説明

光ディスク装置

【課題】多層ディスクにおけるターゲット層に直接フォーカス引込みを行うことができる光ディスク装置を提供する。
【解決手段】フォーカスオフセット加算手段250bにより、フォーカスエラー信号にオフセットを加算する。オフセット加算量に応じて、フォーカスバランス調整手段250aによりフォーカスバランスをフォーカスオフセット加算前と同じ最適なバランスに補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォーカスエラー信号にバランス補正およびオフセット補正を行うことで、確実にターゲット層にフォーカス引込みを行うことができる光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクは、光ディスク装置に装填されると、スピンドルモータによって回転されられる。再生モードまたは記録モードでは、回転する光ディスクに対して、光ピックアップから光ビームが照射される。光ピックアップは、光ビームを光ディスク上に集束させる対物レンズ、光ディスクからの反射光を検出する光検出器、およびレーザダイオードなどの光源を備えている。また、光ピックアップは、対物レンズの位置および姿勢を制御するアクチュエータを備えている。
【0003】
光ディスクにおける目標位置に光ビームを照射するには、光ディスクから反射された光ビームを光ピックアップが受け取り、フォーカスエラー信号およびトラッキングエラー信号が生成される。フォーカスエラー信号は、フォーカスが合っている状態からのずれの大きさ(フォーカスエラー)を示す情報を有している。公知のフォーカスサーボ制御を実行することにより、フォーカスエラーの振幅をゼロに近づけるようにアクチュエータが動作し、対物レンズの位置および姿勢が調整される。一方、トラッキングエラー信号は、目標トラックの中心に対する光ディスク径方向における光スポット位置のずれの大きさ(トラッキングエラー)を示す情報を有している。公知のトラッキングサーボ制御を実行することにより、トラッキングエラー信号の振幅をゼロに近づけるようにアクチュエータが動作し、対物レンズの位置および姿勢が調整される。
【0004】
光ディスクに記録されているデータは、比較的弱い一定の光量の光ビームを回転する光ディスクに照射し、光ディスクによって変調された反射光を検出することによって再生される。再生専用の光ディスクには、光ディスクの製造段階でピットによる情報が予めスパイラル状に記録されている。これに対して、書き換え可能な光ディスクでは、スパイラル状のランドまたはグルーブを有するトラックが形成された基材表面に、光学的にデータの記録/再生が可能な記録材料膜が蒸着等の方法によって堆積されている。書き換え可能な光ディスクにデータを記録する場合は、記録すべきデータに応じて光量を変調した光ビームを光ディスクに照射し、それによって記録材料膜の特性を局所的に変化させることによってデータの書き込みを行う。
【0005】
データが記録されている情報記録層および/またはデータが記録され得る層を「情報記録層」、または、単に「層」と称する。多層光ディスクは、複数の情報記録層が所定の間隔で積層された光ディスクである。多層光ディスクの光入射側表面から各情報記録層までの距離(情報記録層の深さ)は相互に異なる。光ディスクを対物レンズで収束された光ビームで照射するとき、球面収差が発生する。この球面収差は、情報記録層の深さによって異なり、小さいことが望ましい。従って、目的とする情報記録層に光ビームを集光するときは、その情報記録層で球面収差が最小化するように光ビームの集光状態を調整し、球面収差の大きさを補正する必要がある。
【0006】
多層ディスクにデータを記録するとき、または多層光ディスクからデータを読み出すとき、光ビームの焦点位置を、ある情報記録層から他の情報記録層に移動させることがある。このような光ビームの焦点位置の移動は、対物レンズを光ディスクに近づけたり、光ディスクから遠ざけることによって行われる。光ビームの焦点位置を所望の情報記録層に移動させことを「層間移動」と呼ぶ。対物レンズの移動は、光ピックアップ内のフォーカスアクチュエータによって行う。以下、光ビームの焦点位置を単に「光スポット位置」と称する場合がある。
【0007】
