説明

光ファイバケーブル

【課題】縦添えされた中間層を採用する場合に解体作業を従来よりも容易に行うことができる光ファイバケーブルを提供すること。
【解決手段】光ファイバ収納溝2を外周面に有するスロット3と、光ファイバ収納溝2内に収納された光ファイバ1と、スロット3に縦添えされてスロット3を覆う中間層4と、中間層4の上に間隔をおいて螺旋状に巻回された押え巻き5と、押え巻5の上からスロット3を被覆するシース6とを備え、押え巻5とシース6は互いに接着している構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバケーブルに関し、より詳しくは、スロットの溝に光ファイバを取り付けてシースで被覆された構造を有する光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
スロットタイプの光ファイバケーブルは、例えば図7に示すように、光ファイバ101が収納される複数の溝102を外周に設けたスロット103と、スロット103を被覆するためのシース106と、シース106とスロット103の間に巻かれる中間層104とを少なくとも備えている。その他の構造として、中間層104を押さえるために押え巻を巻回したものや、スロット103の溝102内の光ファイバ101を押さえるために第2の押え巻を巻回したものなどがある。
【0003】
中間層104は、シース106を押し出し被覆する際に熱を光ファイバ101に伝えないために、或いは、光ファイバケーブルの製造が終了した後に何らかのトラブルによりシース106内に侵入した水が溝102内を走ること即ち水走りを防止するために、スロット103の全面を覆う必要がある。なお、水走りを防止する場合には、中間層104は吸水性を持つ材料から形成される。
【0004】
押え巻を使用しない従来例として、図8に示すように、溝102が一方に捻れたS撚り又はZ撚りスロット103に光ファイバ101を収納した状態で、テープ状の中間層104をスロット103の外周面に螺旋状に巻回し、さらにその上にシース106を被覆する構造がある。なお、中間層104を螺旋状に巻回する場合には、その一部が螺旋状に重なるように調整される。
【0005】
中間層104は、螺旋状に巻回されるものだけでなく、図9に示すように、その両側部をスロット103の長手方向に沿って重ね合わせて直線状になるように巻かれることがある。このような巻き方は縦添えと呼ばれている。この場合には、図9に示すように、細い紐状の押え巻105を螺旋状に巻回して中間層104を押さえる構造が採用される。
【0006】
また、図10に示すように、溝102が交互に捻れたSZ撚りスロット103を使用する場合には、スロット103上に第2の押え巻107を螺旋状に巻回して溝102内の光ファイバ101を押さえた状態で、中間層104を螺旋状に巻回することもある。第2の押え巻107は、光ファイバ101が溝102から飛び出すのを完全に防止するため、強い張力で巻き付けられる。従って、高い強度が必要である。一般的には、第2の押え巻107として、破断強度40〜100Nのナイロン製の紐やPET製のテープが使用され、巻き付け張力は20〜50N程度とされる。その巻き付け張力が弱い場合には、スロット103が屈曲した際に第2の押え巻107とスロット103の間に隙間が生じ、そこに光ファイバ101が挟まって損傷するおそれがある。中間層104上に巻かれる押え巻105は、理論的には第2の押え巻107ほど高強度である必要はないが、押え巻105と第2の押え巻107は同一のあるいは同一構造の巻付け装置で巻回されることが一般的であり、各押え巻105,107に別途の材料、巻き付け張力を選択するのは製造上、非常に不利となる場合がある。
【0007】
さらに、図11に示すように、溝102が交互に捻れたSZ撚りスロット103を使用するとともに縦添えにより中間層104を巻く場合には、スロット103の回りに第2の押え巻107を施しさらに中間層104を巻いた後に、中間層104上に螺旋状に押え巻105を施すこともある。
なお、押え巻105と第2の押え巻107は、それぞれ紐だけでなく細いテープから構成されることもある。
【0008】
縦添えにより中間層104を巻く場合には、下記の特許文献1に記載されているように、接着剤を介して中間層104の両側部を互いに重ねる構造のものがある。この場合には、その外周の押え巻105を省略することが可能である。
【0009】
