説明

光による水分解触媒及びその製造方法。

【課題】長期間安定して、光照射により水を水素と酸素に高効率で分解することのできる水完全分解用触媒、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウム又はp型窒化ガリウムインジウムに、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させることによって、光による水分解用触媒を構成する。特に好ましい助触媒としては、酸化ルテニウムが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型窒化ガリウム類を使用した光エネルギーを利用する水分解用の触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光エネルギーを利用して触媒反応を行う技術としては、固体触媒に光を照射して伝導帯に生成した電子で反応物を還元する技術、価電子帯で生成した正孔で反応物を酸化して生成物を得る技術等が知られている。
また、この技術を応用して、水を水素と酸素に完全に分解する光による水分解用触媒は、エネルギー変換の観点から注目を集めている。(例えば、非特許文献1〜3、特許文献1,2参照)
【0003】
【非特許文献1】Catal. Lett., 58(1999), 153-155
【非特許文献2】J. AM. CHEM. SOC. (2005), 127, 4150-4151
【非特許文献3】J. AM. CHEM. SOC. (2005), 127, 8286-8287
【特許文献1】特開2005−131531号公報
【特許文献2】特開2003−24764号公報
【0004】
上記の非特許文献1には、水を水素と酸素に分解する触媒が開示されており、特にタンタルを含むアルカリやアルカリ度類金属のオキサイドが水の完全分解に対して高い活性を示すことが記載されている。また、特許文献1及び非特許文献2には、d10電子状態を持つゲルマニウム元素を含むナイトライド及びオキシナイトライドの水分解触媒作用について記載されている。
【0005】
さらに、非特許文献3には、可視光活性の水分解触媒の設計において、窒化ガリウムと酸化亜鉛の固溶体を使用することが記載されている。同文献には、この窒化ガリウムと酸化亜鉛の固溶体は水完全分解用触媒として機能するが、窒化ガリウム単独では水分解活性がみられないことが開示されている。
【0006】
特許文献2には、窒化物半導体への光照射によるガス発生方法が記載され、ガスの発生源が窒化物表面或いは接合された金属表面であることが開示されている。また、窒化ガリウムが水から水素と酸素を生成する触媒として機能することが記載されているが、化学量論的に水素と酸素を発生させるものではなく、多量の窒素が発生している。この現象は、窒化ガリウムが分解することに起因するものであり、したがってこの特許文献に記載の技術では、長期間安定に水から水素を得ることは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明はこれらの従来技術における問題点を解消して、長期間安定して、光照射により水を水素と酸素に高効率で分解することのできる水完全分解用触媒とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、異種金属原子を添加したp型窒化ガリウムに、酸化ルテニウム等の助触媒を担持させることによって、上記課題が解決されることを発見し、本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は次の1〜14の構成を採用するものである。
1.亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムに、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させたことを特徴とする光による水分解触媒。
2.亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムが、p型窒化ガリウムインジウムであることを特徴とする1に記載の光による水分解触媒。
3.亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子の添加量が0.0001〜7モル%であることを特徴とする1又は2に記載の光による水分解触媒。
4.助触媒が酸化ルテニウムであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光による水分解触媒。
5.助触媒の担持量が0.1〜10重量%であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の水分解触媒。
6.亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムの平均粒径が10nm〜10μmであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の水分解触媒。
7.ガリウムに対する亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属の配合割合が0.01〜200モル%となるように、硫化ガリウム又は酸化ガリウムに、亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を含む化合物を混合し、アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする1〜6のいずれかに記載の光による水分解触媒の製造方法。
8.アンモニアの流量が50〜1000mL/分で、アンモニア気流下での焼成温度が800〜1100℃、焼成時間が1〜30時間であることを特徴とする7に記載の水分解触媒の製造方法。
