説明

光ジャイロ

【課題】 ロックイン現象を抑制して検出可能な角速度を低くすることができる光ジャイロを提供する。
【解決手段】 半導体レーザ10は、90度回転させた場合に回転前後で一致する形状を有し、4個の光検出器15は、90度回転させた場合に回転前後で実質的に一致する位置に配置され、半導体レーザジャイロが90度回転対称性を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サニャック(Sagnac)効果を利用して角速度を検出する光ジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
サニャック効果を利用して角速度を検出する従来の光ジャイロとしては、例えば、特許文献1に開示されるリングレーザジャイロがある。このリングレーザジャイロは、角速度の入力により生じる右回り及び左回りの両レーザ光の発振周波数差を、それら二つのレーザ光の重ね合わせにより生じる干渉縞をフォトセンサで検出することによって検出するものである。また、入力角速度を検出するときに、フォトセンサの検出出力からローパスフィルタにより低周波成分を取り出し、それを反転バッファにより反転してフォトセンサの検出出力に加算している。この結果、リング状光路が形成されたブロックに衝撃によって生じるたわみにより発生する検出出力のパワー変動が除去され、衝撃が加わっても精度良く入力角速度を検出することができる。
【0003】
図20は、上記のような従来のリングレーザジャイロの構成を示す模式図である。図20に示すリングレーザジャイロでは、ミラーM1、M2及びハーフミラーHMにより形成される経路をHe−NeレーザLAから出射されるレーザ光が互いに異なる方向に伝播し、その一部がハーフミラーHMを透過し、さらに、プリズムPMを透過して干渉縞が形成される。この干渉縞がパターンを変えずに二つの回転波の周波数差と同じ速度で左右に移動し、干渉縞の移動速度及び移動方向を検出することにより、回転速度及び回転方向が検出される。
【特許文献1】特開平11−351881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のリングレーザジャイロでは、光路を形成する3枚のミラーのうち一つが光学特性の異なるハーフミラーHMから構成され、受光部分も一つしか設けられていないため、光学的及び形状的に回転対称となっておらず、低角速度領域においてロックイン(Lock−in)現象が発生し、所定の閾値、例えば、700度/秒以下の角速度を検出することができない。
【0005】
本発明の目的は、ロックイン現象を抑制して検出可能な角速度を低くすることができる光ジャイロを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光ジャイロは、サニャック効果を利用して角速度を検出する光ジャイロであって、進行方向の異なる光を所定経路内で伝播させる共振器を備え、前記共振器における光の経路が、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有するものである。
【0007】
本発明に係る光ジャイロにおいては、共振器における光の経路が120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有しているので、ロックイン現象を抑制して検出可能な角速度を低くすることができる。なお、本明細書における「光」とは、いわゆる可視光のみを意味するものではなく、電界と磁界との変化が波動として媒質内を伝わっていく電磁波のうち、ミリ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線等を含むものである。また、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有する光路には、円形、多角形等の種々形状を有する光路を含む。
【0008】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することが好ましく、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することがより好ましい。前者の場合、ロックイン現象が発生する閾値を低下させることができ、後者の場合、ロックイン現象が発生する閾値をより低下させることができる。
【0009】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、(360/2n+1)度(nは、1以上の整数)の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することが好ましく、また、(360/(3×2))度(nは、1以上の整数)の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有するようにしてもよい。これらの場合、ロックイン現象が発生する閾値を実質的に0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。
【0010】
前記共振器は、光を反射させる三つ以上の反射部を備え、各反射部の光学特性が実質的に同一であることが好ましい。この場合、ロックイン現象が発生する閾値を低下させることができる。
【0011】
前記反射部は、前記共振器内で光を反射させるとともに、前記共振器外へ光を透過させるハーフミラー部を含み、各ハーフミラー部の反射率及び透過率が実質的に同一であることが好ましい。この場合、ロックイン現象が発生する閾値をより低下させることができる。
【0012】
前記共振器は、光を反射させる三つ以上の反射部を備え、各反射部の形状が実質的に同一であることが好ましい。この場合、ロックイン現象が発生する閾値を低下させることができる。
【0013】
前記反射部は、前記共振器内で光を反射させるとともに、前記共振器外へ光を透過させるハーフミラー部を含み、各ハーフミラー部の反射率及び透過率が実質的に同一であることが好ましい。この場合、ロックイン現象が発生する閾値をより低下させることができる。
【0014】
前記共振器は、第1及び第2のレーザ光を発生する半導体レーザから構成され、前記半導体レーザは、活性層と、前記活性層にキャリアを注入するための第1及び第2の電極とを備え、前記第1のレーザ光は、前記活性層内において多角形の経路上を周回するレーザ光の一部が出射されたレーザ光であり、前記第2のレーザ光は、前記経路上を前記レーザ光とは逆方向に周回するレーザ光の一部が出射されたレーザ光であることが好ましい。この場合、印加された回転場に対してその角速度を検出できる高精度で小型の半導体レーザジャイロを実現できる。