また、特許文献2には、溝に光ファイバ心線を収納してなるスロット上に、織布または、不織布を基材して吸水樹脂層を設けてなる止水材からなる止水層が施され、さらにシース層(中間層に相当)が被覆されてなる光ファイバケーブルであって、前記止水層とシース層の間には、止水層とシース層との融着を防止する融着防止層が介在した光ケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−012914号公報
【特許文献2】特開2002−243999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の従来構造の光ファイバケーブルは、解体の観点から以下のような問題がある。
【0012】
光ファイバケーブルを解体する状況として、光伝送系統の分岐、接続などの施工の際に光ファイバ101を取り出すためシース106と押え巻105を除去する場合と、回収したケーブルをリサイクルするために構成材料を分別する場合とがある。
【0013】
光伝送系の分岐、解体などの施工時にシース106を除去するとその下には中間層104、或いはその上の押え巻105が現れる。螺旋状に巻回された幅広の中間層104を除去するためには、中間層104の一部を切断してそこから製造時とは逆向きに巻きを解いて外すしか方法はない。また、縦添え巻きの中間層104上に巻回された押え巻105を除去する場合には途中を何カ所か切断して引っ張って本体から外す方法もあるが縦添えされた中間層104にシワがあったりすると、その部分が抵抗となり、押え巻105を構成する紐や幅狭のテープを引っ張ったときに過張力が加わって溝102内の光ファイバ101にダメージを与える可能性がある。
【0014】
それを回避するには、結局、押え巻105を作製時と逆向きに解いて外すしか方法がなく、これらの作業は非常に負荷が大きくて時間がかかる。特に、敷設済みの光ファイバケーブルの途中から光ファイバ101を取り出す中間後分岐作業では、狭いスペースで作業をしなければならず、さらに作業負荷は大きい。
【0015】
解体分別作業の場合には、光ファイバ101にダメージを与えても問題がないので、シース106を除去する際にカッターなどの刃を深く入れて長手方向に切断することで、シース106と押え巻105を同時に切断する方法が採れる。
【0016】
しかし、巻回された押え巻105を長手方向に切断すると、押え巻105は多数の短い糸状になり、その一部はシース106内とスロット103の溝102内に残ってしまい、非常に分別しにくい状況となる。
【0017】
また、別の方法として、シース106のみを除去した後に、残った光ファイバケーブルを1〜2mの短尺に切断し、それから押え巻105をスロット103の長手方向に沿って滑らせて外す方法もある。しかし、幅広テープ状の中間層104上に巻回された押え巻105を滑らせて除去することは容易ではない。
【0018】
一般に、中間層104は、シース押出し性等を考慮するため表面の摩擦係数が高い場合が多く、摩擦抵抗によって押え巻が途中で団子状態になることもあり、結局、押え巻き105等を除去するために多くの作業時間を費やしてしまう。
【0019】
特許文献1に記載された技術によれば、中間層104は縦添えであり、中間層104の上に螺旋状に巻回された部材を持たないので、中間層104を分離する際に上述した問題は生じない。
【0020】
しかしながら、縦添えされた中間層104の両側部は接着剤を介して接着されており、中間層104を除去する際には中間層104を長手方向に切断するか接着部分を剥離させるという作業が新たに発生してしまい、結局、解体作業の容易化には限界がある。
【0021】
また、特許文献2には、シースと止水層(中間層に相当)の間に融着防止層を設けることが記載されている。融着防止層は、特許文献2の段落0015、0016に記載されているように、シースから止水層への直接的な熱的影響を防止するために介在されるものであり、シースと止水層が融着することを防止するものであって所定の厚さが必要とされ、止水層の全面を覆うものである。
【0022】
その融着防止層は、シースと同じポリエチレンから構成され、シースに融着することでシースとともに融着防止層も簡単に剥離できる旨が開示されている。
【0023】
しかしなから、特許文献2の段落0016に記載のように融着防止層を縦添えにより巻く構造を採用する場合に、その縦添えされた融着防止層をシース形成前にどのように維持するかは記載がないし、また、融着防止層の下の中間層を縦添えする場合に中間層をどのようにして押さえるかについては記載がない。従って、縦添えの中間層や融着防止層の押さえについては従来技術を採用することになるが、これでは、上述したように解体作業の容易化が図れない。
【0024】
