説明

光分配器

【課題】簡便な構造で、入射光を分岐させる光分配器を提供すること。
【解決手段】本発明は、遮光膜31と、遮光膜31に形成された単一の開口部32とを備え、開口部32の長手方向の寸法は、分配する光の波長のn倍(nは2以上の整数)であり、遮光膜31の一方の表面に光を入射することで開口部32内に形成される複数の集光点に対応する位置に、光電変換素子34が設けられた光分配器30である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分配器に関し、特に、単一の出力端から複数の出力を得る光分配器に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの光路を伝搬する光のパワーを複数の光路に分岐する光学素子を有する光分配器が光通信分野などで使われている。例えば、平面光導波路回路において、光を複数の導波路に分配するための構造として、Y字型の光導波路を用いたY分岐型(図7参照)、方向性結合器型(図8参照)がこれまで多く使用されてきた。しかしながら、Y分岐型の導波路回路も、方向性結合型の導波路回路も、デバイス特性面においてデバイス構造・材質・寸法への依存度が大きく、作成誤差に対するトレランスが弱いという問題点があった。このため、デバイスの製作が容易ではなく、作成誤差が生じた場合には光出力の損失が大きくなるという問題点があった。
【0003】
こうした問題点を改善するため、近年においては、多モード干渉導波路(以下「MMI(Multi−Mode Interferometer)」と記す)(図9参照)が多く用いられるようになってきている。特に、MMI光分岐素子は、特許文献1で述べられているように、低損失性や作製容易性等の特長とし、近年では広く用いられるようになっている。
【0004】
しかしながら、MMIでは、低損失性を確保しようとした場合に、回路の小型化が難しくなるという欠点があった。例えば、入出力導波路の分岐数が多くなると、MMI幅(コア幅)を大きくし、導波路長も長くする必要があったため、回路を大きくせざるを得なかった。
【0005】
そこで、最近では、低損失性と回路の小型化の両立を実現するべく、いくつかの技術が提案されてきている。
【0006】
例えば、複数の光入力部/光出力部を有するMMIで構成された光合分波回路において、最も外側に配置された光入出力導波路から、該多モード干渉導波路の導波方向と同方向に沿った縁までの間隔を、該光入出力導波路の間隔より狭く構成する構成、または入出力導波路の縁部とMMI導波路の縁部をほぼ一致させた構成をとることで、光合分波回路を小型化する技術が提案されている(特許文献1)。特許文献1の発明によれば、光導波路を伝わる光波を低損失で合波または分波する小型の光合分波回路を提供することができる。
【0007】
さて、このように平面光導波路回路において光を分岐させる場合に、低損失性と回路の小型化の両立を実現する技術が提案されてきてはいるものの、特許文献1に記載された発明では、基板面に対して垂直方向から光が入射される場合については想定されておらず、基板面に対して垂直方向から入射される光を分岐させることはできなかった。
【0008】
特許文献1にみられる平面光導波路回路に適した光分岐素子の構造は、フォトリソグラフィなどの手法を用いることによって、基板上で比較的簡単に形成することができる。しかしながら、この形成された光分岐素子の構造を用いて、基板面に対し垂直方向から入射される光を分岐させることは困難であった。
【0009】
基板面に対し垂直方向から入射される光を分岐させるためには、一般的に、光路上にスプリッタや収束レンズ等を設ける必要があったため、回路の構造が必要以上に複雑化し、製作コストの面でも無駄が生じていた。
【0010】
ここで、収束レンズの機能に関しては、近年、次のような技術が提案されている。
【0011】
特許文献2には、表面プラズモン増幅光透過を利用して、基板面に対して垂直方向から入射される光を微小な領域に集光する技術が開示されている。特許文献2の発明によれば、プラズモン増幅デバイスと表面プラズモンとの相互作用により、アパチャーの開口部を透過する透過光の強度を実質的に増強することが可能となる。特許文献2の発明では、大きな収束レンズ等を利用せずに、小型の光回路を利用して、基板面に対し垂直方向から入射される光を特定の領域に集光することができる。これにより、前述した回路配置上の制約の一部を克服している。
【特許文献1】特開平10−160951号公報
【特許文献2】特開2001−291265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、こうした技術が提案されてきているものの、分岐素子を実現し、その構造をより簡便化・低コスト化していくうえで、さらなる障壁があった。その障壁とは、単一の開口から複数の集光点を得ることができないことである。
【0013】
