説明

優れた熱的特性と光学的特性を有するアクリル酸エステル系重合体及びそのためのモノマー

【課題】優れた熱的特性及び光学的特性を有し、光ファイバ等の光学用プラスチックとしての有用性なα−(ω−アルケニル)アクリル酸エステル系環化重合体及びそのための単量体を提供する。
【解決手段】1.α−(4−ペンテニル)アクリル酸メチル類を重合して得られる環化重合体、もしくは2.α−(3−ブテニル)アクリル酸メチル類を重合して得られる環化重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた熱的特性及び光学的特性を有し、特に光ファイバ等の光学用プラスチックとしての有用性が期待されるα−(ω−アルケニル)アクリル酸エステル系環化重合体及びそのための単量体(モノマー)に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは石英製が主力であったが、加工性の悪さや曲げに対する弱さを克服するためにプラスチック製の光ファイバが開発され実用化されている。通常のプラスチック光ファイバはポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の透明な樹脂からなるコアと、これよりも屈折率が小さくかつ透明な含フッ素ポリマー等の樹脂からなるクラッドとを基本構成単位としている。
【0003】
より高性能の光ファイバの提供を目的として素材面、構造面から様々な研究が行われており、そのような改良素材の1つとして、フッ素原子を含む環化重合した5員環又は6員環を繰り返し単位をとする光ファイバ用樹脂重合体も知られるようになった。
【0004】
例えば、特許文献1には、下記式(1)で表されかつ塩素原子を有する単量体が環化重合した繰り返し単位を有する重合体、または、下記式(1)で表される単量体が環化重合した繰り返し単位と下記式(2)で表される単量体が重合した繰り返し単位とを有する重合体をコアとする光ファイバが報告されている。
【0005】
【化6】

(ここで、m、nはそれぞれ独立に0〜5の整数、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に炭素数1〜9のペルフルオロアルキル基、塩素原子またはフッ素原子、を表す。)
【特許文献1】国際公開第02/46811号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ジエン類の環化重合において、従来困難とされた高重合性で高環化率の高分子を生成するモノマーを提供することであり、また、それをラジカル重合又はアニオン重合することによって熱的特性及び光学特性の優れた新規な環化高分子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を行ったところ、α−(ω−アルケニル)アクリル酸エステル系環化重合体が優れた熱的特性及び光学特性を有することを見出して本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
1.下記一般式(I)又は(II)で表されるモノマーを重合して得られる重合体。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
2.上記一般式(I)で表されるモノマーを重合して得られる上記1記載の重合体。
3.重合体が、上記一般式(I)で表されるモノマーを重合して得られる下記式(III)及び/又は(IV)の構造単位を繰返し単位として含む環化重合体である上記2記載の重合体。
【化2】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子であり、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nは2以上の整数である。)
4.上記一般式(II)で表されるモノマーを重合して得られる上記1記載の重合体。
5.重合体が、上記一般式(II)で表されるモノマーを重合して得られる下記式(V)及び/又は(VI)の構造単位を繰返し単位として含む環化重合体である上記4記載の重合体。
【化3】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子であり、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nは2以上の整数である。)
6.環化率が80%以上である上記1から5のいずれかに記載の重合体。
7.ガラス転移温度(Tg)60℃以上である上記1から6のいずれかに記載の重合体。
8.加熱分解温度が380℃以上である上記1から7のいずれかに記載の重合体。
9.下記一般式(I)で表されるα−(ω−アルケニル)アクリル酸又はそのエステル。
【化4】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
10.下記一般式(II)で表されるα−(ω−アルケニル)アクリル酸又はそのエステル。
【化5】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
11.上記1から8のいずれかに記載の重合体をコア又はクラッドとする光ファイバ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の環化重合体は、アクリル基に由来する優れた光学的特性と環に由来する優れた熱的性質を併せ持ち、光ファイバ等の光学用材料としての応用が大いに期待される。また、本発明のモノマーは、多様な構造の類似モノマーの合成が可能なため、種々の環化重合体の合成が可能であり、それによって多様の性質の高分子重合体の調整を可能としたものである。なお、「α−(ω−アルケニル)アクリル酸又はそのエステル」の表記において、ωは、アルケニル基の炭素−炭素の2重結合が末端にあることを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、1,6−ジエンの環化重合の重合について説明する。なお、簡略化のためアクリル基については省略する。
【0011】
【化7】

(上記において、Xは−CH2−又は酸素原子を意味する。また、黒丸印はラジカルを意味する。)
【0012】
1,6−ジエンのラジカル重合反応は上記のとおり3つの反応が考えられる。1つは、6位(又は2位)の炭素原子が2位(又は6位)の炭素原子と結合して5員環を形成する反応である(工程(1)、(3)参照)。いま1つは、6位(又は2位)の炭素原子が1位(又は7位)の炭素原子と結合して6員環を形成する反応である(工程(2)、(4)参照)。またこのとき、工程(5)で示されるように、環を形成することなく他のモノマーと直接反応してペンダント重合体を形成することもあり得る。行程(1)、(2)に続いてそれぞれ行程(3)、(4)が起こり、これらの反応により生成したラジカルは、行程(1)、(2)、(5)と同等の反応のいずれかを経て鎖の長さを伸ばして行くことになる。このことは行程(5)で生成したラジカルについても同じである。
【0013】
これらの重合反応の結果、下記(VII)又は(VIII)の繰返し単位からなる、あるいは両構造単位を有するポリ1,6−ジエン重合体が得られる。これら重合体のうちいずれの重合体が生成するかは、反応温度等の反応条件や重合開始剤の種類に依存する。また、反応条件、モノマーの構造によっては(IX)を繰返し単位とする重合体、(VII)及び(IX)からなる重合体、(VIII)及び(IX)からなる重合体、あるいは(VII)、(VIII)及び(IX)からなる構造単位を含む高分子を生成する。
【0014】
【化8】

