説明

健全性診断方法及びプログラム並びに風車の健全性診断装置

【課題】健全性診断を確実に実施すること。
【解決手段】相関行列の逆行列を計算し、逆行列と相関行列とを乗算した行列が略単位行列でなかった場合には、相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める。そして、相関行列と近似逆行列とを乗算した行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、マハラノビス・タグチメソッド(以下「MT法」という。)を用いて診断対象の健全性を評価する健全性診断方法及びプログラム、並びに該健全性診断方法を適用した風車の健全性診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象の健全性を診断する際に、MT法を適用し、マハラノビス距離(MD値)に基づいて異常を検知する方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、自動分析装置における反応過程での異常の有無判定に、MT法を適用し、マハラノビス距離に基づいて異常の有無を検知する方法が開示されている。
【0003】
MT法は、非特許文献1に開示されるように、正常データの集団である単位空間を定義し、該単位空間の相関行列の逆行列を用いてマハラノビス距離を計算する。このマハラノビス距離は、単位空間を構成する特性項目間の相関を考慮したパラメータであり、このマハラノビス距離が大きい場合には、正常データの集団である母集団から乖離していることを示すので、何らかの特性値に異常が発生していると診断することができる。
【0004】
ところで、MT法では、単位空間から計算される相関行列の性質によっては、相関行列の逆行列が計算できない場合がある。例えば、単位空間を構成する特性項目の間に強い相関がある(相関係数の絶対値が1に近い)場合や、単位空間を構成する特性項目の個数よりも単位空間のデータレコード数が少ない場合には、相関行列の逆行列が計算できない可能性が高い。
【0005】
この対策として、例えば、特許文献2では、相関行列の逆行列の代わりに相関行列の余因子行列を計算し、この余因子行列を用いてマハラノビス距離を算出する方法(MTA法)が提案されている。
しかしながら、上記余因子行列を用いるMTA法は、単位空間の相関行列のランクが特性値の個数よりも1だけ落ちている場合だけに有効で、2以上落ちている場合はマハラノビス距離が計算できないことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。そこで、非特許文献2では、MT法、MTA法の改善のため、MTA法の余因子行列に代わり、相関行列をスペクトル分解して、ランク落ちしていない固有値に対応するムーア・ペンローズ一般化逆行列を用いる第1種の平方距離と、ランク落ちした固有値0(ゼロ)に対応する固有ベクトルから作成した第2種の平方距離を用いてマハラノビス距離を算出する手法を提案している。
【特許文献1】特開2006−23214号公報
【特許文献2】特開2003−141306号公報
【非特許文献1】刊行委員長 田口玄一、編集主査 兼高達貮、「品質工学応用講座 MTシステムによる技術開発」、日本規格協会2002年発行、14頁〜26頁、38頁〜44頁
【非特許文献2】宮川雅巳、永田靖 著、「マハラノビス・タグチ・システムにおける多重共線性対策について」、品質(Journal of the Japanese Society for Quality Control)、第33巻4号467頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献2に開示されている方法では、相関行列の逆行列が計算できる場合、換言すると、単位空間の相関行列のランクが特性項目の個数に等しい場合には、一般のマハラノビス距離だけしか計算されないことになり、連続性がなくなってしまうという問題を抱えている。例えば、単位空間のデータレコード数が特性項目の個数以下では第1種・第2種の平方距離が計算されるが、データレコード数が特性項目の個数より多い場合には一般のマハラノビス距離(これは第1種の平方距離に相当する)となり、異常診断での連続性がなくなってしまう。
【0007】
また、特許文献1では、単位空間を構成する特性値の間に強い相関がある、換言すると、相関係数の絶対値が1に近い場合でも、マハラノビス距離を算出可能とするために、相関行列の主成分分析を活用してデータ群を直交化し、相関行列を特異分解することで、固有値の寄与率とその必要数を計算し、この必要数が特性値個数以下であった場合には、p個の固有ベクトルを用いてマハラノビス距離を計算する方法を適用している。
しかしながら、この手法では、必要数の定義に任意性があり、また主成分分析を介した計算が必要となり、処理が煩雑であるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、MT法を用いて健全性を判断する場合に、煩雑な処理を行うことなくマハラノビス距離を算出することができ、健全性診断を確実に実施することのできる健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較する基準データセットを設定するデータ設定過程と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定過程と、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める近似逆行列算出過程と、該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程とを有し、該マハラノビス距離に基づいて診断対象の健全性を評価する健全性診断方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、相関行列とその逆行列との積を示す行列が略単位行列でなかった場合には、この逆行列がMD値を算出するのに適しない行列であると判断し、この逆行列を補正し、近似逆行列を算出する。具体的には、相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列による3行列積によって、近似逆行列を求める。特異値が小さい場合、その特異値の逆数は、限りなく大きい値となり、計算を不可能にする可能性がある。本発明によれば、計算を不可能にするおそれのある特異値を特定し、特定した特異値の逆数をゼロに置換するので、計算が暴走することを防止することができ、信頼性の高い近似逆行列を得ることができる。従って、この近似逆行列を用いてMD値を算出することにより、信頼性の高いMD値を得ることが可能となる。
【0011】
本発明は、健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較する基準データセットを設定するデータ設定過程と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定過程と、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出する近似逆行列算出過程と、該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程とを有し、該マハラノビス距離に基づいて診断対象の健全性を評価する健全性診断方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、相関行列とその逆行列との積を示す行列が略単位行列でなかった場合には、この逆行列がMD値を算出するのに適しない行列であると判断し、この逆行列を補正し、近似逆行列を算出する。具体的には、相関行列の特異値分解を行い、該特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出する。
相関行列の特異値が小さい場合、その特異値の逆数は、限りなく大きい値となり、計算を不可能にする可能性がある。このため、特異値が小さい場合には、その特異値を逆数とした場合の分母に、丸め誤差から決まる定数を一様に加算することにより、逆行列の特性値が無限大に近い値になることを防止することが可能となる。これにより、計算が暴走することを防止することができ、信頼性の高い近似逆行列を得ることができる。従って、この近似逆行列を用いてMD値を算出することにより、信頼性の高いMD値を得ることが可能となる。
また、このような近似逆行列の求め方によれば、上述のように、値の小さい特異値からその逆数をゼロに置換する場合に比べて、その都度に近似逆行列と相関行列との積を求める必要もなくなり、1回の処理で近似逆行列を求めることが可能となる。これにより、近似逆行列に関する処理を簡便化することができる。
【0013】
