説明

光受信回路

【課題】光受信回路において、チップ実装に要する工程を削減しつつ、良好な周波数特性を得る。
【解決手段】受光素子11と接続されるTIAチップ20の上面に形成されたグランドバッド24を、ボンディングワイヤ54を介して、PDサブマウント10の上面に形成されてグランド電位と接続されているグランドバッド14と接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信技術に関し、特に高速な光信号を電気信号に変換する光受信回路の実装技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムに求められる伝送速度は年々増加しており、高速な光信号を電気信号に変換する光受信回路をより広帯域かつ安定に動作させると同時に、多チャンネルの光信号を一つの光受信回路で一括して電気信号に変換する技術に対する要求が高まっている。
【0003】
光受信回路は、光信号を電気信号に変換する受光素子と、入力電流を増幅して電圧に変換した電気信号を出力するトランスインピーダンスアンプ(TIA)などからなる。高速光通信用の受光素子にはフォトダイオード(PD)を用いるのが一般的であるが、複数のPDを一つのチップに集積化することにより、一つのPDチップで多チャンネルの光信号を電気信号に変換することが出来る。また、複数の入出力信号端子を備えるTIAを用いることにより、一つのTIAチップで多チャンネルの入力電流を増幅して電圧に変換した電気信号を出力することが出来る(例えば、非特許文献1など参照)。
【0004】
図5は、従来の光受信回路の実装例を示す平面図である。図6は、従来の光受信回路の実装例を示す断面図である。ここでは、多チャンネルの光信号を入力して多チャンネルの電気信号を出力する光受信回路に用いられるPDの実装形態が示されている。図5,図6において、PDチップ11を搭載したPDサブマウント10、TIAチップ20、および複数のチップコンデンサ30が、それぞれキャリア40上にマウントされている。
【0005】
PDチップ11は、アレイ化した4つのPD素子を備えており、4チャンネルの光信号を電気信号に変換する。PDサブマウント10は、PDチップ11をダイボンディングにより搭載するための部品であり、電気信号を外部に出力するためのシグナルパッド12,13を備えている。
【0006】
TIAチップ20は、4系統の増幅回路を備え、電源・制御・モニタを行うための電源・制御・モニタパッド21、電気信号を外部から入力するためのシグナルパッド22、電気信号を外部に出力するためのシグナルパッド23、およびグランドパッド24を備えている。
チップコンデンサ30は、交流成分と直流成分を分離し、直流電圧を外部からPDに印加するために用いられる部品である。
【0007】
ボンディングワイヤ52は、PDサブマウント10のシグナルパッド12とTIA20のシグナルパッド22との間の電気的接続に用いられる。
ボンディングワイヤ53は、PDサブマウント10のシグナルパッド13とチップコンデンサ30との間の電気的接続に用いられる。
ボンディングワイヤ55は、TIA20のグランドパッド24とキャリア40のグランド電位との間の電気的接続に用いられる。
【0008】
図5および図6に示すように、TIAチップ20上の複数のシグナルパッド22の間にグランドパッド24が挟まれている場合、ボンディングワイヤ55を用いてグランドパッド24をキャリア40のグランド電位と接続するためには、PDサブマウント10とTIAチップ20の間に隙間50を設ける必要があり、この隙間50は、ワイヤボンディング装置のキャピラリツールと干渉しない程度に十分広くする必要がある。そのため、PDサブマウント10とTIAチップ20のシグナルパッド22とを接続するボンディングワイヤ52は、隙間50の広さよりも長くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】MAKIUCHI M. ; NORIMATSU M. ; SAKURAI C. ; KONDO K. ; YAMAMOTO N. ; YANO M., "Flip-chip planar GaInAs/InP p-i-n photodiodes : fabrication and characteristics", Journal of lightwave technology, vol. 13, no. 11, pp. noveember 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような従来技術を用いて光受信回路を構成した場合、上述のようにPDサブマウント10のシグナルパッド12とTIA20のシグナルパッド22とを接続するボンディングワイヤ52が長くなるという問題があった。そのため、ボンディングワイヤ52で生じるワイヤインダクタンスが大きくなり、周波数特性に悪影響を与えるという課題があった。
