光センサ
【解決手段】センシング層を有する導波路を備える光センサであって、センシング層は、センシングされる対象物体を受け入れて保持するよう分子インプリンティングされており、光センサは、対象物体がセンシング層に受け入れられて保持されている際に起こる導波路の光学特性の変化を検出するよう構成された検出装置をさらに備える光センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサ及び光センシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的相互作用を高感度且つリアルタイムで監視することができるセンサは、生命科学の研究と産業の両方において非常に重要である。分子間相互作用の結果として生物試料の屈折率(又は他の光学特性)の変化を監視する幾つかのセンサがある。試料の光学特性のこのような変化は、試料を通過する光の特性(強度等)の変化として測定されてもよい。
【0003】
典型的なセンサでは、光は、光導波路の導波モードにカップリングされる(coupled)。導波モードに関連したエバネッセント波は、例えば、ゲル中に保持されている、又は液体の形態である生物試料内へ広がる。一部のセンサにおいて、エバネッセント波が生物試料内へ広がる深さを調整する(tune)ことが可能である。この調整は、光が導波路にカップリングされる入射角を変更することによって行われる。生物試料に変化が生じた場合、生物試料の屈折率が変化する。この屈折率の変化は、導波モードに関連したエバネッセント波によって体験される(experienced)。従って、生物試料に生じた変化は、光導波路の導波モードから出力される光を監視することによって、観察される。
【0004】
水中の汚染物を検出することが望まれている。これは特に、超純水の場合であり、超純水は、例えば化学アッセイ又は静脈内注射に使用され得る。この場合、水は、細菌等の生物剤(biological agents)を含まない(free from)だけでなく、生物剤が生成するエンドトキシンも含むべきでない。
【0005】
水中の細菌を検出する幾つかの方法は、生きた細菌の作用(action)を検出するため、エンドトキシンに反応しない(insensitive)。これらの方法は、死んだ細菌又は壊れた(broken-down)細菌にも反応しない。また、細菌が最近存在していたことを示す酵素の作用を検出する方法もある。しかしながら、この方法が機能するには、酵素が変性されていてはならない。つまり、酵素は、活性が検出されるために、そのときでもまだ機能していなければならない。上記方法は両方とも、通常、更なる試薬を使用する必要がある。
【0006】
従来技術の方法を使用して、エンドトキシンを検出することはできる。しかしながら、エンドトキシンを検出するために使用される方法は、通常、条件を制御し、更なる試薬を使用する必要がある。そのような方法の1つは、カブトガニ(horseshoe crab)(アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus))の変形血液細胞(amoebocyte blood cells)を使用する。血液細胞は、細菌のエンドトキシンと接触させて置いた場合、非常に低いエンドトキシン濃度であっても、血塊(clots)を形成する。
【0007】
細菌及びエンドトキシンを検出する上記の方法は非効率的であり、状況によっては効果がない。さらに、これらは、汚染物について水を連続的に監視するのに適していない。
【0008】
上記した欠点の少なくとも1つを克服又は緩和することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1態様によれば、センシング層を有する導波路を備える光センサであって、センシング層は、センシングされる対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており(molecularly imprinted)、光センサは、対象物体がセンシング層に受け入れられて保持されている際に起こる導波路の光学特性の変化を検出するように構成された検出装置をさらに備える光センサが提供される。
【0010】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備えてよい。
【0011】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備えてよい。
【0012】
センシング層は、透過性であってよい。
【0013】
変化が検出される光学特性は、屈折率であってよい。
【0014】
対象物体は、リボヌクレアーゼのような、有機リン酸化合物又は生体分子であってよく、不活性であってよい。
【0015】
導波路は、漏れモード導波路(leaky mode waveguide)であってよい。
【0016】
導波路は、センシング層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料の層を備えてよい。材料の層は金属層であってよい。
【0017】
センシング層は、ポリマー層であってよい。ポリマーは、カーボンベース又はシリコンベースのポリマーであってよい。
【0018】
センサは、水浄化システムの一部である汚染検出器の一部を形成してよい。
【0019】
本発明の第2態様によれば、センシング層を有する導波路を備える光センサを用いた光センシング方法であって、センシング層は、対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、センサの一部を流体流路中に配置して、センシング層の少なくとも表面と接触するよう流体を流す工程と、センシング層が少なくとも一部の光を受けるように、導波路の導波モードに光をカップリングさせる工程と、導波路から出力された光の特性を監視する工程とを含み、前記特性は、対象物体が分子インプリンティング層に受け入れられて保持されると変化する方法が提供される。
【0020】
センシング層は、流れている流体に対して透過性であることで、センシング層内に流体を流し込んでよい。
【0021】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備えてよい。
【0022】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備えてよい。
【0023】
監視される出力光の特性は、光の強度及び/又は光が導波路から出力される角度であってよい。
【0024】
センシングされる物体は、リボヌクレアーゼであってよく、不活性であってよい。
【0025】
流体は、水であってよい。
【0026】
センシングされる物体は、汚染物、又は汚染物の生成物であってよい。
【0027】
本発明の種々の態様の他の好ましく有利な特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の具体的な実施形態は、添付の図面を参照して、例示の目的でのみ説明するものである。
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る光センサの模式的な断面図である。
【図2】図2は、図1に示す光センサの導波路の模式的な断面図である。
【図3】図3は、図1に示す光センサの導波路の模式的な断面図である。
【図4】図4(a)、図4(b)及び図4(c)は、本発明に係る分子インプリンティングポリマーを生成するために使用したプロセスの説明図である。
【図5】図5は、図4(a)乃至図4(c)に示すプロセスによって生成された分子ポリマーのキャビティによって、対象物体が受け入れられるプロセスの説明図である。
【図6】図6は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第1の一般的スキームを示すグラフである。
【図7】図7は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第2の一般的スキームを示すグラフである。
【図8】図8は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第3の一般的スキームを示すグラフである。
【図9】図9は、2つの別個の導波路について、導波路が曝された対象物体の濃度の関数として、ピークピクセルの位置と、ベースラインピクセルの位置との差を示すグラフであり、一方の導波路は、本発明の実施形態による分子インプリンティングポリマーセンシング層を含み、他方の導波路は、分子インプリンティングポリマーセンシングされていない層を含む。
【図10】図10は、対象物体の曝露(exposure)の濃度の関数として、本発明による分子インプリンティングポリマーセンシング層を含む導波路を用いたピークピクセルの位置と、分子インプリンティングポリマーセンシングされていない層を有する導波路を用いたピークピクセルの位置との差を示すグラフである。
【図11】図11は、図2及び図3に示す光センサの導波路の模式的な断面図と、対応する屈折率のグラフである。
【図12】図12は、光センサの別の導波路の模式的な断面図と、対応する屈折率のグラフである。
【図13】図13は、本発明による光センサの一部を形成してよい幾つかの導波路の第1応答を示すグラフであり、各導波路は、異なるパラメータを使用してスピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する。
【図14】図14は、図13の導波路の第2応答を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明に係る光センサの一部を形成してよい導波路の、幾つかの状態での最初の応答を示すグラフである。
【図16】図16は、図15の導波路の、前記幾つかの状態での2番目の応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照すると、光センサ(10)は、プリズム(14)に配置された導波路(12)を備えている。光源(16)からの光は、コリメートレンズ(18)、開口絞り(20)、第1偏光子(22)、第1収束レンズ(24)及びプリズム(14)を介して、導波路(12)に向けられる。偏光子(22)は、光の適切な偏光を選択するために使用される。光はプリズムを介して導波路に入り、プリズムは光を導波路にカップリングさせる。その後、光の一部が導波路(12)から漏れ出して、プリズム(14)を通過する。光は、プリズム(14)から、第2収束レンズ(26)、第1偏光子(22)に対して交差する(cross)第2偏光子(28)を介して、検出器(30)内に伝播する。検出器(30)は、フォトダイオード又はCCDアレイ等の光強度検出器である。任意の適切な放射検出器を使用してよい。一部の実施形態において、第2偏光子(28)を省略してよい。
【0030】
図2は、導波路(12)の一部分をさらに詳細に示している。導波路(12)は、金属層(38)上にセンシング層(34)を備えている。導波路(12)は、流体(31)が流れる流路(32)と流体連通している(流れを矢印Aで示す)。金属層(38)は基板(substrate)(36)上に設けられている。基板は、例えば石英から形成されてよく、プリズム(14)に結合されてよい(図1参照)。プリズム(14)は、光を導波路(12)にカップリングさせるために、及び光を導波路(12)からカップリングアウト(couple out)するために使用されてよい。一部の実施形態において、金属層(38)は20nmの厚さを有する。しかしながら、適切な任意の厚さの金属層(38)を使用してよい。金属層(38)の厚さは、例えば、0.5nmと200nmの間であってよい。
【0031】
センシング層(34)はポリマー層であり、例えば、カーボンベース又はシリコンベースであってよい。シリコンベースのポリマーの利点は、類似のカーボンベースのものと比べて、空気の存在下で生成できることである。カーボンベースのポリマーは、空気中の酸素と反応するので、空気の存在下で生成することはあり得ない。特に、カーボンベースのポリマーがフリーラジカル重合プロセスによって形成される場合、酸素がフリーラジカルと反応する。シリコンベースのポリマーは、例えば、線状シロキサン(linear siloxane)又は格子状ゾルゲル(lattice-like sol-gel)を含んでよい。
【0032】
センシング層(34)が機能する態様を理解するためには、センシング層が作られる方法を初めに考察するのがよい。ポリマー層は、流体状態の間に(即ち、硬化する前に)、金属層(38)上にスピンコートされる。スピンコーティングの間、流体ポリマー混合物の表面張力により、センシング層(34)の表面(40)は、ほぼ平坦であることが確保される。このことは、使用中に導波路(12)から戻される信号のノイズ又は損失を最小限にすることに役立つ(ノイズ又は損失は、センシング層の表面の不完全性(surface imperfections)に起因する散乱によって引き起こされる)。スピンコーティング法に代わる方法を使用して、ポリマー層を金属層(38)に塗布してもよい。このような代替方法として、ディップコーティング、スプレーコーティング、及びスクリーンプリンティングが含まれる。
【0033】
図4(a)乃至図4(c)は、形成中のセンシング層(34)において起こる分子インプリンティングプロセスを模式的に示している。第1段階では、図4(a)に示すように、センシングされる物体(entities)に類似した構造又は同一の構造の物体が、モノマー混合物及び溶媒と混合される。混合物は流体状態である。モノマー混合物は、少なくとも一種の官能性モノマーを含み、少なくとも一種の架橋性モノマー(crosslink monomer)を含んでよい。モノマー混合物内の官能性モノマーの目的は、以下で詳解するように、架橋性モノマーの目的とは異なる。モノマー混合物と混合される物体を、ここではテンプレート物体(42)という。モノマー混合物の成分の適切な質量比率は、テンプレート物体:官能性モノマー:架橋性モノマーが1:4:20であること、そして、モノマー混合物対溶媒の適切な質量比率は、3:4であることが分かっている。しかしながら、モノマー混合物及び溶媒の成分について、他の任意の適切な比率が使用されてよいことは、当業者によって当然理解されるであろう。
【0034】
前述のように、モノマー混合物は官能性モノマー(44)を含み、各官能性モノマー(44)は官能基(46)を含む。モノマー混合物は、複数タイプの官能性モノマーを含んでよい。官能性モノマーは、タイプ毎に異なる官能基(46)を有する(これらは図4(a)において異なった形状で模式的に表されている)。官能基(46)は、テンプレート物体(42)の官能基(48)と相補的である。テンプレート物体の3つのタイプの官能基(48)が図4(a)に示されているが、テンプレート物体の官能器のタイプの数は、任意であってよい。
【0035】
モノマーの官能基(46)は、テンプレート物体(42)の存在下で、以下の何れかの種類の可逆的相互作用によって、対応するテンプレート物体の官能基(48)と相互に作用してよい:(a)可逆的共有結合、(b)共有的に付着される重合可能な結合グループ(binding groups)であって、テンプレートの裂開(cleavage)によって非共有の相互作用が活性化される結合グループ、(c)静電相互作用(electrostatic interactions)、(d)疎水性相互作用又はファンデルワールス相互作用(水素結合等)、(e)金属を中心とする配位(co-ordination)、(f)共結合(co-bonding)(共有結合及び非共有結合を含む)、及び(g)半共有結合(semi-covalent bonding)(形成される最初の結合が共有的であり、その後の結合が非共有的である場合)、である。
【0036】
モノマー(44)の官能基(46)は、テンプレート物体(42)の対応する官能基(48)と相互に作用し、複数のモノマー(44)をテンプレート物体(42)の周りに配置する(図4(a)に示す)。
【0037】
モノマー(44)は、例えば、アミノ基及び/又はカルボン酸官能基を有してよい。有り得る官能性モノマーは、タイプによって分類されることができ、アクリル、アルコール、飽和アルキン、アミン、アリール基、カルボン酸、エステル又はエーテルがある。また、特性によって分類されることができ、酸性(即ち、メタクリル酸)、中性(即ち、スチレン)又は塩基性(即ち、4-ビニルピリジン)がある。以下は、幾つかの典型的な官能性モノマーのリストであり、分子インプリンティングポリマー(molecularly imprinted polymer)のマトリックスを作製する際の使用に適している:アクリレート(アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MMA)、トリフルオロメチルアクリル酸(TFMAA)、メチレン-2-コハク酸(MSA)、N,N'-ジメチルアミノ-エチルメタクリレート(DMA))、アクリルアミド(アクリルアミド(AAm)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPSA)、N-(2-アミノエチル)-メタクリルアミド(2AEMA)ジエチルアミノエチルメタクリレート(DAEMA))、スチレン(4-ビニル安息香酸(4VBA)、2-(4-ビニルフェニル)-1,3-プロパンジオール(4ES)、(4-ビニルフェニル(-メチルアミンN,N'アセト酢酸(VPMADA)、N,N'-ジエチル-(4-ビニルフェニル)アミジン(D4VPA)、4-(1,4,7-トリアザシクロノナン-メチル)スチレン(4TCMS)、4-ビニルフェニルホウ酸(VPBA))、ピリジン及びイミダゾール(4-ビニルピリジン(4VP)、2-ビニルピリジン(2VP)、1-ビニルイミダゾール(1VI)、4-ビニルイミダゾール(4VI))である。
【0038】
前述のように、モノマー混合物はまた、少なくとも一種の架橋性モノマーを含んでよい。架橋性モノマーは、ポリマーマトリックスが形成されるときに、ポリマーマトリックス中の任意の歪み(distortion)を防止するのに役立ち、これによって、インプリンティングプロセス中に形成される任意の構造の形状を維持するのに役立つ。適切な分子インプリンティングポリマーのマトリックスを生成する際に使用され得る典型的な架橋性ポリマーには、以下がある:エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、p-ジビニルベンゼン(DVB)、N,N'-エチレンビス(プロプ−2−エンアミド)(N,N'-ethylenebis(prop-2-eneamide))(EPEA)、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、p,p'-ジイソシアナトジフェニルメタン)(DIDM)、ビスアクリロイルピペラジン(BAP)、及びN,N'-メチレンジアクリルアミド(メチレンビスアクリルアミド)。
【0039】
溶媒は、ポロゲン(porogen)としても知られており、モノマー混合物の成分を全て溶解してよい。溶媒の役割の1つは、作製したポリマー内に細孔を生成することである。このため、溶媒は、得られるポリマーの構造に影響を与える。例えば、溶媒としてのアセトニトリルは、アクリレートネットワーク(acryalate networks)において、クロロホルムよりもマクロ透過性の(macro-porous)構造をもたらす。適切な溶媒は、以下を含んでよい:トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、酢酸、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド及び水である。これらは個別に、又は互いに組み合わせて使用されることができる。
【0040】
本発明のある実施形態では、モノマー混合物に追加の添加剤を含めることが望ましい。例えば、得られるポリマーのガラス転移温度を下げて内部の粘度を下げることにより、そのバルク柔軟性を高めるために、可塑剤が含まれてよい。
【0041】
次の段階では、図4(b)に示すように、モノマー混合物(44)は、テンプレート物体(42)と原位置(in situ)で重合及び架橋される。これにより、固形化したポリマーマトリックス(50)が形成される。ポリマーマトリックス(50)は複数のキャビティ(52)を含んでおり、キャビティ(52)は、テンプレート物体(42)を、故に、センシングされる物体を受け入れることが可能な大きさ及び構造である。使用されてよい重合プロセスの例は、フリーラジカル重合である。しかしながら、当業者によって当然理解されるように、適切な任意の重合プロセスが使用されてよい。
【0042】
フリーラジカル重合の場合、重合は、開始化合物の添加により開始され、開始化合物は、特定の条件下でフリーラジカルを生じる。必要な条件は、例えば、温度変化、又は開始剤に照射した結果としての光化学変化であってよい。開始剤が照射による光化学反応に関与する場合、その開始剤は光開始剤として知られる。ある場合には、条件の変化により、開始剤の単分子結合の切断が生じて、フリーラジカルが生成される。他の場合には、開始剤は、開始剤の励起状態が第2分子(共開始剤(co-initiator))と相互に作用してフリーラジカルを生成する生体分子反応に関与する。熱フリーラジカル開始剤の例は、アルファ,アルファ'-アゾイソブチロニトリル(AIBN)であり、光開始剤の例は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)である。
【0043】
フリーラジカル開始剤の範囲は広く、適切な任意の開始剤を使用することができる。開始剤の選択は、多くの要因に依存し得る。この要因は、特定の溶媒における開始剤の溶解性、又は開始剤の分解プロセスを含む。分解プロセスは、モノマー(44)をテンプレート物体(42)と混合する温度に近い温度に敏感である場合、特に関係する。例えば、開始剤の分解プロセスが、低すぎる活性化エネルギーを有する場合、モノマーがテンプレート物体と相互に作用する前に、早過ぎる(premature)フリーラジカル生成と、それによる重合が生じる可能性がある。早過ぎる重合は、キャビティ(52)が正しく形成されず、ポリマーがテンプレート物体(42)によりインプリンティングされないことになるので望ましくない。これにより、センシングされるべき物体を受け入れることができないキャビティ(52)がもたらされる可能性がある。