【0015】
前記活性層は、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有し、前記活性層の各ハーフミラー部を透過した光を検出する複数の光検出器が、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する位置に配置されることが好ましい。この場合、光を伝播させる媒質(キャビティ)として機能する活性層と、光検出器とが、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有しているので、ロックイン現象が発生する閾値を実質的に0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。
【0016】
前記回転対称性は、cを光の速度、λを光の波長、Aを光が囲む面積、dを光ビームの直径、rをCW(又はCCW)方向回転の光がCCW(又はCW)方向の光に結合する割合を表す後方散乱係数(%)としたときに、Ω=cλ/(32πAd)により算出される基準閾値Ωより低いロックイン現象の閾値を有する範囲で変更されることが好ましい。この場合、回転対称性を崩してその完全性を形状又は光学特性において緩和することができ、光ジャイロを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、共振器における光の経路が120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有しているので、ロックイン現象を抑制して検出可能な角速度を低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を適用した光ジャイロの各実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態による半導体レーザジャイロの構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示すI−I線における断面を模式的に示す図である。なお、本発明の説明に用いる各図面は模式的なものであり、理解が容易なように各部の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1に示す半導体レーザジャイロは、基板11と、基板ll上に形成された半導体層20と、半導体層20上に形成された絶縁層12と、正極となる第1の電極13と、基板11の裏面側の全面に形成された負極となる第2の電極14とを備える半導体レーザ10と、基板11の上にモノシリックに形成された4個の光検出器15とから構成され、半導体レーザ10は、進行方向の異なる光を所定経路内で伝播させる共振器として機能する。
【0020】
基板11は、単結晶のガリウムヒ素(GaAs)から成る。半導体層20は、後述するようにGRIN−SCH−SQW(Graded−Index−Separate−Confinement−Heterostructure−SingleQuantum Well)から成る。絶縁層12は、シリコンナイトライド(Si)又は二酸化ケイ素(SiO)から成る。第1の電極13は、Ti/Pt/Auから成る。第2の電極14は、Au/Ge/Niから成る。なお、第1の電極13及び第2の電極14を構成する各層は、熱処理によって合金化されていてもよく、半導体レーザ10に求められる特性に応じて適宜変更される。
【0021】
絶縁層12の膜厚は、0.4μmである。第1の電極13の膜厚は、全体で0.72μmである。そして、第1の電極13を構成するTiの膜厚は、0.07μmであり、Ptの膜厚は、0.05μmであり、Auの膜厚は0.6μmである。第2の電極14の膜厚は、全体で0.62μmである。そして、第2の電極14を構成するAuの膜厚は、0.5μmであり、Geの膜厚は、0.1μmであり、Niの膜厚は、0.02μmである。
【0022】
図2を参照して、半導体層20は、基板11側から順に積層された、バッファ層21、バッファ層22、グレーデッド層23、クラッド層24、グレーデッド層25、活性層26、グレーデッド層27、クラッド層28及びキャップ層29を含む。キャップ層29の上には、パターニングされた絶縁層12が形成されている。絶縁層12上には、第1の電極13が形成されている。絶縁層12には貫通孔が形成されているため、第1の電極13とキャップ層29とは、貫通孔が形成されている領域31で接触する。
【0023】
バッファ層21は、シリコン(Si)をドープしたn型GaAsから成り、膜厚は、0.2μmである。そして、多数キャリアである電子の密度は、3×1018cm−3である。バッファ層22は、Siをドープしたn型アルミニウムガリウムヒ素(n型Al0.2Ga0.8As)から成り、膜厚は、1.0μmである。そして、多数キャリアである電子の密度は、1×1018cm−3である。
【0024】
グレーデッド層23は、Siをドープしたn型AlGa1−xAsから成り、膜厚は、0.2μmである。そして、多数キャリアである電子の密度は1018cm−3台である。また、アルミニウム(Al)の組成比xは、バッファ層22側からクラッド層24側に向かって徐々に増加する。具体的には、組成比xは、バッファ層22との界面では0.2であり、クラッド層24との界面では0.5である。バッファ層21及び22並びにグレーデッド層23は、品質が高いIII−V族化合物半導体結晶を得るために形成される。
【0025】
クラッド層24は、Siをドープしたn型Al0.5Ga0.5Asから成り、膜厚は、1.5μmである。そして、多数キャリアである電子の密度は、1018cm−3台である。グレーデッド層25は、Siをドープしたn型AlGa1−xAsから成り、膜厚は、0.202μmである。そして、グレーデッド層25においては、ドーパントであるSiの濃度は、クラッド層24から活性層26へ向けて徐々に減少され、クラッド層24との界面では約1×1018cm−3であり、活性層26との界面では約1×1017cm−3である。また、グレーデッド層25のAlの組成比xも、クラッド層24から活性層26へ向けて放物線状に減少され、クラッド層24との界面では0.5であり、活性層26との界面では0.2である。
