説明

光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法及び光伝送装置

【課題】本発明は波長対応の可変分散補償器を含む光伝送ユニットを備えた波長分割多重通信が可能な光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法と光伝送装置に関し,光伝送ユニットの2波以降の増設時に早く最適な分散補償量を設定することを目的とする。
【解決手段】光伝送路の基準波長,分散係数,スロープ値を保持し,第一の波長の光信号を処理する第一の光伝送ユニットの運用時に異なる第二の波長を処理する光伝送ユニットを増設し,基準波長と第一の波長及び第二の波長の波長差を算出し,波長差にスロープ値を乗算して第一と第二のユニットの分散係数を算出し,算出した分散係数と第一の光伝送ユニットの設定分散補償量からファイバ長を求め,第二の光伝送ユニットの第二の分散係数とファイバ長から必要とする分散補償量を算出し,算出した分散補償量を初期値として第二の光伝送ユニットの可変分散補償器に設定するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法及び光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,ファイバによる光信号の伝送速度の高速化が進められ10Gb/S(10ギガビット秒)や,40Gb/Sに対応する伝送装置が実用化されており,更にそれより高速化の開発が進められている。10Gb/S以上の伝送速度の光信号は,ファイバ伝送による波長分散の影響(波形劣化)を受けることにより長距離伝送ができないという問題がある。その波長分散を除去するための分散補償器として分散補償ファイバ(DCF:Dispersion Compensating Fiber)が一般的に使用され, 発生した分散の補償を行うことで長距離伝送を可能としている。
【0003】
一方,光伝送装置の技術では,波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing) を用い,一つの光ファイバに多数の波長の光信号を伝送することにより大容量の信号伝送が実現されている。但し,実際に波長分割多重による光伝送装置を最初に設定する時は,必要な伝送量に対応した数の波長に対応する伝送装置を設け,その後に伝送量を増大することが要求された場合に,他の波長を用いた光伝送ユニットを増設して同じ光ファイバに接続する手法が採られ,実際に光伝送ユニットを設置する場合は波長分散を計測する等により分散量を検出して,分散補償量を設定することで実用に供することになる。
【0004】
しかし,光伝送路による10Gb/Sの伝送速度の通信では,許容できる周波数分散の幅(分散トレランス)がある程度あるため,A(Km)〜B(Km),B(Km)〜C(Km),……というように補償可能な距離を区切り,その範囲に応じて数百ps(ピコ秒)単位の分散補償ファイバユニット(DCFモジュール化ユニット)を用意し,伝送距離により分散補償ファイバユニットを選択して分散の補償を行っている。
【0005】
従来の光伝送路の分散特性に起因した波形劣化の自動補償を簡易に行うことを目的とした技術が提案されている(特許文献1参照)。図6は提案された技術の説明図であり,その動作を概説する。
【0006】
光伝送路から入力される光信号が可変分散補償器60に入力する。可変分散補償器60は入力光の波長分散を制御回路63からの制御により可変に補償する公知の光デバイスであり,ここから出力された光信号は光受信回路61で電気信号に変更され,クロック再生,データ識別等の受信処理が行われ,処理結果である受信データ信号を符号誤り情報モニタ回路62に出力する。符号誤り情報モニタ回路62は受け取った受信データ信号について符号誤り率等を測定し,その測定結果を符号誤り情報として制御回路63に供給する。制御回路63は符号誤り情報モニタ回路62からの符号誤り情報に基づいて,可変分散補償器60から出力される光信号の符号誤りが低減されるように,可変分散補償器60における波長分散の補償量を自動制御する。
【0007】
上記特許文献1の波長分散を自動補償する技術は,運用状態において特定のチャネル(周波数)に対して可変分散補償器のある程度の補償量を自動制御するものであり,光受信回路で電気信号に変換して,クロック再生,データ識別を行って受信データ信号を得て,その受信データ信号を符号誤り情報モニタ回路を設け,符号誤り率等の情報を検出して,補償量を決めるものであり,多くの複雑な回路を設ける必要があるという問題がある。
