説明

光ディスク用光硬化型組成物、及び光ディスク

【課題】 透明性に優れ、初期の光ディスクの反りおよび外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りを抑制可能な硬化物層を構成する光硬化型組成物、および該光硬化型組成物からなる層を有する光ディスク。
【解決手段】成分A;ウレタン(メタ)アクリレート化合物;および成分B;特定のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;を含有することを特徴とする光ディスク用光硬化型組成物。上記光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層を有する光ディスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光により記録および/または再生を行うためのコンパクトディスク(以下、CDと略記)、デジタルビデオディスク又はデジタルバーサタイルディスク(以下、DVDと略記)、ブルーレイディスク(以下、BDと略記)等のような光ディスク、および該光ディスクが有する硬化物層を構成する光硬化型組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報記録の分野においては光学情報記録方式に関する研究が各所で進められている。この光学情報記録方式は、非接触で記録・再生が行えること、磁気記録方式に比べて一桁以上も高い記録密度が達成できること、再生専用型,追記型,書換可能型のそれぞれのメモリー形態に対応できる等の数々の利点を有し、安価な大容量ファイルの実現を可能とする方式として産業用から民生用まで幅広い用途が考えられているものである。
【0003】
そのような光学情報記録方式で使用される記録媒体として、CD、DVD等の光ディスクが普及している。光ディスクは基本的には、ディスク基板上に記録層が形成されてなり、記録層の保護などの観点から、記録層上にさらに光透過層が積層された構成を有している。そのような光透過層を有する光ディスクは該光透過層を通して記録光及び/又は再生光が入射するように使用される。
【0004】
光透過層は透明な硬化物から形成されるのが一般的であるが、硬化収縮率の低減化がまだ十分ではないために初期から光ディスク全体に反りが生じて記録及び/又は再生ができない、当該硬化物層の短波長光に対する光線透過率が低いために短波長の光線を用いて記録及び/又は再生を十分にできない等といった課題があった。
【0005】
そのような課題に対しては、従来より、光透過層を形成する硬化型組成物の配合を工夫して、硬化収縮率を低減する技術が提案されている(特許文献1)。しかしながら、上記のような光ディスクにおいては、使用環境の変化により、その周方向及び径方向に反りが生じることがある。
【0006】
これは、以下のような理由によるものと考えられる。すなわち、上記のような光ディスクの基板とされるポリカーボネート等の樹脂からなる基板には、外部環境の温度上昇により体積が膨張する性質がある。一方、記録層を構成する金属からなる膜や誘電体膜等も外部環境の温度上昇により体積が膨張するものの、その膨張率は基板と比較して1〜2桁も小さい。従って、外部環境の温度変化が生じた場合、基板と記録層の膨張率に差が生じ、光ディスクに反りが発生する。なお、周方向の反りは径方向の反りと比較して非常に小さいため、一般に、光ディスクの反りとしては径方向の反りのみを考慮している。
【0007】
このように光ディスクに反りが生じると、情報の記録或いは再生時に光ディスクに対物レンズから照射されるレーザ光が基板に対して垂直方向に入射しなくなる。その結果、反射光は対物レンズ等の受容体に正確に戻らなくなり、サーボのずれや信号の記録或いは再生が正しく行われなくなる。なお、光ディスクの反り量は水平方向の基準面に対する光ディスクの基板の記録層形成面の反り角θにより表される。
【0008】
また、光ディスクには一般に、ある環境からある環境へ移された瞬間の反りの問題があった。例えば、光ディスクを、25℃恒温槽にて十分静置した後、十分暖まった記録/再生ディスクドライブ(60℃環境下)に装着した瞬間に、急激に反りが発生した。詳しくは、60℃環境下に移された直後から二分以内に大きな反り変化のピークが現れた。これはディスクが60℃環境になじむまでの挙動と考えられ、例えば表面は60℃に達するが内側は25℃である場合など、外側と内側で温度条件が異なる瞬間が生じる。その場合、温度に応じて体積の膨張率も異なるため、ディスクの各部で膨張率の分布が生じ、反り変化という現象が見られるものと考えられる。一般に、光学情報記録方式においては待機時間を短くするためにディスクをドライブに装着した瞬間からスキャンを開始するため、このような光ディスク装着直後の反り変化は記録あるいは再生の質に大きく影響する。
【特許文献1】特開2004−217879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、透明性に優れ、初期の光ディスクの反りおよび外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りを抑制可能な硬化物層を構成する光硬化型組成物、および該光硬化型組成物からなる層を有する光ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
成分A;ウレタン(メタ)アクリレート化合物;および
成分B;下記一般式(I);
【化1】