多層ディスクにおいては、フォーカスアクチュエータによる光スポット位置の速やかな移動技術は必須である。光スポット位置を、ある情報記録層から他の情報記録層に移動させることを「フォーカスジャンプ」と称する。なお、本明細書では、光スポット位置がどの情報記録層上にもない状態から、目標とする情報記録層に移動させることも「フォーカスジャンプ」に含まれるものとする。また、フォーカス引き込みの目標となる情報記録層を「ターゲット層」と称する場合がある。特許文献1では、3層以上の情報記録層を備える多層ディスクにおいて、一度のフォーカスジャンプで、2ある情報記録層から、その情報記録層に隣接する情報記録層を超えて、他の情報記録層(ターゲット層)に光スポットを移動させることが開示されている。この文献に開示されている方法では、まず、現在の情報記録層(第1層)から、その記録情報層(第1層)に隣接する情報記録層(第2層)で球面収差が最小になるように球面収差を補正し、フォーカスアクチュエータによって光スポット位置を第1層から第2層に移動する。こうして、隣接情報記録層(第2層)上に一時的に焦点を合わせ、「合焦状態」を形成する。そして同様に次の情報記録層、すなわち、第2層に隣接する第3層で球面収差が最小になるように球面収差を補正し、フォーカスアクチュエータによって光スポット位置を第2層から第3層に移動する。このように、隣接する情報記録層へのフォーカスジャンプを繰り返すことで、2層以上離れた情報記録層間の光スポット位置の移動においてもフォーカスサーボが不安定になることがなくなる。
【0008】
特許文献2は、現在フォーカスしている情報記録層から他の情報記録層に対してフォーカスジャンプを行う前に、目標とする情報記録層層で球面収差が最小となるように球面収差補正を行う場合の問題点と解決策が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−22545号公報
【特許文献2】特開2008−41154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、隣接する層の間におけるフォーカスジャンプを繰り返すことで2層以上の多層にわたる層間移動を実行するため、球面収差を各情報記録層で最小化するように球面収差補正を繰り返す必要がある。球面収差補正は、機械的に補正レンズを移動させる機構(球面収差補正機構)によって実行されるため、動作が比較的遅い。したがって、上記の従来技術によれば、フォーカスジャンプを開始した後、スポット位置が目的の情報記録層に到達するまでに、長い時間を要する。例えばBD(ブルーレイディスク)の場合、球面収差補正の切り換えに200ms、光スポット位置の隣接層間移動に100ms程度かかる。ここで、積層されたN層(Nは3以上の整数)の情報記録層を備える多層光ディスクにおいて、その光ディスク表面(入射側面)から最も離れた位置の情報記録層を「L0層」と称することとする。そして、L0層に隣接し、かつ、L0よりも1層分だけ光ディスク表面に近い位置の情報記録層を「L1層」と称する。同様にして、L0層からK(Kは1以上の整数)層分だけ光ディスク表面に近い位置の情報記録層を「LK層」と称する。例えば、Nが16のBDは、最も奥の位置から順番に積層されたL0層、L1層、L2層、・・・、L15層を備える。このような多数の情報記録層を備えるBDにおいて、例えば、第1層(L1層)から第11層(L11層)まで、10層の移動(L1→L11)では、3秒の移動時間を要することになる。したがって、このような層間移動を行っている間でもデータの記録や再生を途切れることなく実行するためには、層間移動の時間よりも長い時間に対応したデータ記録容量を備えるバッファメモリを光ディスク装置は備えておく必要がある。従来の光ディスク装置が備える標準的な容量のバッファメモリでは、再生モードではバッファメモリがアンダーフローを引き起こしたり、記録モードではバッファメモリがオーバフローして映像や音声が途切れる。
【0011】
特許文献2に記載された従来技術によると、スポット位置が目標とする情報記録層に前に、その情報記録層の手前に位置する情報記録層に誤ってフォーカス引き込みが行われる可能性がある。
【0012】
本発明の目的の1つは、層間移動に要する時間を短縮できるディスク装置を提供することにある。また、本発明の目的の他の1つは、少なくとも1つの情報記録層を横切るようにして目標とする情報記録層にフォーカス引き込みを行うとき、目標となる情報記録層以外の情報記録層に誤ってフォーカスを引き込んでしまうことを抑制した光ディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光ディスク装置は、複数の情報記録層を有する光ディスクの情報記録層にレーザ光を合焦させる対物レンズ、および前記情報記録層からの反射光を受ける光検出器を含むピックアップを有した光ディスク装置であって、前記光検出器の信号からフォーカスエラー信号を生成するフォーカスエラー信号生成部と、前記フォーカスエラー信号生成手段が生成したフォーカスエラー信号が第1レベルを超え、その後、前記第1レベルよりも低い第2レベル以下になったときにフォーカス制御を動作させるフォーカス引込み部とを備え、前記フォーカスエラー信号生成部は、前記光検出器の信号のバランスを調整するフォーカスバランス調整部と、前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算するフォーカスオフセット加算部とを有する。
