説明

充填材選択支援システム、充填材選択支援方法および充填材選択支援プログラム

【課題】医師による充填作業において歯科用充填材の層厚が変動しても、充填後の歯の色が、予測色から大きく乖離しないような充填材の組合せを提供する。
【解決手段】患者の歯の色を取得する歯色取得手段2と、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得手段と、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得手段と、取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定手段9とを備える充填材選択支援システム1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の歯に形成される窩洞に充填する充填材の選択を支援するための充填材選択支援システム、充填材選択支援方法および充填材選択支援プログラムを提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の歯の色を光学的な測色装置を用いて取得し、窩洞に充填する歯科用充填材の積層構築後の色を予測することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3875512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、医師による歯科用充填材の充填作業においては、予め設定された層厚に正確に充填することは困難であり、また、現実の窩洞も一定の深さのものではなくて、場所に応じて変化する。その結果、充填材の各層の実際の厚さは、予め予測した値とは異なり、単に算出された層厚に設定するだけでは、層厚が変動した場合に、予測色から乖離してしまう不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、医師による充填作業において歯科用充填材の層厚が変動しても、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色から大きく乖離しないような充填材の組合せを提供して、充填材の選択を支援することができる充填材選択支援システム、充填材選択支援方法および充填材選択支援プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、患者の歯の色を取得する歯色取得手段と、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得手段と、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得手段と、取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定手段とを備える充填材選択支援システムを提供する。
【0007】
本発明によれば、患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いることにより、医師による充填作業において中間層から最も表面側の層までの充填材が設定された厚さとは異なる厚さ寸法で充填された場合においても、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色から大きく乖離しないような充填材の組合せを提供することができる。
【0008】
上記発明においては、前記第1予測色取得手段が、前記最も表面側の層の1段下層の充填材が充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得することとしてもよい。
このようにすることで、医師による充填作業において最も表面側の層の層厚が変動しても、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色から大きく乖離しないような充填材の組合せを提供することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記充填材の光学的特性を記憶する特性記憶部を備え、前記第1予測色取得手段および/または前記第2の予測色取得手段が、前記特性記憶部に記憶されている充填材の光学的特性に基づいて第1の予測色および/または第2の予測色を算出することとしてもよい。
このようにすることにより、充填材の厚さ寸法に応じた第1、第2の予測色自体を全て記憶しておく必要がなく、記憶量を節約することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記充填材の厚さと予測色とを対応づけたルックアップテーブルを記憶する予測色記憶部を備え、前記第1予測色取得手段および/または前記第2の予測色取得手段が、充填材の厚さに基づいて前記予測色記憶部に記憶されている予測色を第1の予測色および/または第2の予測色として選択することとしてもよい。
