説明

光センサ装置

【課題】呼気中のアルコール濃度を測定する場合に、水蒸気濃度による影響を補正し、高精度にアルコール濃度を測定すること。
【解決手段】光源10の光は、偏光ビームスプリッタ13によってp偏光は透過し、s偏光は反射されて2つに分割される。p偏光は光センサ素子11によって反射され、偏光ビームスプリッタ13によって反射されて出力光1として光検出器15に出力される。s偏光は1/4波長板14を通して光センサ素子12に反射され、再び1/4波長板14を透過し、偏光ビームスプリッタ13を透過して出力光2として光検出器15に出力される。光センサ素子11はアルコール濃度および水蒸気濃度に感応して反射率が変化し、光センサ素子12は水蒸気濃度に感応して反射率が変化する。出力光1の光強度は光センサ素子11の反射率減少に対して増加し、出力光2の光強度は光センサ12の反射率減少に対して減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に光を照射し、その反射率の変化によって対象物の物性、たとえば濃度、密度、屈折率、温度などを測定する光センサ装置に関する。特に、呼気中のアルコール濃度を測定する光センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、偏光ビームスプリッタによって分割した直線偏光を光ディスク等の反射体に反射させる際に、1/4波長板を通して円偏光にしてから反射体に反射させ、その反射光を再度1/4波長板に通すことで、偏光ビームスプリッタによる分割時とは直交する直線偏光にし、その直線偏光を偏光ビームスプリッタを介して検出する方法が知られている(たとえば特許文献1、2)。この方法によれば、効率的な光ピックアップ装置などを構成することができる。
【0003】
また、光学式のアルコールセンサ素子として、たとえば特許文献3がある。特許文献3のセンサ素子は、高分子電解質累積膜と表面プラズモン共鳴を用い、その高分子電解質累積膜がアルコールに晒されたときの光学的応答の違いからアルコール濃度を検出するものである。
【0004】
また、呼気中のアルコール濃度を測定する際に、センサ素子がアルコールと水蒸気の両方に感応する場合において、水蒸気による影響を補正する方法が特許文献4に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−120592
【特許文献2】特開2001−229569
【特許文献3】特開2010−197181
【特許文献4】特開2010−223626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学式のアルコールセンサ素子を特許文献4に適用することが考えられる。しかし、特許文献4では、アルコール濃度を算出する算出部と湿度を算出する算出部の2つの手段と、補正処理を行う処理部が必要となり、装置の大型化やコストが増大してしまう。
【0007】
そこで本発明の目的は、対象物に光を照射し、その反射率の変化から対象物の物性を測定する光センサ装置において、妨害要素の存在下で測定する場合に、その妨害要素による影響を補正し、高精度に測定物の物性を測定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、対象物の物性を、光の反射率の変化によって測定する光センサ装置において、対象物の物性と妨害要素とに反応して反射率が変化する第1光センサ素子と、妨害要素に反応して反射率が変化し、対象物の物性に対しては反応しない第2光センサ素子と、光源と、光源からの光を透過・反射させて2つの偏光成分に分割し、それぞれを第1光センサ素子および第2光センサ素子によって反射させ、2つの反射光のうち、透過させて分割した方を反射させ、反射させて分割した方を透過させて、2つの反射光を合波し出力する偏光ビームスプリッタと、偏光ビームスプリッタにより合波された光の光強度を検出する光検出器と、を有し、第1光センサと第2光センサのうち一方の反射光は、反射率の減少に対して偏光ビームスプリッタから出力される光強度が減少し、他方の反射光は、反射率の減少に対して偏光ビームスプリッタから出力される光強度が増加するように、第1光センサ素子または第2光センサ素子に反射率の偏光依存性を持たせ、あるいは第1光センサ素子または第2光センサ素子と偏光ビームスプリッタとの間に複屈折素子を配置する、ことを特徴とする光センサ装置である。
【0009】
本発明において対象物の物性とは、反射率の変化から測定可能な物性であればよく、濃度、密度、温度、屈折率などである。対象物は、気体、液体、固体など、どのような状態であってもよい。たとえば、呼気中のアルコール濃度や、液体の屈折率などが本発明における対象物の物性である。