【0044】
開始剤としては、弱い結合を有し、結合が壊された場合にフリーラジカルを生成するものが選ばれてよい(用語「弱い結合」は、テンプレート物体(42)とモノマー(44)の間の結合(又は他の相互作用)よりも弱い結合を意味するものとして解釈されるべきである)。これが実現されると、フリーラジカルを生成することによって重合を開始するのに使用されるエネルギーは、モノマー(44)とテンプレート物体(42)の間の如何なる結合(又は他の相互作用)も壊さない。
【0045】
当業者によって当然理解されるように、使用され得る多くのフリーラジカルの種類がある。フリーラジカルが開始剤によって生成されると、重合プロセスは従来の態様で進行する。フリーラジカルは、(一部のモノマーから電子を除去することにより)一部のモノマーをラジカルに変え、これが他のモノマーと結合することができ、より大きい鎖のラジカルが生成される。これらが次々に、カスケード式に、他のモノマー、鎖ラジカル等とさらに反応してよい。カスケード式の反応は、多くの方法で終了されてよい。そのうちの最も一般的なものは、2つのラジカルを互いに反応させるものである。フリーラジカル重合の化学的性質は、当該技術分野においてよく知られているので、さらなる詳細は明細書中に含まれていない。
【0046】
上記の説明は、分子インプリンティングポリマーを生成する際の有機モノマーの使用に関する。前述のように、無機モノマー(例えばシリコンアルコキシドモノマー)を用いてポリマーを生成することも可能である。このような適切なモノマーには、以下がある:テトラエトキシシラン(TEOS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MEMO/TMSM)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTMS)、ビニルトリエトキシシラン(VTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(TMPS)、エチルトリメトキシシラン(ETMOS)、及びブチルトリメトキシシラン(BTMOS)。これらモノマーによって生成されたポリマーは、ゾルゲルと呼ばれる。モノマー混合物に使用される溶媒(通常は水)のpH及び容積を制御することによって、得られるゾルゲルの透過性(porosity)に影響を与えることができることが分かった。例えば、水を高容積含み高pHであるモノマー混合物を使用すると、より透過性の材料が生成される。使用されてよいモノマー混合物(及び各モノマー量の比率)の例は、以下の通りである:TEOS:H2O:エタノール(1:4:4)、及びTEOS:APTES:PTMOS(30:1:1.5)である。
【0047】
ゾルゲルを生成するために、モノマー混合物に加水分解反応及び縮合反応を施す。加水分解反応の一部として触媒が使用されてよい。使用される触媒の種類が、得られるゾルゲルの構造に影響を与える可能性がある。例えば、HFをHCLの代わりに触媒として使用すると、ゲル化時間をより速め、及び/又は、得られるゾルゲルにおいて細孔をより大きくする。
【0048】
適切な任意の溶媒が、モノマー混合物に使用されてよい。適切な溶媒は、以下がある:水、n-ヘプタン、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール(MeOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)、エトキシエタノール、エタノール、ドデシルベンゼン、アセトニトリル、アセトン及びジクロロメタン。
【0049】
ゾルゲルが生成されると、乾燥させなければならない。乾燥が収縮(shrinkage)を引き起こし得るため、乾燥プロセスは、最終的なゾルゲルの構造に影響を及ぼす可能性がある。収縮がある場合、対象物体を受け入れるゾルゲルの能力に影響を及ぼす可能性がある。種々の添加剤をモノマー混合物に添加して、乾燥速度を制御し、これによって大きな収縮が乾燥中に起こる可能性を下げてよい。これら添加剤は、乾燥制御化学添加剤(Drying Control Chemical Additives)(DCCAs)として一般的に知られており、例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル又はシュウ酸であってよい。界面活性剤が使用されてもよい。乾燥は、制御された圧力環境下で行われてよい。
【0050】
有機ポリマーと無機ポリマーの両方に共通する最終段階が、図4(c)に示されている。この最終段階では、テンプレート物体(42)は、ポリマーマトリックス(50)から(例えば洗い流し(rinsing)によって)除去される。これは様々な方法で行われてよい。例えば、溶媒を使用して、ポリマー(50)を膨張させ、キャビティ(52)の大きさを大きくし、テンプレート物体(42)を洗い出すことができる。乾燥すると(溶媒をポリマー(50)から除去すると)、キャビティ(52)は元の大きさ(即ち、ポリマーが溶媒によって膨張する前の大きさ)に戻ってよい。或いはまた、テンプレート物体(42)を分解して洗い出してよい。蛋白質タイプの対象物体(42)を分解するのに適した試薬はプロテアーゼであってよい。ポリマーの構造を損なわない強酸を使用して、対象物体(42)を分解することができる。機能することが分かっているこのタイプの試薬の1つは、酢酸とメタノールの比率が1:9の混合物であり、ポリマーマトリックス(50)を2時間浸すことができる。
【0051】
ポリマーマトリックス(50)からテンプレート物体(42)を除去するために使用されてよい他の方法は、以下の工程を含む:テンプレート物体(42)の少なくとも1つの官能基を、ポリマーよりもよく奪う(compete)流体でポリマー(50)を洗浄する工程;テンプレート物体(42)とポリマーマトリックス(50)の結合を切断する試薬にポリマー(50)を曝す工程;及びテンプレート物体(42)とポリマーマトリックス(50)の結合を壊わす試薬にポリマー(50)を曝す工程、である。
【0052】
シリコンベースのポリマーは、類似のカーボンベースのポリマーよりも硬く、透過性が低く、弾性が低く、そして可撓性が低くなりがちである。この理由のため、テンプレート物体(42)を洗い出すことは、カーボンベースのポリマーからよりも、シリコンベースのポリマーからの方が困難である。しかしながら、ポリマーからテンプレート物体(42)を洗い流すことができる程度の可撓性がポリマーに存在するように、シリコンベースのポリマーを形成するために使用される鎖の長さを選択してよい。
【0053】
テンプレート物体がポリマーマトリックス(50)から除去された後、ポリマーマトリックスは(例えば、真空下の室温で)乾燥されてよい。
【0054】
テンプレート物体(42)が除去された後、ポリマー(50)は、複数のキャビティ(52)と共に残され、キャビティ(52)は、センシングされる物体の官能基の形状及び配置と相補的な官能基(46)の配置を含む。各キャビティ(52)とそれに対応する官能基(46)を、以降、受入部位(reception site)(54)という。
【0055】
分子インプリンティングプロセス、特にモノマーの混合及び重合を、低い温度で実施してよく、官能性モノマー(44)とテンプレート物体(42)の間で相互作用が起こると、それらを反転する熱エネルギーは殆ど又は全くない。これら相互作用の反転は、対象物体(56)を選択的に受け入れることがあまりできない受入部位(54)を形成するので、望ましくない。この理由のために、重合は、例えば、温度上昇を利用する代わりに、UV光を利用して開始されてよい。
【0056】
以下は、分子インプリンティングポリマーセンシング層を作製するための手法の具体例である:
以下の各実施例では、金属層(38)を、ポリマーセンシング層を形成する前にクリーニングする。クリーニングは多段階のプロセスであり、基板(36)及び金属層(38)を、異なる溶液を含む槽中で夫々30分間、順番に洗浄する。使用する溶液の順序は、水溶液中2容積%の中性クリーナー(SODOSIL(登録商標)等)、脱イオン水、イソプロパノール、脱イオン水、エタノール、超音波槽中の脱イオン水、水酸化ナトリウム、脱イオン水、1M塩酸、そして最後に脱イオン水である。その後、基板(36)を窒素雰囲気下で乾燥する。
【0057】
<実施例1>
スタンプ基板(stamp substrate)(図示せず)を上記の方法に従ってクリーニングする。その後、スタンプ基板を、テンプレート物体(42)を含む溶液中でインキュベートする。本実施例では、テンプレート物体はRNase Aである。RNase溶液は、0.05mg/mlのRNase Aを含むリン酸緩衝生理食塩水である。スタンプ基板をRNase溶液に室温で2時間曝す。その後、コーティングされたスタンプ基板を、窒素雰囲気中で乾燥する。一部の実施形態では、RNaseでコーティングされたスタンプ基板をその後、保護糖層(protective sugar layer)でさらにコーティングしてよい。この目的に適した糖は二糖類であり、二糖類の1M溶液を、例えば、RNaseを覆うようにスピンコーティングすることができる。保護糖層は、RNaseの形状を維持するのに役立つので、得られるあらゆる分子インプリンティングポリマーの構造を改善する。
【0058】
架橋性モノマーEGDMA、TEGDMA PEG400DMA及び/又はPEG600DMAが、官能性モノマー4VP、MMA及び/又はSMと混合されているモノマー混合物を生成する。光開始剤DMPAをモノマー混合物に約0.5重量%になるよう添加した。モノマー溶液4μlを、適切にクリーニングされた表面(例えば、上述した方法に従ってクリーニングしたスライドガラスの表面)上にピペットで移す。その後、コーティングされたスタンプ基板を、初めに、気泡が入らないように小さな角度(15°未満)で、モノマー混合物と接触させ、続いて平坦にする。このようにして、モノマー混合物を、スタンプ基板上にコーティングされている対象物体と組み合わせる。その後、スライドガラス、モノマー混合物及びスタンプ基板をスピンコーティング機に入れ、最大約8500rpmの速度で回転させて、モノマー混合物の非常に平坦な表面を生成する。スライドガラスへのモノマー混合物のスピンコーティングは、窒素雰囲気中で行う。その後、スタンプ基板とスライドガラス上にコーティングされたモノマー混合物とを、75mW/cm2の強度の紫外線光源(UV Aはフィルタにかける)下に10分間曝してモノマー混合物を重合させ、分子インプリンティングポリマー層を生成する。重合後、スライドガラスを取り外す。その後、分子インプリンティングポリマー層を、適切な屈折率に合わせた接着剤を用いて、基板(36)上の金属層(38)に取り付ける。その後、スタンプ基板を取り外し、インプリント表面を露出させる。或いはまた、一部の実施形態では、分子インプリンティングポリマー層を金属フィルムでコーティングし、その後基板(36)を、適切な屈折率に合わせた接着剤を用いて、この金属フィルムに取り付ける。これを行う場合、金属フィルムは、金属層(38)を構成する。さらなる代替法として、モノマー混合物を、基板(36)上の金属層(38)上に直接ピペットで移してよい。この場合、スタンプ基板を、金属層(38)上のモノマー混合物と接触させ、モノマー混合物を、基板の金属層上にスピンコーティングし、その後、前述のように重合させる。重合が完了すると、スタンプ基板を取り外して、分子インプリンティングポリマー層を原位置で基板(36)上の金属層(38)上に残すことができる。
【0059】
RNaseテンプレート物体を除去するために、0.8%水酸化ナトリウム及び2%ドデシル硫酸ナトリウムの溶出水溶液を用いる。ポリマーを80°Cの溶出液50mlで30分間洗浄する。これが完了すると、ポリマーを脱イオン水中で5分間、3回洗浄することで安定化させる。これにより、分子インプリンティングポリマー層の作製が完了する。センシング層を直ちに使用しない場合、リン酸緩衝生理食塩水中で保存してよい。
【0060】
<実施例2>
別の実施例では、RNase A分子インプリンティングポリマー層を無機ポリマーとして形成する。ポリシロキサン層(足場(scaffold)といってよい)を、2ステッププロセスで作製して、基板(36)上の金属層(38)上にコーティングする。まず、前加水分解(pre-hydrolysis)溶液(TEOS(架橋性モノマー)1.32ml、脱イオン水(溶媒)0.235ml、0.1M HCl(触媒)0.33ml、及び無水エタノール(共溶媒)0.4mlを含む)を混合する。前加水分解溶液を室温で24時間静置する。その後、前加水分解混合物を、溶液(c-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)(官能性モノマー)0.33ml及び0.1Mドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(マクロ透過性をもたらすために使用される発泡剤)1mlを含む)と混合する。得られた混合物を攪拌して、シラン成分を混合すると共に、ゾルを泡立てる。混合物を(例えば、実施例1に記載のように)対象物体と組み合わせて、スライドガラス又は金属層上にコーティングした後、ゲル化を起こさせる。その後、ポリマーを室温で24時間時効し、40°Cで48時間乾燥させる。全ての試料をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で徹底的に洗浄し、破片(debris)を除去する。センシング層を直ちに使用しない場合、暗所で保存してよい(これにより、センシング層の作用寿命(operational longevity)が延びることが見出されている)。
【0061】
<実施例3>
さらに別の実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、カフェインで分子インプリンティングされる有機ポリマーである。モノマー混合物(カフェイン(テンプレート物体)0.03g、メタクリル酸(MMA)(官能性モノマー)0.54g、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)(架橋性モノマー)5.64g、DMPA(光開始剤)0.1g、及びクロロホルム(ポロジェニック(porogenic)溶媒)1ml乃至20mlを含む)を生成する。その後、モノマー混合物を少なくとも48時間静置する。その後、混合物を音波処理槽(sonicating bath)中で30分間脱気し、窒素で5分間フラッシュする(flush)。
【0062】
モノマー混合物をテンプレート混合物と直接混合するので、スタンプ基板を使用する必要はない(とはいえ、この方法も機能するだろう)。代わりに、モノマー混合物200μlを基板(36)上の金属層(38)上に3600rpmで1分間スピンコーティングする。モノマー混合物をスピンコーティングしながら、360nmにてUV照射し、重合プロセスを開始する。
【0063】
ポリマー層が形成された後、メタノールと酢酸が4:1の容積比率である混合物を使用して、テンプレート物体を除去し、この混合物でポリマーを最大24時間洗浄する。テンプレート物体をポリマー層から洗い出すのにかかる時間は、ポリマー層の厚さに依存する。層が薄い程、テンプレート物体を洗い出すのにかかる時間は短くなる。例えば、本実施例で生成したポリマー層は、10分間の洗浄が必要である。テンプレート物体を除去する別の方法では、個別の溶媒(酢酸、アセトニトリル、リン酸、メタノール、エタノール、及びテトラヒドロフラン等)で順番に洗浄する。必要に応じて、最後にポリマーの表面を緩衝液又は蒸留水で洗浄してよい。
【0064】
本実施例では、分子インプリンティングポリマー内でカフェインに官能基結合するのは(functional binding)、MMAのカルボキシル基の水素原子が、カフェインのカルボニル基の酸素原子と水素結合を形成することに主に由来する。しかし、他の静電気力及び疎水性π-π相互作用が寄与してもよい。
【0065】
<実施例4>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、無機カフェインインプリンティングポリマーである。これを、モノマー混合物(塩酸を加えてpHを1.2にした水(溶媒)7.2g、TEOS(モノマー)20.8g、及びエタノール(共溶媒)14.4gを含む)を生成することによって作製する。モノマー混合物をカフェインと混合し、24時間撹拌して反応を起こさせた。モノマー混合物をテンプレート混合物と直接混合するので、スタンプ基板を使用する必要はない(とはいえ、この方法も機能するだろう)。代わりに、カフェインテンプレート物体を含むモノマー混合物の一部を、基板(36)上の金属層(38)上にスピンコーティングする。その後、ポリマーを、密閉したオーブン中で24時間60°Cで乾燥させる。乾燥後、室温で少なくとも12時間、ポリマーを静置して、安定化させる。
【0066】
得られるポリマーの性能は、モノマー混合物が酸性である(pH1−6)場合に向上することが分かった。得られるポリマー内へのカフェインの受け入れは、溶媒の極性が高まるともに低下することが分かった。これは、極性のある添加剤が、モノマー混合物内のテンプレート物体と官能性モノマーとの水素結合相互作用に干渉することができるためであると考えられる。
【0067】
ポリマーが形成された後、ポリマーをエタノール中で洗浄することで、テンプレート物体を溶出する。或いはまた、テンプレート物体を600°Cのか焼(calcination)によっ
て除去してよい。乳酸で洗浄することで(これによりシリカ網(silica network)が緩むと考えられる)、インプリンティングポリマーの透過性を改善してよい。
【0068】
<実施例5>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、パラオクソンインプリンティングゾルゲルである。モノマー混合物を以下のように生成する:TEOS(モノマー)3ml(13.5mmolに相当)を、PTMOS(モノマー)200μl(1.2mmolに相当)及びエタノール(共溶媒)3mlと、澄明になるまで混合する。その後、濃塩酸100μlを加えて混合物を酸性にする。その後、APTES(モノマー)200μl(0.9mmolに相当)を、水(共溶媒)1mlと共に加える。混合物を音波処理槽中で最大30分間脱気し、その後窒素で5分間フラッシュする。その後、モノマー混合物2mlを、パラオクソンのエタノール溶液200μl(0.02mmolに相当)と混合する。混合物を24時間静置する。次に、反応したモノマー混合物30μlを、基板(36)上の金属層(38)上に、4000rpmで20秒間スピンコーティングする。これにより、厚さ534+/−6nmのポリマーフィルムが生成されることが分かった。その後、コーティングされた基板を室温で24時間乾燥させる。パラオクソンを、インプリンティングゾルゲルからソックスレー抽出器を用いてエタノールで抽出する。
【0069】
<実施例6>
類似のパラオクソンインプリンティングゾルゲルを、モノマー混合物を使用して以下のように生成することができる:TMOS(モノマー)3ml(20.3mmolに相当)を、2-エトキシエタノール(共溶媒)3ml、PTMOS(モノマー)370μl(2.2mmolに相当)、及びTMOS−CTAC(モノマー)420μl(0.6mmolに相当)と、澄明になるまで混合する。その後、0.1M塩酸1ml及び水(共溶媒)1mlを加える。その後、混合物を2時間室温で攪拌し、音波処理槽中で最大30分間脱気し、その後窒素で5分間フラッシュする。次いで、モノマー混合物2mlを、パラオクソンの0.1Mエタノール溶液200μlと混合する。次いで、反応したモノマー混合物30μlを、基板(36)上のクリーニングした金属層(38)上に、4000rpmで20秒間スピンコーティングする。これにより、厚さ534+/−6nmのポリマーフィルムが生成されることが分かった。その後、コーティングされた基板を室温で24時間乾燥させる。この場合も、パラオクソンを、インプリンティングゾルゲルからソックスレー抽出器によりエタノールで抽出する。
TEOSベースのゾルゲルは、酸性の加水分解条件下で、TMOSベースのゾルゲルよりゆっくりと加水分解することが分かった。
【0070】
<実施例7>
パラオクソンインプリンティングゾルゲルを生成するさらに別の方法は、以下の物質からなるモノマー混合物を使用するものである:TMOS:PhTMOS:APTES:エタノール:塩酸:水(モル比1:0.1:0.1:4:0.003:4)である。パラオクソンのエタノール溶液を添加した後、反応したモノマー混合物を、基板(36)上の金属層(38)上に、4000rpmで20−60秒間スピンコーティングする。ゾルゲルが乾燥した後、テンプレートパラオクソン分子をエタノール中に抽出する。或いはまた、これらを50容積%メタノール水溶液(1.0M水酸化カリウムを含む)で最大24時間洗浄することにより抽出してよい。
【0071】
<実施例8>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、コレステロールインプリンティング有機ポリマーである。本方法は、他の有機ポリマーについて上記説明したものとほとんんど同じである。モノマー混合物は以下を含む:コレステロール(テンプレート)0.387g、メタクリル酸MMA(官能性モノマー)0.682ml、EGDMA(架橋性モノマー)4.72ml、AIBN(熱開始剤)又はDMPA(UV開始剤)0.05g、及びクロロホルム(溶媒)7.5mlである。別の溶媒(エタノール、トルエン、ヘプタン又はヘキサン等)を使用してよい。コレステロール溶媒の混合は、例えば最大60°Cで行ってよい(これによりコレステロールは完全に溶解する)。使用してよい別の官能性モノマーには、4-ビニルピリジン、スチレン及びシクロデキストリンがある。使用してよい別の架橋性モノマーには、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパン及びトリメタクリレートがある。重合後、クロロホルムを除去し、ポリマーを真空オーブン内にて12時間室温で乾燥させる。
【0072】
<実施例9>
コレステロールインプリンティングゾルゲルを、以下のモノマー混合物により作製してよい:TEOS(200mmolに相当)41.7g及び無水酢酸(400mmolに相当)40.8gを、140°Cで12時間混合した後に、コレステロール7.73g(20mmolに相当)を加えたもの。これら成分を最大2日間混合し、その後最大60°Cで乾燥させる。