例えば、垂直方向からの光を受けて複数の集光点を得ようとした場合、特許文献2の発明を含む従来の技術においては、収束レンズの機能は有するものの、スプリッタの機能は有していなかった。この為、基板面に対し垂直方向から入射される光を分岐させるためには、図10に示されるように、垂直方向からの光をまず分岐構造(スプリッタ)により分岐し、次に二つ横に並べた光回路に照射し、それぞれ集光する必要があった。このため、必要なフットプリント(光回路の面積)の面積も大きくなった。このように、複数の出力光を得たい場合には、回路の構造が複雑化・大型化し、製作コストも嵩む結果となっていた。
【0014】
従って、本発明が解決しようとする課題は、簡便な構造で、入射光を分岐させる光分配器を提供することにある。
【0015】
さらに、本発明が解決しようとする課題は、この光分配器を用いて、入射光を、複数の出力端において電気信号に変換する機能を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための第1の発明は、遮光膜と、前記遮光膜に形成された開口部とを備え、前記開口部の長手方向の寸法が、分配する光の波長のn倍(nは2以上の整数)であることを特徴とする光分配器である。ここで、n倍(nは2以上の整数)とは、数学的に厳密な意味での整数倍に限らず、例えば±10%以内の範疇のものであれば、整数倍の場合と同様な効果が得られたことから、本発明ではこのような場合をもn倍(整数倍)と考える。
【0017】
上記課題を解決するための第2の発明は、光分配器であって、上記第1の発明において、前記開口部がスリット形状であることを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するための第3の発明は、光分配器であって、上記第1の発明または上記第2の発明において、前記開口部の側部における前記遮光膜の光入射側の表面又は裏面の少なくとも一方の面には溝が設けられてなることを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するための第4の発明は、光分配器であって、上記第3の発明において、前記溝が前記開口部の両側に設けられてなることを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するための第5の発明は、光分配器であって、上記第3の発明又は第4の発明において、前記溝が前記開口部を囲む環状溝であることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するための第6の発明は、光分配器であって、上記第3の発明から第5の発明のいずれかにおいて、前記開口部の少なくとも片側に溝が複数設けられてなり、(前記複数の溝の間の距離)<(光の波長)又は(前記複数の溝の間の距離)=(光の波長)であるよう構成されてなることを特徴とする
【0022】
上記課題を解決するための第7の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第5の発明のいずれかにおいて、前記開口部によって形成される複数の集光点に対応して光電変換素子が設けられてなることを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するための第8の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第7の発明のいずれかにおいて、前記遮光膜が金属膜であることを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決するための第9の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第8の発明のいずれかにおいて、前記遮光膜が導電性膜であることを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決するための第10の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第9の発明のいずれかにおいて、前記遮光膜に対して垂直方向に入射される光が分配されるものであることを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決するための第11の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第10の発明のいずれかにおいて、前記遮光膜の厚さが、入射光の定在波の半波長のm倍(mは自然数)であることを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決するための第12の発明は、光分配器であって、上記第1の発明から第11の発明のいずれかにおいて、前記遮光膜の一方の表面に光を入射したときに、前記遮光膜の他方の表面の前記開口部に形成される複数の集光点を光出力端とするよう構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡便な構造で、入射された光を複数の光出力に分岐させる光分配器を提供することができる。その理由は、本発明の光分配器が、遮光膜と、前記遮光膜に形成され、長手方向の寸法が分配する光の波長のn倍(nは2以上の整数)である開口部とを備えているからである。