本発明は、特性項目別に複数の特性値が関連付けられている被診断データセットを設定するとともに、該被診断データと比較するための単位空間を形成するための基準データセットを設定するデータ設定過程と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、該相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、該逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程と、前記マハラノビス距離に基づいて診断対象の異常の有無を判定する異常判定過程と、異常が発生していると判定した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記特性項目に対応する複数の項の和として表す主成分分析過程と、複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する特性項目が異常要因であると特定する要因分析過程とを有する健全性診断方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、MD値を主成分分析して得た複数の項の絶対値に基づいて異常発生の要因を特定するので、一般的に知られている直交表を用いた要因効果分析と比べて、処理を低減することが可能となる。このように、本発明によれば、1回の主成分分析により、容易に異常の要因候補を特定することができ、要因分析を容易に行うことができる。
【0015】
本発明は、マハラノビス距離に基づいて検査対象の健全性を評価するのに用いられる健全性診断プログラムであって、健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定処理と、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める近似逆行列算出処理と、該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理とをコンピュータに実行させるための健全性診断プログラムを提供する。
【0016】
本発明は、マハラノビス距離に基づいて検査対象の健全性を評価するのに用いられる健全性診断プログラムであって、健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定処理と、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出する近似逆行列算出処理と、該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理とをコンピュータに実行させるための健全性診断プログラムを提供する。
【0017】
本発明は、特性項目別に複数の特性値が関連付けられている被診断データセットを設定するとともに、該被診断データと比較するための単位空間を形成するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、該相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、該逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理と、前記マハラノビス距離に基づいて診断対象の異常の有無を判定する異常判定処理と、異常が発生していると判定した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記主成分に対応する複数の項の和として表す主成分分析処理と、複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する主成分が異常要因であると特定する要因分析処理とをコンピュータに実行させるための健全性診断プログラムを提供する。
【0018】
本発明は、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、統計的演算手法を用いて、診断対象の状態を表す状態指標値を算出する指標値算出手段と、前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の状態を判定する異常判定手段とを備え、前記指標値算出手段は、前記基準データセットを用いて相関行列を計算し、該相関行列の逆行列を計算し、該逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定し、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求め、該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算し、該マハラノビス距離を前記状態指標値として出力する風車の健全性診断装置を提供する。
【0019】
本発明によれば、被診断データセットと基準データセットとを用いて、風車の状態を表す状態指標値であるMD値を算出するので、経験や知見に基づく定性的な評価に代えて、定量的な評価を実現することが可能となる。また、上記MD値は、各データセットに付与されたクラス分類が考慮された値となっているので、同じ状況下で取得されたデータ同士を比較することが可能となる。これにより、風車の状態をより的確に評価することが可能となる。
また、本発明によれば、信頼性の高い近似逆行列を得ることができるので、この近似逆行列を用いてMD値を算出することにより、信頼性の高いMD値を得ることが可能となる。
【0020】
本発明は、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、統計的演算手法を用いて、診断対象の状態を表す状態指標値を算出する指標値算出手段と、前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の状態を判定する異常判定手段とを備え、前記指標値算出手段は、前記基準データセットを用いて相関行列を計算し、該相関行列の逆行列を計算し、該逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定し、該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出し、該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算し、該マハラノビス距離を前記状態指標値として出力する風車の健全性診断装置を提供する。
【0021】
本発明によれば、被診断データセットと基準データセットとを用いて、風車の状態を表す状態指標値であるMD値を算出するので、経験や知見に基づく定性的な評価に代えて、定量的な評価を実現することが可能となる。また、上記MD値は、各データセットに付与されたクラス分類が考慮された値となっているので、同じ状況下で取得されたデータ同士を比較することが可能となる。これにより、風車の状態をより的確に評価することが可能となる。
また、本発明によれば、信頼性の高い近似逆行列を得ることができるので、この近似逆行列を用いてMD値を算出することにより、信頼性の高いMD値を得ることが可能となる。
【0022】
本発明は、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、マハラノビス距離を算出する指標値算出手段と、前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の有無を判定する異常判定手段とを有し、前記異常判定手段は、前記マハラノビス距離に基づいて風車の異常の有無を検知し、異常を検知した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記主成分に対応する複数の項の和として表し、複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する主成分が異常要因であると特定する風車の健全性診断装置を提供する。
【0023】
このように、被診断データセットと基準データセットとを用いて、風車の状態を表す状態指標値であるMD値を算出するので、経験や知見に基づく定性的な評価に代えて、定量的な評価を実現することが可能となる。また、上記MD値は、各データセットに付与されたクラス分類が考慮された値となっているので、同じ状況下で取得されたデータ同士を比較することが可能となる。これにより、風車の状態をより的確に評価することが可能となる。
また、本発明によれば、MD値を主成分分析して得た複数の項の絶対値に基づいて異常発生の要因を特定するので、一般的に知られている直交表を用いた要因効果分析と比べて、処理を低減することが可能となる。このように、本発明によれば、1回の主成分分析により、容易に異常の要因候補を特定することができ、要因分析を容易に行うことができる。
【0024】
上記風車の健全性診断装置において、前記特性項目は、風車を取り巻く環境に関する環境区分、風車運転の性能・発電条件に関する性能区分、及び風車に設定された各種監視部位に係る運転状態の診断に関する特性区分の3つに大別されることとしてもよい。
【0025】
上記風車の健全性診断装置において、前記被診断データファイル及び前記比較用データファイルにおいて、同じ計測時間に関連付けられている特性値を一つのデータセットとした場合に、該データセットには、所定の特性項目の特性値に応じて決定されるクラス分類を示す識別情報が付与されていることとしてもよい。