【0014】
ある実施形態において、前記フォーカスオフセット加算部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層よりも手前の情報記録層におけるフォーカスエラー信号が前記第1レベルよりも低くなるように、前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算し、前記フォーカスバランス調整部は、前記オフセットの加算によって低下した前記フォーカスエラー信号のレベルを高め、フォーカス引き込みのターゲットとなる前記情報記録層における前記フォーカスエラー信号が前記第1レベルよりも高くなるようにする。
【0015】
ある実施形態において、前記フォーカスオフセット加算部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層よりも手前の情報記録層におけるフォーカスエラー信号が前記第1レベルの半分以下となるように、前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算する。
【0016】
ある実施形態において、前記フォーカスバランス調整部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる前記情報記録層における前記フォーカスエラー信号が前記第1レベルの2倍以上になるようにする。
【0017】
ある実施形態において、前記フォーカス引込み部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層に応じて、前記フォーカスバランス調整部の出力信号に加算する前記オフセットの大きさを変化させる。
【0018】
ある実施形態において、前記光ディスク装置はメモリを備え、前記フォーカスバランス調整部の出力信号に加算する前記オフセット、および、前記フォーカスバランス調整部が前記光検出器の信号のバランスを規定するパラメータは、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層に応じて予め決定されており、前記メモリ内に記録されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、フォーカスエラー信号にオフセットを加え、このオフセット量に応じてターゲット層のフォーカスバランスを補正することで、ターゲット層以外のフォーカスエラー信号を所定レベル以下にすることで、ターゲット層にフォーカスを直接引き込めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1における光ディスク装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の光ピックアップ103、サーボ制御回路106とその周辺部分をより詳細に記載したブロック図
【図3】図2のFE信号生成部250とその周辺部分をより詳細に記載したブロック図
【図4】本発明のバランス補正およびオフセット補正に関する動作を示す図
【図5】球面収差補正装置の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施形態1について説明する。本実施形態では、光ディスク装置としてBDレコーダに適用する場合について説明する。なお本発明は、BDプレーヤにも適用できる。
【0022】
本実施形態における光ディスク装置の構成上の特徴は、フォーカスエラー信号の差動前信号のバランスを変えるフォーカスバランス調整部と、フォーカスエラー信号にオフセットを加算するフォーカスオフセット加算部と、フォーカスエラー信号が第1のレベル以上を超え、その後、第2のレベル以下になったときにフォーカス制御を動作させるフォーカス引込み部とを有する点である。
【0023】
フォーカスオフセット加算部により、フォーカスエラー信号にオフセットを加算し、オフセット加算量に応じて、フォーカスバランス調整部によりフォーカスバランスをフォーカスオフセット加算前と同じ最適なバランスに補正する。その状態では、ターゲット層はフォーカスバランスが最適になっているが、他の層はフォーカスエラー信号が小さいため、フォーカスバランスが大きくずれた状態となる。その状態でフォーカス引込み部によりフォーカス引込みを行うと、ターゲット層のみで適切な波形のフォーカスエラー信号が見つかり、ターゲット層に直接フォーカスを引き込むことができる。