9.アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムに対して、1〜50モル%の硫化インジウムを添加した混合物を、アンモニア気流下で温度500〜900℃で0.5〜24時間焼成して得られたp型窒化ガリウムインジウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする7又は8に記載の水分解触媒の製造方法。
10.助触媒前駆体となるトリルテニウムドデカカルボニルをテトラヒドロフランに溶解した溶液にp型窒化ガリウムを浸漬後、室温〜100℃で1〜5時間還流し、さらに空気中で200〜500℃で1〜10時間焼成することを特徴とする7〜9のいずれかに記載の水分解触媒の製造方法。
11.硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸ベリリウムから選択された化合物と硝酸ガリウムを水に溶解し、アンモニア水を添加して得られた生成物を空気中で600〜800℃で焼成して前駆体を形成し、得られた前駆体をアンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする1〜6のいずれかに記載の光による水分解触媒の製造方法。
12.アンモニアの流量が50〜1000mL/分で、アンモニア気流下での焼成温度が800〜1100℃、焼成時間が1〜30時間であることを特徴とする11に記載の水分解触媒の製造方法。
13.アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムに対して、1〜50モル%の硫化インジウムを添加した混合物を、アンモニア気流下で温度500〜900℃で0.5〜24時間焼成して得られたp型窒化ガリウムインジウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする11又は12に記載の水分解触媒の製造方法。
14.助触媒前駆体となるトリルテニウムドデカカルボニルをテトラヒドロフランに溶解した溶液にp型窒化ガリウムを浸漬後、室温〜100℃で1〜5時間還流し、さらに空気中で200〜500℃で1〜10時間焼成することを特徴とする11〜13のいずれかに記載の水分解触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、上記の構成を有する助触媒を担持した水分解用触媒を使用することによって、長期間安定して、光照射により水を水素と酸素に高効率で分解することが可能となった。本発明は、化石燃料等を全く使用せずに、クリーンなエネルギー源を製造する道を拓くとともに、油、排ガス等に含まれる環境汚染物質の光分解反応や、光合成反応にも適用可能な触媒を提供するもので、極めて実用的価値が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムに、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させることによって、光による水分解触媒を構成する。
亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムは、発光ダイオードやレーザーダイオードとして半導体分野では一般的に用いられているが、光による水完全分解用の触媒として該p型窒化ガリウムを使用することは、これまで知られていない。
【0012】
本発明では、上記の異種原子を含むp型窒化ガリウムに、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させることによって、光エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解する触媒としての機能が飛躍的に向上し、長期間安定に、ほぼ化学量論的に水を水素と酸素に分解することが可能となった。
【0013】
本発明において、上記の異種原子を含むp型窒化ガリウムとは、亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を、定法により、その添加量が0.0001〜7モル%程度となるように添加した、化学式:InGa1−xN(ただし、0≦x≦1)で表されるp型窒化ガリウム及びp型窒化ガリウムインジウムを表すものとする。このようなp型窒化ガリウムは、例えば、平均粒径が10nm〜10μm程度の粉末状のものとして使用することができる。
【0014】
本発明では、この異種原子を含むp型窒化ガリウムに、好ましくは助触媒の担持量が0.1〜10重量%程度となるように、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させることによって、光による水分解触媒を構成する。特に好ましい助触媒としては、酸化ルテニウムが挙げられる。
【0015】
次に、本発明の光による水分解触媒を製造する方法の1例について説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(1)硫化ガリウムあるいは酸化ガリウムに対して、硫化亜鉛、硫化マグネシウム、あるいは酸化ベリリウムを、ガリウムに対する亜鉛、マグネシウムあるいはベリリウムのモル比が0.01〜200mol%の範囲となるように混合した試料を前駆体とする。
あるいは、硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸ベリリウムから選択された化合物と硝酸ガリウムを水に溶解した水溶液に、アンモニア水を滴下して得られた生成物を空気中で600〜800℃の温度で焼成した試料を前駆体とすることもできる。
【0016】