【0026】
上記風車の健全性診断装置において、前記クラス分類は、前記環境区分及び前記性能区分の少なくともいずれか一方に分類される所定の特性項目の特性値に応じて決定されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、逆行列が作成できない場合でも、煩雑な処理を行うことなくマハラノビス距離を算出し、健全性診断を確実に実施することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明に係る健全性診断方法及び健全性診断プログラムを風車の健全性診断に適用した場合の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
〔第1の実施形態〕
図1は、風車の概略構成を示した図である。図1に示すように、風車1は、基礎6の上に立設される支柱2と、支柱2の上端に設置されるナセル3と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル3に設けられるロータヘッド4とを有している。ロータヘッド4には、その回転軸線周りに放射状に複数枚の風車翼5が取り付けられている。これにより、ロータヘッド4の回転軸線方向から風車翼5に当たった風の力が、ロータヘッド4を回転軸線周りに回転させる動力に変換され、この動力が発電機によって電気エネルギーに変換されるようになっている。
【0030】
図2は、本実施形態に係る風車の健全性診断装置(以下「健全性診断装置」という。)の概略構成を示したブロック図である。図2に示される本実施形態に係る健全性診断装置は、風車構成の内部もしくは外部いずれの場所に設置されていてもよい。図2に示すように、健全性診断装置10は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、CPU(中央演算処理装置)11、RAM(Random Access
Memory)などの主記憶装置12、HDD(Hard Disk Drive)などの補助記憶装置13、キーボードやマウスなどの入力装置14、及びモニタやプリンタなどの出力装置15、外部の機器と通信を行うことにより情報の授受を行う通信装置16などで構成されている。
補助記憶装置13には、各種プログラム(例えば、健全性診断プログラム)が格納されており、CPU11が補助記憶装置13から主記憶装置12にプログラムを読み出し、実行することにより種々の処理を実現させる。
【0031】
図3は、健全性診断装置10が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。図3に示されるように、健全性診断装置10は、風車の健全性を診断するために必要となるデータファイルを処理・生成するデータファイル作成部20と、データファイル作成部20によって生成されたデータを用いてMT法を用いてマハラノビス距離を算出し、この結果から健全性を評価する健全性評価部30とを備えている。
【0032】
データファイル作成部20は、計測情報記憶部21と、データ生成部22と、クラス分類定義部23と、クラス分類部24と、第1記憶部25と、正常データ条件定義部26と、正常データ抽出部27と、第2記憶部28とを備えている。
健全性評価部30は、診断設定部(診断設定手段)31と、指標値算出部(指標値算出手段)32と、異常判定部(異常判定手段)33、通知部34とを備えている。
【0033】
本発明は、上記構成のうち、健全性評価部30におけるMT法のマハラノビス距離算出過程に主な特徴を有している。以下、本発明の特徴となるMT法の説明も含め、健全性診断装置10が備える各部の説明を図を参照して説明する。
【0034】
〔データファイル作成部20について〕
計測情報記憶部21には、センサ毎に複数の測定データからなる複数のデータファイルが格納される。
ここで、各データファイルの各計測データには、その計測データが測定された計測時間が関連付けられている。この計測時間は、後述するクラス分類部24において行われる診断データの作成処理において、データファイル間の各種測定データを互いに関連付ける紐付けパラメータとして機能する。
【0035】
データ生成部22は、主に、以下に示す2つの処理を実行する。
〔サンプリング時間の統一化処理〕
上述した計測情報記憶部21に格納されている各種データファイルに係る各計測データの計測時間の時間間隔(以下「サンプリング時間」という)は統一されていない。従って、データ生成部22は、まず、これらのサンプリング時間を統一する処理を行う。本実施形態では、各データファイルを1分間隔の計測データとなるように再構築する。
【0036】
例えば、サンプリング時間が1分に比べ十分速いときは、1分間に取得された全ての計測データを用いて統計的手法により1分間の代表値を選定する。例えば、代表値は、平均値と標準偏差とにより表される。
このようにすることで、全てのデータファイルの計測データを共通の時間間隔で同期関連付けさせることができる。
【0037】
〔診断物理量の算出〕
次に、データ生成部22は、計測時間を統一させた各種データファイルのうち、所定のデータファイルを対象に、「診断物理量」の抽出を行う。
つまり、上述のように、上記計測情報記憶部21には、各種センサによって計測された生のデータが格納されることとなるが、各監視部位の運転状況等を診断するためには、これら生のデータから診断に好適な診断物理量を生成、抽出する必要がある。
【0038】
例えば、軸受け・増速機には、その運転状況を監視するために、各計測箇所に8個の加速度センサが取り付けられている。各センサによって、計測された計測データである時系列波形はセンサ別に計測情報記憶部21に格納される。
【0039】
ところで、軸受け・増速機における増速機のある変速段の異常の診断には、その変速段を構成する複数の歯車の噛み合せ周波数(固有値)の振動加速度を算出し、この振動加速度によって、ある変速段の診断を行うこととなる。このため、データ生成部22は、8個のセンサCH1からCH8によってそれぞれ計測された時系列波形に対して周波数変換(一例として、Fast Fourier Transferの手段がある。)という信号処理を行い、図4に示されるような、周波数スペクトラムを得、この周波数スペクトラムから図4中の矢印が示す複数の固有周波数の振幅加速度をそれぞれ抽出する。そして抽出した振幅加速度を各チャネル及び固有周波数によって識別されるファイルに格納することにより、新たなデータファイルを作成する。
【0040】
図5に、新たに作成されたデータファイルの一例を示す。図5に示すように、CH1、CH2等のように表されるチャネル(センサ)と、「AZi1」、「AZi2」、「AZi3」等のように表される固有周波数とに関連付けられて各計測時間における振動加速度が診断物理量として格納される。ここで、各診断加速度の計測時間は、上述の如く、他のデータファイルの計測時間と統一したものとなっている。
このようにして、所定のデータファイルにおいて、診断物理量が算出され、新たなデータベースが作成される。
【0041】
なお、上記診断物理量の算出は、主に、風車1の運転状況を診断するために各種監視部位に取り付けられたセンサによって計測された計測データに対して行われる。どのデータファイルの計測データに対して、どのような信号処理を行い、どのような診断物理量を算出するのかについては、データ生成部22に予め登録されている。
【0042】
データ生成部22によってサンプリング時間が統一化された各種データファイル及び新たに作成された診断物理量に対するデータファイルは、クラス分類部24に出力される。なお、診断物理量を算出するのに使用された元のデータファイルについては、以降の処理については特に必要とされないため、クラス分類部24には出力しないこととする。
【0043】
クラス分類部24は、まず、データ生成部22から入力された各種データファイルを統合することにより、1つの被診断データファイルを作成する。
図6に、被診断データファイルの一例を示す。図6に示されるように、センサ別に各計測時間における計測データまたは診断物理量が関連付けられている。本実施形態では、図6の表の最上段に記載された各計測データや診断物理量の属性を示す「正規化風速」、「MET風速乱れ度」、「送電端出力」、「AZi1」、「AZi2」等の見出しを「特性項目」といい、各特性項目の各データを「特性値」と定義する。
【0044】
特性項目は、その属性によって、「環境」、「性能」、「特性」に分類される。「環境」には、「風速」、「風速乱れ度」等の風車を取り巻く環境に関する特性項目が、「性能」には、発電条件、発電機回転数、発電制御に関する指令値等、風車運転の性能、発電条件に関する特性項目が、「特性」には、「AZi1」、「AZi2」等の風車の運転状況の診断に関する特性項目が分類される。ここで、「特性」に分類される特性項目は、上述したデータ生成部22において、新たに生成されたデータファイルが該当する。
本実施形態では、ある1日の0:00から23:59までの1分刻みの特性値を統合して1つの被診断データファイルを構成している。
【0045】
