説明

光ファイバ製造方法

【課題】線引時の有害ガス使用量を削減することができ、所望の空孔径を有し伝送損失が低い光ファイバを容易に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ母材10の空孔13の表面積をSとし、光ファイバ母材10の半径をRとし、空孔13の体積を含む光ファイバ母材10の体積をVとする。また、光ファイバ20の空孔23の表面積をS’とし、光ファイバ20の半径をR’とし、空孔23の体積を含む光ファイバ20の体積をV’とする。このとき、((S’/V’)/(S/V))がR/R’より大きくなるように光ファイバ母材10を線引して光ファイバ20を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファイバ軸方向に延在する複数の空孔を有する光ファイバが知られている。このような光ファイバは、特許文献1〜5に記載されているように、軸方向に延在する空孔を有する光ファイバ母材を線引することで製造される。
【0003】
特許文献1〜3に記載された光ファイバ製造方法では、Clガス等を光ファイバ母材の空孔内に導入して空孔内を加圧しながら該光ファイバ母材を線引する。これらの文献では、空孔内にClガス等を導入することで、空孔壁面に付着したOH基や空孔壁面近傍のガラス中に存在する水を除去することができ、伝送損失が低い光ファイバを製造することができるとしている。
【0004】
特許文献4に記載された光ファイバ製造方法では、光ファイバ母材の空孔内を乾燥させた後に空孔の両端を封止して、該光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する。この文献では、光ファイバ母材の封止された空孔内を乾燥させた状態のまま線引を行うことができ、伝送損失が低い光ファイバを製造することができるとしている。
【0005】
特許文献5に記載された光ファイバ製造方法では、光ファイバ母材の複数の空孔が線引後に所定の空孔径に縮小されるように、該光ファイバ母材の空孔内の圧力を制御しながら該光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-145634号公報
【特許文献2】特開2002-249335号公報
【特許文献3】特開2003-313045号公報
【特許文献4】特開2002-211941号公報
【特許文献5】特開2003-81656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載された光ファイバ製造方法では、有害なガスを使用するので、設備の管理コストが高い。特許文献4に記載された光ファイバ製造方法では、光ファイバ母材の空孔の両端を封止して線引を行うので、光ファイバの空孔径の制御の自由度が低い。また、特許文献5に記載された光ファイバ製造方法では、線引時に空孔を縮径するので、光ファイバ母材の空孔径を大きく設計することになり、光ファイバ母材の空孔壁面に多くのOH基が結合しやすくなり、したがって、線引して得られる光ファイバの伝送損失が大きくなり易い。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、線引時の有害ガス使用量を削減することができ、所望の空孔径を有し伝送損失が低い光ファイバを容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ファイバ製造方法は、軸方向に延在する空孔を有する光ファイバ母材を線引して、軸方向に延在する空孔を有する光ファイバを製造する方法であって、光ファイバ母材の空孔の表面積をSとし、光ファイバ母材の半径をRとし、空孔体積を含む光ファイバ母材の体積をVとし、光ファイバの空孔の表面積をS’とし、光ファイバの半径をR’とし、空孔体積を含む光ファイバの体積をV’としたとき、((S’/V’)/(S/V))がR/R’より大きくなるように光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造することを特徴とする。より好適には、((S’/V’)/(S/V))が2R/R’より大きくなるように光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造する。
【0010】
本発明の光ファイバ製造方法は、光ファイバの断面において、動径方向の空孔の長さをaとし、角度方向の空孔の長さをbとしたとき、a/bが0.84以上となるように光ファイバ母材を線引して光ファイバを製造するのが好適である。a/bが0.90以上となるように光ファイバ母材を線引して前記光ファイバを製造するのが更に好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ファイバ製造方法は、線引時の有害ガス使用量を削減することができ、所望の空孔径を有し伝送損失が低い光ファイバを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】比較例の光ファイバ製造方法における光ファイバ母材10および光ファイバ20それぞれの断面構造を示す図である。