【0024】
(光ディスク装置の構成)
次に本実施形態における光ディスク装置の構成を説明する。
【0025】
図1は、本実施形態の光ディスク装置の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
本光ディスク装置は、光ピックアップ103と、光ディスクモータ101を駆動するモータ駆動回路102と、光ピックアップ103の動作を制御するサーボ制御回路106と、光ピックアップ103で検出した光ディスク100上の情報信号を再生する再生回路110と、記録する情報に基づいて所定の変調方式でレーザダイオードをレーザ駆動回路107によってパルス状に発光させることにより、前記情報を光ディスク100に書き込む記録回路123とを備えている。
【0027】
光ピックアップ103は、光ビームを光ディスク100上に集束させる光学系、光ディスクからの反射光を検出する光検出器、および光源として機能するレーザダイオードを有する。光ピックアップ103は、光ディスクモータ101上に装填された光ディスク100に対し、集束されたレーザ光を照射する。RFサーボアンプ104は、光ディスク100から反射された光に基づいて電気信号を生成する。サーボ制御回路106は、光ディスクモータ101に装填された光ディスク100に対してフォーカス制御およびトラッキング制御を実施する。またサーボ制御回路106は、光ディスク100に対して光源およびレンズを用いて光ビームを照射することによって光ディスク100がBDディスクであるかのディスク判別、単層もしくは2層か、あるいは2層より多い情報記録層をもつ多層判別を行うディスク判別部260(図2参照)を含む。
【0028】
再生回路110は、RFサーボアンプ104から出力された電気信号を波形等価回路などでイコライジングしてアナログ再生信号を生成する。生成された再生信号はデジタル化された後、PLLによってリードクロック(基準クロック)と同期し、データ抽出がなされる。その後、所定の復調、エラー訂正がなされた後、システムコントローラ130に入力される。システムコントローラ130は、I/F回路131を介してホスト140に接続される。
【0029】
記録回路123は、ホスト140からI/F回路131を介して送られてくる情報(光ディスクに記録すべき情報)に、ヘッダやエラー訂正のための冗長ビットなどを付加し、所定の変調パターン(変調方式)に変調する。レーザ駆動回路107は、記録回路123の出力に基づいて、光ピックアップ103の中のレーザダイオードをパルス状に発光させる。光ディスク100に入射するレーザ光の強度変調に応じて、光ディスク100の記録材料(たとえば有機材料や相変化材料)の反射率を変えることで、「1」または「0」の情報の記録を行う。
【0030】
(光ピックアップの構成)
図2は、図1の光ピックアップ103、サーボ制御回路106、およびその周辺部分をより詳細に記載したブロック図である。図2を用いてさらに説明する。
【0031】
まず光ピックアップの構成を説明する。光ピックアップ103は、光源222と、カップリングレンズ224と、偏光ビームスプリッタ226と、球面収差補正装置228、対物レンズ230と、トラッキングアクチュエータ231と、フォーカスアクチュエータ232と、集光レンズ234と、光検出器236とを有している。トラッキングアクチュエータ231およびフォーカスアクチュエータ232は、全体して、「レンズアクチュエータ」と称される。
【0032】
光源222は、光ビームを放射する半導体レーザダイオードから構成される。簡単のため、図2には単一の光源222が示されているが、実際の光源は、異なる波長の光ビームを放射する例えば3つの半導体レーザから構成される。具体的には、1つの光ピックアップがCD、DVD、およびBD用に異なる波長の光ビームを放射する複数の半導体レーザを備える。
【0033】
カップリングレンズ224は、光源222から放射された光ビームを平行光にする。偏光ビームスプリッタ226は、カップリングレンズ224からの平行光を反射する。光ディスクの種類に応じて光源222における半導体レーザの位置や、放射される光ビームの波長が異なるため、光ディスク100の種類に応じて最適な光学系の構成は異なる。このため、実際の光ピックアップ103の構成は、図示されているものに比べて複雑である。
【0034】
