説明

傾斜センサ

【課題】外気の温度変化の影響を軽減して、安定した傾き検知が行え、且つ、移動体の衝突音の発生を抑えられた傾斜センサを提供する。
【解決手段】基部11、及び基部11より少なくとも一方向へ延設された延設部12からなる中空状のケース本体1と、ケース本体1内に収納され、ケース本体1が所定の角度以上傾いた場合に、基部11から延設部12へ変位する金属製の移動体2と、延設部12に巻回されるコイル3とを備え、前記ケース本体1は、内部の空気の密度が外気の空気の密度に比べて低く保たれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車転倒検知用等に用いられ、検知対象物の傾き及び転倒を検知する傾斜センサBとして、図3に示すような、ケース本体1と、移動体2と、コイル3とを備えたものが提供されている(例えば特許文献1参照)。なお、以下図3における上下左右を基準として説明を行う。
【0003】
ケース本体1は、左右方向に長い略円筒状の基部11、及び当該基部11の左右両端から各々左右上方へ延設されて先端が閉塞した一対の円筒状の延設部12から構成される。ここで、基部11は、ケース本体1が対象物に取り付けられる際に、略水平となるように設けられ、延設部12は、水平に対して所定の角度θ1(例えばθ1=55度)の傾きを持って形成されている。また、ケース本体1内部の空気の密度は、ケース本体1外部の空気の密度と略等しく保たれている。更に、ケース本体1の周縁部には、対象物に取り付けられる際に用いられるねじ孔1aが穿設されている。
【0004】
移動体2は、金属から略球状に形成されてケース本体1内に変位可能に収納され、ケース本体1が、55度以上左右方向へ傾いた場合に、基部11から延設部12へ変位する。
【0005】
コイル3は、延設部12に巻回され、コイル3にかかる電圧の変化を検出する図示しない検知回路に電気的に接続されている。ここで、コイル3のインピーダンスZは、コイル3に接続される定電流源の角周波数をω、コイル3のインダクタンスをLとした場合に、Z=jωLで表される。そして、コイル3の巻き数をn、コイル3の断面積をS、コイル3の長さをd、透磁率をμとした場合、一般的にインダクタンスLは、L=(μnS)/dで表される。従って、コイル3のインピーダンスZは、Z=jωL=jω(μnS)/d(式1)となる。
【0006】
そのため、移動体2がケース本体1の基部11内に存在する場合のコイル3のインピーダンスZは、透磁率μ=μ(μは、空気中の透磁率)とすると、上記式1より、Z=jω(μS)/dとなる。
【0007】
検知回路は、シュミット回路等のヒステリシス特性を備える回路から構成され、定電流源にコイル3を接続し、当該コイル3に発生する電圧と、閾値電圧とを比較して、比較結果に応じてHighの出力信号(V1)または、Lowの出力信号(V2)を出力する。
【0008】
上記構成からなる傾斜センサBは、図4に示すように、検知対象物が、左右方向へ傾いた場合に、移動体2がケース本体1内において、基部11から延設部12側へ変位する。その際、空気よりもはるかに大きな透磁率を持つ金属製の移動体2が、延設部12に変位することで、上記式1の透磁率μがμよりも増大し、延設部12に巻回するコイル3のインダクタンスLが大きくなる。そのため、コイル3のインピーンダンスZも上昇し、それに伴ってコイル3に発生する電圧が上昇する。そして、対象物の傾きがθ1以上となり、コイル3に発生する電圧が検知回路の閾値電圧を上回ると、対象物の傾きを検知して、図5の実線に示す通り、検知回路の出力がV1からV2に切り替わる。
【0009】
また、検知対象物が、θ1以上傾いた状態から、水平状態に復帰する際には、移動体2がケース本体2内において、延設部12から基部11側へ変位する。その際、移動体2が基部11に変位するに従って、延設部12に巻回するコイル3のインピーダンスが減少し、それに伴ってコイル3に発生する電圧が低下する。ここで、検知回路は、ヒステリシス特性を持つことから、対象物の傾きがθ1よりも小さなθ2(例えばθ2=52度)となりコイル3に発生する電圧が閾値電圧を下回ると、対象物が水平方向にあることを検知して、図5の破線で示す通り、検知回路の出力がV2からV1に切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006―105763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ケース本体1内部には、外気と略等しい密度の空気が存在するため、外気の温度が変化すると、それに伴ってケース本体1内部の空気の温度も変化する。そのため、外気の温度が大きく変化した場合には、ケース本体1内部の空気の温度も大きく変化することで、移動体2が膨張または伸縮を起こしたり、ケース本体1が歪んでしまい、対象物がθ1以上傾いた場合、若しくは、対象物の傾きがθ2以下となった場合に、移動体2が基部11から延設部12側、若しくは、延設部12から基部11側へスムーズに変位せず、変位の途中で引っ掛かったり、変位に時間がかかる等の不具合を起こし、傾斜センサBが正常に動作しない虞がある。