本発明の目的は、縦添えされた中間層を採用する場合に解体作業を従来よりも容易に行うことができる光ファイバケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するための本発明の第1の態様は、光ファイバ収納溝を外周面に有するスロットと、前記光ファイバ収納溝内に収納された光ファイバと、前記スロットに縦添えされて前記スロットを覆う中間層と、前記中間層の上に間隔をおいて螺旋状に巻回された押え巻きと、前記押え巻の上から前記スロットを被覆するシースとを備え、前記押え巻と前記シースは互いに接着している構造を有することを特徴とする光ファイバケーブルである。
【0026】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記シースと前記押え巻が、熱可塑性物質から構成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記シースと前記押え巻が同一物質から構成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明の第4の態様は、第1乃至第3のいずれかの態様において、前記シースと前記押え巻がポリエチレンからなることを特徴とする。
【0029】
本発明の第5の態様は、第1乃至第4の態様のいずれかにおいて、前記シースと前記押え巻の接着力は0.5N/mm以上であることを特徴とする。
【0030】
本発明の第6の態様は、第1乃至第5のいずれかの態様において、前記押え巻は、25N以下の引っ張り破断強度を有することを特徴とする。
【0031】
本発明の第7の態様は、第1乃至第6のいずれかの態様において、前記スロットと前記中間層の間に、前記スロットに間隔を開けて螺旋状に巻回された第2の押え巻をさらに有することを特徴とする。
【0032】
本発明の第8の態様は、第7の態様において、前記スロット上で前記第2の押え巻の巻回の間隔が5mm以上であることを特徴とする。
【0033】
本発明の第9の態様は、第7又は第8の態様において、前記スロットと前記第2の押え巻の間における静止摩擦係数が0.5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の第1の態様にかかる光ファイバケーブルによれば、光ファイバ収納溝を有するスロット外周に縦添えされて巻かれた中間層と、中間層の上に間隔をおいて螺旋状に巻回された押え巻きと、押え巻の上からスロットを被覆するシースとを備え、押え巻とシースを互いに接着させる構造を採用している。
【0035】
これにより、シースを除去する際にシースに接着した押え巻も同時に除去され、シースを除去した後にケーブルのスロット上に残っているのは縦添えの中間層だけであり、施工時やリサイクルの解体分別時に押え巻を除去する作業時間を大幅に削減でき、作業の効率化が図れる。
【0036】
なお、特許文献2の技術において、融着防止層を螺旋巻きにする場合は、融着防止層が止水層を押える機能を有し、融着防止層をシース層に融着させた場合は、「シース層と共に融着防止層も簡単に剥離でき」と説明されている。しかし、融着防止機能を奏するためには、融着防止層は、止水層の全面を覆う必要があり、融着防止層を螺旋巻きする場合には、0017段落に記載のごとく、テープ幅の所定範囲内で重なりあうように巻回される。したがって、この重なりあって巻回され、下側となった部分は、シース層と融着されることはありえず、「シース層と共に融着防止層も簡単に剥離でき」る程度には自ずと限界がある。また、シース層を引き裂く場合、ある一方向から引き裂く場合は、融着防止層のシース層に融着された部分から、重なりあって融着されていない部分への方向に引き裂かれるが、他の一方向から引き裂く場合は、融着されていない部分から融着された部分への方向に引き裂かれることになる。即ち、解体作業性が方向依存性を有することになり、解体作業に際しては、引き裂き方向に留意しなければならない事態も生じ得た。
これに対し、請求項1に係る光ファイバケーブルにおいては、押え巻は間隔をおいて巻回されているので、製造ばらつきの問題を除けば、シースと接着しえない部分は存在せず、シースと押え巻の一体性に優れるため、シースと押え巻が安定して同時に除去できる。
また、シース引き裂き方向による依存性もないので、方向を気に留めることなく解体作業が可能である。
【0037】
本発明の第2の態様に係る光ファイバケーブルによれば、シースと押え巻きは熱可塑性物質から構成されているので、一般的なシース被覆方法である加熱して溶融状態にしたシース材を押し出し被覆する場合に、シースの有する熱により、押え巻も溶融あるいは半溶融状態となり、特段の工程を設けなくても、シースと押え巻を接着することができる。
