説明

偏波分離素子および光集積素子

【課題】動作波長帯域が広い偏波分離素子および光集積素子を提供すること。
【解決手段】基板上に形成される光導波路型の偏波分離素子であって、入力光分波部と、出力光合波部と、前記入力光分波部と前記出力光合波部とを接続する、複屈折性を有する光導波から構成される第1アーム導波路および第2アーム導波路と、前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路のそれぞれの上方に形成された1つ以上の加熱部と、を備え、前記第2アーム導波路の幾何学的長さは、前記第1アーム導波路に複屈折性を付与するために前記加熱部が加熱を施した場合に該第1アーム導波路に生じる光路長の増加量に対応する程度以下だけ、前記第1アーム導波路の幾何学的長さよりも長い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成される光導波路型の偏波分離素子およびこれを用いた光集積素子に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成される平面光波回路(Planar Lightwave Circuit:PLC)にて光導波路型の偏波分離素子を実現するために、光導波路にてマッハツェンダー(Mach-Zehnder Interferometer:MZI)干渉計を構成し、その2つのアーム導波路にアーム導波路間での複屈折の差を付与する方法がある。複屈折は、光導波路のTE偏波とTM偏波のそれぞれに対する屈折率値の差のことである。アーム導波路はもともと複屈折を有するが、さらに複屈折の差を付与することによって偏波分離素子が実現される。
【0003】
アーム導波路間での複屈折の差を付与する方法としては、各アーム導波路で光導波路の幅を変える方法(たとえば非特許文献1)や、マイクロヒータによってアーム導波路を加熱して複屈折を付与する、いわゆる熱トリミングと呼ばれる方法(たとえば非特許文献2、特許文献1〜3)等、様々な方法が知られている。これらの方法の中で熱トリミングが最も実用的である。また、熱トリミングの場合は、マイクロヒータへの印可電流の値を調整することで、複屈折だけでなくアーム導波路間の位相調整も可能である。
【0004】
このような偏波分離素子は、たとえば同一基板上に90度ハイブリッド素子とともに集積され、偏波多重四値位相変調(DP−QPSK:Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)方式などのコヒーレント変調方式における復調器に使用されるコヒーレントミキサ等に利用される(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2599488号公報
【特許文献2】特許第3275758号公報
【特許文献3】特許第3961348号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Hashizume et al., “Integrated polarisation beam splitter using waveguide birefringence dependence on waveguide core width,” Electronics Letters, Vol.37, No.25, p.1517 (2001).
【非特許文献2】M. Abe et al., “Optical path length trimming technique using thin film heaters for silica-based waveguide on Si,” Electronics Letters, Vol.32, No.19, p.1818 (1996).
【非特許文献3】Sakamaki et al., “One-chip integrated dual polarization optical hybrid using silica-based planar lightwave circuit technology”Proc. of ECOC2009, paper 2.2.4.
【非特許文献4】K. Jinguji et al., “Two-Port Optical Wavelength Circuits Composed of Cascaded Mach-Zehnder Interferometers with Point-Symmetrical Configurations,” Journal of Lightwave Technology, Vol.14, p.2301 (1996).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、偏波分離素子を構成するMZI干渉計の一方のアーム導波路(第1アーム導波路とする)を加熱し、第1アーム導波路の複屈折を大きくするような調整を行うと、同時に第1アーム導波路の実効屈折率も高くなってしまう。これによって、第1アーム導波路ともう一方の第2アーム導波路との実効的な光路長に大きな差が発生し、MZI干渉計のFSR(Free Spectral Range)が小さくなる。