説明

偽造防止媒体

【課題】観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行う。
【解決手段】白色からなる表面シート3、黒色からなる中間シート4及び白色からなる裏面シート5の複数層が積層された積層構造からなり、その一部の領域に、形状が潜像となる「T」の字となるように複数の貫通穴2が形成されて構成され、貫通穴2の内側面にはその全周に渡って中間シート4が表出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止シート等の偽造防止媒体に関し、特に、潜像を用いた偽造防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリペイドカードや各種入場券、商品券や株券等の有価証券においては、広く流通しており比較的容易に換金可能である等の理由から、偽造犯罪が頻発している。特に、近年ではカラーコピー機等の複写機の性能向上と普及に伴い、簡単には真正品と見分けられない偽造品が比較的容易に製造可能になってきており、偽造に対する対策が求められている。また、上述したような有価証券に限らず、紙幣においても偽造に対する対策が求められている。
【0003】
このような偽造に対する対策の1つとして、潜像を用いて有価証券や紙幣の真偽判別を可能とする技術が考えられており、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された技術は、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、観察方向によって潜像を浮かび上がらせるものである。基材を正面から見た場合は全ての印刷万線が視認可能な状態となっている。ところが、観察方向を印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向に変化させていくと、印刷万線のうちレリーフ万線が延在した部分がその延在したレリーフ万線の陰となって視認できなくなる一方、印刷万線のその他の部分は視認可能な状態のままとなる。これにより、レリーフ万線の形状に応じた潜像を浮かび上がらせることができる。
【0005】
このように断面が隆起したレリーフ万線を設けたシート基材においては、複写した場合、表面に印刷された印刷万線を含む印刷情報は複写されるものの、レリーフ万線の隆起形状までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変化させていった場合であっても、潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。
【特許文献1】特開2000−313161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したように、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、この印刷万線とレリーフ万線とで潜像を浮かび上がらせるものにおいては、印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向から観察した場合にしか潜像が浮かび上がらず、潜像による真偽判別がしやすいとは言い難い。特に、観察方向が制限されている場合、潜像による真偽判別ができなくなる虞れがある。
【0007】
本発明は、上述したような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、
少なくとも一部に、複数層が積層され、該複数層のうち少なくとも2つの層が互いに異なる色を具備する積層構造を有し、
前記積層構造が設けられた領域に貫通穴を有する。
【0009】
上記のように構成された本発明においては、複数層の積層方向から偽造防止媒体を観察した場合、積層された複数層のうち最も観察方向側となる層しか視認できず、また、貫通穴が設けられた領域においては、貫通穴を介して向こう側が見えるか、あるいは貫通穴が微細なものであれば人間の錯覚によって貫通穴もその層の色に見えて貫通穴が認識困難な状態となっている。この状態から偽造防止媒体に対する観察方向を変化させていくと、貫通穴の内側面が視認できるようになる。積層された複数層は、少なくとも2つの層が互いに異なる色を具備するものであるため、最も観察方向側となる層とは異なる色の層が貫通穴の内側面にて表出しており、その層の色が貫通穴の内側面にて視認可能となる。そのため、貫通穴を潜像となる所定の情報が表現されるように形成しておけば、偽造防止媒体に対する観察方向を複数層の積層方向から変化させていくと、貫通穴を用いた潜像が、最も観察方向側となる層とは異なる色として浮かび上がって見えるようになる。ここで、本発明においては、最も観察方向側となる層とは異なる色が貫通穴の内側面の全周に渡って表出しているので、偽造防止媒体に対する観察方向を複数層の積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、貫通穴による潜像が浮かび上がって見えるようになる。
【0010】
複数層が積層されてなり、
前記複数層のうち少なくとも1つの層は、外部から視認不可能となる領域の一部に当該層とは異なる色を具備する潜像表示層が埋設され、
前記潜像表示層が埋設された領域と前記潜像表示層が埋設されていない領域とにそれぞれ貫通穴を有する。
【0011】