【0008】
一方,10Gb/Sを越える伝送速度では分散補償は数10ps単位で補償する必要が出てくるため,固定の補償量である分散補償ファイバ(DCF)により補償できる伝送路の距離が一定の距離に限られ,長距離の伝送路については複数の区間に分割することになる。その場合,各伝送区間毎,波長別に最適な分散補償ファイバを設けて補償をする必要があり,種類が多くなり現実的ではない。
【0009】
以上のことから,10Gb/Sを越える高速伝送を行う場合,分散補償ファイバ(DCF)による分散補償だけでなく,可変型の分散補償器も合わせて用いることが一般的である。
【特許文献1】特開2002−208892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の分散補償器は,広帯域で一括に補償できるものがなく,個々のチャネルに専用の可変分散補償器を使用しており,波長(チャネル)を増設した場合,その波長で最適な分散補償量に設定する必要があるが,設定する分散補償量がわからないため,上記図6に示すように必要な補償量を探す手段や分散を検出する手段が必要となる。また,10Gb/S以上の高速な伝送では波形の劣化が大きくなるため一定距離毎に区分して補償器を設ける必要があるため,各区間に対応して設けた多数の補償器に対して分散補償量を設定する必要がある。
【0011】
最適な分散量を探す手段としては,分散補償器に設定する補償量を少しずつ変え,その時の受信機のクロック検出状態やエラー状態を監視し,エラーが少なくなる点を探すことになる。この場合,伝送距離に応じて補償する分散量も増加するため,最適な補償量を探すまでの時間が長くなり,装置の立ち上げから信号疎通するまでの時間も長くなるという問題がある。
【0012】
本発明は,光伝送ユニットの2波以降の波長増設を行う場合に,伝送距離,ビットレートに関わらず早く最適な分散補償量を自動で設定することができる波長分割多重通信が可能な光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法及び光伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来の分散補償デバイスは,広帯域で一括に補償できるものが無いため,個々のチャネルに専用の可変分散補償器を使用しており,波長を増設した場合,その波長で最適な分散補償量に設定する必要がある。
【0014】
WDM装置として最初に立ち上げる波長は,分散補償量が不明な分散補償器により補償量を順次可変させ,最適な分散補償量を探し出す制御が行われる。本発明は,光伝送路を用いた波長分割多重方式の光伝送装置において,ある一つの波長による光伝送に対する可変分散補償器により最適な補償量が設定されて運用されている場合に,2波以降の波長増設を行う場合の可変分散補償器への補償量の設定を行うものである。
【0015】
なお,以下の図1,図2に示す本発明の第1の原理構成と第2の原理構成では増設するユニット内に光ファイバの情報や,演算機能を実行する手段(制御部)を備えているが,複数の光伝送ユニットを備えた光伝送装置内の共通処理部等で情報を保持し,光伝送ユニットの増設のための演算機能を共通処理部等で実行するようにしても良い。
【0016】
図1は本発明の第1の原理構成を示す図であり,一つの波長を使用して分散補償量が設定された既存の光伝送ユニットである第一のユニットが運用されている時に,他の第二の波長を使用する第二のユニット(増設光伝送ユニット)を増設するための構成である。
【0017】
図中,1Aは第二のユニット(増設ユニット)で使用周波数はλaであり,1Bは運用中の第一のユニット(既存ユニット),第二のユニット1A内の10は制御部,11は第一のユニット1Bとのインタフェース,12は光信号に対する波長分散の影響を設定された分散補償量により補償する可変分散補償器,13は補償された信号を受信する受信器である。第一のユニット1Bが使用する波長(λb )で内蔵する可変分散補償器(図示省略)に対して設定分散補償量(Dis-b)が設定されているものとし,この第一のユニット1Bの波長(λb )と設定分散補償量(Dis-b)は第二のユニット1Aに供給される。