(式中、R11は脂肪族炭化水素基を示す;R12は水素原子またはメチル基を示す)で表されるヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
を含有することを特徴とする光ディスク用光硬化型組成物に関する。
【0011】
本発明は、上記光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層を有することを特徴とする光ディスクに関する。
【0012】
本明細書中、(メタ)アクリル酸はアクリル酸およびメタクリル酸を、(メタ)アクリレートはアクリレートおよびメタクリレートを、(メタ)アクリロイルオキシ基はアクリロイルオキシ基およびメタクリロイルオキシ基を意味するものとする。
【発明の効果】
【0013】
光ディスク用光硬化型組成物にウレタン(メタ)アクリレート化合物と上記一般式(I)で表されるヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルを含有させる事で、温度環境変化時における反り角変化量を緩和できる。さらには、特定の芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステルをさらに含有させることにより、光ディスクの初期の反り角をより低減できる。また本発明の光ディスク用光硬化型組成物からなる硬化物層は透明性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の光ディスク用光硬化型組成物は少なくとも以下の成分AおよびBを含有することを特徴とする;
成分A;ウレタン(メタ)アクリレート化合物;および
成分B;ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル。
【0015】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物(成分A)はウレタン結合を含有する(メタ)アクリレート化合物である。当該化合物の代わりに、ウレタン結合を含有しない(メタ)アクリレート化合物、例えばいわゆるポリエステル(メタ)アクリレート化合物、エポキシ(メタ)アクリレート化合物、ポリエーテル(メタ)アクリレート化合物等を使用しても、外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りを十分に抑制できず、初期の光ディスクの反りも十分に抑制できない。
【0016】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物は、例えば、イソシアネートとポリオールとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとから合成される化合物が使用される。
【0017】
1分子鎖中にウレタン結合(NHCOO−)およびアクリロイル基(CH=CHCO−)もしくはメタクリロイル基(CH=C(CH)CO−))を持つものをウレタンアクリレートと称する。ウレタン結合はヒドロキシル基(−OH)とイソシアネート基(−NCO)との反応によって生成する。
【0018】
そのようなウレタン(メタ)アクリレート化合物の具体例として、例えば、一般式(A);
【化2】

で表される化合物が挙げられる。
【0019】
一般式(A)において、Rはポリオール残基を示し、ポリエーテル骨格、ポリカーボネート骨格またはポリエステル骨格を有していて良い。Rの具体例として、下記一般式(a1)〜(a3)で表される2価の有機基が挙げられる。一般式(a1)で表される2価の有機基がポリエーテル骨格含有基、一般式(a2)で表される2価の有機基がポリカーボネート骨格含有基、一般式(a3)で表される2価の有機基がポリエステル骨格含有基である。
【0020】
【化3】

