説明

光ディスク装置およびフォーカス引き込み制御方法

【課題】多数の記録面が近接して設けられている光ディスクであっても、比較的短時間に所望の記録面に直接的にフォーカスを引き込むことのできる光ディスク装置ならびにフォーカス引き込み制御方法を提供する。
【解決手段】レーザ光の焦点を光ディスク80の所定の記録面に引き込む際に、前記焦点を複数層の記録面L0〜L3より下方に外した状態から、第1勾配のランプ信号U1をレンズアクチュエータに出力して前記焦点を記録面に近づけるとともに、前記焦点が1つの記録面に差しかかったときに、第1勾配のランプ信号U1からそれより緩い第2勾配のランプ信号U2に変化させ、この第2勾配のランプ信号U2で前記焦点の位置を変化させながら所定の記録面の検出処理を行う構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数層の記録面を有する光ディスクにレーザ光を照射してデータの記録又は再生を行う光ディスク装置、並びに、光ディスク装置においてレーザ光の焦点を所定の記録面に合わせるフォーカス引き込み制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DVD(デジタル多用途ディスク)とHD−DVD(高密度デジタル多用途ディスク)と複合させた4層の光ディスクや、片面4層のブルーレイディスクなど、1枚に多数の記録面を設けた光ディスクが開発されている。
【0003】
また、従来の一般的な光ディスクに対して行われるフォーカス引き込み制御は、レンズアクチュエータをフォーカス方向に変位させながら、フォーカスエラー信号とRF信号の両方が合焦点を表わす信号となった場合に、レーザ光の焦点が記録面に合ったと判断して、焦点が記録面から外れないようにサーボ制御に移行するのが通常である。
【0004】
ここで、フォーカスエラー信号は信号強度が合焦点位置の前後で正と負に変化し合焦点位置でほぼゼロとなるS字特性を表わす信号であり、RF信号は合焦点時にデータ再生信号となるものである。このような場合、例えば、フォーカスエラー信号の反転信号とRF信号の正論理信号とをAND回路に入力して論理積をとることで、合焦点位置の近傍でのみハイレベルとなる信号を生成し、合焦点位置の検出に用いることができる。
【0005】
また、本願発明に関連する従来技術として、次のような技術の開示があった。例えば、特許文献1には、フォーカス引き込み制御において光ディスクの表面外側から内側に向かって焦点位置を変位させるとともに、光ディスクの表面を検出したときにフォーカスアクチュエータに出力される電流値を減少させる構成が開示されている。また、特許文献2には、光ディスクの面ブレに対応するために光ディスクと対物レンズとのフォーカス方向の相対速度を制御する技術が開示されている。また、特許文献3には、光ディスクの面ブレに対応するために光ディスクと対物レンズとのフォーカス方向の相対速度が大きい場合にアクチュエータに出力するランプ信号の傾きを変化させるフォーカス引き込み制御の技術が開示されている。また、特許文献4には、フォーカス引き込み動作の際に、フォーカスエラー信号を一定間隔でサンプリングし、現データと直前データとの比較によってフォーカスの引き込み制御を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−303752号公報
【特許文献2】特開2006−318557号公報
【特許文献3】特開2004−14091号公報
【特許文献4】特開2000−57586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した多層の光ディスクにおいては多数の記録面が互いに近接して設けられるため、一般的な光ディスクに対応する従来のフォーカス引き込み方法では、レーザ光の焦点を所定の記録面に直接的に合わせることが困難であった。
【0007】
すなわち、多層の記録面を有する光ディスクにおいては、フォーカス引き込み時にRF信号に隣接する他の記録面からの反射光の信号が混入され、さらに、未だトラッキング制御もされていないこともあって、RF信号に比較的大きなノイズが発生する。さらに、各信号の検出処理や制御の切り換えにはタイムラグが生じるため、上記従来のフォーカス引き込み方法では、所定の記録面に焦点を合わせたつもりが、隣接する他の記録面に焦点が合っていたという事態が多く発生するのが実情である。
【0008】