クラス分類部24は、続いて、被診断データファイルにおいて、同じ計測時間に関連付けられている特性値を一つのデータセットとし、各データセットに対してクラス分類を示す識別情報を付加する。
具体的には、クラス分類部24は、クラス分類定義部23に定義されているクラス定義に基づいて、各データセット、換言すると、図6に示された被診断データファイルの行毎に、どのクラス分類に属するかを区分けし、各データセットにクラス分類を示すフラグを立てる。
【0046】
ここで言う「クラス分類」とは、MT法のような統計的診断手法において、クラス分類定義部23で定めた、複数の特性項目の基準範囲に合致したデータ集団の区切りのことをいう。このように、同じ「クラス分類」同士での正常または異常を識別する統計的診断は、クラス分類しないデータ全体の場合より識別精度が高くなる。
【0047】
ここで、本実施形態に係る「クラス分類」について図7のクラス分類の模式図を用いて説明する。
本実施形態では、クラス分類の指標量となる特性項目を、「風速」としている。「風速」は、風車の発電性能に強い相関性を有しているため好都合である。ここでは、「風速」の段階毎の物理量で境界値(条件)を設定し、クラスF0、F1、F2、F3とクラス分類を定義している。
【0048】
風車性能に係る具体的な意味合いとして、F0は、風車が発電に寄与しない風速域、F1は発電が開始し始める低速域、F2は発電が本格化し始める中速域、F3は定格発電し始める定格域とされている。
上記クラスF0は、風車が発電に寄与しない風速域であるため、クラスF0は診断対象外のデータ集団とし、クラスF1からF3の3クラスを診断対象となるクラスとして定義する。
【0049】
なお、上記クラス分類に代えて、風速の乱れ率と風速との2つのパラメータによって、各計測時間を複数のクラスに分類することとしてもよい。図8には、風の乱れ率(%)が小さい場合と大きい場合とに分け、F1´からF6の計6つのクラスに分類する場合を示している。
また、上記例では、風速等に基づいてクラス分類を行ったが、図7にカッコで示されるように、風車の発電性能に強い相関性を示す「回転数」に基づいてクラス分類を行うこととしてもよい。
【0050】
上述したようなクラス分類を定義した情報は、クラス分類定義部23に格納されている。クラス分類部24は、クラス分類定義部23に格納されているクラス分類の条件数値を参考に、被診断データファイルのデータセット毎(行毎)にクラス分類を割り当てる。
【0051】
第1記憶部25は、クラス分類部24でクラス分類(フラグ付け)された被診断データファイルを格納する。第1記憶部25に格納されたクラス分類済みの被診断データファイルは、指標算出部30における演算処理において、「信号空間」として取り扱われる。
【0052】
一方、第2記憶部28には、既に取得済みの「過去の被診断データファイル」から正常データ抽出部27の処理を経て、「過去の被診断データファイル」の中から正常定義部26の条件式、値等の定義の指示に従い、「正常」であると判断されたデータセットのみが抽出され、格納されている。その格納データを「正常データ」と呼ぶ。
もちろんこの段階で、第2記憶部28に格納されている正常データファイル(比較用データファイル)の各データセットには、前段処理のクラス分類部24においてクラス分類のフラグが付加されている。
【0053】
第2記憶部28に格納されている正常データファイルは、正常データ抽出部27によって自動生成され、過去の正常データファイルから日々自動更新され、蓄積されることを特徴としている。ここでは、第1記憶部25に格納されている「被診断データファイル」から「正常データファイル」が自動生成される処理機能について図を用いて説明する。
【0054】
正常データ抽出部27は、正常データ条件定義部26に定義されている正常範囲(基準範囲)を参照することで、その定義に合致した被診断データファイルのデータセットのみを抽出し第2記憶部28へ転送して格納する。
【0055】
正常データ条件定義部26の定義条件の本発明の好適な例を図9から図10に示す。
図9は、発電量の変動範囲を規定したおよそ性能面からの正常定義である。
図9において横軸は風速、縦軸は発電量Pである。発電量の性能曲線は、P(V、r)の関数で表すことができる。発電量の正常範囲は、風速によるクラス分類F1〜F3毎に、正常範囲(I),(II),(III)がそれぞれ定義されており、正常な性能範囲であると定義する条件は、その性能曲線から±ΔP/2の変動幅としている。
【0056】
上記ΔPは、任意の風速V0、回転数r0の時の発電量、回転数r0(V0)の割合A(%)と定義すると、ΔP=(A/100)×P0(V0,r0)である。
【0057】
なお、上記例では、縦軸を発電量Pとしたが、これに代えて、回転数rを用いることとしてもよい。この場合、回転数の性能曲線は、r(V)の関数で表すことができる。回転数の正常範囲は、風速によるクラス分類F1〜F3毎に、正常範囲(I),(II),(III)がそれぞれ定義されており、正常な性能範囲であると定義する条件は、その性能曲線から±Δr/2の変動幅としている。
【0058】
上記Δrは、任意の風速V0、回転数r0の時の発電量、回転数r0(V0)の割合A(%)と定義すると、ΔP=(A/100)×P0(V0,r0)、Δr=(A/100)×r0(V0)である。
更に、上記例では、横軸を風速としたが、図9において、横軸を回転数r、縦軸を発電量Pとしてもよい。この場合、回転数に応じたクラス分類毎に、上記正常範囲(I)、(II)、(III)が定義されることとなる。
【0059】
図10は、風向偏差の変動範囲を規定したおよそ正常運転条件からの正常定義である。
図10において横軸は風速、縦軸は風向偏差Δθである。ここで「風向偏差」について説明する。通常、風車の「正常」な運転条件とは、常に風向きに対して風車翼の回転面が真正面で受け止めていることが前提となる。
【0060】
つまり実際の風向きと風車翼回転面の向きの差を「風向偏差」と呼び、それらが真正面の理想的な状態にある時の風向偏差Δθはゼロと基準にしている。「正常」な運転条件の一つである風向偏差Δθの範正常範囲は、風速によるクラス分類F1〜F3毎に、正常範囲(I´)、(II´)、(III´)がそれぞれ定義されている。
【0061】
即ち、風車の向きは、自然条件で常に変化する風向きに対し、(I´)、(II´)、(III´)の範囲に収まるように追随しながら風を補足して、理想的な運転条件になるように発電を行っている。
【0062】
なお、上記例では、横軸を風速Vとしたが、これに代えて、横軸を回転数rとしてもよい。この場合、回転数に応じたクラス分類毎に上記正常範囲(I´)、(II´)、(III´)が定義されることとなる。
【0063】
正常データ条件定義部26に格納されている上記正常範囲(I)、(II)、(III)と(I´)、(II´)、(III´)との論理式(AND、OR、NOT)の組み合わせについては、ユーザが任意に設定することが可能な構成とされている。
【0064】
正常データ条件定義部26に格納されている上記正常範囲の定義に従って、正常データ抽出部27が被診断データファイルの中から正常範囲と判断されるデータセットのみを抽出して第2記憶部28に格納することで、正常データのみが第2記憶部28に格納されることとなる。第2記憶部28に格納されたこれらの正常データファイルは、指標算出部30における演算処理において、「単位空間」として取り扱われる。
【0065】
上述までが、データファイル作成部20が備える各部の説明である。データファイル作成部20の各部が上記処理を実施することにより、検査対象である風車の測定データ等の被診断データファイルが生成されて第1記憶部25に格納され、また、被診断データファイルと比較される正常データファイルが第2記憶部28に格納される。
そして、第1記憶部25に格納された被診断データファイル及び第2記憶部28に格納された正常データファイルを用いて、検査対象である風車1の健全性診断が健全性評価部30によって実施される。
【0066】
〔健全性評価部30について〕
診断設定部31は、第1記憶部25の被診断データファイルからその全体または一部のデータセットを抽出し、診断用の「被診断データファイル」(信号空間)を作成するとともに、第2記憶部28の正常データファイルからその全体または一部のデータセットを抽出し、診断用の「基準データファイル」(単位空間)を作成する。
【0067】
これらの「被診断データファイル」及び「基準データファイル」の各データセットには、上述のようにクラス分類のフラグが付加されている。詳細は後述するが、基本的にMT法では、同じクラス分類同士の「基準データファイル」と「被診断データファイル」との比較により異常診断が行われる。また、診断目的によっては、異なったクラス間での比較異常診断、または複数のクラス全体を一つの集団とし、クラスを再構築して比較異常診断を行うことも可能である。
【0068】
指標値算出部32は、診断設定部31によって作成された「被診断データファイル」および「基準データファイル」を元にMT法を実行し、マハラノビス距離(以下「MD値」という)を算出する。具体的な算出方法については後述する。
【0069】
