説明

偏心型のスピーカー装置用振動板及びスピーカー装置

【課題】主として、胴体の重量を増加させることなく、感度の向上を図ることが可能な偏心型のスピーカー装置用振動板を提供する。
【解決手段】偏心型の振動板は、複数の基材を積層してなる積層体(胴体)により構成され、ボイスコイルボビンへの取付用の取付孔を有し、積層体の中心に対して取付孔の中心が偏心した形状を有し、複数の基材のうち少なくとも一つの基材において、取付孔の中心から積層体の外縁までの距離が大きい側には開口が設けられ、その開口は積層体を貫通していない。これにより、取付孔の中心を基準としたときに、重量過多の側に対応する積層体の部分の重量を軽くすることができ、慣性モーメントのアンバランスを是正できる。また、これにより振動板自体の重量も軽くなり、感度を向上させることができる。さらに、その開口は積層体を貫通していない構造を有するので、振動板の振動時に、その開口に起因してスピーカー装置の感度が低下するようなこともない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心型のスピーカー装置用振動板の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、胴体の中心に対して、ボイルコイルボビンに取り付けられるときに用いられる取付孔の中心が偏心した形状を有する偏心型の振動板が知られている。
【0003】
このような偏心型の振動板を有するスピーカー装置は、その取付孔の中心を通る中心軸がボイスコイルボビンの中心軸と同軸上に位置するように、その偏心型の振動板が取付孔を通じてボイスコイルボビンに取り付けられている。かかる構成により、偏心型の振動板に生じる分割振動を分散させることができ、ピークやディップの少ない周波数特性が得られると共に、高域指向特性の劣化を抑えることができるとされている。
【0004】
しかしながら、このような偏心型の振動板は、上記したように、胴体の中心に対して、ボイルコイルボビンに取り付けられるときに用いられる取付孔の中心が偏心した形状を有する。このため、かかる偏心型の振動板では、その取付孔の中心を基準としたときに、取付孔の中心から胴体の外縁までの距離が大きい側の重量が、取付孔の中心から胴体の外縁までの距離が小さい側の重量より大きい。このため、かかる偏心型の振動板では、その重量の大きい側の胴体部分の慣性モーメントと、その重量の小さい側の胴体部分の慣性モーメントとのバランスが崩れている。これにより、その偏心型の振動板の振動時には、ローリング(横揺れ)が生じて、ボイスコイルボビンやボイスコイルボビンに巻かれたボイスコイル等の振動系部材と磁気回路とが機械的に当たり易くなり、その当たりによって異常音が生じてしまうという問題がある。
【0005】
この種の課題を改善することが可能な偏心型振動板(スピーカー用偏心コーン)が、例えば特許文献1及び2に記載されている。
【0006】
特許文献1及び2に記載のスピーカー用偏心コーンは、偏心孔に対して慣性モーメントが小さい側のコーン面の外周部に金属製のバランサーを貼り付けるようにしている。これにより、スピーカー用偏心コーン全体の慣性モーメントのアンバランスが是正され、上記したような問題が改善できるとされている。
【0007】
なお、振動板の中心部に近い部位の磁束密度と遠い部位との磁束密度を不均一とすることによって、慣性モーメントのアンバランスを是正することが可能な偏心スピーカー装置が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0008】
また、偏心型振動板ではないが、上記のような問題を改善することが可能なスピーカー装置用振動板、スピーカー装置及びスピーカー装置用エッジの一例が、それぞれ特許文献4乃至6に提案されている。
【0009】
特許文献4に記載のスピーカー装置用振動板は、振動板のボイスコイル給電線を支持する側と反対側に他の部分より肉厚の厚い重量バランス部が一体成形されてなる。これにより、ローリングを抑制することができるとされている。
【0010】
また、特許文献5に記載のスピーカー装置は、コーン状振動板の中心線に対して左右のコーン面半径が等しく、かつコーンカーブの曲率を非対称とし、さらにコーンカーブの曲率が大なる部分を受聴点側として設置してなる。かかる構成により、受聴点に対向する振動面の有効面積を増加させ、直接音の増加を図り、受聴点に対する指向特性を広げるようにしている。その結果、音質の向上を図ることができるとされている。
