説明

偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルム

【課題】検査性に優れた偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムの提供。
【解決手段】最大配向角が11°以下であり、クロスニコル法でのa*値が負の値であり、かつ該a*値の変動が25以下である偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムに関するものである。詳しくは、検査性に優れた偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光板、位相差偏光板、位相差板は偏光基材の片面に粘着層を設け、その粘着層の上に偏光板表面を保護するための保護フィルムを積層したものをロール状に巻きまわした状態で運搬または保管される。そして、保護フィルムを積層した状態で各種サイズに打ち抜き、裁断して液晶表示ディスプレイ(LCD)用として提供されている。このような偏光板もしくは位相差板の製造工程において、偏光フィルムへの機械的応力、異物混入あるいは付着等により欠陥が生じる可能性がある。したがって予め偏光基材の品質を管理していても、最終的にクロスニコル法(配向軸を直交させるように配置された2枚の偏光板の間に保護フィルムを有する偏光板もしくは位相差板を挟まれた状態で透過光により観察する方法)による人間の目視検査により異物や欠点の検査を行っている。
【0003】
クロスニコル法を用いる検査では透過光は限りなく小さくなるため、偏光板もしくは位相差板は暗視野となる一方、異物や欠点が存在する箇所は輝点として明確に現れるため容易に目視検査を行うことができる。保護フィルムとしては、強度機能やコストの観点から二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムが広く用いられているが、PETフィルムが有する光学的異方性が原因となり、実際には完全な暗視野とはならず、光透過が大きくなり、またそれによって濃厚な光干渉色が生じることで正確な目視検査が困難となる。そのため、輝点として認識されるべき異物や欠点を見落とす問題が生じている。従って、偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムには、優れた光学軸精度が求められる(特許文献1)。
【0004】
かかる偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムは、回転速度に差を設けたロール間で長手方向に延伸された後に、テンター内でフィルムの端部を把持された状態で幅方向に延伸され、熱固定されることによって製造される。この場合、製膜フィルム全幅において中央部から端部へ移行するほどボーイング現象により、フィルムの配向角のずれ(フィルム長手方向と幅方向でなす直交座標軸と配向主軸となす角度のうち小さい方の角度)が大きくなり、それによってクロスニコル法での光透過が起こり、濃厚な光干渉色が生じることとなる。
【0005】
ボーイング現象とは、フィルム製膜工程において広く用いられているテンター法(フィルムの両端部をレール上を走行するクリップで把持して熱風オーブン等に導き、幅方向延伸および熱処理を行う方法)において、熱処理時にフィルム長手方向に生じる応力差の結果、テンター前でフィルム幅方向にマジック(登録商標)で引いた直線が熱処理後には、フィルム長手方向に弓なり状に引き戻された形をして出てくる現象をいう。したがって、フィルム全幅において中央部から端部へ移行するほど配向角のずれが大きくなる。そのため、フィルム幅方向にそって光学的な歪みが大きくなり、クロスニコル法における光透過および光干渉色が濃厚になることから、フィルム幅方向の中央部に由来する極限られた製品しかこの用途に用いることができなかった。
【0006】
ところが、液晶表示板の大画面化が進行するなか、このような限られたフィルム幅の製品では対応しきれない場合が生じつつあった。そこで、配向角のずれを小さくし、製品として用いることができる範囲を広くするために、フィルムのボーイングを低減させる方法が検討されてきた。具体的な方法として、幅方向延伸後に一旦ポリエステルのガラス転移温度以下に冷却した後熱処理する方法、幅方向延伸後にニップロールを設ける方法、熱処理室を複数のゾーンに分けて段階的に昇温する方法、幅方向に温度分布を設けて熱処理ゾーンに導く方法、幅方向の延伸倍率を大きくする方法などが提案されている(特許文献2〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−40249号公報
【特許文献2】特開2008−246685号公報
【特許文献3】特開2008−163263号公報
【特許文献4】特開2005−14545号公報
【特許文献5】特開2004−18588号公報