そのため、多層ディスクの所望の記録面に焦点を合わせる場合、先ず、何れかの記録面に焦点を合わせたのち、光の反射率を調べたり、制御領域のデータリード等を行うなどして、現在、何層の記録面に焦点が合っているのかを確認し、そこから所望の記録面まで1層ずつ焦点を跳ばすというような制御を行う必要があった。しかしながら、この方法では、途中で何層の記録面に焦点が合っているのかを確認する必要があることから、所望の記録面に達するまでに長い時間を要する。
【0009】
また、合焦点の検出時に焦点位置の変位速度を遅くすることで、上記RF信号のノイズの影響や各処理のタイムラグの影響を相対的に小さくし、それにより、高い確度で所定の記録層に焦点を合わせることが可能になると考えられたが、フォーカスサーチの最初から最後まで焦点位置の変位速度を遅くしていたのでは、所望の記録面に焦点を合わせるまでに長い時間がかかってしまうという不都合があった。
【0010】
この発明の目的は、多数の記録面が近接して設けられている光ディスクであっても、比較的短時間に所望の記録面に直接的にフォーカスを引き込むことのできる光ディスク装置ならびにフォーカス引き込み制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、複数層の記録面を有する光ディスクにレーザ光を照射してデータの記録又は再生を行う光ディスク装置において、前記レーザ光の焦点位置を駆動信号の大きさに比例した変位量で光軸方向に変位させるレンズアクチュエータを備え、前記レーザ光の焦点を前記光ディスクの所定の記録面に引き込む際に、前記焦点を前記複数層の記録面より一方の側に外した状態から、第1勾配のランプ信号を前記レンズアクチュエータに出力して前記焦点を記録面に近づけるとともに、前記焦点が1つの記録面に差しかかったときに、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配より緩い第2勾配に変化させ、この第2勾配のランプ信号で前記焦点位置を変化させながら前記所定の記録面の検出処理を行う構成とした。
【0012】
このような手段によれば、記録層に達したら低速に焦点位置を変位させて、確実に所定の記録面の検出処理を行うことができる。また、記録層に達するまでは高速に焦点位置を変位させることができるので、フォーカス引き込みにかかる全体の処理時間が長くなることがない。
【0013】
好ましくは、少なくとも前記第1勾配および前記第2勾配のランプ信号を生成するランプ信号発生回路と、前記焦点を引き込む際の前記焦点位置の移動制御を行う焦点移動制御部と、複数分割された受光領域を有し光ディスクからの反射光を検出する光センサと、該光センサの出力に基づきフォーカス誤差信号を生成する誤差信号生成回路とを備え、前記焦点移動制御部は、前記ランプ信号発生回路に第1勾配のランプ信号を発生させて前記レンズアクチュエータに出力させるとともに、前記フォーカス誤差信号がしきい値を超えたことに基づき、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配から前記第2勾配へ変化させるように構成すると良い。
【0014】
このような構成により、ランプ信号を第1勾配から第2勾配へ変更するタイミングを容易に取得できる。
【0015】
また、好ましくは、前記光センサの出力に基づき総受光量信号を生成する総光量信号生成回路と、焦点位置が前記何れかの記録面に合ったことを検出する合焦点検出部と、焦点位置が前記記録面から外れないように制御するフォーカスサーボ制御部とを備え、前記合焦点検出部は、前記フォーカス誤差信号と前記総受光量信号との両方が合焦点を表わす信号状態となったことを検出して、前記焦点移動制御部の制御状態から前記フォーカスサーボ制御部の制御状態に切り換える構成とすると良い。
【0016】
このような構成により、各記録面に焦点が合ったことを容易に検出して、各記録面への確度の高いフォーカス引き込みを実現できる。
【0017】
さらに好ましくは、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配から前記第2勾配へ変化させるときに、当該ランプ信号にパルス信号を付加して前記レンズアクチュエータに出力させるように構成すると良い。
【0018】
このような構成により、ランプ信号の勾配を変える際に、パルス信号によってレンズの慣性エネルギーを吸収してレンズが振動するような不都合を回避できる。
【0019】
