説明

先端工具

【課題】引下線配線作業の所定の工程同士を一度に行うことを可能な構成として、引下線を切っても引下線の切断端部分が垂下するのを防止し、引下線の端部側に絶縁性の端末キャップを装着する作業を不要とし、更に、引下線の被覆材を剥き出しにするのを、作業員が直接に手に持った器具で剥ぎ取らなくても良くした先端工具を提供する。
【解決手段】絶縁ヤットコ101に装着される先端工具1に刃機構2、3を設け、刃機構2と刃機構3とは配線51の軸方向に沿って並ぶように配置され、刃機構2は配線51の被覆材52のみを切断可能な構成の刃部8、9を有し、刃機構3は配線51の芯線53を主に切断可能な構成の刃部8、9を有する構成として、刃機構2と刃機構3とで配線51に対して2箇所において芯線53の切断と被覆材52の切断とを同時に行えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絶縁ヤットコ等の間接活線工具の先端に装着されて、引下線等のように芯線の表面が被覆された構成をなすと共に架空状態にある配線に対する縁切りの工程と被覆剥ぎの工程とを同時に行うことが可能な複合機能性を備えた工具の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
芯線の周囲を被覆してなる架空状態の配線に対する工事の一つとして、変圧器の吊替作業において引下線を一旦縁切りした後、再び縁接続する引下線配線工事が行われる場合がある。従来の引下線配線工事における配線を切断する縁切り作業では、例えば特許文献1に示されるような2つの刃部が交差して切断する構成のハサミを用いて配線を完全に切断していた。
【0003】
そして、引下線の縁切りの工程により生じた引下線の架線側(電源側)端では充電した状態にある芯線が端面に表れることから、引下線の端部同士を再び縁接続する前に感電や短絡が生ずるのを防止するために、引下線の架線側端部では例えば特許文献2等に示されるような端末キャップ等の絶縁部材を一時に装着する必要があった。
【0004】
また、引下線の縁切りで生じた引下線のカッアウト側(負荷側)端では、引下線の端部同士を再び縁接続する前に検電するために、引下線の被覆材を剥ぎ取って芯線を確実に露出させる必要があり、この引下線の被覆材剥ぎ取り作業では、例えば特許文献3の図5に示されるように、作業員が剥ぎ取り治具等を手に持って引下線に対し直接に剥ぎ取りを行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−224910号公報
【特許文献2】特開平9−74635号公報
【特許文献3】特開2010−11629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される構造のハサミを用いて引下線を完全に切断する縁切りの工程では、切断した引下線の両端部が切断直後に垂下するのを防止するために、引下線の切断する部位の近傍をそれぞれ絶縁ヤットコ等で予め保持する必要があるので、前記引下線配線工事の作業の煩雑化や複数の絶縁ヤットコを操作するために複数の作業員を必要とする場合があるという不具合があった。
【0007】
また、引下線の架線側の端部に特許文献2に示されるような端末キャップを一時的に装着する工程を行うと、この端末キャップの着脱のために前記引下線配線工事の全体作業数が相対的に増加し、前記引下線配線工事を簡易且つ短時間で行うことが困難となるという不都合を有する。
【0008】
更に、引下線のカットアウト側端に対して、作業員が特許文献3に示される剥ぎ取り治具を手に持って直接に配線の被覆材の剥ぎ取りを行う場合には、作業中に剥ぎ取り治具の刃で作業員が誤って手を切ったりして怪我をするおそれがあることから、作業の安全性を確保するために作業員は切創防止用の手袋を着用する必要がある。このため、手袋を装着して作業するため被覆材の剥ぎ取り作業ひいては引下線配線作業の迅速性が更に損なわれるおそれがあった。また、剥ぎ取り治具の刃で芯線を傷つけるおそれもあった。
【0009】
