説明

光ドロップケーブル

【課題】光ドロップケーブルの外被の材料を、実際に産卵管状のものを押し込むのに要する力で評価することにより、セミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制するのに有効な被覆材料の選定方法を明らかにし、セミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制できる光ドロップケーブルを得る。
【解決手段】クマゼミの産卵管に擬した、直径1mmの針の先端基部を60度の円錐形とし、かつ先端を半径0.3mmの球状に形成した金属製の疑似針を、光ドロップケーブルの被覆材料に押し込んだ際に、初期の疑似針の変位量に対する押込力の比が30N/mm以上の被覆材料では、実際のクマゼミの産卵管の痕跡が見られなかったことから、光ドロップケーブルの外被として、疑似針の変位量に対する押込力の比が30N/mm以上の被覆材料を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体部と支持線部とからなり、本体部は光ファイバ心線と補強線(テンションメンバ)とが平行に配されて外被により一体に被覆されてなる光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネット等の情報通信等の普及により通信の高速化、情報量の増大に加え、双方向通信と大容量通信に対応するために光ネットワークの構築が進展している。この光ネットワークでは、通信事業者と各家庭を直接光ファイバで結び、高速通信サービスを提供するFTTH(Fiber To The Home)サービスが開始されている。これにより、光ケーブルの宅内への引き込みに用いられる光ドロップケーブルや、これを複数本集合した集合光ケーブルの需要が増えている。
【0003】
これらの光ドロップケーブルは、一般的には、光ファイバ心線と平行に補強線(テンションメンバ)を外被となる保護被覆内に埋設してケーブルの引張り強度を高め、外被の両側面にV字状のノッチを設けて、外被を2つに切裂いて内部の光ファイバ心線を取出して端末形成等がしやすい構造とされている。
【0004】
近年、この種の光ファイバケーブルに対して、クマゼミがケーブルの外被に産卵管を突き刺し、内部の光ファイバ心線を損傷、あるいは外被内に卵を産み付けるという問題が多発している。これは、光ドロップケーブルをクマゼミが産卵しやすい枯木と同じ対象物と認識したものと推定されているが、このクマゼミへの対策としては、光ファイバ心線とノッチの間に産卵管が突刺せない硬さの防護体を配したり、ノッチの位置や方向を変えて蝉の産卵管が光ファイバ心線を突刺さない構造の光ケーブルが種々提案された。
【0005】
しかし、クマゼミの産卵管はノッチ以外の部分からも刺し込まれるなどの事例もあって、構造的な対応では不十分ということから、例えば、特許文献1には、外被を硬い樹脂(引張弾性率100%モジュラスが12〜30MPa、引張強度15〜40MPa、ショアD硬度50〜80)を用いて、クマ蝉の産卵管で外被が0.6mm以上は突刺させないようにした光ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−129062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光ドロップケーブルでは、被覆材料の引張弾性率、引張強度、ショアD硬度のそれぞれの特性を特定の範囲に規定しているため、クマゼミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制できるかどうかを調べるためには、対象となる被覆材料について多くの特性検査を行った上でその適性を判断しなければならなかった。
【0008】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、クマゼミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制するために、クマゼミが産卵管を差すという事象に着目し、被覆材料の評価指標として引張弾性率やショアD硬度といった特性ではなく、実際に産卵管状のものを差し込むのに要する力を評価することにより、セミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制した被覆材料を外被として有する光ドロップケーブルを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による光ドロップケーブルは、光ファイバ心線が外被によって被覆されており、クマゼミの産卵管に擬した、直径1mmの針の先端基部を60度の円錐形とし、かつ先端を半径0.3mmの球状に形成した金属製の疑似針を、光ドロップケーブルの外被となる被覆材料に押し込み、初期の疑似針の変位量に対する押込力の比が30N/mm以上の被覆材料を外被として有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被覆材料をセミの産卵管を差すという実際の事象を模擬した試験で評価をすることによって、セミの産卵管による光ファイバ心線の損傷を抑制した光ドロップケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る光ドロップケーブルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る光ドロップケーブルの被覆材料の試験装置の一例を示す図である。
【図3】図2の試験装置の疑似針を示す図である。
【図4】疑似針の変位量と押込力との関係を示す図である。
【図5】クマゼミの産卵管による損傷実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の光ドロップケーブルの外皮の選定方法に係る好適な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る光ドロップケーブルの一例を示す断面図である。図1において、光ドロップケーブル1は、縦約5mm、横約2mmで、保護被覆となる外被2で被覆される本体部5と支持線部6とをブリッジ部8で接合して形成される。