【0073】
<実施例10>
或いはまた、コレステロールインプリンティングゾルゲルを、以下のモノマー混合物により作製してよい:TEOS(50mmolに相当)10.4g、THF50ml、蒸留水9ml及び触媒としてのアンモニア水溶液(25重量%)0.01mlに続いて、コレステロール1.93g(5mmolに相当)を加えたもの。
【0074】
容積比率が1:1の酢酸及びテトラヒドロフランの混合物、又は容積比率が4:1のクロロホルム及び酢酸の混合物でポリマーを洗浄することで、無機コレステロールインプリンティングポリマーから、テンプレート物体を除去してよい。テンプレートの除去に使用してよい別の物質には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、メタノール、酢酸、アセトン及びエタノールがある。
【0075】
図2を再び参照すると、シランを使用して、インプリンティングポリマー層(34)を金属層(38)に接着するのを補助してよい。例えば、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS)を使用して、金属とポリマーを(又はガラスとポリマーを)接着するの補助する。他のシラン(ビニルトリメトキシシラン(VTS)等)は、得られたポリマーの耐腐食特性を促進する。シランを付与する方法は、ごく一部を適切な溶媒に、例えば95容積%エタノール及び5容積%水の混合物に添加するステップを含む。その後、この混合物をモノマー混合物に加えることができる。別の方法は、別の生成ステップを含んでおり、シラン層は、金属層(38)上に独立して付与される。その後、分子インプリンティングポリマーをシラン層上にコーティングする。
【0076】
分子インプリンティングポリマーが形成されると、それは、センシング層として使用され得る。図5は、分子インプリンティングポリマー(50)のキャビティ(52)が、対象物体を受け入れて保持する模様を示している。キャビティ(52)とそれに対応する官能基(46)とを合わせて、本明細書では受入部位(54)という。対象物体(56)(即ち、センシングされる物体)は、受入部位(54)に収まり、さらに、種類及び相対的な位置の両方の面で、受入部位(54)の官能基と相補的な官能基(57)を有している。受入部位に組み合わされるのに必要な形状を有していない他の物体は、キャビティに受け入れられず、保持されない(物体は、キャビティを通過するか、キャビティに入らない)。
【0077】
各受入部位(54)が必ずしも同一であるとは限らない。受入部位(54)が形成されるプロセスにおいて(図4(a)を参照)、モノマー(44)は自身をテンプレート物体(42)の周囲にランダムに配置するが、これは、モノマー(44)の官能基と、テンプレート物体(42)の対応する官能基との相互作用によってのみ支配される。このため、キャビティ(52)の正確な大きさ及び形状に加えて、対応する官能基(46)の位置、配向(orientation)及び種類が、特定の受入部位(54)を形成するのであって、それらは変化し得る。
【0078】
受入部位(54)が機能して対象物体を保持可能なように受け入れるために、キャビティ(52)は対象物体(56)を受け入れる程十分に大きいこと、そして、受入部位(54)の官能基(46)の相対位置及び種類は、対象物体(56)の官能基(57)と対応することが望ましい。このような理由から、分子インプリンティングポリマー(従って、受入部位(54))を形成する際に、対象物体(56)とは異なるテンプレート物体(42)を使用することも可能である。しかしながら、この場合、そのように生成された受入部位は、対象物体(56)を受入可能な大きさを有し、対象物体上の官能基(57)と相互作用するように、対応する相対位置及び種類の官能基(46)を有するべきである。
【0079】
ある特定の実施形態では、対象物体(56)は、リボヌクレアーゼ(RNaseとしても知られている)である。しかしながら、対象物体は、選択された任意の生体分子であってよい。例えば、対象物体は、アルカリホスファターゼ(ALP)を含む任意の酵素であってよい。RNase及びALPは両方とも比較的大きな生体分子であり、分子量は、モル当たり500gを超える。しかしながら、対象物体(56)は、より小さな分子であってもよい(例えば、分子量がモル当たり500g未満である)。小さな分子の例には、有機リン酸塩(例えばパラオクソン)やアルカロイド(例えばカフェイン)がある。
【0080】
分子インプリンティングポリマー層の透過性によって、比較的小さな対象物体(56)は十分に小さいのでマトリックス(50)中の受入部位(54)へ拡散できるが、比較的大きな対象物体は大きすぎてマトリックス(50)へ拡散できない。対象物体(56)が大きすぎてマトリックス(50)へ拡散できない場合、対象物体(56)は、マトリックス(50)の表面上に分子インプリンティングされた受入部位によって受け入れられたままでもよい。これにより、分子インプリンティングポリマーは、センシングされるべき対象物体の存在を許容できる。
【0081】
分子インプリンティングポリマーは、例えば、図1に関連して上述したように、光センサの一部を形成してよい。光センサは、例えば、非常に純粋な水(例えば、化学分析用途で使用される)を生成するために使用される浄化システムの一部を形成してよい。光センサは、例えば、水中の生物剤(細菌を含む)又はそれらが生成するエンドトキシン等の汚染物の存在を監視するよう構成されてよい。多種多様な細菌を(もはやそれらが生きていない場合であっても)検出するために、細菌の構成要素である物体を検出することが可能である。その1つの例はRNaseである。RNaseは、細菌によって使用され、リボ核酸即ちRNAの加水分解を触媒し、より小さな構成要素にする酵素である。細菌は、生きている間にRNaseを分泌し、分解したときにもRNaseを放出する。このため、RNaseの存在は、生きた細菌又は死んだ細菌の存在の指標である。光センサは、水中のRNaseの存在を検出するよう構成されてよい。
【0082】
図2を再び参照すると、光センサの導波路(12)は、金属層(38)上に設けられた分子インプリンティングポリマー層(34)を備える。導波路(12)は、流体(31)が流れる流路(32)と流体連通している(流れを矢印Aで示す)。金属層(38)は基板(36)上に設けられている。RNase(56)は、流路(32)内の水(31)中に存在する(流路は水浄化システムの一部を形成してよい)。水(31)及び懸濁RNase(56)が流路を流れると、水及びRNaseが(層の透過性表面(40)を介して)分子インプリンティングポリマー層(34)内に流れ込む。分子インプリンティングポリマー層(34)は、複数の受入部位(54)を備えている。RNase(56)が分子インプリンティングポリマー層(34)中を移動するとき、RNaseは受入部位(54)を通過する。RNaseの配向は変化し、RNaseは、異なる配向を有する多数の受入部位(54)を通過する。RNase(56)は、配向及び官能基(46)を有する受入部位に出会うと、官能基と相互作用し、受入部位(54)に保持されるよう配置される。
【0083】
図3は図2に対応しており、幾つかの受入部位(54)は、RNase(56)を受け入れて保持している。図3に示していないが、RNase(56)は、分子インプリンティングポリマー層(34)の表面にある受入部位(54)に受け入れられ保持されてもよい。分子インプリンティングポリマー層が、RNaseを表面(40)を介して層内に通過させる程度に透過性でない場合、RNaseは、層(34)の表面(40)にある受入部位(54)によってのみ受け入れられ保持されてよい。
【0084】
分子インプリンティングポリマー層(34)が対象物体(56)を保持すると、分子インプリンティングポリマー層の光学特性が変化する。これにより、伝搬光(propagating light)が導波路(12)を伝わる向きが影響を受けるので、光のパラメータの変更を測定することができる。例えば、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率が変化すると、検出器(30)で見られる光の強度が変更される(図1参照)。ある例では、RNase(56)が受入部位(54)によって保持されている。これにより、受入部位(54)に以前に存在していた水と置き換わる。RNase(56)の屈折率は水の屈折率と異なるため、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率は変化する。これにより、分子インプリンティングポリマー層(34)中のRNase(56)の存在を光学的に検出することができる。
【0085】
センシング層(34)内の対象物体(例えばRNase)の存在を光学的に検出するために、図1に示す装置を用いて光を導波路(12)に向かわせる。光は導波路(12)に特定の入射角Bで向かって(図2参照)、金属層(38)を通って分子インプリンティングポリマー層(34)とカップリングし、導波路(12)の導波モードを励起する(即ち、導波モードとカップリングされる)。導波モードとのカップリングを与える入射角Bは、共鳴入射角という。
【0086】
導波モードは、分子インプリンティングポリマー層(34)内の中央にある(centred)。導波モードは漏れモード(leaky mode)であり、結果として一部の光が導波モードからカップリングアウトする。光は、共鳴入射角(resonant incident angle)Bと等しい出口角Cで、導波モードからカップリングアウトする。光が導波モードにカップリングする共鳴入射角Bの値(出口角Cの値でもある)は、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率が変化する場合、変化する。
【0087】
漏れ導波モードにカップリングされない導波路(12)への入射光は、導波路(12)から反射される。
【0088】
光が導波モードに共振入射角Bでカップリングされ、その後再びカップリングアウトされるとき、位相シフト(phase shift)を受ける。金属層(38)は、この位相シフトを強度の変化に変換するよう作用する。これにより、光導波路への共振カップリング(resonant coupling)の存在を、強度検出器を用いて検出することができる。
【0089】
金属層(38)は、ポリマー層(34)よりもかなり高い屈折率を有する。ポリマー層(34)と比較した金属層(38)のこの高い屈折率は、ポリマー層(34)内を伝播した光を、ポリマー層と金属層の境界から反射させる。このため、ポリマー層(34)内を伝播した光は、ポリマー層からカップリングアウトされる前に、ポリマー層内をさらに伝播する。
【0090】
金属層(38)とポリマー層(34)の屈折率の差のサイズを大きくすると、ポリマー層と金属層の境界の反射率が増す。ポリマー層と金属の境界の反射率が増すと、光は、ポリマー層(34)からカップリングアウトされる前に、ポリマー層内をさらに伝播する。これにより、光とポリマー層(34)の相互作用が増し、ポリマー層の光学特性の変化に対する導波路の感度が増す。
【0091】
金属層(38)の屈折率の大部分は、屈折率の複素成分に起因する。その結果、金属層(38)は、導波路(12)に向けられる光を吸収する(ポリマー層(34)よりもかなり吸収する)。金属層には、導波路(12)に向けられる光の大部分が、金属層(38)を通過し、ポリマー層(34)にカップリングする(そして金属層に戻って通過する)ことができる程十分に薄い厚さが与えられる。
【0092】
図2及び図3に示す導波路は金属層を有するが、適切な任意の材料層が金属層(38)の代わりに使用されてよい。使用される材料は、ポリマー層(34)よりも高い屈折率を有するべきである。材料層は、導波路(12)に向けられた光の大部分がポリマー層(34)へ通過できる程十分に薄くされるべきである。適切な材料の例は、(金属に加えて)染料及びカーボンナノチューブを含む。
【0093】
金属は、波長の広い範囲に亘って高い屈折率を有する傾向にあるが、染料は、波長の比較的狭い範囲について高い屈折率を有する傾向にある。結果として、金属層を有する導波路は、染料層を有する導波路よりも広い波長の範囲に亘る光と共に使用されてよい。
【0094】
別の構成では、金属層(38)は、導波路に存在しない。この場合、位相シフトは、例えば、導波路と検出器(30)の間に位置する第2偏光子(28)を使用することによって検出されてよい。第2偏光子(28)は、第1偏光子(22)(光源(16)と導波路(12)の間に位置する)に対し交差していてよく、位相変化を受けた光だけが透過する。これにより、導波路への共振カップリングの存在を、強度検出器を用いて検出することができる。位相シフトは、代わりに、他の手段、例えば干渉計(マイケルソン干渉計又はマッハ-ツェンダー干渉計等)を用いて検出されてよい。
【0095】
共鳴入射角Bの入射光を用いて漏れ導波モードが導波路(12)で励起される場合、これは、角度Cで検出される光強度のピーク(又はある状況ではデイップ(dip))として見られる。金属層(38)が導波路(12)に存在する場合には、(とりわけ)金属層の屈折率が、ピークが見られるかディップが見られるかを決定してよい。
【0096】
図6乃至図8は、金属層(38)の屈折率に応じて、導波路(12)の反射率の異なるスキームを示すグラフである。シミュレーションを使用して作成されたグラフは、入射角B(ここではθで示す)の関数として、導波路(12)の反射率(R)を示す。他の変数(金属及びセンシング層の厚さと、センシング層の屈折率を含む)は一定に保たれている。図6は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約0.7より小さい(例えば金)。図7は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約0.7乃至約1.4である(例えばアルミニウム)。図8は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約1.5より大きい(例えばチタン)。
【0097】
図6乃至図8に示すグラフのピークとトラフは、導波路(12)の共振入射角Bの指標となる。なぜなら、ピーク又はトラフと共鳴入射角Bの間に一定の関係が存在するためである。グラフからわかるように、ある場合には、反射強度のピークを検出することが容易であり、他の場合には、反射強度のディップを検出することが容易である。この説明では、反射強度のピークの検出を記載する。しかしながら、反射強度のディップの検出も同等に行われてよい。
【0098】
光が漏れ導波モードにカップリングする共振入射角Bは、センシング層(34)の光学特性に、特にセンシング層の屈折率に依存している。図3を参照すると、対象物体(56)(例えばRNase)は、水(31)よりも高い屈折率を有する。従って、RNaseが受入部位(54)において水と置き換わると、センシング層(34)の屈折率が大きくなる。この屈折率の増大により、漏れ導波モードが導波路(12)において励起される共振入射角Bが変化する(そして、これに対応して、光が導波モードからカップリングアウトされる角度Cが変化する)。このことは、水(31)(又は他の流体)中のRNase(又は他の対象物体)の存在が、漏れ導波モードを導波路において励起するために必要な共振入射角Bの変化によって示されてよいことを意味している。
【0099】
共鳴入射角Bの変化は、角度範囲に亘って光を導波路(12)に向けることで、そして角度範囲に亘って導波路から出力される光を測定することで分かる。或いはまた、導波路(12)に共鳴入射角で光を向けることで、そして導波路から出力される光(導波路からカップリングアウトされた光、又は導波路の端部から透過された光の何れか)を監視することで分かる。この方法が使用される場合、光が導波路に向けられる角度はもはや共振角でないから、センシング層(34)の屈折率の変化は、導波モードにカップリングされる光の量を減らす。これは、導波路から反射される光の強度の変化(又は導波路の端部から透過された光の強度の変化)として分かる。
【0100】
図9は、本発明を実施する導波路から反射強度のピークが見られる角度の変動を示すグラフである。反射強度のピークの変動は、検出器のピクセル単位で測定される。ピークの変動は、カフェインがエタノール中に様々な濃度で溶解された試料について測定される。図9において白丸は、カフェインにより分子インプリンティングされたポリマー層を有する導波路(上記の実施例3に従って生成した)により得られた結果である。図9において黒丸は、分子インプリンティングされていないポリマー(以下、非インプリンティングポリマー(NIP)と称する)層を有する導波路により得られた結果である。NIPを有する導波路は、上記の実施例3に従って生成されたが、重合前にモノマー混合物中にカフェインを含ませなかった。
【0101】
図1に示す装置を使用して光を各導波路に向けることで結果を得た。入射角の範囲に亘って導波路に光を向けた。用いた検出器(30)はCCDアレイであった。入射光の最大強度を測定するCCDアレイ内のピクセル(以下、このピクセルをピークピクセルと称する)の位置におけるシフトを測定することで、導波モードの共鳴入射角の変化を測定した。ピークピクセルの位置のシフトを、カフェインがエタノール中に存在しない場合に見られるピークピクセルの位置と比較して測定した。
【0102】
ピークピクセルの位置を、NIPポリマー層を有する導波路を用いて測定した。ピークピクセルの位置を測定する前に、導波路のNIPポリマー層(34)を、異なる濃度でエタノール中に溶解したカフェイン溶液のグループの1つに10分間曝した。使用したカフェイン濃度は、10-6M、10-5M、10-4M、10-3M及び10-2Mであった。NIPポリマー層内にカフェイン用の受入部位(54)は存在しないので、ポリマー層の屈折率の変化(従って、共鳴入射角の変化)は見られない。各濃度のカフェイン溶液に曝したNIPポリマー層を有する導波路について測定したピークピクセルの位置を、カフェインがエタノール中に存在しない場合に測定したピークピクセルの位置と比較した。
【0103】
ピークピクセルの位置を、本発明の実施形態によるカフェイン感受性(caffeine sensitive)分子インプリンティングポリマー層(34)を有する導波路を用いて測定した。ここでも、ピークピクセルの位置を測定する前に、ポリマー層(34)を、異なる濃度でエタノール中に溶解したカフェイン溶液のグループの1つに10分間曝した。ここでも、使用したカフェイン濃度は、10-6M、10-5M、10-4M、10-3M及び10-2Mであった。カフェインをテンプレート物体として使用して分子インプリンティングポリマー層を作製したので、カフェインは、ポリマー層(34)の対象物体である。かなりの数のカフェイン分子が受入部位(54)と結合するのに十分な時間は、この場合、10分であると考えられる。他の場合では、他の暴露時間が用いられてよい(例えば最大24時間)。受入部位(54)によって受け入れられたカフェイン分子は、ポリマー層(34)の屈折率を変えるので、光が導波路(12)にカップリングされる共振入射角Bを変える。図9の白丸からわかるように、ピークピクセルの測定位置は、カフェイン溶液の濃度が高くなるにつれて高くなった。
【0104】
図10は、カフェイン感受性の分子インプリンティングポリマー層を有する導波路のピクセルピーク位置とNIPポリマー層を有する導波路のピクセルピーク位置との差を、カフェイン溶液の濃度の関数として示している。点を結ぶ線は、3パラメータシグモイドフィット(3 parameter sigmoid fit)を使用して作成された最適フィット線である。図10のグラフは、分子インプリンティングポリマー層を有する導波路が、カフェイン対象物体に約5×10-4M以上の濃度で10分間曝された場合のピークピクセルの測定可能な変動を示すことを示している。ピークピクセルの測定可能な変動は、ポリマー層(34)を低濃度のカフェインに10分より長い時間曝すことによっても達成されると考えられる。
【0105】
本発明に係るセンサは、浄化システムの一部として使用されてよい。例えば、水の場合、RNase(又は他の対象物体)が水中に検出された場合、水は汚染されていることが分かる。この場合、水は廃棄され、水を浄化するために使用される浄化システムは、汚染物を除去するためにクリーニングされる。センサは、選択した任意の液体を浄化する浄化システムの一部として使用されてよいことに注目すべきである。
【0106】
センシングされる物体の存在に起因するポリマー層(34)の屈折率の変化は、受入部位(54)の特定の屈折率を有する液体が、異なる屈折率を有する対象物体により置換されることに由来する。上記実施形態では、液体は水であり、対象物体は、水よりも大きい屈折率を有する。このため、水が対象物体により置換されると、ポリマー層(34)の屈折率は大きくなる。しかしながら、液体が対象物体より大きい屈折率を有する場合、対象物体は、受入部位(54)に受け入れられると、ポリマー層(34)の屈折率の低下をもたらす。ポリマー層(34)の屈折率の低下の検出は、ポリマー層(34)の屈折率の増大の検出と似たように検出されてよい。
【0107】
水浄化システム内の汚染物を検出するために光学センサを使用することで、2つの利点が得られる。第1に、特定の細菌型を検出することに限定されるのではなく、広範囲の細菌を検出することができる(なぜなら、細菌の存在及び/又は分解による生成物をセンシングするからである)。このため、広範囲の細菌を検出することができるだけでなく、最近死んだ細菌でも検出することができる。第2に、現在存在している、RNase用の多くのテストとは異なり、RNaseは、検出されるために活性である必要はない。現在のテストは、RNaseの存在を示すために、RNaseの活性を反応中に利用することに依存している。しかし、本発明の実施形態は、RNaseが受入部位(54)に受け入れられ、それ故に検出されるために必要とされるのは、官能基の形状と相対的な配向だけであるから、RNaseが活性であることを必要としない。このため、変性されたRNaseを、活性RNaseと同じくらい容易に検出することができる。これにより、RNaseを広範な環境において、例えば広い温度及びpH値の範囲に亘って、検出することができるという利点がある。RNaseはまた、種々の溶媒タイプにおいて検出される。これにより、バッファ等の追加の試薬の必要性が排除され、RNaseの検出を水中で行うことができる。