【0015】
これら繰返し単位(VII)、(VIII)又は(IX)から構成されるポリ1,6−ジエン重合体は、模式的には下記によって示すことができる。
【0016】
【化9】

【0017】
これら重合体は、分子内に環構造を有することから熱的性質が優れた熱的特性を有する。
【0018】
本発明におけるモノマーの一例(X=−CH2−の場合)は、下記のとおりのα−(4−ペンテニル)アクリル酸メチル(MPEA)であり、これをラジカル重合又はアニオン重合することにより、環化重合体を形成する。
【0019】
【化10】

【0020】
α−(4−ペンテニル)アクリル酸メチル(MPEA)モノマーの合成スキームは下記のとおりである。なお、比較参考のために、併せてα−(ペンチル)アクリル酸メチル(MPAA)の合成法についても記載する。
【0021】
【化11】

【0022】
脱水C25OH溶液中C25ONaの存在下に、マロン酸ジメチルエステルを5−ブロモ−1−ペンテンと反応させ、得られた4−ペンテニルマロン酸ジメチルエステルを、KOHのメタノール溶液中にて加水分解してモノメチルエステルとし、さらに(C252NH等のジアルキルアミン次いでホルムアルデヒドとの反応後、脱炭酸することによって目的とするMPEAを得ることができる。また、MPAAは、5−ブロモ−1−ペンテンの代わりに1−ブロモペンタンを用いることによって、同様にして製造することができる。なお、前記一般式においてXが酸素原子であるモノマーについては、CH2=CH(CH2n−Hal(nは2又は3の整数を表し、Halは臭素原子又は塩素原子を意味する。)の代わりに、CH2=CH−O−(CH22−Hal、CH2=CH−O−CH2−Halを用いることによって同様にして製造することができる。
【0023】
下記に示すとおり、MPEAは、5−ブロモ−1−ペンテンの代わりに5−クロロ−1−ペンテンを用いることによって製造することもできる。また、同様に、4−ブロモ−1−ブテン又は4−クロロ−1−ブテンを用いることによってα−(3−ブテニル)アクリル酸メチル(MBEA)を製造することができる。モノマーとして、MBEAを用いることで、重合させた場合にモノマー間のメチレン基が1つになり、ポリマーのガラス転移温度の上昇を図ることができる。なお、これら5−ハロ−1−ペンテン、4−ハロ−1−ブテン、CH2=CH−O−(CH22−Hal及びCH2=CH−O−CH2−Hall等の代わりに、それらの飽和メチレン基に置換基を有するものを使用しても良い。
【0024】
【化12】

【0025】
また、α−(ω−アルケニル)アクリル酸エステルは、特にアクリル酸メチルに限定されるものではなく、他のエステルであってもよい。即ち、下記一般式で示される化学式におけるRは、特に炭素数において限定されるものではなく、分岐してもよいアルキル基、あるいはイソボルニル基、アダマンチル基、置換アダマンチル基、置換シクロヘキシル基等の飽和炭化水素環基であってもよく、また、これら炭化水素基の水素原子の代わりフッ素原子、塩素原子などを含んでもよい。これらの種々のα−(ω−アルケニル)アクリル酸エステルは、上式に示すように、それぞれのエステル基からなるマロン酸エステルを出発物質としても合成可能であり、MPEAやMBEAのエステルメチル基とのエステル交換によっても合成可能である。エステル基(R)にかさ高な分子量の大きいものを付加すればガラス転移温度の上昇を図ることができる。そして、前記一般式においてXが酸素原子であるモノマーについても同様である。
【0026】
【化13】