また、ワイヤ長に依存してインダクタンス量が変化し、インダクタンス量によって周波数特性が変化する。したがって、安定した周波数特性を得るためには、PDサブマウント10とTIAチップ20と間の隙間50を、実装時に正確に制御しなければならず、チップ実装に要する工程が増大するという課題があった。
【0011】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、チップ実装に要する工程を削減しつつ、良好な周波数特性が得られる光受信回路の実装技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような目的を達成するために、本発明にかかる光受信回路は、受光素子を搭載するサブマウントと、このサブマウントに隣接配置されて受光素子で得られた電気信号を増幅出力するトランスインピーダンスアンプを有するTIAチップとを備え、TIAチップの上面に形成されたグランドバッドを、ボンディングワイヤを介して、サブマウントの上面に形成されてグランド電位と接続されているグランドバッドと接続するようにしたものである。
【0013】
この際、サブマウントおよびTIAチップを隣接して搭載するキャリアをさらに備え、サブマウントに、TIAチップと隣接する側面の一部または全部をメタライズして形成した側面メタライズと、当該サブマウントの底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズとを設け、サブマウントのグランドバッドを、側面メタライズおよび底面メタライズを通じて、キャリアのグランド電位に接続するようにしてもよい。
【0014】
また、サブマウントおよびTIAチップを隣接して搭載するキャリアをさらに備え、サブマウントに、TIAチップと隣接する側面に形成した側面スルーホールと、当該サブマウントの底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズとを設け、サブマウントのグランドバッドを、側面スルーホールおよび底面メタライズを介して、キャリアのグランド電位に接続するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、PDサブマウントとTIAチップの間の隙間が不要になる。このため、PDサブマウントのシグナルパッドとTIAチップのシグナルパッドを接続するボンディングワイヤの長さを短くすることが可能となる。したがって、ボンディングワイヤで生じるワイヤインダクタンスの量を低減することができ、結果として、広帯域の受光回路を実現することが可能になる。また、PDサブマウントとTIAチップの間の隙間の調整が不要になることから、チップ実装に要する工程を削減しつつ、良好な周波数特性を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態にかかる光受信回路の実装例を示す平面図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる光受信回路の実装例を示す断面図である。
【図3】第1の実施の形態にかかるPDサブマウントの構造例である。
【図4】第2の実施の形態にかかるPDサブマウントの構造例である。
【図5】従来の光受信回路の実装例を示す平面図である。
【図6】従来の光受信回路の実装例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる光受信回路100について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる光受信回路の実装例を示す平面図である。図2は、第1の実施の形態にかかる光受信回路の実装例を示す断面図である。
【0018】
この光受信回路100は、多チャンネルの光信号を入力して多チャンネルの電気信号を出力する光受信回路であり、入力電流を増幅して電圧に変換した電気信号を出力するトランスインピーダンスアンプ(TIA)などから構成されている。高速光通信用の受光素子にはフォトダイオード(PD)を用いるのが一般的であるが、複数のPDを一つのチップに集積化することにより、一つのPDチップで多チャンネルの光信号を電気信号に変換することが出来る。また、複数の入出力信号端子を備えるTIAを用いることにより、一つのTIAチップで多チャンネルの入力電流を増幅して電圧に変換した電気信号を出力することが出来る。
【0019】
図1および図2に示すように、この実装例では、PDチップ11を搭載したPDサブマウント10、TIAチップ20、および複数のチップコンデンサ30が、それぞれキャリア40上にマウントされている。
【0020】