【0038】
本発明の第3の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、螺旋状に巻回された押え巻がシースと同一材料である場合には、解体により除去したシースから押え巻を分離しなくても純度の高いリサイクル材料として使用できる。
【0039】
本発明の第4の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、シースと押え巻をポリエチレン製とすれば、シースとして安定した特性を奏することができる。
【0040】
本発明の第5の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、シースと押え巻の接着力を0.5N/mm以上とすれば解体作業中にシースと押え巻が分離せずシースと押え巻の同時除去が安定して行える。
【0041】
本発明の第6の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、押え巻の引張破断強度を25N以下とすれば、簡便な解体作業性を奏することができる。
押え巻き強度を低く設定する場合、製造時に破断しやすいという不利益を受けることとなるが、本発明は、製造上の利益/不利益を超えて、地球環境保全という長期的視野に立ち、解体性、リサイクル性といった、従来とは異なる視点から鋭意検討の末に想到するに至ったものである。なお、押え巻は、シースを被覆する際に熱などの影響により引張破断強度が低下する場合がある。このような場合には、光ファイバケーブル化された後の押え巻の引張破断強度として押え巻巻回工程に耐えない程の低い値も採用可能である。
【0042】
本発明の第1〜6の態様に係る光ファイバケーブルによれば、シースを除去すると同時に押え巻も除去され、中間層が現れる。中間層は縦添え巻きされているのでシースを除去すると同時に中間層は開いてしまう。このことは解体性から考えれば有利ではあるが、特にSZ撚りの場合、中間層が開くと光ファイバ収納溝に収納された光ファイバが飛び出してしまう。
【0043】
これを防止するために、本発明の第7の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、中間層の下に第2の押え巻を設ける利点がある。また、第2の押え巻は、製造時にも中間層が施されるまでの間、光ファイバを保持するので、製造の安定化にも資する。
なお、螺旋巻きされた第2の押え巻を除去するのはある程度煩雑ではあるが、本発明の第7の態様に係る光ファイバケーブルのごとく間隔を開けて螺旋巻きされている場合は、第2の押え巻とスロットの接触面積が小さいため摩擦も少なく、第2の押え巻を横にずらして除去することが容易である。一般的には、スロットの表面は平滑で摩擦係数が低いため、スロット上に巻回された第2の押え巻を横にずらして除去する作業は、摩擦係数の高い中間層上に巻回された押え巻を横にずらして除去する作業よりは問題となることが少なく、間隔を開けて螺旋巻きすることで十分容易な作業性を確保することができる。また、第2の押え巻を切断して除去する場合も螺旋巻きの隙間から光ファイバに傷が至らないように目視しながら刃物を使用できるので、光ファイバが損傷する虞は減少する。
【0044】
本発明の第8の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、間隔の幅を5mm以上とすれば、目視しながらの刃物の使用が支障なく可能である。
【0045】
本発明の第9の態様に係る光ファイバケーブルのごとく、スロットと第2の押え巻の間の静止摩擦係数を0.5以下とすれば、第2の押え巻を横にずらして除去する作業が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光ファイバケーブルを示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光ファイバケーブルにおいてシースを形成する前の状態の一部を切り欠いた状態を示す側面図(a)と、光ファイバケーブルのシースを形成した後の一部を切り欠いた状態を示す側面図(b)である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る光ファイバケーブルの他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る光ファイバケーブルを構成するスロットの別の例を示す側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光ファイバケーブルにおいてシースを形成する前の状態の一部を切り欠いた状態を示す側面図(a)と、その光ファイバケーブルのシースを形成した後の一部を切り欠いた状態を示す側面図(b)である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る光ファイバケーブルを構成する押え巻の他の例を示す断面図である。