【0021】
一般式(a1)中、Rは飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、炭素原子数1〜4、特に2〜4のものが好ましい。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。一般式(a1)で表されるR基は上記群から選択される2種類以上のR基を含有してもよい。
n1は一般式(A)のウレタン(メタ)アクリレート化合物が後述の分子量を有し得るような範囲内であれば特に制限されない。
【0022】
一般式(a2)中、Rは飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、炭素原子数1〜4、特に2〜4のものが好ましい。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。芳香族炭化水素基は炭素原子数6〜12、特に12のものが好ましく、具体例として、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。一般式(a2)で表されるR基は上記群から選択される2種類以上のR基を含有してもよい。
n2は一般式(A)のウレタン(メタ)アクリレート化合物が後述の分子量を有し得るような範囲内であれば特に制限されない。
【0023】
一般式(a3)中、Rは芳香族炭化水素基を示し、炭素原子数6〜12、特に12のものが好ましい。Rの具体例として、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。一般式(a3)で表されるR基は上記群から選択される2種類以上のR基を含有してもよい。
またRは飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、炭素原子数1〜4、特に2〜4のものが好ましい。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。一般式(a3)で表されるR基は上記群から選択される2種類以上のR基を含有してもよい。
n3は一般式(A)のウレタン(メタ)アクリレート化合物が後述の分子量を有し得るような範囲内であれば特に制限されない。
【0024】
一般式(A)において、2個のRはイソシアネート残基を示し、具体的にはそれぞれ独立して飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、炭素原子数1〜6のものが好ましい。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。芳香族炭化水素基は炭素原子数6〜12のものが好ましく、具体例として、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。芳香族炭化水素基は炭素原子数1〜3のアルキル基)等の置換基を有していても良い。
【0025】
一般式(A)において、2個のRはヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートに由来する基であり、具体的にはそれぞれ独立して飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、炭素原子数1〜6、特に2〜3のものが好ましい。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。脂肪族炭化水素基は(メタ)アクリロイルオキシ基を含有するアルキル基が1〜3個だけ置換されていても良い。(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルキル基の炭素原子数は1〜3であってよい。
【0026】
一般式(A)において、2個のRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す。
【0027】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物の重量平均分子量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、1000〜3000であり、好ましくは1000〜2000である。
【0028】
重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフによって測定された値を用いているが、上記装置によって測定されなければならないというわけではなく、他の方式の装置によって測定されてもよい。
【0029】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物の合成方法の1例を示す。
(材料)
イソシアネート:トリレンジイソシアネート(TDI)30重量%
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート:2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)20重量%
ポリオール:ポリプロピレンオキサイドジオール50重量%
フェノチアジン:少量(0.01%以下)
メタノール:0.5%程度
(合成方法)
(1)TDIを仕込み、窒素封入下で40℃に昇温する。
(2)HEMAとフェノチアジン混合物を2時間かけて加える(温度65℃最大)。
(3)65℃に1時間保つ。
(4)ポリオールを2時間かけて添加する(温度70℃最大)。
(5)65℃に1時間保つ。
(6)メタノールを加え撹拌しながら冷却する。
【0030】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物の合成に使用可能なポリオール、イソシアネート、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの具体例として以下に示すものが挙げられる。
【0031】
ポリオールとして、例えば、前記一般式(a1)〜(a3)の両端にヒドロキシル基が連結されてなる化合物が挙げられる。特にポリエーテル骨格のポリオールとして代表的なものにはポリプロピレンオキサイドジオール、ポリ(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)ジオール、ポリテトラメチレングリコールなどがある。
【0032】
イソシアネートとして、例えば、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとして、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、グリシドールメタクリレート(GDMA)[CH=C(CH)−COOCH−CH(OH)−CHOCO−C(CH)=CH]、グリシドールアクリレート[CH=CH−COOCH−CH(OH)−CHOCO−CH=CH]等が挙げられる。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレート化合物は市販品として入手することもできる。例えば、UA−160TM(新中村化学工業製)として入手可能である。
【0035】
成分Aの含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば組成物全量に対して30〜60重量%、好ましくは40〜55重量%である。なお、組成物全量とは成分Aだけでなく、後述する成分B、CおよびD等のようなそれ自体硬化物を構成する硬化成分の全量を意味する。
【0036】
本発明の光ディスク用光硬化型組成物に含有されるヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(成分B)は一般式(I);
【化4】

で表されるものである。かかる成分Bを含有しないと、外部温度環境が変化したときに光ディスクの反りを十分に抑制できない。
【0037】
一般式(I)において、R11は飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、好ましくは炭素原子数1〜6、より好ましくは1〜4、特に2〜3のものである。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
12は水素原子またはメチル基を示す。
【0038】
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル(成分B)の具体例として、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
成分Bの含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、組成物全量に対して、5〜45重量%、好ましくは10〜30重量%である。なお、組成物全量とは成分AおよびBだけでなく、後述する成分CおよびDも含む硬化成分全量を意味する。
【0040】
本発明の光ディスク用光硬化型組成物は、特定の芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステル(成分C)をさらに含有させることが好ましい。当該成分Cを含有させることによって、硬化物層の透明性および外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りについての抑制効果を確保しながら、光ディスクの初期反り角を有効に低減できる。
【0041】
成分Cは芳香族環を含有する(メタ)アクリル酸エステルであり、硬化収縮率が6%以下のものである。
【0042】
本明細書中、アクリル酸エステル単体の硬化収縮率は以下の方法によって測定された値を用いている。所定のアクリル酸エステルに、当該アクリル酸エステルに対して3重量%の光重合開始剤(ダロキュア1173;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を混合する。25℃における硬化前の混合物の液比重(d1)と、硬化して得られた硬化物層の25℃における比重(d2)をそれぞれ測定し、d2とd1の差分をd2で除し、100倍することにより硬化収縮率(%)を求める。
【0043】
そのような芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステルは一般式(II);
【化5】