【0108】
RNaseを検出する際に試薬及び特別な環境条件についての必要条件がないので、センサ(10)が、連続的な検出レジームの一部を形成することができるというさらなる利点がある。連続的な検出レジームでは、センサ(10)は、流体(例えば水)が連続的に流れる流路(32)内と繋がっている。検出器は、流体中の対象物体の存在(或いはその反対)をリアルタイムで表示する連続的な出力信号を与える。
【0109】
対象物体(56)と分子インプリンティング受入部位(54)の相互作用の強さは、高くて良い。結果として、対象物体(56)が受入部位(54)中に一旦保持されると、場合によっては対象物体(56)を除去することができない。このような状況では、光センサ(10)、又は光センサ(10)の少なくとも導波路(12)部分は、1回使用のデバイスとなり、汚染が検出されると交換される。
【0110】
場合によっては、分子インプリンティングプロセス中にテンプレート物体(42)を除去するために使用されるプロセスと同様のプロセスを使用して、対象物体(56)を除去することが可能である。これを行う場合、光センサ(10)は再利用されてよい。対象物体を除去するプロセスは、対象物体を含む流体が、センサ(10)を超えて流れることを防止すること、及びその後別の流体をセンサ(10)を超えて流すことを含む。別の流体は、結合した対象物体(56)を受入部位(54)から除去するために適切な試薬を含んでいる。対象物体が除去されると、別の流体を流すことを止める。その後、センサ(10)の正常な動作が再開される。
【0111】
図11及び図12は、導波路(12)が構築される2つの代替的な方法を概略的に示している。図11において、導波路(12)は、金属層(38)、分子インプリンティングポリマー層(34)、及び流体(31)が流れてよい流路(32)(使用時、流路は水又は他の流体を含む)を含む。流路(32)は、分子インプリンティングポリマー層(34)に液密に(fluid-tight)に取り付けられ得るフローセルの形態(図示せず)をとってよい。導波モード(59)は、流路(31)内の流体より高い屈折率を有する分子インプリンティングポリマー層(34)の中央にある。
【0112】
図12において、導波路(12)は、金属層(38)、導波路層(58)、分子インプリンティングポリマー層(34)及び流路(32)を含む。導波路層(58)は、金属層(38)と分子インプリンティングポリマー層(34)の間に位置し、分子インプリンティングポリマー層より高い屈折率を有する。導波モードは導波路層(58)の中央にあり、導波モードのエバネッセント成分は分子インプリンティングポリマー層内へ広がる。
【0113】
図11及び図12に示す別の導波路構造は、同じように機能する。両者の相違は、図11に示す導波路の感度が、図12に示す導波路の感度よりも高いということである。これは、より多くの光が分子インプリンティングポリマー層(34)内を通過するためである。言い換えれば、図11に示す実施形態では、分子インプリンティングポリマー層(34)は1つであり、導波路層(58)と同じであるので、分子インプリンティングポリマー層(34)と入射光との相互作用はより強く、対象物体に対する高い感度をもたらす。
【0114】
前述したように、本発明に係る光センサの一部を形成する導波路の共振入射角は、分子インプリンティングポリマー層の屈折率に依存する。他の要因が共鳴入射角に影響を及ぼしてもよい。
【0115】
図13及び図14は、3つの異なる導波路の応答を示すグラフである。具体的には、図13及び図14は、3つの導波路について、入射角の関数として測定した放射強度のグラフを示す。これらグラフに示す結果は、図1に示す装置を使用して、光を各導波路に向けることで得た。入射角の範囲に亘って各導波路に光を向けた。この場合、使用した光源はレーザであり、検出器により、任意の単位で光強度を測定した。
【0116】
各導波路は、上記の実施例4に詳述した方法に従って作製したカフェインインプリンティングゾルゲル層である分子インプリンティング層を有していた。各導波路は、分子インプリンティングポリマー層を金属層上に異なる速度及び/又は異なる時間スピンコーティングすることによって形成した以外、同じであった。分子インプリンティングポリマーを金属層上に異なる条件(例えば、異なるスピン速度及び/又は異なる時間)下でスピンコーティングすることで、形成される分子インプリンティング層の厚さ、並びに/又は形成される分子インプリンティングポリマー層の表面上のあらゆる表面不完全性の程度及び/若しくは重大度に影響が及ぶ。他の変数(金属層の厚さを含む)は一定に保った。
【0117】
図13において、線(80)、線(81)及び線(82)は夫々、8000rpmで30秒間、7000rpmで20秒間、及び7000rpmで30秒間、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングすることで作製した3つの独立した導波路の応答を示している。導波路の応答は、外側カップリング角の関数として示されている。図1を参照すると、外側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)に入射される方向との間の角度である。
【0118】
図14において、線(83)、線(84)及び線(85)は、図13におけるのと同じ導波路の応答を示しており、導波路は、夫々8000rpmで30秒間、7000rpmで20秒間、及び7000rpmで30秒間、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングすることで作製した。導波路の応答は、内側カップリング角の関数として示されている。図1を参照すると、内側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光が、導波路(12)に向かって伝播するときの、プリズム(14)を通過する方向との間の角度である。
【0119】
図13及び図14は、導波路の共振入射角(グラフ内の各ピーク位置に関連している)が、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングするために使用される条件によって影響されることを示している。具体的に、グラフは、短い時間(20秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路が、長い時間(30秒間)スピンコーティングされた導波路の共振入射角より約2度小さい共鳴入射角を有することを示している。
【0120】
図13及び図14のグラフはまた、短い時間(20秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路から出力された光の測定強度が、長い時間(30秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路から出力された光の測定強度よりも小さいことを示している。
【0121】
比較的長い時間スピンコーティングされた導波路の共振入射角が大きくなること、そして光出力強度が大きくなることは、スピンコーティング時間を増やすと、形成される分子インプリンティングポリマー層の表面上の任意の表面不完全性の程度及び/又は重大度が低下するという事実に起因する可能性がある。表面不完全性の程度及び/又は重大度を下げることで、分子インプリンティングポリマー層の表面はより平坦となる。分子インプリンティングポリマー層の表面をより平坦にすることで、分子インプリンティングポリマー層の表面に入射する光(表面によって散乱される)の量が減る。スピンコーティング時間を増やすことで、形成される分子インプリンティングポリマー層の厚さを薄くしてよい。
【0122】
図15及び図16は、4つの異なる状態での導波管の応答を示すグラフである。具体的には、これらグラフは、4つの異なる状態での導波路の入射角の関数として測定した放射強度を示している。結果は、図1に示す装置を使用して、光を各導波路に向けることで得た。入射角の範囲に亘って各導波路に光を向けた。この場合、使用した光源はレーザであり、検出器により任意の単位で光強度を測定した。
【0123】
図15及び図16に示す結果を得るために使用した導波路は、上記の実施例4に詳述した方法に従って作製したカフェインインプリンティングゾルゲル層である分子インプリンティング層を有していた。導波路の応答を測定した第1状態は、導波路を生成した後に導波路の分子インプリンティングポリマー層を水で洗浄した場合であった。導波路の応答を測定した第2状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄した場合であった。導波路の応答を測定した第3状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄し、その後カフェイン溶液に1分間曝した場合であった。導波路の応答を測定した第4状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄し、その後カフェイン溶液に5分間曝した場合であった。
【0124】
図15及び図16において、線(86)及び線(90)は、第1状態の導波路の応答を示し、線(87)及び線(91)は、第2状態の導波路の応答を示し、線(88)及び線(92)は、第3状態の導波路の応答を示し、線(89)及び線(93)は、第4状態の導波路の応答を示している。
【0125】
図15に示す様々な状態での導波路の応答は、外側カップリング角の関数として示される。図1を参照すると、外側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)に入射する方向との間の角度である。図16に示す様々な状態での導波路の応答は、内側カップリング角の関数として示される。図1を参照すると、内側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)を通過する方向との間の角度である。
【0126】
図15及び図16は、導波路の共振入射角(グラフ内の各ピーク位置に関連している)が、分子インプリンティングポリマー層をカフェインに曝した導波路の2つの状態(第3状態と第4状態)について、分子インプリンティング層を水で洗浄しただけの導波路の状態の共振入射角、又は水とエタノールで洗浄した導波路の状態の共振入射角と夫々比較してより大きいことを示している。具体的には、カフェインに曝した分子インプリンティングポリマー層を有する導波路の状態(第3状態と第4状態)は、分子インプリンティングポリマー層を水で洗浄しただけの導波路の状態(第1状態)、又は水とエタノールで洗浄した導波路の状態(第2状態)よりも夫々約0.5度大きい共鳴入射角を有する。前述のように、これはカフェインが分子インプリンティングポリマー層中の受入部位と結合することで、分子インプリンティングポリマー層の屈折率を増大させるためである。
【0127】
さらに、導波路の共振入射角は、導波路の第4状態(線(89)及び線(93)の各ピーク位置に関連している)について、導波路の第3状態(線(88)及び線(92)の各ピーク位置に関連している)よりも大きいことがわかる。これは、第4状態の導波路を、第3状態の導波路よりも長く対象物体(カフェイン)溶液に曝したためであると考えられる。このため、対象物体(カフェイン)が第4状態の導波路の受入部位と結合する機会が、第3状態の導波路に比べて多くあった。この理由のため、対象物体(カフェイン)は、第3状態の導波路よりも第4状態の導波路と多く結合したため、第3状態の導波路よりも大きい規模で、第4状態の導波路の屈折率が増大した。
【0128】
先の説明では、漏れ導波モードへの光の共振カップリングが、センシング層の屈折率の変化を検出するために使用された。別の構成においては、表面プラズモン共鳴を利用して屈折率の変化を検出してよい。表面プラズモンは、金属と誘電体の界面に沿って伝搬する表面電磁波である。電磁波は、金属と誘電体の境界上にあるので、この境界のあらゆる変化に対して非常に敏感である。分子インプリンティングポリマー層が金属層の上に配置され、表面プラズモン共鳴を利用して分子インプリンティングポリマー層の光学特性の変化を検出する導波路が構成されてよい。
【0129】
他の光学検出機構を使用して、分子インプリンティングポリマー層の屈折率(又は他の光学特性)の変化を検出してよい。
【0130】
漏れ導波モードをもたらす導波路によって、表面プラズモン共鳴のために使用される材料と比べて比較的低い屈折率を有する材料を用いて、分子インプリンティングポリマー層(34)又は導波路層(58)を形成することができる。これは、様々な材料(例えばポリマー、ゾルゲル、又はハイドロゲルを含む)を使用することを容易とする。
【0131】
漏れ導波モードを使用することのさらなる利点は、センシング層(34)の屈折率と流体(31)の屈折率との比較的小さな差異があるために、漏れモードが励起される共鳴角が比較的鋭いことである。用語「比較的鋭い」は、表面プラズモン共鳴が検出機構として使用される場合に達成される角度よりも鋭いことを意味することを意図している。
【0132】
表面プラズモン共鳴センサは、非常に薄い金属層を利用しており、その厚さを簡単に選択することができないので、使用するのが難しいこともある。金属層の厚さは、入射光が表面プラズモン共鳴センサに当たる角度と組み合わせて、分子インプリンティングポリマー層と相互作用する表面モードのエバネッセント波成分の侵入深さを決定する。入射光の角度を変えると、一般的に、エバネッセント波の侵入深さを数ミクロンから数十ナノメートル調整することができる。金属層の厚さを容易に変えることはできないので、エバネッセント波の侵入深さの範囲、及び検出深さを容易に選択することはできない。
【0133】
これとは対照的に、漏れ導波路が使用される場合、主として導波路層の厚さが、エバネッセント光の侵入を制御する。分子インプリンティングポリマー層(34)は、表面プラズモン共鳴における金属層と比較して厚いので、その厚さ、及び導波路層を超えるエバネッセント波の侵入深さをより容易に制御できる。一般的に、漏れ導波路の導波路層の厚さは、表面プラズモン共鳴構造に使用される金属層よりも約10倍厚い。図12に示すような構造が使用される場合、分子インプリンティングポリマー層内への光の侵入度合いを制御することができるから、エバネッセント波の侵入を制御する要素は有用である。厚い導波路層を使用することは、分子インプリンティングポリマー層の屈折率の変化を測定する際、特に有利である(導波路層と分子インプリンティングポリマー層は、この場合は1つであり、同じである)。これは、一般に、導波路層の厚さが厚くなる程、導波路層が伝搬できるモードの次数が高くなるという事実による。導波路層が伝搬できるモードの次数が高くなる程、導波路層内に留まる導波路への入射光の割合は大きくなるので、導波層の屈折率の変化に対するセンサの感度は高くなる。
【0134】
表面プラズモン共鳴の場合、センサに向ける光は、TM(Transverse Magnetic)偏光である。
【0135】
知られている漏れモード導波路の欠点は、一部の場合において、導波路から戻された光の強度におけるディップを検出するために、及びそのディップの角変動に従うために、検出光学系が必要とされることである。光の不在は、光強度のピークよりも検出することが本質的に困難である。このため、金属層(38)を使用して、漏れ導波路モードが励起されたときに光強度にピークを与えることは、有利である。
【0136】
導波路の大きさは、様々な数のモードを励起するよう選択されてよい。導波路の大きさは、エバネッセント波の侵入深さを決定するよう選択されてよい。導波路に適した大きさの選択は、使用する光の波長に依存してよい。実質的に単色である光源(16)を使用してよい。単色光源の例には、レーザやRCLED(共振空洞発光ダイオード)がある。
【0137】
導波路構造の具体例が上述の説明に挙げられているが、他の適切な導波路構造が使用されてよい。
【0138】
上述の説明は水中でのRNaseの検出に言及しているが、他の対象物体が検出されてよい。対象物体は、水以外の流体中にあってよい。
【0139】
分子インプリンティングポリマー層は透過性であると記載されているが、非透過性の分子インプリンティングポリマー層を使用することが可能である。これを行う場合、対象物体は、分子インプリンティングポリマー層の上面にのみ受け入れられるから、その結果生じる信号は、本発明の図示の実施形態により与えられる信号より弱い。分子インプリンティングポリマー層が透過性であると考えてよいか否かは、対象物体が分子インプリンティングポリマー層を通して拡散することができるか否かに依存する。これができるか否かを決定する際に関係する1つの要因は、キャビティ(52)と対象物体の相対的な大きさである。概して、分子インプリンティングポリマー層は、キャビティ(52)の大きさが、対象物体と同じオーダーである又は対象物体より大きい場合、透過性である可能性が高い。分子インプリンティングポリマー層が透過性でない場合、分子インプリンティングポリマー層による対象物体のあらゆる捕捉(trapping)は、分子インプリンティングポリマー層の表面で起こる。このような状況では、単一モードのみを伝搬できる厚さである導波路層(分子インプリンティングポリマー層)を有することが望ましい。これにより、導波路への入射光のエバネッセント成分が最大化されるので、導波路層の端部又は外側にある対象物体に対するセンサの感度が向上する。
【0140】
本発明の実施形態は、分子インプリンティングポリマー層を有する導波路に関するが、本発明はその代わりに、分子インプリンティングされた非ポリマー層を含んでよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサ及び光センシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的相互作用を高感度且つリアルタイムで監視することができるセンサは、生命科学の研究と産業の両方において非常に重要である。分子間相互作用の結果として生物試料の屈折率(又は他の光学特性)の変化を監視する幾つかのセンサがある。試料の光学特性のこのような変化は、試料を通過する光の特性(強度等)の変化として測定されてもよい。
【0003】
典型的なセンサでは、光は、光導波路の導波モードにカップリングされる(coupled)。導波モードに関連したエバネッセント波は、例えば、ゲル中に保持されている、又は液体の形態である生物試料内へ広がる。一部のセンサにおいて、エバネッセント波が生物試料内へ広がる深さを調整する(tune)ことが可能である。この調整は、光が導波路にカップリングされる入射角を変更することによって行われる。生物試料に変化が生じた場合、生物試料の屈折率が変化する。この屈折率の変化は、導波モードに関連したエバネッセント波によって体験される(experienced)。従って、生物試料に生じた変化は、光導波路の導波モードから出力される光を監視することによって、観察される。
【0004】
水中の汚染物を検出することが望まれている。これは特に、超純水の場合であり、超純水は、例えば化学アッセイ又は静脈内注射に使用され得る。この場合、水は、細菌等の生物剤(biological agents)を含まない(free from)だけでなく、生物剤が生成するエンドトキシンも含むべきでない。
【0005】
水中の細菌を検出する幾つかの方法は、生きた細菌の作用(action)を検出するため、エンドトキシンに反応しない(insensitive)。これらの方法は、死んだ細菌又は壊れた(broken-down)細菌にも反応しない。また、細菌が最近存在していたことを示す酵素の作用を検出する方法もある。しかしながら、この方法が機能するには、酵素が変性されていてはならない。つまり、酵素は、活性が検出されるために、そのときでもまだ機能していなければならない。上記方法は両方とも、通常、更なる試薬を使用する必要がある。
【0006】
従来技術の方法を使用して、エンドトキシンを検出することはできる。しかしながら、エンドトキシンを検出するために使用される方法は、通常、条件を制御し、更なる試薬を使用する必要がある。そのような方法の1つは、カブトガニ(horseshoe crab)(アメリカカブトガニ(Limulus polyphemus))の変形血液細胞(amoebocyte blood cells)を使用する。血液細胞は、細菌のエンドトキシンと接触させて置いた場合、非常に低いエンドトキシン濃度であっても、血塊(clots)を形成する。
【0007】
細菌及びエンドトキシンを検出する上記の方法は非効率的であり、状況によっては効果がない。さらに、これらは、汚染物について水を連続的に監視するのに適していない。
【0008】
上記した欠点の少なくとも1つを克服又は緩和することが望ましい。
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1態様によれば、センシング層を有する導波路を備える光センサであって、センシング層は、センシングされる対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており(molecularly imprinted)、光センサは、対象物体がセンシング層に受け入れられて保持されている際に起こる導波路の光学特性の変化を検出するように構成された検出装置をさらに備える光センサが提供される。
【0010】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備えてよい。
【0011】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備えてよい。
【0012】
センシング層は、透過性であってよい。
【0013】
変化が検出される光学特性は、屈折率であってよい。
【0014】
対象物体は、リボヌクレアーゼのような、有機リン酸化合物又は生体分子であってよく、不活性であってよい。
【0015】
導波路は、漏れモード導波路(leaky mode waveguide)であってよい。
【0016】
導波路は、センシング層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料の層を備えてよい。材料の層は金属層であってよい。