【図7】従来の光ファイバケーブルを示す断面図である。
【図8】従来技術に係る第1の光ファイバケーブルを示す側面図である。
【図9】従来技術に係る第2の光ファイバケーブルを示す側面図である。
【図10】従来技術に係る第3の光ファイバケーブルを示す側面図である。
【図11】従来技術に係る第4の光ファイバケーブルを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る光ファイバケーブルを示す断面図、図2(a)は、その光ファイバケーブルにおいてシースを形成する前の状態の一部を切り欠いた状態を示す側面図、同図(b)は、その光ファイバケーブルのシースを形成した後の一部を切り欠いた状態を示す側面図である。
【0048】
図2(a)において、光ファイバ心線1を収納する溝2が交互に捻れて形成された外径9.0mmのSZ撚りスロット3の上には、幅40mm、厚さ0.3mmの不織布からなる中間層4が縦添えで巻かれている。また、中間層4の上には、幅2.5mm、厚さ0.05のポリエチレンテープよりなる3本の押え巻5が等間隔で螺旋状に巻回されている。
この場合、中間層4の両側部は接着剤を介さずに重ね合わされた状態で押え巻5によってスロット3へ押さえられている。押え巻は、幅の狭いテープであってもよいし紐であってもよい。
【0049】
このような状態で、図1、図2(b)に示すように、押え巻5及び中間層4上には押出被覆成形によりポリエチレンからなるシース6が2.0mmの厚さに被覆される。シース6の押出し温度は190℃であり、融点140℃のポリエチレンテープからなる押え巻5よりも高いために、シース6押し出し後の押え巻5はシース6と接合して一体化している。
【0050】
以上の構成を有する光ファイバケーブルでは、縦添えにより巻いた中間層4を押さえるためにその上に押え巻5を巻回し、シース6を形成した後に押え巻5はシース6の内側に接着する。
【0051】
従って、光ファイバケーブルの製造には押え巻5を巻回するという工程があるが、一旦完成した後には、押え巻5はシース6の内側に接着しているので中間層4の上にはあたかもシース6のみが存在しているような状態となる。また、押え巻5は、それより下層の状態を維持できれば全面を覆う必要もないし、間隔をあけて巻回した方がシース6との一体性を確保しやすいし、ケーブル重量を軽くでき、原料の消費量を少なくできるし、巻回時間を短くできる。
【0052】
このような光ファイバケーブルについて、押え巻5とシース6の接着力と解体作業性の関係を表1に示す。表1の結果は、シース6及び押え巻5に刃物を入れ、予め押え巻5を切断しておいてシース6を除去した場合にシース6と押え巻5が一体的になってスロット3から除去されたか否かを示しており、○は一体性が維持されたもの、×は一体性が維持されず、押え巻5がシース6から分離してしまったものである。
【表1】


以上の結果から、0.5N/mm以上の接着力を有する場合に解体作業性が優れることがわかる。
【0053】
特に、シース6と押え巻5が同じ物質であれば、シース6形成の際にそれらが一体化し易いので、シース6と押え巻5を一体で解体できて単一材料として分別でき、リサイクルに有利である。
【0054】
ところで、分岐作業などのために光ファイバケーブルを解体する際、光ファイバ1に損傷を与えたくない場合には、シース6の外側から入れる刃物を押え巻5に達しない深さとするのが好ましい。そして、シース6の一部を長手方向に沿って切断し、その切断端を把持してシース6を長手方向に引き裂けば、シース6の内側に接着している薄い押え巻5に刃が入れられていなくても、押え巻5ごとシース6を解体できることが好ましい。シース6及び押え巻5を除去した後に現れる中間層4は、縦添え巻きであって接着されていないので、シース6及び押え巻5の除去によって容易に開くので、解体上有利である。
【0055】
この場合、シース6と押え巻5の接着力が弱ければシース6が裂かれている際に押え巻5がシース6から離れてしまってシース6とともに裂かれ難くなるし、また、押え巻5の強度が強すぎれば同じように裂かれにくい。また、シース6の厚さの途中までしか刃物が入っていないような場合に、シース6の強度が大き過ぎれば押え巻5は裂かれ難くなる。
【0056】