【0013】
本体部5は、外被2に被覆された一心の光ファイバ心線3と、この光ファイバ心線3 の両側に配設されるアラミド繊維強化プラスチック製の二本の補強線(テンションメンバ)4とを備える構成である。また、本体部5の外被2の表面における側面対向位置にノッチ部9が形成され、このノッチ部9により管路入線の際に管路内壁に対する接触面積を極力小さくして摩擦係数を小さくすると共に、本体部5自体の適当な屈曲性を獲得している。特に、このノッチ部9によって、外被2から光ファイバ心線3を引き出す場合に切開作業を簡易確実に行なうことができる。
支持線部6は、単心線または撚り線からなる鋼線7を本体部5と同じ外被2で被覆して構成される。
【0014】
ここで、光ファイバ心線3に対する外被2の厚さは、約0.6mm以上であり、本実施形態に係る光ドロップケーブル1においても、外被2は、本体部5において、光ファイバ心線3の放射状方向に0.6 mm以上の厚さで被覆されている。外被2の材料としては、通常、カーボンブラックを含有した難燃ポリエチレンが用いられる。
【0015】
ところで、クマゼミの産卵管は直径が約1mmほどであって、硬く、光ドロップケーブル1のノッチ部9から産卵管を刺すことが多いため、その直下に光ファイバ心線があることから、光ファイバ心線に傷が付き、通信が途絶えることがあった。
本発明では、外被2の被覆材料をセミの産卵管を差すという実際の事象を模擬した以下の試験で評価することにより、適切な被覆材料を選定することができる。
【0016】
図2は、本発明に係る光ドロップケーブルの被覆材料の試験装置の一例を示す図である。
図2において、試験装置10は、可動部11にロードセル12を介して可動板13を設け、この可動板13に、クマゼミの産卵管を擬した疑似針14を設けている。一方、可動板13の下方には固定台15が設けられており、固定台15の上に被覆材料の試験サンプル16が載置できるようになっている。
【0017】
そして、可動部11を下方に動かすことにより、試験サンプル16に疑似針14を押し込んだ際の、疑似針の変異量と押込力との関係を調べるために、疑似針14の変位量を測定する図示しない変位計の出力と、押込力を測定するロードセル12の出力をレコーダ17に入力し、両者の変化を記録できるようにしている。
【0018】
図3は、模擬針を示す図である。
模擬針14は、クマゼミの産卵管を模して作成したものであり、金属からなる直径1mmの針の先端基部を60度の円錐形とし、かつ、針の先端を半径0.3mmの球状に形成している。
【0019】
そして、図2のように加工した疑似針14を試験装置10にセットし、種々の保護被膜2の被覆材料の試験サンプルとして厚さ3mmの試験サンプル16を準備し、この試験サンプル16を固定台15に載置して、5mm/分の押込速度で試験サンプル16に押込んだ時の、疑似針の変位量(刺通距離)と押込力(刺通抵抗)を測定しレコーダ17で記録した。
【0020】
図4は、疑似針の変位量と押込力との関係を示す図である。図4ではx軸に疑似針14の変位量を、y軸に押込力を示している。x=0の点が、疑似針14の先端が試験サンプル16に触れた点を示しており、疑似針14が試験サンプル16に押込まれるにしたがって、押込力も大きくなり、両者の関係は曲線L1で示される。
ここで、種々の試験サンプルについて、疑似針の変位量と押込力との関係は、擬似針が材料シートに接触した初期の変位量に対する押込力の傾きが最も大きく、変位量が増えるにしたがって、変位量に対する押込力の傾きは初期の変位量に対する押込力の傾き(x=0での傾き)よりも小さくなった。これは、疑似針が試料サンプルに刺さる初期に最も変位量に対する刺通抵抗が大きいことを示している。
【0021】
そこで、疑似針14の変位量に対する押込力の比を刺通抵抗比と定義し、種々の被覆材料の試料サンプル16について、初期の刺通抵抗比を算出した。この初期の刺通抵抗比は図4の各試験サンプルの試験結果において、変位量が0(x=0)でのグラフの傾きに相当することから、図4の曲線L1の変位量が0における傾きを示す直線L2を引き、この直線L2の傾きを試験サンプル16について求めた。
【0022】
他方、クマゼミの産卵管による損傷実験を行うために、各試験サンプルの被覆材料で光ドロップケーブルを試作し、この試験用の光ドロップケーブルを8月の1ヶ月間にわたりクマゼミが生息している屋外に布設しておいて、産卵管痕跡を調査した。
【0023】
図5は、クマゼミの産卵管による損傷実験結果を示す図である。
この実験結果から、被覆材料の初期の刺通抵抗比が30N/mm以上の光ドロップケーブルについては、産卵管の痕跡は見られなかったが、30N/mm未満の光ドロップケーブルについては、いずれも産卵管の痕跡が見られた。
このことから、光ドロップケーブルの外被の被覆材料として、刺通抵抗比が30N/mm以上の被覆材料を用いることにより、クマゼミの外被内への産卵を断念させることができ、光ファイバ心線の損傷のないケーブルが得られることが実験的に検証できた。
【符号の説明】
【0024】
1…光ドロップケーブル、2…外被、3…光ファイバ心線、4…補強線(テンションメンバ)、5…本体部、6…支持線部、7…鋼線、8…ブリッジ部、9…ノッチ部、10…試験装置、11…可動部、12…ロードセル、13…可動板、14…疑似針、15…固定台、16…試験サンプル、17…レコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を外被によって被覆した光ドロップケーブルであって、
直径1mmの針の先端基部を60度の円錐形とし、かつ先端を半径0.3mmの球状に形成した金属製の疑似針を、外被となる被覆材料に押し込んだ際に、初期の疑似針の変位量に対する押込力の比が30N/mm以上の被覆材料を外被として有することを特徴とする光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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