【0029】
また、本発明によれば、この光分配器を用いて、遮光膜の面に入射された光を、複数の集光点の出力端において電気信号に変換する光電変換機能を提供することができる。その理由は、遮光膜の一方の表面に光を入射することで開口部に形成される複数の集光点に対応して光電変換素子が設けられているからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の第1の実施の形態について、本発明の第1の実施の形態の光分配器の構造を図1を用いて説明する。尚、図1(a)は光分配器の平面図、図1(b)は図1(a)のA−A’線断面図である。
【0031】
10は本発明の光分配器である。光分配器10は、図1に示されるように、遮光膜(金属膜あるいは導電膜で構成)11と、遮光膜11に形成された長方形状の開口部12とを有する。好ましくは、遮光膜11に溝13が形成されている。すなわち、開口部12の長手方向の辺と平行で、かつ、開口部12の両側に、更には一定間隔を置いて、複数の溝13が形成されている。尚、遮光膜11の主面と平行に基板(図示せず)が設けられており、この基板に光分配器10が固定されている。
【0032】
遮光膜11は金属膜あるいは導電性を有する膜である。遮光膜11の厚さは、開口部を除く部分が、入射光の使用する波長において不透明とみなせる程度であればよい。また、遮光膜11の厚さを入射光の波長の1/2の整数倍(m倍)の長さとなるようにしていると、開口部12における光透過率(強度)が増加するので好ましい。すなわち、開口部を導波管と考えると、両端に定在波の「腹」が位置するような厚さに遮光膜を設定していると好都合である。但し、前述の整数倍(m倍)とは、数学的に厳密な意味での整数倍に限らず、例えば±10%以内の範疇のものであれば、整数倍の場合と同様な効果が得られたことから、本発明ではこのような場合をもm倍(整数倍)と考える。
【0033】
開口部12は、遮光膜11を貫通して設けられた単一の開口部である。開口部の形状はスリット形状である。特に、例えば長方形状である。開口部の長手方向の寸法は、入射光の波長のn倍(nは2以上の整数倍)である。例えば、2倍である。
【0034】
溝13は、集光点の電場強度を強めるために、開口部12の両側に設けられた矩形状の溝(凹状溝)である。溝13は、開口部12の両側に開口部の長辺方向と平行に、遮光膜11の表面に直線状に、さらには一定間隔を置いて、複数設けられている。複数の溝13を刻設する周期(複数の溝間の間隔)は、対象光の波長よりも2〜7%程度小さな値に設定することが望ましい。このように溝13を設けることで集光点の電場強度が強めることができる理由は以下の通りである。
【0035】
金属膜である遮光膜11の表面に周期的な凹状溝が設けられていると、入射光は、遮光膜11の表面に表面プラズモンを励起する。このとき、入射光は、遮光膜11の表面に励起された表面プラズモンと結合し、この結合した状態(表面プラズモンポラリトン)で遮光膜の表面を波として伝播する。溝13が複数あると、複数の溝13で生じたそれぞれの波が開口部で足し合わさり、開口部分の強度が強まる。もしこれが、表面が平滑な膜であれば、遮光膜上の開口部以外に照射された光は、遮光膜11で反射してしまい、集光点の強度を強めることができない。
【0036】
さらに、溝13を遮光膜11の光入射面の裏面に設けておくと、より効果的である。入射された光が開口部を通り遮光膜の裏面に抜けてくると、開口部の出口で散乱されるが、遮光膜(金属膜)の裏面に周期的な凹状溝を設けることで、散乱された光によって裏面にも表面プラズモンが励起されるからである。
【0037】
次に、上記のように構成させた光分配器10のシミュレーション結果について、図1に加え、光出力端における電場分布図である図2及び図3を適宜用いて説明する。尚、図2(a),(b)及び図3(a),(b)では、光の強度を電場強度に変換することで、遮光膜上の各位置における光の強さを測定している。
【0038】
以下に、有限差分時間領域法を用いた計算機シミュレーションにより、スリット開口の電場分布について調べた結果を示す。
【0039】
尚、入射光の波長は640nm、ビーム径は3μm(ガウシアンプロファイル)であり、遮光膜11は厚さ240nmの銀の膜である場合を例に挙げて説明する。開口部12については、長手方向の寸法(以後、スリット長ともいう)が600nmであり、短手方向の寸法(以後、スリット幅ともいう)は150nmであるものとする。入射光は直線偏光であり、電場振動方向がスリット幅方向であるとする。溝13は、図1に示されるように、開口部12の両側に開口部の長辺方向と平行に、遮光膜11の表面に直線状に、更には一定間隔を置いて複数設けられている。その間隔(刻設周期)は600nmであり、Duty比は0.5、溝の深さは60nmであるものとする。