【0018】
制御部10には演算を行う手段10a〜10eを備えると共に,基準波長について使用するファイバの特性により決まる値である分散係数を含む一般的な基準データを基準データ保持部100に備えている。基準データ保持部の100aは基準波長(λ),100bは基準波の分散係数(d),100cはスロープ値(dx )である。制御部10内の10aは波長差算出手段,10bは第一のユニットの分散係数算出手段,10cは第一のユニット対応のファイバ長算出手段,10dは第二のユニットの分散係数と分散補償量算出手段,10eは分散補償量設定手段である。
【0019】
図1の第1の原理構成では,光伝送路の一つの周波数(λb )を使用して運用中のユニットである第一のユニット1Bに対し,同じ光伝送路で別の周波数(λa)を用いた第二のユニット1Aを設けるものとする。この場合,制御部10において波長差算出手段10aにおいて,基準データ保持部100の中の基準波長(λ)と第一のユニット1Bの波長(λb)との差(λ−λb)を求める。次に第一のユニット分散係数算出手段10bにおいて,波長差(λ−λb)と基準データのスロープ値(dx)を乗算して,分散値の補正値を求め,基準波の分散係数(d)を前記補正値で補正(加算または減算)して,第一のユニット1Bの分散係数(db)を求める。次に第一のユニット対応のファイバ長算出手段10cにおいて上記の演算により求めた第一のユニット1Bの分散係数(db)と分散補償量(Dis-b)を用いてDis-b/db の演算を行うことで分散係数に対応するファイバ長(L)を求める。続いて,第二のユニット1Aの分散係数と分散補償量算出手段10dにおいて,最初に第二のユニット1Aの周波数(λa)と基準波長(λ)との差を求め,その差にスロープ値(dx)を乗算して分散係数の差(Δd)を求めて,基準波の分散係数(d)に前記の分散係数の差(Δd)を加算して,第二のユニット1Aの分散係数(d+Δd)を求め,更にその分散係数に上記ファイバ長(L)を乗算することで分散補償量(Dis-a)を算出する。算出した分散補償量は分散補償量設定手段10eにより可変分散補償器12に初期の分散補償量として設定される。分散補償量の初期値が可変分散補償器12に設定された後,その値を中心として両側(±の値)におけるエラー状態(例えば,ビットエラー率)を測定し,エラーが少なくなる補償量に再設定し,それを繰り返して最適な補償量にすることができる。
【0020】
図2は本発明の第2の原理構成を示す図であり,それぞれ異なる波長を使用して分散補償量が設定された2つのユニットである第一の波長を使用する第一の光伝送ユニット(第一のユニットという)と第二の波長を使用する第二の光伝送ユニット(第二のユニットという)が運用されている時に,第一と第二の波長とは異なる第三の波長を使用した第三の光伝送ユニット(第三のユニットという)を増設するための構成である。図中,1Aは第三のユニット(増設ユニット)で使用周波数はλaであり,1Bは運用中の第一のユニット,1Cは運用中の第二のユニットであり,第一のユニット1Bと第二のユニット1Cの使用周波数はそれぞれλb ,λc ,それぞれの設定分散補償量はDis-b,Dis-cである。
【0021】
第三のユニット1A内の10,11,12,13は上記図1の同一符号の各部と同じであり,制御部10には演算を行う手段10f〜10jを備える。なお,この第2の原理構成では上記の第1の原理構成(図1)で使用した基準データ100を使用しない。制御部10内の10fは第一と第二のユニットの波長差算出手段,10gは波長差当りの分散係数算出手段,10hは波長差対応分散量算出手段,10iは第三のユニットの分散補償量算出手段,10jは分散補償量設定手段である。
【0022】
図2の制御部10において,最初に第一と第二のユニットの波長差算出手段10fで第一のユニット1Bの周波数λb と第二のユニット1Cの周波数λc の差(λb −λc )を求める。次に波長差当りの分散係数算出手段10gにより第一と第二のユニットの設定分散補償量の差(Dis-b−Dis-c)を上記の周波数差(λb −λc )で除算することで分散係数を求める。次に波長差対応分散量算出手段10hにより前記の分散係数と,第三のユニット1Aの周波数(λa)と第一のユニット1B(または第二のユニット1C)の周波数(λc )との差(λa −λc )を乗算することにより波長差対応の分散補償量を算出する。