PDチップ11は、アレイ化した、例えば4つのPD素子を備えており、4チャンネルの光信号を電気信号に変換する。PDサブマウント10は、PDチップ11をダイボンディングにより搭載するための部品である。本実施の形態では、PDサブマウント10のパッドとして、電気信号を外部に出力するためのシグナルパッド12,13に加えて、TIAチップ20に形成されたグランドパッド24のうち、PDサブマウント10と隣接するグランドパッド24と対向する位置に、キャリア40のグランド電位と接続されているグランドパッド14が追加されている。
【0021】
TIAチップ20は、例えば4系統の増幅回路を備え、上面周部に、電源・制御・モニタを行うための電源・制御・モニタパッド21、電気信号を外部から入力するためのシグナルパッド22、電気信号を外部に出力するためのシグナルパッド23、およびグランドパッド24を備えている。
チップコンデンサ30は、交流成分と直流成分を分離し、直流電圧を外部からPDに印加するために用いられる部品である。
【0022】
ボンディングワイヤ52は、PDサブマウント10のシグナルパッド12とTIA20のシグナルパッド22との間の電気的接続に用いられる。
ボンディングワイヤ53は、PDサブマウント10のシグナルパッド13とチップコンデンサ30との間の電気的接続に用いられる。
ボンディングワイヤ55は、TIA20のグランドパッド24とキャリア40のグランド電位との間の電気的接続に用いられる。
【0023】
本実施の形態では、これらボンディングワイヤ52,53,55に加えて、TIA20のグランドパッド24とPDサブマウント10のグランドパッド14との間の電気的接続に用いられるボンディングワイヤ54が追加されている。
【0024】
図3は、第1の実施の形態にかかるPDサブマウントの構造例である。このPDサブマウント10は、シグナルパッド12、ダイボンディングパッド12D、グランドパッド14、側面メタライズ10A、および底面(裏面)メタライズ10Bが、サブキャリア(絶縁基台)に形成されたものである。
【0025】
ダイボンディングパッド12Dは、PDチップ11をダイボンディングするためのパッドであり、PDチップ11から出力された電気信号は、ダイボンディングパッド12Dを通じてシグナルパッド12に出力される。PDサブマウント10のうち、出力側の側面、すなわちTIAチップ20と隣接する側面と、PDサブマウント10の底面とには、それぞれ金属メッキ処理などでメタライズすることにより、側面メタライズ10Aおよび底面メタライズ10Bが形成されている。
【0026】
グランドパッド14は、これら側面メタライズ10Aおよび底面メタライズ10Bを通じて、サブキャリアの底面と接するキャリア40のグランド電位に導通することで、高周波的に安定なグランドをなしている。
【0027】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、TIAチップ20の上面に形成されたグランドバッド24を、ボンディングワイヤ54を介して、PDサブマウント10の上面に形成されてグランド電位と接続されているグランドバッド14と接続するようにしたので、TIAチップ20のグランドバッド24を、ボンディングワイヤを介してキャリア40のグランド電位に接続するための、PDサブマウント10とTIAチップ20の間の隙間が不要になる。
【0028】
このため、PDサブマウント10のシグナルパッド12とTIAチップ20のシグナルパッド22を接続するボンディングワイヤ52の長さを短くすることが可能となる。したがって、ボンディングワイヤ52で生じるワイヤインダクタンスの量を低減することができ、結果として、広帯域の受光回路を実現することが可能になる。
【0029】
また、PDサブマウント10とTIAチップ20の間の隙間の調整が不要になることから、安定した周波数特性を得ることが可能になる。
なお、本実施の形態では、4チャンネルの光信号を電気信号に変換する光受信回路を用いて説明したが、いかなるチャネル数であっても良い。
【0030】
また、本実施の形態は、PDサブマウント10に、TIAチップ20と隣接する側面の一部または全部をメタライズして形成した側面メタライズ10Aと、PDサブマウント10の底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズ10Bとを設け、PDサブマウント10のグランドバッド24を、側面メタライズ10Aおよび底面メタライズ10Bを通じて、キャリア40のグランド電位に接続するようにしたので、極めて簡素な構成で、特別な組立工程を必要とすることなく、グランドバッド24をグランド電位に導通させることができる。
【0031】
[第2の実施の形態]
次に、図4を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる光受信回路について説明する。図4は、第2の実施の形態にかかるPDサブマウントの構造例である。