【0010】
阻害要素は、対象物の物性測定に影響する任意の要素である。たとえば、光センサ素子に対して反射特性の変化を及ぼす対象物以外の物質や、第1、2光センサ素子の温度などが挙げられる。
【0011】
第1光センサ素子は対象物の物性と妨害要素に応じて反射率が変化し、第2光センサ素子は妨害要素に応じて光の反射率が変化するものであれば任意である。第1、2光センサ素子の反射率は必ずしも偏光依存性を必要としない。たとえば、アルコールと水に感応する第1光センサ素子、および水に感応する第2光センサ素子として、金属膜上に高分子電解質累積膜を形成した素子を用いることができる。高分子電解質累積膜は、異なる材料の高分子電解質膜(たとえばポリアニオンとポリカチオン)を交互に累積させた膜である。高分子電解質累積膜にアルコールが吸着することで厚さが変化し、これに応じて反射率が変化する。高分子電解質累積膜を使用することは、製造の容易さや低コストであることに利点がある。しかし、高分子電解質累積膜はアルコールのみに反応するよう作製することが困難であり、通常は水にも反応する。また、水のみに反応しアルコールには反応しないような高分子電解質累積膜を作製することは容易である。そこで本発明を用いれば、光センサ素子として高分子電解質累積膜を利用する場合であっても水による影響分を補正してアルコール濃度を精度よく測定できる。また、金属膜として光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられたものを用いれば、偏光方向による反射率の依存性を容易に設計することができ、測定精度の向上を図ることができる。また、そのような凹凸を設けた金属膜は、液体の屈折率を測定する第1、第2センサ素子として用いることができる。金属膜に液体が接触した際、屈折率に応じて反射特性が変化するためである。また、阻害要素として第1、2光センサ素子の温度を想定する場合、第2光センサ素子には、たとえば金属ミラーを用いることができる。
【0012】
第1光センサ素子と第2光センサ素子のうち一方の反射光は、反射率の減少に対して偏光ビームスプリッタから出力される光強度が減少し、他方の反射光は、反射率の減少に対して偏光ビームスプリッタから出力される光強度が増加する、ように構成する場合において、第1、第2光センサ素子の双方が、反射率の減少に対して偏光ビームスプリッタから出力される光強度が増加または減少するような素子である場合には、第1光センサ素子と第2光センサ素子の一方と、偏光ビームスプリッタとの間に、1/4波長板などの複屈折素子を配置すればよい。
【0013】
光源には、発光ダイオード、半導体レーザー、などを用いることができる。
【0014】
光検出器には、フォトダイオード、フォトトランジスタ、CCD、CMOS、光電子増倍管などを用いることができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、対象物の物性は、呼気中のアルコール濃度であり、妨害要素は、呼気中の水蒸気濃度であり、第1光センサ素子は、光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜と、金属膜上に形成され、アルコールおよび水に反応して厚さの変化する第1の高分子電解質累積膜と、を有し、第2光センサ素子は、金属膜と、金属膜上に形成され、水に反応して厚さの変化する第2の高分子電解質累積膜と、を有し、第1光センサ素子と第2光センサ素子の一方と、偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、ことを特徴とする光センサ装置である。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、対象物の物性は、液体の屈折率であり、妨害要素は、第1光センサ素子および第2光センサ素子の温度であり、第1光センサ素子および第2光センサ素子は、光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜であり、第1光センサ素子と第2光センサ素子の一方と、偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、ことを特徴とする光センサ装置である。
【0017】
第4の発明は、第1の発明において、対象物の物性は、呼気中のアルコール濃度であり、妨害要素は、第1光センサ素子および第2光センサ素子の温度であり、第1光センサ素子は、光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜と、金属膜上に形成され、アルコールおよび水に反応して厚さの変化する高分子電解質累積膜と、を有し、第2光センサ素子は、金属ミラーであり、第2光センサ素子と、偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、ことを特徴とする光センサ装置である。
