説明

光デバイス

【課題】2次の電気光学効果を有する電気光学結晶に電界傾斜が生じた場合であっても、該電界傾斜により生じる偏向の影響を低減可能な光デバイスを提供すること。
【解決手段】光変調器30は、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶31を備え、電気光学結晶31の第1の面には、正極32a、負極34b、負極35b、および正極33aがこの順番で方向Pに沿って配置され、電気光学結晶31の上記第1の面に対向する第2の面には、正極32b、負極34a、負極35a、および正極33bがこの順番で方向Pに沿って配置されている。正極32aと負極32bとが第1の電極対を形成し、正極33aと負極33bとが第2の電極対を形成し、正極34aと負極34bとが第3の電極対を形成し、正極35aと負極35bとが第4の電極対を形成している。さらに、電極長a1とa2との合計が、電極長b1、b2との合計と等しくしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスに関し、より詳細には、二次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信システムの大容量、高速化ならびに高機能化に対する要求は、急激に高まっている。このような、光通信システムに用いられる光信号処理デバイスとして期待されているものに1つに光変調器があり、電気光学結晶を用いた光変調器の開発が進められている。
【0003】
電気光学結晶を用いた光位相変調器は、結晶の屈折率の変化により、結晶を通過する光の速度を変化させて、光の位相を変化させる。また、電気光学結晶を、マッハツェンダ干渉計、マイケルソン干渉計の一方の光導波路に設置すると、結晶に印加する電圧に応じて、干渉計の出力の光強度が変化する。これら干渉計は、光スイッチ、光変調器として用いることができる。特許文献1では、電気光学結晶としてKTN(KTa1-xNbx3(0<x<1))及びKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1))を用いた光位相変調器が開示されている。
【0004】
図1に、特許文献1に開示された、電気光学結晶を用いた光位相変調器、偏光子、および検光子を組み合わせた光強度変調器の構成を示す。図1において、KTNやKLTN等の2次の電気光学効果を有する電気光学結晶1には、対向する面に正極2と負極3とが形成される。すなわち、電気光学結晶1の上面と下面とに正極2および負極3とを形成する。また、電気光学結晶1の入射側に偏光子4を配置し、出射側に検光子5を配置する。偏光子4の透過容易軸を、図1中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子5の透過容易軸を、偏光子4の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定している。電気光学結晶1の結晶軸x,y,zを図1に示したように規定する。
【0005】
さて、電気光学結晶1は、2次の電気光学効果を有するので、該2次の電気光学効果により、屈折率が変化する。2次の電気光学効果の場合、垂直偏光、すなわち光の偏光方向が図1のx軸方向に対する電気光学定数は、s11であり、正極2と負極3との間に電圧Vを印加したときの位相の変化は、次式で与えられる。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、nは電気光学結晶1の屈折率、Lは光の伝搬方向、すなわち図1のz軸方向の電気光学結晶1の長さ、λは光の波長、dは正極2と負極3の間隔である。水平偏光、すなわち光の偏光方向が図1のy軸方向に対する電気光学定数は、s12であり、正極2と負極3との間に電圧Vを印加したときの位相の変化は、次式で与えられる。
【0008】
【数2】

【0009】
光位相変調器の効率を表す指数として、半波長電圧が用いられている。半波長電圧は、光の位相をπラジアンだけ変化させるのに要する電圧であり、次式で与えられる。
【0010】
【数3】

【0011】
円偏光等の入射光を偏光子4に入射する場合、正極2と負極3との間に所定の電圧を印加すると、出射光の偏光方向が入射光の偏光方向に対して90°回転する。
【0012】
偏光子4を通過した光の電界成分のうち、x軸に平行な成分をEx、y軸に平行な成分をEyとする。偏光子4の偏光角が、電気光学結晶1のx軸に対して45度の場合には、Ex=Eyである。
【0013】
正極2と負極3との間に電圧Vを印加したときのExおよびEyの位相の変化は、それぞれ式(1),(2)で与えられる。検光子5の偏光角が、電気光学結晶1のx軸に対して−45度の場合、検光子5を通過した出射光の強度は、次式で与えられる。
【0014】
【数4】