【図2】本実施形態の光ファイバ製造方法における光ファイバ母材10および光ファイバ20それぞれの断面構造を示す図である。
【図3】光ファイバのOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38と空孔膨張率との関係を示すグラフである。
【図4】光ファイバ20の断面構造の模式図および写真である。
【図5】光ファイバ20の断面構造の模式図および写真である。
【図6】光ファイバ20の断面構造の模式図および一部拡大図である。
【図7】光ファイバのOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38と光ファイバの空孔の楕円率a/bとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、比較例の光ファイバ製造方法における光ファイバ母材10および光ファイバ20それぞれの断面構造を示す図である。同図(a)に示されるように、光ファイバ母材10は、ガラスからなるコア11と、このコア11の周囲を取り囲むガラスからなるクラッド12と、このクラッド12中に形成され軸方向に延在する複数の空孔13とを備える。複数の空孔13は、コア11を中心とする円の周上に一定間隔で設けられ、断面が略円形状である。
【0015】
同図(b)に示されるように、光ファイバ20は、ガラスからなるコア21と、このコア21の周囲を取り囲むガラスからなるクラッド22と、このクラッド22中に形成され軸方向に延在する複数の空孔33とを備える。複数の空孔23は、コア21を中心とする円の周上に一定間隔で設けられ、断面が略円形状である。
【0016】
コア11,21は、GeOが添加された石英ガラスであってもよい。クラッド12,22は、ハロゲン元素が添加された石英ガラスであってもよい。光ファイバ母材10の空孔13の個数および光ファイバ20の空孔23の個数は図では10個であるが、これに限られない。このような光ファイバ20はHAF(Hole-Assisted Fiber)と呼ばれる。
【0017】
光ファイバ母材10を線引することで光ファイバ20を製造することができる。比較例の光ファイバ製造方法では、光ファイバ母材10の断面と光ファイバ20の断面とは互いに相似形である。これに対して、本実施形態の光ファイバ製造方法では、図2に示されるように、光ファイバ母材10の断面と光ファイバ20の断面とは互いに相似形ではない。
【0018】
図2は、本実施形態の光ファイバ製造方法における光ファイバ母材10および光ファイバ20それぞれの断面構造を示す図である。本実施形態の光ファイバ製造方法では、線引時にクラッド径に対する空孔径の比を大きくする。具体的には以下のとおりである。
【0019】
光ファイバ母材10の空孔13の表面積をSとし、光ファイバ母材10の半径をRとし、空孔13の体積を含む光ファイバ母材10の体積をVとする。また、光ファイバ20の空孔23の表面積をS’とし、光ファイバ20の半径をR’とし、空孔23の体積を含む光ファイバ20の体積をV’とする。このとき、((S’/V’)/(S/V))がR/R’より大きくなるように光ファイバ母材10を線引して光ファイバ20を製造する。より好適には、((S’/V’)/(S/V))が2R/R’より大きくなるように光ファイバ母材10を線引して光ファイバ20を製造する。
【0020】
図3は、光ファイバのOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38と空孔膨張率との関係を示すグラフである。空孔膨張率とは、線引によるクラッド径に対する空孔径の比の変化率である。同図から判るように、空孔膨張率が大きいほど、光ファイバの伝送損失Δα1.38は小さい。
【0021】
比較例の光ファイバ製造方法と比べて、本実施形態の光ファイバ製造方法では、同一の断面構造を有する光ファイバ20を製造する場合に、光ファイバ母材10の空孔13の壁面の面積が小さく、空孔13の壁面に取り込まれるOH基の量を少なくすることができる。空孔膨張率が大きいほど、光ファイバ20の空孔23の壁面に取り込まれるOH基の量を少なくすることができる。したがって、本実施形態の光ファイバ製造方法では、所望の空孔径を有し伝送損失が低い光ファイバ20を容易に製造することができる。また、本実施形態の光ファイバ製造方法では、比較例の光ファイバ製造方法で製造される光ファイバと同程度の伝送損失を有する光ファイバ20を製造する場合には、線引時の有害ガス使用量を削減することができる。