【特許文献6】特許第3320904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液晶表示板の大画面化はますます進展しており、前記特許文献のように単に配向角のずれを少なくすることによりクロスニコル法により生じる光干渉色の濃淡を低減するだけでは更なる広幅化には対応しきれなくなりつつあった。そこで、本願発明者はクロスニコル法における目視検査を鋭意観察した結果、目視検査における視認性は単に光干渉色の濃淡だけでなく、光干渉色の多色性(色調の組合せ)により光干渉斑の目視による視認性が大きく変化することを見出した。
【0009】
例えば、特許文献6ではレターデーションの値を干渉色の濃度が急激に低下する1200nm以上にする方法が提案されている。しかし、この方法では光干渉色を薄くすることは出来ても、光干渉色の斑については改善することができないため、偏光板保護フィルムとしては配向角が小さく光透過の少ない領域である中央部のフィルムしか使用できない。
【0010】
また、特許文献1ではレターデーションのバラツキを200nm以下にし、フィルムの平均レターデーションを335nm以上745nm以下および1000nm以上1250nm以下にすることでクロスニコル法による目視検査における光干渉色を最小限に抑える方法が提案されている。しかし、当該範囲のレターデーションの領域でも目視による干渉色変化が大きく、フィルム厚み斑による影響が大きく、光干渉色の斑については改善することができない。
【0011】
すなわち、本発明は、干渉色により生じた色相の組合せに着目し、光干渉色の多色性を制御することで、クロスニコル法による目視による検査性を向上させるという従来にない新たな課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、前記課題を解決する、第1の発明は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて、前記フィルムの最大配向角が11°以下であり、下記方法により測定されたa*値の最大値が負の値であり、かつ該a*値のフィルム長手方向の変動が25以下である、偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
(測定方法)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムより長手方向30cm×幅方向5cmのフィルム試料を切り出す。
2つの偏光板を各々の配向軸が直交するように重ね合わせ、その間に該フィルム試料の配向主軸と各偏光板の配向軸との成す角を45°となるように該フィルム試料を2つの偏光板の間に挟む。得られた積層体(偏光板-該フィルム試料-偏光板)について透過法により光干渉色のa*値を測定する。
a*値の測定は該フィルム試料のフィルム長手方向に1cm間隔で20箇所行い、得られたa*値の最も大きい値を最大値とし、得られたa*値の最大値と最小値の差をフィルム長手方向のa*値の変動とする。
また、第2の発明は、次式(1)で示されるレターデーション(Re)が1800nm以上であることを特徴とする前記偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
Re=△n×d・・・(1)
(ただし、式(1)において△nはフィルム面内方向の複屈折であり、dはフィルムの厚み(nm)である。)
また、第3の発明は、下記要件(1)および(2)を満たす前記偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
(1)120℃、10分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも3.0%以下
(2)マイクロ波透過型分子配向計で測定したMOR値が1.65〜1.85
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クロスニコル法による偏光板もしくは位相差板の目視検査において、その検査容易性を阻害する光干渉色の斑を抑え、光透過が生じても検査性に優れる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記効果に加え、後加工による加熱工程においても寸法安定性に優れ、寸法変化による干渉色の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】クロスニコル法による目視検査の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のフィルムは、クロスニコル法により観察した際に一様な青緑色系の干渉色を呈する。すなわち、本発明のフィルムを下記方法によりクロスニコル法で生じた干渉色のカラー値を測定した場合、得られたa*値の最大値が負の値であり、かつa*値のフィルム長手方向の変動が20以下である。
【0016】
(測定方法)
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムより長手方向30cm×幅方向5cmのフィルム試料を切り出す。
