説明

光受容細胞のアポトーシスを抑制する方法

本発明は、光受容細胞の死を防止する方法を提供する。特に、本発明は、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを防止するペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、米国特許仮出願第61/157,079(出願日2009年3月3日)および米国特許仮出願第61/254,082(出願日2009年10月22日)に基づいて優先権を主張し、該特許仮出願の内容は全て参照によってここに引用されるものとする。
【0002】
〔技術分野〕
本発明は、光受容細胞の死を防止する方法を提供する。特に、本発明は、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを防止するペプチドを提供する。
【0003】
〔背景技術〕
アポトーシス(プログラム細胞死)は、すべての多細胞生物の発達および恒常性において、中心的役割を果たす。アポトーシス経路における変化が、発達障害、癌、自己免疫疾患、さらに神経変性障害、および、網膜の劣化を含めた多くのタイプのヒトの病理に関係付けられている。アポトーシス経路は個々の細胞の死亡プロセスを支配する厳格に調節された経路であって、外因によっても、内因によっても惹起される。内因による惹起はミトコンドリアによって引き起こされる細胞内機構であり、外因による惹起には、細胞膜における「細胞死受容体」と、これに対応するリガンドとの相互作用がともなう。
【0004】
このように、プログラム細胞死の経路は、治療薬の開発にとって魅力的な標的となった。具体的には、細胞を殺すことの方が細胞を保存することに比べて概念的に容易であるので、例えば従来の放射線療法や化学療法などの、アポトーシス促進性の薬剤を用いた抗癌治療に注意が集まっている。これらの治療法は、一般に、ミトコンドリアが誘発するアポトーシス経路の活性化を引き起こすと考えられている。ただし、これらの治療法には分子特異性が欠如しており、より特異的な分子標的が必要である。
【0005】
網膜剥離(“RD”;retinal detachment)とは、神経感覚網膜が、その下の網膜色素上皮(“RPE”;retinal pigment epithelium)から脱離することと定義され、光受容細胞のアポトーシス性の死を引き起こす(Cook et al. 1995;36(6):990-996.; Hisatomi et al. Curr Eye Res. 2002;24(3):161-172.; Zacks et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44(3):1262-1267. Yang et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004;45(2):648-654、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜がRPEから脱離したほぼ直後にプロアポトーシス経路が活性化されることが、齧歯類およびネコのRDモデルによって実証されている(Cook et al. 1995;36(6):990-996.; Hisatomi et al. Curr Eye Res. 2002;24(3):161-172.; Zacks et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44(3):1262-1267. Yang et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004;45(2):648-654、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。例えばタネル(“TUNEL”;terminal deoxynucliotidyl transferase nick end label)染色法などのアポトーシスの組織学的なマーカーはRDから約3日でピークに達し、アポトーシスの活性および進行性の細胞死は剥離期間を通して持続する。ただし、良好な視力が維持できる修復の機会となる時期が存在することが、網膜剥離の修復の臨床経験によって実証されている。過去の複数の症例からは、黄斑部が剥がれたRDを剥離の開始から5日〜10日以内に修復した相当数の患者が、比較的良好な視覚機能を維持できるが、剥離と修復との間の時間が長くなるにつれて、視力が大幅に低下することが実証されている(Burton. Trans Am Ophthalmol Soc. 1982;80:475-497.; Ross et al. Ophthalmology. 1998;105(11):2149-2153.; Hassan et al. Ophthalmology. 2002;109(1):146-152、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。プロアポトーシス経路の活性化から失明の臨床的な発生までに時間がかかることが、内因性の神経保護因子が神経網膜内で活性化されて、網膜のRPE脱離によって活性化したプロアポトーシス経路の作用に対抗するように働く可能性があることを示唆している。
【0006】
〔発明の概要〕
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する組成物を投与することを含む、光受容細胞のアポトーシスを抑制する方法を提供する。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞保護性を有するポリペプチド、または、光受容細胞保護性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、IL−6またはIL−6の断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、XIAPまたはXIAPの断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、METまたはMETの断片を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12に対して少なくとも70%(例えば、少なくとも80%、85%、90%、95%)の配列類似性を有する。一部の実施形態では、上記光受容細胞のアポトーシスが、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が細胞の集団に投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記細胞の個体群において細胞死を緩和するために十分な量で投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが被験体に投与される。一部の実施形態では、上記被験体が網膜剥離に罹患している。一部の実施形態では、上記被験体が網膜剥離に罹患する危険性がある被験体である。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記被験体において細胞死を緩和するために十分な量で投与される。