このようにすることで、第1、第2の予測色の算出を行う必要がなく、迅速に充填材の候補を提供することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記充填材候補決定手段が、前記第1の予測色と前記第2の予測色との差が所定の基準値以下の充填材の組合せを候補として決定することとしてもよい。
このようにすることで、第1の予測色と第2の予測色との差が所定の基準値を超えて大きな場合、すなわち、医師による充填作業において中間層から最も表面側の層までの充填材が設定された厚さとは異なる厚さ寸法で充填された場合に、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色から大きく乖離してしまうような充填材の組合せを候補から除外することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記充填材候補決定手段が、前記第1の予測色と前記第2の予測色との差が小さい順に優先順位の高い候補として決定することとしてもよい。
このようにすることで、第1の予測色と第2の予測色との差が小さい場合、すなわち、医師による充填作業において中間層から最も表面側の層までの充填材が設定された厚さとは異なる厚さ寸法で充填されても、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色に近い色となる充填材の組合せを高い優先順位で候補にすることができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記充填材候補決定手段が、前記第2の予測色取得手段により取得された第2の予測色と患者の歯の色との差に基づいて前記充填材の仮候補を決定し、前記第1の予測取得手段により取得された第1の予測色と患者の歯の色との差または前記第2の予測色と第1の予測色との差に基づいて前記仮候補の中から前記充填材の候補を決定することとしてもよい。
このようにすることで、第1の予測色によって候補となる充填材を絞り込むことができ、計算量を低減して迅速に充填材の候補を提供することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記充填材候補決定手段により決定された候補を、前記第2の予測色と患者の歯の色との差または前記第2の予測色と前記第1の予測色との差が小さい順に前記充填材の候補を表示する表示部を備えていてもよい。
このようにすることで、表示部には、厚さが変動しても色の変化が少ないものから順に充填材の候補が表示されるので、表示された充填材の候補の中からの選択を容易にすることができる。
【0015】
また、本発明は、患者の歯の色を取得する歯色取得ステップと、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得ステップと、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得ステップと、取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定ステップとを含む充填材選択支援方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得ステップと、患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得ステップと、取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定ステップとをコンピュータに実施させる充填材選択支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、医師による充填作業において歯科用充填材の層厚が変動しても、充填後の歯の色が、目標となる患者の歯の色から大きく乖離しないような充填材の組合せを提供して、充填材の選択を支援することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る充填材選択支援システムを示すブロック図である。
【図2】図1の充填材選択支援システムにより算出される予測色と実際の患者の歯との色との差の厚さ誤差に対する変化を示すグラフである。
【図3】図1の充填材選択支援システムを用いた充填材選択支援方法を示すフローチャートである。
【図4】第1層充填段階の予測色と目標色との色差と充填材の層厚変動により生ずる色差との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図5】第1層充填段階予測色と目標色との色差×第2層充填厚さの双曲線余接と充填材の層厚変動により生ずる色差との関係のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】最も表面側の層の層厚の変動により生ずる色差について、充填材の候補制限をする場合としない場合との比較のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図7】図1の充填材選択支援システムの変形例であって、充填材の厚さおよび種類毎の予測色を記憶する(a)2層目、(b)1層目のルックアップテーブルの一例を示す図である。