次に,第三のユニットの分散補償量算出手段10iにおいて第一のユニットBの設定分散補償量(Dis-b)に波長差対応分散量算出手段10hで求めた分散量を加算して,増設ユニットの分散補償量を算出し,分散補償量設定手段10jにより第三のユニット1Aの可変分散補償器12に対して算出された分散補償量を初期値として設定する。この後,上記図1の場合と同様に,設定した分散補償量の初期値を中心として両側(±の値)のエラー状態を測定して分散補償量を再設定し,最適な分散補償量にする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は波長分割多重の特定の波長による既存の光伝送ユニットを運用している場合に,異なる波長の光伝送ユニットを増設する際に増設ユニットの可変分散補償器の初期の補償量を既存の光伝送ユニットの設定値を利用して自動的に決定して設定することが可能となる。既存の光伝送ユニットが1ユニットの場合及び2ユニット以上に対応した方法及び伝送装置で最適な分散補償量を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図3は実施例のハードウェア構成を示す。図中,2AはWDMの光伝送路に増設される増設ユニット(図1の第二のユニット1A,図2の第三のユニット1Aに対応)であり,20は可変分散補償器,21は受信器,22は制御部である。制御部22内の220はCPUとメモリを備え,可変分散補償器20への補償量設定のための処理を行う処理部,221は既存ユニット(ユニットBまたは/及びユニットC)と通信を行う通信部(図1,図2のインタフェース11に対応),222は受信器21からの信号が入力されて処理を行うクロック抽出・ビットエラーレート(BERで表示)測定部である。2B,2Cは既存ユニット(図1の第一のユニット1B,図2の第一と第二のユニット1B,1Cに対応)である。
【0025】
なお,図3に示す実施例のハードウェア構成では,増設するユニット内の制御部22内に各種の情報や,増設時の演算機能を実行する処理部220を備えているが,複数の光伝送ユニットを備えた光伝送装置全体の共通の処理部(図示省略)において,光伝送ユニットを増設する時の可変分散補償量の演算制御を実行し,算出された可変分散補償量を増設ユニットに供給して設定するようにしてもよい。
【0026】
図4は実施例1のフローチャートであり,上記図1に示す本発明の第1の原理構成に対応する。この実施例1のフローチャートは上記図3に示す構成において,既存ユニット2Bだけが設けられ(2Cが存在しない),その既存ユニット2Bによる1波運用時に2波目の増設ユニット2Aを設ける場合であり,図3の制御部22の処理部220において実行される。
【0027】
ここで,既存ユニット2Bで使用する信号の波長はλb ,この既存ユニット2Bの可変分散補償器への設定分散補償量はDis-bとし,増設ユニット2Aで使用する信号の波長はλa とする。
【0028】
初期状態では,既存ユニット2Bと増設ユニット2Aの何れにも保持情報として,使用する光ファイバの特性である,基準波長(λ[nm]:ナノメートル),分散係数(d[ps/nm/km]:ピコ秒/ナノメートル/キロメートル),及びスロープ値(dx[ps/nm2/km] : ピコ秒/ナノメートル平方/キロメートル)が設定されているものとする(図4のa)。増設ユニット2Aに対して既存ユニット2Bから通信部221を介して信号波長と設定分散量を通知する(図4のb)。増設ユニット2Aでは,これを受け取ると,保持情報及び通知を受けた信号波長λb 及び設定分散補償量Dis-bから,自ユニットの信号波長λa での分散補償量(Dis-a)の算出を行う(図4のS1)。その算出の詳細なフローはS10〜S14に示し,以下に説明する。
【0029】
S10:基準波長と既存ユニットの波長差(=λb −λ)を算出する。
【0030】
S11:算出した波長差(λb −λ)にスロープ値(dx )を乗算して得られた値で,既存ユニット2Bの分散係数(d)を補正する。すなわち,既存ユニット2Bの分散係数=d−((λb −λ)dx )を求める。
【0031】
S12:算出した分散係数と既存ユニット2Bの設定分散量(設定分散補償量)からファイバ長(L)を求める。すなわち,ファイバ長(L)=Dis-b/(d−((λb −λ)dx ))を求める。
【0032】