【0040】
光が遮光膜11に対して垂直方向から入射されると、図2に示されるように開口部12には一つの集光点が生じる。図2(a)は、遮光膜上のE−E’で見た場合の電場強度の変化を表すグラフであり、図2(b)は、遮光膜上のD−D’で見た場合の電場強度の変化を表すグラフでる。一つの集光点で電場強度が最大(輝度最大)となっていることがわかる。
【0041】
次に、他の条件を変えずにスリット長を1.2μmと波長のほぼ2倍にすると、図3に示されるように、単一の開口部12の内部に二つの集光点が生じる。図3(a)は、遮光膜上のG−G’で見た場合の電場強度の変化を表すグラフであり、図3(b)は、遮光膜上のF−F’で見た場合の電場強度の変化を表すグラフである。それぞれの集光点で電場強度が最大(輝度最大)となっていることがわかる。
【0042】
図6は、光出力端の電場強度(縦軸)とスリット長(横軸)との関係を示すグラフである。図6から、スリット長に対して周期的に強い電場強度が得られることが判る。特に、強い電場強度が得られるスリット長の長さは入射光波長の整数倍である。但し、図2及び図3を併せて考察すると、集光点の数が増加するにつれて、ピーク値における電場強度は低下する。
【0043】
上記第1の実施の形態では、開口部の長手方向の寸法を入射光の波長の2倍とし、単一の開口部の内部に二つの集光点を生じるよう構成させたが、開口部の長手方向の寸法を入射光の波長の3倍とすることで3つの集光点を生じるようにしてもよい。
【0044】
上記第1の実施の形態においては、光分配器は、遮光膜を貫通して設けられ単一の開口部を有し、該開口部の長手方向の寸法が、入射された光の波長のn倍(nは2以上の整数)であるように構成させたので、簡便な構造(単一の開口部)で、入射された光を分岐させることができる。
【0045】
さらに、光分配器は、遮光膜を貫通して設けられ単一の開口部を有し、該開口部の長手方向の寸法が、入射された光の波長のn倍(nは2以上の整数)であるように構成させたので、簡便な構造(単一の開口部)で、基板面に対し垂直方向から入射された光を分岐させることができる。
【0046】
尚、上記第1の実施の形態では、遮光膜の面に対して垂直方向から光を入射させたが、必ずしも垂直方向から光を入射させる必要はない。例えば、遮光膜の面に対して60度の角度から光を入射させてよいし、45の角度から入射させてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態においては、開口部が長方形状であるものとして説明したが、スリット形状であればよく、必ずしも長方形状である必要はない。すなわち、ほぼスリット形状であれば開口部の角部は面取りされていてもよいし、菱形に近い形であってもよい。
【0048】
また、上記実施の形態においては、溝13として、遮光膜表面に直線状に一定間隔で複数形成されたもので説明したが、形成される溝の数は一つであっても構わない。また、溝13は、開口部12の両側に設けられた矩形状の溝であるとして説明したが、溝は凹状であればよい。例えば、凹状であれば、U字型であってもよい。なお、必ずしも矩形状である必要はない。
【0049】
また、上記実施の形態においては、開口部の両側(左右)に溝を形成する場合を例にとって説明したが、入射光と遮光膜表面で励起された表面プラズモンとの結合波が開口部で合わさるよう溝を設けておくことで、開口部の片側だけに溝を形成する場合であっても、一定の効果を得ることは可能である。
【0050】
また、上記実施の形態においては、遮光膜の光入射側の表面に溝を形成する場合を例にとって説明したが、光入射側の裏面にのみに溝を形成した場合であっても、集光点の電場強度を強めることができる。光入射側表面に加えて光入射側の反対側表面にも溝を形成しておくと、一層効果的である。
【0051】
尚、開口部12の長手方向の寸法(スリット長)は入射光の波長のn倍(整数倍)である。但し、数学的に厳密な意味での整数倍に限らず、例えば±10%以内の範疇のものであれば、整数倍の場合と同様な効果が得られたことから、本発明ではこのような場合をもn倍(整数倍)と考える。
【0052】
次に、第2の実施の形態について、本発明の第2の実施の形態の光分配器の構造を示す図である図4を用いて説明する。図4(a)は光分配器の平面図、図4(b)は図4(a)のB−B’線における断面図である。
【0053】
20は本発明の光分配器である。光分配器20は、図4に示されるように、金属膜あるいは導電性を有する膜である遮光膜21と、遮光膜21に形成された長方形状の開口部22と、溝23とを有する。尚、遮光膜21と平行に基板があり、この基板面に光分配器20が取り付けられている。尚、遮光膜21及び開口部22の構成は、第1実施形態のものと同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