【図8】図1の充填材選択支援システムの変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る充填材選択支援システム1について、図1〜図3を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る充填材選択支援システム1は、図1に示されるように、患者の歯の画像を取得する撮像装置2と、窩洞の属する部位(エリア情報)や窩洞の深さ寸法等の情報を入力する入力装置3と、システム本体4と、表示装置5とを備えている。
【0020】
システム本体4は、撮像装置2により取得された歯の画像を記憶する画像メモリ6と、該画像メモリ6に記憶された画像および入力装置3により入力された患者の窩洞の属する部位の情報に基づいて、窩洞の属する部位における患者の歯の色を算出する歯色度算出部7と、窩洞に充填材を充填したときの窩洞部分の充填色を算出する充填色算出部8と、歯色度算出部7により算出された患者の歯の色および充填色算出部8により算出された充填色に基づいて充填材の候補を決定する充填材組合せ選択部9とを備えている。本実施形態において、窩洞の属する部位としては、歯頸部(cervical)、中央部(body)、切縁部(incisal)の3つが挙げられる。
【0021】
撮像装置2は、4種類以上の波長帯域の照明光(4原色以上の照明光)を被写体に順次照射して、照明光の波長帯域の数と同じ枚数の被写体分光画像を静止画として取り込むマルチバンド撮影を行うことができるようになっている。
マルチバンド撮影は、患者の歯1〜2本の色を正確に計測する場合、つまり歯の測色を行う場合に用いられる。撮像装置2によって取得された歯の画像はマルチバンド画像データとして画像メモリ6に記憶されるようになっている。
【0022】
歯色度算出部7は、スペクトル推定演算部10、観察スペクトル演算部11、および色度値演算部12を備えている。また、歯色度算出部7内には、観察に使用する照明光のスペクトルS(λ)を記憶する照明スペクトル記憶部13が設けられている。
スペクトル推定演算部10は、マルチバンド撮影により取得され、画像メモリ6に記憶されているマルチバンド画像データと、入力装置3から入力された窩洞の属する部位の情報とを用いて、入力された窩洞の属する部位におけるマルチバンド画像データのスペクトル推定処理等を行うようになっている。
【0023】
このスペクトル(分光反射率)推定処理では、380nmから780nmまでの波長帯域において、1nm間隔で分光反射率の推定を行うようになっている。つまり、本実施形態では、401次元の分光反射率を推定するようになっている。
【0024】
一般的に、1波長毎の分光反射率を求めるためには重厚で高価な分光計測器などが用いられるが、本実施形態では被写体が歯に限定されていることから、その被写体が有する一定の特徴を利用することにより、少ないバンドで401次元の分光反射率を推定する。
具体的には、マルチバンド画像データとスペクトル推定マトリクスとを用いてマトリクス演算を行うことにより、401次元のスペクトル信号が算出される。
【0025】
上記スペクトル推定マトリクスは、撮像装置2の分光感度データ、照明光のスペクトルデータ、被写体(歯)の統計データに基づいて作成される。このスペクトル推定マトリクスの作成については特に限定されることなく、周知の手法を用いることが可能である。例えば、その一例が、S.K.Park and F.O.Huck "Estimation of spectral reflectance curves from multispectrum image data", Applied Optics, 16,pp3107-3114(1977)に詳述されている。
【0026】
観察スペクトル演算部11は、スペクトル推定演算部10により算出された歯のスペクトルに対して観察に使用する照明光のスペクトルS(λ)を乗算することにより、観察に使用する照明光下での被写体のスペク卜ルを求めるようになっている。この照明光のスペクトルS(λ)は、D65やD55光源、蛍光灯光源等、歯の色を観察する場合に使用される光源からの照明光のスペクトルである。
【0027】
色度値演算部12は、観察に使用する照明光下での被写体のスペクトルから色度値L*,a*,b*を算出する。具体的には、色度値演算部12は、歯の部位毎に色度値L*,a*,b*を平均化し、この結果を、患者の歯の色(目標色)Cとして、出力するようになっている。
【0028】
充填色算出部8は、入力装置3により入力された窩洞の深さ寸法に基づいて、該窩洞をちょうど埋めるのに適した充填材の層数および各層の厚さ寸法を算出する厚さ情報設定部14と、複数の充填材の光学的特性を記憶する充填材情報記憶部15と、該充填材情報記憶部15に記憶されている充填材の光学的特性と厚さ情報設定部14により設定された充填材の厚さ寸法とに基づいて、全ての可能な組合せにより充填材を充填したときの窩洞部分の予測色C,Cを算出する予測色算出部16とを備えている。