その結果、偏波分離素子の動作波長帯域が狭帯域化するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、動作波長帯域が広い偏波分離素子および光集積素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る偏波分離素子は、基板上に形成される光導波路型の偏波分離素子であって、入力光分波部と、出力光合波部と、前記入力光分波部と前記出力光合波部とを接続する、複屈折性を有する光導波から構成される第1アーム導波路および第2アーム導波路と、前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路のそれぞれの上方に形成された1つ以上の加熱部と、を備え、前記第2アーム導波路の幾何学的長さは、前記第1アーム導波路に複屈折性を付与するために前記加熱部が加熱を施した場合に該第1アーム導波路に生じる光路長の増加量に対応する程度以下だけ、前記第1アーム導波路の幾何学的長さよりも長いことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光集積素子は、上記発明の偏波分離素子と、前記偏波分離素子に接続した2つの光導波路型の90度ハイブリッド素子と、が同一基板上に集積されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動作波長帯域が広い偏波分離素子および光集積素子を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施の形態1に係る偏波分離素子の模式的な平面図である。
【図2】図2は、図1に示す偏波分離素子のX−X線断面図である。
【図3】図3は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。
【図4】図4は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。
【図5】図5は、第1アーム導波路に対するトリミング時間と第1アーム導波路の屈折率との関係を示す図である。
【図6】図6は、実施の形態2に係る偏波分離素子の模式的な平面図である。
【図7】図7は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。
【図8】図8は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。
【図9】図9は、実施の形態3に係る光集積素子の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明に係る偏波分離素子および光集積素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合がことに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0014】
(実施の形態1)
はじめに、本発明の実施の形態1に係る偏波分離素子について説明する。図1は、実施の形態1に係る偏波分離素子の模式的な平面図である。図1に示すように、偏波分離素子10は、入力光分波部1と、出力光合波部2と、入力光分波部1と出力光合波部2とを接続する第1アーム導波路3および第2アーム導波路4と、第1アーム導波路3の上方に形成された第1加熱部であるトリミング用ヒータ5aと、第2アーム導波路4の上方に形成された第2加熱部であるトリミング用ヒータ6aと、を備えている。偏波分離素子10はMZI干渉計で構成されている。
【0015】
入力光分波部1は、Y分岐導波路で構成されており、入力ポートから入力された光L1を2分岐して第1アーム導波路3および第2アーム導波路4のそれぞれに入力する。
【0016】
出力光合波部2は、光導波路型で2入力2出力型の方向性結合器で構成されており、第1アーム導波路3および第2アーム導波路4のそれぞれを伝搬した光が入力されると、これらの光を合波してその出力ポートPout1、Pout2から出力する。
【0017】
図2は、図1に示す偏波分離素子10のX−X線断面図である。図2に示すように、第1アーム導波路3、第2アーム導波路4は、シリコンなどの基板11上に形成された石英系ガラスからなるクラッド層12内に、クラッド層12よりも屈折率が高いコア部を形成することによって構成されている。なお、入力光分波部1および出力光合波部2も同様に、クラッド層12層内にコア部を形成することによって構成されている。
【0018】
トリミング用ヒータ5a、6aは、たとえばタンタル(Ta)系材料などのヒータ材料からなる薄膜ヒータである。トリミング用ヒータ5a、6aはクラッド層12上に形成されている。
【0019】
なお、偏波分離素子10の各光導波路を構成するコア部の断面のサイズは、たとえば6μm×6μmである。クラッド層12に対するコア部の比屈折率差はたとえば0.75%である。第1アーム導波路3と第2アーム導波路4との距離はたとえば250μmである。トリミング用ヒータ5a、6aのサイズは、たとえば厚さが0.1μm、幅が40μmである。また、アーム導波路3、4の断面構造(サイズおよ実効屈折率)は、光導波方向にわたって略同一である。
【0020】
この偏波分離素子10では、第2アーム導波路4の幾何学的長さが、第1アーム導波路3の幾何学的長さよりも長くなっている。これについては後で詳述する。
【0021】
つぎに、偏波分離素子10の特性について説明する。偏波分離素子10の入力光分波部1に入力される光L1の光強度をP、第2アーム導波路4を伝搬した光に対する第1アーム導波路3を伝搬した光の位相遅れの量(位相差)をΔφ、出力光合波部2の結合効率をkとする。すると、出力光合波部2の出力ポートPout1、Pout2から得られる出力光の強度P、Pはそれぞれ式(11)、(12)で表すことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで議論を簡単にするために、結合効率kを0.5とすると、式(11)、(12)は、以下の式(11a)、(12a)となる。
【0024】
【数2】