遮光膜21に設けられた溝23は、直線と円弧とが組み合わさった環状(楕円状)の溝である。特に、開口部22を囲むように設けられている。更には、溝23は複数個設けられている。しかも、同心状的に設けられている。この複数設けられている溝23の間の距離は第1実施形態のもので述べた通りである。
【0055】
次に、上記のように構成させた光分配器20のシミュレーション結果について図4を用いて説明する。尚、第1の実施の形態と同様、有限差分時間領域法を用いた計算機シミュレーションによりスリット開口の電場分布について調べるものとし、入射光の種類・波長、遮光膜の種類・厚さ等のシミュレーションの条件も、上述した第1の実施の形態と同様であるものとする。
【0056】
光が遮光膜21に対して垂直方向から入射されると、開口部22には一つの集光点が生じる。
【0057】
次に、他の条件を変えずにスリット長を1.2μmと波長のほぼ2倍にすると、単一の開口部22の内部に二つの集光点が生じる。さらに、スリット長を長くしていくと、第1の実施の形態の場合と同様に、周期的に強い電場強度が得られ、集光点の数も一つずつ増加する。
【0058】
上記第2の実施の形態においては、光分配器の遮光膜に、開口部を囲むように環形状の溝を設けたので、より集光効率が高まる。すなわち、本実施形態で得られた電場強度は、第1実施形態で得られた電場強度よりも強い。従って、溝は、本実施形態のような環状のものが好ましい。
【0059】
尚、上記実施の形態においては、環形状の溝を形成する場合を例にとって説明したが、入射光と遮光膜表面で励起された表面プラズモンとの結合波が開口部で合わさるよう溝を設けておくのであれば、環形状の溝の一部が欠けた形状の溝を形成する場合であっても、一定の効果を得ることは可能である。
【0060】
次に、第3の実施の形態について、本発明の第3の実施の形態の光分配器の構造を示す図である図5を適宜用いて説明する。図5(a)は、光分配器の平面図、図5(b)は、図5(a)におけるC−C’線断面図である。
【0061】
30は本発明の光分配器である。光分配器30は、図5に示されるように、金属膜あるいは導電性を有する膜である遮光膜31と、遮光膜31に形成された長方形状の開口部32と、溝33とを有する。尚、遮光膜31と平行に基板があり、この基板に光分配器30が取り付けられている。また、開口部32に形成される複数の集光点のそれぞれに対応する位置に光電変換素子34を有する。遮光膜31、開口部32、溝33の構成は、第1実施形態のものと同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0062】
光電変換素子34は、光を電気エネルギーに変換する素子であり、入射光の強さに応じた電気出力を発生させる。
【0063】
また、光電変換素子34は、光分配器の開口部32に形成される複数の集光点に対応する位置に設ける。すなわち、遮光膜の他方の表面の開口部32に形成される複数の集光点を光出力端とみなし、それぞれの光出力端に対応する位置に光電変換素子34を設ける。一つの集光点には、一つの光電変換素子34を設置することが望ましい。
【0064】
さらに、光電変換素子34の半導体材料は、入射光の波長に応じて効率的に光を吸収する半導体材料で構成することが望ましい。例えば、波長が可視光帯の場合には、シリコン等の半導体材料で構成するとよい。一方で、光通信には一般的に1.3〜1.55μmの波長が使われるが、この帯域の波長はシリコンを透過してしまうので、よりバンドギャップの小さい半導体材料を用いることが望ましい。また、光電変換素子34は、小型かつ低コストで、光電変換効率、応答速度の面で優れた素子構造を選択することが望ましい。例えば、pn接合やショットキー接合等を用いた素子構造を選択することは、変換効率や応答速度の観点から好都合である。
【0065】
次に、上記のように構成させた光分配器30のシミュレーション結果について説明する。
【0066】
ここでは、入射光の種類・波長、遮光膜の種類・厚さ等は、第1の実施の形態と同様であるとする。また、スリット長を1.2μmと波長のほぼ2倍とし、単一の開口部32の内部に二つの集光点を生じさせたものとして説明する。
【0067】
また、光電変換素子34は、開口部によって形成された二つの集光点に対応して、光電変換素子が計二つ設けられているものとする。
【0068】
まず、光が遮光膜31に対して垂直方向から入射されると、実施形態1と同様に開口部32には一つの集光点が生じる。
【0069】
次に、他の条件を変えずにスリット長を1.2μmと波長のほぼ2倍にすると、実施形態1と同様に単一の開口部32の内部に二つの集光点が生じる。
【0070】
そして、この入射された光は、形成された二つの集光点のそれぞれに対応する位置に設けられた光電変換素子34によって電気信号へと変換される。