【0015】
ExとEyとが等しい場合には、
【0016】
【数5】

【0017】
として、次式で与えられる。
【0018】
【数6】

【0019】
このようにして、図1に示したように、電圧Vに応じて、検光子5を通過した出射光の強度を0%〜100%の間で変調することができる。
【0020】
【特許文献1】国際公開第2006/137408号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
このように、光強度変調器においては、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いる構成は、電圧印加による屈折率変化を大きくすることができ、光強度変化を低電圧で制御することができるので有効である。しかしながら、近年の光通信技術の発達に伴い、より良好な光強度変調が求められており、該より良好な光強度変調の実現のためには、まだ改善しなければならない課題が残されている。
【0022】
特に、光強度変調器において、KTN等の2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用い、かつ電極をオーミック接触させる場合、電圧が印加されると電気光学結晶内に電界傾斜が発生し、該電界傾斜により光が偏向することが知られており(特許文献1参照)、該偏向の影響により消光比が劣化することがある。
【0023】
このような光の偏向の様子を図2に示す。
図2において、KTNからなる電気光学結晶21の一方の面に正極22が配置され、一方の面に対向する他方の面には負極23が配置されている。上記正極22および負極23は、電気光学結晶21にオーミック接触している。電気光学結晶21の、2次の電気光学定数s11の符号とs12の符号とは逆であるとする。
【0024】
このような構成において、電圧を印加すると電気光学結晶21中に電界傾斜が生じる。そして、電界傾斜が生じている電気光学結晶21に入射光21を入射すると、入射光24の垂直偏光成分25と水平偏光成分26とがそれぞれ偏向する。このとき、2次の電気光学定数s11とs12とは逆符号であるので、垂直偏光成分25と水平偏光成分26とは反対方向に偏向する。
【0025】
また、電気光学効果には偏光依存性があるため、垂直偏光成分に対する屈折率変化の傾斜と、水平偏光成分に対する屈折率変化の傾斜とは異なる。よって、入射光24の光軸方向と、垂直偏光成分25の偏向方向との成す角θ1と、入射光24の光軸方向と、水平偏光成分26の偏向方向との成す角θ2とは異なる。ここで、θ1、θ2は偏向角である。
【0026】
なお、本明細書において、「垂直偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と一致する方向の偏光である。図1で言うと、偏光方向がx軸方向の偏光である。
また、本明細書において、「水平偏光」とは、偏光方向が、光軸に垂直方向であって、電気光学結晶に配置された電極間に生じる電界の方向と直交する方向の偏光である。図1で言うと、偏光方向がy軸方向の偏光である。
【0027】
図2の構成では、上述のように垂直偏光成分25と水平偏光成分26とが逆方向にそれぞれ偏向角θ1、θ2で偏向するので、出射光は入射光24が垂直偏光成分25と水平偏光成分26との分離したものとなる。
【0028】
電気光学結晶21の入射側に偏光子を配置し、出射側に検光子を配置して、図1のような光強度変調器を構成すると、上述の偏向の影響により入射光が分離して出射されることになり、消光比の劣化の原因となっていた。従って、より良好な光強度変調の実現のために、上記偏向の影響を抑え、消光比の劣化を抑えることが望まれている。
【0029】
また、図2の構成を位相変調器に適用する場合には、上述の偏向の影響により、分離された垂直偏光成分25および水平偏光成分26の各々は、平行光として出射しない。すなわち、垂直偏光成分25は、入射光24の光軸に対して偏向角θ1の角度で出射し、水平偏光成分26は、入射光24の光軸に対して偏向角θ2の角度で出射することになる。
【0030】
位相変調器についても、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いることは、低い電圧で大きな屈折率変化を得ることができるので、有効であるが、上記偏向の影響により平行光を出射することが困難であった。
【0031】
このような、低電圧で大きな屈折率変化を得ることができる2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いる光デバイスにおいては、上述の偏向の影響を低減することが望まれている。
【0032】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶に電界傾斜が生じた場合であっても、該電界傾斜により生じる偏向の影響を低減可能な光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
このような目的を達成するために、請求項1記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、前記第1の面に、前記第1の正極から前記所定の方向に沿って離間して配置され、前記所定の方向に沿った第2の電極長を有する第2の正極と、前記第2の面に、前記第2の正極と第2の電極対を形成するように、前記第1の負極から前記所定の方向に離間して配置され、前記第2の電極長を有する第2の負極と、前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記第2の正極との間に配置された少なくとも1つの負極と、前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記第2の負極との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、前記第1の電極長と前記第2の電極長の合計が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする。
【0034】
請求項2記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路と、前記スラブ導波路の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、前記第1の面に、前記第1の正極から前記所定の方向に沿って離間して配置され、前記所定の方向に沿った第2の電極長を有する第2の正極と、前記第2の面に、前記第2の正極と第2の電極対を形成するように、前記第1の負極から前記所定の方向に離間して配置され、前記第2の電極長を有する第2の負極と、前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記第2の正極との間に配置された少なくとも1つの負極と、前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記第2の負極との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、前記第1の電極長と前記第2の電極長の合計が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする。
【0035】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記第1の電極長と前記第2の電極長とが同じ長さであることを特徴とする。
【0036】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記光デバイスの入射側に配置された偏光子と、前記光デバイスの出射側に配置され、前記偏光子の透過容易軸と直交する方向の透過容易軸を有する検光子とをさらに備えることを特徴とする。
【0037】
請求項5記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記第1の電極長と前記第2の電極長とが異なる長さであることを特徴とする。
【0038】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記光デバイスの入射面に光学的に接続された第1の光ファイバと、前記光デバイスの出射面における、前記光デバイスに電圧を印加する場合に光が出射する位置、および前記光デバイスの出射面における、前記光デバイスに電圧を印加しない場合に光が出射する位置のいずれか一方に光学的に接続された第2の光ファイバとをさらに備えることを特徴とする。
【0039】
請求項7記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶であって、第1の端面から光が入射し、該第1の端面と対向する第2の端面から光が出射する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、前記電気光学結晶の第2の端面に配置された反射部材と、前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの負極と、前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、前記第1の電極長が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする。
【0040】
請求項8記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路であって、第1の端面から光が入射し、該第1の端面と対向する第2の端面から光が出射するスラブ導波路と、前記スラブ導波路の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、前記スラブ導波路の第2の端面に配置された反射部材と、前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの負極と、前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、前記第1の電極長が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする。
【0041】
請求項9記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶の第1の面に、所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極と、前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極とを備え、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極の各々と、前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々とが1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って少なくとも3つの電極対が形成されており、変調動作時において、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極、および前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々には、前記電気光学結晶へと入射光が入射する際の入射角と、該電気光学結晶から出射光が出射する際の出射角とが等しくなり、かつ電界が印加されていない前記電気光学結晶中を通過する光の出射位置の偏位量と、電界が印加されている電気光学結晶中を通過する光の出射位置の偏位量とが等しくなるような電圧が印加されることを特徴とする。
【0042】
請求項10記載の発明は、光デバイスであって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路と、前記スラブ導波路の第1の面に、所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極と、前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極とを備え、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極の各々と、前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々とが1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って少なくとも3つの電極対が形成されており、変調動作時において、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極、および前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々には、前記スラブ導波路へと入射光が入射する際の入射角と、該スラブ導波路から出射光が出射する際の出射角とが等しくなり、かつ電界が印加されていない前記スラブ導波路中を通過する光の出射位置の偏位量と、電界が印加されているスラブ導波路中を通過する光の出射位置の偏位量とが等しくなるような電圧が印加されることを特徴とする。
【0043】
請求項11記載の発明は、請求項1乃至10のいずれかに記載の発明において、前記正極および負極の各々は、Pt、Co、Ge、Au、Pd、Ni、Ir、Pt、Se、Cs、Rb、K、Sr、Ba、Na、Ca、Li、Y、Sc、La、Mg、As、Ti、Hf、Zr、Mn、In、Ga、Cd、Bi、Ta、Pb、Ag、Al、V、Nb、Ti、Zn、Sn、B、Hg、Cr、Si、Sb、W、Mo、Cu、Fe、Ru、Os、Te、Re、Be、Rhのいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明よれば、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶に電界傾斜が生じた場合であっても、該電界傾斜により生じる偏向の影響を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0046】