なお、kを0.5に設定したとしても、議論の一般性は失われない。
【0025】
図3は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。図4は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。図3、4から、たとえば以下の式(13)、(14)に示す位相差Δφの条件が満たされる場合に、偏波分離素子10は、出力ポートPout1からTM偏波成分の光を出力し、出力ポートPout2からTE偏波成分の光を出力する偏波分離素子として機能する。なお、ΔφTMはTM偏波に対する位相差を意味し、ΔφTEはTE偏波に対する位相差を意味する。
【0026】
【数3】

【0027】
ここで、各偏波状態に対するΔφを設定するにあたって、式(13)、(14)を満たすΔφに2πの整数倍を加算した値に設定しても偏波分離素子として機能する。ただし、Δφの絶対値が大きくなるにつれて、MZI干渉計のFSRが小さくなり、結果として偏波分離素子の動作波長帯域が狭帯域化するため好ましくない。よって、図1に示す偏波分離素子10において、式(13)、(14)を満たすように各偏波状態に対するΔφを±π/2のいずれかに設定すれば、動作波長帯域を最も広帯域化することができるので好適である。
【0028】
偏波分離素子10を作製する際には、式(13)、(14)を満たすためにトリミング用ヒータ5aにて第1アーム導波路3に複屈折を付与するトリミングを行うことが好ましい。第1アーム導波路3においてトリミングの効果が及ぶ(すなわち複屈折が付与される)部分の長さと、その部分の長さ方向での実効屈折率(以下、単に屈折率と記載した場合には実効屈折率を意味する)の平均値とをそれぞれL、nとし、第2アーム導波路4においてトリミングの効果が及ぶ部分の長さと、その部分での屈折率の平均値とをそれぞれL、nとし、入力される光L1の波長をλとすると、位相差Δφは以下の式(15)で表される。
【0029】
【数4】

【0030】
なお、第1アーム導波路3においてトリミングの効果が及ぶ部分の長さLは、トリミング用ヒータ5aの長さに略等しい。また、第2アーム導波路4においてトリミングの効果が及ぶ部分の長さLは、トリミング用ヒータ6aの長さに略等しい。
【0031】
式(15)に式(13)、(14)で与えられる条件を適用すると、TEおよびTMの各偏波成分に対する位相差Δφは以下の式(13a)、(14a)で表される。なお、niTEおよびniTM(i=1,2)は、それぞれTEおよびTMの各偏波成分の光に対するnの値を意味する。
【0032】
【数5】

【0033】
上記式(13a)、(14a)から、第1アーム導波路3および第2アーム導波路4の各光導波路の複屈折B=niTM−niTEと、TEおよびTMの各偏波成分に対する屈折率の偏波間平均値niAve=(niTM+niTE)/2について、偏波分離素子10が機能する際に第1アーム導波路3と第2アーム導波路4との間での満たすべき関係式は、以下の式(16)、(17)になる。
【0034】
【数6】