【0029】
予測色算出部16は、厚さ情報設定部14により設定された厚さ寸法通りに窩洞に充填材が充填され、最も表面側の層まで充填された場合の窩洞部分の予測色Cと、最も表面側の層の一段下層(中間層)に配される層まで設定された厚さ寸法通りに充填された段階での窩洞部分の予測色Cとを算出するようになっている。予測色C,Cの算出は、例えば、数1に示されるKubelka-Munkの式を用いて行われるようになっている。
【0030】
【数1】

ここで、Rは半透明体(ここでは各層が積層された状態における最上層)の分光反射率、Rgは下地(ここでは下層の各充填材)の分光反射率である。cothは双曲余接関数を表し、Sは半透明体の分光散乱係数(光学特性)、Kは半透明体の分光吸収係数(光学特性)である。Xは層厚を示している。
【0031】
このようにすることで、充填材の色を厚さ毎に予め取得したり記憶したりしておく必要がなく、特に、想定される組合せが多い場合に取得の手間や記憶量を大幅に削減することができるという利点がある。
【0032】
充填材組合せ選択部9は、充填材毎に、歯色度算出部7により算出された歯の色Cと、予測色算出部8により算出された2種類の予測色C,Cから、色の差dE(C,C),dE(C,C)を算出するようになっている。
色の差dE(C,C)は、例えば、以下の数2により算出するようになっている。
【0033】
【数2】

ここで、Li,ai,bi(i=1,2,3)はそれぞれの色C〜CのCIE表色系におけるL*,a*,b*値である。
【0034】
図2に、患者の歯に設けられた窩洞内に2層に充填材を充填する場合の各層における予測色C,Cの目標色Cとの色の差dE(C,C),dE(C,C)の例を示す。第1層(中間層)および第2層(最も表面側の層)ともに3種類の充填材の候補が存在する場合を示す。
【0035】
図2によれば、目標色Cに対してある程度の色の差のある下地の上に、第1層目として、設定された厚さ寸法で3種類の充填材を充填した段階での窩洞部分の予測色Cと目標色Cとの差dE(C,C)が示されている。さらに、第1層の上に、第2層目として、第1層目の3種類の充填材に対してそれぞれ3種類の充填材を、設定された厚さ寸法で充填した場合の窩洞部分の予測色Cと目標色Cとの差dE(C,C)が示されている。
【0036】
そして、充填材組合せ選択部9は、算出された色の差dE(C,C)が大きい充填材の組合せを候補から除外し(候補制限を行い)、算出された色の差dE(C,C)が小さい順に充填材の組合せを選択し、表示装置5に出力するようになっている。
【0037】
このように構成された本実施形態に係る充填材選択支援システム1を用いた充填材選択支援方法について、以下に説明する。
本実施形態に係る充填材選択支援システム1を用いて充填材を選択するには、図3に示されるように、まず、患者の歯の色Cを取得する(歯色取得ステップS1)。歯の色Cの取得は、撮像装置2を用いて患者の歯の画像を取得し、取得された画像を処理して歯の色Cを算出することにより行われる。
【0038】
また、入力装置3によって、窩洞の深さおよび窩洞の属する部位の情報を入力する(入力ステップS2)。厚さ情報設定部14において、窩洞の深さをちょうど埋めるための充填材の層数と各層の材料および厚さ寸法の組合せ候補が設定される(厚さ寸法設定ステップS3)。
【0039】
次いで、予測色算出部16において、患者の歯に形成される窩洞に充填される充填材が、厚さ情報設定部14において設定された厚さ寸法で、最も表面側の層の一段下層(中間層)に配される層まで充填された段階での窩洞部分の予測色Cが算出される(第1予測色取得ステップS4)。
この状態で、充填材組合せ選択部9において、上記のように取得された患者の歯の色C、第1の予測色Cを用いて、相互の差dE(C,C)が算出される(色差算出ステップS5)。
【0040】
そして、充填材組合せ選択部9において、中間層における目標色Cとの色の差dE(C,C)が大きい充填材の組合せが候補から除外され、色の差dE(C,C)が小さいm個の充填材の組合せ候補に絞られる(ステップS6)。充填材の組合せの除外は、所定の基準値によって行ってもよいし、大きい順に所定数だけ行ってもよい。
この後に、予測色算出部16において、患者の歯に形成される窩洞に充填される充填材が、厚さ情報設定部14において設定された厚さ寸法で、最も表面側の層まで充填された場合の窩洞部分の予測色Cが算出される(第2予測色取得ステップS7)。
【0041】
そして、充填材組合せ選択部9において、上記のように取得された患者の歯の色C、第2の予測色Cを用いて、相互の差dE(C,C)が算出される(ステップS8)。
その後、充填材組合せ選択部9において、最も表面側の層における目標色Cとの色の差dE(C,C)が小さい充填材の組合せが小さい順に選択され、表示装置5によって表示される(ステップS9)。
【0042】
このように、本実施形態に係る充填材選択支援システム1によれば、単に厚さ情報設定部14により設定された厚さ寸法通りに窩洞に充填材が充填された場合の最も表面側の層の予測色Cと実際の患者の歯の色Cとの差dE(C,C)が小さい充填材の組合せが選択されるのではなく、中間層における目標色Cとの色の差dE(C,C)が小さい充填材の組合せが選択される。