具体的には、パルス信号を生成するパルス信号発生回路を備え、前記焦点移動制御部は、前記フォーカス誤差信号がしきい値を超えたことに基づき、前記パルス信号発生回路にパルス信号を発生させ、このパルス信号を前記ランプ信号に付加して前記レンズアクチュエータに出力させるように構成することが出来る。
【0020】
また、本発明のフォーカス引き込み制御方法は、レーザ光の焦点位置を駆動信号の大きさに比例した変位量で光軸方向に変位させるレンズアクチュエータを備えた光ディスク装置において、複数層の記録面を有する光ディスクに対して所定の記録面に前記レーザ光の焦点を合わせるためのフォーカス引き込み制御方法であって、前記複数層の記録面より一方の側に焦点を外した状態から、第1勾配のランプ信号を前記レンズアクチュエータに出力して前記焦点を記録面に近づけ、前記焦点が1つの記録面に差しかかったときに、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配より緩い第2勾配に変化させ、この第2勾配のランプ信号で前記焦点位置を変化させながら前記所定の記録面の検出処理を行うものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従うと、多数の記録面が近接して設けられている光ディスクであっても、長い時間をかけずに所望の記録面に直接的にフォーカスを引き込むことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
本発明の実施の形態の光ディスク装置は、3層以上の光ディスク80に対応して光ディスク80からデータを読み出したり、光ディスク80へデータの記録を行ったりする装置である。この光ディスク装置には、図示は省略するが、光ディスク80を回転運動させるスピンドル機構と、光ディスク80にレーザ光を出射したり反射光の検出等を行う光ピックアップと、この光ピックアップを光ディスク80のディスク面に沿って半径方向に移動させるスライド機構と、光ピックアップの駆動系の制御を行う制御回路やリード信号やライト信号の入出力を行う信号処理回路等を備えている。
【0024】
図1には、本発明の実施形態の光ディスク装置におけるフォーカス制御に係る構成を表わしたブロック図を示す。
【0025】
上記構成のうちフォーカス制御に係る構成には、レーザ光を光ディスク80に照射したり反射光を集光したりする対物レンズ12と、この対物レンズ12を電磁作用により上下左右に駆動させるレンズアクチュエータ11と、レンズアクチュエータ11に設けられるフォーカス駆動用コイル13と、駆動信号J3を入力してこれにほぼ比例した電流をフォーカス駆動用コイル13に出力するドライバ回路24と、複数分割された受光領域を有し反射光の検出を行う光センサ14と、光センサ14の4個の受光領域A〜Dの信号からFE(フォーカスエラー)信号J1を生成する誤差信号生成回路15と、光センサ14の4個の受光領域の信号からRF信号(データ再生信号)J2を生成する総光量信号生成回路16と、フォーカス引き込み後に焦点位置が記録面から外れないようにサーボ制御を行うフォーカスサーボ制御回路17と、フォーカスを所定の記録面へ引き込むまでの焦点位置の移動制御を行う焦点位置移動制御回路18と、一定勾配で変化するランプ(ramp)信号を発生させるランプ波形信号発生回路19と、パルス信号を発生させるキックパルス信号発生回路20と、ランプ信号とパルス信号を重畳させる加算器21と、焦点位置が記録面に合ったことを検出する合焦点位置検出回路22と、フォーカスの引き込みの制御状態とフォーカスサーボの制御状態との切り換えを行うスイッチ23等が含まれる。
【0026】
特に制限されるものではないが、これらの構成のうち、対物レンズ12やフォーカス駆動用コイル13を内蔵したレンズアクチュエータ11と、光センサ14、誤差信号生成回路15、総光量信号生成回路16、ならびに、ドライバ回路24は、光ピックアップに設けられるものである。また、その他の部分は、レンズアクチュエータ11と別体にされた回路基板等に設けられ、例えば、フレキシブル配線により両者が電気的に結合された状態にされるものである。なお、光ピックアップには、レーザ光を出力する半導体レーザが設けられ、また、この半導体レーザと対物レンズ12の間、および、対物レンズ12と光センサ14の間には、レーザ光に種々の作用を及ぼす種々の光学系が設けられている。
【0027】
