説明

偏光解消板及び電子光学機器

【課題】 最適な固有楕円偏光率が得られる偏光解消板を提供する。
【解決手段】 第1及び第2の複屈折結晶板2、4と共にOLPF1を構成する偏光解消板3であって、板面法線と光学軸の成す角度β1を20°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度θ1を47.5°に設定することで、510nmの波長において、偏光解消板3の楕円偏光率を略最適値(=1)に設定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数枚の複屈折結晶板と共に光学ローパスフィルタを構成する偏光解消板、及びそれを備えた電子光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の電子光学機器の普及に伴い、その光学ヘッドを構成する固体撮像素子(Charge Coupled Device:以下「CCD」という)などにおいては、この前方に光学ローパスフィルタ(Optical Low Pass Filter:以下「OLPF」という)が配置されている。このようなOLPFは、被写体が有する空間周波数のうち、CCDの画素に対して高い周波数成分を除去する働きがあり、影像品質を改善するために設けられている。例えば、OLPFを用いるとCCDや撮像管で生じる疑似色信号をカットすることができるようになる。このような疑似色信号をカットできない場合は、例えば、チェック柄の服や網タイツ等の縞模様を撮影した際に発生するモアレによる縞のちらつきが生じたり、太陽光が反射する海面を撮影した際に、海面から反射してきた特定の偏光の偏りによって発生する所謂光ギラツキが生じたりして、撮像品質の低下を招くことになる。
図9は、従来のOLPFの構成を説明するための概略斜視図である。
この図9に示すOLPF50は入射光を水平方向の常光線と異常光線に分離する複屈折結晶板51、直線偏光を円偏光に変換する偏光解消板(1/4波長板)52、入射光を垂直方向の常光線と異常光線に分離する複屈折結晶板53を貼り合せて構成される。そして、このように構成されるOLPF50をCCDや撮像管の前に配置することで、前述したモアレによる縞のちらつきや太陽光の海面での反射によるギラツキを改善することができるようになる。
図10は、図9に示したOLPFの機能を説明する説明図である。
この図10において、複屈折結晶板51に入射された入射光61は、複屈折結晶板51を通過することにより、常光線62と異常光線63に分離されて偏光解消板52に入射される。このとき、常光線62と異常光線63は直線偏光とされ、このような常光線62と異常光線63が偏光解消板52を通過した際には、直線偏光が解消されて円偏光64、65となる。この円偏光64、65は複屈折結晶板53に入射され、複屈折結晶板53を通過することにより、円偏光64は常光線66と異常光線67に、円偏光65は常光線68と異常光線69に夫々分離される。
この結果、図9に示すOLPF50から出射される出射光線は4つの光線66〜69に分離することができるので、OLPF50によってモアレ等を誘発する擬似色信号が除去し、且つ、入射光を4つの出射光に分離することができるので、CCDや撮像管へ良質な光信号を入力することが可能となる。なお、図9に示したような構成のOLPFは、例えば特許文献1に開示されている。
また特許文献2には、例えば510nmの波長を通過させる光学ローパスフィルタの偏光解消板の固有楕円偏光率を最適にする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−248198公報
【特許文献2】特開2004−29653公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の特許文献2では、偏光解消板を形成する水晶の切断方向(通常はYカットまたはXカット)をZ方向、その切断角度を20度に設定すると共に、偏光解消板の板面水平線と光学軸の光学軸投影線が成す角度(以下、「光学軸方位」という)を45±2°に設定することで、波長510nmにおいて、偏光解消板の固有楕円偏光率を最適にできると記載されている。
そこで、本願発明者は、上記特許文献2に開示されている条件により偏光解消板を構成してその楕円偏光率の実測を行った。
その結果を図11に示す。図11(a)は、特許文献2に開示されている偏光解消板の楕円偏光率の特性を示した図であり、図11(a)には、偏光解消板の水晶の切断方向をZ方向、その切断角度を20度、光学軸方位を43°にしたときの楕円偏光率の特性を示した図、図11(b)は偏光解消板の水晶の切断方向をZ方向、その切断角度を20度、光学軸方位を45°にしたときの楕円偏光率の特性を示した図、図11(c)は偏光解消板の水晶の切断方向をZ方向、その切断角度を20度、光学軸方位を47°にしたときの楕円偏光率の特性を示した図である。なお、楕円偏光率とは、偏光解消板の入射光と出射光の光量比を示したものであり、その値が1に近いほど、直線偏光が解消されて円偏光になる。