異常判定部33は、指標値算出部32によって算出されたMD値を予め設定されている閾値と比較し、その比較結果に応じて風車1の状態を評価する。例えば、MD値が閾値を超えていた場合に、異常であると判定し、異常判定信号を通知部34に出力する。
【0070】
通知部34は、異常判定信号が入力された場合に、風車1の異常の発生をディスプレイ等に表示することにより、ユーザに対して異常発生を通知する。なお、視覚による通知方法に代えて或いは加えて、聴覚による通知、例えば、報音により異常を通知することとしてもよい。このように、通知の手法については特に限定されない。
【0071】
次に、上記指標値算出部32によって実現されるMD値の算出方法について図11を参照して詳しく説明する。
【0072】
〔データの規格化〕
まず、指標値算出部32は、データの規格化処理を実行する(図11のステップSA1)。
例えば、診断設定部31において設定された基準データファイルの計測時間数をi、特性項目数をjとすると、基準データファイルは、i行j列の行列を成す。例えば、1分間隔で1日分のデータ数ならば、24時間×60分=1440分で1440行、計測したデータ項目種類が200種類あれば、200列のデータサイズになる。
【0073】
基準データの規格化の理由は、統計処理において、異なった特性項目間(計測物理量間)の特性値を公平に扱うためである。そのため、各行、各列によって識別される特性値xijを以下の(1)、(2)式に基づいて算出した平均値m及び標準偏差σを用いて規格化する処理を行う。特性値xijの規格化後の値は、正規格値Xijとして表され、以下の(3)式で求められる。
なお、以下の説明においては、図12に示すように、n行k列の各データファイルを想定して説明する。
【0074】
【数1】

【0075】
同様に、指標値算出部32は、基準データファイルと同様の演算を行うことにより、「被診断データファイル」についても規格化を行う。規格化のために用いる平均値m及び標準偏差σは、上記式(1)、(2)で算出された「基準データファイル」の値を用いる。この結果、「被診断データファイル」の各特性値yijを規格化した特性規格値Yijが以下の(4)式により算出される。
【0076】
【数2】

【0077】
指標値算出部32は、「基準データファイル」、「被診断データファイル」の各特性値を規格化後の特性規格値に置き換えることで、それぞれのデータファイルを再構築する。
【0078】
〔相関行列算出処理〕
次に、指標値算出部32は、基準データファイルの特性規格値Xijを用いて、相関行列R=(rij)を計算する(図11のステップSA2)。相関行列Rは以下の(5)式を用いて導出される。相関行列は対角成分が1であるk次行列となる。
【0079】
【数3】

【0080】
ここで、相関行列を求めるための具体的な説明を行う。基準データファイルの特性規格値Xijの特性項目jの種類がk個(k列)ある場合、その相関組み合わせ数は、k×kである。一例として、基準データファイルの特性項目数jがk=200種類(列)あった場合、その相関組み合わせは200×200=40000通りであり、それは同時に200×200の正則行列の特性となる。正則行列の対角成分は、同じ特性項目同士の相関であるため、必然的に1となる性質を有している。また、対角線以外の相関係数は、rpq=rqpとなり、その値は対角線を挟んで対称等しくなる。
【0081】
〔逆行列算出処理〕
次に、指標値算出部32は、上記(5)式で求めた相関行列の逆行列R-1を以下の(6)式を用いて算出する(図11のステップSA3)。
【0082】
【数4】

【0083】
〔判定処理〕
次に、上記逆行列R-1と相関行列Rとを乗算し、乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する(図11のステップSA4)。
略単位行列であるか否かは、例えば、対角成分の絶対値が全て1に近い所定の閾値(例えば、0.5)以上であり、かつ、対角成分以外の成分の絶対値がゼロに近い所定の閾値(例えば、0.5)未満であるか否かにより判定される。好ましくは、単位空間を構成するデータレコードのうち、相関行列の計算に用いなかった単位空間データレコードのMD値を計算し、そのMD値が1近傍にあるか否かで判定する。そして、そのMD値が1近傍(例えば、最大5以下)でない場合は、略単位行列と判断しないこととする。
【0084】
【数5】

【0085】
この結果、逆行列R-1と相関行列Rとを乗算した結果得られた行列が略単位行列であった場合には、上記(6)式で得た逆相関行列R-1を用いてMD値を算出する(図11のステップSA6)。
【0086】
〔近似逆行列の算出処理〕
一方、上記行列が略単位行列でない場合には、近似逆行列を算出する(図11のステップSA5)。
具体的には、以下の(7)式に示すように上記相関行列の特異値分析を行い、特異値λiの小さい方から順に、その特異値の逆数1/λiをゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める。
以下の(8)式では、特異値λnが最小値であった場合の近似逆行列の一例を示している。
【0087】
【数6】

【0088】
そして、このようにして求めた近似逆行列R-1´と相関行列Rとを乗算した行列が略単位行列となるまで、式(8)の対角行列内にある上記特異値λを小さい順に、その逆数1/λをゼロに置換する処理を繰り返し行い、式(8)に基づく近似逆行列R-1´の計算を繰り返す。
そして、非対角成分やゼロに置換した固有値に対応する対角成分の絶対値がゼロに近い所定の閾値(例えば、0.5)未満となり、かつ、ゼロに置換した固有値に対応する対角成分以外の対角成分の絶対値が全て1に近い所定の閾値(例えば、0.5)以上となった場合には、当該行列が略単位行列となったと判断し、そのときの近似逆行列R-1´を用いて、MD値を計算する(図11のステップSA6)。
【0089】
〔マハラノビス距離算出処理〕
次に、上記ステップSA3において求められた逆行列RまたはステップSA5において求められた近似逆行列R-1´と、規格化後の被診断データファイルの各特性規格値Yijを用いてMD値D2を求める(図11のステップSA6)。MD値D2は、以下の(9)式を用いて算出される。
【0090】
ここで、kは、「被診断データファイル」の特性項目数、つまり、列の数であり、MD値は「被診断データファイル」のデータセット毎(行毎)に算出される。例えば、「被診断データファイル」が1分間隔で取得された1日分のデータファイルであるとすれば、行数は1440行となり、1440個のMD値が求められることとなる。このことは、軸受け・増速機の健全性診断指標であるMD値が計測時間毎に逐次算出されることを意味している。
【0091】
【数7】

【0092】
ここで、ある計測時間のMD値を計算する場合は、規格化された「被診断データファイル」のある計測時間に相当するデータ行i(iは1〜nのいずれか)番目を指定して、そのi行の各列の値であるYi1からYikを式(7)に代入して計算する。図6の例でいえば、計測時間0:03におけるMD値を求める際には、データ行でi=4行目のk列数の特性規格値Y41からY4kを用いる。このようにして、「被診断データファイル」の計測時間の数だけMD値が求められる。
【0093】
ここで、留意すべき点は、被診断データファイルのデータセットが、どのクラス分類の基準データファイルのデータセットとの比較を取るかによって、規格化のためのmとσおよびMD値計算時の逆行列R-1(R-1´)を使い分けなければならない点にあるが、あらかじめプログラミングにより指示することで、自動計算処理が可能である。
【0094】
次に、指標値算出部32により行われる上記処理のうち、図11のステップSA2からステップSA5までの処理について、具体例を挙げて説明する。
例えば、図11のステップSA2において、図13に示すような相関行列Rが得られた場合、ステップSA3では、この相関行列の逆行列R-1を算出する。図14に、図13に示した相関行列の逆行列R-1を示す。続いて、ステップSA5において、図13に示した相関行列Rと図14に示した逆行列R-1とを乗算し、この行列が略単位行列であるか否かを判定する。図15に上記相関行列と逆行列Sとを乗算した結果、得られた行列を示す。
【0095】
図15において、網掛けで示した固有値は絶対値が0.5よりも大きい値を示している箇所である。図15に示された行列は略単位行列であると判定するための条件を満たしていないため、略単位行列とは認められず、従って、図11に示したステップSA5に進み、近似逆行列R-1´の算出が行われる。
【0096】
ステップSA5では、まず、図13に示した相関行列の特異値分解を行い、固有値及び固有ベクトルを算出する。特異値分解を行ったときの特異値λのリストを図16に示す。次に、図16に示した特異値λのうち、最も小さい特異値λである「1.64E-16」の逆数1/λをゼロに置き換え、再度、置換後の相関行列の逆行列を求める。この結果、図17に示すような近似逆行列R-1´が得られる。
【0097】