対物レンズ230は、偏光ビームスプリッタ226で反射された光ビームを集束する。対物レンズ230の位置は、アクチュエータ232がFE信号およびTE信号に基づいて所定の位置に制御する。光ディスク100の情報記録層からデータを読み出し、あるいは情報記録層にデータを書き込むとき、対物レンズ230によって集束された光ビームの焦点は、情報記録層上に位置し、情報記録層上に光ビームのスポットが形成される。図2には、1つの対物レンズ230が記載されているが、現実には複数の対物レンズ230が備えられており、光ディスク100の種類に応じて異なる対物レンズ230が用いられることになる。データの記録/再生時は、光ビームの焦点が情報記録層における所望のトラックを追従するようにフォーカスサーボおよびトラッキングサーボが動作し、対物レンズ230の位置が高精度に制御される。
【0035】
光ディスク100としてBDが装填された後、データの記録/再生動作を行なう前に、装填されたBDが多層ディスクか否か、また多層光ディスクの場合は、その多層光ディスクが何層の情報記録層を有しているかを判別するために、ディスク判別の動作を実行する。ディスク判別動作が行われるとき、対物レンズ230は、フォーカスアクチュエータ232の働きにより、光軸方向に沿って大きく位置を変化させることになる。また、ディスク判別は、光ディスク100を回転させることなく行うことができる。
【0036】
球面収差補正装置228は、例えば図5に示すように、ステッピングモータ8によって光軸方向に位置を変化させることのできる補正用レンズ120を備える。このモータ8によって補正用レンズ120の位置を調節することにより、球面収差の状態(補正量)を変化させることができる(ビームエキスパンダ方式)構成を備えている。球面収差補正装置228の構成は、このようなビームエキスパンダ方式の構成を備えている必要は無く、液晶素子やヒンジなどによって収差を補正する構成を備えていても良い。球面収差補正装置228によれば、光スポット位置を乗せるべき任意の情報記録層で球面収差を最小化するように球面収差補正を行うことができる。
【0037】
再び図2を参照する。光ディスク100の情報記録層で反射された光ビームは、対物レンズ230、球面収差補正装置228、および偏光ビームスプリッタ226を通過し、集光レンズ234に入射する。集光レンズ234は、対物レンズ230および偏光ビームスプリッタ226を通過してきた、光ディスク100からの反射光を光検出器236上に集束させる。光検出器236は、集光レンズ234を通過した光を受け、その光信号を各種の電気信号(電流信号)に変換する。光検出器236は、例えば4分割の受光領域を有している。
【0038】
光ピックアップ103は、トラバースモータ363により、光ディスク100の半径方向に広い範囲で移動することができる。
【0039】
(サーボ制御回路の構成)
図2のサーボ制御回路106は、フォーカス制御部240、トラッキング制御部241、球面収差制御部242、およびトラバース駆動回路243を備えており、これらを介してCPU246が光ピックアップ103の各種動作を制御する。サーボ制御回路106は、FE信号生成部250と、S字検出部252、TE信号検出部261、振幅検出部262、およびディスク判別部260を備えている。
【0040】
フォーカス制御部240は、CPU246の指示に従ってフォーカスアクチュエータ232を駆動し、対物レンズ230を光軸方向に沿って任意の位置に移動させることができる。フォーカス制御部240は、FE信号生成部250から出力されたFE信号によって、光ディスク100上の光スポットが所定の収束状態になるようにフォーカス制御を行う。
【0041】
またトラッキング制御部241は、トラッキングアクチュエータ231を駆動し、対物レンズ230を光ディスク100の半径方向に沿って任意の位置に移動させることができる。トラッキング制御部241は、TE信号生成部261から出力されたTE信号によって、光ディスク100上の光スポットがトラックを走査するようにトラッキング制御を行う。
【0042】
トラバース制御回路243は、CPU246およびTE信号生成部261の出力に応じてトラバースモータ363を制御し、光ピックアップ103を光ディスク100の半径方向における目的の位置に移動させる。
【0043】
球面収差制御部242は、CPU246の指示に従って球面収差補正装置228を所定の設定状態に制御する。
【0044】
FE信号生成部250は、光検出部236に含まれる複数の受光領域から出力される電気信号に基づいてFE信号を生成する。FE信号の生成法は、特に限定されず、非点収差法を用いたものでもよいし、ナイフエッジ法を用いたものでもよい。また、SSD(スポット・サイズド・ディテクション)法を用いたものでもよい。FE信号生成部250から出力されるFE信号は、CPUからの指令で所定の検出閾値が設定されるS字検出部252に入力される。
【0045】