【0035】
すなわち、上記式(16)、(17)を満たすようにトリミングを行うことによって、偏波分離素子10は所望の偏波分離機能を有するものになる。なお、式(16)、(17)においてL=L=Lの場合は、第1アーム導波路3の複屈折Bを第2アーム導波路4の複屈折Bよりもλ/(2L)だけ大きくし、一方でTEおよびTMの各偏波成分の屈折率の平均値を等しくするようなトリミングを実施すればよい。
【0036】
たとえば、L=L=L=4mm、λ=1.55μmとすると、ΔB=(B−B)=λ/(2L)=1.9375×10−4である。そこで、第1アーム導波路3のトリミング用ヒータ5aに電流を印可し、第1アーム導波路3の複屈折値が第2アーム導波路4の複屈折値よりもΔB=1.9375×10−4だけ大きくなるように、トリミングを行う。
【0037】
ところで、光導波路にトリミングを施すと、トリミング時間が長くなるにつれてその複屈折率が大きくなるが、それとともに屈折率も高くなる。たとえば、図5は、第1アーム導波路3に対するトリミング時間と第1アーム導波路3の屈折率との関係を示す図である。ここで、線L10はTE偏波成分に対する屈折率n1TEを示し、線L11はTM偏波成分に対する屈折率n1TMを示し、線L12はn1TEとn1TMとに対する屈折率の偏波間平均値niAve=(niTM+niTE)/2を示している。また、複屈折Bはトリミング時間tでの複屈折B=n1TM−n1TEを示している。
【0038】
図5に示すように、トリミング時間が長くなるにつれてその複屈折率Bが大きくなるが、それとともに屈折率n1TE、n1TM、および偏波間平均値niAveも高くなる。一例として、本発明者らが実測値から見出したn1Aveの増大量はδn=4×10−4である。
【0039】
このように第1アーム導波路3の屈折率が高くなると、第1アーム導波路3と第2アーム導波路4との実効的な光路長に大きな差が発生する場合がある。このように大きな光路長差が発生すると、位相差Δφの絶対値が大きくなるため、動作波長帯域が広い偏波分離素子を実現する上では好ましくない。
【0040】
また、この位相差Δφの絶対値を小さくするために第2アーム導波路4の屈折率を高めるトリミングを行っても良い。しかし、第2アーム導波路4のトリミングを行うと、第1アーム導波路3のトリミングによって実現したΔBが小さくなってしまうことがある。その結果、偏波分離特性が低下するので好ましくない。または、ΔBが小さくなることを考慮して第1アーム導波路3のトリミングを行われなければならないので設計が煩雑になり好ましくない。
【0041】
これに対して、本実施の形態1に係る偏波分離素子10では、上述したように、第2アーム導波路4の幾何学的長さが、第1アーム導波路3の幾何学的長さよりも長くなっている。具体的には、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、第1アーム導波路3をトリミングした場合に生じる第1アーム導波路3の光路長の増加量に対応する程度だけ、第1アーム導波路3よりも長くなっている。このように、第2アーム導波路4の幾何学的長さは予め第1アーム導波路3の光路長の増加量に対応する程度だけ長くなっているので、トリミング後の第1アーム導波路3と第2アーム導波路4との実効的な光路長に大きな差は発生せず、位相差Δφも小さくなる。その結果、偏波分離素子10は動作波長帯域が広い偏波分離素子となる。
【0042】
たとえば、トリミングの前における第1アーム導波路3および第2アーム導波路4でのTE偏波とTM偏波とに対する実効屈折率の偏波間平均値をそれぞれn1Ave0、n2Ave0とし、第1アーム導波路3にトリミングを施した場合の屈折率の偏波間平均値の増加量をδnとすると、第2アーム導波路4の幾何学的長さと第1アーム導波路3の幾何学的長さとの差δLは、下記式(18)を満たすように設定されることが好ましい。また、L=L=Lであり、かつn1Ave0=n2Ave0の場合は、式(18)は式(18a)となる。
【0043】
【数7】

【0044】
一例として、n2Ave0=1.45、L=4mm、δn=4×10−4とすると、δL=1.103μmである。この長さは、光波の一波長分に相当する長さであるλ/n2Ave0=1.069μmよりも長く、位相差にして2π以上の大きな値である。また、アーム導波路の幾何学的な長さに関する一般的な製造誤差である0.1μm程度よりも10倍以上長いものである。また、本発明の効果を奏するためには、δLとしては、一般的な製造誤差の3倍以上であるたとえば0.3μm以上とすることが好ましい。
【0045】
なお、上記の長さの差δLを算出し、第2アーム導波路4の幾何学的な長さの設計に適用するためには、第1アーム導波路3にトリミングを施した場合の屈折率の平均値の増加量δnの値が必要である。この増加量δnについては予備実験等によってデータを取得したり、理論的に導出したりして求めればよい。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態1に係る偏波分離素子10は、動作波長帯域が広いものとなる。
【0047】
なお、本実施の形態1では、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、第1アーム導波路3をトリミングした場合に生じる第1アーム導波路3の光路長の増加量に対応する程度だけ、第1アーム導波路3よりも長くなっている。しかし、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、これよりも短くても良い。たとえば式(18)、(18a)は等式であるが、長さの差δLは式(18)、(18a)を満たす値よりも短くても良い。この場合は、長さの差δLを設けたことによっては位相差Δφの絶対値を十分には小さくできない場合があるため第2アーム導波路4のトリミングを行うことが好ましい。この場合のトリミング量は長さの差δLを設けない場合よりも小さくてよいため、偏波分離機能の低下は抑制され、または設計の煩雑さが軽減されるので好ましい。
【0048】
つぎに、第1アーム導波路3の複屈折を増大させるトリミングを実施する前の段階で、第2アーム導波路4の光路長補正が及ぼす影響について考える。n1Ave0=n2Ave0=nとおき、L=L、L=L+δLとすると、式(15)の位相差Δφは式(15b)のようになる。
【0049】
【数8】

