説明

優れた特性を有するポリアミドの糸、繊維、または、フィラメント

本願発明は、ナノ粒子が分散したポリアミドの糸、繊維、または、フィラメント、それらの製造方法、およびそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、特に伸び、および、圧壊強度(横方向の耐力)が改善された、特にポリアミドに基づいたフィラメント、繊維、または、糸の合成に関する。
【0002】
本発明は、また、フィラメントの紡績と、様々な分野、特に、濾過、加圧または脱水を含んだ方法へのフィラメント、繊維、または、糸の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
優れた機械的特性を有するポリアミド繊維は、すでに広く知られている。特に、国際公開第99/60057号パンフレットに、分散したケイ酸ナノ粒子を離層させるポリアミドを基礎としたマトリックスが開示されている。同様に、国際公開第01/12678号パンフレットに、分離したケイ酸を含むポリアミドの生成の方法について記述されている。
【0004】
特許第2716810号公報によると、ケイ酸0.05〜30重量%を含むフィラメント用ポリアミドは、例えば複層のクレイは、強靭性、伸び、強度、延伸など、機械的特性が優れている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ここにさらに優れた機械的特性を有したフィラメント、繊維、または、糸が必要となる。
【0006】
したがって、本発明の最初の目的は、高い破断伸びを有するポリアミドフィラメント、 繊維、または、糸を供給することである。
【0007】
本発明の2つめの目的は、高い伸びと、高い横方向の耐力を有したポリアミドフィラメント、繊維、または、糸である。
【0008】
本発明の別の目的としては、本発明の2つめの目的は、高い伸びと、高い横方向の耐力を有し、ナノ粒子の量が比較的少量のみ含まれているポリアミドフィラメント、繊維、または、糸である。
【0009】
本発明の別の目的としては、本発明の2つめの目的は、高い伸びと、高い横方向の耐力を有し、ナノ粒子の量が比較的少量のみ含まれており、伸びを得るために既知のものより高い強度を有するポリアミドフィラメント、繊維、または、糸である。
【0010】
さらに、他の目的は以下の明細書中の記述により明白である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の実施形態によると、本発明は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.02重量%〜3重量%、より好ましくは0.05重量%〜2重量%のナノ粒子が分散したポリアミドマトリックスを含み、横方向の耐力が40〜150MPa、好ましくは45〜95MPaであり、相対湿度50%、23℃で、破断伸びが20%〜140%、好ましくは40%〜100%であるフィラメント、繊維、または、糸に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の糸、繊維、または、フィラメントを製造するポリアミドマトリックスは、既存のポリアミドのあらゆるものを含んでも良いが、特に、織物製物品、糸、または、繊維など分野で高性能物品に通常使用されるポリアミドを含む。
【0013】
本発明はこれに限定されるものではないが、糸、繊維、または、フィラメントのマトリックスはポリアミド、または、コポリアミド、またはポリアミドのブレンドであり、平均分子量は、25000g/mol〜100000g/mol、好ましくは30000g/mol〜90000g/mol、さらに好ましくは、40000g/mol〜85000g/molである。
【0014】
本発明を制限するわけではないが、本発明で使用されるポリアミドの例としては、ナイロン6,6、ナイロン6、ナイロン6/6,6共重合体、ポリアミド6T、Amodel(登録商標)(Amoco社製)、HTN(登録商標)(DuPont社製)などの半芳香族ポリアミド、およびナイロン11、ナイロン12、ナイロン4−6などのその他のポリアミド、ならびにそれらをあらゆる割合で混合したブレンドなどが挙げられる。
【0015】
ポリアミドは、スターポリアミド(ロディア製のブレンド名Technylstar(登録商標))などの直鎖、または、枝分かれ構造を有していて良い。
【0016】
本発明においては、ポリアミドは、ナイロン6,6、ナイロン6、ナイロン6/6,6共重合体およびそれらの2つか、3つ以上をあらゆる割合で混合したブレンドであることが好ましい。
【0017】