2つの偏光板を各々の配向軸が直交するように重ね合わせ、その間に該フィルム試料の配向主軸と各偏光板の配向軸との成す角を45°となるように該フィルム試料を2つの偏光板の間に挟む。このように45°に傾けて設置すると積層体(偏光板-該フィルム試料-偏光板)を透過する光量が最大となるため、干渉色を観察しやすくなる。このような状態で、得られた積層体(偏光板-該フィルム試料-偏光板)について透過法により光干渉色のa*値を測定する。
a*値の測定は該フィルム試料のフィルム長手方向に1cm間隔で20箇所行い、得られたa*値の最も大きい値を最大値とし、得られたa*値の最大値と最小値の差をフィルム長手方向のa*値の変動とする。
【0017】
上記a*値の最大値を負、すなわち0未満となるよう干渉色の色相を制御することで、目視による視認性が向上する。色相の変化を考慮した場合、干渉色の発生は、黄色→赤色→紫色→青色→緑色が繰り返し生じる。ここで、色彩心理上、青色−緑色に相当する領域が目視による視認性を高め、逆に赤色系は色彩心理上の刺激が強く、視認性を低下させるようである。そのため、クロスニコル法による目視観察において干渉色のa*値の最大値を負(赤色の補色領域)とすることで視認性を向上させるのである。前記a*値の最大値は具体的には−5以下がより好ましく、−10以下がさらに好ましく、―15以下がよりさらに好ましく、−20以下が特に好ましい。
【0018】
上記a*値の最大値を負の値にするためには、フィルムのレターデーション値を制御することが望ましい。直線偏光した光が延伸されたポリエステルフィルムなどの複屈折体に入射すると、互いに直交する振動方向を有し、しかも速度を異にする2つの偏光波のみが通過する。この2の偏光波が速度を異にすることから2つの偏光波に生じる位相差をレターデーションと呼ぶ。このレターデーション値を制御することにより光干渉色を調整することができる。一般に、レターデーションのバラツキが大きければ大きいほど、クロスニコル法による目視検査において複数の干渉色を観察することになる。このレターデーションのバラツキは、製膜工程上やもえず生じるフィルムの長手及び幅方向の分子構造および厚みのバラツキ等に依存して変動が生じやすい。
【0019】
また、本発明のポリエチレンテレフタレートフィルムは、次式(1)で示されるレターデーション(Re)が1800nm以上であることが好ましい。
Re=△n×d・・・(1)
式(1)において△nはフィルム面内方向の複屈折であり、dはフィルムの厚み(nm)である。
ここで、Δnは次式(2)により示される。
△n=│Nx−Ny│・・・(2)
Nxは配向主軸方向に対して垂直方向の屈折率、Nyは配向主軸方向の屈折率である。
【0020】
なお、上記レターデーションはフィルム幅方向の両端部から、フィルムの長手方向に連続して3つのフィルム試料(縦3.0cm×横2.0cm)を切り出し、計6つのフィルム試料について上記レターデーションを測定し、その最小値を本発明のレターデーションとした。フィルム試料の切り出しの際には、フィルム試料の横軸方向がフィルムの配向主軸に沿うようにして採取した。
【0021】
本発明の研究によれば、レターデーション1800nm未満の光干渉色の変化が比較的濃い色で黄色→赤色→紫色→青色→緑色と繰り返されるのに対し、レターデーションが1800nm以上の領域では青緑色→赤色と変化し、光干渉色の数が少なく、干渉色も薄いことが分かった。また、レターデーションは2000nm以下であることが好ましく、レターデーションが1800nm以上2000nm以下の領域では光干渉色が緑色の単色となり、フィルムのレターデーション変動による光干渉色の斑が視覚的に発生しないことがわかった。したがって、目視検査時に光透過が発生した際にも目視検査性に優れた保護フィルムとして使用することができる。本発明のフィルムのレターデーションは1810〜1950nmがより好ましく、1820〜1920nmがさらに好ましい。
【0022】
また、上記a*値の長手方向の変動を25以下とすることで長手方向に生じる干渉色の斑を抑制し、目視での視認性を向上することができる。上記a*値の長手方向の変動は主として長手方向に生じるフィルムの厚み変動に起因すると考えられる。そのため、上記a*値の長手方向の変動を25以下とするためには、長手方向の延伸倍率を後述のように制御することが好ましい。上記a*値の長手方向の変動は、20以下が好ましく、15以下がより好ましい。上記a*値の長手方向の変動は小さい方が好ましいが、長手方向の延伸倍率で上記a*値の長手方向の変動を低減させる場合、ボーイングの影響により配向主軸の歪みが大きくなる場合がある。そのため、上記a*値の長手方向の変動の下限は好ましくは3であり、より好ましくは5である。
【0023】
本発明のフィルムは、最大配向角が11°以下である。ここで、最大配向角とは、フィルム製膜の幅方向に試料を採取し、そのフィルムの幅方向と配向主軸方向のなす角の内、最大値を最大配向角とする。従来、偏光板もしくは位相差板保護用ポリエステルフィルムとしては、最大配向角が5°以下、もしくは3°以下の非常に小さいものでしか使用できなかった。ところが、本発明によれば最大配向角が11°以下であっても良好な検査性を奏することができる。そのため、従来はフィルム幅方向の中央部に由来する製品しか使用できなかったところ、本発明では広幅の液晶表示板にも好適に対応することが可能となる。但し、最大配向角が11°より大きくなると、クロスニコル下での光干渉色の斑を抑制しても、光透過が大きくなるため目視検査性を阻害するため高精度の目視検査に使用できない場合がある。