そこで、本発明は、引下線配線作業の所定の工程同士を一度に行うことを可能な構成として、引下線を切断しても引下線の切断端部分が垂下するのを防止し、引下線の端部側に絶縁性の端末キャップを装着する作業を不要とし、更に、引下線の被覆材を剥き出しにするのを、作業員が直接に手に持った器具で剥ぎ取らなくても良くした先端工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る複合機能先端工具は、芯線の表面を被覆材で覆われると共に架空状態の配線の前記芯線を切断して、前記被覆材を剥ぎ取る工程を含む配線作業で用いられ、第1の接続部及び第2の接続部を介して間接活線工具に装着される先端工具であって、前記配線の軸方向に沿って並べることのできる第1の刃機構と第2の刃機構とを有し、前記第1の刃機構は、前記第1の接続部から延びる第1のアームに設けられた刃部と前記第1の接続部から延びる第2のアームに設けられた刃部とが相対的に遠近する方向に動き、前記2つの刃部は、交差した際に前記芯線の外周と同じ内周の円が形成されるように切欠かかれた凹部を有し、前記第2の刃機構は、前記第1の接続部から延びる第3のアームに設けられた刃部と前記第2の接続部から延びる第4のアームに設けられた刃部とが相対的に遠近する方向に動き、前記2つの刃部は、これらの刃部が相対的に近接した際に交差する突出刃を有すると共に、前記突出刃以外の部位は、前記突出刃同士が交差した際に前記被覆材を切らないように前記架空配線側が内方に抉られていることを特徴とする(請求項1)。ここで、配線とは例えば高圧引下線等の電線である。配線の被覆材の素材は例えばエチレンプロピレンゴム等の絶縁素材である。間接活線工具とは例えば絶縁ヤットコである。第1の刃機構と第2の刃機構との間隔は、例えば絶縁スリーブの軸方向の寸法の半分の長さと剥きしろの長さとを合せた寸法である。また、前記第1の刃機構の2つの刃部の開閉と前記第2の刃機構の2つの刃部の開閉とが前記間接活線工具による操作で同期して行われるように前記第1の刃機構と前記第2の刃機構とが連結されている(請求項2)。
【0011】
これにより、間接活線工具からの操作により先端工具の第1の刃機構における2つの刃部の開閉と第2の刃機構における2つの刃部の開閉とを配線に対し比較的遠隔から同時に行うことができるので、活線状態で配線工事を行うことが可能である。そして、この操作で、配線のある箇所では被覆材のみが切断され、配線のある箇所では主に芯線のみが切断され被覆材は繋がった部位が生ずる。すなわち、芯線が切断される位置と被覆材が切断される位置とは例えば絶縁スリーブの軸方向寸法の略半分の間隔が開き、この芯線が切断される位置と被覆材が切断される位置の間では芯線は被覆材と密着した状態にある。このため、芯線が切断されてもこの芯線の切断箇所の両側で配線の端部が垂下することがない。また、芯線が切断された箇所の両側の近傍部位を絶縁ヤットコ等の把持機能を備えた間接活線工具で把持し配線の軸方向に引っ張ることにより、一方側では芯線が剥き出しの状態になるので被覆材を剥ぎ取る作業がいらず、他方側では芯線の切断箇所よりも配線の軸方向外側に被覆材が存在し、この被覆材が端末キャップの役割を果たすので端末キャップの装着の作業は不要である。
【0012】
また、この発明に係る先端工具は、前記第1の刃機構の2つの刃部と前記第2の刃機構の2つの刃部とは、一方の刃部と他方の刃部とが前記間接活線工具の支持棒の軸方向に遠近して開閉する構成であっても良い(請求項3)。これにより、作業員は2つの刃機構の各2つの刃部間に配線が適切に位置しているか否かを確認しやすくなる。
【0013】
更に、この発明に係る先端工具は、 前記第1の刃機構と前記第2の機構の一方又は双方には、前記配線を前記2つの刃部の凹部又は突出刃まで案内するためのガイド機構が設けられている構成であっても良い(請求項4)。これにより、架空状態の配線を、第1の刃機構の2つの刃部が有する凹部や、第2の刃機構の2つの刃部が有する突出刃の軌道上等の定位置にまで、作業員が調整しなくても円滑且つ自然に持ってくることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、請求項1から請求項4に記載の発明によれば、間接活線工具からの操作により先端工具の第1の刃機構における2つの刃部の開閉と第2の刃機構における2つの刃部の開閉とを配線に対し比較的遠隔から同時に行うことができるため、活線状態で配線の縁切り及び被覆材の剥ぎ取り作業を行うことが可能となり、停電作業での配線工事を不要とし、配線工事により作業現場の周囲に存する需要者に対して迷惑をかけるのを防止することができる。
【0015】