本発明の一実施形態は、KTN(KTa1-xNbx3(0<x<1))やKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1、0<y<1))等、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光変調器であって、該電気光学結晶に設ける電極の配置方法に特徴がある。
【0047】
この本発明の一実施形態に係る電極の配置方法は、光変調器の他に、光可変減衰器等の光デバイスにも適用可能である。すなわち、本発明の本質は、後述するような電極の配置方法にあり、該電極の配置方法によって、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶に電圧を印加した際に生じる電界傾斜による偏向の影響を低減することが重要であって、対象となるデバイスの種類は問わない。
【0048】
本発明の一実施形態では、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶の第1の面と、該第1の面と対向する第2の面とに電極対を形成するように正極、負極を配置し、所定の方向(入射光の光軸方向)に複数の電極対を形成する。すなわち、上記所定の方向に沿って第1の電極対を配置し、該第1の電極対と離間して第2の電極対を配置し、第1の電極対と第2の電極対との間に、少なくとも1つの電極対を配置するのである。これら各電極対の間の、電気光学結晶の領域を、光が通過することになる。
【0049】
このように形成された複数の電極対のうち、上記所定の方向に沿った両端の電極対(第1の電極対および第2の電極対)について、正極、負極の配置方法を同一にする。これと共に、両端の電極対間の電極対については、上記両端の電極対の正極、負極の配置方法とは逆の配置方法にする。
【0050】
すなわち、両端の電極対の一方の電極対において、正極を第1の面に配置し負極を第2の面に配置する場合、両端の電極対の他方の電極対では、正極を第1の面に配置し負極を第2の面に配置するのである。このとき、両端の電極対の間にある少なくとも1つの電極対については、その正極を第2の面に配置し、負極を第1の面に配置するのである。
【0051】
さらに、両端の電極対を構成する電極の、上記所定の方向に沿った長さ(本明細書では、電極長とも呼ぶ)の合計と、両端の電極対の間の電極対を構成する電極の電極長の合計とを等しくする。
【0052】
このような電極配置において、電界傾斜によって生じた屈折率傾斜により生じる偏向により分離された垂直偏光成分と水平偏光成分とを、電気光学結晶の出射側で干渉させることができる。これと共に、出射光の光軸方向を、入射光の光軸方向と平行にすることができる。
【0053】
上記干渉されて出射する位置は、両端の電極対である、第1の電極対を構成する電極の電極長と、第2の電極対を構成する電極の電極長との長さによって、制御することができる。一例として、第1の電極対を構成する電極の電極長と、第2の電極対を構成する電極の電極長とを同じ長さに設定することにより、入射光の入射位置と同じ高さから出射することができる。また、他の例として、第1の電極対を構成する電極の電極長と、第2の電極対を構成する電極の電極長とを異なる長さに設定することによって、入射光の入射位置とは異なる高さから出射することができる。
【0054】
上述のような電極配置にすることで、電気光学結晶に電界傾斜が生じた場合における、該電界傾斜により生じる偏向の影響が低減されるが、本発明の別の実施形態では、各電極に印加される電圧を制御することにより、上記偏向の影響を低減している。すなわち、本発明の一実施形態では、電気光学結晶の第1の面に少なくとも3つの電極を配置し、かつ第2の面に、第1の面に配置された各電極と対向するように少なくとも3つの電極を配置して、少なくとも3つの電極対を形成し、各電極に印加する電圧を、次のような2つの条件を満たすように制御する。
条件1;光変調器の基体となる電気光学結晶へと入射光が入射する際の入射角と、該電気光学結晶から出射する際の出射光の出射角とを等しくする。
条件2;所定の入射角で入射した光が、電界が印加されていない電気光学結晶中を通過して出射する際の光の位置の偏位量と、電界が印加されている電気光学結晶中を通過して出射する際の光の位置の偏位量とを等しくする。
【0055】
上記KTN、KLTNは、電界を結晶軸方向に印加すると、大きな二次の電気光学効果を示す。その値は(1200〜8000pm/V)であり、1次の電気光学効果を有する材料であるLiNO3(LN)の有する非線形定数30pm/Vに比べて著しく大きい。さらに、KTN、KLTNは、TaとNbの組成比を変化させることにより、常誘電性から強誘電性への相転移温度を、ほぼ絶対零度から400℃まで変化させることが可能である。従って、温度コントローラを用いなくても、動作温度を室温等、所望に設定することができる。このように、KTNやKLTNは、光変調器に対して好ましい材料である。
【0056】
なお、本発明の一実施形態では、光変調器の変調領域として用いる材料は、KTNやKLTNに限らない。本発明の一実施形態の目的は、低電圧で変調動作を行うことではなく、2次の電気光学効果を有する材料を変調領域に適用した際の、偏向の影響を低減することにある。よって、上記変調材料に用いる材料は、KTN、KLTNに限らず、LiTaO3、LiIO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLayTi1-xZrx3(0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、およびZnO等、2次の電気光学効果を有する誘電体材料であればいずれを用いても良い。
【0057】
また、電気光学結晶に電界を印加するための電極の材料は、Pt、Co、Ge、Au、Pd、Ni、Ir、Pt、Se、Cs、Rb、K、Sr、Ba、Na、Ca、Li、Y、Sc、La、Mg、As、Ti、Hf、Zr、Mn、In、Ga、Cd、Bi、Ta、Pb、Ag、Al、V、Nb、Ti、Zn、Sn、B、Hg、Cr、Si、Sb、W、Mo、Cu、Fe、Ru、Os、Te、Re、Be、Rhのいずれかを用いることができる。また、上記材料を複数用いた合金であってもよい。
【0058】
(第1の実施形態)
図3は、本実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
図3において、光変調器30は、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶31を備えている。電気光学結晶31の第1の面には、正極32a、負極34b、負極35b、および正極33aがこの順番で方向P(入射光36の光軸方向に一致する方向)に沿って所定の間隔で配置されている。一方、電気光学結晶31の上記第1の面に対向する第2の面には、負極32b、正極34a、正極35a、および負極33bがこの順番で方向Pに沿って上記所定の間隔で配置されている。上記各電極32a〜35bはそれぞれ、電気光学結晶31にオーミック接触している。
なお、図3に示す構成においては、電気光学結晶31の2次の電気光学定数s11とs21とは逆符号である。
【0059】
また、図3において、入射光36は、図3のx軸方向から45度傾いた偏光方向を有する直線偏光とする。
【0060】
本実施形態では、正極32aと負極32bとが第1の電極対を形成し、正極32aおよび負極32bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。正極32aの、方向Pに沿った長さである電極長はa1であり、負極32bの電極長もa1である。同様に、正極33aと負極33bとが第2の電極対を形成し、正極33aおよび負極33bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。正極33aの電極長はa2であり、負極33bの電極長もa2である。
【0061】
また、正極34aと負極34bとが第3の電極対を形成し、正極34aおよび負極34bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。正極34aの、方向Pに沿った長さである電極長はb1であり、負極34bの電極長もb1である。同様に、正極35aと負極35bとが第4の電極対を形成し、正極35aおよび負極35bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。正極35aの、方向Pに沿った長さである電極長はb2であり、負極35bの電極長もb2である。
【0062】
すなわち、正極32aと正極33aとの間に配置される負極34bと負極35bと、負極32bと負極33bとの間に配置される正極34aと正極35aとがそれぞれ1対1で対を形成することにより、方向Pに沿って配列するように第3および第4の電極対が形成される。
【0063】
本実施形態では、電極対の配列方向は方向Pであり、該配列方向の両端の電極対である第1の電極対と第2の電極対の間に、第3の電極対および第4の電極対が形成されている。そして、第1の電極対および第2の電極対に対する正極、負極の配置方法は、第1の面に正極を配置し、第2の面に負極を配置するもの(第1の配置方法)である。一方、第3の電極対および第4の電極対に対する正極、負極の配置方法は、第1の配置方法とは逆の配置方法であって、第1の面に負極を配置し、第2の面に正極を配置するもの(第2の配置方法)である。
【0064】
さらに、図2において、電極長a1と電極長a2とを等しい長さに設定し、電極長b1と電極長b2とを等しい長さに設定し、かつ(a1+a2)=(b1+b2)を満たすように設定している。従って、図2では、a1=a2=b1=b2である。
【0065】
このような構成において、各電極対に電圧を印加すると、各電極と電気光学結晶31とがオーミック接触しているので、電極から電子が引き抜かれ、電気光学結晶31の内部に空間電荷が生じ、該空間電荷によって、電圧の印加方向に電界の傾斜が生じるために、屈折率の変化にも傾斜が生じる。上述のように電気光学効果には偏光依存性があるため、垂直偏光成分に対する屈折率変化の傾斜と、水平偏光成分に対する屈折率変化の傾斜とは異なる。さらに、図3では、電気光学結晶31の2次の電気光学定数s11とs21とは逆符号であるので、垂直偏光と水平偏光とは逆方向に偏向することになる。よって、入射光36は電気光学結晶31に入射すると、第1の電極対間の電界傾斜によって、垂直偏光成分37aと水平偏光成分37bとは逆方向に偏向し、第2の電極対間の電界傾斜によって、垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bの進行方向が、入射光36の光軸方向と平行な方向になる。次いで、第2の電極対間の電界傾斜と同じ電界傾斜が形成されている第3の電極対の間、および第1の電極対間の電界傾斜と同じ電界傾斜が形成されている第4の電極対の間を垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bが通過し、第4の電極対間において、上記2つの偏光成分は干渉し、出射光38となる。
【0066】
このとき、電極長a1=電極長a2であるので、電気光学結晶31の出射面において、電気光学結晶31の入射面における入射光36の入射座標と同じ座標から出射光38を出射することができる。
【0067】
なお、図3では、電気光学結晶31の2次の電気光学定数s11とs21とを逆符号にしているので、第1の電極対間の電界傾斜により垂直偏光成分37aと水平偏光成分37bとは異なる方向に偏向するが、電気光学結晶31の2次の電気光学定数s11とs21とを同符号にする場合、第1の電極対間の電界傾斜による垂直偏光成分37aと水平偏光成分37bとの偏向方向は同方向となる。この場合であっても、上述と同様にして、第2の電極対間で光の進行方向が方向Pに戻り、第4の電極間で2つの偏光が干渉する。
【0068】
以下に、電圧の印加によって電界の傾斜が発生する原理について説明する。
電気光学結晶に電圧を印加すると、結晶の高電界電気伝導に伴う空間電荷が発生する。ここでいう高電界電気伝導とは、電圧と電流の関係がオームの法則からはずれ、電流が電圧に対して非線形に増大する空間電荷制限状態にある領域における電気伝導をいう。この空間電荷制限状態にある領域では、電極から注入される電流に対して結晶内のバルク電流が小さい場合、結晶内に空間電荷が形成される。
【0069】
図4および5に、結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を示す。
図4および5に示すいずれの素子も、正極42と負極43とで平行に挟まれた、電気光学結晶41を備えている。また、縦軸を負極43から正極42への距離とし、横軸を電気光学結晶41内の電界の強さとするグラフを示す。
【0070】
図4は、電気光学結晶41内に空間電荷が存在せず、電界が一定の場合を示す。この場合、正極42と負極43との間の全空間にわたって電界は一定である。一方、図5は、電気光学結晶41内の空間電荷によって空間電荷制限状態が発生した場合を示す。空間電荷制限状態では、電気光学結晶41内に発生した空間電荷によって電界が終端され、電気光学結晶41内の電界分布に傾斜が生じる。この空間電荷は、電気光学結晶41の組成によって正電荷および負電荷のどちらか一方、または正電荷および負電荷の両方であり得る。
【0071】
図6に、電界傾斜による光の偏向の原理を示す。
図6において、x軸方向は、電気光学結晶41の厚さ方向(図4および5における正極42から負極43に、または負極43から正極42に向かう方向)である。電気光学結晶41の厚さ方向(x軸方向)に線形に変化する屈折率n(x)を、x=0における屈折率をnとし、xにおける屈折率nからの屈折率の変化量をΔn(x)として、n(x)=n+Δn(x)とする。光軸に対して垂直な断面における直径がDであるビームが、電気光学結晶41の中を通過する場合、ビームの上端と下端とでの屈折率差は、Δn(D)−Δn(0)で与えられる。ビームが通過する屈折率に傾斜がある部分の長さ、すなわち相互作用長Lとすると、長さLを伝搬後のビームの上端と下端とでの等位相面61にはずれ62が生じる。その上端と下端との等位相面61のずれ62の距離は、次式で与えられる。
【0072】
【数7】