【0050】
δL=λ/(4n)であれば、Δφ=−π/2となり、出力ポートPout1で消光することが図3よりわかる。いずれかの出力ポートで消光すると、トリミング前の偏波分離素子のチップ特性評価に支障をきたすため、好ましくない。これに対して、δLの値として、Δφ=−mπ(mは0以上の整数)となるような値を選ぶと、トリミング前の段階ではPout1とPout2とから得られる出力光のパワー比が1対1になるため、特性評価上都合がよい。したがって、δLとしては、式(19)を満たす値に設定することがより好ましい。ただし、mとしては、0以上の整数であり、かつ「δL2が式(18)を満たす値を超えないような最大の整数」以下の値にすることが好ましい。
【0051】
【数9】

【0052】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2に係る偏波分離素子について説明する。図6は、実施の形態2に係る偏波分離素子の模式的な平面図である。図1に示すように、偏波分離素子20は、図1に示す偏波分離素子10において、入力光分波部1を入力光分波部21に置き換え、トリミング用ヒータ5b、6bを追加したものである。
【0053】
入力光分波部21は、光導波路型で2入力2出力型の方向性結合器で構成されており、一方の入力ポートから入力された光L1を2分岐して第1アーム導波路3および第2アーム導波路4のそれぞれに入力する。
【0054】
この偏波分離素子20では、入力光分波部21が方向性結合器で構成されているため、偏波分離素子10とは異なる特性を有している。以下、偏波分離素子10の特性について説明する。
【0055】
偏波分離素子20の入力光分波部21に入力される光L1の光強度をP、第2アーム導波路4を伝搬した光に対する第1アーム導波路3を伝搬した光の位相遅れの量(位相差)をΔφ、入力光分波部21および出力光合波部2の結合効率をkとする。すると、出力光合波部2の出力ポートPout1、Pout2から得られる出力光の強度P、Pはそれぞれ式(31)、(32)で表すことができる。
【0056】
【数10】

【0057】
ここで議論を簡単にするために、結合効率kを0.5とすると、式(31)、(32)は、以下の式(31a)、(32a)となる。
【0058】
【数11】


となる。なお、kを0.5に設定したとしても、議論の一般性は失われない。
【0059】
図7は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。図8は、k=0.5としたときの、位相差ΔφとPとの関係を示す図である。図7、8から、たとえば以下の式(33)、(34)に示す位相差Δφの条件が満たされる場合に、偏波分離素子20は、出力ポートPout1からTM偏波成分の光を出力し、出力ポートPout2からTE偏波成分の光を出力する偏波分離素子として機能する。
【0060】
【数12】

【0061】
ここで、各偏波状態に対するΔφを設定するにあたって、式(33)、(34)を満たすΔφに2πの整数倍を加算した値に設定しても偏波分離素子として機能する。ただし、ΔφTEに関しては、絶対値が0より大きくなるにつれてMZI干渉計のFSRが小さくなり、結果として偏波分離素子の動作波長帯域が狭帯域化するため好ましくない。よって、図1に示す偏波分離素子20において、ΔφTEを0に設定すれば、動作波長帯域を最も広帯域化することができるので好適である。一方、ΔφTMに関しても同様の議論が可能である。ただし、ΔφTMの場合は、ΔφTM=πの場合のみならず、−πの場合でも、最大の動作帯域が期待できるため、どちらを採用してもよい。以下では、式(33)、(34)を満たすように偏波分離素子20を作製する場合を説明する。
【0062】
偏波分離素子20を作製する際に、式(33)、(34)を満たすようにするためには、トリミング用ヒータ5aにて第1アーム導波路3に複屈折を付与するトリミングを行うことが好ましい。ここで、実施の形態1の場合と同様に位相差は式(15)で表される。
【0063】
式(15)に式(33)、(34)で与えられる条件を適用すると、TEおよびTMの各偏波成分に対する位相差Δφは以下の式(33a)、(34a)で表される。
【0064】
【数13】