【0027】
これらモノマーの重合は、ラジカル反応に基づいた付加重合であっても、あるいはアニオン反応に基づいた付加重合であってもよい。ラジカル重合の場合は、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の重合開始剤を用いて公知の方法に従って反応させればよい。重合開始剤としては、クメンヒドロペルオキシド(CHP)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,3−ジメチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルヘキサンニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,3,3−トリメチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルヘプタンニトリル、2,2’−アゾビス−2−シクロプロピルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−シクロペンチルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−ベンジルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−(4−ニトロベンジル)プロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−シクロブチルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−シクロヘキシルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−(4−クロロベンジル)プロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−エチル−3−メチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−イソプロピル−3−メチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−イソブチル−4−メチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロブタンニトリル、2,2’−アゾビス−2−カルボメトキシプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−カルボエトキシプロピオニトリル等のアゾ化合物や上記のクメンヒドロペルオキシドの他に、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ビス−(1−オキシシクロヘキシル)ペルオキシド、アセチルペルオキシド、カプリルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ステアロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過酸化ベンゾイル、p,p’−ジクロル−過酸化ベンゾイル、(2,4,2’,4’−テトラクロル)−過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジ−t−アミルペルオキシド、t−ブチル−クミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシド)−ヘキサン、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロペルオキシド−ヘキサン、t−ブチルペルアセテート、t−ブチルペルイソブチレート、t−ブチルペルピバレート、t−ブチルペルベンゾエート、ジ−t−ブチルペルフタレート、2,5−ジメチル(2,5−ベンゾイルペルオキシ)−ヘキサン、t−ブチルペルマレエート、i−プロピルペルカーボネート、t−ブチルペルオキシ−i−プロピルカーボネート、コハク酸ペルオキシド等の過酸化物が含まれるが、これらに限定されない。また、アニオン重合の場合は、t−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム、t−ブチルマグネシウムクロリド等の重合開始剤を用いて公知の方法に従って製造することができる。
【0028】
上記一般式(III)及び/又は(IV)で表される構造単位を繰返し単位として含む環化重合体であって、式中、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nが2以上の整数である環化重合体は、上記一般式(I)で表されるモノマーを重合することによって得られる。
【0029】
また、上記一般式(V)及び/又は(VI)で表される構造単位を繰返し単位として含む環化重合体であって、式中、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nが2以上の整数である環化重合体は、上記一般式(II)で表されるモノマーを重合することによって得られる。
【0030】
本発明において、用語の意味は以下のとおりである。
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味し、好ましくは、フッ素原子又は塩素原子であり、特に好ましくはフッ素原子である。
「炭化水素基」とは、分岐してもよいアルキル基、あるいは飽和炭化水素環基を意味する。このうちアルキル基として好ましいのは炭素数1乃至6、特に好ましくはメチル基等の1乃至4のアルキル基である。飽和炭化水素環基としては、イソボルニル基、アダマンチル基、置換アダマンチル基、置換シクロヘキシル基等を挙げることができる。これらアルキル基及び飽和炭化水素環基は1以上のハロゲン原子で置換されてもよい。
「重合体」は、2つ以上のモノマーが重合して得られる化合物、即ちm+nが2以上の化合物を意味する。好ましくは、高分子である。