総光量信号生成回路16は、光センサ14の4つの受光領域A〜Dからそれぞれ出力される各受光量信号の総和“(A+B+C+D)”をとって、これに比例した信号を出力する回路である。また、誤差信号生成回路15は、光センサ14の4つの受光領域A〜Dのうち対角の受光領域を組みとして、これらから出力される信号の差分“(A+C)−(B+D)”をとって、これに比例した信号を出力する回路である。
【0028】
光センサ14では、レーザ光の焦点が反射面から外れた状態では、集光される反射光のビームスポットが広がって、光センサ14の総受光量は低くなる。一方、レーザ光の焦点が反射面の近傍に位置すると、光センサ14の中央に反射光のビームスポットが現われて光センサ14の総受光量が高くなる。また、レーザ光の焦点が反射面の近傍で反射面の下方から上方に変位した場合、例えば非点収差法などによって、ビームスポットの形状が横向きの楕円から縦向きの楕円に変化して、誤差信号生成回路15の出力(FE信号J1)が負の出力から正の出力に変化するS字特性を表わすようになっている。その他、このようにS字特性を表わすFE信号J1は、ナイフエッジ法など公知となっている種々の方法を利用して生成することもできる。
【0029】
フォーカスサーボ制御回路17は、フォーカス引き込み後にFE信号J1に基づいてレーザ光の焦点位置が記録面から外れないように、フォーカス方向の駆動制御を行う回路である。例えば、FE信号J1が負の値になれば駆動信号J3を大きくして焦点位置を上向きに変位させ、逆に、FE信号J1が正の値になれば駆動信号J3を小さくして焦点位置を下向きに変位させるように動作する。
【0030】
ランプ波形信号発生回路19は、少なくとも、第1勾配で変化するランプ信号と、第1勾配より緩やかな第2勾配で変化するランプ信号とを、それぞれ出力可能な回路であり、焦点位置移動制御回路18からの制御信号に基づいて、第1勾配のランプ信号を出力したり、第2勾配のランプ信号を出力したりすることが選択可能になっている。
【0031】
キックパルス信号発生回路20は、予め定められたパルス信号(例えば、負のキックパルス信号と逆極性のブレーキパルス信号が連続的に現れる信号など)を発生させる回路であり、焦点位置移動制御回路18からの制御信号をトリガーとして上記のパルス信号を出力するようになっている。
【0032】
合焦点位置検出回路22は、レーザ光の焦点位置が光ディスク80の記録面に合った状態を検出する回路である。例えば、FE信号J1の反転入力と、RF信号J2の正論理の信号との論理積をとるような回路を内部に有し、この論理積の値が“1”となった場合を合焦点(焦点位置が記録面に合った状態)として検出するようになっている。
【0033】
また、この合焦点位置検出回路22には、レーザ光の焦点が多層の記録面をまたいで所望の記録面に達するのを検出するために、合焦点の検出信号を計数するカウンタが設けられ、このカウンタの値が設定数になったらスイッチ23に信号を出力して焦点位置を移動させる制御状態からフォーカスサーボをかける制御状態へと切り換えるようになっている。なお、この制御の切り換えを行うカウンタ値は、例えば外部の他の制御回路により設定可能とすることで、フォーカス引き込みにより何層目の記録面に直接的に焦点位置を合わせるかを選択的に設定することが可能となる。
【0034】
次に、上記構成の光ディスク装置におけるフォーカス引き込み動作について説明する。
【0035】
図2には、本発明の実施形態のフォーカス引き込み動作の内容を説明するタイムチャートを、図3には、フォーカス引き込み動作においてランプ信号の勾配を変化させなかった場合を説明するタイムチャートを、それぞれ示す。
【0036】
図2の例は、例えば、4層の記録面L0〜L3を有する光ディスク80に対してフォーカス引き込みの動作を説明するものである。4層の記録面L0〜L3は、0層と3層がHD−DVDの記録面、1層と2層がDVDの記録面になっている。なお、記録面の各層の種類は種々ら変更可能であり、例えばブルーレイの複数の記録面にも適用できる。また、図2では、記録面L0〜L3を認識しやすくするために、記録面L0〜L3の間隔を広げて図示しており、例えば、4つの記録面L0〜L3はディスク中央の60μmの厚さ範囲に設けられる一方、透明層PCは片側だけでその10倍の600μmの厚さを有するものである。
【0037】
