説明

偏光膜の製造方法

【課題】優れた光学特性を有する偏光膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明の偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材11上にポリビニルアルコール系樹脂層12を形成して積層体10を作製する工程と、積層体10のポリビニルアルコール系樹脂層12をヨウ素で染色する工程と、積層体10を延伸する工程と、染色工程および延伸工程の後に、積層体10のポリビニルアルコール系樹脂層12表面を透湿度が100g/m・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体10を加熱する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法として、例えば、熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色液に浸漬させて偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の液晶表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかし、このような方法では、得られる偏光膜の光学特性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−343521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光膜を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体のPVA系樹脂層をヨウ素で染色する工程と、該積層体を延伸する工程と、該染色工程および延伸工程の後に、該積層体のPVA系樹脂層表面を透湿度が100g/m・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で該積層体を加熱する工程とを含む。
好ましい実施形態においては、上記加熱温度が60℃以上である。
好ましい実施形態においては、上記PVA系樹脂層表面を、接着剤を介して上記被覆フィルムで被覆する。
好ましい実施形態においては、上記接着剤が水系接着剤である。
好ましい実施形態においては、上記延伸工程後の熱可塑性樹脂基材の透湿度が100g/m・24h以下である。
好ましい実施形態においては、上記積層体をホウ酸水溶液中で水中延伸する。
好ましい実施形態においては、上記染色工程および上記ホウ酸水中延伸の前に、上記積層体を95℃以上で空中延伸する工程を含む。
好ましい実施形態においては、上記積層体の最大延伸倍率が5.0倍以上である。
好ましい実施形態においては、上記熱可塑性樹脂基材が、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂から構成されている。
本発明の別の局面によれば、偏光膜が提供される。この偏光膜は、上記製造方法により得られる。
本発明のさらに別の局面によれば、光学積層体が提供される。この光学積層体は、上記偏光膜を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、熱可塑性樹脂基材上に形成されたPVA系樹脂層に対し、染色処理および延伸処理を施した後、PVA系樹脂層表面を透湿度が100g/m・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で加熱することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の好ましい実施形態による積層体の概略断面図である。
【図2】本発明の偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態による光学フィルム積層体の概略断面図である。
【図4】本発明の別の好ましい実施形態による光学機能フィルム積層体の概略断面図である。
【図5】参考例1および市販の偏光膜の配向性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.製造方法
本発明の偏光膜の製造方法は、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して積層体を作製する工程(工程A)と、積層体のPVA系樹脂層をヨウ素で染色する工程(工程B)と、積層体を延伸する工程(工程C)と、積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する工程(工程D)とを含む。以下、各工程について説明する。
【0009】
A−1.工程A
図1は、本発明の好ましい実施形態による積層体の概略断面図である。積層体10は、熱可塑性樹脂基材11とPVA系樹脂層12とを有し、熱可塑性樹脂基材11上にPVA系樹脂層12を形成することにより作製される。PVA系樹脂層12の形成方法は、任意の適切な方法を採用し得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材11上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
【0010】
上記熱可塑性樹脂基材の構成材料は、任意の適切な材料を採用し得る。熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールをさらに含む共重合体が挙げられる。
【0011】
後述する工程Cにおいて水中延伸方式を採用する場合、上記熱可塑性樹脂基材は水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することが可能となり、空中延伸時よりも熱可塑性樹脂基材の延伸性が優れ得る。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。1つの実施形態においては、熱可塑性樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、熱可塑性樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
【0012】
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは170℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、120℃以下であることがより好ましい。1つの実施形態においては、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。別の実施形態においては、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形しなければ、60℃より低いガラス転移温度であってもよい。なお、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
【0013】