「高分子」とは、これらモノマーを重合して得られる分子量5千以上、好ましくは分子量1万以上の化合物を意味する。「高分子」の観点からすると、m+nは好ましくは60以上、さらに好ましくは65以上である。「樹脂」とは、高分子の樹脂化により分子量が大きなものを意味する。
【0031】
環化重合体としての物理的な特性、例えば、熱的特性あるいは光学的特性を十分に発揮するためには適度な環化率が必要であり、その環化率は、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。同様の理由により、環化重合体としての特性を十分に発揮するためのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以上更に好ましくは60℃以上であり、また、その加熱分解温度は、350℃以上、好ましくは380℃以上である。
【0032】
以下、実施例を以って説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
[モノマーの合成]
以下の方法によってMPEA及びMPAAを合成した。なお、類似化合物の報告されている合成方法に従って[Atta-Ur-Rahman, J. A. Beisler, J. Harley-Mason, Tetrahedron, 36, 1063 (1980)参照]、それぞれ5−ブロモ−1−ペンテン及び1−ブロモペンタンを用いて、マロン酸ジメチルエステルから4−ペンテニルマロン酸ジメチルおよびペンチルマロン酸ジメチルを経て合成した。
【0034】
1.MPEAの合成;
MPEAの合成は公知のα−アルキルアクリル酸エステル(RA)の合成法を参考にして行った[E. L. Madruga, J. S. Roman, M. A. Lavia, C. F. Monreal, Macromolecules, 17, 989 (1984)参照]。100mlの丸底フラスコに4−ペンテニルマロン酸モノメチルエステル(MCHE)18.9g(0.1mol)を仕込み10℃に冷却後、系を同温度に保ちながらジエチルアミン7.3g(0.1mol)を攪拌下ゆっくり滴下した。発熱が止まってから1時間後に37%メタノール−水溶液のホルムアルデヒド10mlを滴下した。その際、CO2が発生するので反応装置は密閉を避けた。滴下終了後、系を10℃に保ち2日間攪拌した。1.5gのK2CO3を10mlの水に溶かした溶液を加え反応の完結を確認し、エーテルにより抽出した。次に、有機層を18%塩酸を用いて洗浄後、3回水により洗浄した。CaCl2で一晩乾燥後、エーテルを留去して得られた油状残渣を減圧蒸留により精製した。MPEAの元素分析結果と1H NMR、13C NMRスペクトルの測定により求めたケミカルシフトは以下の通りであった。
収率:49%、融点:43℃(3mmHg),
元素分析:Calcd. for C9H14O2:C,70.10%;H,9.15%. Found:C,70.05%;H,9.16%;
1H NMR:δ=1.57(quint,2H)2.08(quart, 2H)2.32(t,2H)3.75(s,3H)4.99(doublet of doublet,2H)5.53(s,1H)5.81(m,1H)6.14(s1H),
13C NMR:27.5(-CH2-CH2-CH2=CH2),31.2(-CH2-CH2-CH2=CH2),33.1(-CH2-CH2-CH2=CH2),51.6(CH3)114.7(CH=CH2)124.6(CH2=C<)138.2(CH=CH2)140.4(=C<)167.6(C=O)
【0035】
2.MPAAの合成
MPAAの合成は、上記MPEAの合成法と同様の方法で、MCHEの代わりにペンチルマロン酸モノメチルエステル(PMME)を用いて合成した。
収率:54%、融点:47℃(3mmHg),
元素分析:Calcd. for C9H14O2:C,69.19%;H,10.32%.Found:C,69.35%;H,10.43%;
1H NMR:δ=0.88(3H)1.31(4H)1.46(2H)2.29(2H)3.74(3H)5.52(1H)6.12(1H)
13C NMR:13.8(-CH2-CH2-CH2-CH3),22.3(-CH2-CH2-CH2-CH3),28.0(-CH2-CH2-CH2-CH3),31.3(-CH2-CH2-CH2-CH3),31.7(=C-CH2-),51.5(-OCH3),124.2(CH2=C<),140.8(>C<),167.6(C=O)
【実施例2】
【0036】
[MPEA及びMPAAのラジカル重合]
(準備)
重合溶媒に用いたベンゼンは、市販品を濃硫酸で洗浄し、中性になるまで水で洗浄した。塩化カルシウムで一晩脱水後、金属ナトリウム存在下で二回蒸留精製した。開始剤に用いたAIBNは3回メタノールで再結晶し精製した。CHPは市販品をそのまま使用した。
(重合方法)
常法により洗浄したパイレックス(登録商標)ガラス重合管に所定量のモノマー及び重合開始剤を仕込み、3回凍結―脱気―融解を繰り返した後封管し所定の温度で重合した。60℃以下の重合では重合開始剤としてAIBNを、100℃以上の重合では重合開始剤としてCHPを使用した。重合後、氷水にて急冷することにより重合を停止した。重合系を少量のクロロホルムに溶解後、過剰のメタノールに投入し、得られた沈殿をガラスフィルターでろ別乾燥することによりポリマーを回収した。重合率は重量法により決定した。その後の測定には、クロロホルム―メタノール系で再沈精製したポリマーを使用した。比較対照のために重合したポリ(MPAA)は分子量が小さいため、沈殿法ではポリマーの回収ができなかった。分子量は重合終了後の重合系をそのままGPCで測定し求めた。
【0037】
(MPEAのラジカル重合に関する考察)
MPEAとMPAAの重合結果を類似モノマーである、N−メチル−N−アリル−2−(メキシカルボニル)アリルアミン(MAMC)とα−アリロキシメチルアクリル酸メチル(AMA)及びそれらの対応する1官能性化合物であるN−メチル−N−アリル−2−(メキシカルボニル)アリルアミン(MPMC)とα−プロポキシメチルアクリル酸メチル(PMA)および関連するモノマーのN−メチル−N−アリルメタクリルアミド(MAMA)の既に報告されている重合結果とともに表1に示す。
【0038】
【表1】

