説明

偏心揺動型の減速装置

【課題】減速装置が外部から受ける荷重のアンバランスにより、一部の外歯歯車の系列のみが早く劣化するのを防止することができ、結果として、減速装置全体としての寿命をより長く維持する。
【解決手段】第1、第2外歯歯車42、44と、該第1、第2外歯歯車42、44とそれぞれ噛合する第1、第2内歯歯車46、48を有する偏心揺動型の減速装置40において、第1、第2内歯歯車46、48の(第1、第2歯形を構成する要素である)第1、第2ローラ114、124のピッチ円径d3、d4が異なると共に、外径d5、d6が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1において、図4及び図5に示されるような偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この偏心揺動型の減速装置10は、複数の外歯歯車18A、18Bが(単一の)内歯歯車22の半径方向内側で揺動しながら噛合する構成としたものである。外歯歯車18A、18Bを2枚並列に設けているのは、伝達容量の増大および荷重の分散を図り、減速装置10全体としての寿命をより長く維持するためである。
【0004】
入力軸に相当する偏心体軸14が回転すると、偏心体16A、16Bが一体的に回転する。この偏心体16A、16Bの回転により、外歯歯車18A、18Bも偏心体16A、16Bの周りで揺動回転を行い、内歯歯車22に内接噛合する。
【0005】
今、例えば外歯歯車18A、18Bの外歯の歯数をN、内歯歯車22の内歯(外ピン34)の歯数をN+1とした場合、その歯数差は「1」である。そのため、偏心体軸14が1回回転する毎に、外歯歯車18A、18Bはケーシング20に固定された内歯歯車22に対して1歯分だけずれる(自転する)ことになる。これは、偏心体軸14の1回転が外歯歯車18A、18Bの−1/Nの回転に減速されたことを意味する。なお、−の符号は回転方向が逆になっていることを示している。
【0006】
外歯歯車18A、18Bの揺動回転は、内ピン26及び内ピン孔36A、36Bの隙間によってその揺動成分が吸収され、自転成分のみが該内ピン26を介してキャリヤ体24Aおよびフランジ体24Bに伝達され、更に、フランジ体24Bと一体化されている出力軸へと伝達される。なお、偏心体軸14は、内歯歯車22の軸心位置(減速装置10の半径方向中央)において軸受34A、34Bによって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−304020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような偏心揺動型の減速装置は、産業用のロボットや生産機械等の分野において、広く適用されている。そのため、適用の態様によっては、複数の外歯歯車および内歯歯車の噛合部に対して掛かる荷重が必ずしも均一ではなく、一部の系列の噛合部が、他の系列の噛合部よりも「耐荷重」の点で、より過酷な状態に置かれる場合がある。
【0009】
そのため、従来の偏心揺動型の減速装置にあっては、荷重条件の厳しい系列の噛合部のみが早く劣化してしまうことがあるという問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであって、各系列の耐荷重特性を適正化し、一部の系列の噛合部のみが早く劣化するのを防止することにより、結果として減速装置全体としての寿命をより長く維持することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の外歯歯車と、該外歯歯車とそれぞれ噛合する複数の内歯歯車を有する偏心揺動型の減速装置において、前記内歯歯車のうち、少なくとも二つの内歯歯車の歯形が異なる構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0012】
本発明においては、減速装置の適用の態様によって各外歯歯車の系列に現に掛かる荷重が異なってしまうのを不可避的なものとして認識し、内歯歯車の歯形(およびこれに対応する外歯歯車の歯形)を異ならせることでこの荷重のアンバランスに対応させることとした。