なお、フィルムの配向角の傾きは幅方向の端部に行くほど大きくなることから、上記測定値の測定においては端部由来のフィルムサンプルを用いて測定することができる。
【0024】
本発明のフィルムは、120℃で10分間加熱したときの熱収縮率は長手方向および幅方向とも5.0%以下であることが好ましく、より好ましくは、3.0%以下、さらに好ましくは2.5%以下である。フィルムの熱収縮率が上記範囲内であれば、後工程で行われる離型加工・粘着加工等での加熱処理によって寸法安定性が保たれる。そのため、寸法変化に伴う干渉斑の発生を好適に抑制することができる。
【0025】
本発明のフィルムのクロスニコル法による欠点検査時の目視精度を高めるためには、配向主軸方向の配向強度を高めることが望ましい。そのため、本発明のフィルムにおけるMOR値は1.65以上であることが好ましい。MOR(Maximum Oriented Ratio)値とは、透過型分子配向計で測定された透過マイクロ波強度の最大値と最小値の比(最大値/最小値)である。このMOR値は、長手方向と幅方向の配向差が小さくバランスしたフィルムほど小さくなり、いずれか一方向の配向強度が強いほど大きくなる。検査精度を上げるためには、MOR値は高い方が好ましいが、1.85以上になると配向主軸と直交方向の強度が弱まるため、検査時にフィルム破断、走行性不良の問題が発生しやすくなる。本発明のフィルムのMOR値の上限は1.80がより好ましい。また、MOR値が1.65以下では目視精度が劣る場合がある。
【0026】
また、本発明のフィルムの厚みは特に制限されるものではなく任意であるが、保護フィルムとしての使い勝手のよさの観点から10〜100μmであることが好ましく、20〜50μmであることがより好ましく、25〜45μmであることがよりさらに好ましい。
【0027】
本発明のフィルムのサイズは特に制限されるものではなく任意であるが、光干渉色の斑が少ないという特性を発揮する観点から一般的なディスプレイのサイズで表される19インチ以上が好ましく、37インチ以上がより好ましく、50インチ以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂よりなる。ここで、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレングリコールおよびテレフタル酸を主な構成成分として含有する。本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシベンゾフェノン、ビス−(4−カルボキシフェニルエタン)、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、シクロヘキサン−1、4−ジカルボン酸等が挙げられる。上記の他のグリコール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA等のエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。この他、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸成分も利用され得る。但し、透明性およびコストの点からはホモポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0029】
このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETという)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0030】
本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂には、微粒子を添加してフィルムの作業性(滑り性)を良好なものとすることが好ましい。微粒子としては任意のものが選べるが、たとえシリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリナイト、タルクなど無機粒子やその他の有機粒子が挙げられる。特に透明性の観点から、樹脂成分と屈折率が比較的近い、シリカ粒子、特に不定形シリカが好適である。
【0031】
さらには必要に応じて難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、顔料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤あるいはシロキサン等の消泡剤等を配合することができる。
【0032】
また本発明の目的を阻害しない範囲であれば、単層でも複数の組成による層から積層されたフィルムでも用いることができる。3層構成の場合は、ハンドリング性と透明性を両立させる上で、表層にのみ粒子を添加し、中間層は実質的に粒子を含まないことが好ましい。