熱可塑性樹脂基材の延伸前の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、工程Cにおいて、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
【0014】
上記PVA系樹脂は、任意の適切な樹脂を採用し得る。例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0015】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
【0016】
上記塗布液は、代表的には、上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。
【0017】
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
【0018】
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。
【0019】
上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
【0020】
PVA系樹脂層の延伸前の厚みは、好ましくは3μm〜40μm、さらに好ましくは3μm〜20μmである。
【0021】
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
【0022】
A−2.工程B
上記工程Bでは、PVA系樹脂層をヨウ素で染色する。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
【0023】
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部〜20重量部、より好ましくは0.1重量部〜10重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%〜44%となるように、浸漬時間を設定する。
【0024】
工程Bは、後述の工程Cの前に行ってもよいし、工程Cの後に行ってもよい。後述するが、工程Cにおいて水中延伸方式を採用する場合、好ましくは、工程Bは工程Cの前に行う。
【0025】
A−3.工程C
上記工程Cでは、上記積層体を延伸する。積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
【0026】
延伸方式は、特に限定されず、空中延伸方式でもよいし、水中延伸方式でもよい。好ましくは、水中延伸方式である。水中延伸方式によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0027】
積層体の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。空中延伸方式を採用する場合、延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、積層体の延伸温度は、好ましくは170℃以下である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
【0028】
延伸方式として水中延伸方式を採用する場合、延伸浴の液温は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは50℃〜85℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。
【0029】
水中延伸方式を採用する場合、積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することが好ましい(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を作製することができる。
【0030】
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を作製することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
【0031】
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
【0032】
積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
【0033】
積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上である。このような高い延伸倍率は、例えば、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。なお、本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
【0034】
A−4.工程D
工程Bおよび工程Cの後、上記工程Dでは、積層体のPVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆し、この状態で積層体を加熱する。積層体のPVA系樹脂層に対して、このような処理を施すことにより、得られる偏光膜の光学特性を向上させることができる。工程Dにより、光学特性への寄与が低い配向性の低いヨウ素錯体が選択的に分解され得ることが、光学特性向上の要因の一つとして考えられる。具体的には、熱可塑性樹脂基材上に形成され、染色工程および延伸工程を経たPVA系樹脂層は、その熱可塑性樹脂基材側(下側)と表面側(上側)とで構成が異なる。具体的には、下側と上側とではPVA系樹脂の配向性が異なり、上側が下側に比べて配向性が低い傾向にある。配向性の低い部分に存在するヨウ素錯体もその配向性は低く、光学特性(特に、偏光度)への寄与が低いだけでなく、光学特性(特に、透過率)の低下の原因となり得る。一方で、このようなヨウ素錯体は、その配向性の低さから結合力も弱く分解されやすい。その結果、工程Dにより、配向性の低いヨウ素錯体を選択的に分解させて、可視光領域の吸収を低減させ、透過率を向上させることができる。なお、配向性の低いヨウ素錯体は、もともと偏光度への寄与が低いため、分解されても偏光度の低下は最小限に抑えられる。
【0035】
上記被覆フィルムとしては、任意の適切な樹脂フィルムを採用し得る。好ましくは、その透湿度が100g/m・24h以下であり、さらに好ましくは90g/m・24h以下である。このような被覆フィルムにより、PVA系樹脂層に存在する水分を層中にとどめた状態で加熱処理を行うことができる。水分存在下で加熱することにより、特に、水溶化されている(配向性の低い)ヨウ素錯体は分解されやすく、ヨウ素イオンに分解され得、得られる偏光膜の可視光領域の吸収が低減して、透過率が向上し得る。ここで、上記熱可塑性樹脂基材の透湿度が低いほど、PVA系樹脂層に存在する水分をとどめることができ、好ましい。上記延伸工程(工程C)後の熱可塑性樹脂基材の透湿度は、好ましくは100g/m・24h以下であり、さらに好ましくは90g/m・24h以下である。なお、「透湿度」は、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準拠して、温度40℃、湿度92%RHの雰囲気中、面積1mの試料を24時間に通過する水蒸気量(g)を測定して求められる値である。