【0013】
なお、本発明において、「内歯歯車の歯形が異なる」という概念には、「内歯歯車の軸と直角の断面の形状が異なる」場合と、「内歯のピッチ円径が異なる」場合の双方が含まれるものとする。また、本発明においては、各外歯歯車は、「内歯歯車と噛合する」ものであるため、当該噛合する内歯歯車の歯形の変更に対応して相応に変更されることを前提としている。
【0014】
これにより、より荷重が掛かる側の外歯歯車の系列の耐荷重特性を相対的により向上させることができ、各系列の耐荷重特性をバランスさせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、減速装置が外部から受ける荷重のアンバランスにより、一部の外歯歯車の系列のみが早く劣化するのを防止することができ、結果として、減速装置全体としての寿命をより長く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る偏心揺動型の減速装置の実施形態の一例を示す要部断面図
【図2】上記減速装置の全体断面図
【図3】上記実施形態の変形例を示す第1、第2内歯ピンの模式図
【図4】従来の偏心揺動型の減速装置の全体断面図
【図5】図4の矢視V−V線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る偏心揺動型の減速装置の実施形態の一例を示す要部断面図、図2は該減速装置の全体断面図である。
【0019】
主に、図2を参照して、この偏心揺動型の減速装置40は、第1、第2外歯歯車42、44と、該第1、第2外歯歯車42、44と噛合する第1、第2内歯歯車46、48とを有する。
【0020】
始めに、該偏心揺動型の減速装置40の概略から説明する。
【0021】
入力軸を兼ねる偏心体軸50は、図示せぬモータと連結されている。偏心体軸50は、第1、第2内歯歯車46、48の半径方向中央(軸心O1、O2の位置)に位置している。偏心体軸50には第1、第2偏心体52、54が一体的に形成されている。第1、第2偏心体52、54の外周には、それぞれ第1、第2ころ軸受56、58を介して2枚の第1、第2外歯歯車42、44が組み込まれている。第1、第2偏心体52、54の位相は、180度ずれているため、第1、第2外歯歯車42、44は、互いに離反する方向に偏心している。
【0022】
第1、第2外歯歯車42、44は、後に詳述する第1、第2内歯歯車46、48の第1、第2内歯64、66に対応したトロコイド歯形の第1、第2外歯60、62をそれぞれ有している。
【0023】
この実施形態では、第1内歯64と第2内歯66は異なっているため、該第1内歯64と第2内歯66にそれぞれ対応している第1外歯60と第2外歯62も、同一ではない。
【0024】
第1、第2外歯歯車42、44の第1、第2外歯60、62の数は、この実施形態では、共にNであり、第1、第2内歯歯車46、48の第1、第2内歯64、66の数(共にN+1)よりも、1だけ小さい。
【0025】
第1、第2外歯歯車42、44には、該第1、第2外歯歯車42、44の軸心位置O3、O4からオフセットした位置に複数の第1、第2内ローラ孔68、69が円周方向に等間隔にそれぞれ形成されている。第1、第2内ローラ孔68、69には、複数の内ピン70が摺動促進用の内ローラ72とともに隙間を有してそれぞれ貫通している。
【0026】
各内ピン70はフランジ体74と一体化されている。また、各内ピン70は、ボルト76を介してキャリヤ体78と連結され、フランジ体74およびキャリヤ体78を一体化している。一体化されたフランジ体74およびキャリヤ体78は、大きな出力ブロック80を形成し、一対のアンギュラ玉軸受82、84を介してケーシング90に支持されている。前記偏心体軸50は、このフランジ体74およびキャリヤ体78に一対の玉軸受86、88を介して支持されている。
【0027】