で表される。
【0044】
一般式(II)において、R13は飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基を示す。脂肪族炭化水素基は直鎖状または分枝鎖状であってよく、好ましくは炭素原子数1〜6、より好ましくは1〜4、特に2〜3のものである。特に飽和直鎖脂肪族炭化水素基の具体例として、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
14は水素原子またはメチル基を示す。
【0045】
芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステル(成分C)の具体例として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
【化6】

【0046】
成分Cの含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、組成物全量に対して、40重量%以下、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0047】
本発明の光ディスク用光硬化型組成物は、本発明の目的が達成される限り、上記成分A〜C以外の他の成分(成分D)を含有してもよい。
【0048】
成分Dとしては、光ディスク用光硬化型組成物の分野で希釈剤、架橋剤として使用されているものが使用可能である。
成分Dの具体例として、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
【0049】
成分Dの含有量は本発明の目的が達成される限り特に制限されず、例えば、組成物全量に対して、20重量%以下、特に5〜15重量%である。
【0050】
本発明の光硬化型組成物には、通常、光重合開始剤が含有される。光重合開始剤は特定波長の光を吸収して重合反応を開始させるもので、特に300〜450nmの紫外線領域に吸収波長を持っているものが好ましく使用される。光重合開始剤としては光ディスク用光硬化型組成物の分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、ビアセチル、2,2−ジエトキシアセトフェノン(DEAP)等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。光重合開始剤の種類や含有量は、硬化に用いる光源、光量、形成膜厚などの他、光重合開始剤の色、臭い、毒性なども考慮し選択する必要がある。
【0051】
本発明の光硬化型組成物には、その性能を損なわない範囲内で、必要に応じて、例えば、熱可塑性高分子、スリップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等、公知の添加剤等を適宜配合して用いてもよい。
【0052】
本発明の光硬化型組成物からなる硬化物層は、前記した成分および添加剤からなる光硬化型組成物(塗液)をスピンコート法等の公知の塗布方法によって所定の層上に塗布し、光照射を十分に行い硬化させることによって形成可能である。光源は、光重合開始剤が吸収可能な光を照射できる限り特に制限されず、例えば、キセノン、メタルハライドなどの汎用ランプ等が使用可能である。
【0053】
本発明の光ディスクは前記光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層を有するものである。
本発明の光ディスクの一実施形態を図1に示す。図1に示す光ディスクは、円板状基板1の一主面上に少なくとも一層の記録層2が形成され、この記録層上に光透過層3を有し、この光透過層を通して記録光および/または再生光が入射するように使用される光ディスクであって、前記光透過層3が、前記光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層である。このように当該硬化物からなる光透過層を記録層の上位に有することによって、初期の光ディスクの反りおよび外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りの抑制効果だけでなく、当該硬化物層の優れた透明性を有効に発揮できる。
【0054】
円板状基板1はディスクの透明性と平面性を確保できれば有機、無機の材質にかかわらず用いることができる。例えば、基板はポリカーボネート基板、PMMA(ポリメチルメタクリレート)基板、エポキシ樹脂基板、ガラス基板が使用可能であるが、耐熱性、対吸湿性に優れ、成形時の生産性が高いという点からポリカーボネートが用いられることが多い。
【0055】
記録層2は通常、銀−In−Te−Sb合金等の金属から構成され、1層からなっていても、または多層からなっていてもよい。記録層は例えば、スパッタ法、真空蒸着などの方法によって形成可能である。
【0056】
光透過層3の厚みは、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常、20〜200μmである。
【0057】
記録層2と基板1との間には反射層が形成されていてもよい。当該層の構成材料としては、例えば、銀、金、アルミ、およびそれらの合金などの金属が代表的である。反射層も上記記録層と同様の方法によって形成可能である。
【0058】
記録層2と光透過層3との間および/または記録層2と基板1との間には誘電層が形成されていてもよい。当該層の構成材料としては、例えば、SiN,SiO等が挙げられる。誘電層の形成によって、記録層への水分の侵入による腐食防止や、多重干渉による信号の増大を達成できる。誘電層も上記記録層と同様の方法によって形成可能である。
【0059】
また光透過層3の上にはハードコート層が形成されてもよく、さらに光ディスクの記録層形成面と反対側の面には反り、湿度および汚れに対する防止膜などが形成されてもよい。
【0060】
上記実施形態において光ディスクは基板の片面のみに記録層を有する単板構成を有するが、片面に記録層が形成された光ディスクを2枚貼り合わせて表裏面の両方から記録・再生が可能な両板構成を有していても良い。この場合において、本発明の光ディスクは前記光硬化型組成物からなる硬化物層を、2枚の基板間に有していてもよい。前記光硬化型組成物は接着機能を有し、接着層として基板間に当該硬化物層を有していても、初期の光ディスクの反りおよび外部温度環境が変化したときの光ディスクの反りの抑制効果が有効に得られるためである。
【0061】
良好な記録および/または再生を実現するためには、本発明の光ディスクの光透過率は85%以上が好ましく、次世代DVDとして開発されているBD用ディスクとして使用するためには、波長405nmにおける光透過率が90%以上であることがより好ましい。
上記光透過率はディスク基板に直接的に、前記光硬化型組成物からなる硬化物層を形成してなる試料を用いて測定された値を用いている。
【0062】
同様に、本発明の光ディスクは、ピーク波長405nmの光による記録および/または再生に使用されることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、本発明を詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
表1に表した組成にて、光硬化型樹脂を作製した。
成分(A)として、UA−160TM(新中村化学工業製)を用いた。UA−160TMは(ポリエーテル骨格を有するウレタン(メタ)アクリレート)であり、平均分子量1600である。
【0065】
成分(B)として、下記一般式;
【化7】