【0026】
活性層26は、ノンドープのGaAsから成り、膜厚は、0.01μmである。グレーデッド層27は、ベリリウム(Be)をドープしたp型AlGa1−xAsから成り、膜厚は、0.202μmである。そして、グレーデッド層27においては、ドーパントであるBeの濃度は、活性層26からクラッド層28へ向けて徐々に増加され、活性層26との界面では約1×1017cm−3であり、クラッド層28との界面では約1×1018cm−3である。また、グレーデッド層27のAlの組成比xも、活性層26からクラッド層28へ向けて放物線状に増加され、活性層26との界面では0.2であり、クラッド層28との界面では0.5である。
【0027】
クラッド層28は、Beをドーピングしたp型Al0.5Ga0.5Asから成り、膜厚は、1.5μmである。そして、多数キャリアである正孔の濃度は、1018cm−3台である。キャップ層29は、Beをドーピングしたp型GaAsから成り、膜厚は、0.2μmである。そして、多数キャリアである正孔の濃度は1×1019cm−3である。
【0028】
活性層26は、グレーデッド層25とグレーデッド層27とによって挟み込まれており、グレーデッド層25、活性層26及びグレーデッド層27は、いわゆる単一量子井戸(SQW:SingleQuantum Well)を構成する。また、クラッド層24及びグレーデッド層25は、活性層26を中心にしてそれぞれクラッド層28及びグレーデッド層27と対称に形成される。
【0029】
つまり、クラッド層24は、クラッド層28と同じ膜厚及び同じAl組成比xを有する。そして、クラッド層24の多数キャリア密度も、電子と正孔との違いを除けば、クラッド層28の多数キャリア密度である1018cm−3台と同じ1018cm−3台である。また、グレーデッド層25は、グレーデッド層27と同じ膜厚を有し、グレーデッド層27におけるAlの組成比xの変化(活性層26側:0.2→クラッド層28側:0.5)と対称なAlの組成比xの変化(活性層26側:0.2→クラッド層24側:0.5)を有する。そして、グレーデッド層25は、グレーデッド層27におけるドーパント(Be)濃度の変化(活性層26側:約1×1017cm−3→クラッド層28側:約1×1018cm−3)と対称なドーパント(Si)濃度の変化(活性層26側:約1×1017cm−3→クラッド層24側:約1×1018cm−3)を有する。
【0030】
図3は、図1に示す半導体レーザ10の活性層26を上方から見たときに活性層26及び活性層26内に形成される光路LPを模式的に示す平面図である。図3に示すように、レーザ光を伝播させる媒質(キャビティ)として機能する活性層26は、光路LPを含む面状に形成された薄膜であり、その外延が所定の曲率で形成された複数の曲面から構成され、90度回転させた場合に回転前後で一致する形状を有している。すなわち、活性層26は、90度回転対称性を有し、図中に一点鎖線で示す2本の中心線に関して鏡面対称な形状を有している。
【0031】
また、活性層26には、光学特性として反射率及び透過率が等しい四つのハーフミラー面(端面)HMが形成されており、各ハーフミラー面HMは、外側に向かって凸の曲面から構成されている。四つのハーフミラー面HMは、90度回転させた場合に回転前後で一致する位置に配置され、90度回転対称性を有している。
【0032】
さらに、活性層26の各反射部の近傍には、4個の光検出器15が配置されている。4個の光検出器15は、90度回転させた場合に回転前後で一致する位置に配置され、90度回転対称性を有している。なお、半導体層20は、活性層26と同じ平面形状を有し、第1の電極13自体(図1参照)、及び第1の電極13と半導体層20(キャップ層29)とが接触している領域(図2参照)も帯状の正方形形状を有している。
【0033】
後述するように、第1の電極13と第2の電極14との間に電圧を印加して活性層26にキャリアを注入すると、活性層26で光が発せられる。この光は、グレーデッド層25及び27によって閉じ込められるため、活性層26内を移動する。そのような光の中で、光路LPを進行する光は、ハーフミラー面HMによって反射されながら誘導放出を生じる。このため、光路LP上に分布するレーザ光が発生する。レーザ光の一部は、各ハーフミラー面HMから出射され、対応する光検出器15へ入力される。このように、活性層26内で発生されたレーザ光は、四つのハーフミラー面HMにより反射され、活性層26内の光路LPは、正方形をなし、90度回転させた場合に回転前後で一致する90度回転対称性を有している。
【0034】
図4は、図2に示す半導体層20のバンドギャンプのプロファイルを示す模式図である。グレーデッド層25のバンドギャップは、クラッド層24から活性層26側に向かって2.0eVから1.7eVまで放物線状に減少する。グレーデッド層27のバンドギャップは、活性層26からクラッド層28側に向かって1.7eVから2.0eVまで放物線状に増加する。半導体レーザ10は、単一量子井戸形のレーザであり、第1の電極13と第2の電極14から注入されたキャリアは、活性層26に閉じ込められ、低い閾値電流でレーザ発振が開始される。なお、活性層26は、多重量子井戸形などの他の形態であってもよい。
【0035】
図5は、図2に示すクラッド層24からクラッド層28までの屈折率の変化を示す模式図である。クラッド層24、グレーデッド層25、グレーデッド層27及びクラッド層28は、活性層26内に光を閉じこめるために、活性層26よりも屈折率が低い材料からなる。活性層26の屈折率が最も高いため、活性層26で発生した光は、活性層26に閉じ込められる。
【0036】
半導体レーザ10では、注入される電流が閾値電流を超えると、光路LP上に分布する二つの定在波モードの発振を開始する。これら二つのモードは、回転場に対して後述する理論に従い、それぞれ時計回り(CW)と反時計回り(CCW)に周回するモードに変化する。したがって、本実施の形態では、通常、半導体レーザ10を閾値電流以上で動作させる。例えば、第1の電極13と第4の電極14との間に、200mAの電流を流すことによって、半導体レーザ10を発振させることができる。
【0037】
光検出器15は、複数の受光素子を備える2チャンネルの光検出器から構成され、例えば、フォトダイオードから構成され、半導体レーザ10と同じ積層構造を有し、半導体レーザ10を形成する製造工程で半導体レーザ10とともに形成される。半導体レーザ10から出射されたレーザ光は、各ハーフミラー面HMの近傍で規則正しい干渉縞(余弦波)を生じる。
