなる減反射膜を積層形成することを特徴とする上記(1)記載の偏光子。
【0014】
(3)前記第2層は、前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料層であることを特徴とする上記(2)記載の偏光子。
【0015】
(4)前記第2層は、前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料層であることを特徴とする上記(2)記載の偏光子。
【0016】
(5)前記偏光子は、光の入射側に位置する透光材料層の少なくとも一層に代えて、前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料の第1層と前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料の第2層からなる減反射膜を積層形成することを特徴とする上記(1)記載の偏光子。
【0017】
(6)前記透光基材の凹凸及び該凹凸に対応する前記透光材料層の界面の凹凸繰り返し周期が、入射する光の波長の1/2以下となることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項記載の偏光子。
【0018】
(7)前記光吸収体は、前記透光材料層界面上の凹部および/または凸部に形成されることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1項記載の偏光子。
【0019】
(8)前記光吸収体の幅は、前記透光基材の凹凸周期の1/2以下となることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか1項記載の偏光子。
【0020】
(9)前記光吸収体は、Au、Ag、Cu、Al、Cr、Nb、TaもしくはWの金属、またはSi、Ge、GaAsもしくはInSbの半導体のいずれかの材料からなることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか1項記載の偏光子。
【0021】
(10)前記透明体が、SiO2、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、MgF2またはこれらの合成材料からなることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか1項記載の偏光子。
【0022】
(11)白色光から所定の波長帯域の光を生成するための手段または単色光を生成するための手段と、上記(1)〜(10)のいずれか1項記載の偏光子とを具える直線偏光生成装置。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、従来の偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性に優れ、しかも反射光の発生を抑制できる、特に吸収型の偏光子を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の構成と限定理由を説明する。
図1(a)は本発明に従う偏光子を断面で見たものであり、図1(b)は本発明に従う偏光子を斜め上方から見たものである。本発明に従う偏光子1は、図1(a)及び(b)に示すように、表面の一方向に延在した周期的な凹凸を有する透光基材2と、該透光基材2上に、透光基材2の凹凸周期Lを反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層3を積層形成した透明体4と、該透明体4を構成する透光材料層3間の所定位置に、前記透光材料層3の凹凸の延在方向Kと同一方向に形成してなる複数の微細線状の光吸収体5とを有する、いわゆるオートクローニング法により製造した偏光子1である。上記のような構成の偏光子1を用いれば、図1に示したX方向に光の電界が振動するTMモードの光については、透過率(以下、「TM透過率」という。)を高く制御し、Y方向に光の電界が振動するTEモードの光については、その光を吸収または反射することによって透過率(以下、「TE透過率」という。)を低く制御することが可能となる。
【0025】
本発明者らは、従来のオートクローニング法により製造した無機偏光子では、反射光を十分に抑制することができないという問題について、研究を重ねた結果、特定波長の光を入射すると、各透光材料層3で発生する反射光同士の干渉作用によって、特異的に反射率が増加する場合があることを発見した。ここで反射率とは、偏光子1に光源から出射した光の強さ(W)に対する偏光子から反射されて光源へ戻ってきた光の強さの百分率(%)のことをいう。図2は、SiO2(屈折率1.483)からなる透光材料層3の膜厚Tを15〜400nmの範囲において、15nmずつ膜厚Tを変化させた場合の、入射光の波長λ(400〜600nm)に対するTE光の反射率(TE反射率)の関係を示したスペクトルであって、わかりやすくするため、各スペクトルのベースラインを20%ずつ下にシフトして示してあり、例えば前記透光材料層3の膜厚Tが400nmの場合、10%以下で推移している反射率が、例えば波長λが580nmになると約40%になっているように、スペクトルごとにTE反射率が局所的に大きく増加する波長が存在する。
そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、前記透光材料層3の膜厚Tを、
T<λ/(2n) (n:透光材料の屈折率)
の関係式を満足するように制御すれば、前記透光材料層3で発生する反射光同士の干渉作用を有効に抑制することができるため、反射率が局所的に増加する問題を解決できることを見出した。
【0026】
図3は、図2で用いた前記透光材料層3の膜厚Tとその屈折率nの積(T×n)に対する、局所的に増加した反射率のピーク部分の波長λをプロットした図である。図3で示すように、プロットを通る直線は、おおよそλ=2×(T×n)(直線A)及びλ=T×n(直線B)の2本の直線を形成していることがわかる。例えば、膜厚150nm、屈折率1.5の透光材料層を積層させた偏光子(2×(T×n)=225)に、波長が400〜500nmの光を入射した場合(図3中の直線A)、波長が450nmで反射率のピーク部分の波長となるため、局所的に反射率が増加することがわかる。図3中に示す斜線の領域Iは、T<λ/(2n)の関係式を満足する領域であるが、この領域内に存在するように、前記透光材料層3に用いる材料の屈折率と入射光の使用波長域を把握した上で、前記透光材料層3の膜厚Tを制御すれば、干渉作用によって局所的に反射率が増加する現象がなくなるため、反射光の発生を抑制できる偏光子を得ることができる。なお、図3は反射率ピーク部分の波長λをプロットしているが、実際には、ピークに近い波長でも同様に反射率が高くなると考えられるため、T<(λ±10)/(2n) (ただし、波長の単位はnmとする)の関係式を満足することが好適である。また、一例として、TE光の反射について記載したが、TM光の反射についても同様にT<λ/(2n)の関係式が成立し、膜厚Tの適正化により反射光を抑制することができる。
【0027】
また、図3中の直線Aと直線Bに囲まれている領域II、直線Bの右側の領域III及びそのさらに右に位置する領域においても、干渉作用による反射率の増加を抑えることが可能であり、
xλ/(2n)<T<(x+1)λ/(2n) (x:1以上の自然数)
の関係式を満足するように、前記膜厚Tを制御してもよい。しかしながら、本発明による偏光子の前記透光材料層の膜厚Tを、T<λ/(2n)に限定することが、λ/(2n)以上で、透光材料層の膜厚Tを制御した場合と比べて、反射光を抑制する能力が同等でかつ、前記透光材料層の膜厚を小さくでき、コンパクトな偏光子が得られ、さらに、製造コストも安価になる点で好ましい。
【0028】
(透光基材)
前記透光基材2は、図1に示すように、表面の少なくとも一方向に周期的な凹凸を有しており、該凹凸の周期Lは、入射光の回折によるTM透過率の低下を抑制する点から波長λ以下とする必要があり、さらに、λの1/2であることが好ましい。1/2超えでは、光の散乱が増加しTM透過率が低下するためである。また、前記透光基材2の構成は、無機透光材料であれば特に限定はないが、結晶質材料、非晶質材料または結晶化ガラス材料からなることが好ましい。前記結晶質材料としては、例えば、シリコンが挙げられ、前記非晶質材料としては、例えば、石英ガラス、ソーダライムガラスもしくはボロシリケートガラスが挙げられ、前記結晶化ガラス材料としては、例えば、β−石英固溶体結晶もしくはβ−ユークリプタイト固溶体を主たる成分として含む結晶化ガラス材料が挙げられる。
【0029】
(透明体)
前記透明体4は、図1に示すように、前記透光基材2上に、透光基材2の凹凸を反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層3が積層形成したものであり、SiO2、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、MgF2またはこれらの合成材料からなることが好ましい。上記材料を用いれば、透明体中での吸収及び光の散乱の低減が可能となり、さらに、良好な耐熱性を有することが可能であるためである。
【0030】
また、前記透明体4を形成する前記透光材料層3の積層数は、特に限定はないが、積層数が少なすぎると十分な偏光特性を得ることができず、一方、積層数が多すぎると偏光特性は得られるが製造時間や製造コストが増加するため、10〜150層程度であることが好ましい。また、透光材料層3の界面形状の凹凸は前記透光基材2の凹凸を反映しているため、該透光基材の周期Lと同様に、入射光の波長の1/2以下であることが好ましい。
【0031】
(光吸収体)
前記光吸収体5は、図1に示すように、前記透明体4を構成する透光材料層3間の所定位置に、前記透光材料層3の凹凸の延在方向Kと同一方向に所定の周期Lで形成してなり、構成は、TE光を吸収することができる材料であれば特に問題はないが、スパッタにより容易に成膜できる点、及び耐熱性を有する点から、Au、Ag、Cu、Al、Cr、Nb、TaもしくはWの金属、またはSi、Ge、GaAsもしくはInSbの半導体のいずれかの材料からなることが好ましい。
【0032】
また、前記光吸収体5は、前記透光材料層3界面上の凹部および/または凸部に形成されることが好ましい。吸収体5はその幅Wが狭いほうが良好な偏光特性を得ることができるが、凹部及び凸部以外に形成すると、前記幅Wを狭めることが困難であり、さらに幅Wを一定に制御することが困難となるためである。