【0018】
第5の発明は、第2の発明から第4の発明において、複屈折素子は、1/4波長板であることを特徴とする光センサ装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、対象物の物性測定を阻害する要因が存在する環境下であっても、阻害要素による影響を補正して高精度に対象物の物性を測定することができる。また、本発明の光センサ装置は小型で低コストに製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の光センサ装置の構成を示した図。
【図2】光センサ素子11、12の構成を示した図。
【図3】金属ナノスリット素子102の反射率の波長依存性を示したグラフ。
【図4】反射率の波長依存性のシフトを説明する図。
【図5】ある波長における反射率の変化を説明する図。
【図6】光センサ素子11、12による光の反射前後での光の状態の違いを示した図。
【図7】出力光1、2の光強度と反射率変化方向の反射率との関係を示したグラフ。
【図8】出力光2の光強度と反射率変化方向の反射率との関係を示したグラフ。
【図9】実施例2の光センサ装置の構成を示した図。
【図10】光センサ素子21、22の構成を示した図。
【図11】実施例3の光センサ装置の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、実施例1の光センサ装置の構成を示した図である。光センサ装置は、光源10と、光センサ素子11、12と、偏光ビームスプリッタ13と、1/4波長板14と、光検出器15と、濃度算出部16と、によって構成されている。この実施例1の光センサ装置は、本発明において対象物の物性をアルコール濃度とし、阻害要素を水の存在とする場合である。
【0023】
光源10はLEDであり、光源10から出力される光は、偏光ビームスプリッタ13に出力させる。光源10にはLEDの他にレーザダイオードなどを用いることができる。光源10の光の波長は、近赤外光域から可視光域の間で光センサ素子11、12の特性に合わせて選択する。
【0024】
偏光ビームスプリッタ13は、2つのプリズムを接着し、その接着面に誘電体多層膜を形成したキューブ型である。ガラス基板に誘電体多層膜を形成して偏光依存性を持たせた板状の構造のものであってもよい。この偏光ビームスプリッタ13によって、光源10からの光は、s偏光は放射方向に対して90°の方向に反射され、p偏光は透過されて2つに分割される。
【0025】
光センサ素子11は、偏光ビームスプリッタ13によって分割された光のうち、p偏光の放射方向に配置され、光センサ素子12は、s偏光の放射方向に配置されている。光センサ素子11、12は、図2のように、表面にストライプ形状の凹凸が施された樹脂板100上に、そのストライプ形状に沿って金属膜101が形成されてなる金属ナノスリット素子102と、金属ナノスリット素子102上に形成されたガス感応膜103と、によって構成されている。ストライプの幅、間隔は、光源10の出力する光の波長以下である。金属膜101の材料は、たとえばAl、Agなどである。ガス感応膜103の材料は、たとえば、高分子電解質累積膜などである。
【0026】
高分子電解質累積膜は、異なる材料の高分子電解質膜(たとえばポリアニオンとポリカチオン)を交互に累積させた膜である。高分子電解質累積膜は、金属ナノスリット素子102表面をポリアニオン溶液とポリカチオン溶液に交互に浸して積層することで作製することができ、大型の装置を用いることなく、容易かつ低コストに製造することができる。また、1分子層単位で積層することができるため、厚さを高精度に制御することが可能である。他にもスピンコートなどにより製造することもできる。ポリアニオンは、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負の電荷を帯びる官能基を有するものであり、たとえば、poly[1-[4-(3-carboxy-4-hydroxyphenylazo)benzenesulfonamido]-1,2-ethanediyl,sodium salt] や、poly(4-vinylphenol) 、などを用いることができる。また、ポリカチオンは、4級アンモニウム基、アミノ基など正の電荷を帯びる官能基を有するものであり、たとえば、Poly(diallyldimethylammonium chloride)や、poly(4-vinylpyridine) 、などを用いることができる。光センサ素子11には、アルコールと水とに感応して膜厚が変化するガス感応膜103を用い、光センサ素子12には、水に感応して膜厚が変化し、アルコールには感応しないガス感応膜103を用いる。このような光センサ素子11と光センサ素子12の感応性の違いは、高分子電解質累積膜を構成する高分子電解質膜の材料、厚さ、累積数などによって生じさせることができる。