上記のように構成された本発明においては、複数層の積層方向から偽造防止媒体を観察した場合、複数層のうち最も観察方向側となる層しか視認できず、また、貫通穴が設けられた領域においては、貫通穴を介して向こう側が見えるか、あるいは貫通穴が微細なものであれば人間の錯覚によって貫通穴もその層の色に見えて貫通穴が認識困難な状態となっている。この状態から偽造防止媒体に対する観察方向を変化させていくと、貫通穴の内側面が視認できるようになる。複数層のうち少なくとも1つの層は、外部から視認不可能な領域の一部にその層とは異なる色を具備する潜像表示層が埋設されているため、貫通穴の内側面においては、潜像表示層が埋設された領域と潜像表示層が埋設されていない領域とで異なる色が表出することになる。そのため、潜像表示層を潜像となる所定の情報が表現されるように埋設しておけば、偽造防止媒体に対する観察方向を複数層の積層方向から変化させていくと、潜像表示層を用いた潜像が浮かび上がって見えるようになる。ここで、本発明においては、潜像表示層が埋設された領域に設けられた貫通穴においては、その内側面の全周に渡って潜像表示層の色が表出することになるので、偽造防止媒体に対する観察方向を複数層の積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、潜像表示層による潜像が浮かび上がって見えるようになる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明においては、積層された複数層のうち少なくとも2つの層が互いに異なる色を具備する積層構造を有し、積層構造が設けられた領域に貫通穴を有する構成としたため、貫通穴の内側面には、最も観察方向側となる層とは異なる色が全周に渡って表出することになり、それにより、観察方向を複数層の積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、潜像が浮かび上がり、潜像による真偽判別を容易に行うことができる。
【0013】
また、積層された複数層のうち少なくとも1つの層の外部から視認不可能な領域の一部に当該層とは異なる色を具備する潜像表示層が埋設され、潜像表示層が埋設された領域と潜像表示層が埋設されていない領域とにそれぞれ貫通穴を有するものにおいては、貫通穴の内側面においては、潜像表示層が埋設された領域と潜像表示層が埋設されていない領域とで異なる色が表出し、かつ、潜像表示層が埋設された領域の貫通穴の内側面には、その全周に渡って潜像表示層による色が表出することになるため、上記同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の偽造防止媒体の第1の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図である。
【0016】
本形態は図1に示すように、それぞれが紙からなる表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の複数層が積層された積層構造からなり、その一部の領域に複数の貫通穴2が形成されて構成されている。表面シート3及び裏面シート5は白色からなり、中間シート4は黒色からなる。表面シート3には、貫通穴2が形成されていない領域に情報印刷領域6が設けられており、この偽造防止シート1がコンサート等の入場チケットとして用いられる場合に、コンサートの内容や会場名、座席番号等がこの情報印刷領域6に印刷されることになる。貫通穴2は、複数の貫通穴2からなる形状が潜像となる「T」の字となるように、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の全てに貫通して形成されている。このように、貫通穴2が、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5からなる積層構造に形成されていることにより、貫通穴2の内側面にはその全周に渡って中間シート4が表出している。
【0017】
以下に、上記のように構成された偽造防止シート1の製造方法について説明する。
【0018】
まず、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5を積層し、複数層からなる積層構造を構成する。
【0019】
次に、互いに積層された表面シート3、中間シート4及び裏面シート5に対して、スポット的にレーザ光を順次照射していき、それにより、潜像「T」の字の形状となるように複数の貫通穴2を形成する。貫通穴2の径は1mm以下であることが好ましいが、このようにレーザ光を用いて複数の貫通穴2を形成することにより、径が1mm以下というような微細な貫通穴2を形成することができるとともに、複数の貫通穴2の間隔も微細なものとすることができる。なお、本形態においては、潜像「T」について、その線幅が2つの貫通穴2、すなわち2列の貫通穴2によって1本のラインが構成されているが、潜像の線幅は、貫通穴2の径や、潜像となる情報の精細さ等によって適宜設定されることになる。
【0020】
その後、表面シート3の情報印刷領域6に情報が印刷されることになるが、その前に、表面シート3に対してプレ印刷として地紋を印刷したり所定の色に着色したりすることも考えられる。
【0021】
このようにして、図1に示した偽造防止シート1が作製される。
【0022】
以下に、上述した偽造防止シート1の作用について説明する。
【0023】