フォーカス引き込みの制御において、焦点位置移動制御回路18は、次のような制御動作を行う。すなわち、先ず、焦点位置移動制御回路18はランプ波形信号発生回路19に初期電圧V1から比較的急峻に上昇する第1勾配のランプ信号U1を出力させる。初期電圧V1は、例えば、レーザ光の焦点位置が4つの記録面L0〜L3よりも片側に外れた位置に変位させる電圧であり、例えば、これによりレーザ光の焦点位置が記録面L0〜L3の下側で且つ光ディスク80の表面S0よりも内側の位置へ移動される。そして、上記のランプ信号U1により、上記焦点位置が透明層PCを比較的速やかに移動して、記録面L0〜L3へと近づいていく。図2中、矢印線により各時点での焦点位置を表わしている。
【0038】
焦点位置が0層の記録面L0に近接すると、反射ビームが光センサ14にスポットを結ぶため、FE信号J1とRF信号J2の信号強度が変化する。なお、フォーカス引き込み制御の段階では、トラッキング方向のサーボ制御は働いていないため、記録面上に収束されるビームスポットはランダムにデータトラックに入ったり外れたりし、また、データトラック上では記録マークや記録ピットにより反射光が散乱するため、RF信号J2は論理値“0”や論理値“1”を表わす信号値に乱雑に変動し、また、他の記録面からの反射光も入射して比較的大きなノイズが重畳される。
【0039】
焦点位置移動制御回路18は、第1勾配のランプ信号U1を出力している間、FE信号J1の値がしきい値Vthを下方に超えるのを監視する。そして、これを超えたタイミングT1でランプ波形信号発生回路19に第2勾配のランプ信号U2を出力させる切り換え制御と、キックパルス信号発生回路20にパルス信号を出力させる制御とを行う。
【0040】
これにより、タイミングT1から各回路の時定数分だけ遅れて、駆動信号J3の勾配が第2勾配へと緩められ、且つ、この駆動信号J3にパルス信号P1,P2が重畳される。そして、駆動信号J3の変化量が第2勾配へ緩められることで、対物レンズ12の変位スピードが減速され、また、上記のパルス信号P1,P2により、対物レンズ12の減速に伴う慣性エネルギーの変動分が吸収されて、対物レンズ12に振動が発生することが防止される。
【0041】
そして、焦点位置の変位スピードが減速されることで、図2の(b),(c)に示すように、FE信号J1やRF信号J2に表れる各記録面L0〜L3を示す信号波形が時間方向に広げられて分離される。例えば、図3の(b),(c)に示すように、駆動信号J3の勾配を第1勾配のままとすると、レーザ光の焦点が各記録面L0〜L3を通過する際のFE信号J1やRF信号J2の信号波形が時間方向に重なり、さらに、これらの信号にノイズが混入されることで各記録面L0〜L3を示す信号波形を識別することが困難となるが、これと比較して、本実施形態の場合には、FE信号J1やRF信号J2の各記録面L0〜L3を表わす信号波形が時間方向に分離されて識別しやすくなる。
【0042】
そして、上記のように焦点位置の変位スピードが減速されることで、合焦点位置検出回路22における各記録面L0〜L3での合焦点の検出が容易となり、合焦点位置検出回路22において各記録面L0〜L3の検出信号の計数が正確に行われる。そして、この計数値が設定数になったら、所望の記録面に焦点があったものとして、合焦点位置検出回路22がスイッチ23を切り換え、それにより、フォーカスサーボ制御回路17による制御状態に移行される。この制御状態の切り換え処理にも、各回路の時定数分の遅延が生じるが、焦点位置の変位スピードは低速であるため、焦点位置が所定の記録面から許容範囲内にあるうちにサーボ制御に移行して、所定の記録面への安定的なフォーカス引き込みが実現される。
【0043】
なお、図2のタイムチャートでは、上記合焦点位置検出回路22によるスイッチ23の切り換え制御が行われていない状態が表わされているが、実際には、レーザ光の焦点位置が4つの記録面L0〜L3のうち何れか設定された記録面に達した段階で、合焦点位置検出回路22によりスイッチ23が切り換えられ、それに伴って、フォーカス駆動信号J3はサーボ制御用の駆動信号に切り換わるようになっている。
【0044】
以上のように、この実施の形態の光ディスク装置およびフォーカス引き込み制御方法によれば、フォーカス引き込みの際に、レーザ光の焦点が各記録面L0〜L3を通過する際の変位速度が低速にすることができ、それにより各記録面に焦点が合った状態を正確に検出し、所定の記録面へのフォーカス引き込みを安定的に行うことが出来る。
【0045】
また、レーザ光の焦点が光ディスク80の透明層PCの範囲を移動している間には、比較的高速に焦点位置を変位させることができるので、フォーカス引き込みにかかる全体的な時間を短縮することが出来る。