S13:増設ユニット2Aの自身の分散係数を求め,上記S12で求めたファイバ長(L)から必要とする分散補償量を算出する。すなわち,増設ユニットの波長λa と基準波長λの差(λa −λ)を求め,基準波のスロープ値(dx)と乗算し,基準波の分散係数(d)を係数の差で補正(=d+(λa −λ)dx)する。
【0033】
S14:補正した分散係数で上記ファイバ長(L)に乗算することで,増設ユニット2Aの分散補償量Dis-aが得られる。図4のcはステップS1で行われる計算式を表す。
【0034】
こうして分散補償量Dis-aが求められると,増設ユニット2Aの可変分散補償器(図3の20)に設定される(図4のS2)。この値が初期値として設定されると,上記図3に示す制御部22のクロック抽出・ビットエラーレート(ビット誤り率)測定部222が受信器21から受信した信号についてエラー測定を行うことにより,設定された分散補償量Dis-aの値を前後(±)することによりエラーのない数値となるよう修正される。
【0035】
ここで,実施例1の処理の具体的な例について説明する。
【0036】
使用するファイバの特性により決まる数値は次の通りである。
【0037】
基準波長 1545[nm]
分散係数 16.78[ps/nm/km]
スロープ値 0.055[ps/nm2/km]
既存ユニット2Bの波長(λb)が1550[nm], 設定分散量(Dis-b)が+200ps とし,
増設ユニット2Aの波長(λa)が1600[nm]であるものとする。
【0038】
この場合,上記図4のS10の中の基準波長と既存ユニット2Bの波長差=1550-1545 =5[nm] となる。次に上記S11により波長差5[nm] ×スロープ値0.055[ps/nm2/km]=0.275 が得られ,基準波の分散係数を補正して,16.78[ps/nm/km] −0.275 =16.505[ps/nm/km]という分散係数を得る。続いて上記S12の処理により,S11で算出した分散係数と増設ユニット2Bの分散補償量からファイバ長(L)が,200/16.505=12.12[km] として求められる。続いてS13の処理が行われると,増設ユニット2Aの波長と基準波長との差が,1600-1545 =55[nm]と求められ,55×0.055(スロープ値) =Δ3.025[ps/nm/km] (分散係数の差)が得られ,基準波の分散係数16.78[ps/nm/km] +3.025[ps/nm/km] =19.805[ps/nm/km]が求められる。この数値に上記(3) で求めたファイバ長を乗算し,19.805×12.12 =240[ps] が得られる。
【0039】
図5は実施例2のフローチャートであり,上記図2に示す本発明の第2の原理構成に対応する。この実施例2のフローチャートは,既存ユニットが二つ設けられて2波運用時に2波目を増設する場合であり,3波以上の場合にも同様な手順により,増設する波長の隣接波長情報を利用して分散補償量を算出することができる。図5の場合,図3の構成に示す既存ユニット2Bと既存ユニット2Cを運用している時に,3波目として増設ユニット2Aを設けた場合に,処理フローが制御部22の処理部220において実行される。
【0040】
ここで,既存ユニット2Bで使用する信号の波長はλb ,設定分散量はDis-b,既存ユニット2Cで使用する信号の波長はλc ,設定分散量はDis-cであり,増設ユニット2Aで使用する信号の波長はλa とする。なお,増設ユニット2Aの波長λa は既存ユニット2Bの波長λb と既存ユニット2Cの波長λc の中間の波長とする。
【0041】
初期状態では,既存ユニット2B,2C及び増設ユニット2Aの何れにも保持情報として,使用する光ファイバの特性として,基準波長(λ[nm]:ナノメートル),分散係数(d[ps/nm/km]:ピコ秒/ナノメートル/キロメートル),及びスロープ値(dx[ps/nm2/km] : ピコ秒/ナノメートル平方/キロメートル)が設定されているものとする(図5のa)。増設ユニット2Aに対して既存ユニット2B,2Cから通信部221を介してそれぞれの信号波長と設定分散量を通知する(図5のb,c)。
【0042】
増設ユニット2Aでは,これらを受け取ると,保持情報及び通知を受けたλb ,Dis-b及びλc ,Dis-cより自波長での分散補償量の算出を行う(図5のS1)。ここで実行された処理の詳細はS10〜S13に示され,以下に説明する。