で表される2HEA(2−ヒドロキシエチルアクリレート)を用いた。2HEAの硬化収縮率は13.5%であった。
【0066】
成分(C)として、下記一般式;
【化8】

で表されるA−CMP−1E(パラクミルフェノキシエチレングリコールアクリレート、新中村化学工業製)を用いた。A−CMP−1Eの硬化収縮率は5.3%であった。
【0067】
成分(A)、(B)および(C)以外の成分(D)としてA−DCP(トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、新中村化学工業製)を用いた。A−DCPの硬化収縮率は7.1%であった。
光重合開始剤としてはダロキュア1173(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)を用いた。
【0068】
これらの成分(A)、(B)、(C)および(D)を、表1に表した重量組成にて混合、分散したのち、光重合開始剤を3重量%添加し、分散させ、光ディスク用光硬化型組成物を作製した。
【0069】
このようにして作製した光ディスク用光硬化型組成物を用いて、光ディスクを作製した。以下、光ディスクの作製方法について説明する。
【0070】
ディスク基板はポリカーボネートからなり、厚さ1.1mm、直径120mm、透明の鏡面基板である。ディスク基板の片面に、反射層として銀合金膜を、記録層として銀−In−Te−Sb合金膜を、誘電層としてSiNを順次、スパッタリング法により製膜した。この上に、前記光ディスク用光硬化型組成物からなる硬化物層を光透過層として形成した。形成方法は、スピンコート法を用い、光ディスク用光硬化型組成物を基板上に数mL滴下し、適切な回転数を選択し、ディスクを回転させ塗布した。その後、メタルハライドランプ(型式EMS−U41−B)により紫外線を照射し(約800mJ)、硬化させた。硬化後の光透過層膜厚は100ミクロン厚であった。光透過層のディスク内の膜厚分布はプラスマイナス5%以内となるようにスピンコート法の条件を決定した。スピンコート法の条件の1例を以下に示す。
【0071】
スピンコーターは1H−DX(ミカサ株式会社製)を用いた。回転台にディスクを、光透過層形成面を上にセットし、センターホール部分に円錐状のキャップをセットする。スピナーを低速で回転させながら、加圧注入器にて光硬化型組成物をキャップの中心(円錐形状の頂上)に滴下する。滴下終了後、高速回転にて塗布する。実施例1における配合の光硬化型組成物は25℃における粘度が3090cpsであったが、60rpmで40秒回転させている間に光硬化型組成物を滴下した後、600rpmで5秒、1000rpmで22秒、回転させ、光透過層を形成した。光硬化型組成物の粘度、官能基の有無や種類、塗工環境(温湿度)等で、最適な塗工の条件は異なる。
【0072】
こうして得た光ディスク及び光透過層を以下の手順にて評価し、結果を表1に記載した。なお、光透過率の評価では、ディスク基板に直接的に光透過層を形成したこと以外、上記光ディスクの作製方法と同様の方法で作製した試料を用いた。
【0073】
(光透過率)
試料作成:ディスク基板に前記方法により光ディスク用光硬化型組成物を塗布し、光透過層を形成する。
得られた試料について、分光光度計(日立製作所(株)製、商品名:U−3400)を用い、ディスク基板をリファレンスとして、波長405nmにおける光線透過率(%)を測定した。透過率85%以上を合格とする。
【0074】
(初期反り角)
得られた評価用光ディスクについて、複屈折測定機dr.schenk(MT−136E)を用いて、25℃、55%RH環境下にて光ディスクの中心から半径55mm位置における半径方向最大反り角を測定し、これを初期の反り角とした。0.7度以下なら実用に耐えるが、0.4度以下であれば精度高く記録、あるいは再生が可能という点から、0.4度以下を合格(○)、0.7度以下は準合格(△)とした。0.7度を越えるものは不合格(×)である。反り角は、基板を基準に反射層形成面側の反りをマイナスで、その裏面側の反りをプラスで表し、その絶対値を上記基準で評価した。
【0075】
(温度変化による環境試験)
得られた光ディスクの初期反り角を測定した後、60℃環境条件下で十分暖まった記録ディスクドライブにセットする。
【0076】
・急激な温度変化による反り角変化量
上記環境試験において、60℃環境下ドライブにセットした直後から2分以内の反りの最大変化量を計測する。反りの変化量の測定には、ヘリウムネオンレーザーを用いた。ドライブの一部を加工し、光ディスクの中心から半径55mm位置にレーザーを照射させ、反射光の角度の変異から計測した。初期反り角との差分(絶対値)を反り変化量とした。
変化量0.7度以下を合格(○)とする。特に、変化量0.5度以下を最上級(◎)とする。変化量が0.7度を越えるものは不合格(×)である。
【0077】
・温度変化による反り角変化量
上記環境試験において、60℃環境下に投入した直後から60分後の反りの変化量を計測する。計測方法およびランク基準は前記「急激な温度変化による反り角変化量」の測定方法と同様である。
【0078】
(実施例2〜11及び比較例1)
表1に示す組成物を用いること、および光透過層の厚みを表1に示す値に設定すること以外は、実施例1と同様にして光ディスク用光硬化型組成物を作製し、光ディスクを作製した。
こうして得た光ディスク及び光透過層を実施例1と同様の手順にて評価し、結果を表1に記載した。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、硬化収縮率が低く、透明性および接着性に優れた層を提供できるので、本発明の光硬化型組成物は、光ディスクの光透過層、保護膜あるいは貼り合わせ用接着層の形成に有用である。
【0081】
また、本発明の光ディスク用光硬化型組成物からなる層を有するだけで、初期の反りが少なく、機械的精度に優れ、外部温度環境が変化したときの反りの発生が抑えられた光ディスクを提供できる。本発明は、CD、DVD等の従来の光ディスクへの適用に有効であるばかりでなく、特に100ミクロン程度の硬化物層を有する光ディスクに好適である。それにより、情報の記録或いは/及び再生が良好に行われるので実用的効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の光ディスクの一実施形態の構成を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0083】
1:基板、2:記録層、3:光透過層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A;ウレタン(メタ)アクリレート化合物;および
成分B;下記一般式(I);
【化1】