【0043】
中間層における目標色Cとの色の差dE(C,C)が大きい充填材が選択された場合に、最も表面側の層における窩洞部分の歯の色を目標色Cに近づけるためには、中間層から最も表面側の層までの間において大きく色を変化させる必要がある。例えば、図2に示される2層構造の場合には、第1層において目標色Cとの色の差dE(C,C)が大きい充填材が選択された場合には、第2層によって色を大きく変化させて最も表面側において目標色Cに近づける必要がある。その結果、医師による充填作業において充填材の層厚が変動した場合には、充填後の歯の色が、目標色Cから大きく乖離してしまうことになる。
【0044】
ここで、最も表面側の層の1段下層である第1層まで充填された場合の窩洞部分の予測色C2と目標色Cとの色差dE(C,C)に対し、最も表面側の層まで充填された後の充填部の色が、各層の厚さの変動によって、予測した色から乖離する様子をシミュレーションした結果について説明する。
図4は、窩洞部分の充填材の積層数を2層とし、最も表面側の層である第2層とその一段下層の第1層との界面の変動により第1層と第2層の各層厚が変動したという条件の下でシミュレーションした結果を示す。ここでは、設計上の厚さ寸法に対して、一方の層厚が20%上方に変動するとともに、他方の層厚が20%下方に変動した場合を想定することとした。例えば、設計上の厚さ寸法が1.0mmである場合には、第1層の層厚が0.2mm上方の1.2mmに変動するとともに、第2層の層厚が0.2mm下方の0.8mmに変動する場合と、第1層の層厚が0.8mmに変動するとともに、第2層の層厚が1.2mmに変動する場合の2通りがあり得る。
【0045】
横軸は、第1層まで充填された場合の窩洞部分の予測色C2と目標色Cとの色差dE(C1,C2)であり、縦軸は、第1層と第2層の各層厚が20%変動した状態で第2層まで充填されたときの窩洞部分の予測色C3’と、厚さ寸法通りに第2層まで充填されたときの窩洞部分の予測色C3との色差dE(C3,C3’)である。ここで、目標色C1として、39個の被験者の歯の測色データを用いるとともに、各予測色C2,C3,C3’及び各色差dE(C1,C2)、dE(C3,C3’)の算出にあたり、市販の27色のコンポジットレジンシステムより取得した光学データを用いた。
【0046】
また、第1層及び第2層の層厚を同一として、各層厚を0.5mm、0.75mm、1.0mm、1.25mm、1.5mmの5通りとした場合に、市販の27色のコンポジットレジンシステムそれぞれについて、予測色C2,C3,C3’を数1に示されるKubelka-Munkの色予測式を用いて計算した。そして、色差dE(C,C)が最も小さくなるコンポジットレジンの組合せについて、各層厚が20%上方に変動したときの色差dE(C3,C3’)と20%下方に変動したときの色差dE(C3,C3’)の平均値を算出し、これを層厚の変動による予測色C3との色の乖離の評価に用いた。なお、本実験では、上述したような中間層段階における候補の除外を適用しなかった場合を示している。
【0047】
図4から明らかなように、最も表面側の層の1段下層である第1層の予測色C2が目標色C1から離れると,層厚が20%変動したことによる色差dE(C3,C3’)は大きくなっている.このことから、中間層における目標色C1との色の差dE(C1,C2)は、充填材の層厚の変動があった場合に、充填後の歯の色の変化に影響を与えていることがわかる。また、層厚が大きくなるほど、第1層の予測色C2と目標色C1との乖離が色差dE(C3,C3’)に与える影響が大きくなることがわかる。すなわち、層厚の変動により生じる色差dE(C3,C3’)は、厚さ寸法への依存性を有している。
【0048】
次に、最上層の一つ前段階での色差制限の基準の取り方の例を示す。
図5は、図4と同様の条件において、充填材の組合せの候補を除外する際の基準となる色差を設定する例を示す。この場合においても、図4の場合と同様に、厚さ寸法に対して20%程度層厚が変動する場合を想定するものとする。ここで、上記のように、層厚の変動により生じる色差dE(C3,C3’)の大小関係は、厚さ寸法に依存するので、この厚さ寸法の依存性を除くことが好ましい。厚さ寸法の依存性を除く手法としては、例えば、数1のように反射率Rが積層厚さXの双曲線余接の関数で表されることを考慮し、図5のように、図4の横軸を第1層段階での目標色との色差に最上層の積層厚さXの双曲線余接を乗じたものを横軸とすることが考えられる。
【0049】
このようにすると、各積層厚でのプロットがおおよそ重なってくるので、厚さ寸法による影響が大幅に緩和される。例えば、許容できる色差dE(C3,C3’)として1.5以下に抑制する場合には、本プロットにおける近似線を利用して、横軸の値を約25以下に制限すればよい。
【0050】