【0065】
上記式(33a)、(34a)から、第1アーム導波路3および第2アーム導波路4の各光導波路の複屈折Bと、TEおよびTMの各偏波成分に対する屈折率の平均値niAveについて、偏波分離素子20が機能する際に第1アーム導波路3と第2アーム導波路4との間での満たすべき関係式が以下の式(36)、(37)として得られる。
【0066】
【数14】

【0067】
すなわち、上記式(36)、(37)を満たすようにトリミングを行うことによって、偏波分離素子20は所望の偏波分離機能有するものになる。なお、式(36)、(37)においてL=L=Lの場合は、第1アーム導波路3の複屈折Bの値を第2アーム導波路4の複屈折Bよりもλ/(2L)だけ大きくし、TEおよびTMの各偏波成分の屈折率の平均値については、第1アーム導波路3の平均値n1Aveを第2アーム導波路4の平均値n2Aveよりもλ/(4L)だけ大きくするようなトリミングを実施すればよい。
【0068】
たとえば、L=L=L=4mm、λ=1.55μmとすると、ΔB=(B−B)=λ/(2L)=1.9375×10−4である。そこで、第1アーム導波路3のトリミング用ヒータ5aに電流を印可し、第1アーム導波路3の複屈折値が第2アーム導波路4の複屈折値よりもΔB=1.9375×10−4だけ大きくなるように、トリミングを行う。
【0069】
このとき、上述したようにトリミング時間が長くなるにつれてその複屈折率Bが大きくなるとともに平均値n1Aveも高くなる。
【0070】
これに対して、本実施の形態2に係る偏波分離素子20でも、第2アーム導波路4の幾何学的長さが、第1アーム導波路3の幾何学的長さよりも長くなっている。具体的には、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、第1アーム導波路3をトリミングした場合に生じる第1アーム導波路3の光路長の増加量に対応する程度だけ、第1アーム導波路3よりも長くなっている。その結果、偏波分離素子20は動作波長帯域が広い偏波分離素子となる。
【0071】
たとえば、偏波分離素子20における第2アーム導波路4の幾何学的長さと第1アーム導波路3の幾何学的長さとの差δLは、下記式(38)を満たすように設定されることが好ましい。また、L=L=Lであり、かつn1Ave0=n2Ave0の場合は、式(38)は式(38a)となる。
【0072】
【数15】

【0073】
一例として、n2Ave0=1.45、L=4mm、δn=4×10−4とすると、δL=0.716μmである。この長さは、光波の一波長分に相当する長さであるλ/n2Ave0=1.069μmに近く、位相差にして2π近い大きな値である。また、アーム導波路の幾何学的な長さに関する一般的な製造誤差である0.1μm程度よりも10倍近く長いものである。また、本発明の効果を奏するためには、δLとしては、一般的な製造誤差の3倍以上であるたとえば0.3μm以上とすることが好ましい。
【0074】
なお、偏波分離素子20の場合における第1アーム導波路3にトリミングを施した場合の屈折率の偏波間平均値の増加量δnについても、予備実験等によってデータを取得したり、理論的に導出したりして求めればよい。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態1に係る偏波分離素子20は、動作波長帯域が広いものとなる。
【0076】
なお、本実施の形態2においても、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、第1アーム導波路3をトリミングした場合に生じる第1アーム導波路3の光路長の増加量に対応する程度だけ、第1アーム導波路3よりも長くなっている。しかし、第2アーム導波路4の幾何学的長さは、これよりも短くても良い。たとえば式(38)、(38a)は等式であるが、長さの差δLは式(38)、(38a)を満たす値よりも短くても良い。この場合も、実施の形態1の場合と同様に、第2アーム導波路4のトリミングを行う際のトリミング量は長さの差δLを設けない場合よりも小さくてよいため、偏波分離機能の低下は抑制され、または設計の煩雑さが軽減されるので好ましい。
【0077】
つぎに、第1アーム導波路3の複屈折を増大させるトリミングを実施する前の段階で、第2アーム導波路4の光路長補正が及ぼす影響について考える。n1Ave0=n2Ave0=nとおき、L=L、L=L+δLとすると、式(15)の位相差Δφは上述した式(15b)のようになる。
【0078】
δL=0であればΔφ=0となって出力ポートPout1で消光し、δL=λ/(2×n)であればΔφ=−πとなって出力ポートPout2で消光することが図7、8よりわかる。いずれかの出力ポートで消光すると、トリミング前の偏波分離素子のチップ特性評価に支障をきたすため、好ましくない。これに対して、δLの値として、Δφ=−(m+0.5)π(mは0以上の整数)となるような値を選ぶと、トリミング前の段階ではPout1とPout2とから得られる出力光のパワー比が1対1になるため、特性評価上都合がよい。したがって、δLとしては、式(39)を満たす値に設定することがより好ましい。ただし、mとしては、0以上の整数であり、かつ「δL2が式(38)を満たす値を超えないような最大の整数」以下の値にすることが好ましい。
【0079】
【数16】

