説明

優れる耐侯性及び熱安定性を有するアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物

難燃性に優れながらも耐侯性及び熱安定性が著しく向上されるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を提供する。
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びスチレン−アクリロニトリル共重合体からなる基本樹脂に、臭素系有機化合物難燃剤、アンチモン系難燃補助剤、及びメタルステアレート及びステアルアミド系化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物とを含むアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物に関するものであって、より詳しくは難燃性に優れながら耐侯性及び熱安定性が著しく向上されるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(Acrylonitrile−Butadiene−Styrene、以下‘ABS’という)樹脂は優秀な機械的物性と加工性に基づいて電機、電子製品、及び事務自動化機器に広く適用されているが、樹脂自体に難燃性を有していないため、樹脂に難燃性を与えるために難燃剤と難燃補助剤を添加して難燃ABS樹脂として製造され、適用されている。
【0003】
しかし、ABS樹脂の成分のいずれか1つであるブタジエンゴムに起因する不飽和結合部分は紫外線、酸素、熱などによって比較的容易に結合部分が切断されて樹脂の老化をもたらすため、耐侯性が低下される結果を招く問題点がある。
【0004】
また、ABS樹脂の難燃性を与えるために難燃剤と難燃補助剤を添加する場合、機械的な物性と耐衝撃性が低下されるのみならず、熱安定性と耐侯性も急激に低下する問題点がある。
【0005】
結局、前記のように製造された難燃ABS樹脂は耐侯性及び熱安定性に弱く、これは十分予想できるものであって、優れる耐侯性と熱安定性を有した難燃ABS樹脂の開発が最も重要である。
【0006】
前記したように、難燃ABS樹脂に必然的に添加される難燃剤は樹脂の機械的物性のみならず、熱安定性と耐侯性を低下させる要因として作用する問題点がある。このような問題点によって、様々な種類の安定剤を用いて熱安定性と耐侯性を向上させることはできるが、高価の安定剤を多量添加する場合は原価上昇の要因として作用するようになり、また、かえって熱安定性の低下を誘発し得るという問題点がある。
【0007】
従って、熱安定性、耐侯性、及び難燃性の全てに優れるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂の開発に対する研究が最も必要な実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような従来技術の問題点を解決するために、本発明は難燃性に優れながらも耐侯性及び熱安定性が著しく向上されるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の前記した目的及びその他の目的は下記説明した本発明によって全てが達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は
a)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びスチレン−アクリロニトリル共重合体からなる基本樹脂100重量部;
b)臭素系有機化合物難燃剤10乃至30重量部;
c)アンチモン系難燃補助剤1乃至20重量部;及び
d)メタルステアレート及びステアルアミド系化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物1乃至10重量部;を含むことを特徴とするアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を提供する。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは臭素系有機化合物難燃剤を用いて従来の難燃樹脂が有していない耐侯性及び熱安定性を保有したABS樹脂組成物を開発して本発明を完成した。
【0013】
前記a)の基本樹脂は、
1) アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体樹脂10乃至90重量部、及び
2) スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂10乃至90重量部を含む。
【0014】
前記a)の基本樹脂の成分をなしている前記1)のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体樹脂は乳化グラフト重合で製造して、ゴム含量30乃至70重量%であるものが望ましい。
【0015】
前記1)のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体樹脂は、まず、単量体の全体含量に対してブタジエンの含量が30乃至70重量部となるように、平均粒径が0.1乃至0.5μmであるブタジエンゴムラテックスを投入し、乳化剤0.6乃至2重量部、分子量調節剤0.2乃至1重量部、及び重合開始剤0.05乃至0.5重量部の存在下においてアクリロニトリル単量体5乃至40重量部及びスチレン単量体20乃至70重量部を連続或いは一括投入して乳化重合によってアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂ラテックスとして製造される。前記製造されたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂ラテックスを5%の硫酸水溶液で凝固させ乾燥して粉末状態のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂を製造することができる。
【0016】
前記a)の基本樹脂の成分をなしている前記2)のスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂は、重量平均分子量が50,000乃至150,000であり、アクリロニトリル単量体の含量が20乃至40重量部であるものが望ましく、これらを単独且つ2種以上混合して使用し得る。
【0017】
前記b)の臭素系有機化合物難燃剤は、テトラブロモビスフェノールA(Tetra Bromo Bisphenol A)、臭素化エポキシオリゴマー(Brominated Epoxy Oligomer)、ヘキサブロモジフェノキシエタン(Hexabromo Diphenoxy Ethane)、またはペンタブロモフェニルエタン(Pentabromophenyl Ethane)などが使用でき、特に下記化学式1で示されるデカブロモジフェニルエタン(Deca Bromo Diphenyl Ethane)化合物を使用することが望ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