【0007】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する組成物を投与することを含む、光受容細胞の生存率を増加させる方法を提供する。一部の実施形態では、光受容細胞の生存率の増加が、光受容細胞のアポトーシスの抑制を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞保護性を有するポリペプチド、または、光受容細胞保護性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、IL−6またはIL−6の断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、XIAPまたはXIAPの断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、METまたはMETの断片を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12に対して少なくとも70%の配列類似性を有する。一部の実施形態では、上記光受容細胞のアポトーシスが、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が細胞の個体群に投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記細胞の個体群において細胞死を緩和するために十分な量で投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記細胞の個体群において光受容細胞の生存率を向上させるために十分な量で投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が被験体に投与される。一部の実施形態では、上記被験体が、視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患に罹患している。一部の実施形態では、上記被験体が、視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患に罹患する危険性がある被験体である。一部の実施形態では、上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が、網膜剥離、黄斑変性症、網膜色素変性症、眼炎、自己免疫性網膜症、外傷、癌、腫瘍、ぶどう膜炎、遺伝性網膜変性症、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、網膜虚血、病的近視、網膜色素線条症、黄斑浮腫、または、中心性漿液性網脈絡膜症を含む。一部の実施形態では、上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が網膜剥離を含む。一部の実施形態では、上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が黄斑変性症を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記被験体において細胞死を緩和するために十分な量で投与される。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記被験体において光受容細胞の生存率を向上させるために十分な量で投与される。
【0008】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する組成物と、点眼用に構成された薬剤キャリアとを含む組成物を提供する。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞保護性を有するポリペプチド、または、光受容細胞保護性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、IL−6またはIL−6の断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、XIAPまたはXIAPの断片を含む。一部の実施形態では、上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、METまたはMETの断片を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12を含む。一部の実施形態では、上記METの断片がMET12に対して少なくとも70%(例えば、少なくとも80%、85%、90%、95%)の配列類似性を有する。一部の実施形態では、上記光受容細胞のアポトーシスが、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを含む。一部の実施形態では、上記薬剤キャリアが、被験体の眼に注射できるように構成される。一部の実施形態では、上記薬剤キャリアが、網膜下への注射用に構成される。一部の実施形態では、上記薬剤キャリアが、被験体の眼に局所投与できるように構成される。
【0009】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する組成物と、1つ以上の他の組成物とを備えたキットを含む。一部の実施形態では、上記1つ以上の他の組成物が、光受容細胞保護性を有する組成物、薬剤キャリア、薬、鎮痛剤、麻酔薬、抗アポトーシス性の薬剤などを含む。一部の実施形態において、キットは、1つ以上の光受容細胞保護性を有する組成物と、細胞または被験体に共投与できるように構成されたその他の薬剤とを備えている。
【0010】
〔図面の簡単な説明〕
上記の要約および詳細な説明は、添付の図面を参照しながら読めばより良く理解できる。ただし、添付の図面は一例として本願に含めるものであって、いかなる限定を加えるものでもない。
