説明

光ピックアップ送り装置およびそれを備えた光ピックアップ支持装置

【課題】 光ピックアップを移動可能に保持する光ピックアップ送り装置において、光ピックアップを保持するラックが送り用軸の上下方向にずれて送り用軸の溝とラックの歯部の噛み合せが離脱する場合があり、ラックの薄肉部などに設計意図とは異なるねじれ変形が生じ、ラックの破損や、光ピックアップの安定走行が不可となる問題があった。
【解決手段】 ラックの歯部近傍の送り用軸を上下に挟む位置に、歯部より突出する複数の規制部を設ける。規制部は、送り用軸の周縁に沿う面が腕部から離れるに従って送り用軸と離間するような傾斜面を有する。これにより送り用軸の溝から歯部が離脱する際に、ラックの薄肉部にねじれ変形が生じることを抑制できる。また送り用軸からラックが大きく外れることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ピックアップ送り装置およびそれを備えた光ピックアップ支持装置に関し、特に、安価で、安定した光ピックアップ送り動作を実現できる光ピックアップ送り装置およびそれを備えた光ピックアップ支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ支持装置(いわゆるトラバースメカ)は、光ピックアップを光ディスクの径方向に移動させて、光ディスクに対してデータの記録や読み出しを行っている。光ピックアップの位置(光ディスクの最内周または最外周のいずれにあるか)を検出する場合、従来では、光ピックアップ支持装置の固定基板(シャーシ)に位置検出スイッチを設け、光ピックアップを最内周または最外周において位置検出スイッチに接触させることで、位置の検出を行っていた。
【0003】
しかしこの場合、位置検出スイッチを備える必要があり部品点数が多くなるなどの問題があった。このため、位置検出スイッチを用いないで光ピックアップのホームポジションを検出する技術が開発されている(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1では例えば、光ピックアップを摺動自在に支持するガイドシャフトの支持部材に光ピックアップを強制的に押し当て、光ピックアップを移動させるステッピングモータを光ピックアップの移動可能範囲分より強制的に多く駆動させている。
【0005】
図7は、位置検出スイッチを用いることなく光ピックアップの位置検出を行う、他の構成を示す図である。図7(A)が光ピックアップ支持装置(トラバースメカ)50の全体を示す平面概要図であり、図7(B)がこれに用いられている光ピックアップの駆動部材(ラック)60を示す斜視図である。
【0006】
トラバースメカ50を構成する固定基板51にはステッピングモーター71と、送り用軸(リードスクリュー)72と、主ガイド軸53および副ガイド軸54が固定される。主ガイド軸53および副ガイド軸54は、光ピックアップ55を、ターンテーブル56上に載置される光ディスクの径方向に移動可能に支持する。
【0007】
光ピックアップ55は、駆動部材(ラック)60に保持される。ラック60は、光ピックアップ55が固定される本体部61と、歯部62を有する。歯部62はラック60の噛合(噛み合わせ)部63に例えば2つ設けられる。歯部62は、ステッピングモーター71に回転可能に支持されるリードスクリュー72の、らせん状の送り用溝73にあわせて設けられ、送り用溝73と噛合する。ステッピングモーター71の駆動によって、リードスクリュー72が回転し、それによってラック60が光ピックアップ55を光ディスクの径方向(Z軸方向)に移動させる。
【0008】
この場合の位置検出の方法は、以下の通りである。すなわち、光ピックアップ55は、例えば光ディスクの内周端まで移動すると、ラック60の端部60Tが固定基板51に当接される(図6(A))。そして、当接状態が強制的に所定時間継続することで、光ピックアップ55の移動負荷が大きくなり、ステッピングモーター71に必要なトルクが大きくなる。そのときのステッピングモーター71のトルクの変位を検出することで、内周端または外周端であることを認識する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−109839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図7(A)の位置検出スイッチを用いない位置検出方法では、光ピックアップ55が光ディスクの内周端または外周端まで移動した場合、ステッピングモーター71のトルクの変位を検出するには、押し付けた状態である程度の時間経過が必要である。