【0043】
S10:最初に既存ユニット2B,2Cの信号波長λb とλc の波長差(λc −λb )を求める。
【0044】
S11:次に既存ユニット2B,2Cの設定分散量の差を波長差で除算して,(Dis-c−Dis-b)/(λc −λb )により分散係数を求める。
【0045】
S12:求めた分散係数から既存ユニット2Bと増設ユニット2Aの波長差での分散量=(Dis-c−Dis-b)×(λa −λb )/(λc −λb )を求める。
【0046】
S13:増設ユニット2Aの分散補償量は既存ユニット2Bの分散補償量に上記ステップS12で求めた波長差での分散量を加算して,Dis-b+{(Dis-c−Dis-b)(λa −λb)/(λc −λb)}により増設ユニット2Aの分散補償量を得る。図5のdは図5のステップS1において実行される計算式を表す。
【0047】
こうして増設ユニット2Aの分散補償量Dis-aが求められると,可変分散補償器に対してDis-aを設定する(図5のS2)。
【0048】
ここで,実施例2の処理の具体的な例について説明する。
【0049】
使用するファイバの特性により決まる数値は次の通りである。
【0050】
基準波長 1545[nm]
分散係数 16.78[ps/nm/km]
スロープ値 0.055[ps/nm2/km]
既存ユニット2Bの波長(λb)が1545[nm], 設定分散量(Dis-b)が+400ps
既存ユニット2Cの波長(λc)が1580[nm], 設定分散量(Dis-b)が+500ps
増設ユニット2Aの波長(λa)が1560[nm]であるものとする。
【0051】
この場合,上記図5のS10により,既存ユニット2Bと既存ユニット2Cの波長差(λc −λb )波長差=1580-1545 =35[nm]が得られる。次に上記図5のS11により(Dis-c−Dis-b)/(λc −λb )=(500 −400 )/(1580 −1545) =100/35=2.857[ps/nm]という分散係数が得られる。次にS12において,S11で得られた分散係数により, 既存ユニット2Bと増設ユニット2Aの波長差での分散量を求める。この場合,2.857 ×(1560 −1545) =42.855[ps]という分散量が得られる。次に図5のS13により既存ユニット2Bの分散補償初期値=400 +43=443[ps] を求めることができる。この分散補償初期値が可変分散補償器に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の原理構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の原理構成を示す図である。
【図3】実施例のハードウェア構成を示す図である。
【図4】実施例1のフローチャートを示す図である。
【図5】実施例2のフローチャートを示す図である。
【図6】提案された技術の説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1A 第二のユニット(増設ユニット)
1B 第一のユニット(既存ユニット)
10 制御部
11 インタフェース
12 可変分散補償器
13 受信器
100 基準データ保持部
100a 基準波長(λ)
100b 分散係数(d)
100c スロープ値(dx )
10a 波長差算出手段
10b 第一のユニットの分散係数算出手段
10c 第一のユニット対応のファイバ長算出手段
10d 第二のユニットの分散係数と分散補償量算出手段
10e 分散補償量設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理する光信号の波長対応の可変分散補償器を含む,各々が異なる波長の光信号を処理する複数の光伝送ユニットを備えて波長分割多重通信が可能な光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法であって,
光伝送路に特有の基準波長,分散係数,スロープ値の各情報を保持し,
第一の波長の光信号を処理する第一の光伝送ユニットが設定分散補償量による運用時に第一の波長とは異なる第二の波長の光信号を処理する第二の光伝送ユニットを増設し,
前記基準波長と前記第一の波長及び第二の波長の波長差をそれぞれ算出し,
前記それぞれの波長差に前記スロープ値を乗算して第一及び第二のユニットの分散係数をそれぞれ算出し,