【0011】
図1は、剥離していない網膜および剥離した網膜において、活性型STAT1のレベルおよび活性型STAT3のレベルのウエスタンブロット解析を示している。一番左の2つのレーンは剥離から1日、中央2つのレーンは剥離から3日、一番右の2つのレーンは剥離から7日が経過したものである。網膜のRPE脱離を左眼に形成した。剥離していない網膜を同じ動物の反対側の眼から得た。すべてのレーンについてロード量が等しいことを確認した。
【0012】
図2は、野生型マウスの網膜のTUNEL染色と、剥離から3日で回収したIL6−/−型マウスの網膜のTUNEL染色との対比をして示している。AおよびBは野生型マウスであり、CおよびDはIL−6−/−型マウスである。AおよびCはTUNEL陽性細胞のフルオレセインイソチオシアネート(“FITC”;fluorescein isothiocyanate)蛍光を示し、BおよびDはすべての核のヨウ化プロピジウム(“PI”;propidium iodide)蛍光を示している。Eは、野生型マウスの網膜および剥離から3日のIL−6−/−型マウスの網膜のTUNEL染色の結果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【0013】
図3は、野生型マウスにおける外顆粒層の細胞数と、と網膜剥離後のIL6−/−型マウスにおける外顆粒層の細胞数との対比を示している。A〜Cは野生型マウス、D〜FはIL−6−/−型マウスである。AおよびDは剥離していない網膜であり、BおよびEは剥離を形成してから1ヶ月で回収した網膜であり、CおよびFは剥離を形成してから2ヶ月で回収した網膜である。Gは、野生型マウスおよびIL−6−/−型マウスにおいて、網膜剥離から1ヶ月および2ヶ月の網膜全体の単位厚さ当たりのONLの細胞数をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【0014】
図4は、IL−6中和抗体または外来性IL−6を用いて処置を行った、剥離したラットの網膜のTUNEL染色を示している。AおよびBは剥離形成時にのみ媒体を網膜下注射した場合であり、CおよびDは剥離形成時に0.15μgの抗IL−6中和抗体(NAB)を網膜下注射した場合であり、EおよびFは剥離形成時に15ngの外来性IL−6を網膜下注射した場合である。A、C、および、EはTUNEL陽性核のFITC蛍光を示し、B、D、および、Fはすべての核のPI蛍光を示している。Gは、剥離から3日で行ったラットの網膜のTUNEL染色における、網膜下における抗IL−6 NABおよび外来性IL−6の効果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【0015】
図5は、ラットの網膜の外顆粒層の細胞数について、IL−6中和抗体の効果と外来性IL−6の効果との対比を示している。Aは剥離していない網膜である。BおよびCは、剥離形成時にのみ媒体を網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。DおよびEは、剥離形成時に0.15μgの抗IL−6 NABを網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。FおよびGは、剥離形成時に15ngの外来性IL−6を網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。Hは、網膜剥離から1ヶ月および2ヶ月後のラットの網膜の外顆粒層の細胞数について、網膜下における抗IL−6 NABおよび外来性IL−6の効果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【0016】
図6は、GFPを用いて処置した網膜およびXIAPを用いて処置した網膜における、網膜剥離後のカスパーゼ3およびカスパーゼ9のアッセイを示している。動物の左眼(OS)について、rAAV−GFPまたはrAAV−XIAPの網膜下注射後に、網膜を剥離した。右眼(OD)を無処置のコントロールとして用いた。
【0017】
図7は、GFP(A)に対する抗体、およびXIAP(B)のHAタグに対する抗体の免疫組織化学によって、両方のrAAV構築物から、細胞体ならびに光受容細胞の内節(“IS”;inner segment)および外節(“OS”;outer segment)において、強力な過剰発現が起きていることが確認できたことを示している。GFPおよびXIAPに対する一次抗体コントロールが、それぞれCおよびDにおいて一切示されていない。TUNEL分析によって、GFPを用いて処置した網膜の方が、XIAPを用いて処置した網膜に比べて、アポトーシスを起こした核が多いことが確認できた(EおよびFにおける茶色の色素、および、挿入図の黒い矢印)。TUNEL陽性の個数(ボックスプロット、G)は、免疫組織化学の結果を支持していた。各ボックスには25%から75%までの間の値が入り、ボックス内の線は中央値を示している。各ボックスの上および下のバーは、それぞれ90%および10%を示している。ボックスプロットは、SigmaPlot(バージョン8.0、SPSS Inc.社)を用いて作成した。ONLは外顆粒層を指す。
【0018】
図8は、GFP(AおよびB)ならびにXIAP(DおよびE)の免疫組織化学によって、剥離から2ヶ月後に発現が継続していることが確認できたことを示している。ウイルス性導入遺伝子を発現する光受容細胞が多数死んでしまったので、GFPシグナル(緑色)は微弱であった。これとは対照的に、XIAPシグナル(赤色)は明るく、これにともなって光受容細胞の個数が増加した。なお、XIAPシグナルが抑制された網膜の領域(矢頭)では、光受容細胞の喪失が著しかった。GFPを注射した(C)網膜およびXIAPを注射した(F)網膜におけるロドプシン染色(赤色)は、維持された光受容細胞が機能性タンパク質を合成することができることを示している。外顆粒層を矢印で示す。拡大率を示すバーは50mmである。
【0019】
図9は、XIAPを用いて処置した動物およびGFPを用いて処置した動物において、剥離していない網膜(AおよびC)と剥離した網膜(BおよびD)との比較を示している。剥離から2ヶ月後には、XIAPを用いて処置した網膜(D)の方が、GFPを用いて処置した網膜(B)に比べて一貫して厚く、かつ内節および外節はより組織化されていた。眼の剥離領域のONL中の核層の個数を、同じ眼の剥離していない網膜のONL中の核層の個数によって割ることによって、比を求めた(E)。拡大率を示すバーは50mmである。
【0020】