また、請求項1から請求項4に記載の発明によれば、先端工具の第1の刃機構における2つの刃部の開閉と第2の刃機構における2つの刃部の開閉とを行うことにより、配線のある箇所では被覆材のみを切断することができ、配線のある箇所では主に芯線のみを切断され被覆材は繋がった部位を残すことができる。これにより、芯線が切断される位置と被覆材が切断される位置とは例えば絶縁スリーブの軸方向寸法の略半分の間隔を開けることができ、この芯線が切断される位置と被覆材が切断される位置の間では芯線は被覆材と密着した状態が維持されているので、芯線が切断されてもこの芯線の切断箇所の両側で配線の端部が垂下することがない。
このため、配線を縁切りする箇所の両側近傍部位を絶縁ヤットコ等の間接活線工具で把持しつつ配線を切断することが不要となり、作業員の数を減少させることができる。
【0016】
そして、芯線が切断された箇所の両側の近傍部位を絶縁ヤットコ等の把持機能を備えた間接活線工具で把持し配線の軸方向に引っ張ることにより、配線の一方側では芯線が剥き出しの状態になるので、作業員が剥ぎ取り治具等を手に持って被覆材を剥ぎ取る作業が不要となり、作業員が剥ぎ取り治具等により手等にケガをするおそれがなくなる。
また、芯線が切断された箇所の両側の近傍部位を絶縁ヤットコ等の把持機能を備えた間接活線工具で把持し配線の軸方向に引っ張ることにより、配線の他方側では芯線の切断箇所よりも配線の軸方向に被覆材が存在し、この被覆材が端末キャップの役割を果たすため端末キャップの装着を不要とすることができるので、配線工事の作業の迅速化、簡略化を図ることができる。
【0017】
特に請求項3に記載の発明によれば、作業員は2つの刃機構の各2つの刃部間に配線が適切に位置しているか否かを確認しやすくなるので、配線工事の作業の迅速化、簡略化をより一層図ることが可能になる。
【0018】
特に請求項4に記載の発明によれば、架空状態の配線を第1の刃機構の2つの刃部が有する凹部まで作業員が調整しなくても円滑且つ自然に持ってくることや、架空状態の配線を第2の刃機構の2つの刃部が有する突出刃まで作業員が調整しなくても円滑且つ自然に持ってくることができるので、配線工事の作業の迅速化、簡略化をより一層図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、この発明に係る先端工具が装着される間接活線工具の絶縁ヤットコの一例を示す全体図である。
【図2】図2は、同上の先端工具の実施例1の構成を示す説明図であり、図2(a)は、第1の刃機構の正面側から見た状態を示し、図2(b)は、第2の刃機構の正面側から見た状態を示し、図2(c)は、これらの刃機構に対し側方から見た状態を示す図である。
【図3】図3は、同上の先端工具の実施例1において、第1の刃機構が配線の被覆材のみを切断する態様を示す説明図であり、図3(a)は、第1の刃機構が開いた状態を示し、図3(b)は、第1の刃機構が閉じた状態を示す図である。
【図4】図4は、同上の先端工具の実施例1において、第2の刃機構が主に芯線を切断する態様を示す説明図であり、図4(a)は、第2の刃機構が開いた状態を示し、図4(b)は、第2の刃機構が閉じた状態を示す図である。
【図5】図5は、同上の実施例1に係る先端工具を用いた、配線の垂れ下がり、キャップの不要、及び、被覆材の剥ぎ取りの不要を可能とした引下線配線工事の工程を示した説明図であり、図5(a)は、配線が切断前の状態を示し、図5(b)は、配線に対し、A側では被覆材のみの切断を行い、B側では主に芯線の切断を行った状態を示し、図5(c)は、配線の両側を引っ張って、2つに分けた状態を示す図である。
【図6】図6は、同上の先端工具の実施例1において、第1の刃機構及び第2の刃機構に配線を案内するためのガイド機構を設けた構成を示す拡大図である。
【図7】図7は、この発明の先端工具の実施例2の構成を示す説明図であり、図7(a)は、第1の刃機構の正面側から見た状態を示し、図7(b)は、第2の刃機構の正面側から見た状態を示し、図7(c)は、これらの刃機構に対し側方から見た状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1において、この発明に係る先端工具1が装着される間接活線工具の一例として絶縁ヤットコ101が示されている。この絶縁ヤットコ101自体は、公知のものであるが、図1を用いてその構成について説明する。
【0022】
絶縁ヤットコ101は、作業者が掴む相対的に径の太い支持棒102と、この支持棒102の先端に設けられた把持部103と、この把持部103を操作するための操作部104と、この操作部104の動作を把持部103に伝達する相対的に径の細い伝達棒105とを有して構成されている。