前記b)の臭素系有機化合物難燃剤は、基本樹脂100重量部に対して10乃至30重量部で含まれるものが望ましい。前記難燃剤の含量が10乃至30重量部である場合には難燃性、加工性、及び機械的強度が向上される効果がある。
【0020】
前記c)のアンチモン系難燃補助剤は、臭素系有機化合物と共に難燃効果を上昇させる作用をするものであって、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、金属アンチモン、または三塩化アンチモンなどを使用することができ、特に三酸化アンチモンを使用することが望ましい。
【0021】
前記三酸化アンチモンは平均粒径が0.02乃至5μmであるものを使用することができ、高い耐衝撃性を確保するためには平均粒径が0.5μm以下で微粒粒径を有するものが望ましい。
【0022】
前記c)のアンチモン系難燃補助剤は、基本樹脂100重量部に対して1乃至20重量部で含まれるものが望ましい。
【0023】
前記d)のメタルステアレート及びステアルアミド系化合物は、滑剤として製品の流動性を高めることによって物性を改善させる効果を誘発する。
【0024】
前記メタルステアレート化合物は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、またはステアリン酸アルミニウムなどを単独且つ2種以上混合して使用することができ、前記ステアルアミド系化合物は、エチレンビスステアルアミドなどを使用し得る。
【0025】
前記d)のメタルステアレート及びステアルアミド系化合物は、基本樹脂100重量部に対して1乃至10重量部で含まれるものが望ましい。
【0026】
本発明は、前記乳化グラフト重合によって製造されたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂及びスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂とを含む基本樹脂に、臭素系有機化合物難燃剤及びアンチモン系難燃補助剤を添加することにより、熱安定性と耐侯性に優れ、メタルステアレート及びステアルアミド系化合物を添加することにより物性を向上したアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を製造することができる。
【0027】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物は、基本樹脂100重量部に対して衝撃補強剤である塩素化ポリエチレン1乃至15重量部をさらに含むことができる。
【0028】
また、前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物は、滑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線遮断剤、顔料、または無機充填剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0029】
前記添加剤は、基本樹脂100重量部に対して滴下防止剤であるフッ素系化合物は0.05乃至2重量部、滑剤は0.2乃至10重量部、及び安定剤は0.2乃至10重量部で含まれることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明がよりわかるように望ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するもののみであり、本発明の範囲が下記実施例に限られるものではない。
【0031】
[実施例]
実施例1
乳化グラフト重合方法により製造した、ブタジエンゴムの平均粒径0.3μm程度であるABS共重合体樹脂39重量部と、アクリロニトリルの含量が25重量部であり、重量平均分子量が120,000であるスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(A)48重量部と、アクリロニトリルの含量が23重量であり、重量平均分子量が110,000であるスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(B)13重量部とからなる基本樹脂100重量部に対して、臭素系有機化合物難燃剤であるデカブロモジフェニルエタン化合物(商品名:Saytex 8010)15重量部、ステアルアミド系滑剤であるエチレンビスステアルアミド(EBA)1重量部、平均粒径が0.35μmである三酸化アンチモン6重量部、塩素化ポリエチレン7重量部、ジメチルポリシロキサン0.5重量部、滴下防止剤0.1重量部、及び酸化防止剤0.5重量部を添加した混合物をヘンシェルミキサーによって均一に混合した後、二軸押し出し機によってペレット形態の樹脂組成物を製造した。前記製造されたペレットを射出成形して物性及び難燃試験の試片を製作し、各物性の項目を評価してその結果を下記表1に示した。
【0032】
実施例2
前記実施例1において、下記表1と同じ組成としてABS共重合体樹脂35重量部と、アクリロニトリルの含量が23重量部であり、重量平均分子量が110,000であるスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(B)65重量部とからなる基本樹脂100重量部に対して、臭素系有機化合物難燃剤であるセイテックス8010(Saytex 8010)14重量部、ステアルアミド系滑剤であるエチレンビスステアルアミド(EBA)7重量部、平均粒径が0.35μmである三酸化アンチモン7重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同一に実施した。
【0033】
実施例3
前記実施例1において、下記表1と同じ組成としてABS共重合体樹脂39重量部と、アクリロニトリルの含量が23重量部であり、重量平均分子量が110,000であるスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(B)61重量部とからなる基本樹脂100重量部に対して、臭素系有機化合物難燃剤であるセイテックス8010(Saytex 8010)14重量部、ステアルアミド系滑剤であるエチレンビスステアルアミド(EBA)5重量部、平均粒径が0.35μmである三酸化アンチモン7重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同一に実施した。
【0034】
実施例4
前記実施例2において、臭素系有機化合物難燃剤を11重量部を使用したことを除いては、前記実施例2と同一に実施した。
【0035】
実施例5
前記実施例2において、臭素系有機化合物難燃剤を25重量部を使用したことを除いては、前記実施例2と同一に実施した。
【0036】
比較例1
前記実施例1において、リン酸系有機化合物難燃剤であるトリフェニルリン酸塩(TPP)15重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同一に実施した。
【0037】
比較例2
前記実施例1において、アンチモン系難燃補助剤を使用しないことを除いては、前記実施例1と同一に実施した。
【0038】
比較例3
前記実施例1において、ステアルアミド系化合物であるエチレンビスステアルアミド(EBA)を使用しないことを除いては、前記実施例1と同一に実施した。
【0039】
【表1】