そして、図17に示した近似逆行列R-1´と相関行列Rとの積を再度算出し、この積が略単位行列になっているか否かを判定する。図18に、この結果得られた積の行列を示す。図18に示すように、図15に示したときの積の行列に比べて単位行列に近づいてきたことがわかる。しかしながら、図18に示した単位行列であっても略単位行列であると判定するための条件を満たしていないため、従って、図16に示した相関行列の特異値λのうち、次に小さい特異値λである「4.7E−16」の逆数1/λについてもゼロに置き換え、再度、置換後の相関行列の逆行列を求める。この結果、図19に示すような近似逆行列R-1´が得られる。
【0098】
そして、上記の処理を繰り返し行い、相関行列Rとその近似逆行列R-1´との積が略単位行列となったところで、そのときの近似逆行列R-1´をMD値の算出に用いるものとして決定する。
【0099】
図13に示した相関行列の場合には、3番目に小さい特異値λまでその逆数1/λをゼロに置換したところで、その近似逆行列R-1´と相関行列Rとの積が略単位行列になっていることを示している。
図20は、図19に示した近似逆行列R-1´と相関行列Rとの積を示した行列、図21は3番目に小さい特異値λである「5.1E−16」まで、その逆数1/λをゼロに置換した場合の近似逆行列R-1´、図22は、図21に示した近似逆行列R-1´と相関行列Rとの積を示した行列である。図22に示した行列においては、略単位行列であると判定するための条件を満たしている。従って、このときの近似逆行列R-1´、即ち、図21に示した近似逆行列を用いてMD値を計算することとなる。
【0100】
このようにして、近似逆行列を用いてMD値を算出すると、そのMD値は、異常判定部33に出力される(図3参照)。異常判定部33は、入力された各MD値D2と予め設定されている閾値(任意に設定可能な値であり、例えば、3)とをそれぞれ比較し、MD値D2が閾値よりも大きいか否かを判定する。この結果、閾値よりも大きいMD値D2が所定割合以上存在した場合には、風車1の状態が異常であるとして、異常信号を出力する。これにより、通知部34により、風車1の異常がユーザに通知される。
【0101】
一方、異常判定部33は、閾値を越えるMD値D2が所定割合以下であった場合には、風車1の状態は正常であると判断し、その旨の通知を行う。そして、異常判定部33によって異常が検出されない限り、データファイル作成部20及び健全性評価部30において、上述した被診断データファイル及び基準データファイルの設定、MD値の算出処理が所定の時間間隔で逐次行われ、風車1の状態監視が所定期間毎に行われることとなる。
【0102】
また、指標値算出部32によって算出された状態指標値は、図23に示すように、診断結果として表示装置に表示される。図23は、診断結果の一例を示した図である。横軸に、計測時間が、縦軸にMD値が示されている。
【0103】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置によれば、相関行列の逆行列に起因してMD値が算出不可能な場合であっても、相関行列Rから近似逆行列R-1´を求め、この近似逆行列R-1´を用いてMD値を算出するため、MD値を確実に算出することができ、これにより、健全性診断を確実に実施することが可能となる。
【0104】
これにより、例えば、相関行列のランクが1落ちている場合だけしか適用できなかった特許文献2に開示の方法に比べて、幅広く適用することができる。また、非特許文献2に開示されていた方法のように、2個の平方距離を用いることなくMD値を求めることができるので、処理を簡便化することができる。
更に、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置によれば、逆行列が算出できる通常の場合とあまり変化のない近似逆行列とすることができるので、この近似逆行列を用いて算出されるMD値が通常の場合と乖離することを防止することができ、連続性を確保したMD値を算出することが可能となる。
【0105】
加えて、例えば、上述した特許文献1のように、主成分分析を行う必要がなく、また、恣意性のある必要数を定義する必要もないため、利用計算機の精度だけで近似逆行列を決定することが可能となり、MD値を定量的に求めることが可能となる。
【0106】
次に、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置において用いられる近似逆行列の検証を行う。
例えば、近似を行う前の逆関数Rである図14に示した逆行列Rを使用して算出したある測定時間における信号A〜DまでのMD値と、相関行列Rと近似逆行列R-1´の積が単位行列となったときの近似逆行列である図21に示した近似逆行列R-1´を使用して算出したある測定時間における信号A〜DまでのMD値とを以下の表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
上記表1に示すように、図13に示した相関行列の逆行列Rをそのまま用いてMD値を算出した場合には、信号A〜Dに関するMD値のオーダーがかなりことなっており、異常な計算結果が示されている。これに対し、図21に示した近似逆行列R-1´を用いてMD値を算出した場合には、信号A〜Dに関するMD値のオーダーが揃っており、また、MD値としても信頼性の高い値を示していることがわかる。
【0109】
このように、本実施形態のように近似逆行列R-1´を求め、この近似逆行列R-1´を用いてMD値を算出することで、相関行列がMD値の算出に適していない特性を有する場合であっても信頼性の高いMD値を得ることができる。
【0110】
また、上述した非特許文献2では、単位空間(被診断データ)のデータレコード数が特性項目の個数よりも大きい場合のみMD値の算出が可能であったが、本実施形態に係る健全性診断方法を用いることにより、以下の通り、単位空間のデータレコード数が特性項目よりも少ない場合であっても、MD値を確実に計算することが可能となる。
【0111】
図24に、単位空間の項目数(ここでは、24項目とした)と同じ単位空間のデータレコード数を用いてMD値を算出した場合のMD値の分布を、図25に、単位空間の項目数(ここでは、24項目とした)よりも大きい単位空間のデータレコード数(ここでは、50とした)を用いてMD値を算出した場合のMD値の分布を示す。
図24及び図25に示すように、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置を用いれば、単位空間の項目数と同じ単位空間のデータレコード数を用いてMD値を求めた場合でも、それよりもはるかに大きいデータレコード数を用いてMD値を求めた場合と略同じ結果を得ることができることがわかる。
【0112】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る風車の健全性診断装置について説明する。
上述した第1の実施形態においては、相関行列Rとその逆行列R-1との積を示す行列が略単位行列でなかった場合に、相関行列Rの特異値分析を行い、この特異値λの小さい値から順にその逆数1/λをゼロに置換していくことで、近似逆行列R-1´を求めていたが、本実施形態においては、この近似逆行列R-1´の求め方が異なる。
以下、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置について、上述した第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0113】
本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置によれば、上記図11のステップSA4において、相関行列Rとその逆行列R-1との積を示す行列が略単位行列ではなかった場合に、前記相関行列Rの特異値分解を行い、該特異値λの逆数1/λの分母に計算機の丸め誤差から決まる定数εを加算することで近似逆行列R-1´を算出する(以下の(10)式参照)。そして、この近似逆行列を用いてMD値を算出する。
【0114】
【数8】

【0115】
このように、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置によれば、相関行列Rとその逆行列R-1との積が略単位行列でなかった場合には、相関行列の特異値分解を行い、その特異値の逆数1/λの分母に丸め誤差から決まる定数εを加算することで近似逆行列R-1´を求めることとしたので、上述した第1の実施形態のように、特異値λを小さい順に判別する必要がなく、更に、相関行列Rとその逆行列R-1との積が略単位行列となるまで、一つずつ特異値の逆数1/λをゼロに置換していく手間を省くことが可能となる。本実施形態によれば、MD値を算出するのに使用される近似逆行列R-1´を直接的に求めることができ、処理の簡便化を図ることが可能となる。
【0116】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る風車の健全性診断装置について説明する。
上述した第1及び第2の実施形態においては、図3に示した異常判定部33がMD値に基づいて風車に異常が発生しているか否かを判定することとしていたが、本実施形態においては、異常判定部33が更に異常の要因を特定する点で上述した各実施形態とは異なる。