【0023】
支持棒102は、2つのプレートを対峙して構成された係合部106がその先端側に設けられていると共に、その軸方向の途中には傘状のつば107、108が設けられている。把持部103は、支持棒102の係合部106のプレート間に挟持固定されて動かない把持片109と、伝達棒105に連結されていると共に係合部106のプレート間に挟持され且つ軸部110を介して回転可能に軸支された可動の把持片111とを有して構成されている。
【0024】
把持片111は、図示しない弾性部材等により把持片109から離れる方向に付勢されている。伝達棒105は、絶縁性の素材からなり、前述ようのように一方端が把持片111と連結されていると共にその軸方向の途中につば112が設けられており、他方端が操作部104の下記する支持棒104bと軸部113を介して連結されている。操作部104は、ハンドル104aと、支持棒104bと、取り付け部104cとを有して構成され、ハンドル104aは、支持棒102に遠近する方向に回転可能となるように、取り付け部104cの軸部114に軸支されている。
【0025】
これにより、ハンドル104aを支持棒102に近接する側に可動することで支持棒104bが軸部112を中心点として把持部103から離れる方向に揺動し、ひいては支持棒104bに連結された伝達棒105が支持棒104b側に引っ張られて、伝達棒105に連結された把持片111が把持片109側に軸部110を中心に回転して、把持片109と把持片111とを相対的に近接させることが可能である。
【実施例1】
【0026】
図2から図4では、この発明に係る先端工具1が示されている。この先端工具1は、2つの刃機構2、3と、絶縁ヤットコ101の把持片109、111に接続するための接続部4、5とを有して構成されている。
【0027】
そして、この先端工具1は、表面が被覆材52で被覆された芯線53からなると共に架空状態の配線51に対し、芯線53を切断し、且つ被覆材52を剥ぎ取るための複合機能を備えたものとなっている。ここで、芯線53は例えば銅等の導電性に優れた素材で形成されており、被覆材52は例えばエチレンプロピレンゴム等の絶縁素材で形成されている。
【0028】
先端工具1の接続部4、5は、図1に示されるように、下方に開口した開口部と側方に形成された通孔とを有するボックス部4a、5aと、ボックス部4a、5aの通孔に挿通可能な締結具4b、5bとで構成されており、ボックス部4a、5aの開口部からボックス部4a、5a内に絶縁ヤットコ101の把持片109、111を挿入し、ボックス部4a、5aの通孔に締結具4b、5bを挿入してボックス部4a、5a内の把持片109、111を押圧することにより、把持片109、111を接続部4、5に固定して両者を接続している。
【0029】
刃機構2は、図1(a)に示されるように、2つのアーム6、7と、アーム6、7の先端に設けられた刃部8、9とで構成されている。
【0030】
アーム6、7は、ボックス部4a、5aの通孔が設けられた側面とは異なる側面において軸部10を介して接続部4、5のボックス部4a、5aと連結されており、アーム6、7は軸部10を中心としてある程度揺動可能となっている。
【0031】
そして、刃機構2は、図1(c)に示されるように、軸部10の軸棒10bにコイルバネ11が外挿されている。これに伴い、軸部10をボックス部4a、5aに装着した時には軸部10の頭部10aとアーム7との間にコイルバネ11が介在されたものとなっている。また、刃部8と刃部9とは、軸部12により連結されており、軸部12を中心として相対的に遠近する方向に揺動することが可能となっている。
【0032】
刃機構3は、基本的な構成については刃機構2と同様であり、図1(b)に示されるように、2つのアーム6、7と、アーム6、7の先端に設けられた刃部8、9とで構成されていると共に、軸部10を介して接続部4、5のボックス部4a、5aと連結されている。これにより、アーム6、7は、軸部10を中心としてある程度揺動可能となっている。
【0033】
また、刃機構3は、図1(c)に示されるように、軸部10の軸棒10bにコイルバネ11が外挿されて、軸部10をボックス部4a、5aに装着した時には軸部10の頭部10aとアーム7との間にコイルバネ11が介在されたものとなっている。更に、刃部8と刃部9とについても、刃機構2と同様に、軸部12により連結されて、この軸部12を中心として相対的に遠近する方向に揺動することが可能となっている。