【0033】
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明する。ポリエチレンテレフタレートのペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0034】
まず、フィルム原料乾燥あるいは熱風乾燥によって、水分率が100ppm未満となるように乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸PETシートを得る。
【0035】
また、溶融樹脂が280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0036】
表面層(A層)と中間層(M層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0037】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを逐次二軸延伸し、次いで熱処理を行う
【0038】
本発明のポリエチレンテレフタレートフィルムは、極めて狭い延伸条件に絞ることが好ましい。本願発明者は鋭意検討を行なった結果、以下のような延伸方法及び熱処理を行うことにより光干渉色の斑を最小限に抑えたフィルムを得ることができる。
【0039】
縦方向延伸は2.6〜2.9倍の範囲で行うことが望ましい。縦方向延伸倍率が2.6倍以上では、長手方向の厚み変動が小さくなり、長手方向のa*値の変動が小さくなるため好ましい。2.9倍以下であると最大配向角が小さくなり好ましい。幅方向延伸は4.2〜4.8倍の範囲で行うことが望ましい。幅方向延伸倍率が4.2倍以上では、レターデーションが高くなり光干渉色の斑が薄くなるため目視検査性が良好であるため好ましい。4.8倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0040】
これまで、ボーイング現象を抑制し、光学的な軸精度を保持するために、比較的低温での熱固定処理が推奨されている。しかしながら、本発明では熱固定処理工程の温度は210℃以上220℃以下が好ましい。本発明では従来技術と異なり、最大配向角の上限にゆとりがあるため、このような高温での熱固定処理温度を採用することができ、熱寸法安定性を向上させることができる。熱固定処理の温度が210℃以上では、熱収縮率の絶対値が小さくなり好ましい。また、熱固定処理の温度が220℃以下であると、フィルムが不透明になり難く、また破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0041】
本発明のフィルムは上記方法により製造しるものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものはない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、Reを特定の範囲に制御することであり、上記開示の製造方法は最適な製造方法と考えるが、本発明の技術思想の範囲内であれば他の製造方法も任意に採用することができる。
【0042】
本発明のフィルムには、粘着剤層、離型層、帯電防止層、保護層等の当該フィルム上に形成される層との接着性、耐水性、耐薬品性等を改良する目的で、公知の方法で表面処理、すなわちコロナ放電処理(空気中、窒素中、炭酸ガス中など)や易接着処理を施してもよい。易接着処理は公知の各種の方法を用いることができ、延伸前、あるいは一軸延伸後に、各種易接着剤を塗布する方法などが好適に採用される。
【0043】
また、本発明のフィルムを基材フィルムとして離型層や帯電防止層、粘着層を積層してもよい。離型層は、シリコーン樹脂およびフッ素樹脂の中から選ばれた1種以上を主成分として含有することが好ましい。本発明のフィルムに離型加工等を施し、偏光板もしくは位相差板の表面に貼り合わせて保護フィルムとすることで、クロスニコル法での欠点検査において優れた視認性を奏することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0045】
(1)a*値
フィルムの幅方向の最端部および中央部より長手方向30cm×幅方向5cmの寸法にフィルムサンプルを切り出した。
10mm×10mm角の切り抜き部分を設けた黒色の遮光紙を、その切り抜き部分の中心がライトボックス((株)エス・エフ・シー社製の透過光BOX−A3−2調光器付き)上面のアクリル板上のほぼ中心部になるように、さらに黒色の遮光紙をライトボックス上面のアクリル板全体を覆われる大きさとして光が漏れないように固定した。そして、黒色の遮光紙の切り抜かれた部分の上に2枚の偏光板((株)美舘イメージング社製 直線偏光板MLPH40)を各々の配向軸が直交するように重ね合わせ、四隅をテープで固定した。
直交するように重ね合わせた偏光板の間に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムより切り出した長手方向30cm×幅方向5cmのフィルム試料を該フィルム試料の配向主軸と各偏光板の配向軸との成す角を45°となるように該フィルム試料を2つの偏光板の間に挟み、暗室において透過法により光干渉色のカラーを測定した。