【0117】
以下、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置について、上述した第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0118】
例えば、非特許文献3には、MD値を主成分で分解できると開示されている。また、この非特許文献3には、MD値を主成分分解した項において、主成分の固有値の小さい項は、寄与率が小さく、無視できると記されている。
【非特許文献3】宮川雅巳 著「品質を獲得する技術」225頁〜226頁
【0119】
しかしながら実際には、本願の発明者らの検討の結果、主成分の固有値の小さい項がMD値の寄与の大部分を占めることがわかった。この理由として、固有値の大きい項は単位空間中でパターンの類似性の高い状態を定義しているため、異常データでも単位空間と同じ類似性を抽出するためにMD値への寄与が小さい。一方、固有値の小さい項は、単位空間中でパターンの類似性の低い状態を定義しているため、異常データのような、単位空間との類似性の小さいデータに対する感度が大きく、MD値への寄与が高いといえる。
ここで、MD値を主成分で分解し、個々の項のどれが大きいかを見出せば、その項を構成する特徴量が異常であることがわかる。また主成分分解で得た個々の項の影響を見ることで、近いMD値を示すが異なる異常状態の区別をすることが可能である。このような知見から、MDの主成分分解によって固有値の小さい項のトレンドを見れば、異常の要因をある程度特定できることがわかった。
【0120】
そこで、本実施形態においては、異常判定部33(図3参照)に異常が検知された場合には、以下の処理を実行することで、異常の要因を特定する。
まず、異常判定部33は、MD値を主成分分析し、MD値を主成分分析の結果として得られる固有値λ及び固有ベクトルpからなる複数の項の和として表す。ここで、各項は、被診断データファイルにおける主成分に対応している。具体的には、MD値は、以下の(11)式のように複数の項の和として表される。
【0121】
【数9】

【0122】
次に、異常判定部33は、MD値を構成する複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項を特定し、特定した項に対応する主成分が異常要因であると特定する。
【0123】
以上、説明してきたように、本実施形態に係る健全性診断方法及びそのプログラム並びに風車の健全性診断装置によれば、MD値を主成分分析して得た複数の項の絶対値に基づいて異常発生の要因を特定するので、一般的に知られている直交表を用いた要因効果分析と比べて、処理を低減することが可能となる。このように、本実施形態に係る要因分析方法によれば、1回の主成分分析により、容易に異常の要因候補を特定することができる。
【0124】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0125】
例えば、上述した各実施形態においては、基準データファイルとして正常データファイルを用いていたが、これに代えて、基準データファイルとして異常データファイルを用いることとしてもよい。この場合には、異常データファイルにより形成される単位空間を基準にMD値が求められるため、上述した各実施形態の場合と逆で、MD値が所定の閾値よりも小さかった場合に、異常が発生していると判定する。
【0126】
このように、異常データファイルを基準データファイルとして用いることにより、例えば、多様な異常・故障状態を単位空間において分別してMD値を算出することで、上述した第3の実施形態のように、要因効果分析を行うことなく、どの特性項目の被診断データがどのような異常を示しているのかを容易に特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】風車の全体概略構成を示した図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る健全性診断装置の概略構成を示したブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る健全性診断装置の機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図4】軸受け・増速機の診断を行う場合を例に挙げた場合の各加速度センサによって取得された計測データから診断物理量を算出する処理を説明するための図である。
【図5】診断物理量がチャネルと固有周波数とに対応付けられて格納されている新たなデータファイルの一例を示した図である。
【図6】被診断データファイルの一例を示した図である。
【図7】クラス分類の一例を示した図である。
【図8】クラス分類の他の例を示した図である。
【図9】正常定義範囲の一例を示した図である。
【図10】正常定義範囲の他の例を示した図である。
【図11】本発明の第1の実施形態におけるMD算出処理の手順を示したフローチャートである。
【図12】マハラノビス距離の算出処理で用いられる各データについて説明するための説明図である。
【図13】相関行列の一例を示した図である。
【図14】図13に示した相関行列の逆行列を示した図である。
【図15】図13に示した相関行列と図14に示した逆行列とを乗算したときの行列を示した図である。
【図16】図13に示した相関行列の特異値の一覧を示した図である。
【図17】図16に示した相関行列の特異値の逆数を一つだけゼロに置換したときの近似逆行列を示した図である。
【図18】図13に示した相関行列と図17に示した近似逆行列とを乗算したときの行列を示した図である。
【図19】図16に示した相関行列の特異値の逆数を二つだけゼロに置換したときの近似逆行列を示した図である。
【図20】図13に示した相関行列と図19に示した近似逆行列とを乗算したときの行列を示した図である。
【図21】図16に示した相関行列の特異値の逆数を三つだけゼロに置換したときの近似逆行列を示した図である。
【図22】図13に示した相関行列と図21に示した近似逆行列とを乗算したときの行列を示した図である。
【図23】状態指標値の評価結果の一例を示した図である。
【図24】単位空間の項目数と同じ単位空間のデータレコード数を用いてMD値を算出した場合のMD値の分布を示した図である。
【図25】単位空間の項目数よりも大きい単位空間のデータレコード数を用いてMD値を算出した場合のMD値の分布を示した図である。
【符号の説明】
【0128】
1 風車
3 ナセル
4 ロータヘッド
5 風車翼
10 風車の健全性診断装置
11 CPU
12 主記憶装置
13 補助記憶装置
14 入力装置
15 出力装置
16 通信装置
20 データファイル作成部
21 計測情報記憶部
22 データ生成部
23 クラス分類定義部
24 クラス分類部
25 第1記憶部
26 正常データ条件定義部
27 正常データ抽出部
28 第2記憶部
30 健全性評価部
31 診断設定部
32 指標算出部
33 異常判定部
34 通知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較する基準データセットを設定するデータ設定過程と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、
前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、
前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定過程と、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める近似逆行列算出過程と、
該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程と
を有し、
該マハラノビス距離に基づいて診断対象の健全性を評価する健全性診断方法。
【請求項2】
健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較する基準データセットを設定するデータ設定過程と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、
前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、
前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定過程と、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出する近似逆行列算出過程と、
該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程と
を有し、
該マハラノビス距離に基づいて診断対象の健全性を評価する健全性診断方法。
【請求項3】
特性項目別に複数の特性値が関連付けられている被診断データセットを設定するとともに、該被診断データと比較するための単位空間を形成するための基準データセットを設定するデータ設定過程と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出過程と、