【0034】
そして、刃機構3の軸部12は、図1(c)に示されるように刃機構2の軸部12と伝達棒13を介して一体に稼動するように連結されている。これにより、刃機構2の刃部8と刃部9とが遠近する方向に動作する際に、刃機構3の刃部8と刃部9とについても、同一の動作にて相互に遠近する方向に動作する。
【0035】
刃機構2と刃機構3との間隔は、絶縁スリーブの軸方向の寸法(例えば45mm)の半分の長さ(例えば22.5mm)に剥きしろの長さ(例えば2.5mm)の長さを足した寸法(例えば25mm)となっている。この寸法は、後述するように、被覆材52のみを切断した端側において芯線53が被覆材52から自然に抜け落ちることがなく、且つ、ヤットコで両側から引っ張った際に、芯線53が被覆材52から円滑に引き出されるようにすることが可能な数値である。尚、絶縁スリーブの軸方向の寸法は、複数の種類があるがいずれも45mmである。
【0036】
また、刃機構2と刃機構3との間隔をこのような数値とすることで、図示しない絶縁スリーブに対して、被覆材52から露出した芯線53を両側から絶縁スリーブの中央の窪みまで挿入した後に圧縮して接続する際に、先端工具1を用いて形成される被覆材52から露出する芯線53の寸法が、絶縁スリーブを利用した接続に好適な寸法の25mmとなるので、被覆材52から露出する芯線53の寸法を後から更に調整しなくても良くなる。
【0037】
ところで、刃機構2の刃部8、9は、図2(a)及び図3に示されるようにアーム6、7の短手方向に窪んだ凹部15、16を有している。これらの凹部15の内周は円弧状をなしており、刃部8と刃部9とが閉じて重なり合った際に図3(b)に示されるように円状の空間S1を形成することができるようになっている。この円状の空間S1の内径寸法は配線51の芯線53の径寸法と同じである。
【0038】
これにより、図3(a)に示されるように、刃機構2の開いた状態の刃部8、9間で且つ凹部15、16が相対的に近接する軌道上に配線51を配置し、刃部8、9を閉じることで、図3(b)に示されるように、配線51は凹部15、16で形成された空間S1内に収められるので、配線51の被覆材52はその全周が刃部8、9の凹部15、16の周囲の刃で切断され、芯線53は切断されず存置された状態となる。
【0039】
これに対し、刃機構3の刃部8、9は、図2(b)及び図4(a)に示されるように配線51と対峙する側の縁線が内方に向けて略円弧状に抉れており、刃部8と刃部9とが閉じて重なり合っても、刃部8、9間に図4(b)に示されるように、両端の横幅が狭く中央の横幅が広い、略凸レンズ状の空間S2が形成されるようになっている。この空間S2の中央の横幅は配線51の被覆材52の径寸法と同じかそれよりも大きくなっている。
【0040】
更に、刃機構3の刃部8、9は、刃部8、9の配線51と対峙する側の縁線のうち空間S2の中央に相当する部位から突出刃17、18が相互に近接する方向に延出している。これらの突出刃17、18の横幅は、配線51の芯線53の径寸法と同じであると共に、突出刃17、18は刃部8、9を閉じた際に図4(b)に示されるように重なり合うようになっている。
【0041】
これにより、図4(a)に示されるように、刃機構3の開いた状態の刃部8、9間で且つ突出刃17、18が相対的に近接する軌道上に配線51を配置し、刃部8、9を閉じることで、図4(b)に示されるように、配線51は刃部8、9間に形成された空間S2内に収められる一方で、突出刃17、18が横方向から差し込まれ、被覆材52の一部と芯線53の全部とが切断される。すなわち、配線51の被覆材52の突出刃17、18が差し込まれる部位以外の部位は切断されず存置された状態となる。
【0042】
そして、このような刃機構2による配線51の被覆材52のみの切断と刃機構3による配線51の主として芯線53の切断とは、刃機構2、3が伝達棒13を介して連結されているので同時に行われる。
【0043】
しかるに、配線51に対するこの先端工具1を利用した配線工事は、例えば図5に示されるような工程で行われる。まず図示しないが絶縁ヤットコ101の把持片109、111に先端工具1の接続部4、5を固定して接続した状態とし、この先端工具1が装着された絶縁ヤットコ101を持ち上げて、図5(a)に示される架空状態の配線51に接近させる。