【0017】
センシング層は、ポリマー層であってよい。ポリマーは、カーボンベース又はシリコンベースのポリマーであってよい。
【0018】
センサは、水浄化システムの一部である汚染検出器の一部を形成してよい。
【0019】
本発明の第2態様によれば、センシング層を有する導波路を備える光センサを用いた光センシング方法であって、センシング層は、対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、センサの一部を流体流路中に配置して、センシング層の少なくとも表面と接触するよう流体を流す工程と、センシング層が少なくとも一部の光を受けるように、導波路の導波モードに光をカップリングさせる工程と、導波路から出力された光の特性を監視する工程とを含み、前記特性は、対象物体が分子インプリンティング層に受け入れられて保持されると変化する方法が提供される。
【0020】
センシング層は、流れている流体に対して透過性であることで、センシング層内に流体を流し込んでよい。
【0021】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備えてよい。
【0022】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備えてよい。
【0023】
監視される出力光の特性は、光の強度及び/又は光が導波路から出力される角度であってよい。
【0024】
センシングされる物体は、リボヌクレアーゼであってよく、不活性であってよい。
【0025】
流体は、水であってよい。
【0026】
センシングされる物体は、汚染物、又は汚染物の生成物であってよい。
【0027】
本発明の種々の態様の他の好ましく有利な特徴は、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の具体的な実施形態は、添付の図面を参照して、例示の目的でのみ説明するものである。
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る光センサの模式的な断面図である。
【図2】図2は、図1に示す光センサの導波路の模式的な断面図である。
【図3】図3は、図1に示す光センサの導波路の模式的な断面図である。
【図4】図4(a)、図4(b)及び図4(c)は、本発明に係る分子インプリンティングポリマーを生成するために使用したプロセスの説明図である。
【図5】図5は、図4(a)乃至図4(c)に示すプロセスによって生成された分子ポリマーのキャビティによって、対象物体が受け入れられるプロセスの説明図である。
【図6】図6は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第1の一般的スキームを示すグラフである。
【図7】図7は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第2の一般的スキームを示すグラフである。
【図8】図8は、導波路の反射率と光が導波路に入射する角度との関係について、第3の一般的スキームを示すグラフである。
【図9】図9は、2つの別個の導波路について、導波路が曝された対象物体の濃度の関数として、ピークピクセルの位置と、ベースラインピクセルの位置との差を示すグラフであり、一方の導波路は、本発明の実施形態による分子インプリンティングポリマーセンシング層を含み、他方の導波路は、分子インプリンティングポリマーセンシングされていない層を含む。
【図10】図10は、対象物体の曝露(exposure)の濃度の関数として、本発明による分子インプリンティングポリマーセンシング層を含む導波路を用いたピークピクセルの位置と、分子インプリンティングポリマーセンシングされていない層を有する導波路を用いたピークピクセルの位置との差を示すグラフである。
【図11】図11は、図2及び図3に示す光センサの導波路の模式的な断面図と、対応する屈折率のグラフである。
【図12】図12は、光センサの別の導波路の模式的な断面図と、対応する屈折率のグラフである。
【図13】図13は、本発明による光センサの一部を形成してよい幾つかの導波路の第1応答を示すグラフであり、各導波路は、異なるパラメータを使用してスピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する。
【図14】図14は、図13の導波路の第2応答を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明に係る光センサの一部を形成してよい導波路の、幾つかの状態での最初の応答を示すグラフである。
【図16】図16は、図15の導波路の、前記幾つかの状態での2番目の応答を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照すると、光センサ(10)は、プリズム(14)に配置された導波路(12)を備えている。光源(16)からの光は、コリメートレンズ(18)、開口絞り(20)、第1偏光子(22)、第1収束レンズ(24)及びプリズム(14)を介して、導波路(12)に向けられる。偏光子(22)は、光の適切な偏光を選択するために使用される。光はプリズムを介して導波路に入り、プリズムは光を導波路にカップリングさせる。その後、光の一部が導波路(12)から漏れ出して、プリズム(14)を通過する。光は、プリズム(14)から、第2収束レンズ(26)、第1偏光子(22)に対して交差する(cross)第2偏光子(28)を介して、検出器(30)内に伝播する。検出器(30)は、フォトダイオード又はCCDアレイ等の光強度検出器である。任意の適切な放射検出器を使用してよい。一部の実施形態において、第2偏光子(28)を省略してよい。
【0030】
図2は、導波路(12)の一部分をさらに詳細に示している。導波路(12)は、金属層(38)上にセンシング層(34)を備えている。導波路(12)は、流体(31)が流れる流路(32)と流体連通している(流れを矢印Aで示す)。金属層(38)は基板(substrate)(36)上に設けられている。基板は、例えば石英から形成されてよく、プリズム(14)に結合されてよい(図1参照)。プリズム(14)は、光を導波路(12)にカップリングさせるために、及び光を導波路(12)からカップリングアウト(couple out)するために使用されてよい。一部の実施形態において、金属層(38)は20nmの厚さを有する。しかしながら、適切な任意の厚さの金属層(38)を使用してよい。金属層(38)の厚さは、例えば、0.5nmと200nmの間であってよい。
【0031】
センシング層(34)はポリマー層であり、例えば、カーボンベース又はシリコンベースであってよい。シリコンベースのポリマーの利点は、類似のカーボンベースのものと比べて、空気の存在下で生成できることである。カーボンベースのポリマーは、空気中の酸素と反応するので、空気の存在下で生成することはあり得ない。特に、カーボンベースのポリマーがフリーラジカル重合プロセスによって形成される場合、酸素がフリーラジカルと反応する。シリコンベースのポリマーは、例えば、線状シロキサン(linear siloxane)又は格子状ゾルゲル(lattice-like sol-gel)を含んでよい。
【0032】
センシング層(34)が機能する態様を理解するためには、センシング層が作られる方法を初めに考察するのがよい。ポリマー層は、流体状態の間に(即ち、硬化する前に)、金属層(38)上にスピンコートされる。スピンコーティングの間、流体ポリマー混合物の表面張力により、センシング層(34)の表面(40)は、ほぼ平坦であることが確保される。このことは、使用中に導波路(12)から戻される信号のノイズ又は損失を最小限にすることに役立つ(ノイズ又は損失は、センシング層の表面の不完全性(surface imperfections)に起因する散乱によって引き起こされる)。スピンコーティング法に代わる方法を使用して、ポリマー層を金属層(38)に塗布してもよい。このような代替方法として、ディップコーティング、スプレーコーティング、及びスクリーンプリンティングが含まれる。
【0033】
図4(a)乃至図4(c)は、形成中のセンシング層(34)において起こる分子インプリンティングプロセスを模式的に示している。第1段階では、図4(a)に示すように、センシングされる物体(entities)に類似した構造又は同一の構造の物体が、モノマー混合物及び溶媒と混合される。混合物は流体状態である。モノマー混合物は、少なくとも一種の官能性モノマーを含み、少なくとも一種の架橋性モノマー(crosslink monomer)を含んでよい。モノマー混合物内の官能性モノマーの目的は、以下で詳解するように、架橋性モノマーの目的とは異なる。モノマー混合物と混合される物体を、ここではテンプレート物体(42)という。モノマー混合物の成分の適切な質量比率は、テンプレート物体:官能性モノマー:架橋性モノマーが1:4:20であること、そして、モノマー混合物対溶媒の適切な質量比率は、3:4であることが分かっている。しかしながら、モノマー混合物及び溶媒の成分について、他の任意の適切な比率が使用されてよいことは、当業者によって当然理解されるであろう。
【0034】
前述のように、モノマー混合物は官能性モノマー(44)を含み、各官能性モノマー(44)は官能基(46)を含む。モノマー混合物は、複数タイプの官能性モノマーを含んでよい。官能性モノマーは、タイプ毎に異なる官能基(46)を有する(これらは図4(a)において異なった形状で模式的に表されている)。官能基(46)は、テンプレート物体(42)の官能基(48)と相補的である。テンプレート物体の3つのタイプの官能基(48)が図4(a)に示されているが、テンプレート物体の官能器のタイプの数は、任意であってよい。
【0035】
モノマーの官能基(46)は、テンプレート物体(42)の存在下で、以下の何れかの種類の可逆的相互作用によって、対応するテンプレート物体の官能基(48)と相互に作用してよい:(a)可逆的共有結合、(b)共有的に付着される重合可能な結合グループ(binding groups)であって、テンプレートの裂開(cleavage)によって非共有の相互作用が活性化される結合グループ、(c)静電相互作用(electrostatic interactions)、(d)疎水性相互作用又はファンデルワールス相互作用(水素結合等)、(e)金属を中心とする配位(co-ordination)、(f)共結合(co-bonding)(共有結合及び非共有結合を含む)、及び(g)半共有結合(semi-covalent bonding)(形成される最初の結合が共有的であり、その後の結合が非共有的である場合)、である。
【0036】
モノマー(44)の官能基(46)は、テンプレート物体(42)の対応する官能基(48)と相互に作用し、複数のモノマー(44)をテンプレート物体(42)の周りに配置する(図4(a)に示す)。
【0037】
モノマー(44)は、例えば、アミノ基及び/又はカルボン酸官能基を有してよい。有り得る官能性モノマーは、タイプによって分類されることができ、アクリル、アルコール、飽和アルキン、アミン、アリール基、カルボン酸、エステル又はエーテルがある。また、特性によって分類されることができ、酸性(即ち、メタクリル酸)、中性(即ち、スチレン)又は塩基性(即ち、4-ビニルピリジン)がある。以下は、幾つかの典型的な官能性モノマーのリストであり、分子インプリンティングポリマー(molecularly imprinted polymer)のマトリックスを作製する際の使用に適している:アクリレート(アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MMA)、トリフルオロメチルアクリル酸(TFMAA)、メチレン-2-コハク酸(MSA)、N,N'-ジメチルアミノ-エチルメタクリレート(DMA))、アクリルアミド(アクリルアミド(AAm)、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(AMPSA)、N-(2-アミノエチル)-メタクリルアミド(2AEMA)ジエチルアミノエチルメタクリレート(DAEMA))、スチレン(4-ビニル安息香酸(4VBA)、2-(4-ビニルフェニル)-1,3-プロパンジオール(4ES)、(4-ビニルフェニル(-メチルアミンN,N'アセト酢酸(VPMADA)、N,N'-ジエチル-(4-ビニルフェニル)アミジン(D4VPA)、4-(1,4,7-トリアザシクロノナン-メチル)スチレン(4TCMS)、4-ビニルフェニルホウ酸(VPBA))、ピリジン及びイミダゾール(4-ビニルピリジン(4VP)、2-ビニルピリジン(2VP)、1-ビニルイミダゾール(1VI)、4-ビニルイミダゾール(4VI))である。
【0038】
前述のように、モノマー混合物はまた、少なくとも一種の架橋性モノマーを含んでよい。架橋性モノマーは、ポリマーマトリックスが形成されるときに、ポリマーマトリックス中の任意の歪み(distortion)を防止するのに役立ち、これによって、インプリンティングプロセス中に形成される任意の構造の形状を維持するのに役立つ。適切な分子インプリンティングポリマーのマトリックスを生成する際に使用され得る典型的な架橋性ポリマーには、以下がある:エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、p-ジビニルベンゼン(DVB)、N,N'-エチレンビス(プロプ−2−エンアミド)(N,N'-ethylenebis(prop-2-eneamide))(EPEA)、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TRIM)、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、p,p'-ジイソシアナトジフェニルメタン)(DIDM)、ビスアクリロイルピペラジン(BAP)、及びN,N'-メチレンジアクリルアミド(メチレンビスアクリルアミド)。
【0039】
溶媒は、ポロゲン(porogen)としても知られており、モノマー混合物の成分を全て溶解してよい。溶媒の役割の1つは、作製したポリマー内に細孔を生成することである。このため、溶媒は、得られるポリマーの構造に影響を与える。例えば、溶媒としてのアセトニトリルは、アクリレートネットワーク(acryalate networks)において、クロロホルムよりもマクロ透過性の(macro-porous)構造をもたらす。適切な溶媒は、以下を含んでよい:トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトニトリル、酢酸、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド及び水である。これらは個別に、又は互いに組み合わせて使用されることができる。
【0040】
本発明のある実施形態では、モノマー混合物に追加の添加剤を含めることが望ましい。例えば、得られるポリマーのガラス転移温度を下げて内部の粘度を下げることにより、そのバルク柔軟性を高めるために、可塑剤が含まれてよい。
【0041】
次の段階では、図4(b)に示すように、モノマー混合物(44)は、テンプレート物体(42)と原位置(in situ)で重合及び架橋される。これにより、固形化したポリマーマトリックス(50)が形成される。ポリマーマトリックス(50)は複数のキャビティ(52)を含んでおり、キャビティ(52)は、テンプレート物体(42)を、故に、センシングされる物体を受け入れることが可能な大きさ及び構造である。使用されてよい重合プロセスの例は、フリーラジカル重合である。しかしながら、当業者によって当然理解されるように、適切な任意の重合プロセスが使用されてよい。
【0042】
フリーラジカル重合の場合、重合は、開始化合物の添加により開始され、開始化合物は、特定の条件下でフリーラジカルを生じる。必要な条件は、例えば、温度変化、又は開始剤に照射した結果としての光化学変化であってよい。開始剤が照射による光化学反応に関与する場合、その開始剤は光開始剤として知られる。ある場合には、条件の変化により、開始剤の単分子結合の切断が生じて、フリーラジカルが生成される。他の場合には、開始剤は、開始剤の励起状態が第2分子(共開始剤(co-initiator))と相互に作用してフリーラジカルを生成する生体分子反応に関与する。熱フリーラジカル開始剤の例は、アルファ,アルファ'-アゾイソブチロニトリル(AIBN)であり、光開始剤の例は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)である。
【0043】
フリーラジカル開始剤の範囲は広く、適切な任意の開始剤を使用することができる。開始剤の選択は、多くの要因に依存し得る。この要因は、特定の溶媒における開始剤の溶解性、又は開始剤の分解プロセスを含む。分解プロセスは、モノマー(44)をテンプレート物体(42)と混合する温度に近い温度に敏感である場合、特に関係する。例えば、開始剤の分解プロセスが、低すぎる活性化エネルギーを有する場合、モノマーがテンプレート物体と相互に作用する前に、早過ぎる(premature)フリーラジカル生成と、それによる重合が生じる可能性がある。早過ぎる重合は、キャビティ(52)が正しく形成されず、ポリマーがテンプレート物体(42)によりインプリンティングされないことになるので望ましくない。これにより、センシングされるべき物体を受け入れることができないキャビティ(52)がもたらされる可能性がある。
【0044】
開始剤としては、弱い結合を有し、結合が壊された場合にフリーラジカルを生成するものが選ばれてよい(用語「弱い結合」は、テンプレート物体(42)とモノマー(44)の間の結合(又は他の相互作用)よりも弱い結合を意味するものとして解釈されるべきである)。これが実現されると、フリーラジカルを生成することによって重合を開始するのに使用されるエネルギーは、モノマー(44)とテンプレート物体(42)の間の如何なる結合(又は他の相互作用)も壊さない。
【0045】
当業者によって当然理解されるように、使用され得る多くのフリーラジカルの種類がある。フリーラジカルが開始剤によって生成されると、重合プロセスは従来の態様で進行する。フリーラジカルは、(一部のモノマーから電子を除去することにより)一部のモノマーをラジカルに変え、これが他のモノマーと結合することができ、より大きい鎖のラジカルが生成される。これらが次々に、カスケード式に、他のモノマー、鎖ラジカル等とさらに反応してよい。カスケード式の反応は、多くの方法で終了されてよい。そのうちの最も一般的なものは、2つのラジカルを互いに反応させるものである。フリーラジカル重合の化学的性質は、当該技術分野においてよく知られているので、さらなる詳細は明細書中に含まれていない。
【0046】
上記の説明は、分子インプリンティングポリマーを生成する際の有機モノマーの使用に関する。前述のように、無機モノマー(例えばシリコンアルコキシドモノマー)を用いてポリマーを生成することも可能である。このような適切なモノマーには、以下がある:テトラエトキシシラン(TEOS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MEMO/TMSM)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、フェニルトリメトキシシラン(PTMOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(GPTMS)、ビニルトリエトキシシラン(VTEOS)、フェニルトリメトキシシラン(TMPS)、エチルトリメトキシシラン(ETMOS)、及びブチルトリメトキシシラン(BTMOS)。これらモノマーによって生成されたポリマーは、ゾルゲルと呼ばれる。モノマー混合物に使用される溶媒(通常は水)のpH及び容積を制御することによって、得られるゾルゲルの透過性(porosity)に影響を与えることができることが分かった。例えば、水を高容積含み高pHであるモノマー混合物を使用すると、より透過性の材料が生成される。使用されてよいモノマー混合物(及び各モノマー量の比率)の例は、以下の通りである:TEOS:H2O:エタノール(1:4:4)、及びTEOS:APTES:PTMOS(30:1:1.5)である。
【0047】
ゾルゲルを生成するために、モノマー混合物に加水分解反応及び縮合反応を施す。加水分解反応の一部として触媒が使用されてよい。使用される触媒の種類が、得られるゾルゲルの構造に影響を与える可能性がある。例えば、HFをHCLの代わりに触媒として使用すると、ゲル化時間をより速め、及び/又は、得られるゾルゲルにおいて細孔をより大きくする。
【0048】
適切な任意の溶媒が、モノマー混合物に使用されてよい。適切な溶媒は、以下がある:水、n-ヘプタン、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール(MeOH)、水酸化アンモニウム(NH4OH)、エトキシエタノール、エタノール、ドデシルベンゼン、アセトニトリル、アセトン及びジクロロメタン。
【0049】
ゾルゲルが生成されると、乾燥させなければならない。乾燥が収縮(shrinkage)を引き起こし得るため、乾燥プロセスは、最終的なゾルゲルの構造に影響を及ぼす可能性がある。収縮がある場合、対象物体を受け入れるゾルゲルの能力に影響を及ぼす可能性がある。種々の添加剤をモノマー混合物に添加して、乾燥速度を制御し、これによって大きな収縮が乾燥中に起こる可能性を下げてよい。これら添加剤は、乾燥制御化学添加剤(Drying Control Chemical Additives)(DCCAs)として一般的に知られており、例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル又はシュウ酸であってよい。界面活性剤が使用されてもよい。乾燥は、制御された圧力環境下で行われてよい。
【0050】