本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、本明細書で後に述べるように、組成物を満たした溶解紡績により得ることができる。
【0018】
さらには、糸、繊維、または、フィラメントの製造の分野での、あらゆる既知のステップを利用しても良い。例えば、(熱硬化性の)糸、繊維、または、フィラメントの寸法安定化、または、糸、繊維、または、フィラメントをスタッフィング(圧接)ボックス通してバルクを与えることなどである。また、糸、繊維、または、フィラメントの製造のためのあらゆる方法も、また、好適に使用できる。
【0019】
本発明で使用することができる糸、繊維、または、フィラメントの断面は、円形、平ら、ノコギリ状、縦溝彫り(fluted)であって良く、豆状の形状、多葉性、特に三葉性、五葉性の形状、Xの形状、テープ状、へこみ、四角、三角、楕円の形状、またはその他の形状であって良い。
【0020】
しかしながら、これらの断面の形は、本発明にとって重要な特徴でない。糸、繊維、または、フィラメントの製造の方法の結果得られる断面であれば、どのようなものであっても良い。同様に、本発明に使用される糸、繊維、または、フィラメントは一定の直径、および/または、一定の断面を有していて良く、また、様々な直径、および/または、断面を有していても良い。
【0021】
最終的には、表現「本発明の糸、繊維、または、フィラメント」は、少なくとも一つの上記のポリアミドを構成要素として含んだ多成分の糸、繊維、または、フィラメント(例えば、“コアシェル(core-shell)”タイプ)を例とする一般的な紡績物品を意味すると理解すべきである。
【0022】
用語「糸」は、モノフィラメント、連続的なマルチフィラメントの糸、または、ステープル繊維糸であると理解して良く、単繊維またはいくつかのタイプの繊維を混合したものから得られる。連続的な糸は、また、いくつかのマルチフィラメントの糸を集合させて得られる。用語「繊維」は、フィラメント、または、削られたフィラメント、分解フィラメント、もしくは、転換フィラメントの集合体である。
【0023】
一般に、本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、線密度(strand linear density)により定義できる。一般には、1.9decitexより大きく、(例えば、1.9g/10000mより大きい)、130decitex(dtex)未満であり、好ましくは100dtex未満である。好ましくは糸、繊維、または、フィラメントの線密度は、好ましくは1.9〜100dtexで、より好ましくは1.9〜66dtexである。
【0024】
用語「ナノ粒子」は、本発明の範囲においては、アスペクト比が3以上で、4〜1000、より好ましくは5〜500であるフィラーを意味する。本発明においては、ナノ粒子の大きさは1ナノから20または30ナノメータの範囲にある。ナノ粒子は、各々独立していても良いし、塊になっていても良い。
【0025】
本発明の好ましい実施形態例によると、ポリアミドマトリックス中に分散しているナノ粒子は、4〜1000のアスペクト比を有しており、粒子の最小寸法は100nm以下であり、より好ましくは75nm以下、さらには50nm以下である方が有利である。
【0026】
粒子の最小寸法の最小値は、重要ではない。しかしながら、粒子の最小寸法の最小値が1nm以下になるのは好ましくない。
【0027】
本発明の糸、繊維、または、フィラメント中には、ナノ粒子は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.02重量%〜3重量%、より好ましくは0.05重量%〜2重量%存在する。
【0028】
本発明においては、好適なナノ粒子は、好ましくは層状の既知の補強フィラーであり、一般に、糸、繊維、または、フィラメントの補強に使用されるフィラーから選択されると良い。
【0029】
特に、本発明においては、層状の形状を有しているあらゆる鉱物化合物の粒子を使用することができ、特に、チタン、セリウム、シリコン、ジルコニウム、カドミウムおよび亜鉛などの金属または非金属の酸化物、硫化物、リン酸塩であって良く、好ましくはリン酸ジルコニウムである。
【0030】
この鉱物化合物の粒子は「インターカレート」形状を有していても良い。この形状は、少なくとも一つの鉱物または/および有機インターカレーション試薬の反応によるものである。
【0031】
上記に挙げた種々の粒子やフィラーの混合はあらゆる比率で行って良い。
【0032】