該相関行列の逆行列を計算する逆行列算出過程と、
該逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出過程と、
前記マハラノビス距離に基づいて診断対象の異常の有無を判定する異常判定過程と、
異常が発生していると判定した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記主成分に対応する複数の項の和として表す主成分分析過程と、
複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する主成分が異常要因であると特定する要因分析過程と
を有する健全性診断方法。
【請求項4】
該マハラノビス距離に基づいて検査対象の健全性を評価するのに用いられる健全性診断プログラムであって、
健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、
前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、
前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定処理と、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求める近似逆行列算出処理と、
該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理と
をコンピュータに実行させるための健全性診断プログラム。
【請求項5】
該マハラノビス距離に基づいて検査対象の健全性を評価するのに用いられる健全性診断プログラムであって、
健全性診断の対象となる被診断データセットを設定するとともに、該被診断データセットと比較するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、
前記相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、
前記逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定する判定処理と、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出する近似逆行列算出処理と、
該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理と
をコンピュータに実行させるための健全性診断プログラム。
【請求項6】
特性項目別に複数の特性値が関連付けられている被診断データセットを設定するとともに、該被診断データと比較するための単位空間を形成するための基準データセットを設定するデータ設定処理と、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算する相関行列算出処理と、
該相関行列の逆行列を計算する逆行列算出処理と、
該逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算するマハラノビス距離算出処理と、
前記マハラノビス距離に基づいて診断対象の異常の有無を判定する異常判定処理と、
異常が発生していると判定した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記主成分に対応する複数の項の和として表す主成分分析処理と、
複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する主成分が異常要因であると特定する要因分析処理と
をコンピュータに実行させるための健全性診断プログラム。
【請求項7】
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、
被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、
前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、統計的演算手法を用いて、診断対象の状態を表す状態指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の状態を判定する異常判定手段と
を備え、
前記指標値算出手段は、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算し、
該相関行列の逆行列を計算し、
該逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定し、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、該行列が略単位行列となるまで、前記特異値の小さい方から順にその特異値の逆数をゼロに置換した対角行列と、特異値分解で得た2個の直交行列とによる3行列積によって、近似逆行列を求め、
該行列が略単位行列となったときの該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算し、該マハラノビス距離を前記状態指標値として出力する風車の健全性診断装置。
【請求項8】
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、
被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、
前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、統計的演算手法を用いて、診断対象の状態を表す状態指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の状態を判定する異常判定手段と
を備え、
前記指標値算出手段は、
前記基準データセットを用いて相関行列を計算し、
該相関行列の逆行列を計算し、
該逆行列と前記相関行列とを乗算し、該乗算した結果得られた行列が略単位行列であるか否かを判定し、
該行列が略単位行列でない場合に、前記相関行列の特異値分解を行い、前記特異値の逆数の分母に計算機の丸め誤差から決まる定数を加算することで、近似逆行列を算出し、
該近似逆行列を用いて、マハラノビス距離を計算し、該マハラノビス距離を前記状態指標値として出力する風車の健全性診断装置。
【請求項9】
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されている被診断データファイルと、
計測時間に関連付けられた複数の特性値が特性項目別に格納されているとともに、特定の前記特性項目の特性値が予め定義されている所定の基準範囲に属している比較用データファイルと、
被診断データファイルから診断に用いる複数のデータセットを抽出し、被診断データセットとして設定するとともに、前記比較用データファイルから前記診断に用いる複数の前記データセットを抽出し、基準データセットとして設定する診断設定手段と、
前記被診断データセット及び前記基準データセットを元に、マハラノビス距離を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段によって算出された状態指標値に基づいて、診断対象である風車の有無を判定する異常判定手段と
を有し、
前記異常判定手段は
前記マハラノビス距離に基づいて風車の異常の有無を検知し、
異常を検知した場合に、前記マハラノビス距離の主成分分析を行い、該マハラノビス距離を前記主成分に対応する複数の項の和として表し、
複数の項のうち、絶対値が既定の閾値よりも大きい項に対応する主成分が異常要因であると特定する風車の健全性診断装置。
【請求項10】
前記特性項目は、風車を取り巻く環境に関する環境区分、風車運転の性能・発電条件に関する性能区分、及び風車に設定された各種監視部位に係る運転状態の診断に関する特性区分の3つに大別される請求項7から請求項9のいずれかに記載の風車の健全性診断装置。
【請求項11】
前記被診断データファイル及び前記比較用データファイルにおいて、同じ計測時間に関連付けられている特性値を一つのデータセットとした場合に、該データセットには、所定の特性項目の特性値に応じて決定されるクラス分類を示す識別情報が付与されている請求項7から請求項10のいずれかに記載の風車の健全性診断装置。
【請求項12】
前記クラス分類は、前記環境区分及び前記性能区分の少なくともいずれか一方に分類される所定の特性項目の特性値に応じて決定される請求項11に記載の風車の健全性診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2009−288100(P2009−288100A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141431(P2008−141431)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】