(2)次に、回転機構を持つ、例えば長さ50cm、内径2〜3cmの石英炉心管で構成される窒化装置の中央に前駆体試料を導入し、前駆体の両端を石英ウールで固定し、高純度窒素ボンベ(純度99.99%以上)から前記石英炉心に窒素ガスを十分に流通させる。回転機構を備えたロータリーキルン型炉を用いることで、均質な窒化物を作製できる。次に、アンモニアボンベ(純度99.8%以上)から前記石英炉心にアンモニアガスを50〜1000mL/分で流通させる。この時、アンモニアの流量は、マスフローコントローラーにより制御する。石英炉心管を毎分0.5〜1回転の速度で回転させ、試料付近を横型管状炉により700〜1100℃の温度に加熱する。得られた窒化ガリウムの特性は、X線回折パターン、紫外可視拡散反射スペクトル、および発光分光スペクトルにより測定する。
【0017】
また、このようにして得られたp型窒化ガリウムに対して、1〜50モル%の硫化インジウムを添加した混合物を、アンモニア気流下で温度500〜900℃で0.5〜24時間焼成することにより、p型窒化ガリウムインジウムを製造することができる。
【0018】
(3)得られたp型窒化ガリウム或いはp型窒化ガリウムインジウムを、例えば、助触媒前駆体となるトリルテニウムドデカカルボニルをテトラヒドロフランに溶解した溶液に浸漬後、室温〜100℃で1〜5時間還流し、さらに空気中で200〜500℃で1〜10時間焼成することにより、目的とする光による水分解触媒を得る。
他の助触媒前駆体としては、硝酸ニッケル、塩化コバルト、塩化鉄、硝酸クロム、塩化ロジウム、塩化イリジウム等を使用することができ、これらの前駆体を1〜10重量%程度となるように水又は有機溶媒に溶解した溶液にp型窒化ガリウム類を浸漬してもよい。
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
(参考例1)
粉末状の硫化ガリウムを、回転機構を持つ、長さ50cm、内径2〜3cmの石英炉心管で構成される窒化装置の中央に導入し、その両端を石英ウールで固定した後に、高純度窒素ボンベ(純度99.99%以上)から前記石英炉心に窒素ガスを十分に流通させる。次に、アンモニアボンベ(純度99.8%以上)から前記石英炉心にアンモニアガスを導入し、500mL/分のアンモニア気流中、1000℃で15時間焼成して窒化する。これにより、無添加の窒化ガリウムが得られる。図6、7、8に、それぞれ異種金属原子無添加の窒化ガリウムのX線回折パターン、紫外可視拡散反射スペクトル、発光分光スペクトルを示す。結晶化度が高く、373nmに発光中心を持つ高品質な窒化ガリウムが生成していることが判る。
【0021】
この窒化ガリウムを、酸化ルテニウムの濃度が3.5重量%となるようにトリルテニウムドデカカルボニルをテルラフドロフランに溶かした溶液に浸し、60℃の温度で4時間還流した後に、空気中、350℃で1.5時間焼成する。このようにして作製した酸化ルテニウム担持窒化ガリウム0.8gを蒸留水700mL中に懸濁させ、450W高圧水銀ランプを光源として円筒形パイレックス(登録商標)製ジャケットを通して光を照射した。
図5に示すように、水素1μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、この異種金属原子無添加の窒化ガリウムには、水の完全分解反応に対する触媒活性は見られない。
【0022】
(実施例1)
粉末状の硫化ガリウムと硫化亜鉛を、ガリウムに対して亜鉛元素を200%のモル比で混合し、参考例1と同様にして500mL/分のアンモニア気流中、1000℃で8時間焼成して窒化する。焼成時にほとんどの亜鉛成分が揮発し、亜鉛が数〜数十ppmの濃度で添加された窒化ガリウムが得られる。図6、7、8に亜鉛添加のp型窒化ガリウムのXRDパターン、紫外可視拡散反射スペクトル、発光分光スペクトルを示す。亜鉛添加窒化ガリウムは無添加の窒化ガリウムと比較して、結晶化度はほぼ等しいが、吸収波長がわずかに長波長に移動し、発光中心が大きく長波長の440nmに移動する。このようにp型特有の発光分光スペクトルを持つ窒化ガリウムが生成した。
このp型窒化ガリウムに、上記参考例1と同様の方法で酸化ルテニウムを担持させ、参考例1と同様の方法で光を照射した。図1に示すように、水素208μmol/時間、酸素88μmol/時間、窒素4μmol/時間の生成活性が見られ、水分解反応に対して高い光触媒活性を持つことが判明した。
【0023】
(比較例1)
比較のために、上記実施例1で得られた亜鉛添加p型窒化ガリウムに、助触媒となる酸化ルテニウムを担持させずに、参考例1と同様の方法で光を照射したところ、水素2μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、水分解反応に対する活性は殆んど認められなかった。
【0024】
(実施例2)
粉末状の硫化ガリウムと硫化マグネシウムを、ガリウムに対するマグネシウム元素のモル比が3%ととなるように混合し、参考例1と同様にして500mL/分のアンモニア気流中、1000℃で15時間焼成して窒化する。得られた前駆体を50〜1000mL/分のアンモニア気流中下、1000℃、15時間で焼成しマグネシウム添加p型窒化ガリウムを得た。図6、7、8にマグネシウム添加の窒化ガリウムのXRDパターン、紫外可視拡散スペクトル、発光分光スペクトルを示す。実施例1の亜鉛添加の窒化ガリウムと同様なp型窒化ガリウムが得られた。
このp型窒化ガリウムに、上記参考例1と同様の方法で酸化ルテニウムを担持させ、参考例1と同様の方法で光を照射した。図2に示すように、水素668μmol/時間、酸素286μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性が見られ、水完全分解反応に対して高い光触媒活性を持つことが判明した。
【0025】
(比較例2)
比較のために、上記実施例2で得られたマグネシウム添加p型窒化ガリウムに、助触媒となる酸化ルテニウムを担持させずに、参考例1と同様の方法で光を照射したところ、水素5μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、水分解反応に対する活性は殆んど認められなかった。
【0026】
(実施例3)