【0027】
金属ナノスリット素子102は、たとえば、樹脂板100表面に金型でストライプ形状の凹凸を設け、金属を斜め蒸着させることで作製することができる。金属膜にストライプ状にスリットを設けることで金属ナノスリット素子102を構成することもできる。
【0028】
このような金属ナノスリット素子102は、樹脂板100に垂直に光を照射した場合、金属ナノスリット素子102のストライプ方向に平行な偏光に対しては、波長に依存せず一定の反射率となり、ストライプ方向に垂直な偏光に対しては、波長によって反射率が異なる(図3参照)。図3のように、ストライプ方向に垂直な偏光については、ある波長λaまでは低い反射率でほぼ一定であるが、波長λaを越えて波長λbあたりまでは反射率は増加し、波長λbを越えると高い反射率でほぼ一定となる。一方、ストライプ方向に平行な偏光に対しては、波長によらず一定の反射率であり、ストライプ方向に垂直な偏光の反射率よりも高い反射率である。この反射特性の波長依存性は、ストライプの幅、間隔、深さや、金属膜101の材料などによって設計可能である。
【0029】
そして、金属ナノスリット素子102上にガス感応膜103を形成すると、ガス感応膜103の厚さに応じて図3に示したストライプ方向に垂直な偏光の反射率の波長依存性が変化する(図4参照)。ガス感応膜103にアルコールや水が吸着すると、ガス感応膜103の厚さが変化するため、図4に示したように反射率の波長依存性がシフトする。ガス感応膜103の厚さの変化量は、アルコール濃度や水蒸気濃度に依存する。この波長依存性のシフトは、ある波長λ1で比較すると反射率が変化しているということであり、その反射率の変化量は、アルコール濃度や水蒸気濃度に依存する(図5参照)。したがって、光センサ素子11はガス感応膜103に接触するアルコール濃度および水蒸気濃度に応じて、金属ナノスリット素子102のストライプ方向に垂直な偏光の反射率が所定量変化する。また、光センサ素子12は水蒸気濃度に応じて、金属ナノスリット素子102のストライプ方向に垂直な偏光の反射率が所定量変化する。アルコール濃度あるいは水蒸気濃度に対する感度を向上させるために、光源10の波長λは、濃度変化に対する反射率の変化の大きいλa〜λbの範囲が望ましく、そのような反射率の波長依存性となるよう金属ナノスリット素子102を設計するのがよい。以下、金属ナノスリット素子102のストライプ方向に垂直な方向を、光センサ素子11、12の反射率変化方向、ストライプ方向に平行な方向を反射率一定方向と呼ぶこととする。
【0030】
図6は、光センサ素子11、12で光を反射させる前後の光の状態を示した図である。図6(a)のように、反射させる前の光はp偏光とし、xy平面においてx軸方向をp偏光の方向とする。また、光センサ素子11、12の反射率変化方向は、x軸に対してθpの角度を有しているとする。このような状態の光を光センサ素子11、12によって反射させた後の光の状態が、図6(b)である。図3〜5のグラフに示したように、反射率変化方向の反射率は、反射率一定方向の反射率よりも小さい。その結果、図6(b)のように、光センサ素子11、12による反射光は、p偏光である入射光に対して偏光方向が傾くこととなり、s偏光の成分を有することがわかる。このs偏光成分の光強度は、反射率変化方向の反射率が減少すれば増加し、逆に反射率変化方向の反射率が増加すれば減少する。また、s偏光成分の光強度はθpにも依存しており、具体的にはsin(2*θp)の二乗に比例している。
【0031】
1/4波長板14は、偏光ビームスプリッタ13と光センサ素子12との間に配置されている。1/4波長板14としてフィルム状のものを用い、これを偏光ビームスプリッタ13や光センサ素子12に直接張り付けて使用してもよい。1/4波長板14は、その進相軸がs偏光に対して45°を成すように配置されている。
【0032】
光検出器15は、偏光ビームスプリッタ13を挟んで光センサ素子12と対向するよう配置されている。光検出器15はフォトダイオードであり、偏光ビームスプリッタ13によって合波された光を受光し、光強度に応じた電気信号を出力する。光検出器15としてフォトダイオード以外にも、フォトトランジスタ、CCD、CMOSなどを用いてもよい。