【0012】
また、上記従来例に示す傾斜センサBは、ケース本体1内外の空気の密度が略等しいため、ケース本体1外部の空気の温度が変化すると、それに伴ってケース本体1内部の空気の温度も略同様に変化する。その際、ケース本体1内部の温度変化に伴って移動体2の温度が変化し、その影響で移動体2の透磁率μが変化する。
【0013】
従って、コイル3のインピーダンスZは、外気の温度変化に起因する移動体2の透磁率μの変化の影響を受けることから、移動体2の温度変化に合わせて温度補正を行わなければ、コイル3のインピーダンスに誤差が生じ、それに伴ってコイル3に発生する電圧にも誤差が生じることで、傾斜センサBが誤検知する虞がある。
【0014】
更に、ケース本体1内部には、ケース本体1外部と略等しい密度の空気が存在するため、ケース本体1内を移動体2が移動(変位)して、ケース本体1の内壁に移動体2が衝突する際に発生する衝突音が、ケース本体1内部の空気を伝わってケース本体1全体から放射される。
【0015】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、外気の温度変化の影響を軽減して、安定した傾き検知が行え、且つ、移動体の衝突音の発生を抑制した傾斜センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明は、基部、及び基部より少なくとも一方向へ延設された延設部からなる中空状のケース本体と、ケース本体内に収納され、ケース本体が所定の角度以上傾いた場合に、基部から延設部へ変位する金属製の移動体と、延設部に巻回されるコイルとを備え、前記ケース本体は、内部の空気の密度が外気の空気の密度に比べて低く保たれていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、外気の温度変化の影響を軽減して、安定した傾き検知が行え、且つ、移動体の衝突音の抑制を行うことができる。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1記載の発明において、前記ケース本体は、内部が略真空に保たれていることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、外気の温度変化の影響をより軽減して、更に安定した傾き検知が行え、且つ、衝突音の発生がより抑えられる。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記ケース本体は、先端に空気抜き穴が形成された空気抜き部を有することを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、ケース本体内の空気を容易に抜くことができ、生産性の向上を図ることができる。
【0022】
請求項4の発明は、請求項3記載の発明において、前記空気抜き部は、ケース本体外部からケース本体内部へ空気が流入することを防止するための弁が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この発明によれば、ケース本体内部の空気を抜いている時または抜いた後に、ケース本体外部の空気が逆流してケース本体内部に流入することを容易に防止することができる。
【0024】
請求項5の発明は、請求項3または4記載の発明において、前記空気抜き穴は、ケース本体内部の空気が所定量抜かれた後に、溶着により塞がれることを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、ケース本体内部の空気を所定量抜いた後に、空気が逆流してケース本体内部に流入することを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明では、外気の温度変化の影響を軽減して、安定した傾き検知が行え、且つ、移動体の衝突音の発生を抑制した傾斜センサを提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における傾斜センサの概略断面図を示す。
【図2】同上における傾斜センサの要部拡大図を示す。
【図3】従来例における傾斜センサの概略断面図を示す。
【図4】同上における傾斜センサが傾いた際の概略断面図を示す。
【図5】同上における傾斜センサの傾斜角度に対する出力波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施形態)
本実施形態における傾斜センサAと、図3で示した従来例における傾斜センサBとで異なる点は、図1に示すように、傾斜センサAのケース本体1には、ケース本体1内部の空気を抜くための空気抜き部4が設けられており、且つ、ケース本体1内部が略真空に保たれている点である。ここで、ケース本体内部の真空度は、0.01〜0.001Pa程度であるものとする。なお、その他の構成については、図3に示す従来例の傾斜センサBと同様であるため、同様の符号を付して説明を省略する。
【0030】