実施例2と同じモル比で、硝酸ガリウムと硝酸マグネシウムを水に溶解させ、アンモニア水を滴下して得られた生成物を、空気中で600〜800℃の温度で1〜60分間焼成して前駆体を製造した。得られた前駆体を、参考例1と同様にして50〜1000mL/分のアンモニア気流中、1000℃で15時間焼成することにより、実施例2のマグネシウム添加窒化ガリウムと同様なp型窒化ガリウムが得られた。
このp型窒化ガリウムに、上記参考例1と同様の方法で酸化ルテニウムを担持させ、参考例1と同様の方法で光を照射した。図3に示すように、水素341μmol/時間、酸素173μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性が見られ、水完全分解反応に対して高い光触媒活性を持つことが判明した。
【0027】
(比較例3)
比較のために、上記実施例3で得られたマグネシウム添加p型窒化ガリウムに、助触媒となる酸化ルテニウムを担持させずに、参考例1と同様の方法で光を照射したところ、水素4μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、水分解反応に対する活性は殆んど認められなかった。
【0028】
(実施例4)
粉末状の硫化ガリウムと酸化ベリリウムを、ガリウムに対するベリリウム元素のモル比が3%となるように混合し、参考例1と同様にして500mL/分のアンモニア気流中、1000℃で15時間焼成して窒化する。図6、7、8にベリリウム添加の窒化ガリウムのXRDパターン、紫外可視拡散反射スペクトル、発光分光スペクトルを示す。実施例1の亜鉛添加の窒化ガリウムと同様なp型窒化ガリウムが得られた。
このp型窒化ガリウムに、上記参考例1と同様の方法で酸化ルテニウムを担持させ、参考例1と同様の方法で光を照射した。図4に示すように、水素278μmol/時間、酸素125μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性が見られ、水完全分解反応に対して高い光活性を持つことが示唆される。
【0029】
(比較例4)
比較のために、上記実施例4で得られたベリリウム添加p型窒化ガリウムに、助触媒となる酸化ルテニウムを担持させずに、参考例1と同様の方法で光を照射したところ、水素2μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、水分解反応に対する活性は殆んど認められなかった。
【0030】
(実施例5)
実施例1で得られた亜鉛添加p型窒化ガリウムに、ガリウムに対して硫化インジウムを30%のモル比で混合し、参考例1と同様にして500mL/分のアンモニア気流中、630℃で10時間焼成して窒化する。得られたp型窒化ガリウムインジウムに、上記参考例1と同様の方法で酸化ルテニウムを担持させた。
この酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムインジウム0.8gを蒸留水1000mL中に懸濁させ、200W水銀キセノンランプを光源として、円筒型パイレックス(登録商標)ジャケットを通して光を照射した。また、420nmまでの光を遮断できるカットフィルターを光源と懸濁液の間に導入して、光を照射した。その結果を図9に示す。
【0031】
図9にみられるように、酸化ルテニウム担持窒化ガリウムインジウムに、カットフィルターを用いずに光を照射した場合には、水素29μmol/時間、酸素9μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性がみられた。一方、カットフィルターを導入して420nmまでの光を遮断した場合には、水素7μmol/時間、酸素3μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性がみられた。
比較のために、実施例1で得られたインジウムを添加していない酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムを使用して、上記と同様にして光を照射したところ、カットフィルターを用いずに光を照射した場合には、水素82μmol/時間、酸素30μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性がみられた。一方、カットフィルターを導入して420nmまでの光を遮断した場合には、水素2μmol/時間、酸素1μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性がみられた。(図9参照)
酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムに比べて、酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムインジウムは、420nm以上の波長の光照射によってより高い触媒活性が得られていることから、インジウムを添加することによって、より長波長の光を吸収することが判明した。
【0032】
(比較例5)
比較のために、上記実施例5で得られた亜鉛添加p型窒化ガリウムインジウムに、助触媒となる酸化ルテニウムを担持させずに、参考例1と同様の方法で光を照射したところ、水素0μmol/時間、酸素0μmol/時間、窒素0μmol/時間の生成活性であり、水分解反応に対する活性は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の光による水分解触媒は、化石燃料等を全く使用せずに、クリーンなエネルギー源を製造する道を拓くものである。また、本発明で得られる触媒は、水の分解のみならず、エタノールや油等の有機物質の分解、或いは排ガス等に含まれる環境汚染物質の光分解反応や、各種の光合成反応等の幅広い分野にも適用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1で得られた酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムの水分解活性を示す図である。