【0038】
したがって、光検出器15は、二つ以上の受光素子を干捗縞の移動方向に配置されることによって、干渉縞の移動速度に加えて干渉縞の移動方向を検出することができる。本実施の形態では、各光検出器15は、レーザ光が出射されるハーフミラー面HMに近接して配置され、そのうちの1個の光検出器15の出力を用いて、干渉縞の移動方向及び移動速度を検出することにより角速度を検出する。すなわち、当該光検出器15は、干渉縞の光量の強弱に応じた信号を出力し、干渉縞が移動すると、入力される光量が周期的に変化するため、干渉縞の移動速度を算出できる。この結果、活性層26の表面と平行な面内における回転方向と回転速度とが算出され、角速度を検出することができる。
【0039】
なお、干渉縞の移動速度を精度よく検出するために、光検出器の受光領域のサイズは、干渉縞の周期長や、光検出器の受光感度を考慮して決定される。通常、受光領域のサイズは、干渉縞の周期長の5分の1程度以下とすることが好ましい。また、光検出器は、上記の例に特に限定されず、種々の光検出器を用いることができ、例えば、フォトトランジスタ等の半導体受光素子を用いてもよい。また、必要に応じて、レンズ、プリズム等を配置し、レンズ、プリズム等を透過したレーザ光を光検出器により検出するようにしてもよい。
【0040】
また、本実施の形態の半導体レーザジャイロの製造方法として、公知の半導体製造方法を用いることができ、例えば、特開2004−235339号公報に開示される半導体レーザと同様の製造方法を用いることができるので、詳細な説明は省略する。
【0041】
次に、上記のように構成された半導体レーザジャイロのパッキング例について説明する。図6は、図1に示す半導体レーザジャイロのパッキング例を示す一部断面斜視図である。図6に示すように、半導体レーザ10と光検出器15とがモノリシックに形成されている半導体レーザジャイロ110は、カバー111と、円形のステム112とによって、パッケージ(いわゆるCANパッケージ)される。なお、カバー111は、その一部を切断して内部を解放した状態を示している。
【0042】
ステム112には、4本の端子114が固定され、4本の端子114はそれぞれ、第1の電極13、第2の電極14、光検出器15の二つの受光素子に接続されている。なお、端子114の接続方法は一例であり、種々の変更が可能であり、また、円形のステム112の直径に限定はないが、規格で決められたサイズ、たとえは直径5.6mmとすることができる。
【0043】
次に、本発明によるサニャック効果におけるロックイン現象の抑制原理について説明する。従来のサニャック効果に対する理論は、光ジャイロに使用される共振器のサイズが光の波長に比べて十分大きいこと、さらに、光は共振器中で1次元的にしか伝播しないことを仮定して導き出されたものであり、この理論は、幾何光学的な近似が成立する領域に対してのみ有効である。
【0044】
一方、本願発明者らは、サニャック効果を与える方程式を厳密に解き、当該方程式を波動光学的に調べることにより、サニャック効果が回転角速度に対する閾値現象として現れることを理論的及び数値実験的に明らかにし、回転角速度に対する閾値が共振器の形状の対称性に依存することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0045】
すなわち、サニャック効果は、一般相対性理論から導き出された回転座標系における下記のMaxwell(−Helmholtz)方程式を直接的に解くことにより与えられる。
【0046】
【数1】

【0047】
ここで、共振器が2次元的であることを仮定し、上式において、ψ、k、n、hは、それぞれ電場、波数、共振器内の屈折率、そして、h=(r×Ω)/c(Ω=(0,0,Ω)は共振器に対して垂直な回転角速度ベクトル)である。
【0048】
本理論と従来の理論とで異なる点は、回転角速度Ω=0の時の共振モードが、時計回り(CW)と反時計回り(CCW)とに1次元的に伝播する光の状態であるという仮定を用いずに、直接的に式(1)の解を求めている点である。本理論では、Ω=0に対する式(1)の解は、CW波やCCW波ではなく、準縮退状態にある二つの定在波モードとして与えられる。
【0049】
上記の解法により、初めてサニャック効果が回転角速度に対して閾値現象として現れることが明らかにされ、回転角速度Ωに対する閾値Ωthは、下記式で与えられる。
【0050】
【数2】

【0051】
ここで、ψαとψβは、静止状態の共振器に対する準縮退した二つの定在波モードの波動関数であり、Δkは、その二つの定在波モードの固有値の波数である。
【0052】
まず、回転角速度Ωが閾値Ωthよりも小さい場合を考える。この場合、回転場のための時空の歪みを表す項hを式(1)に対して摂動と見做し、Ω=0の共振器に対する定在波モードを基底にして通常の摂動論を展開することができる。この計算の結果として、回転角速度Ωに対する定在波モードの周波数シフトδωが0になるという結果が導かれ、回転角速度Ωに対してモード間の周波数差は変化しないため、閾値以下では、サニャック効果は生じない。この結果は、定在波がCW波及びCCW波の重ね合わせであると解釈できるため、共振器におけるモードが定在波であることに由来するものである。
【0053】
次に、回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなった場合を考える。この場合、従来の摂動論における展開は、近縮退状態の存在によって破綻することが数学的に保証されるため、この領域では、近縮退状態における摂動論によって式(1)を解かなければならない。この摂動論によれば、近縮退状態にある共振器モードが摂動を受けた場合、摂動後の共振器モードは、無摂動の共振器モードの重ね合わせによって表現されなければならないことが知られている。
【0054】
この場合、近縮退状態にあった二つの定在波モードは、回転場という摂動によって重ね合わされることにより、CW波及びCCW波の回転波として表現され、この領域に対して従来の理論が適用されることになる。実際、計算の結果、回転する場に対する式(1)の解である共振器モード間の周波数差は、下記のように、回転角速度Ωに対する周波数差Δωとして与えられ、回転角速度に比例して増加する効果として、サニャック効果が観測されることとなる。
【0055】
【数3】

【0056】