【0036】
被覆フィルムの構成材料は、上記透湿度を満足し得る任意の適切な材料を採用し得る。被覆フィルムの構成材料としては、例えば、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0037】
被覆フィルムの厚みは、上記透湿度を満足し得る厚みに設定し得る。代表的には10μm〜100μmである。
【0038】
好ましい実施形態においては、接着剤を介して、PVA系樹脂層表面を被覆フィルムで被覆する。接着剤を用いることにより、PVA系樹脂層と被覆フィルムとの間に隙間が生じるのを防いで密着性を高めることができる。その結果、配向性の低いヨウ素錯体を効率的に分解させることができる。接着剤としては、任意の適切な接着剤が用いられ、水系接着剤であってもよいし溶剤系接着剤であってもよい。好ましくは、水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれる水分がPVA系樹脂層に移行し得る。これにより、ヨウ素錯体の安定性が低下し、特に配向性の低いヨウ素錯体は、もともとの安定性が低いため、分解されやすい状態になる。その結果、配向性の低いヨウ素錯体の分解を選択的に促進させることができる。
【0039】
上記水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤を採用し得る。好ましくは、PVA系樹脂を含む水系接着剤が用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100〜5000程度、さらに好ましくは1000〜4000である。平均ケン化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%〜100モル%程度、さらに好ましくは90モル%〜100モル%である。
【0040】
水系接着剤に含まれるPVA系樹脂は、好ましくは、アセトアセチル基を含有する。PVA系樹脂層と被覆フィルムとの密着性に優れ、耐久性に優れ得るからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えば、PVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%〜40モル%程度、さらに好ましくは1モル%〜20モル%、特に好ましくは2モル%〜7モル%である。なお、アセトアセチル基変性度はNMRにより測定した値である。
【0041】
水系接着剤の樹脂濃度は、好ましくは0.1重量%〜15重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜10重量%である。
【0042】
具体的には、PVA系樹脂層表面に接着剤を塗布して被覆フィルムを貼り合わせる。接着剤の塗布時の厚みは、任意の適切な値に設定し得る。例えば、加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層が得られるように設定する。接着剤層の厚みは、好ましくは10nm〜300nm、さらに好ましくは10nm〜200nm、特に好ましくは20nm〜150nmである。被覆フィルムを貼り合わせる際、接着剤に含まれる単位面積当たりの水分量は、好ましくは0.05mg/cm以上である。このような水分量を満足することにより、配向性の低いヨウ素錯体を効率的に分解させ得る。一方、水分量は、好ましくは2.0mg/cm以下、さらに好ましくは1.0mg/cm以下である。接着剤の乾燥に時間がかかるおそれがあるからである。好ましくは、工程Dの前に積層体を乾燥させ、乾燥後、PVA系樹脂層表面に接着剤を塗布して被覆フィルムを貼り合わせ、接着剤に水が含まれる状態でPVA系樹脂層が加熱される。接着剤に含まれる単位当たりの水分量は上記のとおりであり、当該水分量は、接着剤に含まれる水分量とPVA系樹脂層表面への接着剤の塗布量とにより求められる。
【0043】
被覆フィルムで被覆された積層体の加熱温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは80℃以上である。このような温度で加熱することにより、上記ヨウ素錯体を効率的に分解させることができる。一方、加熱温度は、好ましくは120℃以下である。加熱時間は、好ましくは3分〜10分である。
【0044】
ヨウ素錯体の分解により生成するヨウ素イオン(I)の存在は、極大波長λmax220nmにおける吸光度を測定することにより確認することができる。工程Dによる処理前後のPVA系樹脂層の波長220nmにおける平行吸光度の増加率は、好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。なお、PVA系樹脂層の平行吸光度は、積層体の平行透過率を紫外可視近赤外分光光度計(日本分光株式会社製、V7100)により測定し、log10(1/平行透過率)により求められ、増加率は、以下の式により算出される。
(増加率)=[(処理後の吸光度)−(処理前の吸光度)]/(処理後の吸光度)×100
【0045】
A−5.その他の工程
本発明の偏光膜の製造方法は、上記工程A、工程B、工程Cおよび工程D以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、架橋工程、上記工程Cとは別の延伸工程、洗浄工程、乾燥工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。
【0046】
上記不溶化工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。特に水中延伸方式を採用する場合、不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜40℃である。好ましくは、不溶化工程は、積層体作製後、工程Bや工程Cの前に行う。
【0047】
上記架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。また、上記染色工程後に架橋工程を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。
【0048】
好ましくは、架橋工程は上記工程Cの前に行う。好ましい実施形態においては、工程B、架橋工程および工程Cをこの順で行う。
【0049】
上記工程Cとは別の延伸工程としては、例えば、上記積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸する工程が挙げられる。このような空中延伸工程は、好ましくは、ホウ酸水中延伸(工程C)および染色工程の前に行う。このような空中延伸工程は、ホウ酸水中延伸に対する予備的または補助的な延伸として位置付けることができるため、以下「空中補助延伸」という。
【0050】