(式中、R11は脂肪族炭化水素基を示す;R12は水素原子またはメチル基を示す)で表されるヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル;
を含有することを特徴とする光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項2】
成分C;下記一般式(II);
【化2】

(式中、R13は脂肪族炭化水素基を示す;R14は水素原子またはメチル基を示す)で表される芳香族環含有(メタ)アクリル酸エステル;
をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項3】
成分Bの配合量が光硬化型組成物全量に対して5〜45重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項4】
成分Cの硬化収縮率が6%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項5】
一般式(I)のR11が炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を示すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項6】
一般式(II)のR13が炭素原子数1〜4の脂肪族炭化水素基を示すことを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の光ディスク用光硬化型組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層を有することを特徴とする光ディスク。
【請求項8】
円板状基板の一主面上に少なくとも一層の記録層が形成され、この記録層上に光透過層を有し、この光透過層を通して記録光および/または再生光が入射するように使用される光ディスクであって、前記光透過層が、請求項1〜6のいずれかに記載の光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層であることを特徴とする光ディスク。
【請求項9】
前記光硬化型組成物を硬化させてなる硬化物層の厚さが20〜200μmであることを特徴とする請求項7または8に記載の光ディスク。
【請求項10】
円板状基板がポリカーボネートからなることを特徴とする請求項8または9に記載の光ディスク。
【請求項11】
波長405nmにおける光透過率が85%以上であることを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の光ディスク。
【請求項12】
波長405nmの光による記録および/または再生に使用されることを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の光ディスク。

【図1】
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【公開番号】特開2007−42240(P2007−42240A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227339(P2005−227339)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】