【0011】
また、特許文献6に記載のスピーカー装置用エッジは、楕円形若しくは非円形の振動板の外周に結合され、その振動板の長径方向側の幅に比べ短径方向側の幅を狭くすると共に、全周に亘りどの位置においても展開した際の長さ寸法を等しくている。かかる構成により、スピーカー装置用エッジの全周に亘ってステフィネスを等価的に等しくすることができ、支持系のバランスが是正され、歪の少ない優れた性能を得ることができるとされている。
【0012】
【特許文献1】特開平11−155189号公報
【特許文献2】特許第3405160号公報
【特許文献3】特開2002−374595号公報
【特許文献4】特開2005−6140号公報
【特許文献5】特許第2952920号公報
【特許文献6】特許第3132253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した特許文献1及び2に記載のスピーカー用偏心コーンでは、金属製のバランサーを設けることにより、慣性モーメントのアンバランスを是正し、振動系部材と磁気回路との機械的な当たりによる異常音の発生を防止できるという利点を有する。
【0014】
しかしながら、かかるスピーカー用偏心コーンでは、金属製のバランサーを設けているので、その分だけ、スピーカー用偏心コーンの重量が増加して、スピーカー装置の感度(特に、高域における感度)が低下してしまうと共に、スピーカー用偏心コーンの製品コストが高くなってしまうという問題がある。
【0015】
本発明が解決しようとする課題としては、上記のようなものが例として挙げられる。本発明は、偏心型のスピーカー装置用振動板の重量を増加させることなく、スピーカー装置の感度の向上を図ると共に、その製品コストを下げることが可能な偏心型のスピーカー装置用振動板及びスピーカー装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、偏心型のスピーカー装置用振動板であって、複数の基材を積層してなる積層体により構成され、ボイスコイルボビンへ取り付けるための取付孔を有すると共に、前記積層体の中心に対して前記取付孔の中心が偏心した形状を有し、前記複数の基材のうち少なくとも一つの基材において、前記取付孔の前記中心から前記積層体の外縁までの距離が大きい側には開口が設けられ、前記開口は前記積層体を貫通していないことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の1つの実施形態では、偏心型のスピーカー装置用振動板は、複数の基材を積層してなる積層体により構成され、ボイスコイルボビンへ取り付けるための取付孔を有すると共に、前記積層体の中心に対して前記取付孔の中心が偏心した形状を有し、前記複数の基材のうち少なくとも一つの基材において、前記取付孔の前記中心から前記積層体の外縁までの距離が大きい側には開口が設けられ、前記開口は前記積層体を貫通していない。
【0018】
上記の偏心型のスピーカー装置用振動板は、複数の基材を積層してなる積層体により構成され、ボイスコイルボビンへ取り付けるための取付孔を有すると共に、その積層体の中心に対して前記取付孔の中心が偏心した形状を有する。このように、かかる偏心型のスピーカー装置用振動板は、複数の基材を積層してなる積層体により構成されるため、1つの基材により構成された偏心型の振動板と比較して、当該偏心型のスピーカー装置用振動板の強度向上を図ることができる。好適な例では、各基材の形成材料としては、例えば抄紙などの紙系材料、ポリプロピレンなどの高分子系材料、クロス材などの繊維系材料、又はこれらの素材を含む複合材料などが好ましい。
【0019】