【0011】
そして、この期間中は光ピックアップ55が移動不可の状態であるにもかかわらずリードスクリュー72は回転を続けるため、ラック60の歯部62に加わるステッピングモーター71のトルクも大きくなり、リードスクリュー72の送り用溝73と歯部62の噛み合せが離脱し、歯部62が隣の送り用溝73に飛び越える状態が発生する。
【0012】
図8は、図7(A)の噛合部63とリードスクリュー72をX方向から見た側面図である。図8において、上方(Y方向)は、光ディスクのデータ記録面に垂直な方向である。歯部62が送り用溝73から離脱するとき、歯部62が設けられている噛合部63は、矢印の如く、送り用溝73に沿ってリードスクリュー72の例えば斜め上方(YZ方向)に持ち上がり歯部62が完全に送り用溝73から離脱した後、隣の送り用溝73に噛合する。
【0013】
ラック60は、例えば合成樹脂による一体成形品であり、ステッピングモーター71のトルクの変位の検出期間中における歯部62と送り用溝73の噛合と離脱を許容するため、ある程度の撓みが必要であり、例えば噛合部63を支える腕部64などに薄肉部64Tを設けている(図7(B)参照)。しかし、送り用溝73と歯部62の噛合と離脱が繰り返されると、この薄肉部64Tに負荷がかかってしまう問題がある。
【0014】
具体的には、光ピックアップ55の進行方向(Z軸方向)に対して、噛合部63が送り用溝73から離間または近接するような垂直方向(送り用溝73深さ方向:X軸方向)については、腕部64の薄肉部64Tは、上記の許容範囲として設計された通りに撓む。しかし、噛合部63が例えば図8の矢印の如く斜め上方(YZ方向)に持ち上がると、腕部64の薄肉部64Tが捩れる状態になり、設計意図とは異なるねじれ変形が生じる。
【0015】
1回のトルクの変位を検出する期間中に歯部62が送り用溝73を飛び越える(薄肉部64Tがねじれ変形する)回数としては、例えば僅か2回〜3回であっても、光ピックアップ55が内周端または外周端に移動する毎にこれが数千回、数万回繰り返されると、これによって、ラック60の特に薄肉部64Tが破損するなど、耐久性に問題がでる。
【0016】
また、落下試験において歯部62と送り用溝73の噛み合いが外れる場合もある。このような場合に、例えば薄肉部64Tの撓みの設定が適切でないと、歯部62が送り用溝73のないリードスクリュー72の周縁面72Sに載ったままの状態から、歯部62と送り用溝73が噛み合う状態に戻りにくい場合もあり、安定した動力伝達ができない問題もある。
【0017】
更に、光ピックアップ55の走行中であっても、何らかの原因でステッピングモーター71に必要なトルクが大きくなった場合(例えば、長期間の使用によって主ガイド軸53に塗付された潤滑剤が欠乏し、光ピックアップ55の移動負荷が増えた場合等)に問題が生じる。つまり、光ピックアップ55の移動負荷が大きくなることにより、内周端または外周端での位置検出においてステッピングモーター71に必要なトルクが大きくなる場合と同様の状態となるため、歯部62と送り用溝73が離脱しないまでも、噛み合せがずれることで、安定した動力伝達ができなくなってしまう。また、位置検出時と同様に歯部62と送り用溝73の噛合と離脱が生じる場合があると、これによっても、ラック60の薄肉部64Tにかかる負担が大きくなる問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、係る課題に鑑みてなされ、第1に、光ピックアップを光ディスクの径方向へ移動させる光ピックアップ送り装置が、固定基板に回転可能に支持され、周縁にらせん状の送り用溝が設けられた送り用軸と、該送り用軸を回転させる駆動用モーターと、前記光ピックアップを前記駆動用モーター及び前記送り用軸により駆動するための駆動部材と、を備え、該駆動部材は、前記光ピックアップが固定される本体部と、前記送り用溝に噛合する歯部と、該歯部と前記本体部とを離間して支持する腕部と、前記歯部の近傍で前記送り用軸の周縁に沿って該送り用軸を挟む位置に設けられた複数の規制部を有することにより解決するものである。
【0019】