図10は、網膜剥離後のTUNEL陽性細胞の個数に対する、METの効果を表わすグラフを示している。
【0021】
図11は、網膜剥離によって誘発されるカスパーゼ活性に対する、METの効果を表わすグラフを示している。
【0022】
図12は、Fasが誘発するカスパーゼ8の活性化が661W細胞中のMet12によってブロックされることを示している。A)661W細胞を、さまざまな濃度のFas活性化抗体(“Fas−Ab”;Fas−activating antibody)を用いて処置した。カスパーゼ8の活性を48時間後に測定した。処置を行わなかった場合と比較すると、カスパーゼ8の活性の増加は、Fas−Abのどの濃度についても統計学的に有意であった。B)661W細胞を500ng/mlのFas−Abを用いて処置し、カスパーゼ8の活性をさまざまな時点で測定した。データを各時点において無処置のコントロールに正規化した。C)661W細胞を、Met12、mMet、または、媒体(DMSO)の存在下で500ng/mlのFas−Abを用いて処置した。コントロールグループに対してはFas−Abを用いた処置を行わなかった。カスパーゼ8の活性を48時間後に測定した。
【0023】
図13は、Met12がカスパーゼの活性化を抑制することを示している。A)剥離した網膜の網膜下腔にMet12を注射すると、カスパーゼ8の活性が低下する。ラットの網膜を、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で剥離させた。このように剥離させてから24時間後に、回収した網膜において、カスパーゼ8の活性化を測定した。データは、剥離していない網膜を基準として、剥離した網膜におけるカスパーゼ活性の増加倍率で表わされる。ウエスタンブロットは、Met12の存在下ではカスパーゼ8の切断が減少することを示している(挿入図)。可溶化液の試料(ブランク)も、組換え型カスパーゼ8も一切含まないアッセイコントロールを図中に示す。B)網膜剥離時にMet12を用いて処置することによって、カスパーゼ3の活性が大幅に低下した。C)カスパーゼ9の活性も、Met12によって大幅に低下した。データは、剥離していない網膜を基準として、剥離した網膜におけるカスパーゼ活性の増加倍率で表わされる。可溶化液の試料(ブランク)も、組換え型カスパーゼ8またはカスパーゼ9も含まないアッセイコントロールを図中に示す。
【0024】
図14は、Met12が誘発するFas経路のシグナル伝達の抑制によって、光受容細胞がアポトーシスカスケードに入ることが防止されることを示している。ラットの網膜を、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で剥離させた。眼を72時間後に除核し、TUNEL染色のために網膜から切片を作製した。A)網膜剥離から72時間後の、TUNEL染色済み光受容細胞の代表的な顕微鏡写真である。網膜細胞の核はヨウ化プロピジウム(PI)で染色されている。INLは内顆粒層(Inner nuclear layer)、ONLは外顆粒層(Outer nuclear layer)を示す。B)ONL中のTUNEL陽性細胞を数値化した結果を示す。平均値±S.E.、n=3〜6である。剥離していない網膜のONL中には、TUNEL染色された細胞が一切存在しなかった。
【0025】
図15は、カスパーゼ活性化の低下、および、TUNEL陽性細胞の個数が、光受容細胞の長期生存の向上に関係することを示している。剥離時に網膜下腔に注射された、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で、網膜は剥離された。眼を剥離から2ヶ月後に除核し、パラフィン切片を0.5%のトルイジンブルーを用いて染色した。A)代表的な顕微鏡写真である。INLは内顆粒層(Inner nuclear layer)、ONLは外顆粒層(Outer nuclear layer)を示す。B)網膜の厚さに対して正規化されたONLの細胞数を示す。C)網膜の厚さに対して正規化されたONLの厚さを示す。
【0026】
〔定義〕
本願で使用する場合、「核酸分子」という用語は任意の核酸を含有する分子を指し、例としてはDNAやRNAなどがあげられるが、これらの例に限定されるわけではない。該用語は、DNAおよびRNAの任意の公知の塩基類似体を包含する配列を含み、例としては、4−アセチルシトシン、8−ヒドロキシ−N6−メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、プソイドイソシトシン、5−(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルアデニン、1−メチルプソイドウラシル、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−メチルアデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルケオシン(mannosylqueosine)、5’−メトキシカルボニルメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、ケオシン(queosine)、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、N−ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸、プソイドウラシル、ケオシン(queosine)、2−チオシトシン、および、2,6−ジアミノプリンなどがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0027】
本願で使用する場合、「オリゴヌクレオチド」という用語は短い長さの一本鎖ポリヌクレオチド鎖を指す。オリゴヌクレオチドは、通常200(例えば15〜100)残基未満の長さであるが、本願において該用語はこれよりも長いポリヌクレオチド鎖を包含する。オリゴヌクレオチドは、その長さによって呼称されることが多い。例えば、12残基のオリゴヌクレオチドは「12−mer」と称される。オリゴヌクレオチドは、自己ハイブリダイズするか、または、その他のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることによって、二次構造および三次構造を形成することができる。この二次構造および三次構造の例としては、二本鎖、ヘアピン、十字形、ベンド、三本鎖などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0028】