例として、前記粒子は鉱物粒子である場合、特にクレイ、スメクタイトクレイ、膨張スメクタイトクレイを含んだ雲母タイプのフィロケイ酸を挙げられる。また、これらのクレイには、特に以下のものを含む、
・種々の中間層に含まれるジ八面体スメクタイトクレイであり、ジ八面体スメクタイトクレイとしては、モンモリロナイト(アスカナイト(askanite)、コンフォレンサイト(confolensite)、エリナイト(erinite)、ガラペサイト(galapectite)、マルサイト(malthacite))と他の鉱物でマイナーな置換があったモンモリロナイトの類似物)、バイデライト(クロメバイデライト(chromebeidellite)、フェロバイデライト(ferribeidellite)、フェロモンモリロナイト(ferromontmorillonite)、グラセライト(glaserite)、ノントロナイト(nontronite)、プロトロナイト(protonontronite)、ボルコンスコアイト(volkonskoite)、他の一般名バイデライトを有している類似のクレイ、および特に、網羅的ではないが、アマルゴサイト(amargosite)、クロサイト(cloisite)、ベントナイト(bentonite)、オテライト(otaylite)などこれらの鉱物名を形成するに対応するクレイが含まれる。
・種々の中間層に含まれるトリ八面体スメクタイトクレイであり、トリ八面体スメクタイトクレイとしては、スティーブンサイト(stevensite)(ガースライト(ghassoulite)を含む)、ヘクトライト(hectorite)(対応する合成クレイすなわちラポナイト(laponite)も含む)、サポナイト(saponite)(サポナイト(bowlingite)、ソーコナイト(sauconite)、グリッフィサイト(griffithite)を含み、これらに対応する構造にマイナーな置換のこれらの類似物、すなわちフェロサポナイト(ferrisaponites)、レンベルガイト(lembergites)、および、他のカルデナイト)、バーミキュライト(バタバイト、および、カルサジート(culsageeite)、ケライト(kerrite)、レニライト(lennilite)、ハライト(hallite)、フィラデファイト(philadelphite)、バーライト(vaalite)、モコナイト(maconite)などの他のバーミキュライトファミリーを含む)また、最終的には、これらの鉱物名を形成するに対応するクレイが含まれる。
【0033】
また、イライト(illite)、セピオライト(sepiollite)、アタパルジャイト(palygorskite)、白雲母(muscovite)、レクトライト(allevardite)、アメサイト(amesites)、タルク(talc)、フロロヘクトライト(fluorohectorites)、スティーブンサイト(stevensite)、雲母、フロロ雲母、バーミキュライト、フロロバーミキュライト、ハロイサイトからなる。
【0034】
これらのクレイは、全て、お互いより広いまたは狭い範囲で積層した層状粒子の塊を含む原材料を有する。
【0035】
好ましくはナノ粒子は、お互いがシートとして積層し、タクトイド(tactoid)と呼ばれる密な積層を形成する、層状粒子である。これらのタクトイドはインターカレートされていても、されてなくても良く、また、さらには当業者にとって既知の技術を使用して、任意に、部分的に、または、完全に、剥離(または膨張)されていても良い。既知の技術としては、特に、例えば水酸化ナトリウムなどの無機塩基、ヘキサメチレンジアミン、カプロラクタムなどの有機塩基のような無機または有機膨張剤を使用するものが挙げられる。
【0036】
本発明の一実施例によれば、ナノ粒子はリン酸ジルコニウム粒子であり、単独か、上記に挙げた他のフィラーと化合していても良い。リン酸ジルコニウムは、種々の結晶構造を有し、特に、「α」タイプと、「γ」タイプがあり、今後、本出願中では、それぞれ、「α−ZrP」および「γ−ZrP」と示す。本発明においては、リン酸ジルコニウムについてその種々の結晶構造を使用することができ、例えば、国際公開第03/070818号パンフレット、および、国際公開第04/096903号パンフレットに示されており、ここでは、これらを取り入れている。
【0037】
リン酸ジルコニウムの「α」結晶構造は、インターカレートされていなくても良く、好ましくは国際公開第02/16264号パンフレットに示されている例のように、インターカレートされていれば良く、その内容をここで取り込むことは、特に、より好ましい。
【0038】