有機ポリマーと無機ポリマーの両方に共通する最終段階が、図4(c)に示されている。この最終段階では、テンプレート物体(42)は、ポリマーマトリックス(50)から(例えば洗い流し(rinsing)によって)除去される。これは様々な方法で行われてよい。例えば、溶媒を使用して、ポリマー(50)を膨張させ、キャビティ(52)の大きさを大きくし、テンプレート物体(42)を洗い出すことができる。乾燥すると(溶媒をポリマー(50)から除去すると)、キャビティ(52)は元の大きさ(即ち、ポリマーが溶媒によって膨張する前の大きさ)に戻ってよい。或いはまた、テンプレート物体(42)を分解して洗い出してよい。蛋白質タイプの対象物体(42)を分解するのに適した試薬はプロテアーゼであってよい。ポリマーの構造を損なわない強酸を使用して、対象物体(42)を分解することができる。機能することが分かっているこのタイプの試薬の1つは、酢酸とメタノールの比率が1:9の混合物であり、ポリマーマトリックス(50)を2時間浸すことができる。
【0051】
ポリマーマトリックス(50)からテンプレート物体(42)を除去するために使用されてよい他の方法は、以下の工程を含む:テンプレート物体(42)の少なくとも1つの官能基を、ポリマーよりもよく奪う(compete)流体でポリマー(50)を洗浄する工程;テンプレート物体(42)とポリマーマトリックス(50)の結合を切断する試薬にポリマー(50)を曝す工程;及びテンプレート物体(42)とポリマーマトリックス(50)の結合を壊わす試薬にポリマー(50)を曝す工程、である。
【0052】
シリコンベースのポリマーは、類似のカーボンベースのポリマーよりも硬く、透過性が低く、弾性が低く、そして可撓性が低くなりがちである。この理由のため、テンプレート物体(42)を洗い出すことは、カーボンベースのポリマーからよりも、シリコンベースのポリマーからの方が困難である。しかしながら、ポリマーからテンプレート物体(42)を洗い流すことができる程度の可撓性がポリマーに存在するように、シリコンベースのポリマーを形成するために使用される鎖の長さを選択してよい。
【0053】
テンプレート物体がポリマーマトリックス(50)から除去された後、ポリマーマトリックスは(例えば、真空下の室温で)乾燥されてよい。
【0054】
テンプレート物体(42)が除去された後、ポリマー(50)は、複数のキャビティ(52)と共に残され、キャビティ(52)は、センシングされる物体の官能基の形状及び配置と相補的な官能基(46)の配置を含む。各キャビティ(52)とそれに対応する官能基(46)を、以降、受入部位(reception site)(54)という。
【0055】
分子インプリンティングプロセス、特にモノマーの混合及び重合を、低い温度で実施してよく、官能性モノマー(44)とテンプレート物体(42)の間で相互作用が起こると、それらを反転する熱エネルギーは殆ど又は全くない。これら相互作用の反転は、対象物体(56)を選択的に受け入れることがあまりできない受入部位(54)を形成するので、望ましくない。この理由のために、重合は、例えば、温度上昇を利用する代わりに、UV光を利用して開始されてよい。
【0056】
以下は、分子インプリンティングポリマーセンシング層を作製するための手法の具体例である:
以下の各実施例では、金属層(38)を、ポリマーセンシング層を形成する前にクリーニングする。クリーニングは多段階のプロセスであり、基板(36)及び金属層(38)を、異なる溶液を含む槽中で夫々30分間、順番に洗浄する。使用する溶液の順序は、水溶液中2容積%の中性クリーナー(SODOSIL(登録商標)等)、脱イオン水、イソプロパノール、脱イオン水、エタノール、超音波槽中の脱イオン水、水酸化ナトリウム、脱イオン水、1M塩酸、そして最後に脱イオン水である。その後、基板(36)を窒素雰囲気下で乾燥する。
【0057】
<実施例1>
スタンプ基板(stamp substrate)(図示せず)を上記の方法に従ってクリーニングする。その後、スタンプ基板を、テンプレート物体(42)を含む溶液中でインキュベートする。本実施例では、テンプレート物体はRNase Aである。RNase溶液は、0.05mg/mlのRNase Aを含むリン酸緩衝生理食塩水である。スタンプ基板をRNase溶液に室温で2時間曝す。その後、コーティングされたスタンプ基板を、窒素雰囲気中で乾燥する。一部の実施形態では、RNaseでコーティングされたスタンプ基板をその後、保護糖層(protective sugar layer)でさらにコーティングしてよい。この目的に適した糖は二糖類であり、二糖類の1M溶液を、例えば、RNaseを覆うようにスピンコーティングすることができる。保護糖層は、RNaseの形状を維持するのに役立つので、得られるあらゆる分子インプリンティングポリマーの構造を改善する。
【0058】
架橋性モノマーEGDMA、TEGDMA PEG400DMA及び/又はPEG600DMAが、官能性モノマー4VP、MMA及び/又はSMと混合されているモノマー混合物を生成する。光開始剤DMPAをモノマー混合物に約0.5重量%になるよう添加した。モノマー溶液4μlを、適切にクリーニングされた表面(例えば、上述した方法に従ってクリーニングしたスライドガラスの表面)上にピペットで移す。その後、コーティングされたスタンプ基板を、初めに、気泡が入らないように小さな角度(15°未満)で、モノマー混合物と接触させ、続いて平坦にする。このようにして、モノマー混合物を、スタンプ基板上にコーティングされている対象物体と組み合わせる。その後、スライドガラス、モノマー混合物及びスタンプ基板をスピンコーティング機に入れ、最大約8500rpmの速度で回転させて、モノマー混合物の非常に平坦な表面を生成する。スライドガラスへのモノマー混合物のスピンコーティングは、窒素雰囲気中で行う。その後、スタンプ基板とスライドガラス上にコーティングされたモノマー混合物とを、75mW/cm2の強度の紫外線光源(UV Aはフィルタにかける)下に10分間曝してモノマー混合物を重合させ、分子インプリンティングポリマー層を生成する。重合後、スライドガラスを取り外す。その後、分子インプリンティングポリマー層を、適切な屈折率に合わせた接着剤を用いて、基板(36)上の金属層(38)に取り付ける。その後、スタンプ基板を取り外し、インプリント表面を露出させる。或いはまた、一部の実施形態では、分子インプリンティングポリマー層を金属フィルムでコーティングし、その後基板(36)を、適切な屈折率に合わせた接着剤を用いて、この金属フィルムに取り付ける。これを行う場合、金属フィルムは、金属層(38)を構成する。さらなる代替法として、モノマー混合物を、基板(36)上の金属層(38)上に直接ピペットで移してよい。この場合、スタンプ基板を、金属層(38)上のモノマー混合物と接触させ、モノマー混合物を、基板の金属層上にスピンコーティングし、その後、前述のように重合させる。重合が完了すると、スタンプ基板を取り外して、分子インプリンティングポリマー層を原位置で基板(36)上の金属層(38)上に残すことができる。
【0059】
RNaseテンプレート物体を除去するために、0.8%水酸化ナトリウム及び2%ドデシル硫酸ナトリウムの溶出水溶液を用いる。ポリマーを80°Cの溶出液50mlで30分間洗浄する。これが完了すると、ポリマーを脱イオン水中で5分間、3回洗浄することで安定化させる。これにより、分子インプリンティングポリマー層の作製が完了する。センシング層を直ちに使用しない場合、リン酸緩衝生理食塩水中で保存してよい。
【0060】
<実施例2>
別の実施例では、RNase A分子インプリンティングポリマー層を無機ポリマーとして形成する。ポリシロキサン層(足場(scaffold)といってよい)を、2ステッププロセスで作製して、基板(36)上の金属層(38)上にコーティングする。まず、前加水分解(pre-hydrolysis)溶液(TEOS(架橋性モノマー)1.32ml、脱イオン水(溶媒)0.235ml、0.1M HCl(触媒)0.33ml、及び無水エタノール(共溶媒)0.4mlを含む)を混合する。前加水分解溶液を室温で24時間静置する。その後、前加水分解混合物を、溶液(c-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)(官能性モノマー)0.33ml及び0.1Mドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(マクロ透過性をもたらすために使用される発泡剤)1mlを含む)と混合する。得られた混合物を攪拌して、シラン成分を混合すると共に、ゾルを泡立てる。混合物を(例えば、実施例1に記載のように)対象物体と組み合わせて、スライドガラス又は金属層上にコーティングした後、ゲル化を起こさせる。その後、ポリマーを室温で24時間時効し、40°Cで48時間乾燥させる。全ての試料をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で徹底的に洗浄し、破片(debris)を除去する。センシング層を直ちに使用しない場合、暗所で保存してよい(これにより、センシング層の作用寿命(operational longevity)が延びることが見出されている)。
【0061】
<実施例3>
さらに別の実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、カフェインで分子インプリンティングされる有機ポリマーである。モノマー混合物(カフェイン(テンプレート物体)0.03g、メタクリル酸(MMA)(官能性モノマー)0.54g、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)(架橋性モノマー)5.64g、DMPA(光開始剤)0.1g、及びクロロホルム(ポロジェニック(porogenic)溶媒)1ml乃至20mlを含む)を生成する。その後、モノマー混合物を少なくとも48時間静置する。その後、混合物を音波処理槽(sonicating bath)中で30分間脱気し、窒素で5分間フラッシュする(flush)。
【0062】
モノマー混合物をテンプレート混合物と直接混合するので、スタンプ基板を使用する必要はない(とはいえ、この方法も機能するだろう)。代わりに、モノマー混合物200μlを基板(36)上の金属層(38)上に3600rpmで1分間スピンコーティングする。モノマー混合物をスピンコーティングしながら、360nmにてUV照射し、重合プロセスを開始する。
【0063】
ポリマー層が形成された後、メタノールと酢酸が4:1の容積比率である混合物を使用して、テンプレート物体を除去し、この混合物でポリマーを最大24時間洗浄する。テンプレート物体をポリマー層から洗い出すのにかかる時間は、ポリマー層の厚さに依存する。層が薄い程、テンプレート物体を洗い出すのにかかる時間は短くなる。例えば、本実施例で生成したポリマー層は、10分間の洗浄が必要である。テンプレート物体を除去する別の方法では、個別の溶媒(酢酸、アセトニトリル、リン酸、メタノール、エタノール、及びテトラヒドロフラン等)で順番に洗浄する。必要に応じて、最後にポリマーの表面を緩衝液又は蒸留水で洗浄してよい。
【0064】
本実施例では、分子インプリンティングポリマー内でカフェインに官能基結合するのは(functional binding)、MMAのカルボキシル基の水素原子が、カフェインのカルボニル基の酸素原子と水素結合を形成することに主に由来する。しかし、他の静電気力及び疎水性π-π相互作用が寄与してもよい。
【0065】
<実施例4>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、無機カフェインインプリンティングポリマーである。これを、モノマー混合物(塩酸を加えてpHを1.2にした水(溶媒)7.2g、TEOS(モノマー)20.8g、及びエタノール(共溶媒)14.4gを含む)を生成することによって作製する。モノマー混合物をカフェインと混合し、24時間撹拌して反応を起こさせた。モノマー混合物をテンプレート混合物と直接混合するので、スタンプ基板を使用する必要はない(とはいえ、この方法も機能するだろう)。代わりに、カフェインテンプレート物体を含むモノマー混合物の一部を、基板(36)上の金属層(38)上にスピンコーティングする。その後、ポリマーを、密閉したオーブン中で24時間60°Cで乾燥させる。乾燥後、室温で少なくとも12時間、ポリマーを静置して、安定化させる。
【0066】
得られるポリマーの性能は、モノマー混合物が酸性である(pH1−6)場合に向上することが分かった。得られるポリマー内へのカフェインの受け入れは、溶媒の極性が高まるともに低下することが分かった。これは、極性のある添加剤が、モノマー混合物内のテンプレート物体と官能性モノマーとの水素結合相互作用に干渉することができるためであると考えられる。
【0067】
ポリマーが形成された後、ポリマーをエタノール中で洗浄することで、テンプレート物体を溶出する。或いはまた、テンプレート物体を600°Cのか焼(calcination)によっ
て除去してよい。乳酸で洗浄することで(これによりシリカ網(silica network)が緩むと考えられる)、インプリンティングポリマーの透過性を改善してよい。
【0068】
<実施例5>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、パラオクソンインプリンティングゾルゲルである。モノマー混合物を以下のように生成する:TEOS(モノマー)3ml(13.5mmolに相当)を、PTMOS(モノマー)200μl(1.2mmolに相当)及びエタノール(共溶媒)3mlと、澄明になるまで混合する。その後、濃塩酸100μlを加えて混合物を酸性にする。その後、APTES(モノマー)200μl(0.9mmolに相当)を、水(共溶媒)1mlと共に加える。混合物を音波処理槽中で最大30分間脱気し、その後窒素で5分間フラッシュする。その後、モノマー混合物2mlを、パラオクソンのエタノール溶液200μl(0.02mmolに相当)と混合する。混合物を24時間静置する。次に、反応したモノマー混合物30μlを、基板(36)上の金属層(38)上に、4000rpmで20秒間スピンコーティングする。これにより、厚さ534+/−6nmのポリマーフィルムが生成されることが分かった。その後、コーティングされた基板を室温で24時間乾燥させる。パラオクソンを、インプリンティングゾルゲルからソックスレー抽出器を用いてエタノールで抽出する。
【0069】
<実施例6>
類似のパラオクソンインプリンティングゾルゲルを、モノマー混合物を使用して以下のように生成することができる:TMOS(モノマー)3ml(20.3mmolに相当)を、2-エトキシエタノール(共溶媒)3ml、PTMOS(モノマー)370μl(2.2mmolに相当)、及びTMOS−CTAC(モノマー)420μl(0.6mmolに相当)と、澄明になるまで混合する。その後、0.1M塩酸1ml及び水(共溶媒)1mlを加える。その後、混合物を2時間室温で攪拌し、音波処理槽中で最大30分間脱気し、その後窒素で5分間フラッシュする。次いで、モノマー混合物2mlを、パラオクソンの0.1Mエタノール溶液200μlと混合する。次いで、反応したモノマー混合物30μlを、基板(36)上のクリーニングした金属層(38)上に、4000rpmで20秒間スピンコーティングする。これにより、厚さ534+/−6nmのポリマーフィルムが生成されることが分かった。その後、コーティングされた基板を室温で24時間乾燥させる。この場合も、パラオクソンを、インプリンティングゾルゲルからソックスレー抽出器によりエタノールで抽出する。
TEOSベースのゾルゲルは、酸性の加水分解条件下で、TMOSベースのゾルゲルよりゆっくりと加水分解することが分かった。
【0070】
<実施例7>
パラオクソンインプリンティングゾルゲルを生成するさらに別の方法は、以下の物質からなるモノマー混合物を使用するものである:TMOS:PhTMOS:APTES:エタノール:塩酸:水(モル比1:0.1:0.1:4:0.003:4)である。パラオクソンのエタノール溶液を添加した後、反応したモノマー混合物を、基板(36)上の金属層(38)上に、4000rpmで20−60秒間スピンコーティングする。ゾルゲルが乾燥した後、テンプレートパラオクソン分子をエタノール中に抽出する。或いはまた、これらを50容積%メタノール水溶液(1.0M水酸化カリウムを含む)で最大24時間洗浄することにより抽出してよい。
【0071】
<実施例8>
さらなる実施例では、分子インプリンティングポリマー層は、コレステロールインプリンティング有機ポリマーである。本方法は、他の有機ポリマーについて上記説明したものとほとんんど同じである。モノマー混合物は以下を含む:コレステロール(テンプレート)0.387g、メタクリル酸MMA(官能性モノマー)0.682ml、EGDMA(架橋性モノマー)4.72ml、AIBN(熱開始剤)又はDMPA(UV開始剤)0.05g、及びクロロホルム(溶媒)7.5mlである。別の溶媒(エタノール、トルエン、ヘプタン又はヘキサン等)を使用してよい。コレステロール溶媒の混合は、例えば最大60°Cで行ってよい(これによりコレステロールは完全に溶解する)。使用してよい別の官能性モノマーには、4-ビニルピリジン、スチレン及びシクロデキストリンがある。使用してよい別の架橋性モノマーには、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパン及びトリメタクリレートがある。重合後、クロロホルムを除去し、ポリマーを真空オーブン内にて12時間室温で乾燥させる。
【0072】
<実施例9>
コレステロールインプリンティングゾルゲルを、以下のモノマー混合物により作製してよい:TEOS(200mmolに相当)41.7g及び無水酢酸(400mmolに相当)40.8gを、140°Cで12時間混合した後に、コレステロール7.73g(20mmolに相当)を加えたもの。これら成分を最大2日間混合し、その後最大60°Cで乾燥させる。
【0073】
<実施例10>
或いはまた、コレステロールインプリンティングゾルゲルを、以下のモノマー混合物により作製してよい:TEOS(50mmolに相当)10.4g、THF50ml、蒸留水9ml及び触媒としてのアンモニア水溶液(25重量%)0.01mlに続いて、コレステロール1.93g(5mmolに相当)を加えたもの。
【0074】
容積比率が1:1の酢酸及びテトラヒドロフランの混合物、又は容積比率が4:1のクロロホルム及び酢酸の混合物でポリマーを洗浄することで、無機コレステロールインプリンティングポリマーから、テンプレート物体を除去してよい。テンプレートの除去に使用してよい別の物質には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、メタノール、酢酸、アセトン及びエタノールがある。
【0075】
図2を再び参照すると、シランを使用して、インプリンティングポリマー層(34)を金属層(38)に接着するのを補助してよい。例えば、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS)を使用して、金属とポリマーを(又はガラスとポリマーを)接着するの補助する。他のシラン(ビニルトリメトキシシラン(VTS)等)は、得られたポリマーの耐腐食特性を促進する。シランを付与する方法は、ごく一部を適切な溶媒に、例えば95容積%エタノール及び5容積%水の混合物に添加するステップを含む。その後、この混合物をモノマー混合物に加えることができる。別の方法は、別の生成ステップを含んでおり、シラン層は、金属層(38)上に独立して付与される。その後、分子インプリンティングポリマーをシラン層上にコーティングする。
【0076】
分子インプリンティングポリマーが形成されると、それは、センシング層として使用され得る。図5は、分子インプリンティングポリマー(50)のキャビティ(52)が、対象物体を受け入れて保持する模様を示している。キャビティ(52)とそれに対応する官能基(46)とを合わせて、本明細書では受入部位(54)という。対象物体(56)(即ち、センシングされる物体)は、受入部位(54)に収まり、さらに、種類及び相対的な位置の両方の面で、受入部位(54)の官能基と相補的な官能基(57)を有している。受入部位に組み合わされるのに必要な形状を有していない他の物体は、キャビティに受け入れられず、保持されない(物体は、キャビティを通過するか、キャビティに入らない)。
【0077】
各受入部位(54)が必ずしも同一であるとは限らない。受入部位(54)が形成されるプロセスにおいて(図4(a)を参照)、モノマー(44)は自身をテンプレート物体(42)の周囲にランダムに配置するが、これは、モノマー(44)の官能基と、テンプレート物体(42)の対応する官能基との相互作用によってのみ支配される。このため、キャビティ(52)の正確な大きさ及び形状に加えて、対応する官能基(46)の位置、配向(orientation)及び種類が、特定の受入部位(54)を形成するのであって、それらは変化し得る。
【0078】
受入部位(54)が機能して対象物体を保持可能なように受け入れるために、キャビティ(52)は対象物体(56)を受け入れる程十分に大きいこと、そして、受入部位(54)の官能基(46)の相対位置及び種類は、対象物体(56)の官能基(57)と対応することが望ましい。このような理由から、分子インプリンティングポリマー(従って、受入部位(54))を形成する際に、対象物体(56)とは異なるテンプレート物体(42)を使用することも可能である。しかしながら、この場合、そのように生成された受入部位は、対象物体(56)を受入可能な大きさを有し、対象物体上の官能基(57)と相互作用するように、対応する相対位置及び種類の官能基(46)を有するべきである。
【0079】
ある特定の実施形態では、対象物体(56)は、リボヌクレアーゼ(RNaseとしても知られている)である。しかしながら、対象物体は、選択された任意の生体分子であってよい。例えば、対象物体は、アルカリホスファターゼ(ALP)を含む任意の酵素であってよい。RNase及びALPは両方とも比較的大きな生体分子であり、分子量は、モル当たり500gを超える。しかしながら、対象物体(56)は、より小さな分子であってもよい(例えば、分子量がモル当たり500g未満である)。小さな分子の例には、有機リン酸塩(例えばパラオクソン)やアルカロイド(例えばカフェイン)がある。
【0080】
分子インプリンティングポリマー層の透過性によって、比較的小さな対象物体(56)は十分に小さいのでマトリックス(50)中の受入部位(54)へ拡散できるが、比較的大きな対象物体は大きすぎてマトリックス(50)へ拡散できない。対象物体(56)が大きすぎてマトリックス(50)へ拡散できない場合、対象物体(56)は、マトリックス(50)の表面上に分子インプリンティングされた受入部位によって受け入れられたままでもよい。これにより、分子インプリンティングポリマーは、センシングされるべき対象物体の存在を許容できる。