空中補助延伸を組み合わせることで、積層体をより高倍率に延伸することができる場合がある。その結果、より優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。例えば、上記熱可塑性樹脂基材としてポリエチレンテレフタレート系樹脂を用いた場合、ホウ酸水中延伸のみで延伸するよりも、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とを組み合せる方が、熱可塑性樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することができる。当該熱可塑性樹脂基材は、その配向性が向上するにつれて延伸張力が大きくなり、安定的な延伸が困難となったり、熱可塑性樹脂基材が破断したりする。そのため、熱可塑性樹脂基材の配向を抑制しながら延伸することで、積層体をより高倍率に延伸することができる。
【0051】
また、空中補助延伸を組み合わせることで、PVA系樹脂の配向性を向上させ、そのことにより、ホウ酸水中延伸後においてもPVA系樹脂の配向性を向上させ得る。具体的には、予め、空中補助延伸によりPVA系樹脂の配向性を向上させておくことで、ホウ酸水中延伸の際にPVA系樹脂がホウ酸と架橋し易くなり、ホウ酸が結節点となった状態で延伸されることで、ホウ酸水中延伸後もPVA系樹脂の配向性が高くなるものと推定される。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。
【0052】
空中補助延伸の延伸方法は、上記工程Cと同様、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。また、延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。本工程における延伸方向は、好ましくは、上記工程Cの延伸方向と略同一である。
【0053】
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは3.5倍以下である。空中補助延伸の延伸温度は、PVA系樹脂のガラス転移温度以上であることが好ましい。延伸温度は、好ましくは95℃〜150℃である。なお、空中補助延伸と上記ホウ酸水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。
【0054】
上記洗浄工程は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。上記乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは30℃〜100℃である。なお、上記工程Dを乾燥工程と兼ねてもよい。
【0055】
図2は、本発明の偏光膜の製造方法の一例を示す概略図である。積層体10を、繰り出し部100から繰り出し、ロール111および112によってホウ酸水溶液の浴110中に浸漬させた後(不溶化工程)、ロール121および122によって二色性物質(ヨウ素)およびヨウ化カリウムの水溶液の浴120中に浸漬させる(工程B)。次いで、ロール131および132によってホウ酸およびヨウ化カリウムの水溶液の浴130中に浸漬させる(架橋工程)。その後、積層体10を、ホウ酸水溶液の浴140中に浸漬させながら、速比の異なるロール141および142で縦方向(長手方向)に張力を付与して延伸する(工程C)。延伸処理した積層体(光学フィルム積層体)10を、ロール151および152によってヨウ化カリウム水溶液の浴150中に浸漬させ(洗浄工程)、乾燥工程に供する(図示せず)。その後、PVA系樹脂層表面を被覆フィルム20で被覆して所定の温度に保持された恒温ゾーン160にて加熱し(工程D)、巻き取り部170にて巻き取る。
【0056】
B.偏光膜
本発明の偏光膜は、上記製造方法により得られる。本発明の偏光膜は、実質的には、二色性物質が吸着配向されたPVA系樹脂膜である。偏光膜の厚みは、代表的には25μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7μm以下、特に好ましくは5μm以下である。一方、偏光膜の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは40.0%以上、より好ましくは41.0%以上、さらに好ましくは42.0%以上、特に好ましくは43.0%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0057】
上記偏光膜の使用方法は、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、上記熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムと一体となった状態で使用してもよいし、熱可塑性樹脂基材および/または被覆フィルムを剥離して使用してもよい。被覆フィルムを剥離しない場合、被覆フィルムを後述の光学機能フィルムとして用いることができる。
【0058】
C.光学積層体
本発明の光学積層体は、上記偏光膜を有する。図3(a)および(b)は、本発明の好ましい実施形態による光学フィルム積層体の概略断面図である。光学フィルム積層体100は、熱可塑性樹脂基材11’と偏光膜12’と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。光学フィルム積層体200は、熱可塑性樹脂基材11’と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。本実施形態では、上記熱可塑性樹脂基材を、得られた偏光膜12’から剥離せずに、そのまま光学部材として用いている。熱可塑性樹脂基材11’は、例えば、偏光膜12’の保護フィルムとして機能し得る。
【0059】
図4(a),(b),(c)および(d)は、本発明の別の好ましい実施形態による光学機能フィルム積層体の概略断面図である。光学機能フィルム積層体300は、セパレータ14と粘着剤層13と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16とをこの順で有する。光学機能フィルム積層体400では、光学機能フィルム積層体300の構成に加え、第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’とセパレータ14との間に粘着剤層13を介して設けられている。光学機能フィルム積層体500は、光学機能フィルム16が偏光膜12’に粘着剤層13を介して積層され、第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層されている。光学機能フィルム積層体600は、光学機能フィルム16および第2の光学機能フィルム16’が偏光膜12’に接着剤層15を介して積層されている。本実施形態では、上記熱可塑性樹脂基材は取り除かれている。
【0060】
本発明の光学積層体を構成する各層の積層には、図示例に限定されず、任意の適切な粘着剤層または接着剤層が用いられる。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層としては、代表的にはPVA系接着剤で形成される。上記光学機能フィルムは、例えば、偏光膜保護フィルム、位相差フィルム等として機能し得る。