より良い実施例によると、本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、リン酸ジルコニウムのナノ粒子が0.01重量%〜1重量%、好ましくは0.01重量%〜0.5重量%分散しているポリアミドマトリックスを含み、好ましくは国際公開第02/16264号パンフレットに示されているように、α結晶構造「α−ZrP」を形成していれば良い。
【0039】
本発明の糸、繊維、または、フィラメントの紡績物品は、非常に優れた機械的特性を有し、また、特に横方向の耐力は40MPaを超え、極めて優れている。残りの本明細書中に、本発明の例として示される、用語「横方向の耐力」は、横圧縮力を意味する。
【0040】
さらに、本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、高い強靭性を有し、一般的には、30〜85cN/texであり、好ましくは35〜75cN/texである。
【0041】
上記に示した糸、繊維、または、フィラメントの注目すべき特性は、本発明の一方の目的である特に下記に示す紡績方法により得られるものである。
【0042】
ここで、本発明は、組成物を溶融紡糸することで糸、繊維、または、フィラメントを生成する方法に関するものであり、前記組成物は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.02重量%〜3重量%、より好ましくは0.05重量%〜2重量%のナノ粒子が分散したポリアミドマトリックスを少なくとも一つ含み、巻き取り速度/押出成形速度の比が、20〜300、好ましくは30〜200、より好ましくは40〜180、例えば、50〜90であることを特徴とする方法である。
【0043】
ポリアミドとしては、本明細書中に示したポリアミドを使用すればよい。ナノ粒子も同様に、上記に示したナノ粒子を使用すれば良い。ナノ粒子は、重合反応の媒体、すなわち重合反応前のモノマー中に導入することで、もしくは、マスターバッチなどで溶融している重合体中に導入することで、マトリックス中に取り込まれていれば良い。
【0044】
「組成物を溶融紡糸すること」という表現は、ポリマー組成物を溶融紡糸する従来技術に対応し、ここで、ナノ粒子を含んだポリアミドマトリックスを溶融し、糸、繊維、または、フィラメントを形成するために、制御された押出成形速度で紡糸口金を通して、押出成形する。紡糸口金から吐出されるとき、糸、繊維、または、フィラメントは、従来技術により(空気または水)、可能な限り冷却され、いわゆる巻き取り速度で巻き取りロールに巻き取られる。
【0045】
巻き取り速度は、一般に、150m/分〜2000m/分であり、好ましくは200m/分〜1500m/分である。また、押出成形速度は、一般に、5m/分〜25m/分である。
【0046】
本発明の方法を実施するための一つの方法によると、押出成形速度は、5m/分〜25m/分であり、巻き取り速度は300m/分〜1500m/分であり、また、巻き取り速度/押出成形速度の比は上記に規定した通りである。
【0047】
本発明は、これに限定されるわけではないが、本発明の方法は、押出成形速度が10、12、又は15m/分であるのに対して、巻き取り速度が800m/分であると良い。
【0048】
一般に、糸、繊維、または、フィラメントは熱せられるか、冷却されて、さらに延伸比3または5まで延伸される。
【0049】
糸、繊維、または、フィラメントの紡績製品は、マットリックスの重合反応の直後に、溶融状態で、一般的な紡績技術を使用して製造される。また、組成物を含んだ顆粒からも、製造しても良い。
【0050】
本発明の紡績製品は連続的な紡績のステップを経て、処理が実行されることで、得ることができる。すなわち、延伸、織り、捲縮、加温、撚り、染色、大きさをそろえる、削る、などを行うことができる。これらの補足的な操作は、紡績の後、連続的に、もしくは、まとめて一気に、行っても良いし、また、バッチ工程として行っても良い。紡績の後のこれらの操作により、効果が制限されることはない。
【0051】
上記に示した本発明方法で得られ、上記に定義した性質を有する糸、繊維、または、フィラメントの紡績製品は、その優れた物理的性質のおかげで、非常に多くの分野で利用することができる。
【0052】
本発明の、糸、繊維、または、フィラメントの紡績製品は優れた物理的性質を有しており、また、含まれている補強フィラーの量が少ないため、特に横方向の耐力について優れている。
【0053】
本発明は、また、上記の糸、繊維、または、フィラメントを含んだ物品に関するものである。本発明の糸、繊維、または、フィラメントは織物、編物、不織布中で使用されると良い。
【0054】