この実施形態では、ケーシング90が取り付け孔92を利用して図示せぬボルトにより外部の固定体(図示略)と連結され、固定されている。また、フランジ体74は、被駆動体であるプーリ94とボルト96を介して連結されており、該フランジ体74が回転することでプーリ94を回転させることができる。
【0028】
ここで、第1、第2内歯歯車46、48の構成について詳細に説明する。
【0029】
図1を参照して、本実施形態に掛かる第1内歯歯車46は、第1支持ピン112、該第1支持ピン112の外周に回転自在に被せられ、第1内歯歯車46の実質的な第1内歯64を構成する第1ローラ114、前記第1支持ピン112を回転自在に支持する第1内歯歯車本体116とから構成されている。
【0030】
第2内歯歯車48は、第2支持ピン122、該第2支持ピン122の外周に回転自在に被せられ、第2内歯歯車48の実質的な第2内歯66を構成する第2ローラ124、該第2支持ピン122を回転自在に支持する第2内歯歯車本体126とから構成されている。
【0031】
第1内歯歯車本体116と第2内歯歯車本体126は、この実施形態では一体化されており、さらに、ケーシング90と一体化されている。なお、第1外歯歯車42と第2外歯歯車44の歯数は同一であり、第1内歯歯車46と第2内歯歯車48の歯数も同一である。すなわち、第1外歯歯車42および第1内歯歯車46の系列と、第2外歯歯車44および第2内歯歯車48の系列の減速比は、それぞれ同一である。
【0032】
前記第1、第2支持ピン112、122は、円柱状の中実ピンで構成されている。第1支持ピン112の外径d1は、第2支持ピン122の外径d2よりも大きい(d1>d2)。第1、第2支持ピン112、122は、第1、第2内歯歯車本体116、126にそれぞれ形成された第1、第2支持ピン溝118、128に回転自在に支持されている。
【0033】
第1内歯歯車本体116の内径D1と第2内歯歯車本体126の内径D2は同一である(D1=D2)。しかしながら、第1内歯歯車本体116の第1支持ピン溝118の深さD3は、第2内歯歯車本体126の第2支持ピン溝128の深さD4よりも深く形成されている(D3>D4)。
【0034】
第1ローラ114のピッチ円径(=第1内歯64のピッチ円径=第1支持ピン112のピッチ円径)d3は、第2ローラ124のピッチ円径(=第2内歯66のピッチ円径=第2支持ピン122のピッチ円径)d4よりも大きい(d3>d4)。第1ローラ114の外径(=第1内歯64の歯形の大きさ)d5も、第2ローラ124の外径(=第2内歯66の歯形の大きさ)d6よりも大きい(d5>d6)。第1ローラ114の軸方向長(=第1内歯64の歯幅)L3は、第2ローラ124の軸方向長(=第2内歯66の歯幅)L4と同一である(L3=L4)。
【0035】
また、この実施形態では、第1ローラ114の最内径を結んだ円の径(第1内歯の歯先円径)d7は、第2ローラ124の最内径を結んだ円の径(第2内歯の歯先円径)d8より僅かだけ大きい(d7>d8)。
【0036】
第1外歯歯車42の第1外歯60、および第2外歯歯車44の第2外歯62は、それぞれ第1ローラ114のピッチ円径d3および外径d5、第2ローラ124のピッチ円径d4および外径d6に対応して定まるトロコイド歯形とされている。
【0037】
すなわち、第1外歯歯車42と第2外歯歯車44の形状および寸法は異なっている。例えば、第1外歯歯車42の方が、第2外歯歯車44よりも歯先円径やピッチ円径が大きい。
【0038】
次に、この偏心揺動型の減速装置40の作用を説明する。
【0039】
図1に戻って、この偏心揺動型の減速装置40では、図示せぬモータが回転すると、入力軸に相当する偏心体軸50が回転し、該偏心体軸50と一体化されている第1、第2偏心体52、54が回転する。第1、第2偏心体52、54が回転すると、第1、第2ころ軸受56、58を介して第1、第2外歯歯車42、44が、揺動回転を行いながら第1、第2内歯歯車46、48にそれぞれ内接噛合する。第1、第2内歯歯車46、48は、それぞれの内歯歯車本体116、126が、ケーシング90と一体化されて外部部材に固定されているため、この内接噛合により、偏心体軸50が1回回転するごとに、第1、第2外歯歯車42、44は、第1、第2内歯歯車46、48に対しそれぞれ歯数差に相当する「1歯」分だけ位相がずれる(自転する)。なお、第1、第2外歯歯車42、44と第1、第2内歯歯車46、48の歯数は、それぞれ同一に設定されているため、第1外歯歯車42と第2外歯歯車44は、同一の速度で回転し、相互の位相が180度からずれることはない(第1外歯歯車42と第2外歯歯車44は、常に互いに離反する方向に偏心した状態を維持しながら回転する)。