上記の検討結果において最も重要な点は、サニャック効果が観測されるための閾値Ωthが二つのモード間の波数の差Δkに依存していることである。ここで、Δkは、共振器の対称性に依存した値であるため、共振器の形状の対称性及び/又は共振器等の光学的な対称性を調整することにより、低閾値の光ジャイロを実現することができることがわかった。
【0057】
図7は、略楕円形状を有する共振器の波動関数を示す図である。例えば、図7に白線で示すような略楕円形状を有する共振器に対して、回転角速度Ωが0のとき、式(1)を数値的に解くと、図7の(a)及び(b)に示す準縮退した定在波のモードが得られる。なお、図7の(a)に示すモードの波数に対する固有値は、k=49.3380585であり、(b)に示すモードの波数に対する固有値は、k=49.3380615であり、R=6.28μmである。
【0058】
図8は、回転角速度Ωに対するモード間の周波数差Δωの変化を示す図であり、図9は、回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなったときの二つのモードを示す図である。図8に示すように、回転角速度Ωが式(2)で計算される閾値Ωthよりも小さい場合、共振器モード間の周波数差は変化しない。この場合、共振器モードも定在波のままである。しかしながら、回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなった場合、このモード間の周波数差は、回転角速度Ωに比例して増加することがわかる。このとき、定在波であったモードは、図9の(a)に示すCW波に対応したモード及び(b)に示すCCW波に対応したモードとなり、両者は、定在波から回転波に変化していることがわかる。
【0059】
上記のように、Δkは、共振器の対称性に依存した値を持つので、共振器の対称性を変化させることにより、閾値を0すなわちロックイン現象の発生を防止することができる。一例として、第1の実施の形態のように90度回転対称な形状を有する共振器におけるサニャック効果について検討する。
【0060】
図10は、90度の回転に対して対称な形状を有する共振器において回転角速度Ω=0のときに縮退している二つの波動関数を示す図である。90度回転対称な形状を有する共振器のモードは、図10の(a)及び(b)に示すようになり、この二つの定在波モードは、90度の回転に対して同じパターンを有しており、同じ状態で同じ固有値(周波数)を有しているため、モード間の波数差Δkは0になる。
【0061】
図11は、90度の回転に対して対称な形状を有する共振器において回転角速度Ωに対するモード間の周波数差Δωの変化を示す図であり、図12は、90度の回転に対して対称な形状を有する共振器において回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなったときの二つのモードを示す図である。上記のように、モード間の波数差Δkが0になるため、式(2)から回転角速度Ωに対する閾値も0となり、図11に示すように、回転角速度Ωに対してモード間の周波数差Δωは、Ω=0から比例して増加することがわかる。このとき、定在波であったモードは、図12の(a)に示すCW波に対応したモード及び(b)に示すCCW波に対応したモードとなり、回転角速度Ωが作用したとたん、CWおよびCCWの回転波に変化することがわかる。
【0062】
この結果、サニャック効果が観測されるための閾値Ωthを0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。また、90度以下の回転に対して対称な形状は、(360/2n+1)度又は(360/(3×2))度(nは、1以上の整数)の回転に対して対称な共振器すべてが満足し、この場合も、上記と同様の効果を得ることができる。
【0063】
上記の本発明の原理に基づき、本実施の形態の構成及び効果を説明すると、以下のようになる。図3を用いて説明したように、共振器となる活性層26は、水平方向の一点鎖線で示す中心線に対して鏡映対称であり、同様に垂直方向の中心線に対しても鏡映対称であるため、90度の回転に対して対称な形状を有する共振器となっている。このとき、活性層26中には、時計回りと反時計回りとの光が存在する正方形の光路LPが形成される。
【0064】
したがって、活性層26が回転されるとき、CW波とCCW波との間の周波数差は、正方形の光路LPで囲まれた面積と、その周の長さとに依存する比例係数をもって、回転角速度に対して増加することになる。そして、その周波数差を観測するための4個の光検出器15が活性層26の四つのハーフミラー面HMの近傍に配置され、光検出器15を含めて90度回転対称性が実現されている。このように、90度の回転に対して対称な形状の活性層26及び光検出器15をその対称性を保つように形成及び配置することにより、サニャック効果が観測されるための回転角速度に対する閾値を0にすることができる。
【0065】
上記のように、本実施の形態では、活性層26は、90度回転させた場合に回転前後で一致する形状を有し、光検出器15も90度回転させた場合に回転前後で一致する位置に配置されているので、活性層26及び光検出器15が90度回転対称性を満足し、ロックイン現象が発生する閾値を0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。
【0066】
次に、本発明の光ジャイロにおける形状及び光学特性の回転対称性と閾値との関係についてさらに詳細に検討する。まず、光ジャイロの共振器すなわちキャビティの形状を変化させて形状の回転対称性を崩した場合の閾値の変化について検討する。上記のように活性層26は、所定の曲率を組み合わせた曲面を有しており、このような形状を有するキャビティの端面の曲率を変化させた場合における閾値の変化は、以下のようになる。
【0067】
図13は、90度の回転に対して対称な形状を有するキャビティの一例を示す模式図である。図13に示す形状を有するキャビティCVの場合、光を反射する端面RPが四つあり、各端面RPにおける曲率が等しく設計される。光は、図示のような正方形の光路LPを取り、この場合も、サニャック効果が観測されるための回転角速度に対する閾値Ωthは0となる。
【0068】
図14は、図13に示すキャビティの形状変化を説明するための模式図である。図14の(a)に示すキャビティ(図13に示すキャビティ)が、図14の(b)に示すように変形された場合、光を反射させるための四つの端面RPのうち二つの曲率が変化して回転対称性が崩される。