また、かかる偏心型のスピーカー装置用振動板では、積層体を構成する複数の基材のうち少なくとも一つの基材において、取付孔の中心から積層体の外縁までの距離が大きい側には開口が設けられている。これにより、取付孔の中心を基準としたときに、積層体の重量過多の側、即ち、取付孔の中心から積層体の外縁までの距離が大きい側に対応する積層体の部分の重量を軽くすることができる。よって、取付孔の中心から積層体の外縁までの距離が大きい側に対応する積層体の部分の慣性モーメントと、取付孔の中心から積層体の外縁までの距離が小さい側に対応する積層体の部分の慣性モーメントとのアンバランスを改善(是正)することができる。よって、かかる偏心型のスピーカー装置用振動板を用いたスピーカー装置では、その振動時に、ローリング(横揺れ)が生じ難くなり、振動系部材と磁気回路との機械的な当たりは生じない。その結果、振動系部材と磁気回路との機械的な当たりによって生じる異常音が発生するようなことはない。
【0020】
また、この偏心型のスピーカー装置用振動板では、積層体に開口を設けているので、その分だけ、偏心型のスピーカー装置用振動板の重量も軽くなり、これに伴ってスピーカー装置の感度(特に、高域の感度)を向上させることができる。また、かかる構成により、上記の特許文献1及び2などの振動板のようにバランサーを設ける必要がなくなるので、その分だけ、偏心型のスピーカー装置用振動板の製品コストを下げることができ、ひいてはスピーカー装置の製品コストを下げることも可能となる。
【0021】
また、偏心型のスピーカー装置用振動板の慣性モーメントのアンバランスを改善し易くするため、前記積層体はコーン状の形状を有し、前記開口は、前記少なくとも一つの基材の外周部に設けられているのが好ましい。好適な例では、前記開口は、前記少なくとも一つの基材の前記外周部に沿って且つ適宜の間隔をおいて複数設けられているのが好ましい。
【0022】
また、前記開口の大きさ(面積)は、偏心された積層体の形状に起因して生じる積層体の慣性モーメントのアンバランスを是正する大きさに設定されているのが好ましい。すなわち、前記開口の大きさ(面積)は、取付孔の中心を基準としたときに、その中心から積層体の外縁までの距離が最も大きい側の前記積層体の部分の慣性モーメントの大きさと、その中心から積層体の外縁までの距離が最も小さい側の前記積層体の部分の慣性モーメントの大きさとが略同一(同一を含む)となる大きさに設定されているのが好ましい。
【0023】
また、積層体を構成する前記複数の基材は各々比重が異なる素材にて形成され、偏心型のスピーカー装置用振動板の慣性モーメントのアンバランスを是正する役割を果たす前記開口は、前記複数の基材のうち前記比重の最も大きい基材に設けられているのが好ましい。これにより、積層体に形成する当該開口の大きさ(面積)を小さくすることができる。
【0024】
また、複数の基材ではなく1つの基材により偏心型の振動板が形成され、上記のような機能を有する開口が振動板を貫通している比較例を想定した場合、かかる比較例では、その振動時に貫通孔たる開口から空気が漏れて、放音側に放射された音波と、放音側と逆側に放射された音波とが相互に干渉し合い、スピーカー装置の感度が低下してしまうという問題が生じ得る。
【0025】
この点、この偏心型のスピーカー装置用振動板は、複数の基材を積層してなる積層体により構成され、複数の基材のうち少なくとも一つの基材に開口が設けられ、その開口は積層体を貫通していない構造を有する。よって、この偏心型のスピーカー装置用振動板の振動時には、上記の比較例のような問題は生じることはなく、その開口に起因してスピーカー装置の感度が低下するようなことはない。
【0026】
本発明の他の実施形態では、上記の偏心型のスピーカー装置用振動板と、ボイスコイルボビンと、を備え、前記偏心型のスピーカー装置用振動板は、前記取付孔の中心を通る軸と前記ボイスコイルボビンの中心軸とが同軸上に位置するように、前記取付孔を通じて前記ボイスコイルボビンに取り付けられている。これにより、偏心型のスピーカー装置用振動板を有するスピーカー装置を構成することができる。
【実施例】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0028】
[スピーカー装置の構成]
図1に、本発明の実施例に係る偏心型の振動板8を含むスピーカー装置100を、その中心軸L1を通る平面で切断したときの断面図を示す。
【0029】
スピーカー装置100は、図1に示すように、ヨーク1、マグネット2及びプレート3を含む磁気回路30と、フレーム4、ボイスコイルボビン5、ボイスコイル6、ダンパー7、偏心型の振動板8、エッジ9及びキャップ11を含む振動系部材31と、を有して構成される。なお、本発明では、スピーカー装置の構造及び駆動方式などに限定はない。