【0080】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る光集積素子について説明する。図9は、実施の形態3に係る光集積素子の模式的な平面図である。図9に示すように、この光集積素子100は、基板S上にPLCの技術によって形成されたものであり、実施の形態1に係る偏波分離素子10と、光導波路型の90度ハイブリッド素子30、40とが基板S上に集積されたものである。また、光集積素子100は、偏波分離素子10、90度ハイブリッド素子30、40のそれぞれに光を入力させる入力光導波路51、52、53と、偏波分離素子10と90度ハイブリッド素子30、40のそれぞれを接続する接続光導波路54、55と、90度ハイブリッド素子30、40からの出力をそれぞれ出力する4本の光導波路から構成される出力光導波路56、57とを備えている。
【0081】
この光集積素子100は、DP−QPSK方式用のコヒーレントミキサとして構成されている。以下、光集積素子100の動作について説明する。
【0082】
この光集積素子100の入力光導波路51にDP−QPSK信号光L2を入力し、互いに直交する直線偏波を有する局所発振光L3、L4をそれぞれ入力光導波路52、53に入力する。すると、偏波分離素子10はDP−QPSK信号光L2を直交する2つの直線偏波の信号光L21、L22に偏波分離する。90度ハイブリッド素子30は、信号光L21と局所発振光L3とが入力されると、信号光L21をIチャネル成分の信号光とQチャネル成分の信号光とに分離して出力光導波路56から出力する。同様に、90度ハイブリッド素子40は、信号光L22と局所発振光L4とが入力されると、信号光L22をIチャネル成分の信号光とQチャネル成分の信号光とに分離して出力光導波路57から出力する。
【0083】
この光集積素子100は、実施の形態1に係る偏波分離素子10を備えているので、動作波長帯域が広いコヒーレントミキサとなる。
【0084】
なお、上記実施の形態では、2入力2出力型の入力光分波部または出力光合波部として方向性結合器を用いている。しかし、入力光分波部または出力光合波部としては、他の2入力2出力型の光カプラを用いても良く、たとえば波長無依存型光カプラ(Wavelength-insensitive coupler:WINC)や多モード干渉(Multi-Mode Interferometer:MMI)型光カプラを用いてもよい。特に、入力光分波部および出力光合波部の両方にWINCを用いる場合は、非特許文献4に開示されているように、入力側と出力側とで同一構造のWINCを幾何学的に点対称の配置とすることで、WINCの位相特性をキャンセルすることができる。そのため、設計を行いやすく、動作波長帯域が広い偏波分離素子を実現できる。
【0085】
また、上記実施の形態では、各アーム導波路について一つのヒータ(トリミング用ヒータ5aあるいは6a)を用いて複屈折あるいは屈折率を調整するトリミング手法について述べたが、図6のトリミング用ヒータ5bや6bのように、各アーム導波路について二つ以上のヒータが搭載されていて、複数のヒータを用いて各アーム導波路の複屈折や屈折率を調整するトリミングを実施してもよい。
【0086】
また、非特許文献1では、光導波路の幅を太くすることによって複屈折を誘起している。この場合は光導波路の実効屈折率の値が変わってしまうため、FSRが小さくなる場合がある。その結果、偏波分離素子としての動作波長帯域が狭くなる場合がある。
【0087】
これに対して、実施の形態1、2に係る偏波分離素子のように、アーム導波路の断面構造(サイズおよ実効屈折率)が光導波方向にわたって略同一とすれば、動作波長帯域の狭帯域化が抑制され、さらに広帯域となるのでより好ましい。
【0088】
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施の形態3における光集積素子に実施の形態2に係る偏波分離素子を適用しても良い。その他、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 入力光分波部
2 出力光合波部
3 第1アーム導波路
4 第2アーム導波路
5a、5b、6a、6b トリミング用ヒータ
10、20 偏波分離素子
11、S 基板
12 クラッド層
21 入力光分波部
30、40 90度ハイブリッド素子
51、52、53 入力光導波路
54、55 接続光導波路
56、57 出力光導波路
100 光集積素子
B 複屈折
L1 光
L2、L21、L22 信号光
L10、L11、L12 線
L3、L4 局所発振光
Pout1、Pout2 出力ポート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される光導波路型の偏波分離素子であって、
入力光分波部と、
出力光合波部と、
前記入力光分波部と前記出力光合波部とを接続する、複屈折性を有する光導波から構成される第1アーム導波路および第2アーム導波路と、
前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路のそれぞれの上方に形成された1つ以上の加熱部と、
を備え、前記第2アーム導波路の幾何学的長さは、前記第1アーム導波路に複屈折性を付与するために前記加熱部が加熱を施した場合に該第1アーム導波路に生じる光路長の増加量に対応する程度以下だけ、前記第1アーム導波路の幾何学的長さよりも長いことを特徴とする偏波分離素子。
【請求項2】
前記入力光分波部はY分岐導波路で構成されており、前記出力光合波部は方向性結合器、波長無依存型光カプラ、および多モード干渉型光カプラのいずれか一つで構成される2入力2出力型の光合波器であることを特徴とする請求項1に記載の偏波分離素子。
【請求項3】
前記加熱の前における前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路でのTE偏波とTM偏波とに対する実効屈折率の平均値をそれぞれn1Ave0、n2Ave0とし、前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路において前記加熱により複屈折性が付与される部分の長さをL、Lとし、前記第1アーム導波路に前記複屈折性を付与する加熱を施した場合の前記実効屈折率の平均値の増加量をδnとすると、前記第2アーム導波路の幾何学的長さと前記第1アーム導波路の幾何学的長さとの差δLは、下記式(1)
【数1】