第2に、光ピックアップ支持装置が、光ピックアップと、固定基板と、該固定基板に設けられ、光ディスクの径方向に移動する前記光ピックアップを支持する第1の軸および第2の軸と、上記の光ピックアップ送り装置と、を具備することにより解決するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば以下の効果が得られる。
【0021】
第1に、ラックの歯部近傍の送り用軸の上下を挟む位置に、歯部より突出する複数の規制部を設けることにより、光ピックアップの位置検出時におけるラックの変形の姿勢をコントロールできる。送り用軸の上下とは、送り用軸の周縁面のうち光ディスクのデータ記録面に略水平となる面を挟む上下である。つまり、光ピックアップが光ディスクの内周端または、外周端まで移動し、位置検出が行われる際に、大きくなったステッピングモーターのトルクがラックの歯部に加わり、送り用軸の送り用溝から歯部が離脱するが、このとき、歯部が設けられた噛合部が、送り用軸に対して上下に変形することを規制部が抑え、ラックの薄肉部にねじれ変形が生じることを抑制できる。
【0022】
歯部の近傍に送り用軸を挟むように上下に設けた規制部によって、送り用溝から歯部が離脱する場合でも、ラックの(腕部の)撓む方向は、主に、光ディスクのデータ記録面に対して略水平方向に送り用軸から離間又は近接するような方向となる。つまり、歯部(噛合部)が送り用軸に対して上下方向(光ディスクのデータ記録面に対して垂直方向)に大きくスライドすることを抑制し、ラックの薄肉部のねじれ変形により薄肉部にかかる負担を軽減できるので、ラックの破損を防止できる。
【0023】
第2に、規制部は、歯部が設けられる噛合部と一体成形のため、歯部と送り用溝の噛み合せがずれる状態が発生したときに同時に(同じタイミングで)規制部が機能し、噛み合せの姿勢をコントロールできる。従って、ラックの破損を招く状態を効率よく防止でき、走行中の安定動作も可能となる。
【0024】
第3に、落下衝撃試験において、ラックに力が加わった場合も、ラックの噛合部が上下方向に大きくスライドして歯部と送り用溝の噛み合わせが外れることを防止できる。つまり、噛合部がY軸方向にずれた場合、例えば腕部の撓みの設定が適切でないと、送り用溝から歯部が外れた状態が維持され、歯部と送り用溝の噛合状態に戻りにくくなる場合がある。しかし、本実施形態によれば、噛合部の撓みが主にX方向に生じるようになるので、噛合部が大きくY軸方向にスライドして噛み合せが外れることを防止でき、噛み合せが外れた場合でも噛合状態に戻り易く、落下の後からも安定した動力伝達が可能となる。
【0025】
第4に、光ピックアップの走行中に、光ピックアップの移動負荷が何らかの原因で大きくなり、駆動モーターに必要なトルクが大きくなった場合であっても、歯部と送り用溝の噛み合せがずれることを防止できる。つまり、送り用軸の上下に設けた規制部によって、歯部はX方向に移動するのみとなるので、噛み合せ量が若干浅くなることはあっても、歯部と送り用溝の噛み合せのずれを防止できる。つまり、そのような場合でも、安定した動力伝達が可能となる利点を有する。
【0026】
規制部を送り用軸の上下に設けることにより、光ピックアップの通常走行時においても微小な上下(Y軸方向の)移動を少なくでき、安定走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における光ピックアップ支持装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における光ピックアップ送り装置を説明するための(A)斜視図、(B)側面図である。
【図3】本発明の実施形態における光ピックアップ送り装置を説明するための側面図である。
【図4】本発明の実施形態における駆動部材を示す(A)斜視図、(B)平面図である。
【図5】本発明の実施形態における駆動部材を示す(A)斜視図、(B)側面図、(C)側面図である。
【図6】本発明の実施形態における光ピックアップ送り装置を説明する(A)側面図、(B)斜視図である。
【図7】従来技術を説明するための(A)平面図、(B)斜視図である。
【図8】従来技術を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態を図1から図6を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本実施形態の光ピックアップ支持装置の概要を示す斜視図である。尚、以下の図においては本実施形態の説明に必要な要部を主に示し、それ以外の部分は一部を省略している。