【0073】
このときビームの伝搬方向63の傾きθ(偏向角)は、ずれ62の量がビームの光軸に対して垂直な断面における直径より十分小さいとすると次式となる。
【0074】
【数8】

【0075】
これが電気光学結晶41の端面から屈折率が1と近似できる外部に出射すると、電気光学結晶41と外部との境界面で屈折し、入射光の光軸からのトータルの偏向角は次式となる。
【0076】
【数9】

【0077】
ここで電気光学効果による屈折率の変化を考える。電気光学効果による屈折率の変化は、2次の電気光学効果において次式で与えられる。
【0078】
【数10】

【0079】
電気光学結晶中に電荷を生じさせ、その電荷により電極から発した電界を接地電極に到達する前に終端することによって電界が結晶の厚さ方向で変化している場合で、その電界がE(x)で表されるとすると、偏向角θは次式となる。
【0080】
【数11】

【0081】
これらの式は電界E(x)がxに依存して変化している場合には、ゼロでない偏向角が生じることを示している。
【0082】
図5のように、空間電荷制限状態にある厚さdの電気光学結晶41に正極42と接地された負極43との間に電圧Vを印加すると、以下の式で表される電界Eの空間分布が現れる。
【0083】
【数12】

【0084】
ここでxは、負極43から対向する正極42に向かう方向における負極43と接する電気光学結晶41の側面からの位置であり、x0は電気光学結晶と電極の物質により決まる定数である。
【0085】
ここで、電界Eを以下の式で近似すると、
【0086】
【数13】

【0087】
電気光学効果を通じて誘起される屈折率変化Δnは、2次の電気光学効果の場合において、式(9)に式(12)を代入することによって、以下の式で与えられる。
【0088】
【数14】