本願で使用する場合、「効果的な量」という用語は、有益な結果または所望の結果を生み出すために十分な組成物(例えば光受容細胞保護性を有する組成物)の量を指す。効果的な量を1回以上の投与、塗布、または、投与量で投与してもかまわないし、特定の配合物または投与経路に限定されるものでもない。
【0029】
本願で使用する場合、「投与」という用語は、被験体(例えば、被験体、または、インビボ、インビトロ、もしくは、エキソビボの細胞、組織、および、器官)に対して、薬やプロドラッグなどの薬剤(例えば本発明の組成物)を与える行為、または、治療を施す行為を指す。人体に投与する経路の例としては、眼(点眼)、口(経口)、皮膚(経皮)、鼻(経鼻)、肺(吸入)、口腔粘膜(経頬)、耳、直腸を介する投与や注射による投与(例えば、静脈注射、皮下注射、腫瘍内注射、腹腔内注射)などをあげることができる。
【0030】
本願で使用する場合、「共投与」および「共投与する」という用語は、被験体に対して、少なくとも2つの薬剤(例えば、光受容細胞保護性を有するペプチド、光受容細胞保護性を有する組成物をコードするオリゴヌクレオチド、および、1つ以上のその他の薬剤)を投与すること、または、少なくとも2つの治療を施すことを指す。一部の実施形態において、2つ以上の薬剤または治療の共投与は同時に実施される。他の一部の実施形態では、第1の薬剤/治療が、第2の薬剤/治療に先立って投与される。当業者であれば、使用される各種薬剤または治療法の配合物および/または投与経路は多種多様であることが理解できるであろう。共投与に用いる適切な投与量は、当業者が容易に決定することができる。一部の実施形態において、薬剤または治療が共投与される場合、該薬剤または治療は、それぞれ、単独で投与される場合に適切な投与量より少ない投与量で投与される。従って、共投与は、薬剤または治療の共投与によって、必要とされる潜在的に有害(例えば有毒)な薬剤の投与量が削減される実施形態において、特に望ましい。
【0031】
本願で使用する場合、「薬学的組成物」という用語は、活性薬剤(例えば光受容細胞保護性を有する組成物)と、この組成物をインビトロ、インビボ、または、エキソビボで診断または治療において使用するために特に適したものにする、不活性なキャリアまたは活性を有するキャリアとの組み合わせを指す。
【0032】
本願で使用する場合、「薬学的に許容可能」または「薬理学的に許容可能」という用語は、被験体に投与しても有害な反応(例えば、有毒反応、アレルギー性反応、免疫反応など)を実質的に起こさない組成物を指す。
【0033】
本願で使用する場合、「薬学的に許容可能なキャリア」という用語は、リン酸緩衝食塩水溶液、水、乳濁液(例えば、油/水の乳濁液または水/油の乳濁液)、および、各種の湿潤剤、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング膜、ラウリル硫酸ナトリウム、等張吸収遅延剤、崩壊剤(例えばジャガイモデンプンやデンプングリコール酸ナトリウム)などを含むが、これらに限定されない標準的な薬剤キャリアのうちのいずれかを指す。該組成物には、安定剤および保存料が含まれていてもよい。キャリア、安定剤、および、免疫賦活剤の例については、例えば、Martin, Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th Ed., Mack Publ. Co., Easton, Pa. (1975)に記載されている(該文献は参照によってここに引用されるものとする)。
【0034】
本願で使用する場合、「薬学的に許容可能な塩」という用語は、対象とする被験体(例えば、哺乳類である被験体、および/またはインビボもしくはエキソビボの細胞、組織、もくしは、器官)において生理的に許容可能な、本発明の化合物の(例えば酸または塩基との反応によって得られる)任意の塩を指す。本発明の化合物の「塩」は、無機または有機の酸と塩基とに由来するものであってもかまわない。酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン−p−スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、蟻酸、安息香酸、マロン酸、スルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。シュウ酸などのその他の酸は、それら自身は薬学的に許容可能ではないが、本発明の化合物、および、該化合物の薬学的に許容可能な酸が付加された塩を得る際の中間体として有用な塩の調製において使用してかまわない。
【0035】
〔実施形態の詳細な説明〕
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験によって、IL−6には、神経感覚網膜がその下層にあるRPEから脱離した後に光受容細胞のアポトーシスを調節する機能があることが実証される。遺伝子破壊またはIL−6中和抗体の投与によってIL−6を抑制すると、光受容細胞のアポトーシスの割合が大幅に増加した。剥離から1ヶ月で、IL−6−/−型マウスも、網膜下にIL−6 NABの投与を受けたラットも、それぞれのコントロールと比較すると、ONLの細胞数が大幅に減少した。これらのデータは、IL−6が、RPEから剥離後の光受容細胞の生存にとって必要であることを示唆している。
【0036】
IL−6のレベルの上昇の効果を調査するために本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験によると、その効果は、実験時期とアッセイ法によって、さまざまであった。媒体だけを注射した場合と比較すると、外来性IL−6の網膜下注射は、RDから3日後にはTUNEL陽性細胞の割合に対して大して影響しなかったが、より長い期間の剥離に耐えて生存した光受容細胞の個数は大幅に増加した。RDに罹患した患者における網膜下のIL−6のレベルは、コントロールの硝子体における該レベルより高い。また、RDに罹患した患者における網膜下のIL−6の量は、RDから5週間〜8週間後にもっとも高い(Bakunowicz-Lazarczyk et al. Ophthalmologica. 1999;213(1):25-29.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。IL−6は、自身のリガンド結合サブユニット(IL−6Rとしても知られているgp80)と共通なシグナル変換サブユニット(gp130)との組み合わせを介してシグナルを伝達する(Heinrich et al. Ann N Y Acad Sci. 1995;762:222-236.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。外来性IL−6を単独で投与しても、可溶性を有する形態のIL6−RとともにIL−6を投与するほどの抗アポトーシス活性は得られない(Inomata et al. Biochem Biophys Res Commun. 2003;302(2):226-232., Curnow et al. J Immunol. 2004;173(8):5290-5297.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。