【0044】
そして、絶縁ヤットコ101の操作部104を操作し、把持片109と把持片111、ひいては先端工具1の接続部4と接続部5とを相対的に近接させる。これにより、刃機構2、3は、軸部10を中心としてアーム6、7及びその先端の刃部8、9が揺動し、刃機構2の刃部8、9と刃機構3の刃部8、9とが同時に閉じ、図5(b)に示されるように、配線51の矢印Aで示される部位では被覆材52のみが切断され、配線51の矢印Bで示される部位では被覆材52の図5(b)の上部分と下部分とが残されたかたちで芯線53が切断される。このとき、矢印Aと矢印Bとの間隔は、前記のように絶縁スリーブの軸方向の寸法の分の長さに剥ぎしろ分の長さを足した寸法(例えば25mm)が確保されており、この寸法を有することから芯線53と被覆材52とは密着した状態が維持されているため、配線51が芯線53の切断部分にて分離されて垂下することがないので、絶縁ヤットコ101で先端工具1を利用して上記操作をする際に、配線51の芯線53を切断する部位の両側に対して他の絶縁ヤットコ101、101で支持する必要がない。すなわち、絶縁ヤットコ101を3つも操作する必要がなくなり、必要な作業員が2名以上となることはない。
【0045】
更に、2つの絶縁ヤットコ101、101で配線51の芯線53の切断部分の両側近傍部位を把持して一方の絶縁ヤットコ101と他方の絶縁ヤットコ101とを逆方向に引っ張る。これにより、図5(c)に示されるように、配線51の負荷側端では被覆材52から芯線53が露出したかたちで分離され、配線51の架線側端では芯線53よりも軸方向外側に被覆材52が延びるかたちで分離される。このため、配線51の負荷側端において、切断した配線51の芯線53を露出させるためにナイフ等を使用して被覆材52を剥ぎ取る作業が不要となり、また、配線51の負荷側端において、充電した状態の芯線53の端面はこの芯線53よりも軸方向外側に延びた被覆材52で隠されているので、充電した状態の芯線53を覆うために絶縁キャップを装着する作業が不要となる。尚、配線51の負荷側端における被覆材52から露出した芯線53の寸法は25mmである。
【0046】
尚、後に被覆材52を切除して芯線53同士の再接続を行う際に、刃機構3の突出刃17、18により被覆材52の多くの部分は切られているため、存置された被覆材52の切除はヤットコ等で引っ張るのみで足りるので、配置51から芯線53よりも軸方向外側に延びた存置部分の切除を簡易に行うことも可能である。このときに配線51の負電源側における被覆材52から露出した芯線53の寸法も25mmである。
【0047】
ここで、先端工具1は、図6に示されるように、配線51を刃機構2の刃部8、9に形成された凹部15、16に案内するためのガイド機構20、21を有していても良い。このガイド機構20、21は、刃部9(図示しないが刃部8も同様である。)にアーム7の短手方向に延びるコ字状の切り欠き26を設け、この切り欠き26の立面に埋設された固定部22と、配線51の被覆材52の外周面と接する凹部24aを有する可動部24と、一端が固定部22に連結され他端が可動部24に連結されたコイルバネ等のバネ23とで構成されている。可動部24は、バネ23が最も延びた状態では、刃部8、9の端よりも、配置51の取り込みに支障が生じない程度に内側に出ている。そして、可動部24が配線51により押圧されると、可動部24は、図6(b)に示されるようにバネ23を収縮させつつ図6(b)の実線の位置から2点鎖線の位置に向かって移動する。更に、図6(b)の2点鎖線に示されるように、配線51の被覆材52を切断しつつ配線51の芯線53は凹部16内に位置して切断されない状態となる場合に、可動部24は、凹部16よりも固定部22側に位置して、可動部24の凹部24aも被覆材52の厚み分、刃部9の凹部16よりも固定部22側に位置する。
【0048】
このような構成及び移動を行うガイド機構20、21を有することにより、先端工具1の刃部8、9が閉じる際に、配線51は刃部8、9の先端よりも外側にずり上がる等の位置ずれを生ずることなく、芯線53が凹部15、16側に案内されるので、配線51の被覆材52のみを確実に刃機構2により切断することが可能となる。
【0049】
尚、図示しないが、刃機構3においても、図6に示されるガイド機構20、21と同様の構成のガイド機構を設けて、先端工具1の刃部8、9が閉じる際に、配線51が刃部8、9の先端よりも外側にずり上がる等の位置ずれを生ずることなく、突出刃17、18が交差する軌道上に芯線53が案内されるようにして、配線51の芯線53を確実に刃機構2により切断することができるようにしても良い。
