説明

優れた耐摩耗特性及び腐食特性を有するEPグリース用添加剤組成物

以下のような潤滑剤組成物が提供される:
少なくとも90%の基材グリース;
(a)約1500〜3500ppmの硫黄を供給する量のチアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体;
(b)約77〜450ppmのモリブデンを供給する量のジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデン;及び
(c)約600〜1000ppmの亜鉛を供給する量のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛。成分(a)、(b)、及び(c)から成る、グリース用添加剤組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に優れた耐摩耗特性及び腐食特性を有する極圧(extreme pressure、以下「EP」と略す)グリース組成物用の添加剤組成物に向けられたものである。より具体的には、本発明は、(A)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体、(B)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデン、及び(C)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛を含む添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
EPグリースは高負荷条件下で潤滑剤として働き、摩損(scoring)及び融着を防ぐための非常に効果的なEP添加剤を必要とする。チアジアゾールは効果的なEP添加剤である化合物である。米国特許第6,365,557号は、チアジアゾール/ポリ(エーテル)グリコール複合体を開示している。これらの複合体はグリース用の優れた極圧添加剤であるにもかかわらず、金属表面に対して高い表面親和性を有するために、銅及び他の非鉄金属の望ましくない変色を引き起こし、耐摩耗添加剤が摩耗を低減する能力を妨げるコーティングが生成される。
【0003】
米国特許第6,541,427号(Dreselら)は、2%のモリブデン化合物(ジヒドロカルビルジチオカルバミン酸塩、MoDTC、又はジヒドロカルビルジチオリン酸塩MoDTP)、約2%のチアジアゾール誘導体を含有し、他の添加剤の取り合わせを必要とする、添加剤系を有するグリースの配合組成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,365,557号
【0005】
【特許文献2】米国特許第6,541,427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したチアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体が、非常に優れた極圧特性を維持しながらも摩耗及び腐食に対して悪影響を与えない、特定の潤滑剤添加剤組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、全て重量%で、下記の成分:
(a)大半の量(すなわち、>90%)の基材グリース、例えばリチウム、リチウム錯体、アルミニウム錯体、有機質粘土を添加したカルシウム錯体、及びポリ尿素化合物など。
(b)1500〜3500ppmの硫黄(S)、好ましくは2000〜2800ppmのSを供給する、チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体;
(c)77〜450ppmのモリブデン(Mo)、好ましくは192〜220ppmのMoを供給する、ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデン;
(d)600〜1000ppmの亜鉛(Zn)、好ましくは700〜900ppmのZnを供給する、ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛
を含む潤滑剤組成物を開示する。
【0008】
本発明はまた、グリースにおいて使用するための添加剤組成物も開示する。この添加剤組成物は、下記の化合物:
(a)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体;
(b)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデン;
(c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛
を含み、S:Mo:Znの重量比は約150〜350:7.7〜45:60〜100である。この比において、Sはチアジアゾール/ポリ(エーテル)グリコール複合体により供給される硫黄を指す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のチアジアゾール/ポリ(エーテル)グリコール複合体は、参考文献として本明細書に組み込まれる米国特許第6,365,557号に記載されている。好ましい実施形態は、
(a)1つ又は複数の次のようなチアジアゾール化合物:
(i)式:以下の式で示される2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMTD)の二量体
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、nは1及び/又は2である);及び/又は
(ii)式:以下の式で示される2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール(MTD)
【0012】
【化2】

【0013】
並びに
(b)式:以下の式で示されるポリ(エーテル)グリコール
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Rは水素、分岐鎖又は直鎖のC〜C20アルキル基、フェニル基、C〜Cの分岐状直鎖のアシル基、及びそれらの組み合わせであり、mは1〜300である)
の複合体を含む。好ましいポリ(エーテル)グリコールは、ブトキシトリグリコール、ポリエチレングリコール、又はそれらの組み合わせであるが、最後の組み合わせが最も好ましい。
【0016】
上記のように、
(a)チアジアゾールは、DMTDのモノスルフィド二量体(式I、n=1)、DMTDのジスルフィド二量体(式I、n=2)、及びMTD(式II)のうちの1つ又は複数であってもよく;これが
(b)ポリ(エーテル)グリコール(式III)
と複合体を形成することになる。
【0017】
複合体は、重量で、約10%〜60%のチアジアゾール化合物(複数可)及び約40%〜90%のポリ(エーテル)グリコール化合物(複数可);好ましくは約25%〜50%のチアジアゾール化合物(複数可)及び約50%〜70%のポリ(エーテル)グリコール化合物(複数可);最も好ましくは約30%〜40%のチアジアゾール及び約60%〜70%のポリ(エーテル)グリコールを含んでいてもよい。
【0018】
この複合体における最も好ましい実施形態は、コネチカット州(CT)、ノアウォーク(Norwalk)に所在するR.T.Vanderbilt Company,Inc.よりVanlube(登録商標)972M添加剤として入手可能である。Vanlube972Mは、重量でおよそ(a)15%のDMTDのモノスルフィド二量体、10%のDMTDのジスルフィド二量体、10%のMTD、並びに(b)49%のブトキシトリグリコール及び16%のポリエチレングリコールを含み、平均分子量が1モル当たり300グラムである。
【0019】
ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデン及びジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛化合物は通常、Pをアルコールと反応させてジヒドロカルビルジチオリン酸化合物を生成させ、次いでこれを適切なモリブデン又は亜鉛化合物:
【0020】
【化4】