【0046】
また、ランプ信号の勾配を切り換えるタイミングをFE信号により導出し、合焦点の状態をFE信号とRF信号とから検出することで、これらを検出する回路構成や制御内容を単純化できるという効果も得られる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
【0048】
図4と図5には、フォーカス引き込み動作中のフォーカス駆動信号の変形例を表わした波形図を示す。
【0049】
例えば、上記実施の形態では、フォーカス駆動信号J3として第1勾配のランプ信号U1から第2勾配のランプ信号U2に切り換える際に、負の方向と正の方向のパルス信号P1,P2を重畳させるようにしたが、図4に示すように、変位スピードを遅くする方向のブレーキパルスP3のみを重畳させるようにしても良いし、図5に示すように、変位スピードの変化量がさほど大きくなければ、このようなパルス信号をなくすようにしても良い。
【0050】
また、上記実施形態では、ランプ信号の勾配を切り換えるタイミングを、FE信号J1としきい値Vthとを比較することで導出しているが、例えば、RF信号J2がしきい値を越えたことに基づきランプ信号の勾配を切り換えるようにしたり、FE信号J1とRF信号J2の両方の信号からランプ信号の勾配を切り換えるタイミングを導出するようにしても良い。
【0051】
その他、上記実施形態で示した細部等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の形態の光ディスク装置におけるフォーカス制御に係る構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の実施形態のフォーカス引き込み動作の内容を説明するタイムチャートである。
【図3】フォーカス引き込み動作においてランプ信号の勾配を変化させなかった場合を説明するタイムチャートである。
【図4】フォーカス引き込み時におけるフォーカス駆動信号の第1変形例を示す波形図である。
【図5】フォーカス引き込み時におけるフォーカス駆動信号の第2変形例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0053】
11 レンズアクチュエータ
12 対物レンズ
13 フォーカス駆動用コイル
14 光センサ
15 誤差信号生成回路
16 総光量信号生成回路
17 フォーカスサーボ制御回路
18 焦点位置移動制御回路(焦点移動制御部)
19 ランプ波形信号発生回路(ランプ信号発生回路)
20 キックパルス信号発生回路(パルス信号発生回路)
21 加算器
22 合焦点位置検出回路(合焦点検出部)
23 スイッチ
24 ドライバ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の記録面を有する光ディスクにレーザ光を照射してデータの記録又は再生を行う光ディスク装置において、
前記レーザ光の焦点位置を駆動信号の大きさに比例した変位量で光軸方向に変位させるレンズアクチュエータを備え、
前記レーザ光の焦点を前記光ディスクの所定の記録面に引き込む際に、前記焦点を前記複数層の記録面より一方の側に外した状態から、第1勾配のランプ信号を前記レンズアクチュエータに出力して前記焦点を記録面に近づけるとともに、前記焦点が1つの記録面に差しかかったときに、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配より緩い第2勾配に変化させ、この第2勾配のランプ信号で前記焦点位置を変化させながら前記所定の記録面の検出処理を行うように構成されていることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
少なくとも前記第1勾配および前記第2勾配のランプ信号を生成するランプ信号発生回路と、
前記焦点を引き込む際の前記焦点位置の移動制御を行う焦点移動制御部と、
複数分割された受光領域を有し光ディスクからの反射光を検出する光センサと、
該光センサの出力に基づきフォーカス誤差信号を生成する誤差信号生成回路と、
を備え、
前記焦点移動制御部は、