まず、図1に示した偽造防止シート1を正面、すなわち、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の積層方向から観察した場合の作用について説明する。
【0024】
図2は、図1に示した偽造防止シート1を正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シート1を正面から見た図である。
【0025】
図1に示した偽造防止シート1を、図2(a)に示すように、正面、すなわち、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の積層方向から観察した場合、表面シート3と貫通穴2とが見えることになるが、貫通穴2においては、中間シート4が表出している内側面が視認不可能であるため、中間シート4の黒色は見えず、そのため、貫通穴2によって形成される潜像「T」は、中間シート4の黒色として浮かび上がって見えてこない。ここで、貫通穴2が上述したようにその径が1mm以下となる微細なものである場合は、人間の錯覚によって貫通穴2が表面シート3の白色に見え、それにより、図2(b)に示すように潜像「T」は視認困難な状態となる。
【0026】
次に、図1に示した偽造防止シート1に対する観察方向を正面、すなわち、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の積層方向から変化させていった場合の作用について説明する。
【0027】
図3は、図1に示した偽造防止シート1に対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シート1における潜像の見え方を示す図である。
【0028】
図1に示した偽造防止シート1に対する観察方向を正面から変化させていくと、図3(a)に示すように、貫通穴2の内側面が視認できるようになる。この貫通穴2の内側面には、表面シート3とは色が異なる黒色の中間シート4が表出しているため、その黒色が貫通穴2の内側面にて視認可能となる。表面シート3は中間シート4とは色が異なる白色であるため、この色の違いによって、図3(b)に示すように、この貫通穴2によって構成される潜像「T」が中間シート4の黒色として浮かび上がって見えるようになる。この際、中間シート4の厚さが表面シート3の厚さよりも厚ければ、貫通穴2の内側面にて表出する中間シート4の面積が大きくなるため、潜像「T」を認識しやすくなる。
【0029】
ここで、図1に示した偽造防止シート1においては、表面シート3とは色が異なる黒色の中間シート4が貫通穴2の内側面の全周に渡って表出しているため、偽造防止シート1に対する観察方向を正面からどの方向に変化させていった場合であっても、貫通穴2による潜像が中間シート4の黒色として浮かび上がって見えるようになる。例えば、偽造防止シート1に対する観察方向を図1中上側に変化させていくと、貫通穴2によって形成される潜像「T」が図3(c)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート1に対する観察方向を図1中右側に変化させていくと、貫通穴2によって形成される潜像「T」が図3(d)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート1に対する観察方向を図1中左側に変化させていくと、貫通穴2によって構成される潜像「T」が図3(e)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになる。
【0030】
上述した偽造防止シート1は、複写した場合、表面シート3の情報印刷領域6に印刷された情報は複写されるものの、貫通穴2までは再現できない。また、貫通穴2の内側面に表出した中間シート4の黒色も複写することができない。そのため、複写物の観察方向を変えていった場合であっても、潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。このように真偽判別を行う際、本形態の偽造防止シート1においては、偽造防止シート1に対する観察方向を、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、貫通穴2による潜像が中間シート4の黒色として浮かび上がって見えるため、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる。
【0031】
なお、本形態においては、表面シート3及び裏面シート5との間にこれらとは色が異なる中間シート4が挟み込まれた構成となっているが、中間シート4の代わりに、表面シート3あるいは裏面シート5の互いの積層面に、表面シート3及び裏面シート5とは異なる色の印刷層を設ける構成とすることも考えられる。
【0032】
また、本形態においては、表面シート3及び裏面シート5が白色からなり、中間シート4が黒色からなるものを例に挙げて説明したが、表面シート3と中間シート4とが互いに異なる色であれば、表面シート3と裏面シート5とが異なる色であったり、表面シート3や中間シート4の色が白色や黒色とは異なる色であったりしても構わない。ただし、表面シート3の色と中間シート4の色とのコントラストの差が大きいほど潜像を認識しやすくすることができる。
【0033】