【0037】
内在性のIL−6が活性化するにもかかわらず、細胞は、依然として比較的直線的に減少する。この細胞死の割合は、外来性IL−6を追加することによって大幅に減少する。剥離時に外来性IL−6を用いて処置したラットグループでは、RDから1ヶ月が経過したコントロールグループに比べて、光受容細胞の保存率が大幅に増加した。この差異は、2ヶ月目に外来性IL−6グループにおける光受容細胞の喪失が加速したことによって、RDから2ヶ月後にはなくなった。1ヶ月が経過した時点で外来性IL−6を再注射することによって、網膜とRPEとの再付着を達成する為のより長い治療の「機会となる時期」を可能にし、これによって、IL−6の効果の持続期間が延長され得ることを示唆している。
【0038】
網膜剥離は、眼科医の診断にいたるまでに、ある未知の長さの期間にわたって放置されていることが多い。外来性IL−6の最初の網膜下注射が剥離の形成から2週間遅れても、剥離から1ヶ月後の光受容細胞の保存率は、コントロールに比べて大幅に上昇していた。このことは、たとえ患者の診察が遅れても、IL−6が光受容細胞の保存に依然として有用であることを示唆している。網膜のRPE脱離から2週間後のIL−6の単回投与の効果は、2週間持続した。
【0039】
IL−6は、ヤヌスキナーゼ(JAK)/シグナル伝達性転写因子(STAT)経路の強力な活性化因子として知られている(Samardzija et al. FASEB J. 2006;20(13):2411-2413.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜のRPE脱離は、STAT1およびSTAT3を強力に活性化する。STAT1は、腫瘍抑制およびアポトーシス促進性活性に関連する一方で、STAT3は圧倒的に細胞増殖に関連しており、抗アポトーシス性を有すると考えられている(Samardzija et al. FASEB J. 2006;20(13):2411-2413., Aaronson et al. Science. 2002;296(5573):1653-1655. Stephanou et al. Int J Exp Pathol. 2003;84(6):239-244., Stephanou et al. Growth Factors. 2005;23(3):177-182., Battle et al. Curr Mol Med.2002;2(4):381-392.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。IL−6の効果は圧倒的にSTAT3に誘発され、STAT1によってあまり誘発されない。STATによるアポトーシス経路の調節は、細胞死を引き起こす因子(例えばFASやカスパーゼ)、または、細胞生存を促進する因子(例えばBcl−xLやFLICE(FADD(Fas関連デスドメイン、Fas−associated death domain)状のインターロイキン−1β−変換酵素)抑制タンパク質(FLIP))の下流の転写制御によって行なわれ得る(Haga et al. J Clin Invest. 2003;112(7):989-998., Budd et al. Nat Rev Immunol. 2006;6(3):196-204.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。FLIPは、アポトーシス誘発性シグナル伝達複合体(“DISC”;death−inducing signaling complex)へのリクルートメントについてカスパーゼ8と競合することができる、カスパーゼ8の酵素的不活性な相同体である。そして、FLIPは、アポトーシスの有力な陰性インヒビターとして作用する。FLIPはIL−6−/−型マウスにおいてより急速に分解するので、34 IL−6がFLIPのタンパク質レベルを安定化させているのかもしれない(Kovalovich et al. J Biol Chem. 2001;276(28):26605-26613.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。
【0040】
虚血再灌流障害、NDMA毒性、圧力誘発死、網膜剥離などのさまざまな傷害によって誘発される網膜変性症に対して、IL−6が保護する可能性があることが、研究によって示された(Sanchez et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44(9):4006-4011., Inomata et al. Biochem Biophys Res Commun. 2003;302(2):226-232., Sappington et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2006;47(7):2932-2942.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜のRPE脱離に関連するIL−6の光受容細胞保護機能は、このタイプの網膜損傷に罹患した患者において視覚的な成果を向上させるための治療措置にとって重要なポイントであることを示唆している。
【0041】
網膜剥離の後に良好な視覚的な成果を達成するためには、素早い付着は欠かすことができない。動物試験は、カスパーゼ(つまり、アポトーシスの実行者)が剥離から24時間以内に活性化されることを示している。網膜剥離が5日間以上持続すると、患者は一般に20/20の視力を回復しない(Burton. Trans Am Ophthalmol Soc 1982;80:475-497.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。多くの疾患プロセスでは、網膜のRPEへの再付着成長が迅速に達成されない。その結果、光受容細胞のアポトーシス性の死が継続する。光受容細胞保護薬の使用によって、再付着が起こるまで光受容細胞死の程度を抑制できる可能性がある。