表1において、各記号の意味は下記のとおりである。
a.変化率
b.環化率
c.ベンゼン溶媒
【0039】
MPEAの重合速度は類似モノマーのMAMC等に比べ多少遅いが、高環化率ポリマーを与えるモノマー設計の原則に基づいて設計されたMAMAに比較するとかなり速い。ポリ(MPEA)の環化率は分子内環化反応に不利な塊状(バルク)重合においても80%を超えているが、MAMCのように完全環化ポリマーを与えていない。表1に掲記されている環化率は、1H NMRスペクトルの、オレフィンプロトンの吸収とその他のプロトンの吸収強度を比較することにより求めた。
【0040】
MPAAは予想に反して、低重合性ではあるが重合体を生成している。このため、MPEAの重合に際してペンダント基を導く分子間成長反応が進み、完全環化ポリマーの生成には至らなかったものと思われる。後述するようにポリ(MPEA)中に検出されるペンダント基のほとんどがペンテニル基であることからも理解されるように、MPEAのα−置換アクリル基はアリル基よりも高反応性のため、MPEAのほとんどはそのアクリル基側から重合反応に関与すると考えられる。MPEAはかなり高重合性のため、溶液重合を行うことにより、環化率が99%に達する高分子量ポリマーを得ることが可能である。既報のMAMCでは、完全環化ポリマーが生成しMPMCは単独重合性を示していない。一方、PMAは高重合性を示し、AMAはペンダント基を有するポリマーを与えている。このように、対応する1官能性化合物の重合性と1,6−ジエンの環化重合性の間には、今回のMPEAを含め、α−置換アクリル基を有する1,6−ジエンにおいても対応関係が認められる。
【0041】
また、重合温度が上がるとポリ(MPEA)の環化率が上昇している。この結果は、MPEAの対応する1官能性モノマーであるMPAAの重合では、重合温度が上がるにつれポリ(MPAA)の分子量が減少していることを考えると、MPEAの重合において重合温度の上昇に伴い未閉環構造を導く分子間成長反応が抑制されるためといえる。
【0042】
(ポリ(MPEA)の繰返し単位の構造に関する考察)
MPEAの13C NMRスペクトルを、メチル及びメチン炭素が上向きにメチレン炭素が下向きに現れる条件で測定した(DEPT測定)。各ピークの同定は、これらスペクトルの比較により、また、構造が明らかになっているポリ(AMA)やポリ(MAMC)のスペクトルとの比較を基に行った。また、MPEAの構造にはメチレン炭素が多いため、DEPT測定によっても区別しにくい吸収がある。そこで、核オーバーハウザー効果が抑制された条件で13C NMRスペクトルの測定(nne測定)を行い、吸収強度から各炭素の吸収の重なりを考慮して、各ピークを帰属した。
【0043】
MPEAの4級炭素のケミカルシフトは55.7ppmと57.3ppmに観測された。5員環を繰り返し単位とするポリ(AMA)およびポリ(MAMC)では、5員環の4級炭素のケミカルシフトがそれぞれ57.2ppm、55.6ppm[M. Urushisaki, T. Kodaira, T. Furuta, Y. Yamada, S. Oshitani, Macromolecules, 32, 322 (1999)参照]及び56.8ppm、54.6ppm[T. Kodaira, Q. Q. Liu, M. Satoyama, M. Urushisaki, T. Utsumi, Polymer, 40, 6947 (1999)参照]に検出されている。また、MPEAの分子内反応で得られる、5員環構造と類似構造を有する低分子シクロペンタン化合物、カムホナミン酸エチルエステル(Camphonanic acid methyl ester(CME))の4級炭素のケミカルシフトは55.2ppmと報告されている[A. Nayek, M. G. B. Drew, S. Ghosh, Tetrahedron, 59, 5175 (2003)参照]。さらに、α−(2−フェニルアリロキシ)メチルスチレン(BPAE)及びα−アリロキシメチルスチレン(AMS)のモノマー単位のテロメル化物として、それぞれ6員環及び5員環化合物のテロ(BPAE)とテロ(AMS)が得られているが、前者の6員環4級炭素は43.0ppm及び41.6ppmに[H. J. Lee, T. Kodaira, M. Urushisaki, T. Hashimoto, Polymer, 45, 7505 (2004)参照]、後者の5員環4級炭素は52.4ppm及び54.0ppmに[H. J. Lee, H. Nakai, T. Kodaira, M. Urushisaki, T. Hashimoto, Europ. Polym. J., 41, 1225 (2005)参照]検出されている。このように、5員環4級炭素はいずれも55ppm付近に観測されており、6員環4級炭素のケミカルシフトと大きな差があることを考慮するとMPEAの環状繰り返し単位はほとんどが5員環からなると結論される。
【0044】
以上の例では、得られた環化重合体の環状繰返し単位は、ほぼ5員環からなる重合体である。
【0045】
(副反応に関する考察)
ポリマーの1H NMRスペクトルには、4.67ppm及び5.32ppmにモノマー由来のオレフィンプロトンとは異なる吸収が僅かに認められ、何らかの副反応の進行が示唆された。しかしながら、それらのピーク強度は、塊状重合で得られたポリマーの場合にはペンダント基のそれと比較して極めて低く、また、溶液重合で得られたペンダント基の含量が低いポリマーでは、その強度はペンダント基の強度と同等であることを考慮すると、これら副反応に由来すると思われる構造単位の含量は極めて低いことがわかる。また、重合温度の上昇とともに、僅かではあるがこれらの副反応に由来する吸収の強度は高くなる傾向を示した。
【0046】
13C NMRスペクトルで未閉環ペンダント基のオレフィン炭素の吸収の周辺に、非常に弱い吸収ではあるが未知の吸収が観測されており、13C NMRスペクトルからも副反応の進行が示唆された。DEPT測定から13C NMRスペクトルに認められたこれらの吸収は、メチン基由来のものであることが確認された。この未知の吸収は、モノマー濃度が薄くなるにつれ強度を増しているので、モノマーへの連鎖移動で生じた可能性は低い。また、塊状重合で得られたポリマーのスペクトルでも確認されていることから、溶媒への連鎖移動により生じたものではないと考えられる。他に、α−置換アクリル酸エステルでは不均化停止が起こりやすいため、新たな不飽和基が生じる可能性も考えられる。
【0047】
しかし、13C NMRスペクトルで未閉環ペンダントオレフィンの吸収の近傍に認められる副反応由来のピークに4級炭素が確認されていないことと、1H NMRスペクトルでは、類似ポリマーであるポリメタクリル酸メチルの不均化停止により生じたビニル基のケミカルシフトが5.48ppm及び6.25ppmと報告されており[H. Hatada, T. Kitayama, E.Masuda, Polym. J., 18, 395 (1986)参照]、未知の吸収とはかなりずれていることを考慮すると、不均化停止由来の吸収である可能性は低い。このことは、開始剤濃度を変えて生成ポリマーの分子量を変えても、副反応に由来すると思われる吸収の強度が、変化しないこととも一致する。
【0048】
現在のところ、未閉環成長ラジカルがそれ自身のペンダントペンテニル基から水素を引き抜いて生じたラジカルが、反応後に残ったC=C二重結合に由来するのではないかと考えられる。上述のように、この副反応に関係する吸収はモノマー濃度が薄くなるに連れ強度を増しているが、このような分子内反応は希釈系で起こりやすくなることを考慮すると、この機構は矛盾しない。また、類似構造を有する化合物のC=C二重結合のケミカルシフトともよく一致しており、退化的連鎖移動由来の吸収である可能性が高い。なお、重合温度が高くなるにつれ、副反応に関係する吸収は強度を増しているが、この水素引き抜き反応の活性化エネルギーの方が分子内環化反応に比較して高いためと思われる。
【0049】
(ポリ(MPEA)の環化に関する考察)
ポリ(MPEA)の可能な繰返し単位は、下記式(X)、(XI)、(XII)、(XIII)に示すものである。表1にまとめられている各ポリマーの環化率は、1H NMRスペクトルの未反応不飽和プロトンとメチルプロトンの吸収強度比から求めた。ポリマーの不飽和基の吸収がMPEAのペンテニル基の吸収と一致することから、未閉環構造はほとんどペンテニル基由来のもの(XII)であることが確認されるが、塊状重合より得られたポリマーではわずかにアクリル基(XIII)の吸収も認められている。
【0050】
【化14】