また、本形態においては、表面シート3、中間シート4及び裏面シート5の3つの層が積層された積層構造からなるものを例に挙げて説明したが、積層される層の数は複数であれば3つに限らない。ただし、その場合においても、少なくとも2つの層の色は互いに異なる必要がある。
【0034】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の偽造防止媒体の第2の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図である。
【0035】
本形態は図4に示すように、紙からなる白色のベースシート103の一部の領域に、ベースシート103の色とは異なる黒色で印刷が施されることによって着色層104が積層され、その着色層104が積層された領域に複数の貫通穴102が形成されて構成されている。ベースシート103には、貫通穴102が形成されていない領域に情報印刷領域106が設けられており、この偽造防止シート101がコンサート等の入場チケットとして用いられる場合に、コンサートの内容や会場名、座席番号等がこの情報印刷領域106に印刷されることになる。貫通穴102は、ベースシート103の着色層104が積層された領域において、複数の貫通穴102からなる形状が潜像となる「T」の字となるように形成されている。このように、貫通穴102が、ベースシート103の着色層104が積層された領域に形成されていることにより、貫通穴102の内側面にはその全周に渡ってベースシート103が表出している。
【0036】
以下に、上記のように構成された偽造防止シート101の製造方法について説明する。
【0037】
まず、白色のベースシート103の一部の領域に、ベースシート103の色とは異なる黒色で印刷を施すことによって着色層104を積層する。これにより、ベースシート103の一部にベースシート103及び着色層104の複数層からなる積層構造を構成する。またこの際、着色層104の積層と同時に、ベースシート103に対してプレ印刷として地紋を印刷したり所定の色に着色したりすることも考えられる。
【0038】
次に、ベースシート103の着色層104が積層された領域に対して、スポット的にレーザ光を順次照射していき、それにより、潜像「T」の字の形状となるように複数の貫通穴102を形成する。
【0039】
このようにして、図4に示した偽造防止シート101が作製される。
【0040】
以下に、上述した偽造防止シート101の作用について説明する。
【0041】
まず、図4に示した偽造防止シート101を正面、すなわち、ベースシート103と着色層104との積層方向から観察した場合の作用について説明する。
【0042】
図5は、図4に示した偽造防止シート101を正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シート101を正面から見た図である。
【0043】
図4に示した偽造防止シート101を、図5(a)に示すように、正面、すなわち、ベースシート103と着色層104との積層方向から観察した場合、偽造防止シート101の表面に露出したベースシート103及び着色層104、並びに貫通穴102が見えることになるが、貫通穴102においては内側面が視認不可能であるため、貫通穴102の内側面にて表出したベースシート103の白色は見えず、そのため、貫通穴102によって形成される潜像「T」は、ベースシート103の白色として浮かび上がって見えてこない。ここで、貫通穴102の径が1mm以下となる微細なものである場合は、人間の錯覚によって貫通穴102が着色層104の黒色に見え、それにより、図5(b)に示すように潜像「T」は視認困難な状態となる。
【0044】
次に、図4に示した偽造防止シート101に対する観察方向を正面、すなわち、ベースシート103と着色層104との積層方向から変化させていった場合の作用について説明する。
【0045】
図6は、図4に示した偽造防止シート101に対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シート101における潜像の見え方を示す図である。
【0046】
図4に示した偽造防止シート101に対する観察方向を正面から変化させていくと、図6(a)に示すように、貫通穴102の内側面が視認できるようになる。この貫通穴102の内側面には、着色層104とは色が異なる白色のベースシート103が表出しているため、その白色が貫通穴102の内側面にて視認可能となる。この貫通穴102が形成された領域にて偽造防止シート101の表面に露出した着色層104はベースシート103とは色が異なる黒色であるため、この色の違いによって、図6(b)に示すように、この貫通穴102によって構成される潜像「T」がベースシート103の白色として浮かび上がって見えるようになる。
【0047】
ここで、図4に示した偽造防止シート101においては、貫通穴102において、着色層104とは色が異なる白色のベースシート103がその内側面の全周に渡って表出しているため、偽造防止シート101に対する観察方向を正面からどの方向に変化させていった場合であっても、貫通穴102による潜像がベースシート103の白色として浮かび上がって見えるようになる。例えば、偽造防止シート101に対する観察方向を図4中上側に変化させていくと、貫通穴102によって形成される潜像「T」が図6(c)に示すように白色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート101に対する観察方向を図4中右側に変化させていくと、貫通穴102によって形成される潜像「T」が図6(d)に示すように白色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート101に対する観察方向を図4中左側に変化させていくと、貫通穴102によって構成される潜像「T」が図6(e)に示すように白色として浮かび上がって見えるようになる。