【0033】
濃度算出部16は光検出器15に接続されており、光検出器15によって検出した光強度と基準値となる光強度との差を算出し、その差からアルコール濃度を算出する。
【0034】
次に、実施例1の光センサ装置を用い、呼気中のアルコール濃度を測定する場合について説明する。
【0035】
偏光ビームスプリッタ13によって分割されたp偏光は、光センサ素子11によって反射され、さらに偏光ビームスプリッタ13に反射されて出力される。ここでその出力される出力光1の光強度は、上述の光センサ素子11の反射特性により、反射率変化方向での反射率の減少に対して出力光1の光強度が増加する関係となる(図7参照)。また、上述のように、この反射率変化方向における反射率は、アルコール濃度および水蒸気濃度に依存して変化する。
【0036】
一方、偏光ビームスプリッタ13によって分割されたs偏光は、1/4波長板14を透過した後、光センサ素子12によって反射され、再度1/4波長板14を透過した後、偏光ビームスプリッタ13を透過して出力される。この出力光2は、上述の光センサ素子12の反射特性と、光センサ素子12と偏光ビームスプリッタとの間に1/4波長板14を配置しており、光センサ素子12には円偏光が照射されることになるため、反射率変化方向での反射率の減少に対して出力光2の光強度が減少する関係となる(図7参照)。また、上述のように、反射率変化方向での反射率は、水蒸気濃度に依存して変化し、アルコール濃度には依存しない。
【0037】
光検出器15では、上記の出力光1と出力光2が合波されて光強度が検出される。そして、基準となる光強度から検出された光強度への減少量を濃度算出部16において求める。基準となる光強度は、たとえばアルコール濃度および水蒸気濃度が0の環境下で光検出器15により測定した光強度である。この減少量は、図7に示すように、出力光1の光強度の増加量と出力光2の光強度の減少量とを合わせた量であり、出力光1の光強度の増加量はアルコール濃度および水蒸気濃度の増減によるもの、出力光2の光強度の減少量は水蒸気濃度の増減のみによるものである。したがって、検出された光強度と光強度の基準値との差を求めることで、水蒸気濃度の影響が補正されたアルコール濃度を算出することができ、高精度に呼気中のアルコール濃度を測定することができる。
【0038】
なお、光センサ素子11と光センサ素子12とで、必ずしも水蒸気濃度による反射率変化方向での反射率の変化が等しくなるとは限らない。そこで、光センサ素子11、12の特性に合わせて、出力光1、2の光強度の反射率変化方向での反射率に対する特性を変化させ、適切な補正を行うことができる。具体的には、光センサ素子11、12や1/4波長板14の角度を回転させて変更することで特性を変化させることができる。図8は、光センサ素子12の角度を0°、15°、30°、45°と変化させた場合における、出力光2の光強度の反射率変化方向での反射率に対する特性を示した図である。光センサ素子12の角度を変えることで、光センサ素子12の金属ナノスリット素子102のストライプ方向と、s偏光との成す角度が変化するため、図8のように、出力光2の光強度の反射率特性を変化させることができる。
【0039】
以上のように、実施例1の光センサ装置によると、測定を阻害する水が存在する呼気中のアルコール濃度であっても、水の影響を補正して精度よくアルコール濃度を測定することができる。また、実施例1の光センサ装置は光検出器15を1つのみ備える構成であるため、光センサ装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0040】
なお、実施例1の光センサ装置では、1/4波長板14は偏光ビームスプリッタ13と光センサ素子12との間に配置したが、偏光ビームスプリッタ13と光センサ素子11との間に配置してもよい。また、実施例1の光センサ装置において、光センサ素子11と光センサ素子12の位置を逆にしてもよい。ようするに、出力光1、2の一方は、第1光センサ11あるいは第2光センサ12の反射率の減少に対して光強度が減少し、他方は、反射率の減少に対して光強度が増加するように、光センサ装置を構成すればよい。具体的には、光センサ素子11、12の少なくとも一方に反射率の偏光依存性を持たせたり、光センサ素子11、12の少なくとも一方と偏光ビームスプリッタ13との間に、1/4波長板などの複屈折素子を配置することで、このような構成とすることができる。
【実施例2】
【0041】