【0042】
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験によって、X連鎖アポトーシス抑制タンパク質(“XIAP”;X−linked inhibitor of apoptosis)は、光受容細胞を、少なくとも2ヶ月間の継続的な剥離期間にわたって保護することができることが実証される。XIAPを用いて処置した網膜は、ONL中の核層がより多く維持されており、その内節および外節がより良く組織化されていた。さらに、該網膜はロドプシンに対する抗体でしっかりと染色された。このことは、該網膜が生存可能なままであったことを示唆している。
【0043】
XIAPの保護作用は、細胞死経路のブロッキングにおいて、カスパーゼのブロッキングが効果的であることを示唆している。ただし、XIAPがカスパーゼ抑制以外の作用を及ぼしている可能性が全くないとは言えないが、具体的な作用機構の理解は本発明を実施するには不要であって、本発明は、いかなる特定の作用機構に限定されるものではない。XIAPは他の機構を介して細胞死を抑制することが示されている。XIAPは、自身のRING Znフィンガードメインを介してE3ユビキチンリガーゼ活性を有し、かつ、アポトーシス促進性タンパク質の分解を促進することができる(10においてレビューした)。XIAPは、TAK1を介して生存促進経路の転写活性化にも関与している(Hofer-Warbinek et al. J Biol Chem 2000;275:22064-22068., Sanna et al. Mol Cell Biol 2002;22:1754-1766.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。TAK1は、NF−kbの生存促進経路の活性化にも、JNK1の生存促進経路の活性化にも関与するMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(“MAPKKK”;mitogen−activated protein kinase kinase kinase)である。したがって、光受容細胞を2ヶ月に至るまで保護するXIAPの能力は、部分的には、複数の経路の活性化または抑制に由来する可能性がある。ただし、XIAPが導入された眼ではカスパーゼ活性が抑制され、かつ、TUNELのカウントが減少することは、カスパーゼ抑制が、XIAPが光受容細胞保護作用を及ぼす主要な機構である可能性をサポートしている。
【0044】
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験によって、網膜剥離の治療におけるXIAPの効力が実証される。XIAPを網膜剥離の部位に素早く送達すれば、光受容細胞が受ける急性損傷を抑制し得る可能性がある。こうすることによって、うまく再付着が実施できるまで、患者にとって非常に重要な時間を稼ぐことができる。
【0045】
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験から、Fasシグナル伝達を抑制し、網膜剥離後の光受容細胞のアポトーシスを防止する方法に想到した。例えば、実験結果によって、Fas細胞死受容体の低分子ペプチド抑制剤がカスパーゼ活性化をブロックし、網膜のRPE脱離後の光受容細胞の生存率を増加させることが実証された。例えば、錐体光受容細胞のインビトロモデルにおいて、低分子ペプチドであるMet12は、カスパーゼ8のFas依存性活性化を防止する。Met12は、実験的に網膜剥離を形成したビボモデルにおいて、Fas−シグナル伝達および光受容細胞のアポトーシスを大幅に低下させた。
【0046】
網膜剥離によってFas受容体が活性化される(Zacks et al. Arch Ophthalmol 2007;125:1389-1395., Zacks et al. IOVS 2004;45(12):4563-4569.8.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。このイベントが光受容細胞における内因性細胞死経路の活性化を制御する。光受容細胞のアポトーシスは、例えば中和抗体などの大分子を用いてFas受容体を抑制することができる。あるいは、剥離が誘発するFas受容体転写物の増加を抑制RNAを用いて防止することによって、光受容細胞のアポトーシスを防止することができる。本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験によって、低分子ペプチドであるMet12を用いても、同じく大幅に高い光受容細胞保存レベルが実現できることが実証された。
【0047】
齧歯類モデルを使用して、網膜剥離後の光受容細胞の死を調節する分子機構を調べた。さらに、Fas−Abを用いた処置によって、投与量および時間に依存する方法で、661W細胞中のカスパーゼ8をインビトロで活性化する。こうすることによって、Fas受容体のシグナル経路がこれらの細胞において変化がないことが実証される。661Wの株化細胞は、Fasシグナル伝達が誘発する光受容細胞のアポトーシスの機能的インビトロモデルである。
【0048】
Met12が誘発するFas抑制後の光受容細胞の生存率が非常に高いレベルであることを、ここで複数の方法で実証する。このように、Met12によるFas抑制の結果、光受容細胞がインビボで非常に良好に維持された。網膜剥離の時点で網膜下腔に注射したMet12の投与量は、ここで開示する方法を用いて、完全な保護を実現できるように最適化してもかまわない。661W細胞中では、Met12がすべての細胞に到達し、Met12を用いた処置によってカスパーゼ8の活性化が完全に抑制された。網膜下に注射したMet12は、剥離したアポトーシス性の光受容細胞に十分に到達しない可能性がある。ペプチドの投与方法を改善すれば、光受容細胞の生存率が向上すると考えられる。Met12を、網膜のRPE脱離の形成時に限って網膜下に注射した。網膜下腔において有効なMet12の量は時間の経過とともに減少し、これによって、FasL結合可能なFas受容体の個数が増加すると思われる。これは、別の神経保護薬であるIL−6の場合に起こる現象に類似している。外来性IL−6は、剥離した光受容細胞の生存を増加させる(Chong et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2008; 49(7):3193-3200.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。IL−6を剥離時に網膜下腔に注射した場合、剥離した光受容細胞に対するIL−6の保護作用は1ヶ月持続した。ただし、1ヶ月が経過した時点で外来性IL−6を再注射すると、網膜のRPE脱離後の光受容細胞の生存期間が延長された。治療方針を最適化し、かつ、Met12の生存促進性の効果を増大させれば、より大きな治療の「機会となる時期」が実現され、網膜のRPEへの再付着後に最高の光受容細胞生存率が達成できると考えられる。