図11(a)に示すように偏光解消板の光学軸を43°にした場合の楕円偏光率は0.73、図11(b)に示すように偏光解消板の光学軸を45°にした場合の楕円偏光率は0.84、図11(c)に示すように偏光解消板の光学軸を47°にした場合の楕円偏光率は0.97であった。この結果から特許文献2に開示されている偏光解消板では、その楕円偏光率を最適値(=1.0)にできないことがわかった。
また、上記特許文献2に開示されている従来の偏光解消板は、その設計波長が510nmを中心に±30nmの範囲でしか1/4波長板(楕円偏光率が0.8以上)として機能しない。このため、特許文献2のような波長依存性が高い偏光解消板を用いたOLPFをRGBのカラーフィルタとCCDとの間に配置した場合は、OLPFの機能がRGB信号に対して波長依存性を有することになるから、RGB信号を検知する各画素子に適切な信号が供給されず、高い色再現性が得られない。また、このような問題解決として、CCDより得られた信号を演算処理する際に色補正することも考えられるが、この場合、複雑なアルゴリズムを必要とするなどから大型で高価な演算回路が必要となり、装置の大型化、高額化を招くという欠点もあった。
そこで、本発明は上記したような点を鑑みて成されたものであり、最適な固有楕円偏光率が得られる偏光解消板を提供することを目的とする。また適正な楕円偏光率が得られる波長帯域を拡大することができる偏光解消板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数枚の複屈折結晶板と共に光学ローパスフィルタを構成する偏光解消板であって、板面法線と光学軸の成す角度を20°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を47.5°に設定したことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、複数枚の複屈折結晶板と共に光学ローパスフィルタを構成する偏光解消板であって、板面法線と光学軸の成す角度を27°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を16.1°に設定した第1の波長板と、板面法線と光学軸の成す角度を13°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を81°に設定した第2の波長板と、を備えていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1、又は2に記載の偏光解消板を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によれば、偏光解消板の板面法線と光学軸の成す角度を20°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を47.5°に設定することで、所定の波長において、偏光解消板の楕円偏光率を最適値に設定することができるようになる。
請求項2記載の発明によれば、板面法線と光学軸の成す角度を27°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を16.1°に設定した第1の波長板と、板面法線と光学軸の成す角度を13°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を81°に設定した第2の波長板と、を用いて偏光解消板を構成することで、適正な楕円偏光率が得られる波長帯域を拡大することができる。従って、本発明の偏光解消板を用いて構成した光学ローパスフィルタをカラー固体撮像素子の前面側に配置して色補正などを行うようにすれば装置の小型化を図ることができるようになる。
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1及び請求項2の効果が得られる電子光学機器を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る偏光解消板を用いた光学ローパスフィルタの概略斜視図である。
この図1に示す光学ローパスフィルタ(OLPF)1は、固体撮像素子(CCD)10の前面側に配置され、例えば入射光を4分割してCCD10に出射するように構成されている。このようなOLPF1は、入射光を水平方向の常光線と異常光線に分離する第1の複屈折結晶板2と、直線偏光を円偏光に変換する偏光解消板(1/4波長板)3と、入射光を垂直方向の常光線と異常光線に分離する第2の複屈折結晶板4とが貼り合わされている。