【実施例】
【0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
1.厚み
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
2.ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
3.透湿度
JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準拠して、温度40℃、湿度92%RHの雰囲気中、面積1mの試料を24時間に通過する水蒸気量(g)を測定した。
【0062】
[実施例1−1]
(工程A)
熱可塑性樹脂基材として、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(A−PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
熱可塑性樹脂基材の片面に、重合度2600、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH−26」)の水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み7μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして積層体を作製した。
【0063】
得られた積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化工程)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(工程B)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋工程)。
その後、積層体を、液温60℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(工程C)。ホウ酸水溶液への浸漬時間は120秒であり、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は5.0倍)。
その後、積層体を洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、加熱後の接着剤層の厚みが90nmとなるようにPVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR ZB14」、厚み70μm、透湿度7g/m・24h)を貼り合わせ、100℃に維持したオーブンで5分間加熱した(工程D)。貼り合わせの際、接着剤に含まれる水分量は、単位面積当たり0.3mg/cmであった。
このようにして、厚み3μmの偏光膜を作製した。また、このときの熱可塑性樹脂基材の厚みは40μmであり、透湿度は25g/m・24hであった。なお、当該透湿度は、別途、厚み40μmのA−PETフィルムを用意して測定した値である。
【0064】
[実施例1−2]
工程Dにおいて、加熱温度を80℃としたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0065】
[実施例1−3]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「Zeonor ZD12」、厚み33μm、透湿度20g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0066】
[実施例1−4]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR GフィルムZF14」、厚み23μm、透湿度27g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0067】
[実施例1−5]
被覆フィルムとしてポリエステル系樹脂フィルム(三菱樹脂社製、商品名「T100」、厚み25μm、透湿度29g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0068】
[実施例1−6]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」、厚み35μm、透湿度85g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0069】
[実施例1−7]
工程Dにおいて、加熱温度を50℃としたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0070】
[実施例2−1]
(工程A)
熱可塑性樹脂基材として、Tg130℃のノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」、厚み150μm)を用いた。
熱可塑性樹脂基材の片面に、重合度2600、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH−26」)の水溶液を80℃で塗布および乾燥して、厚み7μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして積層体を作製した。
【0071】
得られた積層体を、140℃の加熱下で、テンター装置を用いて、自由端一軸延伸により、幅方向に、延伸倍率4.5倍まで延伸した。延伸処理後のPVA系樹脂層の厚みは3μmであった(工程C)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.5重量部配合し、ヨウ化カリウムを3.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(工程B)。
次いで、液温60℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを5重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に60秒間浸漬させた(架橋工程)。
その後、積層体を洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、加熱後の接着剤層の厚みが90nmとなるようにPVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、ノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」、厚み35μm、透湿度85g/m・24h)を貼り合わせ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱した(工程D)。貼り合わせの際、接着剤に含まれる水分量は、単位面積当たり0.3mg/cmであった。
このようにして、厚み3μmの偏光膜を作製した。また、このときの熱可塑性樹脂基材の厚みは70μmであり、透湿度は50g/m・24hであった。
【0072】
[実施例2−2]