【0030】
光ピックアップ支持装置1は、いわゆるトラバースメカと呼ばれる装置であり、固定基板11と、光ピックアップ12と、第1の軸13および第2の軸14と、光ピックアップ送り装置2とを有する。
【0031】
光ピックアップ支持装置1を構成する固定基板(シャーシ)11は、例えば射出成形が可能で熱可塑性の耐熱性合成樹脂材料が基材として用いられ、これによって光ピックアップ支持装置1の軽量化および低コスト化が図られている。シャーシ11の端部にはスピンドルモーター16が設けられる。スピンドルモーター16は、モーター基板15に設けられ、モーター基板15がシャーシ11に固定されている。スピンドルモーター16は回転軸にターンテーブル17が嵌合されており、ターンテーブル17に光ディスクが載置される。
【0032】
光ピックアップ12は、レーザー光を光ディスクの信号面に集光させる対物レンズ18及びレーザーダイオード(不図示)から放射されるレーザー光を対物レンズ18に導く光学部品(不図示)が組み込まれている。対物レンズ18は、ここでは2つ設けられる場合を例に示すが、1つであってもよい。光ピックアップ12はその外形両端にガイド部121、122を有する。
【0033】
第1の軸(主ガイド軸)13と第2の軸(副ガイド軸)14は、互いに平行にシャーシ11に固定される。主ガイド軸13および副ガイド軸14は、シャーシ11の一主面において一の方向(図1のZ軸方向)に延在する。主ガイド軸13および副ガイド軸14は断面が略円形状であり、主ガイド軸13はガイド部121に設けられたガイド孔121Hに挿通される。副ガイド軸14は、例えば横U字形状に設けられたガイド部122のひさし状部分により支持される。
【0034】
これにより、光ピックアップ12は、主ガイド軸13の延在方向に移動可能に支持される。主ガイド軸13の延在方向(Z軸方向)は、光ディスクの径(ラジアル)方向といわれる。また、以下の説明では、Z軸方向に直交し、光ピックアップ12から主ガイド軸13(副ガイド軸14)に向かう方向をX軸方向とする。X軸方向は、光ディスクの主面上において径方向に垂直な方向であり、タンデンシャル方向といわれる。また、Y軸方向は、光ピックアップ12の主面(光ディスクのデータ記録面に水平な面)に対して垂直方向であり、フォーカシング方向といわれる。
【0035】
光ピックアップ送り装置2は、シャーシ11の一辺に沿った端部に固定され、光ピックアップ12を光ディスクの径方向に移動させる。主ガイド軸13および副ガイド軸14には、光ピックアップ12のガイド部121、122との摺動性を向上させる潤滑剤が塗布される。これにより、光ピックアップ12は、長期に亘って主ガイド軸13および副ガイド軸14上を滑らか且つ確実に往復移動する。
【0036】
光ピックアップ支持装置1は、スピンドルモータ16により回転される光ディスクに対して、光ピックアップ12の対物レンズ18からレーザー光を照射する。そして、光ディスクのデータ記録層で反射したレーザー光を、光ピックアップ12に内蔵されたPD(Photo Diode)ICで読み取る。ここで、光ピックアップ12から放射されるレーザー光としては、BD(Blu-ray Disc)規格、DVD(Digital Versatile Disk)規格またはCD(Compact Disk)規格のレーザー光が採用される。同様に、スピンドルモータ16により回転される光ディスクの規格としても、これらのいずれかが採用される。
【0037】
このような構成の光ピックアップ支持装置1が所定形状の筐体に収納されることで、光ディスク装置が構成される。
【0038】
図2を参照して、光ピックアップ送り装置2について説明する。図2(A)は、光ピックアップ送り装置2を示す斜視図であり、光ピックアップ送り装置2に固定される光ピックアップ12および主ガイド軸13も合わせて示した(細実線)。図2(B)は、光ピックアップ送り装置2の要部をX方向から見た側面図である。
【0039】
光ピックアップ送り装置2は、駆動部材21と、送り用軸22と、駆動用モーター24とを備える。
【0040】
駆動部材(ラック)21は、射出成形が可能で熱可塑性の耐熱性合成樹脂材料が基材として用いられた一体成形品である。合成樹脂材料の一例としては、硬度と適度な弾性を有するポリカーボネート(Polycarbonate)、変性ポリフェニレンエーテル(modified-Polyphenyleneether:m−PPE)等が採用できる。