また、ライトボッスは水平に設置し、調光器による出力は100%で測定した。カラー測定には(株)トプコンテクノハウス社製のトプコン分光放射計SR−3Aを用い、測定角1度で、バックライトユニット表面との距離が35cmで評価用サンプルの中心が直下になる位置で測定した。
各フィルムサンプルについて長手方向に1cm間隔で30箇所のカラー測定を行い、得られたa*値の最大と最小の値の差をa*値の変動とした。
【0046】
(2)レターデーション
フィルム幅方向の両端から、長手方向に連続して3つのサンプルを、縦3.0×横2.0cmの寸法で、さらにフィルムの配向主軸がサンプルの横軸方向と一致するように切り出した。それぞれの屈折率をJIS C K7105−1981 5.1(屈折率)に準拠して測定し、下式(1)より算出した複屈折△nおよび、フィルム厚みdを用いて下式(2)よりレターデーションReを算出した。フィルム厚みはミリトロン厚み計(Mahr製)により測定した。それぞれのレターデーションReを平均したものをレターデーションRe(nm)とした。
△n=│Nx−Ny│・・・式(1)
Re=△n・d ・・・式(2)
(ただし、式(2)において△nは、フィルム面内方向の複屈折であり、dはフィルムの厚み(nm)である。)
【0047】
(3)熱収縮率
JIS C 2318−1997 5.3.4(寸法変化)に準拠して測定した。測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、200mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定する。次いで、フィルムを120℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で120±3℃で10分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定する。以下の式より長手方向および幅方向の熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A−B)/A×100
【0048】
(4)最大配向角
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの製膜時幅方向の両端部より10cm四方の正方形のフィルムサンプルを切り出し、同様のサンプルを長手方向に連続的に3箇所サンプリングした(計6サンプル)。該正方形のフィルムサンプルは長手方向、又は幅方向のいずれかの軸を基準に直角に切り出した。このフィルムサンプルについて、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて、フィルム長手方向に対する分子鎖主軸の配向角(θ)を測定し、下記式によって定義される機械軸方向(長手方向、または幅方向のいずれか)に対する光学主軸の傾斜角(ξ)を求めた。切り出したサンプルからそれぞれ光学主軸の傾斜角(ξ)を測定し、その最大値をフィルムの最大配向角とした。
|θ|≦45度のとき ξ=|θ|
|θ|>45度のとき ξ=|90度−|θ||
【0049】
(5)MOR値
MOR値の測定は、王子計測器株式会社製、MOA−6004型分子配向計を用いて行った。測定するポイントはフィルムの幅方向における中央部のポイント及びその中央部とフィルム両端部と結ぶ端部側の1/5のポイントの合計3ヶ所である。つまりフィルムの幅方向の直線における一方の端部からの10%、50%、90%の距離の3ヶ所のポイントにおいてMOR値が測定し、その平均値をフィルムのMOR値とした。
【0050】
(6)偏光板検査性
図1のクロスニコル法において、光源部にライトボックス((株)エス・エフ・シー社製の透過光BOX−A3−2調光器付き)を用いて目視検査を行った。サンプルには19インチ、37インチ、50インチサイズのカットフィルムを用い、サンプルを360°回転させて光干渉色の斑を確認した。目視検査評価基準は以下のように定めた。
○:光干渉色の斑は無く検査可能
△:光干渉色の斑はあるが検査可能
×:光干渉色の斑があり検査不可能
【0051】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレートを溶融した樹脂を、表面温度30℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化した後、78℃に加熱されたロール群でフィルム温度を75℃に昇温した後、赤外線ヒータで105℃に加熱し、周速差のあるロール群で、長手方向に2.8倍に延伸した。得られた一軸延伸フィルムをクリップで把持し、テンターにて幅方向に120℃で4.5倍延伸した。次いで、210℃で15秒間の熱処理を行い、ミルロール幅方向の0〜15%領域及び85〜100%領域の端部をスリットし、厚み38.2μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムロール(ミルロール)を得た。得られたミルロールについて幅方向に3等分にしたスリットロールを作製し、流れ方向に向かって右側よりR部ロール、C部ロール、L部ロールとした。係るR部ロール由来の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムについて評価を行なった結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