空気抜き部4は、先端に空気抜き穴4aが設けられた略円筒状に形成され、基部11の外周面に基部11の内径部と連通して設けられている。そして、空気抜き部4は、図2に示すように、ケース本体1内部の空気を抜く時、または、抜いた後にケース本体1内に空気が入り込むことを防止するためのゴム製の弁5が、その内径部に設けられている。
【0031】
そして、傾斜センサAは、空気抜き部4よりケース本体1内部の空気が抜かれ、内部が略真空となった後、空気抜き穴4aが溶着によって封止される。その際、空気抜き部4が設けられていることにより、ケース本体1内部の空気を容易に抜くことができ、生産性の向上を図ることができる。また、弁5が設けられていることで、ケース本体1内の空気を抜いている最中、または、抜いた後に、ケース本体1外部の空気が、ケース本体1内部へ逆流することを簡素的に防止することができる。更に、ケース本体1内部の空気が抜かれた後に、空気抜き穴4aが溶着によって封止されることで、ケース本体内に空気が流入することを確実に防止することができる。
【0032】
以上の構成からなる本実施形態の傾斜センサAは、ケース本体1内部が略真空状態に保たれるため、ケース本体1内部はケース本体1外部の温度変化の影響を受け難い。従って、外気の温度が変化した場合に、ケース本体1内部に存在する移動体2が、外気の温度変化の影響を受けることを抑制でき、移動体2が膨張または伸縮することを防止することができる。また、ケース本体1内部はケース本体1外部の温度変化の影響を受け難いことから、ケース本体1が歪むことも抑制することができる。
【0033】
従って、外気の温度が大きく変化した状態であっても、対象物の傾きがθ1以上傾いた場合、若しくは対象物の傾きがθ2以下となった場合に、移動体2は、ケース本体1内部をスムーズに変位することができ、傾斜センサAは安定した傾き検知を行うことができる。
【0034】
また、ケース本体1内部に収納されている移動体2が、ケース本体1外部の空気の温度変化の影響を受けることを抑制でき、移動体2の透磁率μが略一定に保たれる。よって、移動体2が延設部12内に存在している時に、コイル3のインピーダンスZが、ケース本体1外部の空気の温度変化の影響を受けることを抑制することができる。
【0035】
更に、ケース本体1内部が、略真空状態に保たれているため、移動体2が変位する際に生じるケース本体1と移動体2との衝突音が、ケース本体1内では発生せず、衝突部から直接ケース本体1を介して外部に発生する音のみとなることから、ケース本体1全体から衝突音が発生する場合に比べて、移動体2の衝突音を抑制することができる。
【0036】
従って、本実施形態における傾斜センサAでは、ケース本体1内部が略真空状態に保たれることによって、外気の温度変化の影響を軽減して、安定した傾き検知が行え、且つ、移動体2の衝突音の発生を抑制することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、移動体2を略球状としているが形状はこれに限定されず、略円柱状等であってもよく、ケース本体1の形状についても内部を移動体2が変位可能な形状に形成されていればよいものとする。
【0038】
また、θ1、θ2は、それぞれθ1=55度、θ2=52度に設定されているが、この角度に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1 ケース本体
2 移動体
3 コイル
4 空気抜き部
4a 空気抜き穴
5 弁
11 基部
12 延設部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部、及び基部より少なくとも一方向へ延設された延設部からなる中空状のケース本体と、
ケース本体内に収納され、ケース本体が所定の角度以上傾いた場合に、基部から延設部へ変位する金属製の移動体と、
延設部に巻回されるコイルとを備え、
前記ケース本体は、内部の空気の密度が外気の空気の密度に比べて低く保たれていることを特徴とする傾斜センサ。
【請求項2】
前記ケース本体は、内部が略真空に保たれていることを特徴とする請求項1記載の傾斜センサ。
【請求項3】
前記ケース本体は、先端に空気抜き穴が形成された空気抜き部を有することを特徴とする請求項1または2記載の傾斜センサ。
【請求項4】
前記空気抜き部は、ケース本体外部からケース本体内部へ空気が流入することを防止するための弁が設けられていることを特徴とする請求項3記載の傾斜センサ。
【請求項5】
前記空気抜き穴は、ケース本体内部の空気が所定量抜かれた後に、溶着により塞がれることを特徴とする請求項3または4いずれか記載の傾斜センサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−192324(P2010−192324A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36920(P2009−36920)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】