前記算出した第一の光伝送ユニットの分散係数と前記第一の光伝送ユニットの設定分散補償量からファイバ長を求め,
前記算出した第二の光伝送ユニットの第二の分散係数及び前記ファイバ長から必要とする分散補償量を算出し,
前記算出した分散補償量を初期値として第二の光伝送ユニットの可変分散補償器に設定する,
ことを特徴とする光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法。
【請求項2】
処理する光信号の波長対応の可変分散補償器を含む,各々が異なる波長の光信号を処理する複数の光伝送ユニットを備えた波長分割多重通信が可能な光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法であって,
光伝送路に特有の基準波長,分散係数,スロープ値の各情報を保持し,
第一の波長の光信号を処理する第一の光伝送ユニットと第二の波長の光信号を処理する第二の光伝送ユニットがそれぞれの設定分散補償量による運用時に前記第一の波長及び第二の波長とは異なる第三の波長の光信号を処理する第三のユニットを増設し,
前記第一と第二の波長の波長差を算出し,
前記第一と第二の光伝送ユニットのそれぞれの設定分散補償量の差を算出して算出結果を前記波長差により除算をして係数を求め,
前記係数により前記第一と第二の光伝送ユニットの一方の波長と増設光伝送ユニットの波長差での分散補償量を算出し,
前記第一と第二の光伝送ユニットの一方の設定分散補償量に前記波長差での分散補償量を補正して増設光伝送ユニットの分散補償量を算出し,
前記算出した分散補償量を初期値として可変分散補償器に設定する
ことを特徴とする光伝送装置における光伝送ユニット増設時の分散補償量設定方法。
【請求項3】
処理する光信号の波長対応の可変分散補償器を含む,各々が異なる波長の光信号を処理する複数の光伝送ユニットを備えた波長分割多重通信が可能な光伝送装置において,
光伝送路に特有の基準波長,分散係数,スロープ値の各情報を保持する手段を備え,
第一の波長の光信号を処理する第一の光伝送ユニットが設定分散補償量で運用中に,前記第一の波長とは異なる第二の波長を処理する第二の光伝送ユニットは,
前記基準波長と前記第一の波長と第二の波長の波長差を算出する手段と,
前記波長差に前記スロープ値を乗算して前記第一及び第二のユニットの分散係数をそれぞれ算出する手段と,
前記算出する手段で求めた分散係数と既存ユニットの分散補償量からファイバ長を求める手段と,
自伝送ユニットの分散係数を求め,前記ファイバ長に必要とする分散補償量を算出する手段と,
算出した前記分散補償量を初期値として第三の光伝送ユニットに設定する手段と,
を備えることを特徴とする波長分割多重通信が可能な光伝送装置。
【請求項4】
処理する光信号の波長対応の可変分散補償器を含む,各々が異なる波長の光信号を処理する複数の光伝送ユニットを備えた波長分割多重通信が可能な光伝送装置において,
光伝送路に特有の基準波長,分散係数,スロープ値の各情報を保持する手段を備え,
第一の波長の光信号を処理する第一の光伝送ユニットと第二の波長の光信号を処理する第二の光伝送ユニットがそれぞれの設定分散補償量による運用時に前記第一の波長及び第二の波長とは異なる第三の波長の光信号を処理する第三の光伝送ユニットは,
前記第一と第二の波長の波長差を算出する手段と,
前記第一と第二の光伝送ユニットのそれぞれの設定分散補償量の差を算出して算出結果を前記波長差により除算をして係数を求める手段と,
前記係数により前記第一と第二の光伝送ユニットの一方の波長と増設光伝送ユニットの波長差での分散補償量を算出する手段と,
前記第一と第二の光伝送ユニットの一方の設定分散補償量に前記波長差での分散補償量を補正して増設光伝送ユニットの分散補償量を算出する手段と,
前記算出した分散補償量を初期値として可変分散補償器に設定する手段と, を備えることを特徴とする波長分割多重通信が可能な光伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−228002(P2008−228002A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64484(P2007−64484)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】