【0040】
前記実施例及び比較例から製造されたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物の試片の物性を下記の方法にて測定し、その結果を下記の表2に示した。
(1)衝撃強度:ASTM D256の試験方法に基づいて1/8インチの厚手に対して評価し、単位はkg・cm/cmである。
(2)引張強度:ASTM D638の試験方法に基づいて50mm/minの条件下で評価し、単位はkg/cm2である。
(3)伸び率:ASTM D638の試験方法によって50mm/minの条件下で評価し、単位は%である。
(4)流動性:ASTM D1238の試験方法によって220℃、10kg荷重の条件下で評価し、単位はg/10minである。
(5)熱安定性:射出機を用いて射出成形の時、加工温度を250℃にセットし、15分間樹脂を射出機に滞留させた後、滞留させない加工品との△Eを測定した。
(6)耐侯性:UV消毒機において板状試片を5時間放置した後、△Eを測定した。
(7)難燃度:UL-94の試験基準に基づき試験して判定した。
【0041】
【表2】

【0042】
前記表2からわかるように、本発明による実施例1乃至5のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物は比較例1乃至3のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物と比べて熱安定性、耐侯性、及び難燃度が全て優秀であることが確認できた。
【0043】
特に、臭素化有機化合物難燃剤としてセイテックス8010を使用した実施例は難燃性を保持しながらも同時に耐侯性と熱安定性に優れることが確認でき、ステアルアミド系滑剤であるエチレンビスステアルアミド(EBA)の含量が増加することにつれて衝撃強度、流動性が増加し、従って製品の加工性を向上させることができるということがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
前記に説明したように、本発明によると、難燃性に優れるのみならず、耐侯性及び熱安定性が著しく向上されるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物を提供する効果がある。以上、本発明の記載された具体例を中心に詳細に説明したが、本発明の範疇及び技術思想範囲内で当業者にとって多様な変形及び修正が可能であることは明らかであり、このような変形及び修正が添付された特許請求範囲に属することも当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びスチレン−アクリロニトリル共重合体からなる基本樹脂100重量部;
b)臭素系有機化合物難燃剤10乃至30重量部;
c)アンチモン系難燃補助剤1乃至20重量部;及び
d)メタルステアレート及びステアルアミド系化合物からなる群から選ばれる1種以上の化合物1乃至10重量部;
を含むことを特徴とするアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記a)の基本樹脂は、
1)乳化グラフト重合で製造され、ゴム含量が30乃至70重量%であるアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体樹脂10乃至90重量部、及び
2)重量平均分子量が50,000乃至150,000であり、アクリロニトリル単量体の含量が20乃至40重量部である1種以上のスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂10乃至90重量部
を含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項3】
前記b)の臭素系有機化合物難燃剤は、テトラブロモビスフェノールA、臭素化エポキシオリゴマー、ヘキサブロモジフェノキシエタン、及びペンタブロモフェニルエタンからなる群から1種以上選ばれることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項4】
前記b)の臭素系有機化合物難燃剤は、下記化学式1で示されることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【化1】

【請求項5】
前記c)のアンチモン系難燃補助剤は、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、金属アンチモン、及び三塩化アンチモンからなる群から1種以上選ばれることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項6】
前記d)のメタルステアレート化合物は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウムからなる群から1種以上選ばれ、前記ステアルアミド系化合物は、エチレンビスステアルアミドであることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項7】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物は、基本樹脂100重量部に対して衝撃補強剤である塩素化ポリエチレン1乃至15重量部をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。
【請求項8】
前記アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物は、滑剤、熱安定剤、滴下防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線遮断剤、顔料、及び無機充填剤からなる群から1種以上選ばれる添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂組成物。

【公表番号】特表2008−519153(P2008−519153A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551210(P2007−551210)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/KR2006/004658
【国際公開番号】WO2007/073037
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】