【0030】
まず、磁気回路30の構成について説明する。
【0031】
本磁気回路30は、外磁型の磁気回路として構成されている。
【0032】
ヨーク1は、略円柱状の形状をなすポール部1aと、そのポール部1aの外周壁の下端部から外側に延在するように形成されたフランジ部1bと、を有する。
【0033】
マグネット2は、略環状の形状をなし、フランジ部1b上に取り付けられている。マグネット2上には、略環状の形状を有するプレート3が取り付けられている。そして、プレート3の内周壁とポール部1aの外周壁との間隙には磁気ギャップ32が形成されている。
【0034】
次に、振動系部材31の構成について説明する。
【0035】
フレーム4は、様々なスピーカー装置用構成部材を支持する機能を有する。フレーム4は、略椀状の形状及び階段状の断面形状をなし、第1段部4aと、当該第1段部4aの上側に且つ外側に設けられた第2段部4bと、当該第2段部4bの上側に且つ外側に設けられた第3段部4cと、を有している。フレーム4の要素である第1段部4aは、プレート3上に取り付けられている。これにより、フレーム4は、磁気回路30に結合されている。
【0036】
ボイスコイルボビン5は、略円筒状の形状をなしている。ボイスコイルボビン5の下端部付近は、ヨーク1のポール部1aの上端部付近を覆っている。このため、ボイスコイルボビン5の内周壁の下端部付近は、ポール部1aの外周壁の上端部付近と対向している一方、ボイスコイルボビン5の外周壁の下端部付近は、プレート3の内周壁及びマグネット2の内周壁の一部と夫々対向している。
【0037】
ボイスコイル6は、ボイスコイルボビン5の外周壁の下端部付近に巻かれており、ボイスコイル6の外周壁はプレート3の内周壁と対向している。ボイスコイル6は、1つの配線からなり、図示しないプラス及びマイナスのリード線を夫々有している。プラス側のリード線はL(又はR)チャンネル信号の入力配線であり、マイナス側のリード線はグランド(GND:接地)信号の入力配線である。プラス及びマイナスの各リード線は、それぞれフレーム4の適当な位置に設けられた図示しない端子に電気的に接続されている一方、端子は、図示しないアンプ側の出力配線にも電気的に接続されている。これにより、ボイスコイル6には、端子、プラス及びマイナスの各リード線を介してアンプ側から1チャンネル分の信号や電力が入力される。
【0038】
ダンパー7は、略環状の形状をなし、ボイスコイルボビン5等を弾性的に支持する、複数の同心円状の波型の弾性部を含んで構成される。ダンパー7の内周縁部は、ボイスコイルボビン5の外周壁の上端部付近に取り付けられている一方、ダンパー7の外周縁部は、フレーム4の第2段部4b上に取り付けられている。
【0039】
偏心型の振動板8は、入力信号に応じた音波を放射する機能を有する。偏心型の振動板8は、コーン状の形状を有し、自身をボイスコイルボビン5へ取り付けるときに用いられる取付孔8cを備えている。偏心型の振動板8の内周縁部8bは、ボイスコイルボビン5の外周壁の上端部に取り付けられている。これにより、ボイスコイルボビン5の中心軸でもあるスピーカー装置100の中心軸L1と、偏心型の振動板8の取付孔8cの中心を通る軸L2とが同軸上に位置している。一方、偏心型の振動板8の外周部8dには、略Ω状の断面形状を有するエッジ9が取り付けられている。エッジ9の外周縁部はフレーム4の第3段部4c上に取り付けられている。なお、偏心型の振動板8の詳細な構成は後述する。
【0040】
キャップ11は、ドーム状の形状をなし、その外周端部付近は、放音側となる偏心型の振動板8の内周部の放音面上に取り付けられている。このため、キャップ11は、放音側から水分や異物などが磁気回路30側に侵入するのを防止する役割を果たす。
【0041】
以上の構成を有するスピーカー装置100において、アンプ側から出力された信号及び電力は、端子並びにボイスコイル6のプラス及びマイナスのリード線を介してボイスコイル6へ供給される。これにより、磁気ギャップ32内でボイスコイル6に駆動力が発生し、偏心型の振動板8をスピーカー装置100の中心軸L1方向に振動させる。こうして、スピーカー装置100は、矢印Y1の方向に音波を放射する。
【0042】
[偏心型の振動板の構成]
次に、図2乃至図4を参照して、本発明の実施例に係る偏心型の振動板8の構成について説明する。