【0041】
ラック21は、本体部211と、腕部212と、噛合(噛み合わせ)部213と、歯部214と、規制部215とを有する。本体部211は、光ピックアップ12の一端に固定され、光ピックアップ12を保持する。
【0042】
送り用軸22は、例えば金属製のリードスクリューであり、周縁にらせん状の送り用溝23が設けられる。送り用溝23には、ラック21の噛合部213に設けられた歯部214が噛合する。
【0043】
駆動用モーター(ステッピングモーター)24は、送り用軸22を一定方向に回転させる。すなわち、ステッピングモーター24に電力が供給されることにより、ステッピングモーター24がパルスに応じて所定の角度回転し、これにつなげられたリードスクリュー22が回転する。リードスクリュー22の回転動作により、送り用溝23に歯部214が噛合したラック21は、リードスクリュー22の延在方向(Z軸方向)に移動し、ラック21に固定された光ピックアップ12が光ディスクの径方向(Z軸方向)に沿って動かされる。
【0044】
図3は、光ピックアップ12、ラック21およびリードスクリュー22の位置関係を示す図であり、図3(A)がそれぞれを分解した状態の図であり、図3(B)が組み立て後の図である。また、いずれも−Z方向から見た側面図である。
【0045】
本体部211は、光ピックアップ12の主ガイド軸側のガイド部121にねじなどで固定され、光ピックアップ12を保持する。
【0046】
ラック21の本体211と噛合部213の間には、噛合部213をリードスクリュー22の方向(X方向)に付勢する付勢部材25が設けられる。付勢部材25は例えばコイルばねであり、本体部211の側面211Sと噛合部213とに設けられた不図示の突起部に、その両端が嵌合されている。コイルばね25によって、組み立てた状態(図3(B))において、ラック21の歯部214がリードスクリュー24の送り用溝に押接され、噛合される。つまりコイルばね25は、歯部124と送り用溝の噛合状態を適切に保持する。
【0047】
図4および図5を参照して、ラック21について詳述する。図4(A)はラック21の全体の構成を示す斜視図であり、図4(B)はY方向から見た平面図である。また、図5(A)は図4(A)の要部拡大図、図5(B)は図5(A)を−Z方向から見た側面図、図5(C)は図5(A)をX方向から見た側面図である。
【0048】
図4を参照して、噛合部213は、本体部211の側面211Sと略平行に設けられ、本体部211と所定の距離で離間され、腕部212により支持される。腕部212はX軸方向に沿った断面形状においてU字状またはJ字状の如く湾曲した形状であり、その両端に本体部211と噛合部213が位置する。
【0049】
図5(A)(B)を参照して、噛合部213は2つの主面を有する。以下、本体部211の側面211Sと対向する一の主面を内壁213Iと称し、内壁213Iの裏面となる他の主面を外壁213Oと称する。噛合部213の外壁213Oには、歯部214と、規制部215が設けられる。
【0050】
また、本体部21の側面211Sと噛合部213の内壁213Iには、コイルばね25が嵌合する突起部220が設けられる。
【0051】
図5(A)(C)および図2(B)を参照して、歯部214はリードスクリュー22の送り用溝23に沿うように、Y軸に対して所定の角度で傾斜して複数(例えば2つ)設けられる。その形状は、送り用溝23に噛合するように、リードスクリュー22の方向(X方向)に突出し、例えば頂点部分に曲率を有する略三角柱状である。
【0052】
規制部215は、歯部214の近傍でリードスクリュー22の周縁に沿って、リードスクリュー22を挟む位置に設けられる。より具体的には、隣り合う2つの歯部214の間で、リードスクリュー22のY軸方向の径を上と下で挟むように、2つ設けられる。
【0053】
Y軸方向は、光ディスクのデータ記録面に垂直方向である。つまり、規制部215は、リードスクリュー22の周縁面22Sのうち光ディスクのデータ記録面に略水平となる面を挟むように上下に設けられる。
【0054】
規制部215は、噛合部213の外壁213Oからリードスクリュー22の方向(X方向)に突出する凸部である。また規制部215が突出する高さは、歯部214が突出する高さより高く、例えば、リードスクリュー22の軸中心付近まで達する(図5(A)(B)、図3(B)参照)。
【0055】