工程Dにおいて、加熱温度を80℃としたこと以外は、実施例2−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0073】
[実施例2−3]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR ZB14」、厚み70μm、透湿度7g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例2−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0074】
[実施例3−1]
実施例1−1と同様にして作製した積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸工程)。その後、実施例1−1と同様にして、不溶化工程を行った。
次いで、液温30℃で、ヨウ素濃度0.12〜0.25重量%でヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上になるように浸漬させた(工程B)。ここでは、ヨウ素とヨウ化カリウムの配合比は1:7とした。
次いで、実施例1−1と同様にして架橋工程、工程C、洗浄・乾燥工程および工程Dを行い、偏光膜を作製した。なお、工程Cにおいて、空中補助延伸を含む総延伸倍率(最大延伸倍率)が6.0倍となるように延伸した。
このようにして、厚み3μmの偏光膜を作製した。また、このときの熱可塑性樹脂基材の厚みは40μmであり、透湿度は25g/m・24hであった。
【0075】
[実施例3−2]
工程Dにおいて、加熱温度を80℃としたこと以外は、実施例3−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0076】
[実施例3−3]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR GフィルムZF14」、厚み23μm、透湿度27g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例3−2と同様にして偏光膜を作製した。
【0077】
[実施例3−4]
被覆フィルムとしてノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON FEKP130」、厚み40μm、透湿度60g/m・24h)を用いたこと以外は、実施例3−2と同様にして偏光膜を作製した。
【0078】
[比較例1−1]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を50℃としたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0079】
[比較例1−2]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を80℃としたこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0080】
[比較例2−1]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を50℃としたこと以外は、実施例2−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0081】
[比較例2−2]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を90℃としたこと以外は、実施例2−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0082】
[比較例3−1]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を50℃としたこと以外は、実施例3−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0083】
[比較例3−2]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を80℃としたこと以外は、実施例3−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0084】
[比較例4−1]
重合度2300、ケン化度99.9%のポリビニルアルコール(PVA)フィルム(クラレ社製、商品名「VF−PS7500」、厚み75μm)を、液温30℃の膨潤浴(純水)に30秒間浸漬させた(膨潤工程)。
次いで、液温30℃で、ヨウ素濃度が0.03〜0.05重量%でヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上になるように浸漬させた(染色工程)。ここでは、ヨウ素とヨウ化カリウムの配合比は1:7とした。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋工程)。
その後、PVAフィルムを、液温60℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(延伸工程)。ホウ酸水溶液への浸漬時間は120秒であり、延伸倍率を6.0倍とした。
その後、PVAフィルムを洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた後、60℃の温風で乾燥させた(洗浄・乾燥工程)。
続いて、PVAフィルムの両面に、加熱後の接着剤層の厚みが90nmとなるようにPVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z−200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製、商品名「ZEONOR ZB14」、厚み70μm、透湿度7g/m・24h)を貼り合わせ、80℃に維持したオーブンで5分間加熱した(加熱工程)。貼り合わせの際、接着剤に含まれる水分量は、単位面積当たり0.3mg/cmであった。
このようにして、厚み24μmの偏光膜を作製した。
【0085】
[比較例4−2]
被覆フィルムとしてセルロース系樹脂フィルム(富士フイルム社製、商品名「TD80UL」、厚み80μm、透湿度400g/m・24h)を用い、加熱温度を50℃としたこと以外は、比較例4−1と同様にして偏光膜を作製した。
【0086】
<参考例1>
工程Dを行わなかったこと以外は、実施例1−1と同様にして偏光膜を得た。
【0087】
<参考例2>
工程Dを行わなかったこと以外は、実施例2−1と同様にして偏光膜を得た。
【0088】
<参考例3>
工程Dを行わなかったこと以外は、実施例3−1と同様にして偏光膜を得た。
【0089】
<参考例4>
加熱工程を行わなかったこと以外は、比較例4−1と同様にして偏光膜を得た。
【0090】