【0040】
第1、第2外歯歯車42、44の第1、第2内歯歯車46、48に対する自転は、内ピン70(および内ローラ72)を介してフランジ体74(およびキャリヤ体78)に伝達され、フランジ体74を−1/Nに減速した速度で回転させる(マイナスの符号は偏心体軸50と逆方向の回転を意味している)。なお、第1、第2外歯歯車42、44の揺動成分は、内ローラ72と第1、第2内ローラ孔68、69との間に形成された隙間によって吸収される。
【0041】
フランジ体74の回転は、該フランジ体74にボルト96を介して連結されたプーリ94に伝達され、これにより、該プーリ94に巻回されたベルト(図示略)が駆動される。
【0042】
ここで、プーリ94は、ベルトを駆動するときに、ベルト側からラジアル方向の荷重を受ける。このプーリ94に掛かる荷重は、フランジ体74を介して偏心揺動型の減速装置40に入力されてくる。この結果、配置位置の関係で、よりプーリ94に近い第1外歯歯車42および第1内歯歯車46の第1噛合部E1の方が、プーリ94に作用する荷重により各部材が変形することによって第2外歯歯車44および第2内歯歯車48の第2噛合部E2よりも強い荷重を受ける。
【0043】
しかしながら、本実施形態においては、第1ローラ114のピッチ円径d3が、第2ローラ124のピッチ円径d4よりも大きく形成されている。また、第1ローラ(第1内歯)114の歯先円径d7は、第2ローラ(第2内歯)124の歯先円径d8よりも大きい。
【0044】
一般に、本実施形態を含め、偏心揺動型の減速装置の場合、常に複数の外歯と内歯が同時に噛合しており、噛合している各歯同士の噛合位置は一律ではないが、噛合部の半径方向位置は、概ね内歯のピッチ円径と歯先円径のほぼ中央付近である。本実施形態に当て嵌めると、第1内歯歯車46の軸心O1から、第1ローラ114と第1外歯歯車42との第1噛合部E1までの噛合部半径R1は、第2内歯歯車48の軸心O2(=O1)から第2ローラ124と第2外歯歯車44との第2噛合部E2までの噛合部半径R2よりも大きい(R1>R2)。
【0045】
このため、第1外歯歯車42および第1内歯歯車46の第1噛合部E1は、第2外歯歯車44および第2内歯歯車48の第2噛合部E2よりも、耐荷重特性上優位となり、第1外歯歯車42および第1内歯歯車46の系列の耐荷重特性と第2外歯歯車44および第2内歯歯車48の系列の耐荷重特性がより均一化され、第1外歯歯車42および第1内歯歯車46の系列の第1噛合部E1のみが先に劣化或いは傷損するのが防止される。したがって、結果として、減速装置40全体の寿命を増大することができる。
【0046】
本実施形態においては、第1ローラ114のピッチ円径d3および外径d5より第2ローラ124のピッチ円径d4および外径d6が小さく設定されているため、仮に第2ローラ124側を第1ローラ114と同一程度に大きく形成した場合と比べて、第2ローラ124の近傍でケーシング90の取り付け孔92までの距離(厚さ)t1を十分に確保することができている。すなわち、第1、第2外歯歯車42、44の荷重配分の均一化とケーシング90の各部の強度増強とを合理的にバランスさせていると見ることもできる。
【0047】
図3は、上記実施形態の代表的な変形例を模式的に示したものである。
【0048】
いずれも、内歯歯車の内歯を円柱状の第1、第2内歯ピンで構成したときの例を示しており、便宜上第1、第2ローラは省略してある。第1、第2ローラを備える場合には、それぞれ第1、第2ローラを第1、第2内歯ピンと置き換えて捉えればよい。図3の各例の左側が第1内歯ピン(第1内歯)、右側が第2内歯ピン(第2内歯)であり、第1内歯ピンの方が、荷重のより掛かる側、すなわち荷重負担をより軽減すべき側に相当している。