【0081】
分子インプリンティングポリマーは、例えば、図1に関連して上述したように、光センサの一部を形成してよい。光センサは、例えば、非常に純粋な水(例えば、化学分析用途で使用される)を生成するために使用される浄化システムの一部を形成してよい。光センサは、例えば、水中の生物剤(細菌を含む)又はそれらが生成するエンドトキシン等の汚染物の存在を監視するよう構成されてよい。多種多様な細菌を(もはやそれらが生きていない場合であっても)検出するために、細菌の構成要素である物体を検出することが可能である。その1つの例はRNaseである。RNaseは、細菌によって使用され、リボ核酸即ちRNAの加水分解を触媒し、より小さな構成要素にする酵素である。細菌は、生きている間にRNaseを分泌し、分解したときにもRNaseを放出する。このため、RNaseの存在は、生きた細菌又は死んだ細菌の存在の指標である。光センサは、水中のRNaseの存在を検出するよう構成されてよい。
【0082】
図2を再び参照すると、光センサの導波路(12)は、金属層(38)上に設けられた分子インプリンティングポリマー層(34)を備える。導波路(12)は、流体(31)が流れる流路(32)と流体連通している(流れを矢印Aで示す)。金属層(38)は基板(36)上に設けられている。RNase(56)は、流路(32)内の水(31)中に存在する(流路は水浄化システムの一部を形成してよい)。水(31)及び懸濁RNase(56)が流路を流れると、水及びRNaseが(層の透過性表面(40)を介して)分子インプリンティングポリマー層(34)内に流れ込む。分子インプリンティングポリマー層(34)は、複数の受入部位(54)を備えている。RNase(56)が分子インプリンティングポリマー層(34)中を移動するとき、RNaseは受入部位(54)を通過する。RNaseの配向は変化し、RNaseは、異なる配向を有する多数の受入部位(54)を通過する。RNase(56)は、配向及び官能基(46)を有する受入部位に出会うと、官能基と相互作用し、受入部位(54)に保持されるよう配置される。
【0083】
図3は図2に対応しており、幾つかの受入部位(54)は、RNase(56)を受け入れて保持している。図3に示していないが、RNase(56)は、分子インプリンティングポリマー層(34)の表面にある受入部位(54)に受け入れられ保持されてもよい。分子インプリンティングポリマー層が、RNaseを表面(40)を介して層内に通過させる程度に透過性でない場合、RNaseは、層(34)の表面(40)にある受入部位(54)によってのみ受け入れられ保持されてよい。
【0084】
分子インプリンティングポリマー層(34)が対象物体(56)を保持すると、分子インプリンティングポリマー層の光学特性が変化する。これにより、伝搬光(propagating light)が導波路(12)を伝わる向きが影響を受けるので、光のパラメータの変更を測定することができる。例えば、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率が変化すると、検出器(30)で見られる光の強度が変更される(図1参照)。ある例では、RNase(56)が受入部位(54)によって保持されている。これにより、受入部位(54)に以前に存在していた水と置き換わる。RNase(56)の屈折率は水の屈折率と異なるため、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率は変化する。これにより、分子インプリンティングポリマー層(34)中のRNase(56)の存在を光学的に検出することができる。
【0085】
センシング層(34)内の対象物体(例えばRNase)の存在を光学的に検出するために、図1に示す装置を用いて光を導波路(12)に向かわせる。光は導波路(12)に特定の入射角Bで向かって(図2参照)、金属層(38)を通って分子インプリンティングポリマー層(34)とカップリングし、導波路(12)の導波モードを励起する(即ち、導波モードとカップリングされる)。導波モードとのカップリングを与える入射角Bは、共鳴入射角という。
【0086】
導波モードは、分子インプリンティングポリマー層(34)内の中央にある(centred)。導波モードは漏れモード(leaky mode)であり、結果として一部の光が導波モードからカップリングアウトする。光は、共鳴入射角(resonant incident angle)Bと等しい出口角Cで、導波モードからカップリングアウトする。光が導波モードにカップリングする共鳴入射角Bの値(出口角Cの値でもある)は、分子インプリンティングポリマー層(34)の屈折率が変化する場合、変化する。
【0087】
漏れ導波モードにカップリングされない導波路(12)への入射光は、導波路(12)から反射される。
【0088】
光が導波モードに共振入射角Bでカップリングされ、その後再びカップリングアウトされるとき、位相シフト(phase shift)を受ける。金属層(38)は、この位相シフトを強度の変化に変換するよう作用する。これにより、光導波路への共振カップリング(resonant coupling)の存在を、強度検出器を用いて検出することができる。
【0089】
金属層(38)は、ポリマー層(34)よりもかなり高い屈折率を有する。ポリマー層(34)と比較した金属層(38)のこの高い屈折率は、ポリマー層(34)内を伝播した光を、ポリマー層と金属層の境界から反射させる。このため、ポリマー層(34)内を伝播した光は、ポリマー層からカップリングアウトされる前に、ポリマー層内をさらに伝播する。
【0090】
金属層(38)とポリマー層(34)の屈折率の差のサイズを大きくすると、ポリマー層と金属層の境界の反射率が増す。ポリマー層と金属の境界の反射率が増すと、光は、ポリマー層(34)からカップリングアウトされる前に、ポリマー層内をさらに伝播する。これにより、光とポリマー層(34)の相互作用が増し、ポリマー層の光学特性の変化に対する導波路の感度が増す。
【0091】
金属層(38)の屈折率の大部分は、屈折率の複素成分に起因する。その結果、金属層(38)は、導波路(12)に向けられる光を吸収する(ポリマー層(34)よりもかなり吸収する)。金属層には、導波路(12)に向けられる光の大部分が、金属層(38)を通過し、ポリマー層(34)にカップリングする(そして金属層に戻って通過する)ことができる程十分に薄い厚さが与えられる。
【0092】
図2及び図3に示す導波路は金属層を有するが、適切な任意の材料層が金属層(38)の代わりに使用されてよい。使用される材料は、ポリマー層(34)よりも高い屈折率を有するべきである。材料層は、導波路(12)に向けられた光の大部分がポリマー層(34)へ通過できる程十分に薄くされるべきである。適切な材料の例は、(金属に加えて)染料及びカーボンナノチューブを含む。
【0093】
金属は、波長の広い範囲に亘って高い屈折率を有する傾向にあるが、染料は、波長の比較的狭い範囲について高い屈折率を有する傾向にある。結果として、金属層を有する導波路は、染料層を有する導波路よりも広い波長の範囲に亘る光と共に使用されてよい。
【0094】
別の構成では、金属層(38)は、導波路に存在しない。この場合、位相シフトは、例えば、導波路と検出器(30)の間に位置する第2偏光子(28)を使用することによって検出されてよい。第2偏光子(28)は、第1偏光子(22)(光源(16)と導波路(12)の間に位置する)に対し交差していてよく、位相変化を受けた光だけが透過する。これにより、導波路への共振カップリングの存在を、強度検出器を用いて検出することができる。位相シフトは、代わりに、他の手段、例えば干渉計(マイケルソン干渉計又はマッハ-ツェンダー干渉計等)を用いて検出されてよい。
【0095】
共鳴入射角Bの入射光を用いて漏れ導波モードが導波路(12)で励起される場合、これは、角度Cで検出される光強度のピーク(又はある状況ではデイップ(dip))として見られる。金属層(38)が導波路(12)に存在する場合には、(とりわけ)金属層の屈折率が、ピークが見られるかディップが見られるかを決定してよい。
【0096】
図6乃至図8は、金属層(38)の屈折率に応じて、導波路(12)の反射率の異なるスキームを示すグラフである。シミュレーションを使用して作成されたグラフは、入射角B(ここではθで示す)の関数として、導波路(12)の反射率(R)を示す。他の変数(金属及びセンシング層の厚さと、センシング層の屈折率を含む)は一定に保たれている。図6は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約0.7より小さい(例えば金)。図7は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約0.7乃至約1.4である(例えばアルミニウム)。図8は、金属層(38)について反射率と入射角の関係を示しており、屈折率の実成分は約1.5より大きい(例えばチタン)。
【0097】
図6乃至図8に示すグラフのピークとトラフは、導波路(12)の共振入射角Bの指標となる。なぜなら、ピーク又はトラフと共鳴入射角Bの間に一定の関係が存在するためである。グラフからわかるように、ある場合には、反射強度のピークを検出することが容易であり、他の場合には、反射強度のディップを検出することが容易である。この説明では、反射強度のピークの検出を記載する。しかしながら、反射強度のディップの検出も同等に行われてよい。
【0098】
光が漏れ導波モードにカップリングする共振入射角Bは、センシング層(34)の光学特性に、特にセンシング層の屈折率に依存している。図3を参照すると、対象物体(56)(例えばRNase)は、水(31)よりも高い屈折率を有する。従って、RNaseが受入部位(54)において水と置き換わると、センシング層(34)の屈折率が大きくなる。この屈折率の増大により、漏れ導波モードが導波路(12)において励起される共振入射角Bが変化する(そして、これに対応して、光が導波モードからカップリングアウトされる角度Cが変化する)。このことは、水(31)(又は他の流体)中のRNase(又は他の対象物体)の存在が、漏れ導波モードを導波路において励起するために必要な共振入射角Bの変化によって示されてよいことを意味している。
【0099】
共鳴入射角Bの変化は、角度範囲に亘って光を導波路(12)に向けることで、そして角度範囲に亘って導波路から出力される光を測定することで分かる。或いはまた、導波路(12)に共鳴入射角で光を向けることで、そして導波路から出力される光(導波路からカップリングアウトされた光、又は導波路の端部から透過された光の何れか)を監視することで分かる。この方法が使用される場合、光が導波路に向けられる角度はもはや共振角でないから、センシング層(34)の屈折率の変化は、導波モードにカップリングされる光の量を減らす。これは、導波路から反射される光の強度の変化(又は導波路の端部から透過された光の強度の変化)として分かる。
【0100】
図9は、本発明を実施する導波路から反射強度のピークが見られる角度の変動を示すグラフである。反射強度のピークの変動は、検出器のピクセル単位で測定される。ピークの変動は、カフェインがエタノール中に様々な濃度で溶解された試料について測定される。図9において白丸は、カフェインにより分子インプリンティングされたポリマー層を有する導波路(上記の実施例3に従って生成した)により得られた結果である。図9において黒丸は、分子インプリンティングされていないポリマー(以下、非インプリンティングポリマー(NIP)と称する)層を有する導波路により得られた結果である。NIPを有する導波路は、上記の実施例3に従って生成されたが、重合前にモノマー混合物中にカフェインを含ませなかった。
【0101】
図1に示す装置を使用して光を各導波路に向けることで結果を得た。入射角の範囲に亘って導波路に光を向けた。用いた検出器(30)はCCDアレイであった。入射光の最大強度を測定するCCDアレイ内のピクセル(以下、このピクセルをピークピクセルと称する)の位置におけるシフトを測定することで、導波モードの共鳴入射角の変化を測定した。ピークピクセルの位置のシフトを、カフェインがエタノール中に存在しない場合に見られるピークピクセルの位置と比較して測定した。
【0102】
ピークピクセルの位置を、NIPポリマー層を有する導波路を用いて測定した。ピークピクセルの位置を測定する前に、導波路のNIPポリマー層(34)を、異なる濃度でエタノール中に溶解したカフェイン溶液のグループの1つに10分間曝した。使用したカフェイン濃度は、10-6M、10-5M、10-4M、10-3M及び10-2Mであった。NIPポリマー層内にカフェイン用の受入部位(54)は存在しないので、ポリマー層の屈折率の変化(従って、共鳴入射角の変化)は見られない。各濃度のカフェイン溶液に曝したNIPポリマー層を有する導波路について測定したピークピクセルの位置を、カフェインがエタノール中に存在しない場合に測定したピークピクセルの位置と比較した。
【0103】
ピークピクセルの位置を、本発明の実施形態によるカフェイン感受性(caffeine sensitive)分子インプリンティングポリマー層(34)を有する導波路を用いて測定した。ここでも、ピークピクセルの位置を測定する前に、ポリマー層(34)を、異なる濃度でエタノール中に溶解したカフェイン溶液のグループの1つに10分間曝した。ここでも、使用したカフェイン濃度は、10-6M、10-5M、10-4M、10-3M及び10-2Mであった。カフェインをテンプレート物体として使用して分子インプリンティングポリマー層を作製したので、カフェインは、ポリマー層(34)の対象物体である。かなりの数のカフェイン分子が受入部位(54)と結合するのに十分な時間は、この場合、10分であると考えられる。他の場合では、他の暴露時間が用いられてよい(例えば最大24時間)。受入部位(54)によって受け入れられたカフェイン分子は、ポリマー層(34)の屈折率を変えるので、光が導波路(12)にカップリングされる共振入射角Bを変える。図9の白丸からわかるように、ピークピクセルの測定位置は、カフェイン溶液の濃度が高くなるにつれて高くなった。
【0104】
図10は、カフェイン感受性の分子インプリンティングポリマー層を有する導波路のピクセルピーク位置とNIPポリマー層を有する導波路のピクセルピーク位置との差を、カフェイン溶液の濃度の関数として示している。点を結ぶ線は、3パラメータシグモイドフィット(3 parameter sigmoid fit)を使用して作成された最適フィット線である。図10のグラフは、分子インプリンティングポリマー層を有する導波路が、カフェイン対象物体に約5×10-4M以上の濃度で10分間曝された場合のピークピクセルの測定可能な変動を示すことを示している。ピークピクセルの測定可能な変動は、ポリマー層(34)を低濃度のカフェインに10分より長い時間曝すことによっても達成されると考えられる。
【0105】
本発明に係るセンサは、浄化システムの一部として使用されてよい。例えば、水の場合、RNase(又は他の対象物体)が水中に検出された場合、水は汚染されていることが分かる。この場合、水は廃棄され、水を浄化するために使用される浄化システムは、汚染物を除去するためにクリーニングされる。センサは、選択した任意の液体を浄化する浄化システムの一部として使用されてよいことに注目すべきである。
【0106】
センシングされる物体の存在に起因するポリマー層(34)の屈折率の変化は、受入部位(54)の特定の屈折率を有する液体が、異なる屈折率を有する対象物体により置換されることに由来する。上記実施形態では、液体は水であり、対象物体は、水よりも大きい屈折率を有する。このため、水が対象物体により置換されると、ポリマー層(34)の屈折率は大きくなる。しかしながら、液体が対象物体より大きい屈折率を有する場合、対象物体は、受入部位(54)に受け入れられると、ポリマー層(34)の屈折率の低下をもたらす。ポリマー層(34)の屈折率の低下の検出は、ポリマー層(34)の屈折率の増大の検出と似たように検出されてよい。
【0107】
水浄化システム内の汚染物を検出するために光学センサを使用することで、2つの利点が得られる。第1に、特定の細菌型を検出することに限定されるのではなく、広範囲の細菌を検出することができる(なぜなら、細菌の存在及び/又は分解による生成物をセンシングするからである)。このため、広範囲の細菌を検出することができるだけでなく、最近死んだ細菌でも検出することができる。第2に、現在存在している、RNase用の多くのテストとは異なり、RNaseは、検出されるために活性である必要はない。現在のテストは、RNaseの存在を示すために、RNaseの活性を反応中に利用することに依存している。しかし、本発明の実施形態は、RNaseが受入部位(54)に受け入れられ、それ故に検出されるために必要とされるのは、官能基の形状と相対的な配向だけであるから、RNaseが活性であることを必要としない。このため、変性されたRNaseを、活性RNaseと同じくらい容易に検出することができる。これにより、RNaseを広範な環境において、例えば広い温度及びpH値の範囲に亘って、検出することができるという利点がある。RNaseはまた、種々の溶媒タイプにおいて検出される。これにより、バッファ等の追加の試薬の必要性が排除され、RNaseの検出を水中で行うことができる。
【0108】
RNaseを検出する際に試薬及び特別な環境条件についての必要条件がないので、センサ(10)が、連続的な検出レジームの一部を形成することができるというさらなる利点がある。連続的な検出レジームでは、センサ(10)は、流体(例えば水)が連続的に流れる流路(32)内と繋がっている。検出器は、流体中の対象物体の存在(或いはその反対)をリアルタイムで表示する連続的な出力信号を与える。
【0109】
対象物体(56)と分子インプリンティング受入部位(54)の相互作用の強さは、高くて良い。結果として、対象物体(56)が受入部位(54)中に一旦保持されると、場合によっては対象物体(56)を除去することができない。このような状況では、光センサ(10)、又は光センサ(10)の少なくとも導波路(12)部分は、1回使用のデバイスとなり、汚染が検出されると交換される。
【0110】
場合によっては、分子インプリンティングプロセス中にテンプレート物体(42)を除去するために使用されるプロセスと同様のプロセスを使用して、対象物体(56)を除去することが可能である。これを行う場合、光センサ(10)は再利用されてよい。対象物体を除去するプロセスは、対象物体を含む流体が、センサ(10)を超えて流れることを防止すること、及びその後別の流体をセンサ(10)を超えて流すことを含む。別の流体は、結合した対象物体(56)を受入部位(54)から除去するために適切な試薬を含んでいる。対象物体が除去されると、別の流体を流すことを止める。その後、センサ(10)の正常な動作が再開される。
【0111】
図11及び図12は、導波路(12)が構築される2つの代替的な方法を概略的に示している。図11において、導波路(12)は、金属層(38)、分子インプリンティングポリマー層(34)、及び流体(31)が流れてよい流路(32)(使用時、流路は水又は他の流体を含む)を含む。流路(32)は、分子インプリンティングポリマー層(34)に液密に(fluid-tight)に取り付けられ得るフローセルの形態(図示せず)をとってよい。導波モード(59)は、流路(31)内の流体より高い屈折率を有する分子インプリンティングポリマー層(34)の中央にある。
【0112】
図12において、導波路(12)は、金属層(38)、導波路層(58)、分子インプリンティングポリマー層(34)及び流路(32)を含む。導波路層(58)は、金属層(38)と分子インプリンティングポリマー層(34)の間に位置し、分子インプリンティングポリマー層より高い屈折率を有する。導波モードは導波路層(58)の中央にあり、導波モードのエバネッセント成分は分子インプリンティングポリマー層内へ広がる。
【0113】
図11及び図12に示す別の導波路構造は、同じように機能する。両者の相違は、図11に示す導波路の感度が、図12に示す導波路の感度よりも高いということである。これは、より多くの光が分子インプリンティングポリマー層(34)内を通過するためである。言い換えれば、図11に示す実施形態では、分子インプリンティングポリマー層(34)は1つであり、導波路層(58)と同じであるので、分子インプリンティングポリマー層(34)と入射光との相互作用はより強く、対象物体に対する高い感度をもたらす。
【0114】
前述したように、本発明に係る光センサの一部を形成する導波路の共振入射角は、分子インプリンティングポリマー層の屈折率に依存する。他の要因が共鳴入射角に影響を及ぼしてもよい。
【0115】
図13及び図14は、3つの異なる導波路の応答を示すグラフである。具体的には、図13及び図14は、3つの導波路について、入射角の関数として測定した放射強度のグラフを示す。これらグラフに示す結果は、図1に示す装置を使用して、光を各導波路に向けることで得た。入射角の範囲に亘って各導波路に光を向けた。この場合、使用した光源はレーザであり、検出器により、任意の単位で光強度を測定した。
【0116】
各導波路は、上記の実施例4に詳述した方法に従って作製したカフェインインプリンティングゾルゲル層である分子インプリンティング層を有していた。各導波路は、分子インプリンティングポリマー層を金属層上に異なる速度及び/又は異なる時間スピンコーティングすることによって形成した以外、同じであった。分子インプリンティングポリマーを金属層上に異なる条件(例えば、異なるスピン速度及び/又は異なる時間)下でスピンコーティングすることで、形成される分子インプリンティング層の厚さ、並びに/又は形成される分子インプリンティングポリマー層の表面上のあらゆる表面不完全性の程度及び/若しくは重大度に影響が及ぶ。他の変数(金属層の厚さを含む)は一定に保った。
【0117】