第1の実施の形態では、側面メタライズ10A、および底面メタライズ10Bを用いて、PDサブマウント10に形成したグランドパッド14をグランド電位に接続する場合を例として説明した。
本実施の形態では、側面メタライズ10Aに代えて、側面スルーホール10Cを用いることにより、PDサブマウント10に形成したグランドパッド14をグランド電位に接続する場合について説明する。
【0032】
図4に示したPDサブマウント10は、シグナルパッド12、ダイボンディングパッド12D、グランドパッド14、側面スルーホール10C、および底面メタライズ10Bが、サブキャリア(絶縁基台)に形成されたものである。
【0033】
ダイボンディングパッド12Dは、PDチップ11をダイボンディングするためのパッドであり、PDチップ11から出力された電気信号は、ダイボンディングパッド12Dを通じてシグナルパッド12に出力される。PDサブマウント10のうち、サブキャリアの出力側の側面、すなわちTIAチップ20と隣接する側面には、半円筒形状の側面スルーホール10Cが形成されている。また、PDサブマウント10の底面には、金属メッキ処理などでメタライズすることにより、底面メタライズ10Bが形成されている。
【0034】
グランドパッド14は、これら側面スルーホール10Cおよび底面メタライズ10Bを通じて、サブキャリアの底面と接するキャリア40のグランド電位に導通することで、高周波的に安定なグランドをなしている。
【0035】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、PDサブマウント10に、TIAチップ20と隣接する側面に形成した側面スルーホール10Cと、PDサブマウント10の底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズ10Bとを有し、PDサブマウント10のグランドバッド24を、側面スルーホール10Cおよび底面メタライズ10Bを介して、キャリア40のグランド電位に接続するようにしたので、極めて簡素な構成で、特別な組立工程を必要とすることなく、グランドバッド24をグランド電位に導通させることができる。
【0036】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0037】
100…光受信回路、10…PDサブマウント、10A…側面メタライズ、10B…底面メタライズ、10C…側面スルーホール、11…PDチップ、12,13…シグナルパッド、14…グランドパッド、20…TIAチップ、21…電源・制御・モニタパッド、22,23…シグナルパッド、24…グランドパッド、30…チップコンデンサ、40…キャリア、52,53,54,55…ボンディングワイヤ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光素子を搭載するサブマウントと、このサブマウントに隣接配置されて前記受光素子で得られた電気信号を増幅出力するトランスインピーダンスアンプを有するTIAチップとを備え、前記TIAチップの上面に形成されたグランドバッドが、ボンディングワイヤを介して、前記サブマウントの上面に形成されてグランド電位と接続されているグランドバッドと接続されていることを特徴とする光受信回路。
【請求項2】
請求項1に記載の光受光回路において、
前記サブマウントおよび前記TIAチップを隣接して搭載するキャリアをさらに備え、
前記サブマウントは、前記TIAチップと隣接する側面の一部または全部をメタライズして形成した側面メタライズと、当該サブマウントの底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズとを有し、前記サブマウントの前記グランドバッドは、前記側面メタライズおよび前記底面メタライズを通じて、前記キャリアのグランド電位に接続されていることを特徴とする光受信回路。
【請求項3】
請求項1に記載の光受光回路において、
前記サブマウントおよび前記TIAチップを隣接して搭載するキャリアをさらに備え、
前記サブマウントは、前記TIAチップと隣接する側面に形成した側面スルーホールと、当該サブマウントの底面の一部または全部をメタライズして形成した底面メタライズとを有し、前記サブマウントの前記グランドバッドは、前記側面スルーホールおよび前記底面メタライズを介して、前記キャリアのグランド電位に接続されていることを特徴とする光受信回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−5014(P2013−5014A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131080(P2011−131080)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】