【0048】
上述した偽造防止シート101は、複写した場合、ベースシート103に積層された着色層104や情報印刷領域106に印刷された情報は複写されるものの、貫通穴102までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変えていった場合であっても、貫通穴102が形成された領域にて潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。このように真偽判別を行う際、本形態の偽造防止シート101においては、偽造防止シート101に対する観察方向を、ベースシート103と着色層104との積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、貫通穴102による潜像がベースシート103の白色として浮かび上がって見えるため、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる。
【0049】
なお、本形態においては、ベースシート103が白色からなり、着色層104が黒色からなるものを例に挙げて説明したが、ベースシート103と着色層104とが互いに異なる色であれば、ベースシート103や着色層104の色が白色や黒色とは異なる色であったりしても構わない。ただし、ベースシート103の色と着色層104の色とのコントラストの差が大きいほど潜像を認識しやすくすることができる。
【0050】
また、上述した2つの実施の形態において、潜像となる情報は、上述した「T」のように一文字からなるものに限らず、複数の文字からなるものや模様等であってもよい。また、1つの貫通穴2,202のみを用いて中間シート4やベースシート103の色による1つのドットを浮かび上がらせることによって、真偽判別を可能とすることも考えられる。
【0051】
(第3の実施の形態)
図7は、本発明の偽造防止媒体の第3の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は(b)に示した裏面シート205の構成を示す図である。
【0052】
本形態は図7に示すように、それぞれが紙からなる表面シート203及び裏面シート205の複数層が積層された積層構造からなり、その一部の領域に複数の貫通穴202が形成されて構成されている。また、裏面シート205の表面シート203との積層面には、貫通穴202が形成された領域の一部に、裏面シート205とは異なる色を具備する潜像表示層204が潜像となる「T」の字となって所定の深さを有して埋設されている。なお、この潜像表示層204は、裏面シート205の表面シート203との積層面とは反対側の面からは表出していない。表面シート203及び裏面シート205は白色からなり、潜像表示層204は黒色からなる。表面シート203には、貫通穴202が形成されていない領域に情報印刷領域206が設けられており、この偽造防止シート201がコンサート等の入場チケットとして用いられる場合に、コンサートの内容や会場名、座席番号等がこの情報印刷領域206に印刷されることになる。貫通穴202は、潜像表示層204が埋設された領域を含むように、潜像表示層204が埋設された領域については表面シート203、潜像表示層204及び裏面シート205の全てに貫通し、また、潜像表示層204が埋設されていない領域については表面シート203及び裏面シート205に貫通してマトリックス状に形成されている。これにより、貫通穴202のうち、潜像表示層204が埋設された領域に形成されたものにおいては、内側面の全周に渡って潜像表示層204が表出しており、また、潜像表示層204が埋設されていない領域に形成されたものにおいては、内側面に潜像表示層204が表出していない。
【0053】
以下に、上記のように構成された偽造防止シート201の製造方法について説明する。
【0054】
まず、潜像表示層204が埋設された裏面シート205に、潜像表示層204が表出した側を積層面として表面シート203を積層する。
【0055】
次に、互いに積層された表面シート203及び裏面シート205に対して、潜像表示層204が埋設された領域を含むように、スポット的にレーザ光を順次照射していき、それにより、複数の貫通穴202を形成する。
【0056】
その後、表面シート203の情報印刷領域206に情報が印刷されることになるが、その前に、表面シート203に対してプレ印刷として地紋を印刷したり所定の色に着色したりすることも考えられる。
【0057】
このようにして、図7に示した偽造防止シート201が作製される。
【0058】
以下に、上述した偽造防止シート201の作用について説明する。
【0059】
まず、図7に示した偽造防止シート201を正面、すなわち、表面シート203と裏面シート205との積層方向から観察した場合の作用について説明する。
【0060】
図8は、図7に示した偽造防止シート201を正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シート201を正面から見た図である。