【0021】
で中和することにより調製される
(式中、R及びRは独立して、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、及び脂環式の基を含む、)1〜18個、好ましくは2〜12個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である。ヒドロカルビル基の例は、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、及びブチルフェニルである。ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンの場合、oは2及び4であり、xは1〜2であり、yは1〜4であり、zは1〜4である。
【0022】
試験法
グリース組成物の極圧、耐腐食性、及び摩耗特性を評価するために本発明で用いた試験法は、以下のものであった。
1.チムケンEP試験
2.銅版腐食試験(Copper Strip Test)
3.四球摩耗試験(4−Ball Wear Test)
チムケン試験は周知の規格化された試験であり、ASTM D 2509に記載されている。チムケン試験は、回転するカップと固定されたブロックとの間でアブレシブ摩耗(すなわち、摩損)が生じる際の負荷を測定する。したがって、チムケンOK負荷が高いほど、グリースのEP特性が優れている。チムケンOK負荷性能に基づく非公式のEP順位付けを以下に示す。ここで60〜80(優良又は非常に優良)の範囲にあるものはいずれも、業界標準において許容可能であると考えられる。
【0023】
【表1】

【0024】
銅版腐食試験法(ASTM D 4048)を、グリース組成物の銅腐食特性を評価するのに用いた。この試験法では、磨いた銅版をグリースの試料中に完全に浸し、オーブン中で100℃にて24時間加熱する。この時間の最後に、銅版を取り出し、洗浄し、ASTM銅版腐食腐食規格(ASTM Copper Strip Corrosion Standards)と比較する。銅版には1a〜4bの評価が割り当てられる。1aの評価は腐食が最小量である銅版を表し、4cは腐食が最大量である銅版を表す。市販のグリースは非腐食性であり、得られる評価はせいぜい1bである。
【0025】
四球摩耗試験は、ASTM D4172に記載される標準手順に従って行われる。この試験法では、4つのボールを試験オイルに完全に沈めながら、均等の間隔で配置される3つの静止したボール上で1つのボールを回転させる。本発明のための試験は、1200rpmの回転スピードにて、40kgの負荷のもと、1時間、75℃で実施した。3つの静止したボールの傷跡の直径を測定し、結果は3つの平均である。この試験の許容可能な結果は、平均の摩耗跡が直径で0.5mm未満であることである。
【実施例1】
【0026】
チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体(コネチカット州(CT)、ノアウォーク(Norwalk)に所在するR.T.Vanderbilt Company,Inc.より入手可能なVanlube(登録商標)972M添加剤)、Vanlube972Mとジアルキルジチオリン酸モリブデン(R.T. Vanderbilt Company, Inc.より入手可能なMolyvan(登録商標)L添加剤)との組み合わせ、Vanlube 972Mと10〜20%のオイルで希釈したジアルキルジチオリン酸亜鉛(Lubrizol Corp.より入手可能なLubrizol(登録商標)1395)との組み合わせ、及びVanlube 972MとMolyvan L及びLubrizol 1395との組み合わせを含有するリチウムグリースを、摩耗、EP、及び腐食特性について評価した。表1にまとめられたデータは、3つの全ての成分及び特定の濃度により処理されたグリースのみが、許容可能な摩耗跡及び銅腐食の評価と共に、優良〜非常に優良のチムケンOK負荷を獲得したことを示している。加えて、配合10、11、12、及び13のデータは、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(Molyvan(登録商標)822)及び有機モリブデン酸塩(Molyvan(登録商標)855)などの他のモリブデン化合物がMoDTPの効果的な代替物とならないことを示している。
【0027】
【表2】

【実施例2】
【0028】
(比較例)
比較例として、本発明のZDDP成分を、本発明の他の成分は一定に保ちながら、他のリン及び亜鉛系の耐摩耗(AW)添加剤で置き換えた。表2にまとめたように、ナフテン酸亜鉛を除いて、代替物はどれも満足な耐摩耗性能をもたらさなかった。しかし、ナフテン酸亜鉛含有組成物のEP性能は満足できるものではなかった。
【0029】
【表3】