更に規制部215は、リードスクリュー22と対向する面が、リードスクリュー22周縁の曲率に沿うような傾斜面215Sである。傾斜面215Sは、本実施形態では平面状に設けられる場合を例に示すが、リードスクリュー22の周縁に沿うような曲率を有する傾斜面であってもよい。
【0056】
腕部212は、一部に薄肉部212Tを有する。既述の如くラック21は全体が合成樹脂により一体に成形されており、腕部212はその湾曲形状と薄肉部212Tとによって、主にX軸方向に可撓性を有している。つまり、X軸方向(主に−X方向)に多少の変形があった場合でも復元可能となっている。加えて本実施形態では、コイルばね25も、腕部212が−X方向に撓んだ状態からの復元を容易にしている。
【0057】
尚、図5(C)において、上側の規制部251と下側の規制部251は、それぞれのY軸方向の中心が左右にずれた位置に配置されるが、中心が同じY軸上にあるように配置されてもよい。
【0058】
図6は、リードスクリュー22とラック21の噛合部213の状態を示す図であり、図6(A)が送り用溝23と歯部214が噛合している状態を−Z方向からみた側面図であり、図6(B)が歯部214が送り用溝23から離脱した状態を説明するための斜視図である。
【0059】
図6(A)を参照して、光ピックアップの通常の(正常な)走行状態では、ラック21の歯部214はリードスクリュー22の送り用溝23と噛合し、リードスクリュー22の回転によって、ラック21がZ軸方向に移動する。そしてこの状態では、規制部215とリードスクリュー22は非接触である。
【0060】
図1も参照して、光ピックアップ12が内周端または外周端まで移動した場合について説明する。
【0061】
新たに光ディスクをターンテーブルに載置した場合や、光ディスクの最内周または最外周までデータの読み出し又は書き込みを行った場合に、光ピックアップ12は、光ディスクの例えば内周端まで移動し、ラック21の端部21Tが、破線で示すシャーシ11の内壁に当接される。そして本実施形態では、光ピックアップ12の移動が不可能で且つ当接する状態を強制的に所定時間継続する。これにより、光ピックアップ12の移動負荷が大きくなり、ステッピングモーター24に必要なトルクが大きくなる。このときのステッピングモーター24のトルクの変位を検出することで、光ピックアップ12が内周端に位置することが認識される。
【0062】
図6(B)を参照して、光ピックアップ12の位置検出期間中は光ピックアップ12が移動不可の状態であるにもかかわらずリードスクリュー22は回転を続けるため、歯部214に加わるステッピングモーター24のトルクも大きくなり、リードスクリュー22の送り用溝23とラック21の歯部214の噛み合せがはずれる状態が発生する。
【0063】
本実施形態では、送り用溝23とラック21の歯部214の噛み合せが離脱し、歯部214が送り用溝23間のリードスクリュー22の周縁面22Sに乗り上がった場合に、リードスクリュー22の周縁面22Sと、規制部215の傾斜面215Sが接触する。つまり、傾斜面215Sは、通常の(正常な)光ピックアップ21の走行状態ではリードスクリュー22と非接触で、且つ、歯部214が周縁面22Sに乗り上がったときには周縁面22Sと接触するような角度及び形状で、形成されている。
【0064】
そして、規制部215の傾斜面215Sによって、すり鉢状にガイドが形成され、リードスクリュー22の周縁面22Sが傾斜面215Sに摺接することで、腕部212は、上下(光ディスクのデータ記録面に対して垂直)方向(Y軸方向)の変形がほとんど規制され、主に前後(光ディスクのデータ記録面に対して略水平方向に送り用軸から離間するような方向)方向(−X方向)に変形(撓み)が生じる。
【0065】
尚、歯部214と送り用溝23の噛合が離脱する場合に、厳密には噛合部213は若干の上下動が生じる。しかし、その上下動の範囲は、対向する規制部215(傾斜面215S)間の距離以上になることはないため、従来と比較して、上下方向の変形はほとんど規制されるといってよい。
【0066】
腕部212が−X方向に撓み、歯部214が周縁面22Sに乗り上がった状態で更にリードスクリュー22の回転が続くと、歯部214は次の送り用溝23と噛合し、腕部212は、その形状とコイルばね25によって、元の状態に復元する。
【0067】
このように本実施形態では、光ピックアップ12の位置検出期間中において、複数回(例えば2回〜3回)歯部214が送り用溝23から離脱することがあっても、そのときの腕部212は、主にX軸方向に変形することとなる。