【0089】
したがって式(10)、(13)から偏向角θ(x)は次式となる。
【0090】
【数15】

【0091】
以上より、電気光学結晶に電圧を印加することにより、電気光学結晶の内部に空間電荷を生じさせ、入射光の光軸に対して垂直な断面に電界の傾斜を生じさせる。この電界の傾斜により、屈折率の変化量に傾斜を生じさせ、入射光の光軸に対して垂直な断面上の光の進行速度分布に傾斜を生じさせる。結果として、光が電気光学結晶中を伝搬する間、光の進行方向は、屈折率の傾斜に応じて連続的に変化させられ、偏向角を累積することになる。一方、電圧の印加方向に電界の傾斜が生じるために、光の偏向は、垂直偏光と水平偏光との間でずれ角が生じることがわかる。従って、電界の傾斜が大きい場合、光の偏向が大きくなり、電界の傾斜が小さい場合、光の偏向が小さくなる。
【0092】
このように、等位相面61の傾き(偏向角θ)は、電界傾斜によって決まる。言い換えると、電界傾斜によって等位相面61の傾き、すなわち偏向角θが決まるので、同様の電界傾斜を発生させれば、同様の等位相面の傾きを実現することができる。
【0093】
本実施形態は、まさにこの原理を用いて、偏向して、入射光に対して進行方向が変わった、垂直偏光および水平偏光の進行方向を、入射光に対して平行な方向に戻し、次いで、垂直偏光および水平偏光を干渉させて出射するのである。
【0094】
以下で、本実施形態に係る偏向により分離した偏光を干渉する作用を説明する。
図7は、図2に示す光変調器において偏向により分離した垂直偏光と水平偏光とを干渉させる作用を説明するための模式図である。
図7において、符号71は、電気光学結晶31の、第1の電極対間の領域であり、符号72は、電気光学結晶31の、第3の電極対間の領域であり、符号73は、電気光学結晶31の、第4の電極対間の領域であり、符号74は、電気光学結晶31の、第2の電極対間の領域である。
なお、模式図である図7では、領域71〜74の各々の間の領域には何も示していないが、実際には図3に示すように、電気光学結晶が存在していることは言うまでも無い。
【0095】
さて、領域71では、電極は第1の配置方法にて配置されており、電圧印加により第1の電界傾斜(第1の屈折率傾斜)が発生している。該第1の電界傾斜によって、入射光36の垂直偏光成分37aと水平偏光成分37bとはそれぞれ反対方向に所定の偏向角で偏向する。
【0096】
領域72では、第1の配置方法とは正極、負極の配置面が逆となる第2の配置方法にて電極が配置されているので、電圧印加により発生する第2の電界傾斜(第2の屈折率傾斜)は、第1の電界傾斜(第1の屈折率傾斜)とは傾斜が逆となる。上述のように、等位相面の傾きは、電界傾斜によって決まるので、領域71にて偏向した等位相面の傾きに対して180度回転した等位相面となるように、領域72にて電界傾斜を発生させれば、領域71にて生じた等位相面の傾きと、領域72にて生じた等位相面の傾きとが相殺することになる。よって、領域71にて偏向して進行方向が方向Pからずれた、垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bの進行方向が、入射光36の光軸方向である方向Pと平行になる。すなわち、領域71にて偏向した、垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bの進行方向はそれぞれ、領域72にて、入射光36の光軸方向に戻る。
【0097】
このように、偏向により、入射光の光軸方向とずれた方向に進行する偏光の進行方向を、入射光の光軸方向に戻すために、電極長a1と電極長b1とを同じ長さにし、かつ、領域71と領域72とで、正極、負極の配置を逆にしているのである。
【0098】
本実施形態では、上述のように、入射光36の光軸と平行な方向に進行方向が戻った垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bとを、干渉させて出射することが重要であり、そのために、図7では、第2の電界傾斜を有する領域73、および第1の電界傾斜を有する領域74をそれぞれ配置するのである。このように、領域73、領域74を形成することによって、領域72を出射する垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bはそれぞれ、これまでに通過してきた電気光学結晶中の状態を、そのまま逆を辿るように電気光学結晶中を通過するので、偏向により偏向成分が分離した領域71に対応する領域74にて、垂直偏光成分37aおよび水平偏光成分37bは干渉し、入射光36の光軸と平行な方向の出射光38となって出射する。
【0099】
このように、本実施形態では、偏向により分離して進行方向が入射光の光軸方向と平行に戻った偏光を、上記光軸方向と平行な方向で干渉させるために、上記平行に戻るまでの状態をそのまま戻るように、すなわち、第2の電界傾斜の領域を通過し、次いで第1の電界傾斜の領域を通過するように、電極を配置しているのである。
【0100】
なお、本実施形態では、領域71にて分離された偏向を、領域74にて干渉させるために、領域72にて、領域71から出射された各偏光を、入射光36の光軸方向と平行な方向に戻す必要があるが、これを実現するために、領域72の偏向角を、領域71の偏向角と180度回転するようにする必要がある。よって、式(14)から分かるように、領域71を形成するための第1の電極対を構成する電極の電極長a1と、領域72を形成するための第2の電極長b1とを同一の長さにする必要がある。
【0101】
さらに、領域72と同じ電界傾斜である領域73を通過する、上記光軸方向と平行な進行方向の各偏光成分を、領域71と同じ電界傾斜である領域74にて、上記光軸方向と平行な方向で干渉させるために、電極長b2と電極長a2とを同一の長さにする必要がある。
【0102】
その結果として、第1の配置方法における電極長の合計(a1+a2)と、第2の配置方法における電極長の合計(b1+b2)とが同じとなる。
【0103】
本実施形態では、第1の屈折率状態の媒体を通過した光が、第1の屈折率状態とは異なる第2の屈折率状態の媒体を通過し、また第1の屈折率状態の媒体を通過する際に光が元の状態に戻ろうとする性質を利用するものであり、該性質を利用するために、第1の屈折率状態(第1の電界傾斜)を形成するための電極の長さの合計と、第2の屈折率状態(第2の電界傾斜)を形成するための電極の長さの合計とを等しくするのである。
【0104】
このように、本発明においては、上記各偏光成分を、入射光の光軸方向と平行な方向で干渉させて出射光とするために、(a1+a2)=(b1+b2)である必要があるのである。
【0105】
なお、電極長a1と電極長a2とは、図3のように同じ長さであっても良いし、(a1+a2)=(b1+b2)の関係を満たすのであれば、第2の実施形態のように異なる長さであっても良い。
【0106】
また、本実施形態では、第1の電極対と第2の電極対とは別個である必要があるが、第3の電極対と第4の電極対とは別個である必要は無く、同一であっても、3つ以上であっても良い。すなわち、上記電極長の関係を満たすのであれば、正極34aと35a(負極34bと35b)とを同一の電極にしても良いし、3つ以上の正極および負極を配置するようにしても良い。
【0107】
このように、第2の電界傾斜を形成するための電極対の数は、少なくとも1つ以上であれば良いのである。このとき、第1の電極対を構成する電極の電極長と第2の電極対を構成する電極の電極長との合計を、第1の電極対と第2の電極対との間に形成される少なくとも1つの電極対を構成する電極の電極長の合計と等しくする必要があることは言うまでも無い。
【0108】
図8は、本実施形態に係る、光強度変調器の構成を示す図である。
図8において、光変調器30の入射側に偏光子81を配置し、出射側に検光子82を配置する。偏光子81の透過容易軸を、図8中のx軸方向から45度傾くように設定し(偏光角がx軸に対して45度となるように設定し)、検光子82の透過容易軸を、偏光子81の透過容易軸と直交するように(偏光角がx軸に対して−45度となるように)設定している。
【0109】
なお、図8では、偏光子81および検光子82の透過容易軸をx軸に対して45度、−45度に設定しているが、この角度に限らない。また、偏光子81の透過容易軸と検光子82の透過容易軸とを直交させているが、これに限らず、同一の方向にしても良い。
【0110】
このような構成において、入射光83を入射し、各電極に所定の電圧を印加することによって強度変調を行う際、電気光学結晶31中において入射光83の垂直偏光成分および水平偏光成分が偏向して分離しても、本実施形態に特徴的な電極配置によって形成される電界傾斜により、出射側で上記2つの偏光成分が干渉し、かつ入射光83の光軸方向と平行な方向で、出射光84として出射することができ、消光比の劣化を抑えることができる。従って、電界傾斜による偏向の影響を軽減することができる。
【0111】
また、偏光子81の透過容易軸を図8中のx軸方向、もしくはx軸方向およびz軸方向に直交する方向である場合は、入射光83は垂直偏光または水平偏光となるので、電気光学結晶31の電界傾斜によって偏向されるが、分離は起こらない。しかしながら、この場合であっても、偏向された光は、本実施形態に特徴的な電極配置によって形成される電界傾斜により、出射側で、入射光83の光軸方向と平行な進行方向で出射されることになり、電界傾斜による偏向の影響を軽減することができる。
【0112】
さて、上述のように、電界の傾斜が大きくなるほど、偏向角も大きくなる。従来では、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いて光変調器を構成する場合、偏向の影響を小さくするために、すなわち、電界の傾斜を小さくするために、駆動電圧を下げていた。このように、従来では、より大きな変調効果を得るために駆動電圧を大きくすると偏向の影響が大きくなり、光強度変調器に適用する場合には消光比が劣化してしまう。よって、従来では、消光比の劣化を抑えることを考慮すると、駆動電圧の大きさに制限があった。
【0113】
しかしながら、図8に示す光強度変調器を用いれば、駆動電圧に関係なく偏向の影響を低減することができる。よって、駆動電圧を下げずに広帯域の変調動作が可能となる。
【0114】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、電極長a1と電極長a2とが等しい形態を説明したが、電極長a1と電極長a2とが等しくなくても良い。
【0115】
本実施形態では、上述のように、偏向の影響を低減するために、第1の配置方法および第2の配置方法にて電極を配置し、かつ第1の配置方法に係る電極の電極長の合計と、第2の配置方法に係る電極の電極長の合計とを等しくしながら、電極長a1と電極長a2とを異なる長さに設定している。
【0116】
このように設定することによって、電気光学結晶31の出射面における出射座標を、入射面における入射座標と異なる位置にすることができる。よって、電極長a1と電極長a2とを異なる長さに設定した光変調器30を、位相変調器や光強度変調器等の光デバイスの他に、光可変減衰器等の光デバイスに適用することができる。