【0049】
図3(A)の例は、第1内歯ピン(第1内歯)151のピッチ円径d11が、第2内歯ピン(第2内歯)152のピッチ円径d12よりもδa1だけ大きく(d11>d12)、かつ、第1内歯ピン151の外径d13は、第2内歯ピン152の外径d14と等しい(d13=d14)。
【0050】
本発明では、このような(第1内歯ピン151と第2内歯ピン152の外径d13、d14が等しい場合であっても)ピッチ円径d11、d12が異なるような場合は、「歯形が異なっている」という概念に含まれる。
【0051】
この図3(A)の例の場合、第1外歯歯車42側の噛合部Ea1の噛合部半径Ra1が第2外歯歯車44側の噛合部Ea2の噛合部半径Ra2より大きいため(Ra1>Ra2)、図3(A)の左側の第1内歯ピン151の方が耐荷重的に優位になる傾向となる。
【0052】
図3(B)の例は、第1内歯ピン161のピッチ円径d21と第2内歯ピン162のピッチ円径d22は等しいが(d21=d22)、第1内歯ピン161の外径d23が第2内歯ピン162の外径d24よりも小さく(d23<d24)、第1内歯ピン161の歯先円径d25が第2内歯ピン162の歯先円径d26よりδb1だけ大きい(d25>d26)。このため、図3(B)の場合は、第1内歯ピン161の歯形自体の強度は、第2内歯ピン162より厳しくなるが、「噛合部での耐荷重」という観点では、図3(B)の場合も、第1外歯歯車42側の噛合部Eb1の噛合部半径Rb1が、第2外歯歯車44側の噛合部Eb2の噛合部半径Rb2よりも大きくなるため(Rb1>Rb2)、やはり図3(B)の左側の第1内歯ピン161の方が耐荷重的に優位になる傾向となる。
【0053】
図3(B)の例の場合、第1内歯ピン161側のケーシングの肉厚に余裕ができるため、「ケーシングの耐荷重」という点でも、第1内歯ピン161側の方が優位になる傾向となる。
【0054】
図3(C)の例は、第1内歯ピン171の歯先円径d31と第2内歯ピン172の歯先円径d32が等しく(d31=d32)、第1内歯ピン171の外径d33が第2内歯ピン172の外径d34よりも大きい例が示されている(d33>d34)。この場合、第1内歯ピン171のピッチ円径d35の方が第2内歯ピン172のピッチ円径d36よりもδc1だけ大きくなる(d35>d36)。
【0055】
したがって、図3(C)の場合も、第1噛合部Ec1の噛合部半径Rc1が、第2噛合部Ec2の噛合部半径Rc2よりも大きくなるため(Rc1>Rc2)、図3(C)の左側の第1内歯ピン171の方が耐荷重的に優位になる傾向となる。
【0056】
図3(A)〜(C)の場合も、各内歯(ピン)に噛合う外歯歯車は、各内歯に対応したトロコイド歯形となり、その結果、形状寸法の異なるものとなる。
【0057】
実際の適用に当たっては、先の実施形態の例に示されるように、これらの要素を融合、あるいは組み合わせた態様とすることができる。
【0058】
なお、第1内歯歯車と第2内歯歯車とで、内歯ピンの大きさ(外径)を変える方法としては、例えば、第1内歯歯車の方にだけ第1支持ピンに第1ローラを被せ、第2内歯歯車の方は、(第2ローラを被せずに)第2支持ピンのみとする構成を採用してもよい。この場合は、第1内歯歯車の方が、第1ローラの回転抵抗を(第2ローラのない第2内歯歯車側の第2支持ピンの回転抵抗よりも)減じることができるため、結果として、耐荷重についても良好な結果が得られる。
【0059】
尤も、本発明は、内歯歯車の内歯を円柱状のピンとせず、内歯歯車本体と一体化された「ソリッドタイプ」の内歯で構成する場合にも適用することができ、同様な作用効果を得ることができる。
【0060】