【実施例3】
【0030】
(比較例)
比較のため、本発明のチアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体成分を、他のチアジアゾール誘導体と交換した。表3にまとめたように、代替物はどれも満足なEP性能をもたらさなかった。
【0031】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、少なくとも90%の基材グリースと;
(a)約1500〜3500ppmの硫黄を供給する量のチアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体と;
(b)約77〜450ppmのモリブデンを供給する量のジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンと;
(c)約600〜1000ppmの亜鉛を供給する量のジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛と
を含む、潤滑剤組成物。
【請求項2】
(a)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は約2000〜2800ppmの硫黄を供給し;
(b)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンは約192〜220ppmのモリブデンを供給し;
(c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は約700〜900ppmの亜鉛を供給する、
請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は、
(a)1つ又は複数の次のようなチアジアゾール化合物:
(i)式:以下の式で示される2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMTD)の二量体
【化1】

(式中、nは1及び/又は2である);及び/又は
(ii)式:以下の式で示される2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール(MTD)
【化2】

並びに
(b)式:以下の式で示されるポリ(エーテル)グリコール
【化3】

(式中、Rは水素、分岐鎖又は直鎖のC〜C20アルキル基、フェニル基、C〜C分岐状直鎖のアシル基、及びそれらの組み合わせであり、mは1〜300である)
を含む、
請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコールは、(a)約10%〜60%のチアジアゾール組成物と、(b)約40%〜90%のポリ(エーテル)グリコール組成物とを含む、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体のポリ(エーテル)グリコールは、ブトキシトリグリコール及びポリエチレングリコールの組み合わせを含む、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記チアジアゾールは、DMTDのモノスルフィド二量体(式I、n=1)、DMTDのジスルフィド二量体(式I、n=2)、及びMTD(式II)の組み合わせを含む、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は、
(a)約15%のDMTDのモノスルフィド二量体、約10%のDMTDのジスルフィド二量体、約10%のMTDと;
(b)約45%のブトキシトリグリコール及び約15%のポリエチレングリコールと
を含む、請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
(a)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は約2400ppmの硫黄を供給し;
(b)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンは約206ppmのモリブデンを供給し;
(c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛は約795ppmの亜鉛を供給する、
請求項7に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
(a)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体と;
(b)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンと;
(c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛と
を含み、
(a)チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体により供給される硫黄の重量、(b)ジヒドロカルビルジチオリン酸モリブデンにより供給されるモリブデンの重量、及び(c)ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛により供給される亜鉛の重量として計算される(a):(b):(c)の比は約150〜350:7.7〜45:60〜100である、グリース用添加剤。
【請求項10】
前記比は約200〜280:19.2〜22:70〜90である、請求項9に記載の添加剤。
【請求項11】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は、
(a)1つ又は複数の次のようなチアジアゾール化合物:
(i)式:以下の式で示される2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMTD)の二量体
【化4】

(式中、nは1及び/又は2である);及び/又は
(ii)式:以下の式で示される2−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール(MTD)
【化5】

並びに
(b)式:以下の式で示されるポリ(エーテル)グリコール
【化6】

(式中、Rは水素、分岐鎖又は直鎖のC〜C20アルキル基、フェニル基、C〜C分岐状直鎖のアシル基、及びそれらの組み合わせであり、mは1〜300である)
を含む、
請求項10に記載の添加剤。
【請求項12】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコールは、(a)約10%〜60%のチアジアゾール組成物と、(b)約40%〜90%のポリ(エーテル)グリコール組成物とを含む、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体のポリ(エーテル)グリコールは、ブトキシトリグリコール及びポリエチレングリコールの組み合わせを含む、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記チアジアゾールは、DMTDのモノスルフィド二量体(式I、n=1)、DMTDのジスルフィド二量体(式I、n=2)、及びMTD(式II)の組み合わせを含む、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
前記チアジアゾールポリ(エーテル)グリコール複合体は、
(a)約15%のDMTDのモノスルフィド二量体、約10%のDMTDのジスルフィド二量体、約10%のMTDと;
(b)約45%のブトキシトリグリコール及び約15%のポリエチレングリコールと
を含む、請求項11に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
前記比は約240:20.6:79.5である、請求項15に記載の添加剤。

【公表番号】特表2011−506687(P2011−506687A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538158(P2010−538158)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/086424
【国際公開番号】WO2009/079337
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(507293620)アール.ティー. ヴァンダービルト カンパニー インコーポレーティッド (11)
【Fターム(参考)】