【0117】
図9は、本実施形態に係る光可変減衰器の構成を示す図である。
図9において、符号90は、光変調器30と光ファイバ91、92を備える光可変減衰器である。光変調器30の入射面の所定の位置に光ファイバ91を光学的に接続し、電気光学結晶31に電圧を印加した際に光が出射する位置96に光ファイバ92を光学的に接続する。この位置96は、電極長a1と電極長a2との長さの関係で決まる。
【0118】
このような構成において、光可変減衰器90に電圧を印加しない場合、光ファイバ91を介して入射した入射光93は、そのまま電気光学結晶31中を通過し、出射光94として出射する。このとき、光ファイバ92には光は出射されない。一方、光可変減衰器90に電圧を印加すると、光ファイバ91を介して入射した入射光93は、電界傾斜により位置96から出射するが、位置96には光ファイバ92が接続されているので、出射光95が光ファイバ92から出射される。
【0119】
このように、電圧の印加に応じて、光ファイバ92への光の結合を制御することができる。
【0120】
なお、図9では、位置96にて光ファイバ92を光学的に接続しているが、光ファイバ92を、電気光学結晶31に電圧が印加されない場合に光が出射される位置97にて光学的に接続するようにしても良い。この場合は、電圧を印加しない場合に光ファイバ92に出射光が出射されることになる。
【0121】
(第3の実施形態)
第1および第2の実施形態にて説明した電極の配置は、スラブ導波路を用いた光変調器にも適用することができる。
図10は、本実施形態に係る、スラブ導波路型光変調器の構成を示す図である。
図10において、スラブ導波路100は、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコア101と、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、コア101よりも屈折率が低いクラッド102とを備えている。上記スラブ導波路100は、シングルモード条件を満足している。
【0122】
図10では、光変調器30と同様に、スラブ導波路100の第1の面には、正極32a、負極34b、負極35b、および正極33aこの順番で方向Pに沿って所定の間隔で配置されている。一方、スラブ導波路100の上記第1の面に対向する第2の面には、正極32b、負極34a、負極35a、および正極33bこの順番で方向Pに沿って上記所定の間隔で配置されている。上記各電極32a〜35bはそれぞれ、電気光学結晶31にオーミック接触している。
【0123】
図10においても、図3と同様に電極を配置しているので、電圧印加による電界傾斜が起こっても、スラブ導波路100を導波する光についての、偏向の影響を低減することができる。
【0124】
(第4の実施形態)
本発明では、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶に入射した光について、第1の電界傾斜により偏向し、それに続く第2の電界傾斜により入射光の光軸方向と平行になった光が、上記平行になるための第2の電界傾斜の状態の領域を通過し、次いで上記偏向が起こる第1の電界傾斜の領域を通過することが重要なのである。よって、本実施形態では、図3の構成において、第2の電極対および第4の電極対を設けずに、入射面と対向する面で光を反射する構成を用いている。
【0125】
図11は、本実施形態に係る、光変調器の構成を示す図である。
図11において、電気光学結晶31の入射側と対向する面に、反射部材111を配置している。
【0126】
反射部材111は、光を反射可能な材料であればいずれの材料でも良く、例えば、金、銀等、反射率の高い金属を用いることができる。
【0127】
本実施形態では、反射部材111により電気光学結晶を通過する光を反射しているので、正極32aおよび負極32bにより形成される第1の電極対が、反射前の光に対して、図7における領域71を形成する働きをし、反射光に対して、図7における領域74を形成する働きをする。また、正極34aおよび負極34bにより形成される第3の電極対が、反射前の光に対して、図7における領域71を形成する働きをし、反射光に対して、図7における領域74を形成する働きをする。
【0128】
従って、図11のx軸方向から45度傾いた偏光方向を有する直線偏光である入射光112は、第1の電極対にて生じる第1の電界傾斜によって垂直偏光成分113aと水平偏光成分113bとに分離し、第3の電極対によって生じる第2の電界傾斜によって、それぞれの偏光成分の進行方向が、入射光112の光軸方向と平行となる。該平行となった垂直偏光成分113aおよび水平偏光成分113bはそれぞれ、反射部材111にて反射し、再び、第2の電界傾斜が生じている領域を通過し、次いで第1の電界傾斜が生じている領域を通過することによって、第1の電極対間の領域において干渉し、上記光軸方向と平行な光となり出射する。
【0129】
なお、本実施形態では、第2の電界傾斜を生じさせるための第3の電極対を1つ形成する形態を説明したが、第2の電界傾斜を生じさせるための電極対を複数設けるようにしても良い。このときは、第2の電界傾斜を生じさせるための複数の電極対を構成する電極の電極長の合計を、第1の電極対を構成する電極の電極長a1と同じ長さに設定することは言うまでも無い。
【0130】
(第5の実施形態)
第1、第3、および第4の実施形態では、光の進行方向に沿って、第1の電界傾斜、第2の電界傾斜、第1の電界傾斜となるように、電極を配置しているが、本実施形態では、配置された電極に印加される電圧を所定の条件を満たすように制御する。
【0131】
図12は、本実施形態に係る、光変調器の構成を示す図である。
図12において、光変調器120は、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶121を備えている。電気光学結晶121の第1の面には、正極122a、負極123b、および正極124aがこの順番で方向Pに沿って所定の間隔で配置されている。一方、電気光学結晶121の上記第1の面に対向する第2の面には、負極122b、正極123a、および負極124bがこの順番で方向Pに沿って上記所定の間隔で配置されている。上記各電極122a〜124bはそれぞれ、電気光学結晶121にオーミック接触している。
【0132】
また、図12において、入射光126は、電界の印加方向(正極122aから122bに向う方向)から45度傾いた偏光方向を有する直線偏光とする。
【0133】
本実施形態では、正極122aと負極122bとが第1の電極対を形成し、正極122aおよび負極122bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。また、正極123aと負極123bとが第2の電極対を形成し、正極123aおよび負極123bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。さらに、正極124aと負極124bとが第3の電極対を形成し、正極124aおよび負極124bに電圧が印加されると、その間に電界が形成されることになる。
【0134】
すなわち、電気光学結晶121の第1の面に配置された、正極122a、負極123b、および正極124aの各々と、電気光学結晶121の第2の面に配置された、負極122b、正極123a、および負極124bとが1対1で対を形成することにより、方向Pに沿って第1〜第3の電極対が形成されている。
【0135】
なお、本実施形態では、正極122aと負極122bとの電極長を等しくし、正極123aと負極123bとの電極長を等しくし、かつ正極124aと負極124bとの電極長を等しくする必要はあるが、正極122a(負極122b)と正極123a(負極123b)と正極124a(負極124b)との電極長は互いに等しくても良いし、異なる長さであっても良い。
【0136】
図12において、符号127は、電気光学結晶121中の模式的な伝搬光を示す。すなわち、電界が印加される場合は、上述したように、電気光学結晶中を通過する光は、垂直偏光成分と水平偏光成分とに分かれるが、電界が印加されない場合は、該偏光成分への分離は起こらない。このように電界の印加によって電気光学結晶中の伝搬光の様子は異なるが、図12では図面を簡単にするために、電気光学結晶121中を伝搬する光の様子を伝搬光127として模式的に示している。
【0137】
本実施形態では、このような構成において、各電極(正極122a〜124a、および負極122b〜124b)に印加する電圧を次の2つの条件を満たすように制御している。
条件1;電気光学結晶121へと入射光126が入射する際の入射角と、電気光学結晶121から出射する際の出射光128の出射角とを等しくする。
条件2;電気光学結晶121中の伝搬光127が、電界が印加されていない電気光学結晶121中を通過して出射する際の出射位置の偏位量l5sinθinと、上記伝搬光127が、電界が印加されている電気光学結晶121中を通過して出射する際の出射位置の偏位量Δhとを等しくする。
【0138】
まず、条件1について説明する。
光変調器120を良好に動作させるためには、入射光126の入射角と出射光128の出射角とを等しくする必要がある。ここで、光変調器120の入射側と出射側とは、通常、空気等の同一の雰囲気であるので、上記入射角と出射角とが等しいということは、角度θinと角度θoutとが等しいことと等価である。
【0139】
なお、本明細書において、「角度θin」とは、入射光126が電気光学結晶121の入射面にて屈折した光(伝搬光127)の光軸方向と、入射面の法線とのなす角度を指す。取り得る範囲としては、0≦θin<90°である。
また、本明細書において、「角度θout」とは、伝搬光127が電気光学結晶121の出射面にて屈折して出射する際の、伝播光127の光軸方向と、出射面の法線方向とのなす角度を指す。取り得る範囲としては、0≦θout<90°である。
例えば、第1〜4の実施形態は、θin=θout=0°の場合を説明している。
【0140】
次に、条件2について説明する。
一般に、電極が配置されていない電気光学結晶に、入射面となる一方の面から角度θinで入射した光が、電気光学結晶中を距離L1進んで上記ある面と対向する、出射面となる他方の面に達する場合、垂直入射(上記一方の面の法線方向からの光の入射)に比べ、上記他方の面における光の出射位置は、L1sinθinだけ偏位する。このような電気光学結晶に、それぞれが任意の電極長を有する複数の電極を配置して変調器を構成し、該複数の電極の各々に任意の電圧を印加する場合、上記変調器が動作するためには、電界の印加によって分離する垂直偏光成分と水平偏光成分とを、出射面において同じ位置から出射させる必要がある。すなわち、垂直偏光成分と水平偏光成分との双方の偏位量をL1sinθinにする必要がある。
【0141】
さて、上述の電気光学結晶に電界を印加した場合の、出射光の出射位置の偏位量は、電気光学結晶中の光の進行方向をl軸とすると、
【0142】
【数16】