【0033】
さらに、前記光吸収体5は微細線状の形状を有し、幅Wは、前記透光基材の凹凸周期Lの1/2以下となることが好ましい。吸収体の幅Wが1/2超える場合、TM透過率が低下し、TE透過率が増加するため、所望の偏光特性を得ることができなくなるからである。
【0034】
(減反射膜)
なお、本発明による偏光子1は、光の入射側に位置する透光材料層3の少なくとも一層に代えて、入射光の反射率を小さくするための、前記透明体4の第1層と前記透明体4と屈折率の異なる透光材料の第2層からなる減反射膜6を積層形成することが好ましい。前記減反射膜6を光の入射側に形成することで、空気中から偏光子1へ入射する際に発生する表面反射を低減できるからであり、また、減反射膜6は、偏光子内部から反射された光の位相を調整し、偏光子内部からの反射光についても低減することができるためである。
【0035】
また、前記第2層は、反射光の波長の位相調整を行い、反射光同士の干渉による増大を抑えることができれば特に限定はないが、反射光の位相の調整を行うためには、前記透光材料と異なる屈折率を持つ透光材料との界面が必要であり、図4(a)に示すような前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料層61、または図4(b)に示すような前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料層62であることが好ましい。
【0036】
さらにまた、前記偏光子は、光の入射側に位置する透光材料層の少なくとも一層に代えて、前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料の第1層61と前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料の第2層62からなる減反射膜6を積層形成することも可能である。
【0037】
また、本発明では、白色光から所定の波長帯域の光を生成するための手段または単色光を生成するための手段と、上記した本発明における偏光子とを具える直線偏光生成装置を製造することが可能である。所定の波長帯域の光を生成するための手段とは、例えば、前記波長帯域が430〜510nmの青色光の場合は、水銀ランプと特定のフィルタとで構成すればよい。直線偏光生成装置は、直線偏光を作り出す装置であれば特に限定するものではなく、例えば、プロジェクタや液晶テレビ等が挙げられる。
【0038】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明に従う偏光子を試作し、性能を評価した。
(実施例1〜11)
実施例1は、凹凸の周期が300nmのSiO2からなる透光基材の上に、該基材の凹凸を反映した凹凸形状で積層形成された複数のSiO2(屈折率1.483)層を、実施例ごとに表1に示すような膜厚に調整して、70層積層することによって透明体を形成し、該透明体を構成する透光材料層間の凹部に、前記透光材料層の凹凸の延在方向と同一方向に形成してなる、高さ6.75nm、幅19.3nm、断面積65nm2の微細線状のCrからなる光吸収体を形成し、偏光子部分を作製した。その後、該偏光子部分の光入射側に膜厚125nmのSiO2(屈折率1.483)の第1層と膜厚25nmのNb2O5(屈折率2.380)の第2層からなる複層膜である減反射膜を形成して、サンプルとなる偏光子を作製した。
【比較例】
【0040】
(比較例1及び2)
比較例1及び2は、前記誘電体層の膜厚を180nm以上すること以外は、実施例1と同様の方法によりサンプルの偏光子を作製した。
【0041】
(比較例3)
比較例3は、前記減反射膜を形成しないこと以外は、実施例1と同様の方法によりサンプルの偏光子を作製した。
【0042】
上記実施例及び比較例で作製した各偏光子について各種試験を行った。本実施例で行った試験の評価方法を以下に示す。
【0043】
(評価方法)
上記実施例1〜11及び比較例1〜3で作製した偏光子のサンプルについて、使用波長域を500〜600nmとなるように波長を変化させながら光源から光を出射し、偏光子の入射光及び反射光の強度を分光光度計(日立製U−4100)及び反射率測定ユニットを用いて測定し、反射率(%)を算出した。入射光の波長と算出した反射率の関係については図5に示し、入射光の波長(500〜600nm)によって変化する反射率(%)のうち最も大きな値を最高反射率(%)として、各サンプルの最高反射率(%)を表1に示す。また、反射光を厳密に抑えなければならない用途についても使用できるか否かについての評価を、最高反射率3%を以下であるかどうかで判断して、その結果を表1に示す。さらに、各サンプルの偏光特性を評価するため、前記分光高度計を用いてTE光及びTM光の強度を測定し、TE透過率、TM透過率及びコントラスト(TM透過率/TE透過率)の算出を行った。
【0044】
【表1】

【0045】