本実施形態によれば、中間層における目標色Cとの色の差dE(C,C)が小さい充填材の組合せが選択されるので、医師による充填作業において充填材の層厚が変動しても、充填後の歯の色が、目標色Cから大きく乖離しないような充填材の組合せを提供することができるという利点がある。
【0051】
この場合に、本実施形態によれば、充填材情報記憶部15に、充填材の光学特性を記憶しておき、数1によって予測色C,Cを算出することとしたので、充填材の色を厚さ毎に予め取得したり記憶したりしておく必要がなく、特に、想定される組合せが多い場合に取得の手間や記憶量を大幅に削減することができるという利点がある。
【0052】
本実施形態においては,図2に示される2層構造に代えて、3層以上の層に充填材を充填することとしてもよい。この場合、中間層のうち、最も表面側の層の1段下層の充填材が充填された段階での予測色を取得することが好ましい。以下に、最も表面側の層(最上層)の1段下層において充填材の組み合わせ候補の絞込み(候補制限)が行われたときに、充填材の層厚の変動があっても、充填後の歯の色の変化を抑えることができていることをシミュレーション実験により示す。
【0053】
図6は、充填材の積層数を3層とした場合において、最も表面側の層の1段下層のみで候補制限を行った場合と候補制限を行わなかった場合、および最も表面側の層の2段下層の層のみで候補制限を行った場合と候補制限を行わなかった場合のそれぞれについてシミュレーションした結果を示す。ここでは、各層厚を1.0mmとし、最も表面側の層の層厚が設計上の厚さ寸法に対して上方または下方に20%(±0.2mm)変動することにより、表面の位置が変動する場合を想定することとした。このシミュレーションにおいても、図4の場合と同様に、最も表面側の層の層厚が20%上方に変動したときと20%下方に変動したときのそれぞれの色差dE(C3,C3’)の平均値を用いることとした。また、目標色Cとして、39個の実際の被験者の歯の測色データ(目標色)を用いることとした。
【0054】
図6において、横軸は、充填材の候補制限を全く適用しない場合における色差dE(C3,C3’)の平均値であり、縦軸は、充填材の候補制限を適用した場合における色差dE(C3,C3’)の平均値である。
図6によれば、39個のサンプルのうち、最も表面側の層の1段下層では、充填材の候補制限を行わない場合に、層厚が変動したときの色差dE(C3,C3’)が大きくなるものであっても、候補制限を行うことにより、色差dE(C3,C3’)を約0.5以下に抑えることができている。これに対して、最も表面側の層の2段下層では、充填材の候補制限を行っても、そのような効果が現れていない。よって、最も表面側の層の1段下層において充填材の候補制限を行うと、色差dE(C3,C3’)を抑制する効果が大きいことが分かる。これは、最も表面側の層の2段以上下層の層で候補選択を行っても、最も表面側の層の1段下層で目標色Cに対する色差が大きい充填材が選択されれば、層厚の変動により発生する予測色C3との色差dE(C3,C3’)が大きくなることによる。すなわち、層厚の変動により発生する予測色C3との色差dE(C3,C3’)は、最も表面側の層の1段下層の色に最も依存していると考えられる。
【0055】
なお、本実施形態においては、充填材情報記憶部15に充填材の光学特性を記憶しておき、数1によって予測色C,Cを算出することに代えて、充填材情報記憶部15に、図7に示されるように、充填材毎に厚さ寸法と色とを対応づけて記憶するルックアップテーブルを備えていてもよい。充填材の種類と厚さ寸法とを入力することにより、その充填材の色を迅速に出力することができるようになっている。
【0056】
図7において、(a)は最も表面側の層(第2層)の予測色C、(b)はその一段下層の層(第1層)の予測色Cのルックアップテーブルをそれぞれ示している。ルックアップテーブルは、縦に下層に適用できる充填材、横に上層に適用できる充填材を配列しており、その交差する欄が当該厚さ寸法での予測色C,Cを示している。ルックアップテーブルは、測色によって取得してもよいし、計算によって取得してもよい。
【0057】
また、本実施形態においては、患者の実際の歯の色Cと、2種類の予測色C,Cとの差を算出して、その色の差dE(C,C),dE(C,C)によって充填材の組合せ候補を選択することとしたが、これに代えて、予測色C,Cどうしの差dE(C,C)を用いてもよい。
また、色の差dE(C,C)によって組合せ候補を絞り込んだ後に、色の差dE(C,C)によって組合せ候補を選択することとしたが、これに代えて、まず、最も表面側の層における目標色Cとの色の差dE(C,C)によって組合せ候補を絞り込んだ後に、中間層における目標値Cとの色の差dE(C,C)によって、組合せ候補を選択することにしてもよい。
【0058】
また、本実施形態においては、撮像装置2により取得されたマルチバンド画像データに基づいて患者の実際の歯の色を取得することとしたが、これに代えて、RGB撮像装置を用いてもよいし、図8に示されるように、スポット測色計20を採用し、スポット測色計20によって、直接的に色度値を測定することにしてもよい。