前記ランプ信号発生回路に第1勾配のランプ信号を発生させて前記レンズアクチュエータに出力させるとともに、前記フォーカス誤差信号がしきい値を超えたことに基づき、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配から前記第2勾配へ変化させることを特徴とする請求項1記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記光センサの出力に基づき総受光量信号を生成する総光量信号生成回路と、
焦点位置が前記何れかの記録面に合ったことを検出する合焦点検出部と、
焦点位置が前記記録面から外れないように制御するフォーカスサーボ制御部と、
を備え、
前記合焦点検出部は、
前記フォーカス誤差信号と前記総受光量信号との両方が合焦点を表わす信号状態となったことを検出して、前記焦点移動制御部の制御状態から前記フォーカスサーボ制御部の制御状態に切り換えることを特徴とする請求項2記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配から前記第2勾配へ変化させるときに、当該ランプ信号にパルス信号を付加して前記レンズアクチュエータに出力させるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の光ディスク装置。
【請求項5】
パルス信号を生成するパルス信号発生回路を備え、
前記焦点移動制御部は、
前記フォーカス誤差信号がしきい値を超えたことに基づき、前記パルス信号発生回路にパルス信号を発生させ、このパルス信号を前記ランプ信号に付加して前記レンズアクチュエータに出力させることを特徴とする請求項2又は3に記載の光ディスク装置。
【請求項6】
レーザ光の焦点位置を駆動信号の大きさに比例した変位量で光軸方向に変位させるレンズアクチュエータを備えた光ディスク装置において、複数層の記録面を有する光ディスクに対して所定の記録面に前記レーザ光の焦点を合わせるためのフォーカス引き込み制御方法であって、
前記複数層の記録面より一方の側に焦点を外した状態から、第1勾配のランプ信号を前記レンズアクチュエータに出力して前記焦点を記録面に近づけ、
前記焦点が1つの記録面に差しかかったときに、前記ランプ信号の勾配を前記第1勾配より緩い第2勾配に変化させ、
この第2勾配のランプ信号で前記焦点位置を変化させながら前記所定の記録面の検出処理を行うことを特徴とするフォーカス引き込み制御方法。
【請求項7】
3層以上の記録面を有する光ディスクにレーザ光を照射してデータの記録又は再生を行う光ディスク装置において、
レーザ光の焦点位置を駆動信号の大きさに比例した変位量で光軸方向に変位させるレンズアクチュエータと、
少なくとも第1勾配のランプ信号と前記第1勾配より緩やかな第2勾配のランプ信号を生成するランプ信号発生回路と、
パルス信号を生成するパルス信号発生回路と、
複数分割された受光領域を有し光ディスクからの反射光を検出する光センサと、
該光センサの出力に基づきフォーカス誤差信号を生成する誤差信号生成回路と、
前記光センサの出力に基づき総受光量信号を生成する総光量信号生成回路と、
焦点位置が前記何れかの記録面に合ったことを検出する合焦点検出部と、
前記焦点を引き込む際の前記焦点位置の移動制御を行う焦点移動制御部と、
焦点位置が前記記録面から外れないように制御するフォーカスサーボ制御部と、
を備え、
前記レーザ光の焦点を前記光ディスクの所定の記録面に引き込む際に、
前記焦点移動制御部は、
前記焦点を前記複数層の記録面より一方の側に外した状態から、前記ランプ信号発生回路に第1勾配のランプ信号を発生させて前記レンズアクチュエータに出力させ、
前記フォーカス誤差信号がしきい値を超えたことに基づき、前記パルス信号発生回路にパルス信号を発生させ、このパルス信号を前記ランプ信号に付加して前記レンズアクチュエータに出力させるとともに、当該ランプ信号の勾配を前記第1勾配から前記第2勾配へ変化させ、
前記合焦点検出部は、
前記第2勾配のランプ信号が前記レンズアクチュエータに出力されている間に、前記フォーカス誤差信号と前記総受光量信号との両方が合焦点を表わす信号状態となったことを検出して、前記焦点移動制御部の制御状態から前記フォーカスサーボ制御部の制御状態に切り換えることを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−16015(P2009−16015A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179944(P2007−179944)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】