【0022】
図4および図5それぞれは、光ファイバ20の断面構造の模式図および写真である。各図(a)は模式図であり、各図(b)は模式図中の破線矩形領域の写真である。図4に示される光ファイバ20の断面では、空孔23は略真円形状を有している。これに対して、図5に示される光ファイバ20の断面では、空孔23は略楕円形状を有している。
【0023】
図6は、光ファイバ20の断面構造の模式図および一部拡大図である。動径方向の空孔23の長さをaとし、角度方向の空孔23の長さをbとする。空孔23の楕円率a/bが小さいほど、コア21を伝搬する光のパワーの径方向の広がりは空孔23により遮られ易くなり、コア21を伝搬する光のパワー分布と空孔23の表面との重なりが大きくなって、OH基による光吸収の影響を受け易い。また、光ファイバ母材10の空孔13の壁面の粗度Raが大きいほど、空孔13の壁面の実質的な表面積が広くなるので、光ファイバ20の空孔23の壁面に取り込まれるOH基が多くなって、OH基による光吸収の影響を受け易い。
【0024】
そこで、本実施形態では、光ファイバ20の空孔23の楕円率a/bが0.84以上であるのが好ましく、楕円率a/bが0.90以上であるのが更に好ましい。図7は、光ファイバのOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38と光ファイバの空孔の楕円率a/bとの関係を示すグラフである。同図には、光ファイバ母材10の空孔13の壁面の粗度Raが0.6μmおよび15μmそれぞれの場合について、伝送損失Δα1.38と空孔23の楕円率a/bとの関係が示されている。
【0025】
同図から判るように、光ファイバ母材10の空孔13の壁面の粗度Raが0.6μmである場合、光ファイバ20の空孔23の楕円率a/bが0.84以上であれば、光ファイバ20のOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38は0.06dB/km以下となり、この光ファイバ20はITU-T G652Dに規定される国際標準を満たすことができる。また、光ファイバ母材10の空孔13の壁面の粗度Raが15μmである場合、光ファイバ20の空孔23の楕円率a/bが0.90以上であれば、光ファイバ20のOH基による波長1.38μmにおける伝送損失Δα1.38は0.06dB/km以下となり、この光ファイバ20はITU-T G652Dに規定される国際標準を満たすことができる。
【符号の説明】
【0026】
10…光ファイバ母材、11…コア、12…クラッド、13…空孔、20…光ファイバ、21…コア、22…クラッド、23…空孔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延在する空孔を有する光ファイバ母材を線引して、軸方向に延在する空孔を有する光ファイバを製造する方法であって、
前記光ファイバ母材の空孔の表面積をSとし、前記光ファイバ母材の半径をRとし、空孔体積を含む前記光ファイバ母材の体積をVとし、前記光ファイバの空孔の表面積をS’とし、前記光ファイバの半径をR’とし、空孔体積を含む前記光ファイバの体積をV’としたとき、((S’/V’)/(S/V))がR/R’より大きくなるように前記光ファイバ母材を線引して前記光ファイバを製造する、
ことを特徴とする光ファイバ製造方法。
【請求項2】
((S’/V’)/(S/V))が2R/R’より大きくなるように前記光ファイバ母材を線引して前記光ファイバを製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項3】
前記光ファイバの断面において、動径方向の前記空孔の長さをaとし、角度方向の前記空孔の長さをbとしたとき、a/bが0.84以上となるように前記光ファイバ母材を線引して前記光ファイバを製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項4】
a/bが0.90以上となるように前記光ファイバ母材を線引して前記光ファイバを製造する、ことを特徴とする請求項3に記載の光ファイバ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−60317(P2013−60317A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198388(P2011−198388)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】