【図2】実施例2で得られた酸化ルテニウム担持マグネシウム添加窒化ガリウムの水分解活性を示す図である。
【図3】実施例3で得られた酸化ルテニウム担持マグネシウム添加窒化ガリウムの水分解活性を示す図である。
【図4】実施例4で得られた酸化ルテニウム担持ベリリウム添加窒化ガリウムの水分解活性を示す図である。
【図5】本発明の各例で得られた窒化ガリウムの水分解活性を示す図である。
【図6】本発明の各例で得られた窒化ガリウムのX線回折パターンを示す図である。
【図7】本発明の各例で得られた窒化ガリウムの紫外可視拡散反射スペクトルを示す図である。
【図8】本発明の各例で得られた窒化ガリウムの発光分光スペクトルを示す図である。
【図9】実施例5で得られた酸化ルテニウム担持亜鉛添加窒化ガリウムインジウムの水分解活性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムに、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化イリジウムから選択された助触媒を担持させたことを特徴とする光による水分解触媒。
【請求項2】
亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムが、p型窒化ガリウムインジウムであることを特徴とする請求項1に記載の光による水分解触媒。
【請求項3】
亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子の添加量が0.0001〜7モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光による水分解触媒。
【請求項4】
助触媒が酸化ルテニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光による水分解触媒。
【請求項5】
助触媒の担持量が0.1〜10重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水分解触媒。
【請求項6】
亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を添加したp型窒化ガリウムの平均粒径が10nm〜10μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水分解触媒。
【請求項7】
ガリウムに対する亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属の配合割合が0.01〜200モル%となるように、硫化ガリウム又は酸化ガリウムに、亜鉛、マグネシウム、ベリリウムから選択された金属原子を含む化合物を混合し、アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光による水分解触媒の製造方法。
【請求項8】
アンモニアの流量が50〜1000mL/分で、アンモニア気流下での焼成温度が800〜1100℃、焼成時間が1〜30時間であることを特徴とする請求項7に記載の水分解触媒の製造方法。
【請求項9】
アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムに対して、1〜50モル%の硫化インジウムを添加した混合物を、アンモニア気流下で温度500〜900℃で0.5〜24時間焼成して得られたp型窒化ガリウムインジウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする請求項7又は8に記載の水分解触媒の製造方法。
【請求項10】
助触媒前駆体となるトリルテニウムドデカカルボニルをテトラヒドロフランに溶解した溶液にp型窒化ガリウムを浸漬後、室温〜100℃で1〜5時間還流し、さらに空気中で200〜500℃で1〜10時間焼成することを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の水分解触媒の製造方法。
【請求項11】
硝酸亜鉛、硝酸マグネシウム、硝酸ベリリウムから選択された化合物と硝酸ガリウムを水に溶解し、アンモニア水を添加して得られた生成物を空気中で600〜800℃で焼成して前駆体を形成し、得られた前駆体をアンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光による水分解触媒の製造方法。
【請求項12】
アンモニアの流量が50〜1000mL/分で、アンモニア気流下での焼成温度が800〜1100℃、焼成時間が1〜30時間であることを特徴とする請求項11に記載の水分解触媒の製造方法。
【請求項13】
アンモニア気流下に焼成して得られたp型窒化ガリウムに対して、1〜50モル%の硫化インジウムを添加した混合物を、アンモニア気流下で温度500〜900℃で0.5〜24時間焼成して得られたp型窒化ガリウムインジウムを、助触媒前駆体を含有する水又は有機溶媒溶液に浸漬後空気中で焼成することを特徴とする請求項11又は12に記載の水分解触媒の製造方法。
【請求項14】
助触媒前駆体となるトリルテニウムドデカカルボニルをテトラヒドロフランに溶解した溶液にp型窒化ガリウムを浸漬後、室温〜100℃で1〜5時間還流し、さらに空気中で200〜500℃で1〜10時間焼成することを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の水分解触媒の製造方法。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−125496(P2007−125496A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320356(P2005−320356)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】