【0143】
となる。
【0144】
ここで、θは偏向角であり、式(14)で示したθ(x)と同義である。この偏向角θは、式(14)からも分かるように、電圧の大きさ、極性、電極長に依存して変化する。偏向角θの電気光学結晶についての、l軸に沿った微小区間Δlにおける偏位量は、sinθΔlであるので、電気光学結晶全体における偏位量は、長さL1sinθin全体に渡って積分することによって求めることができる。
【0145】
本実施形態では、垂直偏光成分および水平偏光成分の双方について、電界印加時の、出射面における出射位置の偏位量と、何も偏向せずに直進してきた光、すなわち電界が印加されていない電気光学結晶を通過してきた光の、出射面における出射位置の偏位量とを等しくする必要がある。
【0146】
すなわち、本実施形態では、θが電極に印加される電圧の関数であるので、
【0147】
【数17】

【0148】
を満たすように、電極に印加する電圧を制御することにより、垂直偏光成分と水平偏光成分とを同じ位置から出射することができる。
【0149】
実際は、図12に示すように電気光学結晶には電極対を少なくとも3つ以上形成しているので、電極対毎に(数16)に示した積分を行って偏位量を求め、電極が配置されていない領域における偏位量と共に総計を求め、該総計と、何も偏向せずに直進してきた光についての出射位置の偏位量とが等しくなるように、各電極への電圧を制御する。
【0150】
すなわち、図12においては、次式に示すように、5つの領域(電極が配置された領域である領域125a、125c、125e、および電極が配置されていない領域である領域125b、125d)の各々について、伝搬光127の進行方向をl軸として(数16)に基づいて偏位量を求め、それらの総計である偏位量Δhを求めると、
【0151】
【数18】