また、図示はしないが、「外歯歯車の耐荷重」については、偏心体と外歯歯車との間の偏心体軸受(先の実施形態では第1、第2ころ軸受56、58)について同様の観点の設計をするとよい。偏心体軸受の転動体のピッチ円径が大きい程、また、転動体の外径が大きい程、耐荷重に余裕が生じる。したがって荷重負担の大小を考慮し、荷重負担の大きい方(内歯歯車のピッチ円径を大きくした方、或いは歯先円径を大きくした方)について、偏心体軸受の外径またはピッチ円径の少なくとも一方を大きくする構成を合わせて採用するようにすると、耐荷重の均一性に関して、より一層有効な構成とすることができる。
【0061】
なお、上記実施形態においては、偏心体軸が内歯歯車の軸心位置に配置された、いわゆるセンタクランク型の偏心揺動型の減速装置に本発明を適用していたが、本発明は、どのような構成で外歯歯車を揺動させるかについては、特に限定されない。例えば、内歯歯車の軸心からオフセットされた位置に複数の偏心体軸を備え、各偏心体軸が同時に同方向に回転することによって外歯歯車を揺動回転させる、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型の減速装置であってもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては内歯歯車(ケーシング)が固定され、外歯歯車が回転することによって出力が取り出される減速装置が採用されていたが、外歯歯車の自転を拘束し、内歯歯車が回転する枠回転タイプの減速装置にも本発明を提供することができる。
【0063】
更には、内歯歯車側が外歯歯車に対して相対的に揺動する内歯揺動タイプの偏心揺動型の減速装置にも適用可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、フランジ体に被駆動側のプーリが連結される偏心揺動型の減速装置が示されていたが、本発明の適用は、このような例に限定されるものではなく、軸方向で掛かる荷重が異なり、各外歯歯車の系列間で荷重負担に差が生じるような状況において、同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
40…偏心揺動型の減速装置
42…第1外歯歯車
44…第2外歯歯車
46…第1内歯歯車
48…第2内歯歯車
50…偏心体軸(入力軸)
52…第1偏心体
54…第2偏心体
56…第1ころ軸受
58…第2ころ軸受
60…第1外歯
62…第2外歯
90…ケーシング
112…第1支持ピン
114…第1ローラ
116…第1内歯歯車本体
122…第2支持ピン
124…第2ローラ
126…第2内歯歯車本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外歯歯車と、該外歯歯車とそれぞれ噛合する複数の内歯歯車を有する偏心揺動型の減速装置において、
前記内歯歯車のうち、少なくとも二つの内歯歯車の歯形が異なる
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記歯形が異なる内歯歯車は、それぞれのピッチ円径が異なっている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記歯形が異なる内歯歯車は、それぞれの歯先円径が異なっている
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記複数の外歯歯車は、それぞれ偏心体軸受に外嵌されており、
前記内歯歯車のピッチ円径が大きい方の前記偏心体軸受の転動体の径またはピッチ円径の少なくとも一方が大きい
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記複数の外歯歯車は、それぞれ偏心体軸受に外嵌されており、
前記内歯歯車の歯先円径が大きい方の前記偏心体軸受の転動体の径またはピッチ円径の少なくとも一方が大きい
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−44400(P2013−44400A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182969(P2011−182969)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】