表2は、押え巻5の強度、厚さ、幅、断面積、押え巻間隔と、シース6の厚さと、押え巻・シース接着強度とを異ならせた実施例、比較例について、シース6の長手方向に沿って厚みの途中まで刃を入れて切った後に切り口からシース6を引き裂いて、シース6と押え巻5が一体状態を維持しつつ破断したかどうかを調べた結果を示している。
【表2】

【0057】
表2において、実施例4〜6は、シース6を引き裂いた際に押え巻5と一体状態を維持しかつ、押え巻5も破断して良好な結果が得られた。また、実施例7、8は、シース6を引き裂いた際に押え巻5も破断したがシース6と押え巻5の一体状態を維持できなかった。さらに、比較例3は、押え巻5が破断せずに中間層4上に残り、シース6のみが破断して除去された。比較例4は、押え巻の強度が強すぎ、手による引き裂き作業ができなかった。
【0058】
即ち、実施例4〜8においては、シース6と押え巻5は、押え巻5に刃物を到達させずに前記シース6の一部を切断した状態でシース6の切断端を把持してシース6を長手方向に引き裂いた場合に押え巻5も破断するものであり、特に、実施例4〜6は、シース6ごと押え巻5を引き裂く際にもシース6と押え巻5の一体性が維持されていてより好ましい。
【0059】
また、押え巻5の破断強度が25N以下であることが好ましい。25Nより大きければ解体の際に素手では引き裂けないので手間がかかってしまう。
【0060】
ところで、スロット3に設けられた溝2に入れる光ファイバは、図1に示すような光ファイバテープ1に限られものではなく、図3(a)に示すように光ファイバ単線1aを収納したり、又は図3(b)に示すように、複数束ねられた光ファイバ単線1bを収納する構造であってもよい。また、光ファイバテープ1、光ファイバ単線1a、1b等を収納するスロットとして、図4に示すような光ファイバ収納用の溝2aが一方に捻れたS撚りスロット3aであってもよい。
【0061】
また、縦添えの中間層4の材料は、吸水性パウダーを塗布した不織布に限られるものではなく、一般的なプラスチック製であってもよい。
【0062】
(第2の実施の形態)
図5(a)は、本発明の第2実施形態に係る光ファイバケーブルのシースを形成する前の状態で一部を切り欠いた状態を示す側面図、同図(b)は、その光ファイバケーブルのシースを形成した後の一部を切り欠いた状態を示す側面図である。図5(a)、(b)において、図1、図2と同じ符号は同じ要素を示している。
【0063】
図5(a)において、光ファイバ心線1を収納する溝2が交互に捻れて形成された外径9.0mmのSZ撚りスロット3の上には、第2の押え巻7である紐又は幅の狭いテープが間隔をおいて螺旋状に巻回され、これにより溝2内の光ファイバ1がスロット3から飛び出すのを防止している。
【0064】
また、第2の押え巻7及びスロット3の上には、第1実施形態と同じ不織布からなる中間層4が縦添えで巻かれている。また、中間層4の上には、第1実施形態と同様にポリエチレンテープよりなる3本の押え巻5が等間隔で螺旋状に巻回され、これによりスロット3へ押さえられている。
【0065】
このような状態で、図5(b)に示すように、押え巻5及び中間層4上には押出被覆成形によりポリエチレンからなるシース6が2.0mmの厚さに被覆される。シース6の押出し温度はポリエチレンテープからなる押え巻5よりも高く、シース6押し出し後の押え巻5はシース6と接合して一体化している。
【0066】
SZ撚りスロット3では、中間層4が開くと同時に溝2内の光ファイバ1が飛び出し易い状態にあるが、その飛び出しは第2の押え巻7によって防止される。また、第2の押え巻7は、光ファイバケーブル製造時において中間層4が施されるまでの間、光ファイバ1を保持しているので製造の安定化にも資する。
【0067】
なお、螺旋状に巻回された第2の押え巻7を解体することはある程度煩雑ではあるが、第2の押え巻7とスロット3の間に隙間が存在する程度に第2の押え巻7とスロット3の接触面積を少なくすれば、第2の押え巻7とスロット3との摩擦が少なくなって第2の押え巻7をスロット3の長手方向に沿って移動させて除去することが比較的容易となる。即ち、中間層4に対するその上の押え巻5の摩擦力は、スロット3に対する第2の押え巻7の摩擦力よりも大きい。第2の押え巻7とスロット3の摩擦力を静止摩擦係数で表せば0.5以下とするのが好ましい。
【0068】
中間層4については遮熱、吸水機能を持たせるためにその表面粗さが大きくなるが、スロット3は樹脂押し出し成形により形成されているのでその表面粗さは小さくて滑りやすい。また、第2の押え巻7を切断して除去する場合に、第2の押え巻7の隙間から光ファイバ1に傷が至らないように目視しながら刃物を使用できるので、光ファイバ1の損傷の可能性は減少する。目視しながら刃物の使用を実効あらしめるためには、スロット3上での第2の押え巻7の間隔Wを5mm以上とすることが好ましい。