【0152】
となる。
【0153】
上式において、θ1〜θ5はそれぞれ、領域125a〜125eにおける偏向角を示す。
【0154】
本実施形態では、(式18)で示されたΔhが、何も偏向せずに直進してきた光、すなわち電界が印加されていない電気光学結晶121中を通過した伝搬光127の出射位置の偏位量l5sinθinと等しくなることが必要である。すなわち、
Δh=l5sinθin
を満たすように、各電極(正極122a〜124a、および負極b122〜124b)に印加する電圧を設定するのである。
【0155】
このように、本実施形態では、変調動作時において、上述した条件1および条件2を満たすような値の電圧を、各電極(正極122a〜124a、および負極b122〜124b)に印加することで、各電極の長さがいずれの長さであっても、電気光学結晶に電界傾斜が生じた場合における、該電界傾斜により生じる偏向の影響を低減することができる。
【0156】
なお、本実施形態においては、第2の電極対間において第1の電極対で偏向した光の角度を戻す領域を形成し、第3の電極対間において該角度が戻された光を入射直後の光の状態に戻すための領域を形成している。このような各電極対の作用を考慮すると、本実施形態では、形成する電極対は少なくとも3つあれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】従来の電気光学結晶を用いた光位相変調器の構成を示す図である。
【図2】従来の、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶を用いた光変調器において、電界傾斜により光が偏向する様子を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る光変調器の構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る、電気光学結晶内部の電荷による電界傾斜の発生原理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る、電界傾斜による光の偏向の原理を説明するための図である。
【図7】図2に示す光変調器において偏向により分離した垂直偏光と水平偏光とを干渉させる作用を説明する為の模式図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る、光強度変調器の構成を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る、光可変減衰器の構成を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態に係る、スラブ導波路型光変調器の構成を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る、光変調器の構成を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る、光変調器の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0158】
30、120 光変調器
31、121 電気光学結晶
32a、33a、34a、35a、122a、123a、124a 正極
32b、33b、34b、35b、122b、123b、124b 負極
36、126 入射光
37a 垂直偏光成分
37b 水平偏光成分
38、128 出射光
100 スラブ導波路
101 コア
102 クラッド
111 反射部材
127 伝搬光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、
前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、
前記第1の面に、前記第1の正極から前記所定の方向に沿って離間して配置され、前記所定の方向に沿った第2の電極長を有する第2の正極と、
前記第2の面に、前記第2の正極と第2の電極対を形成するように、前記第1の負極から前記所定の方向に離間して配置され、前記第2の電極長を有する第2の負極と、
前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記第2の正極との間に配置された少なくとも1つの負極と、
前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記第2の負極との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、
前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、
前記第1の電極長と前記第2の電極長の合計が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする光デバイス。
【請求項2】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、
前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、
前記第1の面に、前記第1の正極から前記所定の方向に沿って離間して配置され、前記所定の方向に沿った第2の電極長を有する第2の正極と、
前記第2の面に、前記第2の正極と第2の電極対を形成するように、前記第1の負極から前記所定の方向に離間して配置され、前記第2の電極長を有する第2の負極と、
前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記第2の正極との間に配置された少なくとも1つの負極と、
前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記第2の負極との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、
前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、
前記第1の電極長と前記第2の電極長の合計が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする光デバイス。
【請求項3】
前記第1の電極長と前記第2の電極長とが同じ長さであることを特徴とする請求項1または2記載の光デバイス。
【請求項4】
前記光デバイスの入射側に配置された偏光子と、
前記光デバイスの出射側に配置され、前記偏光子の透過容易軸と直交する方向の透過容易軸を有する検光子と
をさらに備えることを特徴とする請求項3記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1の電極長と前記第2の電極長とが異なる長さであることを特徴とする請求項1または2記載の光デバイス。
【請求項6】
前記光デバイスの入射面に光学的に接続された第1の光ファイバと、
前記光デバイスの出射面における、前記光デバイスに電圧を印加する場合に光が出射する位置、および前記光デバイスの出射面における、前記光デバイスに電圧を印加しない場合に光が出射する位置のいずれか一方に光学的に接続された第2の光ファイバと
をさらに備えることを特徴とする請求項5記載の光デバイス。
【請求項7】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶であって、第1の端面から光が入射し、該第1の端面と対向する第2の端面から光が出射する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、
前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、
前記電気光学結晶の第2の端面に配置された反射部材と、
前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの負極と、
前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、
前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、
前記第1の電極長が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする光デバイス。
【請求項8】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路であって、第1の端面から光が入射し、該第1の端面と対向する第2の端面から光が出射するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路の第1の面に配置され、所定の方向に沿った第1の電極長を有する第1の正極と、
前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記第1の正極と第1の電極対を形成するように配置され、前記第1の電極長を有する第1の負極と、
前記スラブ導波路の第2の端面に配置された反射部材と、
前記第1の面に配置された少なくとも1つの負極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の正極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの負極と、
前記第2の面に配置された少なくとも1つの正極であって、前記所定の方向に沿って、前記第1の負極と前記反射部材との間に配置された少なくとも1つの正極とを備え、
前記少なくとも1つの正極と前記少なくとも1つの負極とがそれぞれ1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って配列するように少なくとも1つの電極対が形成されており、
前記第1の電極長が、前記少なくとも1つの正極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計、および前記少なくとも1つの負極の、前記所定の方向に沿った電極長の合計と等しいことを特徴とする光デバイス。
【請求項9】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶の第1の面に、所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極と、
前記電気光学結晶の第1の面に対向する第2の面に、前記所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極とを備え、
前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極の各々と、前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々とが1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って少なくとも3つの電極対が形成されており、
変調動作時において、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極、および前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々には、前記電気光学結晶へと入射光が入射する際の入射角と、該電気光学結晶から出射光が出射する際の出射角とが等しくなり、かつ電界が印加されていない前記電気光学結晶中を通過する光の出射位置の偏位量と、電界が印加されている電気光学結晶中を通過する光の出射位置の偏位量とが等しくなるような電圧が印加されることを特徴とする光デバイス。
【請求項10】
2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなるコアと、2次の電気光学効果を有する電気光学結晶からなり、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドとを有するスラブ導波路と、
前記スラブ導波路の第1の面に、所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極と、
前記スラブ導波路の第1の面に対向する第2の面に、前記所定の方向に沿って配置された少なくとも3つの電極とを備え、
前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極の各々と、前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々とが1対1で対を形成することにより、前記所定の方向に沿って少なくとも3つの電極対が形成されており、
変調動作時において、前記第1の面に配置された少なくとも3つの電極、および前記第2の面に配置された少なくとも3つの電極の各々には、前記スラブ導波路へと入射光が入射する際の入射角と、該スラブ導波路から出射光が出射する際の出射角とが等しくなり、かつ電界が印加されていない前記スラブ導波路中を通過する光の出射位置の偏位量と、電界が印加されているスラブ導波路中を通過する光の出射位置の偏位量とが等しくなるような電圧が印加されることを特徴とする光デバイス。
【請求項11】
前記正極および負極の各々は、Pt、Co、Ge、Au、Pd、Ni、Ir、Pt、Se、Cs、Rb、K、Sr、Ba、Na、Ca、Li、Y、Sc、La、Mg、As、Ti、Hf、Zr、Mn、In、Ga、Cd、Bi、Ta、Pb、Ag、Al、V、Nb、Ti、Zn、Sn、B、Hg、Cr、Si、Sb、W、Mo、Cu、Fe、Ru、Os、Te、Re、Be、Rhのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−109773(P2009−109773A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282503(P2007−282503)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】