表1及び図5の結果から、実施例1〜11の偏光子は、比較例1及び2の偏光子に比べて最高反射率が大幅に低減されていることから、透光材料層の膜厚の適正化による効果がわかる。また、前記透光材料層の膜厚が同じである実施例1と比較例3の偏光子の反射率を比較すると、減反射膜を有していない比較例3の反射率のほうが高いことがわかる。さらに、実施例1〜11及び比較例1〜3は、同程度のコントラストを有しており、偏光子としての性能についても変わりがないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、従来の偏光子と同程度の偏光特性を有しつつ、耐光性に優れ、しかも反射光の発生を抑制できる、特に吸収型の偏光子を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による偏光子を示す図であり、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【図2】SiO2からなる透光材料層の膜厚Tを15nmから400nmまで15nmごとに変化させた場合の、入射光の波長とTE光の反射率の関係を示した図である。
【図3】図2で用いた透光材料層の膜厚とその屈折率の積に対する反射率のピーク部分の波長λの関係を示した図である。
【図4】本発明による偏光子を示す図であり、(a)は、高い屈折率をもつ透光材料層からなる減反射膜を有する偏光子の断面図、(b)は、低い屈折率をもつ透光材料層からなる減反射膜を有する偏光子の断面図を示す。
【図5】実施例及び比較例に用いた偏光子の入射光の波長と算出した反射率の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 偏光子
2 透光基材
3 透光材料層
4 透明体
5 光吸収体
6 減反射膜
61 高い屈折率をもつ透光材料層
62 低い屈折率をもつ透光材料層
L 凹凸の周期
W 吸収体の幅
K 凹凸の延在方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の一方向に延在した周期的な凹凸を有する透光基材と、該透光基材上に、前記透光基材の凹凸周期を反映した凹凸形状を有する複数の透光材料層を積層形成した透明体と、該透明体を構成する透光材料層間の所定位置に、前記透光材料層の凹凸の延在方向と同一方向に形成してなる複数の微細線状の光吸収体とを有する偏光子において、
前記透光材料層の膜厚をT(nm)、入射する光の波長をλ(nm)、前記透光材料層の屈折率をnとするとき、前記膜厚(T)が、
T<λ/(2n)
の関係式を満足することを特徴とする偏光子。
【請求項2】
前記偏光子は、光の入射側に位置する透光材料層の少なくとも一層に代えて、前記透明体の第1層と前記透明体と屈折率の異なる透光材料の第2層からなる減反射膜を積層形成することを特徴とする請求項1記載の偏光子。
【請求項3】
前記第2層は、前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料層であることを特徴とする請求項2記載の偏光子。
【請求項4】
前記第2層は、前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料層であることを特徴とする請求項2記載の偏光子。
【請求項5】
前記偏光子は、光の入射側に位置する透光材料層の少なくとも一層に代えて、前記透光材料層の屈折率よりも低い屈折率をもつ透光材料の第1層と前記透光材料層の屈折率よりも高い屈折率をもつ透光材料の第2層からなる減反射膜を積層形成することを特徴とする請求項1記載の偏光子。
【請求項6】
前記透光基材の凹凸及び該凹凸に対応する前記透光材料層の界面の凹凸繰り返し周期が、入射する光の波長の1/2以下となることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項7】
前記光吸収体は、前記透光材料層界面上の凹部および/または凸部に形成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項8】
前記光吸収体の幅は、前記透光基材の凹凸周期の1/2以下となることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項9】
前記光吸収体は、Au、Ag、Cu、Al、Cr、Nb、TaもしくはWの金属もしくは合金、またはSi、Ge、GaAsもしくはInSbの半導体のいずれかの材料からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項10】
前記透明体が、SiO2、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、MgF2またはこれらの中から選ばれる2以上の合成材料からなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の偏光子。
【請求項11】
白色光から所定の波長帯域の光を生成するための手段または単色光を生成するための手段と、請求項1〜10のいずれか1項記載の偏光子とを具える直線偏光生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−191587(P2008−191587A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28399(P2007−28399)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】