TE信号生成部261は、光検出部236に含まれる複数の受光領域から出力される電気信号に基づいてTE信号を生成する。TE信号の生成法は、一般的にはBD−RやBD−REに代表される記録光ディスクのように凸凹のトラックを有するものはプッシュプル検出法、BD−ROMに代表される再生専用光ディスクのようにエンボス形状の情報プリピットを有するものは位相差検出法が主に用いられるが、特にトラッキングの方式で限定はされない。
【0046】
TE信号生成部261から出力されるTE信号は、トラックを横断するときに正弦波状に現れる信号振幅を、所定の球面収差の設定値において測定、検出する振幅検出部262に入力される。
【0047】
S字検出部252は、フォーカスサーチ動作によって対物レンズ230が光軸方向に移動している間において、FE信号の振幅が所定の閾値を越えたかどうかでS字信号の検出を行う。ディスク判別部260は、S字検出部252で検出されるS字信号をカウントして多層光ディスクの層判別を行う。
【0048】
またCPU246は、FE信号生成部250が生成したFE信号が第1レベルを超え、その後、第2レベル以下になったときにフォーカス制御を動作させるフォーカス引込み手段の役割も行う。
【0049】
図3は、図2のFE信号生成部250とその周辺部分をより詳細に記載したブロック図である。FE信号生成部250は、FE信号の差動前信号のバランスを変えるフォーカスバランス調整部250aと、FE信号にオフセットを加算するフォーカスオフセット加算部250bと、フォーカスオフセット加算部250bの出力に基づいて差動信号を生成する加算器とを含む。
【0050】
フォーカスバランス調整部250aは、信号光検出器236から出力される信号A+Dを受け取り、信号A+Dを増幅する第1の増幅器と、信号光検出器236から出力される信号B+Cを受け取り、信号B+Cを増幅する第2の増幅器と、これら2つの増幅器の増幅度を調整できるバランス制御部とを備えている。2つの増幅器の増幅度を調整することにより、差動後の信号、すなわち「信号A+D」から「信号B+C」を差し引くことによって得られるFE信号のバランスを調整することができる。
【0051】
フォーカスオフセット加算部250bは、フォーカスバランス調整部250aに含まれる第1の増幅器の出力にオフセットを加算する第1の加算器と、フォーカスバランス調整部250aに含まれる第2の増幅器の出力にオフセットを加算する第2の加算器と、これら2つの加算器の出力に対するオフセット量を調整できるオフセット制御部とを備える。2つの加算器の出力に対するオフセット量を調整することにより、差動後の信号、すなわち「信号A+D」から「信号B+C」を差し引くことによって得られるFE信号のオフセット量を調整することができる。
【0052】
ここで、第1の増幅器の増幅度をa1、第2の増幅器の増幅度をa2、第1の加算器の出力に対するオフセット量をo1、第2の加算器の出力に対するオフセット量をo2とすると、差動後のFE信号は、以下の式で表される。
[{a1(A+D)}+o1]−[{a2(B+C)}+o2]
={a1(A+D)}−{a2(B+C)}+o1−o2
【0053】
ここで、o1−o2は、FE信号のオフセット量に相当する。FE信号のオフセット量は、o1およびo2の大きさによって、負の値をとることもできる。
【0054】
FE信号にオフセットを与え、かつ、バランスを調整する回路の構成は、図3に示す例に限定されない。フォーカスバランス調整部250aとフォーカスオフセット加算部250bとの順序を入り替えてもよい。すなわち、オフセットは、フォーカスバランス調整部250aに入力される前の、光検出器236の出力に与えられてもよい。また、フォーカスバランス調整部250aおよびフォーカスオフセット加算部250bの内部構成も、図3に示す例に限定されない。
【0055】
FE信号に対するオフセット量の設定およびバランスの調整は、光ディスク装置の光ピックアップの特定に応じて実行され得る。すなわち、上記の数値パラメータ、すなわち、a1、a2、o1、およびo2の大きさは、光ディスク装置に装填される光ディスクごとに変更する必要はない。したがって、光ディスク装置が完成した後、各種の光ディスクの標準例を光ディスク装置に装填し、FE信号に対するオフセット量の設定およびバランスの調整が実行される。その結果、所望のFE信号の波形が得られるように、FE信号に対するオフセット量の設定およびバランスの調整が行われる。
【0056】
上記の値パラメータ、すなわち、a1、a2、o1、およびo2は、ターゲット層に応じて異なる値をとり得る。したがって、好ましい実施形態における光ディスク装置は、a1、a2、o1、およびo2の値をターゲット層と関連付けて記録するメモリを備えている。ターゲット層が特定されると、メモリから上記数値パラメータが読み出される。そして、図3に示すバランス制御部およびオフセット制御部が動作し、ターゲット層に応じて、オフセット量およびバランス量の設定が変更され得る。