熱処理温度を215℃に変更する以外は実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.5μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。C部ロールに由来する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた以外は実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
熱処理温度を220℃に変更し、200℃で3%の幅方向の弛緩処理を行った以外は実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.6μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
縦延伸倍率を2.9倍にする以外は実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.0μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す
【0055】
(比較例1)
縦延伸倍率を2.9倍にして、熱処理温度を225℃に変更し、200℃で3%の幅方向の弛緩処理を行った以外は実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.4μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す
【0056】
(比較例2)
縦延伸倍率を2.7倍に変更した以外は、実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.6μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す
【0057】
(比較例3)
縦延伸倍率を2.6倍に変更した以外は、実施例1に記載と同様の方法にて製膜した。厚み38.8μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。実施例1と同様に評価を行なった結果を表1に示す
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルムは、大型液晶表示装置の構成部材である偏光板または位相差板といった液晶表示板に貼り付けて使用することができ、クロスニコル法での欠点検査にも干渉色が少なく好適である。
【符号の説明】
【0060】
1:検査する人の目
2:検光子
3:フィルム
4:偏光子
5:光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおいて、
前記フィルムの最大配向角が11°以下であり、
下記方法により測定されたa*値の最大値が負の値であり、かつ該a*値のフィルム長手方向の変動が25以下である、
偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルム。
(測定方法)
2つの偏光板を各々の配向軸が直交するように重ね合わせ、その間にフィルム試料(長手方向30cm×幅方向5cm)の配向主軸と各偏光板の配向軸との成す角を45°となるように該フィルム試料を2つの偏光板の間に挟む。得られた積層体(偏光板-該フィルム試料-偏光板)について透過法により光干渉色のa*値を測定する。
【請求項2】
次式(1)で示されるレターデーション(Re)が1800nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルム。
Re=△n×d・・・(1)
(ただし、式(1)において△nはフィルム面内方向の複屈折であり、dはフィルムの厚み(nm)である。)
【請求項3】
下記要件(1)および(2)を満たす請求項1または2に記載の偏光板保護用または位相差板保護用ポリエチレンテレフタレートフィルム。
(1)120℃、10分間加熱したときの熱収縮率が長手方向および幅方向とも3.0%以下
(2)マイクロ波透過型分子配向計で測定したMOR値が1.65〜1.85

【図1】
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【公開番号】特開2011−104888(P2011−104888A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262833(P2009−262833)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】