【0061】
図7に示した偽造防止シート201を、図8(a)に示すように、正面、すなわち、表面シート203と裏面シート205との積層方向から観察した場合、表面シート203と貫通穴202とが見えることになるが、貫通穴202においては内側面が視認不可能であるため、一部の貫通穴202の内側面に表出した潜像表示層204の黒色は見えず、そのため、潜像表示層204によって形成される潜像「T」は、潜像表示層204の黒色として浮かび上がって見えてこない。ここで、貫通穴202の径が1mm以下となる微細なものである場合は、人間の錯覚によって貫通穴202が表面シート203の白色に見え、それにより、図8(b)に示すように貫通穴202は視認困難な状態となる。また、本形態においては、貫通穴202は、潜像「T」の文字の形状ではなくマトリックス状に形成されているため、その径が大きくなって正面から観察した場合に明確に視認可能となっても、潜像「T」を認識することはできない。
【0062】
次に、図7に示した偽造防止シート201に対する観察方向を正面、すなわち、表面シート203と裏面シート205との積層方向から変化させていった場合の作用について説明する。
【0063】
図9は、図7に示した偽造防止シート201に対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シート201における潜像の見え方を示す図である。
【0064】
図7に示した偽造防止シート201に対する観察方向を正面から変化させていくと、図9(a)に示すように、貫通穴202の内側面が視認できるようになる。貫通穴202のうち潜像表示層204が埋設された領域に形成されたものにおいては、その内側面に表面シート203とは色が異なる黒色の潜像表示層204が表出しているため、その黒色が貫通穴202の内側面にて視認可能となる。一方、貫通穴202のうち潜像表示層204が埋設されていない領域に形成されたものにおいては、その内側面に潜像表示層204が表出しておらず、裏面シート205の白色のみが貫通穴202の内側面にて視認可能となる。表面シート203は、裏面シート205と同一で、かつ潜像表示層204とは色が異なる白色であるため、この色の違いによって、図9(b)に示すように、貫通穴202のうち潜像表示層204が埋設された領域に形成された貫通穴202の内側面に表出した潜像表示層204によって構成される潜像「T」が黒色として浮かび上がって見えるようになる。この際、潜像表示層204の埋設深さが深ければ、貫通穴202の内側面にて表出する潜像表示層204の面積が大きくなるため、潜像「T」を認識しやすくなる。
【0065】
ここで、図7に示した偽造防止シート201においては、貫通穴202のうち、潜像表示層204が埋設された領域に形成されたものにおいては、表面シート203とは色が異なる黒色の潜像表示層204がその内側面の全周に渡って表出しているため、偽造防止シート201に対する観察方向を正面からどの方向に変化させていった場合であっても、潜像表示層204による潜像が潜像表示層204の黒色として浮かび上がって見えるようになる。例えば、偽造防止シート201に対する観察方向を図7中上側に変化させていくと、潜像表示層204によって形成される潜像「T」が図9(c)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート201に対する観察方向を図7中右側に変化させていくと、潜像表示層204によって形成される潜像「T」が図9(d)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになり、また、偽造防止シート201に対する観察方向を図7中左側に変化させていくと、潜像表示層204によって構成される潜像「T」が図9(e)に示すように黒色として浮かび上がって見えるようになる。
【0066】
上述した偽造防止シート201は、複写した場合、表面シート203の情報印刷領域206に印刷された情報は複写されるものの、貫通穴202までは再現できない。また、貫通穴202うち一部の貫通穴202の内側面に表出した潜像表示層204の黒色も複写することができない。そのため、複写物の観察方向を変えていった場合であっても、潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。このように真偽判別を行う際、本形態の偽造防止シート201においては、偽造防止シート201に対する観察方向を、表面シート203と裏面シート205との積層方向からどの方向に変化させていった場合であっても、潜像表示層204による潜像が潜像表示層204の黒色として浮かび上がって見えるため、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる。
【0067】
なお、本形態においては、表面シート203及び裏面シート205が白色からなり、潜像表示層204が黒色からなるものを例に挙げて説明したが、裏面シート205と潜像表示層204とが互いに異なる色であれば、表面シート203と裏面シート205とが異なる色であったり、表面シート203及び裏面シート205や潜像表示層204の色が白色や黒色とは異なる色であったりしても構わない。ただし、裏面シート205の色と潜像表示層204の色とのコントラストの差が大きいほど潜像を認識しやすくすることができる。
【0068】