【0043】
図2は、図1の放音方向Y1となる偏心型の振動板8の放音面と逆側の背面側から観察したときの当該偏心型の振動板8の斜視図を示す。図3は、図1の放音方向Y1となる偏心型の振動板8の放音面と逆側の背面側から観察したときの当該偏心型の振動板8の平面図を示す。なお、図1乃至図3において、直線L2は、取付孔8cの中心Oを通る軸であると共に、直線L3は、偏心型の振動板8を構成する積層体の中心Oと、取付孔8cの中心Oとを通る直線であり、直線L4は、積層体の中心Oを通り直線L2に平行な当該積層体8aの中心軸である。図4(a)は、図2及び図3の切断線A−A’に沿った偏心型の振動板8の積層構造を示す要部断面図であり、特に、偏心型の振動板8を構成する積層体の要素である複数の基材のうち少なくとも1つの基材に設けられた開口を通る位置で切断したときの要部断面図である。
【0044】
偏心型の振動板8は、基本的な構成は上述した通りであり、偏心型の振動板8は、コーン状の形状をなし、図4(a)に示すように、複数の基材、放音側と逆側に配置される第1の基材80と、放音側に配置される第3の基材82と、第1の基材80と第3の基材82の間に配置される第2の基材81との積層構造(3層構造)を有する積層体8aにより構成されている。好適な例では、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82の形成材料としては、例えば抄紙などの紙系材料、ポリプロピレンなどの高分子系材料、クロス材などの繊維系材料、又はこれらの素材を含む複合材料などが好ましい。
【0045】
また、偏心型の振動板8は、平面的に見たときに、自身を構成する積層体8aの中心Oに対して取付孔8cの中心Oが一致しない形状、すなわち偏心した形状を有する。つまり、かかる偏心型の振動板8では、取付孔8cの中心Oと積層体8aの中心Oとの距離がd1(>0)に設定され、直線L3上において取付孔8cの中心O(又は、取付孔8cの中心Oを通る軸L2)が積層体8aの中心O(又は、積層体8aの中心Oを通る中心軸L4)からずれた位置、すなわち偏心した位置に設定されている。
【0046】
これにより、かかる偏心型の振動板8では、直線L3上において、取付孔8cの中心Oから積層体8aの中心Oへ向かう方向(破線矢印Y2方向)の積層体8aの外縁(外周縁部)までの距離はd2になっていると共に、取付孔8cの中心Oから積層体8aの中心Oへ向かう方向と逆方向(実線矢印Y3方向)の積層体8aの外縁(外周縁部)までの距離はd3(<d2)となっている。
【0047】
また、この偏心型の振動板8の積層体8aを構成する、複数の基材、即ち、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82のうち第1の基材80には、取付孔8cの中心Oから積層体8aの外縁までの距離が大きい側(破線矢印Y2方向)に、円形の平面形状を有する開口80aが複数設けられている。本例では、開口80aは、積層体8aを構成する第1の基材80の外周部に沿って且つ適宜の間隔をおいて複数設けられている。このため、その開口80aは偏心型の振動板8を構成する積層体8aを貫通していない。
【0048】
以上の構成を有する偏心型の振動板8は、図1に示すように、その取付孔8cの中心Oを通る軸L2がボイスコイルボビン5の中心軸L1と同軸上に位置するように、その取付孔8cを通じてボイスコイルボビン5の外周壁の上端部付近に取り付けられている。
【0049】
次に、上記した本実施例に係る偏心型の振動板8の特有の作用効果について説明する。
【0050】
一般的に、偏心型の振動板は、自身を構成する胴体の中心に対して、自身をボイスコイルボビンに取り付ける際に用いられる取付孔の中心が偏心した形状を有するので、取付孔の中心から外縁までの距離が大きい側の胴体部分の有効面積は、取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の胴体部分の有効面積よりも大きい。したがって、かかる振動板では、その取付孔の中心から外縁までの距離が大きい側の胴体部分の重量は、取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の胴体部分の重量よりも大きい。これにより、かかる振動板では、その取付孔の中心から外縁までの距離が大きい側の胴体部分の慣性モーメントが、取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の胴体部分の慣性モーメントより大きくなる。 その結果、かかる偏心型の振動板では、その形状に起因して、その取付孔の中心から外縁までの距離が大きい側の胴体部分の慣性モーメントと、取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の胴体部分の慣性モーメントとのバランスが崩れてしまうことになる。