また、本実施形態においては、各構成要素は、ハードウェアによって構成してもよいし、コンピュータプログラムにより構成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 充填材選択支援システム
2 撮像装置(歯色取得手段)
5 表示装置(表示部)
9 充填材組合せ選択部(充填材候補決定手段)
15 充填材情報記憶部(特性記憶部)
16 予測色算出部(第1予測色取得手段、第2予測色取得手段)
患者の歯の色(目標色)
第1の予測色
第2の予測色
S1 歯色取得ステップ
S4 第1予測色取得ステップ
S6 第2予測色取得ステップ
S8 充填材候補決定ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯の色を取得する歯色取得手段と、
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得手段と、
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得手段と、
取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定手段とを備える充填材選択支援システム。
【請求項2】
前記第1予測色取得手段が、前記最も表面側の層の1段下層の充填材が充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する請求項1に記載の充填材選択支援システム。
【請求項3】
前記充填材の光学的特性を記憶する特性記憶部を備え、
前記第1予測色取得手段および/または前記第2の予測色取得手段が、前記特性記憶部に記憶されている充填材の光学的特性に基づいて第1の予測色および/または第2の予測色を算出する請求項1または請求項2に記載の充填材選択支援システム。
【請求項4】
前記充填材の厚さと予測色とを対応づけたルックアップテーブルを記憶する予測色記憶部を備え、
前記第1予測色取得手段および/または前記第2の予測色取得手段が、充填材の厚さに基づいて前記予測色記憶部に記憶されている予測色を第1の予測色および/または第2の予測色として選択する請求項1または請求項2に記載の充填材選択支援システム。
【請求項5】
前記充填材候補決定手段が、前記第1の予測色と前記第2の予測色との差が所定の基準値以下の充填材の組合せを候補として決定する請求項1から請求項4のいずれかに記載の充填材選択支援システム。
【請求項6】
前記充填材候補決定手段が、前記第1の予測色と前記第2の予測色との差が小さい順に優先順位の高い候補として決定する請求項1から請求項4のいずれかに記載の充填材選択支援システム。
【請求項7】
前記充填材候補決定手段が、前記第2の予測色取得手段により取得された第2の予測色と患者の歯の色との差に基づいて前記充填材の仮候補を決定し、前記第1の予測取得手段により取得された第1の予測色と患者の歯の色との差または前記第2の予測色と第1の予測色との差に基づいて前記仮候補の中から前記充填材の候補を決定する請求項1から請求項6のいずれかに記載の充填材選択支援システム。
【請求項8】
前記充填材候補決定手段により決定された候補を、前記第2の予測色と患者の歯の色との差または前記第2の予測色と前記第1の予測色との差が小さい順に前記充填材の候補を表示する表示部を備える請求項1から請求項7のいずれかに記載の充填材選択支援システム。
【請求項9】
患者の歯の色を取得する歯色取得ステップと、
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得ステップと、
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得ステップと、
取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定ステップとを含む充填材選択支援方法。
【請求項10】
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、少なくとも1つの中間層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第1の予測色を取得する第1予測色取得ステップと、
患者の歯に形成される窩洞に充填される複数層の充填材のうち、最も表面側の層の充填材が設定された厚さ寸法で充填された段階での前記窩洞部分の第2の予測色を取得する第2予測色取得ステップと、
取得された患者の歯の色、第1の予測色および第2の予測色の相互の差の内の2以上の差を用いて前記充填材の候補を決定する充填材候補決定ステップとをコンピュータに実施させる充填材選択支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−194049(P2010−194049A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41174(P2009−41174)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】