【0051】
[MPEA及びMPAAのアニオン重合]
(準備)
重合溶媒のトルエンは、硫酸、水、10%水酸化ナトリウムの順で洗浄後、中性になるまで水で洗浄し、塩化カルシウムで一晩脱水した。さらに水素化カルシウム存在下で2回蒸留精製した。重合開始剤溶液である、t−ブチルリチウム(t−BuLi)、n−ペンタン溶液、n−ブチルリチウム(n−BuLi)、n−ヘキサン溶液、t−ブチルマグネシウムクロリド(t−BnMgCl)、テトラヒドロフラン溶液は市販品をそのまま使用した。
【0052】
(重合方法)
公知の方法[M. Urushisaki, T. Kodaira, H. Takahashi, and T. Hashimoto. Polymer, 44, 7113 (2003)参照]を参考にして以下のように行った。重合には二股の重合管を使用した。乾燥窒素で十分に置換したドライボックス中で一方の管にモノマー溶液を、もう一方の管に重合開始剤溶液を仕込み、密栓後重合管を所定の温度に冷却し、二つの溶液を混合して重合を開始させた。開始剤溶液及びモノマー溶液の調整などの操作もすべて、乾燥窒素で十分に置換したドライボックス中で行った。所定の時間反応後、メタノール塩酸10%溶液を所定量加えて重合を停止させ、重合系によって重合溶媒を留去し濃縮、又はクロロホルムで希釈後、多量のメタノールに沈殿させポリマーをガラスフィルターでろ別乾燥後重量法により重合率を求めた。
【0053】
(MPEAのアニオン重合に関する考察)
MPEAとMPAAの重合結果を類似モノマーである、N−メチル−N−アリル−2−(エトキシカルボニル)アリルアミン(MAEC)とAMAの、既に報告されている重合結果とともに表2に示す。
【0054】
【表2】