図2は、図1に示したOLPFの機能を説明する説明図である。
この図2において、第1の複屈折結晶板2に入射された入射光11は、第1の複屈折結晶板11を通過することにより常光線12と異常光線13に分離されて偏光解消板3に入射される。偏光解消板3に入射された常光線12及び異常光線13は、偏光解消板3を通過する際に夫々位相が90°変化し、常光線12及び異常光線13の直線偏光が解消されてそれぞれ円偏光14、15となる。この円偏光14、15は第2の複屈折結晶板4に入射され、第2の複屈折結晶板4を通過することにより、円偏光14は常光線16と異常光線17に、円偏光15は常光線18と異常光線19に夫々分離される。この結果、最終的には図2に示すOLPF1から出射される出射光線は4つの出射光線に分離される。
そのうえで、第1の実施の形態に係るOLPF1は、図3に示すように、偏光解消板3を形成している水晶の切断方向をZ方向、その切断角度は、偏光解消板3の板面法線と光学軸(Z軸)5の成す角度β1を20°に設定すると共に、偏光解消板3の板面水平線(A−A’)と光学軸5の光学投影線6が成す角度である光学軸方位θ1を47.5°に設定するようにしている。このように偏光解消板3を構成すると、例えば510nmの波長において最適な固有楕円偏光率が得られることが分かった。
図4は、第1の実施の形態に係る偏光解消板の楕円偏光率の特性を示した図である。
この図4に示すように、偏光解消板3の水晶を20度のZカット、光学軸方位を47.5°に設定したときの楕円偏光率特性を示した図であり、この図4に示す測定結果から、偏光解消板3の光学軸方位θ1を47.5°に設定すると、例えば510nmの波長において楕円偏光率を略最適値(=1.0)になることが分かった。
したがって、第1の実施の形態に係る偏光解消板3を用いてOLPF1を構成すれば、特許文献2のOLPFより、さらにモアレ等を誘発する擬似色信号を除去し、且つ、入射光を4つの出射光に分離することができるようになる。
ところで、上記図1に示した第1の実施の形態に係る偏光解消板3においても、特許文献2に開示されている従来のOLPFと同様、規定以上の楕円偏光率(例えば0.8以上)が得られる波長帯域が、設計波長である510nmを中心に±30nmの範囲しかなく、偏光解消板3を1/4波長板として機能させることができる波長帯域が狭いままとされる。
そこで、本願出願人は、鋭意検討を行った結果、OLPFの偏光解消板を次のように構成すると、適正な楕円偏光率が得られる波長帯域を拡大できることがわかった。
【0007】
以下、本発明の第2の実施の形態として適正な楕円偏光率が得られる波長帯域を拡大することができる偏光解消板について説明する。
図5は、第2の実施の形態にかかる偏光解消板の構造を示した図であり、図5(a)は偏光解消板を入射側から見た正面図、図5(b)は偏光解消板の側面図、図5(c)は、偏光解消板の分解斜視図である。また図6は第2の実施の形態に係る偏光解消板の各部の寸法を示した図である。なお、この場合の偏光解消板はZカットとする。
第2の実施の形態に係る偏光解消板20は、図5(b)に示すように、第1の波長板21と第2の波長板22からなる。この場合、図5(c)及び図6に示すように、第1の波長板21は、波長板を形成している水晶の切断方向をZ方向、その切断角度、即ち第1の波長板21の板面法線と光学軸31の成す角度β1を27.0°に設定すると共に、第1の波長板21の板面水平線(B−B’)と光学軸31の光学投影線33が成す角度である光学軸方位θ1を16.1°に設定するようにした。
また第2の波長板21は、同じく図5(c)及び図6に示されているように、波長板を形成している水晶の切断方向がZ方向、その切断角度、即ち第2の波長板21の板面法線と光学軸32の成す角度β2を13.0°に設定すると共に、第2の波長板22の板面水平線(C−C’)と光学軸32の光学投影線34が成す角度である光学軸方位θ2を81.0°に設定するようにした。
そして、板面水平線(B−B’)と板面水平線(C−C’)とが平行になるように第1の波長板21と第2の波長板22とを重ねたものである。
なお、図6に示すように、このときの第1及び第2の波長板21、22の偏光面方位は共に0°、使用波長は共に550nmとする。また、第1及び第2の波長板21、22の厚みは、第1の波長板21が0.1465mm、第2の波長板22が0.3048mmであり、偏光解消板20の厚みは0.4514mmとなる。
そして、このように偏光解消板20を構成すると、偏光解消板20において適正な楕円偏光率が得られる波長帯域を拡大できることがわかった。