【0069】
ここで、図13に示すキャビティCVの中心から光路LPまでの距離をa、bとし、これらのa、bを変化させて形状の回転対称性を変化させると、上記の曲率の変形率εは、ε=(1/2)×(1−(b/a)1/2×100(%)と定義することができる。この場合、回転対称性の崩れに対する閾値Ωthの変化は、キャビティの大きさ、光路長、屈折率等に依存し、90度回転対称なキャビティに対して下記のように表される。
【0070】
【数4】

【0071】
ここで、Lは光路LPの長さ、Aは光路LPによって囲まれた面積、kは光の波数、cは光速度である。また、α及びβはキャビティの形状に依存するパラメータであり、αは下記式で表される。
【0072】
【数5】

【0073】
ここで、R(θ)は、キャビティの形状を極座標表示(r,θ)にしたものであり、δR(θ)は、回転対称性を崩したキャビティの形状R’(θ)とR(θ)との差(δR(θ)=R’(θ)−R(θ))である。特に、この場合、R(θ)=r×(1+εcos4θ)、δR(θ)=rεcos2θであり、また、r=6.28μm、ε=0.04、ε=ε、<(δR(θ)/R(θ))>=(1/2π)∫a0a1(δR(θ)/R(θ))dθ(ここで、a0=0、a1=2π)である。
【0074】
また、βの値は、キャビティ中の光線軌跡におけるバーコフ座標で表示されたポアンカレ断面上の全面積に対する4周期トーラスが占める面積比として与えられ、本例の場合、α=2×10−3、β=0.01である。
【0075】
光路長L及び面積Aは、キャビティの大きさに依存するパラメータであるため、式(4)より、これらが大きくなるにつれて、回転対称性の崩れに対する閾値の増加は小さくなることがわかる。なお、式(4)は、60度等の回転対称性を有するキャビティに対しても同様に適用することができる。
【0076】
上式は、以下に説明する一般的な対称性の変化に対する閾値の変化に基づくものである。すなわち、極座標表示(r,θ)を用いてキャビティの形状をr=R(θ)とし、形状R(θ)から形状R(θ)+δR(θ)へ変化した場合における閾値Ωthは、下記のように表すことができる。
【0077】
【数6】

【0078】
ここで、Jはm次のベッセル関数であり、k=n−2kmΩ/c(Ωは回転加速度)、aは回転角速度0における対称な形状のキャビティの波動関数ψを用いてa=Σm=−∞2πψ/Ji(m−n)dθと書き表される量である。
【0079】
図15は、式(4)を用いて算出した閾値Ωthと曲率の変形率εとの関係を示す図である。図15に示す例は、図13に示す対角長laが6.28μmである90度回転対称なキャビティ(図13に示す形状を有するキャビティ)において、光の波長λ=0.8μmとしたときに、閾値Ωth(rad/s)と曲率の変形率ε(%)との関係を示すものである。
【0080】
図15から、形状における90度回転対称性を完全に満足しているときに、0であった閾値Ωthは、変形率εの増加に比例して増加していき、1.5×10−8(%)の崩れに対して1(rad/s)に上昇した。この結果、例えば、曲率の変形率εは1.5×10−8(%)以下であることが好ましく、この場合、従来の光ジャイロにおいて700度/秒であった閾値Ωthを60度/秒以下にすることができるとともに、超小型の半導体レーザジャイロを実現することができる。
【0081】
また、回転対称性を考慮していない従来のロックイン現象の閾値Ωは、例えば、「F.Aronowitz,LASER APPLICATION(1971)」においてHe−Neレーザジャイロに対して、Ω=cλ/(32πAd)と与えられている。ここで、cは光の速度、λは光の波長、Aは光が囲む面積、dは光ビームの直径、rはCW(又はCCW)方向回転のレーザ光がCCW(又はCW)方向のレーザ光に結合する割合を表す後方散乱係数(mirror scattering)(%)である。
【0082】
例えば、He−Neレーザの場合、c=3.0×10(m/s)、λ=0.632(μm)、d=0.05(cm)、r=0.01であり、回転対称性を考慮していない従来の閾値Ω=500(deg/h)となり、非常に現実の値に近い正確な見積もりを与える。
【0083】
図13に示す形状を有する共振器の場合、d=1.5(μm)、r=0.02とすると、上式から、Ω=2.2×10(rad/s)となり、一方、図14に示すキャビティの形状変化によって回転対称性を崩した場合の閾値Ωthを、式(4)を用いて算出すると、閾値ΩthがΩth<Ωを満たすための変形率εは、3.14(%)以下となる。この場合、従来の回転対称性を考慮していない場合の閾値Ωより閾値Ωthを小さくすることができる。
【0084】
また、上記と同様に、例えば、相対的な揺らぎの大きさを<(δR(θ)/R(θ))1/2とし、式(6)から算出した回転対称性を崩した場合の閾値ΩthがΩth<Ωを満たすように、この値の範囲を設定するようにしてもよい。さらに、後述する光学的な回転対称性についても上記と同様である。
【0085】
次に、光ジャイロのキャビティの透過率を変化させて光学的な回転対称性を崩した場合の閾値について検討する。上記のように活性層26は、四つのハーフミラー面HMを備えており、このようなミラーの透過率を変化させた場合における閾値の変化は、以下のようになる。
【0086】
図16は、光学的に90度回転対称性を有するように配置された4枚のミラーから構成されるキャビティを示す模式図である。図16に示すように、4枚のミラーM1〜M4が90度回転対称性を有するように配置され、ミラーM1の透過率を他のミラーM2〜M4の透過率と異なるように変化させた場合を考えると、キャビティの形状の回転対称性は維持されるが、光学特性における回転対称性が崩される。
【0087】
上記のように、1枚のミラーM1のみ透過率を変化させて、キャビティの回転対称性を崩した場合の閾値Ωthは、下記式で表される。
【0088】
【数7】

【0089】
ここで、TはミラーM1の透過率、nはミラーM1の屈折率、λは光の波長、cは光の速度、nは光路LPの屈折率、Aは光路LPによって囲まれた面積である。
【0090】
さらに、他のミラーの透過率を変化させた場合、変化させたミラーの透過率をT’、屈折率をn1’、一つ目のミラーの透過率の変化によって回転対称性を変化させたときの閾値をΩth(1)とすると、この場合の閾値Ωthは、下記式で表される。
【0091】