【0051】
このため、かかる偏心型の振動板の振動時には、その偏心型の振動板自体の慣性モーメントのアンバランスに起因してローリング(横揺れ)が生じ、ボイスコイルボビンやボイスコイルボビンに巻かれたボイスコイル等の振動系部材と磁気回路との機械的な当たりが生じ、これに伴って異常音が発生してしまうという問題がある。
【0052】
そこで、そのような問題を改善するために、例えば、上記の特許文献1及び2では、振動板の取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の振動板の部分に金属製からなるバランサーを設けて、その取付孔の中心から外縁までの距離が大きい側の振動板の部分の慣性モーメントと、取付孔の中心から外縁までの距離が小さい側の振動板の部分の慣性モーメントとのバランスを改善するようにしている。これにより、慣性モーメントのアンバランスが是正されて、ローリングが抑制され、上記した異常音が生じ難くなるとされている。
【0053】
しかしながら、このように偏心型の振動板にバランサーを設けると、その分だけ、偏心型の振動板の重量が増加して、スピーカー装置の感度(特に、高域における感度)が低下してしまうと共に、偏心型の振動板の製品コストが高くなってしまうという問題がある。
【0054】
そこで、本実施例では、このような問題を解消すると共に、偏心した振動板の形状に起因して発生する慣性モーメントのアンバランスを是正して、ローリングを抑制し異常音の発生を防止するために、偏心型の振動板8を構成する積層体8aの重量過多の側に開口を設けて、その積層体8aの重量過多の側の重量を軽くする。なお、本発明において慣性モーメントのアンバランスの改善方法についての考え方は、上記した特許文献1及び2と略同様であるので、それらの特許文献を参照されたい。
【0055】
具体的には、まず、本実施例の偏心型の振動板8は、複数の基材(即ち、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82)を積層してなる積層体8aにより構成され、自身をボイスコイルボビン5に取り付けるための取付孔8cを有すると共に、その積層体8aの中心Oに対して取付孔8cの中心Oが偏心された形状を有し、いわゆる偏心型の振動板を構成している。このように、本実施例の偏心型の振動板8は複数の基材よりなる積層構造を有するため、1つの基材により構成された偏心型の振動板と比較して、当該偏心型の振動板8の強度向上を図ることができる。
【0056】
そして、前記複数の基材のうち少なくとも一つの基材(本例では、第1の基材80)において、その取付孔8cの中心Oから積層体8aの外縁(外周縁部)までの距離が大きい側には開口80aが設けられている。これにより、取付孔8cの中心Oを基準としたときに、積層体8aの重量過多の側、即ち破線矢印Y2方向に対応する積層体8aの部分の重量を軽くすることができる。よって、破線矢印Y2方向に対応する積層体8aの部分の慣性モーメントと、実線矢印Y3方向に対応する積層体8aの部分の慣性モーメントとのアンバランスを改善(是正)することができる。よって、かかる偏心型の振動板8を用いたスピーカー装置100では、その振動時に、ローリング(横揺れ)が生じ難くなり、振動系部材31と磁気回路30との機械的な当たりは生じない。よって、振動系部材31と磁気回路30との機械的な当たりによって生じる異常音が発生するようなことはない。
【0057】
また、積層体8aに開口80aを設けているので、その分だけ、偏心型の振動板8の重量も軽くなり、これに伴ってスピーカー装置100の感度(特に、高域の感度)を向上させることができる。また、このような構成を採用すれば、上記の偏心型の振動板のようにバランサーを設ける必要がなくなるので、その分だけ、偏心型の振動板8の製品コストを下げることができ、ひいてはスピーカー装置100の製品コストを下げることができる。