【0068】
腕部212は、光ディスクのタンデンシャル方向であるX軸方向については、湾曲形状と薄肉部212Tを適宜選択して、所望の撓みを許容するよう設計されている。つまり、歯部214が送り用溝23から離脱することによってX軸方向に生じる撓みについてはあまり問題とならない。しかし、離脱によって噛合部213が例えば斜め上方(XY方向)に大きく持ち上がると、腕部212の薄肉部212Tが捩れる状態になり、設計意図とは異なるねじれ変形が生じてしまう。
【0069】
本実施形態では規制部215を設けることにより、腕部212が、従来の如く送り用溝23に沿って斜め上方(YZ方向)に大きくねじれ変形が生じることがなくなるので、位置検出が繰り返させることによる破損を抑制することができる。
【0070】
また、落下試験において、従来では、噛合部213が上下方向(フォーカシング方向、Y軸方向)に大きくスライドして歯部214と送り用溝23の噛み合いが外れる場合もあった。このような場合に、例えば腕部212の撓みの設定(例えば薄肉部212Tの設定や、腕部212の形状、コイルばね25の付勢力など)が適切でないと、歯部214と送り用溝23が噛み合う状態に戻りにくい場合もある。
【0071】
例えば、噛合部213が大きく上にずれて歯部214の下端がリードスクリュー22の周縁面22Sに乗る(噛合部213全体がリードスクリュー22上に乗る)ような状態になってしまうと、その状態から、歯部214と送り用溝23が噛み合う状態に戻りにくく、安定した動力伝達ができない問題となる。
【0072】
しかし本実施形態では、リードスクリュー22の上下を挟むように、リードスクリュー22の中心付近まで突出する規制部215が設けられるため、落下試験により噛合部213が上下方向(Y軸方向)に大きくスライドして歯部214と送り用溝23の噛み合いが外れることを抑制できる。また、噛み合せが外れた場合でも、噛合部213が例えばリードスクリュー22の上に乗るようにずれてしまうことを防止できるので、噛合状態に戻り易く、落下の後からも安定した動力伝達が可能となる
更に、光ピックアップ12の走行中であっても、何らかの原因でステッピングモーター24に必要なトルクが大きくなる場合がある。これは例えば、長期間の使用によって主ガイド軸13に塗付された潤滑剤が欠乏し、光ピックアップ12の移動負荷が増える様な場合である。
【0073】
光ピックアップ12の移動負荷が大きくなることにより、内周端または外周端での位置検出においてステッピングモーター24に必要なトルクが大きくなる場合と同様の状態となるため、歯部214と送り用溝23が離脱しないまでも、噛み合せがずれることで、安定した動力伝達ができなくなってしまう。また、位置検出時と同様に歯部214と送り用溝23の噛合と離脱が生じる場合があると、これによっても、腕部212にかかる負担が大きくなる問題もある。
【0074】
本実施形態ではこのような場合でも、歯部214と送り用溝23の噛み合せがずれることを防止できる。つまり、歯部214と送り用溝23の噛合量が減少し離脱する傾向になった場合、規制部215の傾斜面215Sがリードスクリュー22の周縁と摺接することにより、歯部214が送り用溝23の深さ方向(−X方向)に押し戻される。
【0075】
規制部215によって、噛合部213は主にX軸方向に移動するので、歯部214と送り用溝23の噛み合せ量が若干浅くなることはあっても、大きく噛み合せが離脱することを抑制できる。つまり、光ピックアップ12の走行中に移動負荷が大きくなった場合であっても、歯部215と送り用溝23は離脱することなく、安定した動力伝達が可能となり、安定走行が実現できる。
【0076】
更に、リードスクリュー22を挟むように上下に設ける規制部215によって、光ピックアップ12の通常走行時において生じる、ラック21の微小な上下(Y軸方向の)移動も少なくでき、安定走行が可能となる。
【0077】
更に、規制部215は、歯部214と一体的に成形されている。つまり、光ピックアップ12の走行途中に、歯部214が送り用溝23から離脱する状況(離脱する傾向)になった場合でも、離脱と同時に規制部215を機能させることができる。つまり、離脱と同じタイミングで規制部215の傾斜面215Sにリードスクリュー22の周縁面22Sを摺接させ、噛合部213(腕部212)のY軸方向の変形を規制して、歯部214と送り用溝23を再び噛合させることができ、安定走行が可能となる。