【数8】

【0092】
上記の各式より、透過率を変化させてキャビティの光学的な回転対称性を崩した場合の閾値Ωthは、キャビティの形状及びミラーの数に依存しないことがわかる。
【0093】
図17は、式(7)を用いて算出した閾値Ωthとミラーの透過率Tとの関係を示す図である。図17に示す例は、図16に示す90度回転対称性を有するキャビティに対して一つのミラーM1のみ、その透過率Tを変化させたときに、n=n=1、λ=0.632μm、c=3.0×10(m/s)、A=52.4cmに設定し、閾値Ωth(deg/s)と透過率T(ppm)との関係を示すものである。
【0094】
図17から、光学特性における90度回転対称性を完全に満足しているときに、0であった閾値Ωthは、透過率Tの増加に比例して増加していき、50(ppm)の崩れに対して0.025(deg/s)に上昇した。この結果、例えば、ミラーの透過率Tは50(ppm)以下であることが好ましく、この場合、従来の光ジャイロにおいて700度/秒であった閾値Ωthを0.025度/秒以下にすることができ、閾値を非常に小さくすることができる。
【0095】
上記の例は、共振器内に光源を有するアクティブ型の半導体レーザジャイロについて説明したが、本発明が適用される光ジャイロは、この例に特に限定されず、例えば、共振器外に光源を有するパッシブ型の光ジャイロ等にも同様に適用することができ、以下、この具体例について説明する。
【0096】
図18は、本発明の第2の実施の形態による光ファイバジャイロの構成を示す斜視図である。図18に示す光ファイバジャイロは、光ファイバリング共振器の鋭い共振特性によって感度向上を図る共振方式の光ファイバジャイロ(Resonator−FOG)であり、4個のレーザ41a〜41d、4組の光検出器42a〜42d、43a〜43d、4組の光結合器44a〜44d、45a〜45d、46a〜46d、47a〜47d、及び光ファイバリング共振器48を備える。
【0097】
従来の共振方式の光ファイバジャイロ(Fiber−Optic Gyro:FOG)では、1個のレーザを用いて光を入力し、1組の光検出器を用いて回転角速度を観測していたが、本実施の形態では、円形の光ファイバリング共振器48を中心にして、光の入力部となる4個のレーザ41a〜41d、光の検出部となる4組の光検出器42a〜42d、43a〜43d(例えば、光検出器42a及び43aが一組)、及び4組の光結合器44a〜44d、45a〜45d、46a〜46d、47a〜47dを90度間隔でそれぞれ配置することにより、すべての構成要素が90度回転対称性を満足するように配置されている。この結果、本実施の形態でも、円形の光路が形成され、光の入力部及び出力部を含めて90度回転対称性を満足することができるので、第1の実施の形態と同様に、ロックイン現象が発生する閾値を0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。
【0098】
図19は、本発明の第3の実施の形態による光ファイバジャイロの構成を示す斜視図である。図19に示す光ファイバジャイロは、光ファイバ共振器中で生じる誘導ブリルアン散乱によりレーザ発振を得て、その発振周波数変化から回転を検出する誘導ブリルアン散乱方式の光ファイバジャイロ(Brillouin−FOG)であり、4個のレーザ51a〜51d、4個の光検出器52a〜52d、4個の光学フィルタ53a〜53d、4組の光結合器54a〜54d、55a〜55d、及び光ファイバ共振器56を備える。
【0099】
従来の誘導ブリルアン散乱方式の光ファイバジャイロでは、1個のレーザを用いて光を入力し、1個の光検出器を用いて回転角速度を観測していたが、本実施の形態では、円形の光ファイバ共振器56を中心にして、光の入力部となる4個のレーザ51a〜51d、光の検出部となる4個の光検出器52a〜52d、4個の光学フィルタ53a〜53d、及び4組の光結合器54a〜54d、55a〜55d(例えば、光結合器54a及び55aが一組)を90度間隔でそれぞれ配置することにより、すべての構成要素が90度回転対称性を満足するように配置されている。この結果、本実施の形態でも、円形の光路が形成され、光の入力部及び出力部を含めて90度回転対称性を満足することができるので、第1の実施の形態と同様に、ロックイン現象が発生する閾値を0に低下させることができ、ロックイン現象の発生を防止することができる。
【0100】
なお、上記各実施の形態では、光検出器を共振器外に別途設けたが、この例に特に限定されず、例えば、光検出器を省略し、第1の実施の形態の第1及び第2の電極13、14に一定電流を印加し、そのときの電圧変動を基に角速度を計測するようにしてもよい。
【0101】
また、上記の各実施の形態では、90度回転対称性を有する光ジャイロについて説明したが、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有していれば、ミラー部を3箇所にする等の種々の変更が可能である。
【0102】
また、本発明が適用される光ジャイロは、上記の例に特に限定されず、ミリ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線等を観測光として用いる種々の光ジャイロに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1の実施の形態による半導体レーザジャイロの構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すI−I線における断面を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す半導体レーザの活性層を上方から見たときに活性層及び活性層内に形成される光路を模式的に示す平面図である。
【図4】図2に示す半導体層のバンドギャンプのプロファイルを示す模式図である。
【図5】図2に示すクラッド層からクラッド層までの屈折率の変化を示す模式図である。
【図6】図1に示す半導体レーザジャイロのパッキング例を示す一部断面斜視図である。
【図7】略楕円形状を有する共振器の波動関数を示す図である。
【図8】回転角速度Ωに対するモード間の周波数差Δωの変化を示す図である。
【図9】回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなったときの二つのモードを示す図である。