【0008】
図7は、第2の実施の形態に係る偏光解消板の楕円偏光率特性を示した図であり、図7から分かるように、偏光解消板20を第1の波長板21と第2の波長板22とにより構成することで、400nm〜700nmの広帯域で楕円偏光率が0.8以上となり、位相差がほぼ90°の1/4波長板を実現することができるようになる。
ここで、第2の実施の形態に係る偏光解消板の第1波長板の光学軸方向を変更した場合の波長に対する楕円偏光率特性のシミュレーション結果を図8に示す。
図8(a)は第1の波長板の光学軸方向を16.1°に設定した場合のシミュレーション結果を、図8(b)は第1の波長板の光学軸方向を17°に設定した場合のシミュレーション結果を、図8(c)は第1の波長板の光学軸方向を15°に設定した場合のシミュレーション結果をそれぞれ示した図である。
これら図8(a)〜図8(c)のシミュレーション結果から、第1の波長板21の光学軸方位を約1°変えただけでも波長に対する楕円偏光率特性が大きく変化することがわかる。また、図8(a)と図8(b)を比較すると、図8(b)に示すように光学軸方位を17°に設定した場合も広帯域に渡って楕円偏光率が0.8以上になるが、図8(a)に示すように光学軸方位を16.1°に設定したほうが、楕円偏光率が最適値(=1.0)となる帯域が広いため、図8(a)に示すように第1の波長板21の光学軸方向を16°に設定したほうが好ましい。また図8(a)と図8(c)とを比較すると、図8(c)に示すように光学軸方位を15°に設定した場合は、図8(a)に比べて楕円偏光率が大きく低下していることが分かる。従って、このようなシミュレーション結果からも、図5及び図6に示したように偏光解消板20の第1及び第2の波長板21、22を構成することが好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる偏光解消板を用いた光学ローパスフィルタの概略斜視図である。
【図2】第1の実施の形態に係る光学ローパスフィルタの機能を説明するための図である。
【図3】第1の実施の形態に係る偏光解消板の構造を説明する説明図である。
【図4】第1の実施の形態に係る偏光解消板の楕円偏光率特性を示した図である。
【図5】第2の実施の形態に係る偏光解消板の構造を説明する説明図である。
【図6】図5に示した偏光解消板の各部の寸法を示した図である。
【図7】第2の実施の形態に係る偏光解消板の楕円偏光率特性を示した図である。
【図8】第2の実施の形態に係る偏光解消板の第1波長板の光学軸方向を変更した場合の波長に対する楕円偏光率特性のシミュレーション結果を示した図である。
【図9】従来の光学ローパスフィルタの概略斜視図である。
【図10】従来の光学ローパスフィルタの機能を説明するための図である。
【図11】従来の光学ローパスフィルタに用いられる偏光解消板の楕円偏光率特性を示した図である。
【符号の説明】
【0010】
1 光学ローパスフィルタ(OLPF)、2 第1の複屈折結晶板、3 20 偏光解消板、4 第2の複屈折結晶板、5 31 32 光学軸、6 33 34 光学軸投影線、21 第1の波長板、22 第2の波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の複屈折結晶板と共に光学ローパスフィルタを構成する偏光解消板であって、板面法線と光学軸の成す角度を20°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を47.5°に設定したことを特徴とする偏光解消板。
【請求項2】
複数枚の複屈折結晶板と共に光学ローパスフィルタを構成する偏光解消板であって、板面法線と光学軸の成す角度を27°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を16.1°に設定した第1の波長板と、板面法線と光学軸の成す角度を13°、板面水平線と前記光学軸の光学投影線の成す角度を81°に設定した第2の波長板と、を備えていることを特徴とする偏光解消板。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の偏光解消板を備えたことを特徴とする電子光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−84733(P2006−84733A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268929(P2004−268929)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】