【0057】
フォーカス引込み部として機能するCPU246は、このFE信号が第1のレベル(フォーカス引込み開始チェックレベル)を超え、その後、第2のレベル(フォーカス引込みレベル)以下になったときにフォーカス制御を動作させる。第1のレベル(フォーカス引込み開始チェックレベル)は、第2のレベル(フォーカス引込みレベル)よりも高い値に設定される。
【0058】
図4は、本発明の実施形態におけるバランス補正およびオフセット補正に関する動作を示す図である。図4(a)は、2層BDディスクにおいて、ターゲット層であるL0層にフォーカスジャンプを行う様子を示している。図4(b)は、バランス調整とオフセット加算を実施しない場合の表面、L1層、L0層のS字波形を示す。図4(c)は、オフセット加算を実施した場合の表面、L1層、L0層のS字波形を示す。図4(d)は、バランス調整とオフセット加算を実施した場合の表面、L1層、L0層のS字波形を示す。
【0059】
まず、図4(a)を参照する。L0層にフォーカス引き込みを行う場合、L0層で球面収差が最小になるように球面収差補正装置228における補正レンズ120を動かす。その場合、L1層では相対的に大きな球面収差が発生しているため、L1層から得られるS字の振幅が小さくなっている。しかし、FE信号の補正を行わないと、図4(a)に示すように、FE信号はL1層の位置の近くでフォーカス引き込み開始チェックレベルより高いレベルとなっている。また、FE信号は、L1層の位置の近くでフォーカス引き込みレベルより低いレベルとなっている。このように、バランス調整とオフセット加算を実施しない場合、L1層からのS字信号の振幅がフォーカス引込み開始チェックレベルを超え、かつ、フォーカス引込みレベル以下であるので、フォーカス引込み部246は、誤ってL1層においてフォーカス制御を動作させる。これでは、ターゲット層であるL0層に直接フォーカス引込みができない。
【0060】
図4(c)に示すように、フォーカスオフセット加算部250bによってターゲット層L0以外の情報記録層におけるFE信号のゼロクロスに対する振幅の対称性を悪化させると、FE信号はL1層の位置の近くでフォーカス引き込み開始チェックレベルより高いレベルとなることを阻止できる。しかし、その結果、ターゲット層のL0層からのS字信号の対称性も悪化してしまっている。より詳細には、L0層の手前の位置でFE信号はフォーカス引き込み開始チェックレベルよりも僅かに高いレベルにあるが、それらのレベル差は充分に大きくない。このため、そのままでは、L0層でのフォーカス引込みに失敗する可能性が生じる。
【0061】
本実施形態によれば、図4(d)に示すように、フォーカスバランス調整部205aによってL0層のFE信号の対称性を改善させることができる。このとき、L1層は球面収差が発生しているため、FE振幅が小さい。従って、L0層のFE信号の対称性を改善させる目的でフォーカスバランス調整部205aにおけるバランス制御部の設定を変更しても、その変更がL1層からのS字信号の振幅に与える影響が小さい。従って、FE信号振幅がL1層の位置の近傍でフォーカス引き込み開始チェックレベルを超えることはない。
【0062】
なお、フォーカスオフセット加算部205bのオフセット加算量はターゲット層以外の層でFE信号振幅がフォーカス引き込み開始チェックレベルを超えないレベルとなるように設定される。例えば、フォーカス引き込み開始チェックレベルの1/2になるように設定され得る。また、本実施形態では、フォーカスバランス調整部205aによってL0層のFE信号の対称性を改善させることにより、ターゲット層(L0層)におけるFE信号振幅がフォーカス引き込み開始チェックレベルの2倍以上になるようにする。
【0063】
この状態でフォーカス引込み手段246によりフォーカス引込みを行うと、ターゲット層以外の情報記録層の位置では、FE信号の振幅が引き込み開始チェックレベルよりも十分に小さくなるため、ターゲット層であるL0層に直接フォーカスを引き込むことができる。
【0064】