【0058】
また、本実施例では、偏心型の振動板8の慣性モーメントのアンバランスを改善し易くするため、一般的な慣性モーメントの算術式に基づき、開口80aは、積層体8aを構成する第1の基材80の外周部(例えば、エッジ9と積層体8aとの貼り付け部分付近)に設けられているのが好ましい。好適な例では、開口80aは、積層体8aを構成する第1の基材80の外周部に沿って且つ適宜の間隔をおいて複数設けられているのが好ましい。
【0059】
また、各開口80aの大きさ(面積)は、偏心された積層体8aの形状に起因して生じる積層体8aの慣性モーメントのアンバランスを是正する大きさに設定されているのが好ましい。すなわち、各開口80aの大きさ(面積)は、取付孔8cの中心Oを基準としたときに、その中心Oから積層体8aの外縁(外周縁部)までの距離が最も大きい側の積層体8aの部分の慣性モーメントの大きさと、その中心Oから積層体8aの外縁(外周縁部)までの距離が最も小さい側の積層体8aの部分の慣性モーメントの大きさとが略同一(同一を含む)となる大きさに設定されているのが好ましい。
【0060】
また、積層体8aを構成する複数の基材(本例では、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82)は各々比重が異なる素材にて形成され、偏心型の振動板8の慣性モーメントのアンバランスを是正する役割を果たす開口は、前記複数の基材のうち比重の最も大きい基材に設けられているのが好ましい。これにより、積層体8aに形成する当該開口の大きさ(面積)を小さくすることができる。
【0061】
また、複数の基材ではなく1つの基材により偏心型の振動板が形成され、上記のような機能を有する開口が振動板を貫通している比較例を想定した場合、かかる比較例では、その振動時に貫通孔たる開口から空気が漏れて、放音側に放射された音波と、放音側と逆側に放射された音波とが相互に干渉し合い、スピーカー装置の感度が低下してしまうという問題が生じ得る。
【0062】
この点、本実施例の偏心型の振動板8は、複数の基材、すなわち、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82を積層してなる積層体8aにより構成され、前記複数の基材のうち第1の基材80にのみ開口80aが設けられ、その開口80aは積層体8aを貫通していない構造を有する。よって、偏心型の振動板8の振動時には、上記の比較例のような問題は生じることはなく、その開口80aに起因してスピーカー装置100の感度が低下するようなことはない。なお、かかる構成に代えて、本発明では、そのような問題を改善するために、偏心型の振動板は、複数の基材を積層してなる積層体により構成され、前記複数の基材のうち少なくとも1つの基材に開口が設けられ、その開口は積層体を貫通していない構造としても構わない。
【0063】
[変形例]
上記の実施例では、偏心型の振動板8において、積層体8aを構成する複数の基材(本例では、第1の基材80、第2の基材81及び第3の基材82)のうち、第1の基材80に開口80aを設けるようにした。これに限らず、本発明では、図4(b)に示すように、当該複数の基材のうち第2の基材81に開口81aを設け、或いは、図4(c)に示すように、当該複数の基材のうち第3の基材82に開口82aを設けるようにしても構わない。なお、図4(b)及び図4(c)は、それぞれ、図4(a)に対応する偏心型の振動板8の要部断面図である。また、本発明では、上記したようにスピーカー装置100の感度低下を防止する観点から、そのような開口は積層体8aを貫通していなければよいので、そのような開口は積層体8aを構成する複数の基材のうち少なくとも1つの基材に設けられていればよい。
【0064】