また、裏面シート205の潜像以外となる領域に潜像表示層204を埋設し、この潜像表示層204によって潜像以外の形状を表現することにより、潜像を認識可能とする構成とすることも考えられる。
【0069】
また、潜像となる情報は、上述した「T」のように一文字からなるものに限らず、複数の文字からなるものや模様等であってもよい。その場合、潜像表示層204を裏面シート205に複数埋設し、複数の潜像表示層204が埋設された領域を全て含むように貫通穴202を形成することになる。
【0070】
また、貫通穴202は、上述したマトリックス状に複数形成されるものに限らず、潜像表示層204が埋設された領域と、潜像表示層204が埋設されていない領域とを含むように形成されれば、同心円状等、任意の形状で形成されていてもよい。
【0071】
また、本形態においては、裏面シート205の表面シート203との積層面に潜像表示層204が埋設されているが、外部から視認不可能な領域であれば、表面シート203の裏面シート205との積層面や、表面シート203や裏面シート205の内部に潜像表示層204が埋設された構成とすることも考えられる。
【0072】
また、本形態においては、表面シート203と裏面シート205との2つの層が積層された積層構造からなるものを例に挙げて説明したが、積層される層の数は複数であれば2つに限らない。ただし、その場合においても、潜像表示層204とこの潜像表示層204が埋設される層との色は互いに異なる必要がある。
【0073】
なお、上述した3つの実施の形態に示した貫通穴2,102,202の形状は、円状や矩形状等、様々な形状とすることが考えられる。
【0074】
また、上述した3つの実施の形態においては、偽造防止媒体として、紙からなる表面シート3,203、中間シート4、裏面シート5,205、あるいはベースシート103が積層された偽造防止シート1,101,201を例に挙げて説明したが、本発明はこのような偽造防止シート1,101,201に限らず、フィルムからなるシート基材や複数の樹脂層が積層されてなるカード基材に上述したような構成を設けたものにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の偽造防止媒体の第1の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図である。
【図2】図1に示した偽造防止シートを正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シートを正面から見た図である。
【図3】図1に示した偽造防止シートに対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シートにおける潜像の見え方を示す図である。
【図4】本発明の偽造防止媒体の第2の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図である。
【図5】図4に示した偽造防止シートを正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シートを正面から見た図である。
【図6】図4に示した偽造防止シートに対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シートにおける潜像の見え方を示す図である。
【図7】本発明の偽造防止媒体の第3の実施の形態となる偽造防止シートを示す図であり、(a)は正面から見た図、(b)は(a)に示したA−A’断面図、(c)は(b)に示した裏面シートの構成を示す図である。
【図8】図7に示した偽造防止シートを正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)は偽造防止シートを正面から見た図である。
【図9】図7に示した偽造防止シートに対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、(a)は断面方向から見た図、(b)〜(e)は偽造防止シートにおける潜像の見え方を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1,101,201 偽造防止シート
2,102,202 貫通穴
3,203 表面シート
4 中間シート
5,205 裏面シート
6,106,206 情報印刷領域
103 ベースシート
104 着色層
204 潜像表示層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に、複数層が積層され、該複数層のうち少なくとも2つの層が互いに異なる色を具備する積層構造を有し、
前記積層構造が設けられた領域に貫通穴を有する偽造防止媒体。
【請求項2】
複数層が積層されてなり、
前記複数層のうち少なくとも1つの層は、外部から視認不可能となる領域の一部に当該層とは異なる色を具備する潜像表示層が埋設され、
前記潜像表示層が埋設された領域と前記潜像表示層が埋設されていない領域とにそれぞれ貫通穴を有する偽造防止媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−23761(P2008−23761A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196668(P2006−196668)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】