本発明の糸、繊維、または、フィラメント、紡績物品は、多くの応用が考えられる。例えば、濾過、押圧およびスクリーン印刷の分野だけでなく、カーペット、ラグ、マットなどの製品にも使用することができる。本発明の繊維は、製紙機械のためのフェルトの製造、特に製紙産業で使用される製紙機械フェルトのための不織布に好適である。
【0055】
本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、じゅうたん織糸としても、また使用することができる。また、本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、特にモノフィラメントは、スクリーン印刷の分野においてファブリックを得るために、プリント転写のために、また、濾過の分野のためにも、使用することができる。
【0056】
また、本発明の糸、繊維、または、フィラメントは、特にマルチフィラメントは、ロープの製造、特にクライミング用のロープの製造、また、ベルトの製造、特にベルトコンベア用のベルトの製造にも、また、使用することができる。
【0057】
最終的に、本発明の糸は、ネット、特にフィッシングネットの製造などに利用される。
【0058】
最終的に、本発明の詳細と利点は、以下の実施例によりより明白になる。以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例1:α−ZrPナノ粒子の生成
国際公開第02/16264号パンフレットの実施例4で生成された、ZrO2の濃度が2.1mol/lであるジルコニウムオキシクロライド(32.8% ZrO2が含まれる粉末状態)の水溶液から得られるα−ZrPリン酸ジルコニウムを使用した。
【0060】
50mlの塩酸(Prolabo(登録商標)36%、d=1.19)、50mlのリン酸(Prolabo(登録商標)85%、d=1.695)、および、150mlの脱イオン水を、撹拌しながら1リットルの反応容器に入れた。ブレンドを撹拌した後、140mlの2.1M水性ジルコニウムオキシクロライドを、5.7ml/分の割合で、連続的に添加した。ジルコニウムオキシクロライド溶液を全て添加した後、撹拌を1時間、継続した。
【0061】
母液を除去した後、1200mlのリン酸(20g/L H3PO4)と共に、4500rpmで遠心分離することで、導電率(上澄)6.5mSとなるまで、沈殿を洗浄した。リン酸ジルコニウムを基本とした沈殿が得られた。
【0062】
その沈殿を、1リットルの10M水性リン酸溶液に分散させた。得られた分散液を2リットルの反応容器に移し、115℃に熱した。この温度を5時間保持した。
【0063】
得られた分散液を、脱イオン水と遠心分離することで、導電率(上澄)1mS未満となるまで、沈殿を洗浄した。固体の内容物が20%近くになるように、遠心分離で得られた固体を細分散させた。分散液のpHは1〜2であった。
【0064】
リン酸ジルコニウムを基礎とした層状構造(透過電子顕微鏡法(TEM)により分析)を有した結晶性物質の分散液が得られた。その層状構造は、六方晶系であり、200〜500nmの寸法であった。粒子は、平行板の積み重ねから構成され、積み重ねの垂直方向の厚さは約200nmであった。
【0065】
XRD(X線回折)分析により、Zr(HPO42 1H2O結晶相の存在が確認され、固体量は18.9重量%であり、pHは1.8、導電率は8mSであった。
【0066】
粒子は、HMD(ヘキサメチレンジアミン)の添加により中和した。この分散液に70%水性HMD溶液を、pHが5となるまで、添加した。その後、Ultraturax(登録商標)ホモジナイザで、得られた分散液をホモジナイズした。最終的な固体量は、脱イオン水によって調整した(固体量15重量%)。
【0067】
実施例2:ヘキサメチレンジアミン処理したα−ZrPリン酸ジルコニウムを基礎としたナノ粒子を含有したポリアミド組成物
実施例1で得られたα−ZrP粒子の水性分散液を重合反応の媒体に投入し、一般的な方法でカプロラクタムからナイロン−6を合成した。導入したリン酸ジルコニウムを基礎とした化合物の割合は2重量%であった。また、ナノ粒子を含んでいないポリマーも合成した(比較例)。
【0068】
重合反応の後、ポリマーを顆粒状にした。残留カプロラクタムを除去するために、これらを洗浄した。洗浄のために、顆粒を90℃で、2、3時間過剰の水に浸した。その顆粒を低圧下(<0.5mbar)で、16時間、110℃で乾燥させた。
【0069】