【図10】90度の回転に対して対称な形状を有する共振器において回転角速度Ω=0のときに縮退している二つの波動関数を示す図である。
【図11】回転角速度Ωに対する図10に示すモード間の周波数差Δωの変化を示す図である。
【図12】90度の回転に対して対称な形状を有する共振器において回転角速度Ωが閾値Ωthよりも大きくなったときの二つのモードを示す図である。
【図13】90度の回転に対して対称な形状を有するキャビティの一例を示す模式図である。
【図14】図13に示すキャビティの形状変化を説明するための模式図である。
【図15】式(4)を用いて算出した閾値Ωthと曲率の変形率εとの関係を示す図である。
【図16】光学的に90度回転対称性を有するように配置された4枚のミラーから構成されるキャビティを示す模式図である。
【図17】式(7)を用いて算出した閾値Ωthとミラーの透過率Tとの関係を示す図である。
【図18】本発明の第2の実施の形態による光ファイバジャイロの構成を示す斜視図である。
【図19】本発明の第3の実施の形態による光ファイバジャイロの構成を示す斜視図である。
【図20】従来のリングレーザジャイロの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0104】
10 半導体レーザ
11 基板
12 絶縁層
13 第1の電極
14 第2の電極
15 光検出器
20 半導体層
21 バッファ層
22 バッファ層
23 グレーデッド層
24 クラッド層
25 グレーデッド層
26 活性層
27 グレーデッド層
28 クラッド層
29 キャップ層
41a〜41d レーザ
42a〜42d、43a〜43d 光検出器
44a〜44d、45a〜45d、46a〜46d、47a〜47d 光結合器
48 光ファイバリング共振器
51a〜51d レーザ
52a〜52d 光検出器
53a〜53d 光学フィルタ
54a〜54d、55a〜55d 光結合器
56 光ファイバ共振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サニャック効果を利用して角速度を検出する光ジャイロであって、
進行方向の異なる光を所定経路内で伝播させる共振器を備え、前記共振器における光の経路が、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する回転対称性を有することを特徴とする光ジャイロ。
【請求項2】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、120度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することを特徴とする請求項1記載の光ジャイロ。
【請求項3】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することを特徴とする請求項1記載の光ジャイロ。
【請求項4】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、(360/2n+1)度(nは、1以上の整数)の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することを特徴とする請求項1記載の光ジャイロ。
【請求項5】
前記共振器の光を伝播させる媒質は、(360/(3×2))度(nは、1以上の整数)の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有することを特徴とする請求項1記載の光ジャイロ。
【請求項6】
前記共振器は、光を反射させる三つ以上の反射部を備え、各反射部の光学特性が実質的に同一であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光ジャイロ。
【請求項7】
前記反射部は、前記共振器内で光を反射させるとともに、前記共振器外へ光を透過させるハーフミラー部を含み、各ハーフミラー部の反射率及び透過率が実質的に同一であることを特徴とする請求項6記載の光ジャイロ。
【請求項8】
前記共振器は、光を反射させる三つ以上の反射部を備え、各反射部の形状が実質的に同一であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の光ジャイロ。
【請求項9】
前記反射部は、前記共振器内で光を反射させるとともに、前記共振器外へ光を透過させるハーフミラー部を含み、各ハーフミラー部の形状が実質的に同一であることを特徴とする請求項8記載の光ジャイロ。
【請求項10】
前記共振器は、第1及び第2のレーザ光を発生する半導体レーザから構成され、前記半導体レーザは、活性層と、前記活性層にキャリアを注入するための第1及び第2の電極とを備え、前記第1のレーザ光は、前記活性層内において多角形の経路上を周回するレーザ光の一部が出射されたレーザ光であり、前記第2のレーザ光は、前記経路上を前記レーザ光とは逆方向に周回するレーザ光の一部が出射されたレーザ光であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の光ジャイロ。
【請求項11】
前記活性層は、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する形状を有し、前記活性層の各ハーフミラー部を透過した光を検出する複数の光検出器が、90度以下の角度で回転させた場合に回転前後で実質的に一致する位置に配置されることを特徴とする請求項10記載の光ジャイロ。
【請求項12】
前記回転対称性は、cを光の速度、λを光の波長、Aを光が囲む面積、dを光ビームの直径、rをCW(又はCCW)方向回転の光がCCW(又はCW)方向の光に結合する割合を表す後方散乱係数(%)としたときに、Ω=cλ/(32πAd)により算出される基準閾値Ωより低いロックイン現象の閾値を有する範囲で変更されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の光ジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−71577(P2007−71577A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256381(P2005−256381)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】