図13において、線(80)、線(81)及び線(82)は夫々、8000rpmで30秒間、7000rpmで20秒間、及び7000rpmで30秒間、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングすることで作製した3つの独立した導波路の応答を示している。導波路の応答は、外側カップリング角の関数として示されている。図1を参照すると、外側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)に入射される方向との間の角度である。
【0118】
図14において、線(83)、線(84)及び線(85)は、図13におけるのと同じ導波路の応答を示しており、導波路は、夫々8000rpmで30秒間、7000rpmで20秒間、及び7000rpmで30秒間、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングすることで作製した。導波路の応答は、内側カップリング角の関数として示されている。図1を参照すると、内側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光が、導波路(12)に向かって伝播するときの、プリズム(14)を通過する方向との間の角度である。
【0119】
図13及び図14は、導波路の共振入射角(グラフ内の各ピーク位置に関連している)が、分子インプリンティングポリマー層をスピンコーティングするために使用される条件によって影響されることを示している。具体的に、グラフは、短い時間(20秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路が、長い時間(30秒間)スピンコーティングされた導波路の共振入射角より約2度小さい共鳴入射角を有することを示している。
【0120】
図13及び図14のグラフはまた、短い時間(20秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路から出力された光の測定強度が、長い時間(30秒間)スピンコーティングされた分子インプリンティングポリマー層を有する導波路から出力された光の測定強度よりも小さいことを示している。
【0121】
比較的長い時間スピンコーティングされた導波路の共振入射角が大きくなること、そして光出力強度が大きくなることは、スピンコーティング時間を増やすと、形成される分子インプリンティングポリマー層の表面上の任意の表面不完全性の程度及び/又は重大度が低下するという事実に起因する可能性がある。表面不完全性の程度及び/又は重大度を下げることで、分子インプリンティングポリマー層の表面はより平坦となる。分子インプリンティングポリマー層の表面をより平坦にすることで、分子インプリンティングポリマー層の表面に入射する光(表面によって散乱される)の量が減る。スピンコーティング時間を増やすことで、形成される分子インプリンティングポリマー層の厚さを薄くしてよい。
【0122】
図15及び図16は、4つの異なる状態での導波管の応答を示すグラフである。具体的には、これらグラフは、4つの異なる状態での導波路の入射角の関数として測定した放射強度を示している。結果は、図1に示す装置を使用して、光を各導波路に向けることで得た。入射角の範囲に亘って各導波路に光を向けた。この場合、使用した光源はレーザであり、検出器により任意の単位で光強度を測定した。
【0123】
図15及び図16に示す結果を得るために使用した導波路は、上記の実施例4に詳述した方法に従って作製したカフェインインプリンティングゾルゲル層である分子インプリンティング層を有していた。導波路の応答を測定した第1状態は、導波路を生成した後に導波路の分子インプリンティングポリマー層を水で洗浄した場合であった。導波路の応答を測定した第2状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄した場合であった。導波路の応答を測定した第3状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄し、その後カフェイン溶液に1分間曝した場合であった。導波路の応答を測定した第4状態は、分子インプリンティングポリマー層を水、次いでエタノールで洗浄し、その後カフェイン溶液に5分間曝した場合であった。
【0124】
図15及び図16において、線(86)及び線(90)は、第1状態の導波路の応答を示し、線(87)及び線(91)は、第2状態の導波路の応答を示し、線(88)及び線(92)は、第3状態の導波路の応答を示し、線(89)及び線(93)は、第4状態の導波路の応答を示している。
【0125】
図15に示す様々な状態での導波路の応答は、外側カップリング角の関数として示される。図1を参照すると、外側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)に入射する方向との間の角度である。図16に示す様々な状態での導波路の応答は、内側カップリング角の関数として示される。図1を参照すると、内側カップリング角は、導波路(12)の表面の法線と、光源(16)からの入力光がプリズム(14)を通過する方向との間の角度である。
【0126】
図15及び図16は、導波路の共振入射角(グラフ内の各ピーク位置に関連している)が、分子インプリンティングポリマー層をカフェインに曝した導波路の2つの状態(第3状態と第4状態)について、分子インプリンティング層を水で洗浄しただけの導波路の状態の共振入射角、又は水とエタノールで洗浄した導波路の状態の共振入射角と夫々比較してより大きいことを示している。具体的には、カフェインに曝した分子インプリンティングポリマー層を有する導波路の状態(第3状態と第4状態)は、分子インプリンティングポリマー層を水で洗浄しただけの導波路の状態(第1状態)、又は水とエタノールで洗浄した導波路の状態(第2状態)よりも夫々約0.5度大きい共鳴入射角を有する。前述のように、これはカフェインが分子インプリンティングポリマー層中の受入部位と結合することで、分子インプリンティングポリマー層の屈折率を増大させるためである。
【0127】
さらに、導波路の共振入射角は、導波路の第4状態(線(89)及び線(93)の各ピーク位置に関連している)について、導波路の第3状態(線(88)及び線(92)の各ピーク位置に関連している)よりも大きいことがわかる。これは、第4状態の導波路を、第3状態の導波路よりも長く対象物体(カフェイン)溶液に曝したためであると考えられる。このため、対象物体(カフェイン)が第4状態の導波路の受入部位と結合する機会が、第3状態の導波路に比べて多くあった。この理由のため、対象物体(カフェイン)は、第3状態の導波路よりも第4状態の導波路と多く結合したため、第3状態の導波路よりも大きい規模で、第4状態の導波路の屈折率が増大した。
【0128】
先の説明では、漏れ導波モードへの光の共振カップリングが、センシング層の屈折率の変化を検出するために使用された。別の構成においては、表面プラズモン共鳴を利用して屈折率の変化を検出してよい。表面プラズモンは、金属と誘電体の界面に沿って伝搬する表面電磁波である。電磁波は、金属と誘電体の境界上にあるので、この境界のあらゆる変化に対して非常に敏感である。分子インプリンティングポリマー層が金属層の上に配置され、表面プラズモン共鳴を利用して分子インプリンティングポリマー層の光学特性の変化を検出する導波路が構成されてよい。
【0129】
他の光学検出機構を使用して、分子インプリンティングポリマー層の屈折率(又は他の光学特性)の変化を検出してよい。
【0130】
漏れ導波モードをもたらす導波路によって、表面プラズモン共鳴のために使用される材料と比べて比較的低い屈折率を有する材料を用いて、分子インプリンティングポリマー層(34)又は導波路層(58)を形成することができる。これは、様々な材料(例えばポリマー、ゾルゲル、又はハイドロゲルを含む)を使用することを容易とする。
【0131】
漏れ導波モードを使用することのさらなる利点は、センシング層(34)の屈折率と流体(31)の屈折率との比較的小さな差異があるために、漏れモードが励起される共鳴角が比較的鋭いことである。用語「比較的鋭い」は、表面プラズモン共鳴が検出機構として使用される場合に達成される角度よりも鋭いことを意味することを意図している。
【0132】
表面プラズモン共鳴センサは、非常に薄い金属層を利用しており、その厚さを簡単に選択することができないので、使用するのが難しいこともある。金属層の厚さは、入射光が表面プラズモン共鳴センサに当たる角度と組み合わせて、分子インプリンティングポリマー層と相互作用する表面モードのエバネッセント波成分の侵入深さを決定する。入射光の角度を変えると、一般的に、エバネッセント波の侵入深さを数ミクロンから数十ナノメートル調整することができる。金属層の厚さを容易に変えることはできないので、エバネッセント波の侵入深さの範囲、及び検出深さを容易に選択することはできない。
【0133】
これとは対照的に、漏れ導波路が使用される場合、主として導波路層の厚さが、エバネッセント光の侵入を制御する。分子インプリンティングポリマー層(34)は、表面プラズモン共鳴における金属層と比較して厚いので、その厚さ、及び導波路層を超えるエバネッセント波の侵入深さをより容易に制御できる。一般的に、漏れ導波路の導波路層の厚さは、表面プラズモン共鳴構造に使用される金属層よりも約10倍厚い。図12に示すような構造が使用される場合、分子インプリンティングポリマー層内への光の侵入度合いを制御することができるから、エバネッセント波の侵入を制御する要素は有用である。厚い導波路層を使用することは、分子インプリンティングポリマー層の屈折率の変化を測定する際、特に有利である(導波路層と分子インプリンティングポリマー層は、この場合は1つであり、同じである)。これは、一般に、導波路層の厚さが厚くなる程、導波路層が伝搬できるモードの次数が高くなるという事実による。導波路層が伝搬できるモードの次数が高くなる程、導波路層内に留まる導波路への入射光の割合は大きくなるので、導波層の屈折率の変化に対するセンサの感度は高くなる。
【0134】
表面プラズモン共鳴の場合、センサに向ける光は、TM(Transverse Magnetic)偏光である。
【0135】
知られている漏れモード導波路の欠点は、一部の場合において、導波路から戻された光の強度におけるディップを検出するために、及びそのディップの角変動に従うために、検出光学系が必要とされることである。光の不在は、光強度のピークよりも検出することが本質的に困難である。このため、金属層(38)を使用して、漏れ導波路モードが励起されたときに光強度にピークを与えることは、有利である。
【0136】
導波路の大きさは、様々な数のモードを励起するよう選択されてよい。導波路の大きさは、エバネッセント波の侵入深さを決定するよう選択されてよい。導波路に適した大きさの選択は、使用する光の波長に依存してよい。実質的に単色である光源(16)を使用してよい。単色光源の例には、レーザやRCLED(共振空洞発光ダイオード)がある。
【0137】
導波路構造の具体例が上述の説明に挙げられているが、他の適切な導波路構造が使用されてよい。
【0138】
上述の説明は水中でのRNaseの検出に言及しているが、他の対象物体が検出されてよい。対象物体は、水以外の流体中にあってよい。
【0139】
分子インプリンティングポリマー層は透過性であると記載されているが、非透過性の分子インプリンティングポリマー層を使用することが可能である。これを行う場合、対象物体は、分子インプリンティングポリマー層の上面にのみ受け入れられるから、その結果生じる信号は、本発明の図示の実施形態により与えられる信号より弱い。分子インプリンティングポリマー層が透過性であると考えてよいか否かは、対象物体が分子インプリンティングポリマー層を通して拡散することができるか否かに依存する。これができるか否かを決定する際に関係する1つの要因は、キャビティ(52)と対象物体の相対的な大きさである。概して、分子インプリンティングポリマー層は、キャビティ(52)の大きさが、対象物体と同じオーダーである又は対象物体より大きい場合、透過性である可能性が高い。分子インプリンティングポリマー層が透過性でない場合、分子インプリンティングポリマー層による対象物体のあらゆる捕捉(trapping)は、分子インプリンティングポリマー層の表面で起こる。このような状況では、単一モードのみを伝搬できる厚さである導波路層(分子インプリンティングポリマー層)を有することが望ましい。これにより、導波路への入射光のエバネッセント成分が最大化されるので、導波路層の端部又は外側にある対象物体に対するセンサの感度が向上する。
【0140】
本発明の実施形態は、分子インプリンティングポリマー層を有する導波路に関するが、本発明はその代わりに、分子インプリンティングされた非ポリマー層を含んでよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシング層を有する導波路を備える光センサであって、センシング層は、センシングされる対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、光センサは、対象物体がセンシング層に受け入れられて保持されている際に起こる導波路の光学特性の変化を検出するよう構成された検出装置をさらに備える光センサ。
【請求項2】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備える、請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備える、請求項1又は請求項2に記載の光センサ。
【請求項4】
センシング層は透過性である、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の光センサ。
【請求項5】
変化が検出される光学特性は屈折率である、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の光センサ。
【請求項6】
対象物体はリボヌクレアーゼである、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の光センサ。
【請求項7】
対象物体は不活性である、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の光センサ。
【請求項8】
導波路は漏れモード導波路である、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の光センサ。
【請求項9】
導波路はセンシング層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料の層を備える、請求項1乃至請求項8の何れかに記載の光センサ。
【請求項10】
材料の層は金属層である、請求項9に記載の光センサ。
【請求項11】
センシング層はポリマー層である、請求項1乃至請求項10の何れかに記載の光センサ。
【請求項12】
光センサは、浄化システムの一部である汚染検出器の一部を形成する、請求項1乃至請求項11の何れかに記載の光センサ。
【請求項13】
センシング層を有する導波路を備える光センサを用いた光センシング方法であって、
センシング層は、対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、
光センサの一部を流体流路中に配置して、センシング層の少なくとも表面と接触するように流体を流す工程と、
センシング層が少なくとも一部の光を受けるように、導波路の導波モードに光をカップリングさせる工程と、
導波路から出力された光の特性を監視する工程と、
を含んでおり、
前記特性は、対象物体が分子インプリンティング層に受け入れられて保持されると変化する光センシング方法。
【請求項14】
センシング層は、流れている流体に対して透過性であることで、センシング層内に流体を拡散する、請求項13に記載の光センシング方法。
【請求項15】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備える、請求項13又は請求項14に記載の光センシング方法。
【請求項16】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備える、請求項13乃至請求項15の何れかに記載の光センサ。
【請求項17】
監視される出力光の特性は、光の強度及び/又は光が導波路から出力される角度である、請求項13乃至請求項16の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項18】
センシングされる対象物体はリボヌクレアーゼである、請求項13乃至請求項17の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項19】
リボヌクレアーゼは不活性である、請求項13乃至請求項18の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項20】
流体は水である、請求項17乃至請求項19の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項21】
センシングされる対象物体は、汚染物、又は汚染物の生成物である、請求項17乃至請求項20の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項1】
センシング層を有する導波路を備える光センサであって、センシング層は、センシングされる対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、光センサは、対象物体がセンシング層に受け入れられて保持されている際に起こる導波路の光学特性の変化を検出するよう構成された検出装置をさらに備える光センサ。
【請求項2】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備える、請求項1に記載の光センサ。
【請求項3】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備える、請求項1又は請求項2に記載の光センサ。
【請求項4】
センシング層は透過性である、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の光センサ。
【請求項5】
変化が検出される光学特性は屈折率である、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の光センサ。
【請求項6】
対象物体はリボヌクレアーゼである、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の光センサ。
【請求項7】
対象物体は不活性である、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の光センサ。
【請求項8】
導波路は漏れモード導波路である、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の光センサ。
【請求項9】
導波路はセンシング層の屈折率よりも高い屈折率を有する材料の層を備える、請求項1乃至請求項8の何れかに記載の光センサ。
【請求項10】
材料の層は金属層である、請求項9に記載の光センサ。
【請求項11】
センシング層はポリマー層である、請求項1乃至請求項10の何れかに記載の光センサ。
【請求項12】
光センサは、浄化システムの一部である汚染検出器の一部を形成する、請求項1乃至請求項11の何れかに記載の光センサ。
【請求項13】
センシング層を有する導波路を備える光センサを用いた光センシング方法であって、
センシング層は、対象物体を受け入れて保持するように分子インプリンティングされており、
光センサの一部を流体流路中に配置して、センシング層の少なくとも表面と接触するように流体を流す工程と、
センシング層が少なくとも一部の光を受けるように、導波路の導波モードに光をカップリングさせる工程と、
導波路から出力された光の特性を監視する工程と、
を含んでおり、
前記特性は、対象物体が分子インプリンティング層に受け入れられて保持されると変化する光センシング方法。
【請求項14】
センシング層は、流れている流体に対して透過性であることで、センシング層内に流体を拡散する、請求項13に記載の光センシング方法。
【請求項15】
センシング層は、対象物体を受け入れるのに適した形状を有する受入部位を備える、請求項13又は請求項14に記載の光センシング方法。
【請求項16】
センシング層は、対象物体の官能基と相補的な官能基を有する受入部位を備える、請求項13乃至請求項15の何れかに記載の光センサ。
【請求項17】
監視される出力光の特性は、光の強度及び/又は光が導波路から出力される角度である、請求項13乃至請求項16の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項18】
センシングされる対象物体はリボヌクレアーゼである、請求項13乃至請求項17の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項19】
リボヌクレアーゼは不活性である、請求項13乃至請求項18の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項20】
流体は水である、請求項17乃至請求項19の何れかに記載の光センシング方法。
【請求項21】
センシングされる対象物体は、汚染物、又は汚染物の生成物である、請求項17乃至請求項20の何れかに記載の光センシング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2013−511035(P2013−511035A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538394(P2012−538394)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002067
【国際公開番号】WO2011/058308
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002067
【国際公開番号】WO2011/058308
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】
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