張力テストは、30日間、23℃、相対湿度50%で、押し出しロッドで行った。ロッドの直径は、0.5mm〜1mmであった。INSTRON(登録商標)1185張力テストマシンを100Nのロードセル(100N load cell)で、50mm/分の引っぱり速度で使用した。相対的なひずみの応力(nominal stress)(Palmer直径測定により測定される断面積当たりの力の割合)を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0070】
ポリアミドを基礎とした組成物は、鉱物を含まないものより、破断伸びが大きく、またその係数も改善された。
【0071】
上記で得られた組成物は、ナイロン−6を含み、2%のリン酸ジルコニウムを基礎とした化合物であり、TEMで0.1μmの厚さで断面を観察した。薄さは、ナノ単位であり、幅が50〜100nmの鉱物の層状の多くの分散が存在が観察された。
【0072】
実施例3:本発明の方法により得られた糸の機械的特性
1)強度:破断伸びおよび張力強度
上記実施例2で生成したHMDがインターカレートしたα−ZrP粒子を含むナイロン−6の紡績試験を行い、10フィラメントから成る糸が得られた。押出成形速度は、12m/分であった。巻き取り速度は、650m/分から1100m/分へ変化させた。次の延伸工程は140℃で行った。試験を行った糸各々の糸の熱ロールの間の延伸率は下記の表2に示した。張力の特性については表3に示した。これらの特性について23℃、相対湿度(RH)50%で、標準寸法200mmの10Nのロードセル(10N load cell)で、200mm/分の引っぱり速度で測定した。
【表2】

【表3】

【0073】
2)加圧:横方向の係数(transverse modulus)および横方向の耐力(transverse yield strength)
フィラメントの横方向の加圧試験は、土木工学で使用される一般的な機械的試験を小スケールにして行い、原理は以下の通りである。
直径Dの繊維、または、糸から形成したシングルフィラメントを2つの表面の間に設置する。上記繊維と、上記表面の角度は平行とする。2つの表面は動かすことが可能であり、長さL、力Fで糸に加圧する。その試験の結果得られるのは、力/変位の一般的な曲線である。図1はその曲線の例である。この曲線を使用することで、最初に、横方向の係数(transverse modulus)(E)を、次に横方向の耐力(Ry)を決定することができる。
【0074】
係数は最初の線領域から決定される。計算において仮定を行う必要がある。すなわち、0.3〜0.5に変化する値であるにも関わらず、ポイズン比(Poisson's ratio)を、0.4と固定することである。係数の計算におけるその仮定の影響はほんのわずかである。計算に適用される式は以下の通りである:
【数1】

式中、Fは力であり、ΔDは測定した変位であり、νはポイズン比(Poisson's ratio)である。
【0075】
他方、横方向の耐力(transverse yield strength)(Ry)も決定される。この値は、繊維の中心にて決定される。この時、圧力は2つの直交方向に向かって共存している。耐力の基準−von Mises基準−は、したがって、耐力を評価する。圧力の状態を考慮に入れることで、横方向の耐力(transverse yield strength)(Ry)は以下の式のように表される。
【数2】

【0076】
当該試験は、多くの繊維製品、ラグおよびカーペット、特に製紙で使用されるフェルトなどの性質を理解するのに利点を有する。
【0077】
延伸率および層状フィラーの含有量などが異なる様々な糸の横方向の特質を表4に示した。これらの特質はα−ZrPが存在することで、一般に、改善されている。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】力と変位の関係を表した曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.02重量%〜3重量%、より好ましくは0.05重量%〜2重量%のナノ粒子が分散したポリアミドマトリックスを含み、横方向の耐力が40〜150MPa、好ましくは45〜95MPaであり、破断伸びが20%〜140%、好ましくは40%〜100%である糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項2】
マトリックスがナイロン−6(PA−6)、ナイロン−6,6(PA−6,6)、もしくは、ナイロン−6/6,6共重合体またはこれらの2つもしくは3つ以上の任意の比率のブレンドから選択されるポリアミドである請求項1に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項3】