以上、2層の情報記録層を備える光ディスクについて説明してきたが、本発明の効果は、3層以上の情報記録層を備える多層ディスクにおいても同様に適用されて効果を得ることができる。すなわち、ターゲット層での球面収差が最小化されるように球面収差補正を行った状態で、フォーカスオフセット加算部205bによってターゲット層以外のFE信号の対称性を悪化させる一方、フォーカスバランス調整部205aによって、ターゲット層のFE信号の対称性を改善させる。こうすることにより、ターゲット層以外へのフォーカス誤引き込みをなくし、ターゲット層へのフォーカス引込みを短時間で行うことができる。この時間短縮の効果は、BDなどの光ディスクにおいて多層数が増えれば、より顕著になる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明にかかる光ディスク装置は、FE信号にオフセットを加え、このオフセット量に応じてターゲット層のフォーカスバランスを補正することで、ターゲット層以外のFE信号を所定レベル以下にすることで、ターゲット層にフォーカスを直接引き込めることができる。このため、本発明は、多層光ディスクを再生または記録するプレーヤ、レコーダやPC(パーソナルコンピュータ)等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0066】
100 光ディスク
103 光ピックアップ
106 サーボ制御回路
246 CPU(フォーカス引込み手段)
250 FE信号生成部
250a フォーカスバランス調整部
250b フォーカスオフセット加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の情報記録層を有する光ディスクの情報記録層にレーザ光を合焦させる対物レンズ、および前記情報記録層からの反射光を受ける光検出器を含むピックアップを有した光ディスク装置であって、
前記光検出器の信号からフォーカスエラー信号を生成するフォーカスエラー信号生成部と、
前記フォーカスエラー信号生成手段が生成したフォーカスエラー信号が第1レベルを超え、その後、前記第1レベルよりも低い第2レベル以下になったときにフォーカス制御を動作させるフォーカス引込み部と、
を備え、
前記フォーカスエラー信号生成部は、
前記光検出器の信号のバランスを調整するフォーカスバランス調整部と、
前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算するフォーカスオフセット加算部と
を有する、光ディスク装置。
【請求項2】
前記フォーカスオフセット加算部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層よりも手前の情報記録層におけるフォーカスエラー信号が前記第1レベルよりも低くなるように、前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算し、
前記フォーカスバランス調整部は、前記オフセットの加算によって低下した前記フォーカスエラー信号のレベルを高め、フォーカス引き込みのターゲットとなる前記情報記録層における前記フォーカスエラー信号が前記第1レベルよりも高くなるようにする、請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項3】
前記フォーカスオフセット加算部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層よりも手前の情報記録層におけるフォーカスエラー信号が前記第1レベルの半分以下となるように、前記光検出器の信号又は前記フォーカスバランス調整部の出力信号にオフセットを加算する、請求項2に記載の光ディスク装置。
【請求項4】
前記フォーカスバランス調整部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる前記情報記録層における前記フォーカスエラー信号が前記第1レベルの2倍以上になるようにする、請求項2に記載の光ディスク装置。
【請求項5】
前記フォーカス引込み部は、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層に応じて、前記フォーカスバランス調整部の出力信号に加算する前記オフセットの大きさを変化させる、請求項1に記載の光ディスク装置。
【請求項6】
メモリを備え、
前記フォーカスバランス調整部の出力信号に加算する前記オフセット、および、前記フォーカスバランス調整部が前記光検出器の信号のバランスを規定するパラメータは、フォーカス引き込みのターゲットとなる情報記録層に応じて予め決定されており、前記メモリ内に記録されている、請求項1に記載の光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−252767(P2012−252767A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193901(P2011−193901)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】