【0069】
次に、第2の押え巻7の幅、厚さ、巻張力、押え巻間隔、スロット・第2の押え巻間静止摩擦係数について実施例9、10と比較例5について示すとともに、各試料の第2の押え巻7を素手でスロット長手方向に沿って2mずらせたかどうかを確認した結果を表3に示す。
【表3】

【0070】
(その他の実施の形態)
縦添えで巻かれる中間層4の上に巻回される押え巻5の材料としてシース6と同じ材料を使用することが好ましいがこれに限られるものではない。
【0071】
例えば、シース6と押え巻5を熱可塑性物質から構成するとともに、押え巻5の材料をシース6押出し温度よりも融点が低いプラスチック性材料で形成すると、シース6を加熱溶融で形成する際に押え巻5をシース6の内側に接着することが可能になる。
【0072】
また、図6に示すように、押え巻5をプラスチック5aで形成し、その上にシース押出し温度で溶融する接着剤5bを塗布した構造を採用してもよい。この場合、接着剤5bを外側にした状態で押え巻5を中間層4に巻回した後に、シース6を加熱溶融で形成することにより接着剤5bをシース6の内側に接着することが可能になる。この場合、押え巻5を構成するプラスチック5aの材料として例えばナイロン、PETを使用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:光ファイバ心線
2:溝
3:スロット
4:中間層
5、7:押え巻
6:シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ収納溝を外周面に有するスロットと、
前記光ファイバ収納溝内に収納された光ファイバと、
前記スロットに縦添えされて前記スロットを覆う中間層と、
前記中間層の上に間隔をおいて螺旋状に巻回された押え巻きと、
前記押え巻の上から前記スロットを被覆するシースと、
を備え、
前記押え巻と前記シースは互いに接着している構造を有することを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記シースと前記押え巻は、熱可塑性物質から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記シースと前記押え巻は同一物質から構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光ファイバケーブル。
【請求項4】
前記シースと前記押え巻はポリエチレンからなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の光ファイバケーブル。
【請求項5】
前記シースと前記押え巻の接着力は0.5N/mm以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光ファイバケーブル。
【請求項6】
前記押え巻は、25N以下の引っ張り破断強度を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の光ファイバケーブル。
【請求項7】
前記スロットと前記中間層の間に、前記スロットに間隔を開けて螺旋状に巻回された第2の押え巻をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の光ファイバケーブル。
【請求項8】
前記スロット上で前記第2の押え巻の巻回の間隔が5mm以上であることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバケーブル。
【請求項9】
前記スロットと前記第2の押え巻の間における静止摩擦係数が0.5以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の光ファイバケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−95780(P2011−95780A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29096(P2011−29096)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2005−72733(P2005−72733)の分割
【原出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】