上記表において、各記号の意味は下記のとおりである。
a.変化率
b.環化率
c.ラジカル塊状重合
【0055】
表2から明らかなとおり、ポリ(MPEA)の重合率や環化率は重合条件によって異なり、開始剤や重合温度がMPEAの重合挙動に影響を与えていることがわかる。未閉環単位はいずれも(XII)からなり、環化率が0%のポリ(MPEA)はポリマー(IX)に相当する。リチウム化合物を用いた系では重合が進行し、重合温度によって生成ポリマーの環化率やタクチシチー(Tacticity)が大きく変わり、重合率は重合温度が上昇するにつれ下がっている。一方、t−BuMgClを用いた系では高分子量ポリマーの生成は認められない。
【0056】
(ポリ(MPEA)の構造に及ぼす開始剤の影響についての考察)
リチウム化合物で得られたポリ(MPEA)の1H NMRスペクトルには、2.1〜2.4ppmに主鎖メチレンプロトンの吸収がABカルテットで観察されている。このような1H NMRスペクトルの特徴は、RAやα−アルコキシメチルアクリル酸エステルのアニオン重合により得られたポリマーで観測されており、高度にイソタクト型ポリマーの根拠とされている[K. Hatada, S. Kokan, T. Ninomi, K. Miyaji, H,Yuki, J. Polym. Sci.; Polym. Chem. Ed., 13, 2117 (1975), 幅上茂樹、岡本佳男, 高分子加工, 47, 412 (1998)参照]。したがって、リチウム化合物で得られたポリ(MPEA)はイソタクト型連鎖を主体とするポリマーであることが推定される。なお、ポリ(RA)のメトキシプロトンはタクチシチーに依存して僅かにケミカルシフトを異にしており、それぞれの吸収は低磁場側からmm、mr、rr連鎖によるものと同定されている。スペクトル解析から分かるように、ポリ(MPEA)のメトキシプロトンの吸収もそれぞれ3本に分裂していた。表2に示した詳細なタクチシチーの割合は、3.6〜3.8ppmに観察されるそれらの吸収強度比から求めたものである。表2に示した各開始剤の−78℃での重合結果をみると、t−BuLi及びn−BuLiを用いた重合ではイソタクト型がそれぞれ86%及び59%のポリマーが得られており、t−BuLiの方がn−BuLiより立体規則性度の高いポリマーを与えることが確認される。また、このようなポリマーの構造は、13C NMRスペクトルのC=O炭素の吸収からも推定可能である。拡大したC=O炭素の吸収には鋭いピークが観察されており、特にt−BuLiを用いて得られるポリ(MPEA)のスペクトルの吸収が鋭いことから、イソタクト型連鎖の割合が高いポリマーであることが判断される。ただし、ポリ(AMA)のカルボニル炭素のピークと比較すると、若干ブロードになっている。
【0057】
(ポリ(MPEA)の構造に及ぼす反応温度の影響についての考察)
t−BuLiを開始剤に用いて各温度で得られたポリ(MPEA)と1H NMRスペクトルについて検討した。
【0058】
重合温度が上昇するにつれ未反応ペンダント基の吸収が減少し、各ピークはブロードになり、20℃で得られたポリマーのスペクトルは、ラジカル重合で得られた高環化率ポリマーのスペクトルのパターンとほぼ一致していた。したがって、これらのスペクトル変化は、重合温度の上昇とともに分子内環化反応が進んでいることを示しているものといえる。
【0059】
20℃で得られた、環化率が86%のポリ(MPEA)は、13C NMRスペクトルも、未反応オレフィン炭素の吸収強度以外はラジカル重合で得られた高環化率ポリマーとの相違は見られなかった。したがって、アニオン重合においても繰返し単位はほとんど5員環からなるポリマーが生成していることが分かる。アニオン重合では溶液重合にもかかわらず、生成ポリマーの環化率は86%であるが、ラジカル重合の場合は環化に不利な塊状重合でも環化率83%のポリマーが生成しており、また、生成ポリマーも高分子量であることから、高環化率ポリマーを得るには高温のアニオン重合より、ラジカル重合が適した条件と考えられる。
【0060】
重合温度は繰返し単位だけでなく未閉環ポリマーのタクチシチーにも影響を及ぼしている。n−BuLiにより得られたポリマーの立体規則性度は、これまでに報告されているポリ(RA)と同様に重合温度の上昇とともに高くなっているが、t−BuLiにより得られたポリマーでは減少しており異なる傾向を示している。また、n−BuLiを用いた高温での重合ではMPEAはポリマーを与えていない。
【0061】
(MPAAの重合との比較)
MPEAは、開始剤や重合温度などの重合条件に依存して、重合挙動が大きく変化したので、その重合機構に関するより深い理解を得るために、MPEAの対応する1官能性化合物の一つであるMPAAの重合性を検討した。その結果、n−BuLi、t−BuLiのいずれの開始剤を用いた系もMPEAの場合と同様、重合率は重合温度の上昇とともに低下する傾向にあった。ただし、t−BuLiによるMPEAの重合では、20℃においてポリマーが得られているが、MPAAの場合にはポリマーは生成していない。
【0062】
ポリ(MPAA)の1H NMRスペクトルを測定したところ、 2.1〜2.4ppmに検出される主鎖メチレンプロトンの吸収がABカルテットとなっており、イソタクト型ポリマーの生成が示唆される。ポリ(MPAA)のメトキシプロトンの吸収はそれぞれ3本に分裂していた。各ポリマーのタクチシチーをこれらの吸収強度から求めたが、開始剤および重合温度に依存したこれらタクチシチーの変化は、ポリ(MPEA)の場合に見られた変化と同様の傾向を示していた。
【0063】
(ポリ(MPEA)の熱的性質についての考察)
ポリ(MPEA)及び関連するポリマーの熱的性質を表3に示す。
【0064】
【表3】