【実施例2】
【0050】
図7において、この発明に係る先端工具1の異なる実施例が示されている。以下、この先端工具1について図7を用いて説明する。但し、先端工具1の刃機構2、3の構造は、接続部4、5、軸部10、12、アーム6、7、伝達棒13においては先の実施例と同様であるので、先の実施例と同じ符号を付してその説明を省略し、刃部8、9の構成について説明していく。
【0051】
刃機構2の刃部8と刃部9とが軸部10で連結されて、軸部10を中心に相互に遠近する方向に揺動可能である点では、先の実施例1と同様であるが、刃部8と刃部9とは図7(a)に示されるように側方に開くようになっている。また、刃機構3の刃部8と刃部9とについても、軸部10で連結されて、この軸部10を中心に相互に遠近する方向に揺動可能である点では先の実施例1と同様であるが、刃部8と刃部9とは図7(b)に示されるように側方に開くようになっている。そして、刃機構2の刃部8と刃部9とが開く側と、刃機構3の刃部8と刃部9とが開く側とは、図7(c)に示されるように同じ側となっている。
【0052】
これにより、作業者は先端工具1を用いて配線51に対し配線工事を行う際に、刃機構2の刃部8と刃部9と間の開き具合と、刃機構3の刃部8と刃部9と間の開き具合とを確認しやすくすることが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1 先端工具
2 刃機構
3 刃機構
4 接続部
5 接続部
6 アーム
7 アーム
8 刃部
9 刃部
15 凹部
16 凹部
17 突出刃
18 突出刃
20 ガイド機構
21 ガイド機構
51 配線
52 被覆材
53 芯線
101 絶縁ヤットコ
109 把持片
111 把持片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線の表面を被覆材で覆われると共に架空状態の配線の前記芯線を切断して、前記被覆材を剥ぎ取る工程を含む配線作業で用いられ、第1の接続部及び第2の接続部を介して間接活線工具に装着される先端工具であって、
前記配線の軸方向に沿って並べることのできる第1の刃機構と第2の刃機構とを有し、
前記第1の刃機構は、前記第1の接続部から延びる第1のアームに設けられた刃部と前記第1の接続部から延びる第2のアームに設けられた刃部とが相対的に遠近する方向に動き、前記2つの刃部は、交差した際に前記芯線の外周と同じ内周の円が形成されるように切欠かかれた凹部を有し、
前記第2の刃機構は、前記第1の接続部から延びる第3のアームに設けられた刃部と前記第2の接続部から延びる第4のアームに設けられた刃部とが相対的に遠近する方向に動き、前記2つの刃部は、これらの刃部が相対的に近接した際に交差する突出刃を有すると共に、前記突出刃以外の部位は、前記突出刃同士が交差した際に前記被覆材を切らないように前記架空配線側が内方に抉られていることを特徴とする先端工具。
【請求項2】
前記第1の刃機構の2つの刃部の開閉と前記第2の刃機構の2つの刃部の開閉とが前記間接活線工具による操作で同期して行われるように前記第1の刃機構と前記第2の刃機構とが連結されていることを特徴とする請求項1に記載の先端工具。
【請求項3】
前記第1の刃機構の2つの刃部と前記第2の刃機構の2つの刃部とは、一方の刃部と他方の刃部とが前記間接活線工具の支持棒の軸方向に遠近して開閉することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の先端工具。
【請求項4】
前記第1の刃機構と前記第2の機構の一方又は双方には、前記配線を前記2つの刃部の凹部又は突出刃まで案内するためのガイド機構が設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の先端工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−55812(P2013−55812A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192895(P2011−192895)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】