【0071】
上記第3の実施の形態においては、開口部によって形成される二つの集光点に対応して光電変換素子が設けられているので、複数の光分岐部を設けることなく簡便な構造で、入射された光を、複数の集光点の出力端において電気信号に変換する光電変換機能を提供することができる。
【0072】
上記実施の形態においては、光電変換素子として半導体材料を用いた場合を例にとって説明したが、光を受けて電気信号を取り出すことができる材料であれば半導体材料以外を光電変換素子として用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1の実施の形態の光分配器の構造図
【図2】光出力端の電場分布(計算機シミュレーション)図
【図3】光出力端の電場分布(計算機シミュレーション)図
【図4】本発明の第2の実施の形態の光分配器の構造図
【図5】本発明の第3の実施の形態の光分配器の構造図
【図6】光出力端の電場強度(計算機シミュレーション)とスリット長との関係図
【図7】平面光導波路回路で使用するY字型の光導波路を用いた光分配器の構造図
【図8】平面光導波路回路で使用する方向性結合器を用いた光分配器の構造図
【図9】平面光導波路回路で使用する多モード干渉導波路を用いた光分配器の構造図
【図10】従来における複数の光出力端の製作例図
【符号の説明】
【0074】
10 光分配器
11 遮光膜
12 開口部
13 溝
20 光分配器
21 遮光膜
22 開口部
23 溝
30 光分配器
31 遮光膜
32 開口部
33 溝
34 光電変換素子
40 光導波回路
50 光導波回路
60 光導波回路
特許出願人 日本電気株式会社
代理人 宇高 克己

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光膜と、
前記遮光膜に形成された開口部と
を備え、
前記開口部の長手方向の寸法が、分配する光の波長のn倍(nは2以上の整数)である
ことを特徴とする光分配器。
【請求項2】
前記開口部はスリット形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の光分配器。
【請求項3】
前記開口部の側部における前記遮光膜の光入射側の表面又は裏面の少なくとも一方の面には溝が設けられてなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の光分配器。
【請求項4】
前記溝は前記開口部の両側に設けられてなる
ことを特徴とする請求項3に記載の光分配器。
【請求項5】
前記溝は前記開口部を囲む環状溝である
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の光分配器。
【請求項6】
前記開口部の少なくとも片側に溝が複数設けられてなり、(前記複数の溝の間の距離)<(光の波長)又は(前記複数の溝の間の距離)=(光の波長)であるよう構成されてなる
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の光分配器。
【請求項7】
前記開口部によって形成される複数の集光点に対応して光電変換素子が設けられてなる
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の光分配器。
【請求項8】
前記遮光膜は金属膜である
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の光分配器。
【請求項9】
前記遮光膜は導電性膜である
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の光分配器。
【請求項10】
前記遮光膜に対して垂直方向に入射される光が分配されるものである
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の光分配器。
【請求項11】
前記遮光膜の厚さは、入射光の半波長のm倍(mは自然数)である
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の光分配器。
【請求項12】
前記遮光膜の一方の表面に光を入射したときに、前記遮光膜の他方の表面の前記開口部に形成される複数の集光点を光出力端とするよう構成されてなる
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の光分配器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−96781(P2010−96781A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342642(P2006−342642)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】