上記表において、各記号の意味は下記のとおりである。
a.環化率
b.5%重量減少温度
c.最大分解速度を示す温度
d.ガラス転移温度
e.表2のNo.5
f.表2のNo.11
ポリ(MAMC);ポリ(N−メチル−N−アリル−2−(メキシカルボニル)アリルアミン)
ポリ(AMA);ポリ(α−アリロキシメチルアクリル酸メチル)

ポリMPEAの場合、環化率90%以上のポリマーは、5%重量減少温度380℃付近に、最大分解速度を示す温度は450℃付近に観察されている。この値は、アニオン重合で得られた環化率0%のポリMPEAの5%重量減少温度、260〜284℃と比べると非常に高い値であり、高環化率ポリマーは予想と一致して高い熱安定性を有することが示された。
【0065】
また、ポリ(MPEA)では、ポリ(MAMC)と比較してかなりの熱安定性の向上が認められており、ポリマー中に組み込まれる官能基の重要性が確認された。高環化率ポリ(MPEA)のガラス転移温度Tgは60℃付近に認められ、未閉環構造のポリマーに比べると20℃ほど高いが、同じ環化率、分子量のポリ(AMA)に比べて低く、また、ポリ(MAMC)と比較しても低い値となっている。同じ骨格を有するポリマーであるポリエチレンとポリエチレンオキサイドのうち、骨格に酸素を有する後者のTgが20〜40℃高いことが報告されている[J. Brandrup, E. H. Immergut, E. A. Grulke, ed., Polymer handbook 4th ed., Wiley, New York, p. VI/206,226,227, (1999)参照]。また、原子団寄与により同じ骨格のポリマーでも炭素だけの骨格よりは酸素が導入されるとTgは上昇する傾向とも一致する。
【0066】
いずれにせよ、これら5員環ポリマーは高環化率であっても、Tgに関しては通常の1,1−ジ置換モノマーに由来するポリマーに比較して高い値は得られていない。これは、5員環が二つのメチレン基を介して結合しているためと考えられる。優れた熱安定性に加えて高いTgを有するポリマーを得るためには、6員環構造のポリマーの合成を必要とする。この場合、6員環がメチレン基を介して結合することになり、主鎖がより剛直となることが期待されるからである。また、既に記載のように、MPEAのエステル基へのかさ高な基の導入、または、α−(3−ブテニル)アクリル酸エステルの重合を必要とする。
【0067】
未閉環構造のポリマーの5%重量減少温度が260〜284℃であるが、高環化率ポリマーはラジカル重合で得られた高環化率ポリマーと同じように350℃以上で重量減少温度が観測され高い熱安定性を有することが確認された。環化率0%のポリ(MPEA)の結果とポリ(MPAA)はいずれも熱安定性は環化ポリマーに比べると低いがポリ(MPEA)が40℃ほど安定であった。これは加熱の過程で未閉環ペンダント基のビニル基が架橋反応を起こしているのではないかと考えられる。
【0068】
ガラス転移点も環構造を有するポリマーが未閉環ポリマーより10〜20℃高い値を示している。また、タクチシチーはガラス転移点に影響を与えることが報告されているが、イソタクト型連鎖の割合に27%の差がある未閉環ポリ(MPEA)の間ではほとんど相違が認められていない。イソタクト型からシンジオ型に変わるほど大きな変化ではないので、ガラス転移点へ及ぼす影響はなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ジエン類の環化重合において、従来困難とされた高重合性で高環化率の高分子を生成するモノマーの設計法に関する基本原則を提案し、付加重合により熱的性質の優れた高分子を提供するものである。また、これにより、優れた熱的性質を有するとともに優れた光学的性質を有するポリマーの提供を可能にしたものである。
【0070】
このように本発明の環化重合体は、優れた光学特性、耐熱特性、ガラス転移特性、加えて良好な耐衝撃性、加工性を有するので、特に光ファイバなどの光学用素材として有用である。従来光学用素材として用いられているポリメタクリル酸メチル(PMMA)に比して熱的特性に優れており、幅広い光学分野において活用されることが期待できる。また、MPEA等のモノマーはそのための重合材料として有用であり、さらに、PMMA等の光学素材の一部をMPEA等で置換することで熱的特性を改善するといったことも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)又は(II)で表されるモノマーを重合して得られる重合体。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
【請求項2】
上記一般式(I)で表されるモノマーを重合して得られる請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
重合体が、上記一般式(I)で表されるモノマーを重合して得られる下記式(III)及び/又は(IV)の構造単位を繰返し単位として含む環化重合体である請求項2に記載の重合体。
【化2】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子であり、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nは2以上の整数である。)
【請求項4】
上記一般式(II)で表されるモノマーを重合して得られる請求項1に記載の重合体。
【請求項5】
重合体が、上記一般式(II)で表されるモノマーを重合して得られる下記式(V)及び/又は(VI)の構造単位を繰返し単位として含む環化重合体である請求項4に記載の重合体。
【化3】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子であり、m及びnは、0又は1以上の整数であり、かつ、m+nは2以上の整数である。)
【請求項6】
環化率が80%以上である請求項1から5のいずれかに記載の重合体。
【請求項7】
ガラス転移温度(Tg)60℃以上である請求項1から6のいずれかに記載の重合体。
【請求項8】
加熱分解温度が380℃以上である請求項1から7のいずれかに記載の重合体。
【請求項9】
下記一般式(I)で表されるα−(ω−アルケニル)アクリル酸又はそのエステル。
【化4】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
【請求項10】
下記一般式(II)で表されるα−(ω−アルケニル)アクリル酸又はそのエステル。
【化5】

(式中、Rは水素原子又はハロゲン原子で置換されてもよい炭化水素基であり、Xはメチレン基又は酸素原子である。)
【請求項11】
請求項1から8のいずれかに記載の重合体をコア又はクラッドとする光ファイバ。

【公開番号】特開2007−131683(P2007−131683A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324185(P2005−324185)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 54巻1号[2005] p.232 発行年月日 平成17年5月10日 研究集会名 第54回高分子学会年次大会 主催者名 社団法人 高分子学会 開催日 平成17年5月25日 発行者名 社団法人 高分子学会 刊行物名 Preprints of The 8▲th▼ SPSJ International Polymer Conference p.498 発行年月日 平成17年7月15日 研究集会名 The 8▲th▼ SPSJ International Polymer Conference 主催者名 社団法人 高分子学会 開催日 平成17年7月27日 発行者名 株式会社エヌ・ティー・エス 刊行物名 未来材料 5巻8号 p.22−28 発行年月日 平成17年8月10日 発行者名 社団法人 高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 54巻2号[2005] p.2427 発行年月日 平成17年9月5日 研究集会名 第54回高分子討論会 主催者名 社団法人 高分子学会 開催日 平成17年9月20日 発行者名 社団法人 高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 54巻2号[2005] p.2448 発行年月日 平成17年9月5日 研究集会名 第54回高分子討論会 主催者名 社団法人 高分子学会 開催日 平成17年9月20日
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】