【0078】
本実施形態の光ピックアップ送り装置2は、ラック22(噛合部213)のリードスクリュー22の上下を挟む位置に規制部215設けるものである。規制部215は、光ピックアップ12の通常(正常)走行時にはリードスクリュー22と非接触で、ラック22の歯部214とリードスクリュー22の送り用溝23が離脱する際にはリードスクリュー22の周縁面に接触し、ラック21(腕部212または噛合部213)の上下方向の変形を規制しつつ、腕部212をX軸方向に撓ませる。
【0079】
本実施形態では規制部215を2つの歯部214の間に設ける場合を例に説明したが、歯部214の近傍でこれと一体的に設けられていればよく、例えば歯部214の外側に設けてもよい。
【0080】
しかしこの場合、噛合部213の面積を大きく確保する必要があり、その分リードスクリュー22も長くする必要があるため、装置の小型化という点では2つの歯部214の間に規制部215を設けるほうが良い。
【符号の説明】
【0081】
1 光ピックアップ支持装置
2 光ピックアップ送り装置
11 固定基板(シャーシ)
12 光ピックアップ
13 第1の軸(主ガイド軸)
14 第2の軸(副ガイド軸)
16 スピンドルモーター
18 対物レンズ
21 駆動部材(ラック)
22 送り用軸(リードスクリュー)
23 送り用溝
24 駆動用モーター(ステッピングモーター)
25 付勢部材
211 本体部
212 腕部
213 噛合部
214 歯部
215 規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ピックアップを光ディスクの径方向へ移動させる光ピックアップ送り装置であって、
固定基板に回転可能に支持され、周縁にらせん状の送り用溝が設けられた送り用軸と、
該送り用軸を回転させる駆動用モーターと、
前記光ピックアップを前記駆動用モーター及び前記送り用軸により駆動するための駆動部材と、を備え、
該駆動部材は、前記光ピックアップが固定される本体部と、前記送り用溝に噛合する歯部と、該歯部と前記本体部とを離間して支持する腕部と、前記歯部の近傍で前記送り用軸の周縁に沿って該送り用軸を挟む位置に設けられた複数の規制部を有することを特徴とする光ピックアップ送り装置。
【請求項2】
前記規制部は、前記送り用軸方向に突出する凸部であることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項3】
前記規制部は、前記歯部より突出することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項4】
前記規制部は、前記送り用軸と対向する面が、該送り用軸の周縁の曲率に沿う傾斜面であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項5】
前記歯部は複数設けられ、前記規制部は、隣り合う前記歯部の間に設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項6】
前記規制部は、前記歯部と一体的に成形されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項7】
前記歯部と前記送り用溝の噛合量が減少した場合に前記規制部の傾斜面が前記送り用軸の周縁と摺接することにより、前記歯部が前記送り用溝の深さ方向に押し戻されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置。
【請求項8】
光ピックアップと、
固定基板と、
該固定基板に設けられ、光ディスクの径方向に移動する前記光ピックアップを支持する第1の軸および第2の軸と、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の光ピックアップ送り装置と、
を具備することを特徴とする光ピックアップ支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222099(P2011−222099A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93144(P2010−93144)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】