実施例2の光センサ装置は、図9に示すように、実施例1の光センサ装置において、光センサ素子11、12を、光センサ素子21、22に替えた構成である。光センサ素子21、22は、図10に示すように、光センサ素子11、12からガス感応膜103を除いて金属ナノスリット素子102のみとした構成である。金属ナノスリット素子102は、前述のように、表面にストライプ形状の凹凸が施された樹脂板100上に、そのストライプ形状に沿って金属膜101が形成されたものである。
【0042】
金属ナノスリット素子102である光センサ素子21、22に液体が接触すると、液体の屈折率に応じて反射率変化方向(金属ナノスリット素子102のストライプ方向に直交する方向)の反射率が変化する。ここで、光センサ素子21、22の反射率変化方向における反射特性が、以下のような特性となるよう金属ナノスリット素子102のストライプの幅、間隔、深さや、金属膜101の材料などを設計する。光センサ素子21は、液体の屈折率変化に対して敏感に反応して反射率変化方向の反射率が大きく変化する特性とする。また、光センサ素子22は、液体の屈折率変化に対して反応しない特性とする。また、光センサ素子21、22の反射率変化方向の反射率は、共に、光センサ素子21、22自体の温度によって変化する。
【0043】
このような構成とすれば、光センサ素子21によって反射され、偏光ビームスプリッタ13によって反射されて光検出器15側に出力される出力光1の光強度は、反射率変化方向の反射率減少に対して増加する。また、1/4波長板14を通して光センサ素子22によって反射され、再び1/4波長板14を透過し、さらに偏光ビームスプリッタ13を透過した出力光2の光強度は、反射率変化方向の反射率減少に対して減少する。
【0044】
基準となる光強度から光検出器15において検出された光強度への減少量を濃度算出部16において求めると、その減少量は、出力光1の光強度の増加量と出力光2の光強度の減少量とを合わせた量であり、出力光1の光強度の増加量は液体の屈折率および光センサ素子21の温度の変動によるもの、出力光2の光強度の減少量は光センサ素子22の温度の変動のみによるものである。
【0045】
したがって、検出された光強度と光強度の基準値との差を求めることで、光センサ素子21、22の温度の影響が補正された液体の屈折率を算出することができ、高精度に液体の屈折率を測定することができる。
【0046】
以上のように、実施例2の光センサ装置によると、光センサ素子21、22自体の温度による影響を補正して精度よく液体の屈折率を測定することができる。この高精度な液体の屈折率の測定は、たとえば自動車等の液体燃料の品質の検査などに応用することができる。
【0047】
なお、光センサ素子22として、金属ナノスリット素子102に替えて金属ミラーを用いてもよい。金属ミラーの反射率は温度に依存するため、出力光2の光強度を反射率減少に対して減少させることができるので、実施例2のように光センサ素子自体の温度による影響を補正して液体の屈折率を測定することができる。
【実施例3】
【0048】
実施例3の光センサ装置は、図11に示すように、実施例1の光センサ装置において、光センサ素子12を光センサ素子32に替えた構成であり、光センサ素子32は金属ミラーである。金属ミラーはガラス等の基板上にAgやAlなどの高反射な金属を蒸着させたものである。
【0049】
金属ミラーである光センサ素子32は、温度が上昇すると反射率が減少し、その反射率には偏光依存性がない。そのため、1/4波長板14を通して光センサ素子32によって反射され、再び1/4波長板14を透過し、さらに偏光ビームスプリッタ13を透過した出力光2の光強度は、温度変化による反射率減少に対して減少する。
【0050】
基準となる光強度から光検出器15において検出された光強度への減少量を濃度算出部16において求めると、その減少量は、出力光1の光強度の増加量と出力光2の光強度の減少量とを合わせた量である。出力光1の光強度の増加量は、実施例1の場合のような水蒸気濃度による影響を無視すれば、アルコール濃度および光センサ素子11の温度の変動によるものである。また、出力光2の光強度の減少量は光センサ素子32の温度の変動によるものである。
【0051】
したがって、検出された光強度と光強度の基準値との差を求めることで、光センサ素子11、32の温度の影響が補正されたアルコール濃度を算出することができ、高精度にアルコール濃度を測定することができる。
【0052】