各実施例および比較例で得られた偏光膜の偏光度を、被覆フィルムは剥離せずに、熱可塑性樹脂基材を剥離して測定した。なお、参考例1および参考例3については、得られた偏光膜の表面に接着剤を塗布して厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)を貼り合わせた後、熱可塑性樹脂基材を剥離して、偏光度の測定に供した。参考例2については、熱可塑性樹脂基材を剥離せず、そのままの構成で偏光度の測定に供した。参考例4については、得られた偏光膜の両面に接着剤を塗布して厚み80μmのTACフィルムを貼り合わせて偏光度の測定に供した。偏光度の測定方法は以下のとおりである。測定結果を表1に示す。
(偏光度の測定方法)
紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、偏光膜の単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)および直交透過率(Tc)を測定し、偏光度(P)を次式により求めた。
偏光度(P)(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
なお、上記Ts、TpおよびTcは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。
【0091】
【表1】

【0092】
PVA系樹脂層表面を所定の透湿度を有する被覆フィルムで被覆して加熱処理を施すことにより、非常に高い単体透過率と偏光度とを有する偏光膜を作製することができた。なお、熱可塑性樹脂基材を用いずに偏光膜を作製した比較例4−1では、透湿度の低い被覆フィルムを用いて加熱処理しても、単体透過率の向上は確認されなかった。
【0093】
参考例1で得られた偏光膜の上側と下側(熱可塑性樹脂基材側)の配向性を、配向関数により評価した。配向関数の測定方法は、以下の通りである。
測定装置は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名:「SPECTRUM2000」)を用いた。偏光を測定光として、全反射減衰分光(ATR:attenuated total reflection)測定により、PVA系樹脂層表面の評価を行った。配向関数(f)の算出は、以下の手順で行った。
測定偏光を延伸方向に対して0°と90°にした状態で測定を実施した。
得られたスペクトルの2941cm−1の吸収強度を用いて、下記式に従って算出した(出典:H.W.Siesler,Adv.Polym.Sci.,65,1(1984))。ここで、下記強度Iは、3330cm−1を参照ピークとして、2941cm−1/3330cm−1の値を用いた。なお、f=1のとき完全配向、f=0のときランダムとなる。また、2941cm−1のピークは、PVAの主鎖(−CH−)の振動起因の吸収といわれている。
f=(3<cosθ>−1)/2
=[(R−1)(R+2)]/[(R+2)(R−1)]
=(1−D)/[c(2D+1)]
=−2×(1−D)/(2D+1)
ただし、
c=(3cosβ−1)/2
β=90deg
θ:延伸方向に対する分子鎖の角度
β:分子鎖軸に対する遷移双極子モーメントの角度
=2cotβ
1/R=D=(I⊥)/(I//)
(PETが配向するほどDの値が大きくなる。)
I⊥:測定偏光の振動方向を延伸方向と垂直方向(90°)に入射して測定したときの吸収強度
I//:測定偏光の振動方向を延伸方向と平行方向(0°)に入射して測定したときの吸収強度
【0094】
測定結果を、市販の偏光膜(基材を用いずに作製した偏光膜)の結果とともに、図5に示す。市販の偏光膜は、上側と下側とでは配向性に差はなかったが、基材を用いて作製した参考例1の偏光膜は上側と下側とでは配向性に差が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の偏光膜は、液晶テレビ、液晶ディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、カーナビゲーション、コピー機、プリンター、ファックス、時計、電子レンジ等の液晶パネル、有機ELデバイスの反射防止膜として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0096】
10 積層体
11 熱可塑性樹脂基材
12 ポリビニルアルコール系樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、
該積層体のポリビニルアルコール系樹脂層をヨウ素で染色する工程と、
該積層体を延伸する工程と、
該染色工程および延伸工程の後に、該積層体のポリビニルアルコール系樹脂層表面を透湿度が100g/m・24h以下の被覆フィルムで被覆し、この状態で該積層体を加熱する工程と
を含む、偏光膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度が60℃以上である、請求項1に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂層表面を、接着剤を介して前記被覆フィルムで被覆する、請求項1または2に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤が水系接着剤である、請求項3に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程後の熱可塑性樹脂基材の透湿度が100g/m・24h以下である、請求項1から4のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項6】
前記積層体をホウ酸水溶液中で水中延伸する、請求項1から5のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項7】
前記染色工程および前記ホウ酸水中延伸の前に、前記積層体を95℃以上で空中延伸する工程を含む、請求項6に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項8】
前記積層体の最大延伸倍率が5.0倍以上である、請求項1から7のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂基材が、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂から構成されている、請求項1から8のいずれかに記載の偏光膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の偏光膜の製造方法により得られた、偏光膜。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光膜を有する、光学積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−256018(P2012−256018A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258599(P2011−258599)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【特許番号】特許第4975186号(P4975186)
【特許公報発行日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】