を満たすように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の偏波分離素子。
【請求項4】
前記入力光分波部に入力される偏波分離すべき光の波長をλとし、mを0以上の整数とすると、前記差δLは、下記式(2)
δL=mλ/(2×n2Ave0) ・・・ (2)
を満たすように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の偏波分離素子。
【請求項5】
前記入力光分波部および前記出力光合波部は、方向性結合器、波長無依存型光カプラ、および多モード干渉型光カプラのいずれか一つで構成される2入力2出力型の光合波器であることを特徴とする請求項1に記載の偏波分離素子。
【請求項6】
前記入力光分波部および前記出力光合波部は、いずれも同一構造の波長無依存型光カプラで構成されており、かつ幾何学的に点対称に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の偏波分離素子。
【請求項7】
前記加熱の前における前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路でのTE偏波とTM偏波とに対する実効屈折率の平均値をそれぞれn1Ave0、n2Ave0とし、前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路において前記加熱により複屈折性が付与される部分の長さをL、Lとし、前記第1アーム導波路に前記複屈折性を付与する加熱を施した場合の前記実効屈折率の平均値の増加量をδnとすると、前記第2アーム導波路の幾何学的長さと前記第1アーム導波路の幾何学的長さとの差δLは、下記式(3)
【数2】


を満たすように設定されていることを特徴とする請求項5または6に記載の偏波分離素子。
【請求項8】
前記入力光分波部に入力される偏波分離すべき光の波長をλとし、mを0以上の整数とすると、前記差δLは、下記式(4)
δL=(m+0.5)×λ/(2×n2Ave0) ・・・ (4)
を満たすように設定されていることを特徴とする請求項7に記載の偏波分離素子。
【請求項9】
前記第1アーム導波路および前記第2アーム導波路のそれぞれの断面構造が、光導波方向にわたって略同一であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の偏波分離素子。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の偏波分離素子と、
前記偏波分離素子に接続した2つの光導波路型の90度ハイブリッド素子と、
が同一基板上に集積されたものであることを特徴とする光集積素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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