なお、実施例1、3の光センサ装置は呼気中のアルコール濃度を測定するのに用いる装置であり、実施例2の光センサ装置は液体の屈折率を測定するのに用いる装置であったが、本発明はこれに限るものではなく、反射率に依存した対象物の物性を測定する装置として広く活用することができる。たとえば、対象物の温度を測定する用途にも本発明の光センサ装置を用いることができる。また、実施例1では阻害要素として水蒸気濃度を想定し、実施例2、3では光センサ素子の温度を想定したが、阻害要素はこれらに限るものではなく、対象物の物性測定に影響を及ぼすあらゆる要素であってよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の光センサ装置は、呼気中のアルコール濃度の測定装置や、自動車燃料の品質測定装置などに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10:光源
11、12、21、22、32:光センサ素子
13:偏光ビームスプリッタ
14:1/4波長板
15:光検出器
16:濃度算出部
100:樹脂板
101:金属膜
102:金属ナノスリット素子
103:ガス感応膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の物性を、光の反射率の変化によって測定する光センサ装置において、
対象物の物性と妨害要素とに反応して反射率が変化する第1光センサ素子と、
妨害要素に反応して反射率が変化し、対象物の物性に対しては反応しない第2光センサ素子と、
光源と、
前記光源からの光を透過・反射させて2つの偏光成分に分割し、それぞれを前記第1光センサ素子および前記第2光センサ素子によって反射させ、2つの反射光のうち、透過させて分割した方を反射させ、反射させて分割した方を透過させて、2つの反射光を合波し出力する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタにより合波された光の光強度を検出する光検出器と、
を有し、
前記第1光センサと前記第2光センサのうち一方の反射光は、反射率の減少に対して前記偏光ビームスプリッタから出力される光強度が減少し、他方の反射光は、反射率の減少に対して前記偏光ビームスプリッタから出力される光強度が増加するように、前記第1光センサ素子または前記第2光センサ素子に反射率の偏光依存性を持たせ、あるいは前記第1光センサ素子または第2光センサ素子と前記偏光ビームスプリッタとの間に複屈折素子を配置する、
ことを特徴とする光センサ装置。
【請求項2】
前記対象物の物性は、呼気中のアルコール濃度であり、
前記妨害要素は、呼気中の水蒸気濃度であり、
前記第1光センサ素子は、前記光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜と、前記金属膜上に形成され、アルコールおよび水に反応して厚さの変化する第1の高分子電解質累積膜と、を有し、
前記第2光センサ素子は、前記金属膜と、前記金属膜上に形成され、水に反応して厚さの変化する第2の高分子電解質累積膜と、を有し、
前記第1光センサ素子と前記第2光センサ素子の一方と、前記偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光センサ装置。
【請求項3】
前記対象物の物性は、液体の屈折率であり、
前記妨害要素は、前記第1光センサ素子および前記第2光センサ素子の温度であり、
前記第1光センサ素子および前記第2光センサ素子は、前記光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜であり、
前記第1光センサ素子と前記第2光センサ素子の一方と、前記偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光センサ装置。
【請求項4】
前記対象物の物性は、呼気中のアルコール濃度であり、
前記妨害要素は、前記第1光センサ素子および前記第2光センサ素子の温度であり、
前記第1光センサ素子は、前記光源の波長以下の間隔でストライプ状の凹凸が設けられた金属膜と、前記金属膜上に形成され、アルコールおよび水に反応して厚さの変化する高分子電解質累積膜と、を有し、
前記第2光センサ素子は、金属ミラーであり、
前記第2光センサ素子と、前記偏光ビームスプリッタとの間に、複屈折素子を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光センサ装置。
【請求項5】
前記複屈折素子は、1/4波長板である、ことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の光センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−122755(P2012−122755A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271529(P2010−271529)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】