線密度が1.9〜130dtex、好ましくは1.9〜100dtex、より好ましくは1.9〜66dtexである請求項1または2に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項4】
ナノ粒子は、アスペクト比が3以上、好ましくは4〜1000、より好ましくは、5〜500である層状フィラーである請求項1〜3のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項5】
ナノ粒子の最小寸法が、1〜30nmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項6】
ポリアミドマトリックス中に分散しているナノ粒子は、4〜1000のアスペクト比を有しており、粒子の最小寸法は100nmか100nm未満であり、より好ましくは75nmか75nm未満、さらに好ましくは50nmか50nm未満である請求項1〜4のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項7】
ナノ粒子が、雲母タイプのフィロケイ酸および剥離した金属または非金属の酸化物、硫化物またはリン酸塩から選択される請求項1〜6のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項8】
ナノ粒子が、クレイ、または、リン酸ジルコニウム(好ましくはα結晶構造のリン酸ジルコニウム「α−ZrP」)から選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項9】
好ましくはα結晶構造「α−ZrP」を形成しているリン酸ジルコニウムのナノ粒子が0.01重量%〜1重量%、好ましくは0.01重量%〜0.5重量%分散しているポリアミドマトリックスを含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の糸、繊維、または、フィラメント。
【請求項10】
組成物を溶融紡糸することで糸、繊維、または、フィラメントを製造する方法であって、前記組成物は、0.01重量%〜5重量%、好ましくは0.02重量%〜3重量%、より好ましくは0.05重量%〜2重量%のナノ粒子が分散したポリアミドマトリックスを少なくとも一つ含み、巻き取り速度/押出成形速度の比が、20〜300、好ましくは30〜200、より好ましくは40〜180、例えば、50〜90であることを特徴とする方法。
【請求項11】
巻き取り速度が、150m/分〜2000m/分であり、好ましくは200m/分〜1500m/分である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
押出成形速度が、5m/分〜25m/分である請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
押出成形速度が10、12、又は15m/分であるのに対して、巻き取り速度が800m/分である請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のまたは、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法により得られた糸、繊維、および/または、フィラメントを備えた物品。
【請求項15】
製紙機械用のフェルトであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項16】
カーペット、ラグ、または、マットであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項17】
ロープ、または、ベルトであることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項18】
転写用、または、濾過用の織物であることを特徴とする請求項14に記載の物品。
【請求項19】
ネットであることを特徴とする請求項14に記載の物品。

【図1】
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【公表番号】特表2008−542576(P2008−542576A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515256(P2008−515256)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001309
【国際公開番号】WO2006/131658
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【Fターム(参考)】