また、上記の実施例では、偏心型の振動板8の慣性モーメントのアンバランスを是正する役割を有する開口は、円形の平面形状となるように形成したが、本発明では、当該開口の形状に限定はない。例えば、本発明では、図5に示すように、意匠性を高めるために、積層体8aを構成する複数の基材のうち、放音面となる基材、即ち、本例では第3の基材82に文字、図形、模様等及びそれらの組み合わせからなるロゴなどの意匠性を有する開口82xを設けるようにしても構わない。また、この場合、その意匠性を有する開口82xは、図5に示すように、積層体8aの中心Oと取付孔8cの中心Oとを通る直線L3に対して対称的な形状となるように形成されているのが好ましい。これにより、偏心型の振動板8xの形状に起因して発生する慣性モーメントのアンバランスを改善できる。
【0065】
また、上記の実施例では、偏心型の振動板8を構成する積層体8aは、第1の基材80、第2の基材81、及び第3の基材82による3層構造を有していたが、これに限らず、本発明では、偏心型の振動板8を構成する積層体は、少なくとも2層構造を有して構成されていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例に係る偏心型の振動板を有するスピーカー装置の断面図を示す。
【図2】本実施例に係る偏心型の振動板の放音面と逆側から観察したときの斜視図を示す。
【図3】本実施例に係る偏心型の振動板の放音面と逆側から観察したときの平面図を示す。
【図4】本実施例に係る偏心型の振動板の開口を通る位置で切断した各種の要部断面図を示す。
【図5】変形例に係る振動板の放音面から観察したときの平面図を示す。
【符号の説明】
【0067】
8 偏心型の振動板
8a 積層体
8b 内周縁部
8c 取付孔
8d 外周部
80 第1の基材
81 第2の基材
82 第3の基材
80a、81a、82a 開口
100 スピーカー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基材を積層してなる積層体により構成され、
ボイスコイルボビンへ取り付けるための取付孔を有すると共に、前記積層体の中心に対して前記取付孔の中心が偏心した形状を有し、
前記複数の基材のうち少なくとも一つの基材において、前記取付孔の前記中心から前記積層体の外縁までの距離が大きい側には開口が設けられ、前記開口は前記積層体を貫通していないことを特徴とする偏心型のスピーカー装置用振動板。
【請求項2】
前記積層体はコーン状の形状を有し、
前記開口は、前記少なくとも一つの基材の外周部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の偏心型のスピーカー装置用振動板。
【請求項3】
前記開口は、前記少なくとも一つの基材の前記外周部に沿って且つ適宜の間隔をおいて複数設けられていることを特徴とする請求項2に記載の偏心型のスピーカー装置用振動板。
【請求項4】
前記開口の大きさは、前記取付孔の前記中心を基準としたときに、前記中心から前記積層体の前記外縁までの距離が最も大きい側の前記積層体の部分の慣性モーメントの大きさと、前記中心から前記積層体の前記外縁までの距離が最も小さい側の前記積層体の部分の慣性モーメントの大きさとが略同一となる大きさに設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の偏心型のスピーカー装置用振動板。
【請求項5】
前記複数の基材は各々比重が異なる素材にて形成され、
前記開口は、前記複数の基材のうち前記比重の最も大きい基材に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の偏心型のスピーカー装置用振動板。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の偏心型のスピーカー装置用振動板と、
ボイスコイルボビンと、を備え、
前記偏心型のスピーカー装置用振動板は、前記取付孔の中心を通る軸と前記ボイスコイルボビンの中心軸とが同軸上に位置するように、前記取付孔を通じて前記ボイスコイルボビンに取り付けられていることを特徴とするスピーカー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−311966(P2007−311966A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137337(P2006−137337)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000221926)東北パイオニア株式会社 (474)
【Fターム(参考)】