【0049】
光受容細胞の集団の一部は、Fas細胞死受容体シグナル伝達とは独立してアポトーシスを起こすと考えられる。脱離が誘発するミトコンドリア性アポトーシス経路の活性化は、Fasの活性化によって部分的にしかコントロールされない(Zacks et al. Arch Ophthalmol 2007;125:1389-1395.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。別の代替となるシグナル経路が、光受容細胞において内因性の死経路を刺激する際に役割を果たしている可能性があると考えられる。内因性の経路に関わるカスパーゼは、網膜剥離が誘発する光受容細胞のアポトーシスにおいて決定的な役割を果たす(Zadro-Lamoureux et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2009;50(3):1448-1453.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。組換え型のアデノ随伴ウイルスによるX連鎖アポトーシス抑制タンパク質(XIAP)の送達が、カスパーゼ3およびカスパーゼ9の活性を抑制し、光受容細胞を剥離が誘発するアポトーシスから保護した。ミトコンドリア性アポトーシス経路に加えて、カスパーゼに依存しない死経路が、網膜剥離後の光受容細胞の喪失において役割を果たしているのかもしれない。網膜のRPE脱離の実験用ラットモデルにおけるアポトーシス誘発因子(AIF)に依存する死を活性化すると、アポトーシスが起こる(Hisatomi et al. Am J Pathol. 2001 Apr;158(4):1271-1278., Hisatomi et al. 2008 J Clin Invest 118: 2025-2038.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜剥離が誘発する光受容細胞の死が、AIFをコードする遺伝子の低形質変異を有するマウスでは低減された(Hisatomi et al. 2008 J Clin Invest 118: 2025-2038.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。
【0050】
診療する際には、患者は一般に剥離をすでに起こした状態である。網膜のRPE脱離の動物モデルによれば、Fas経路の活性化は初期に発生し、剥離期間中を通じて高いレベルの状態で継続する(Zacks et al. Arch Ophthalmol 2007;125:1389-1395., Zacks et al. IOVS 2004;45(12):4563-4569.8.)。光受容細胞を保護する治療法の1つの有用性は、網膜を(例えば外科的に)再付着し、正常な網膜とRPEとの恒常性(ホメオスタシス)が復元できるようになるまで、光受容細胞のさらなる喪失の防止を補助することにあると考えられる。網膜とRPEとの脱離は、さまざまな網膜症においても見られる。光受容細胞の生存における抗Fas療法の臨床との関連性は、網膜剥離に限定されるものではないと考えられる。例えば、Fasが誘発するアポトーシスが、加齢黄斑変性(“AMD”;age−related macular degeneration)の光受容細胞の死において役割を果たしている可能性がある(Dunaief et al. Arch Ophthalmol. 2002;120(11):1435-1442.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。加齢黄斑変性は、RPEが徐々に変性することを特徴とし、網膜剥離後に発生するのとよく似た外側の網膜の変性および再組織化を引き起こす(Jager et al. N Engl J Med. 2008; 358:2606-17., Johnson et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2003;44:4481-488.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。血管が新生される形態のAMDでは、網膜下において体液の滲出も発生し、この組織がその下層にあるRPEから実際に脱離する(Jager et al. N Engl J Med. 2008; 358:2606-17.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。血管新生性のAMDは、長期にわたる網膜のRPE脱離およびFas経路の活性化を引き起こす原因である。抗Fas療法の有用性は、根底にある障害を処置している間、光受容細胞の生存期間を延長することを狙った補助剤としての用途にある可能性が非常に高いと思われる(Brown et al. N Engl J Med. 2006 Oct 5;355(14):1432-44.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。追加的なアポトーシス経路は網膜のRPE脱離後に活性化されるのであろうが、本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験は、Fas細胞死受容体を抑制することによって、相当数の光受容細胞が保存されることを示唆している。Met12を用いた治療を、別の抗アポトーシス性分子(例えばXIAP)または生存促進性分子(例えばIL−6)と組み合わせることによって、光受容細胞の生存効率が増加すると考えられる。
【0051】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞の死を防止、抑制、ブロック、および/または低減する組成物、キット、システム系、および/または方法を提供する。一部の実施形態において、本発明は光受容細胞のアポトーシスを抑制する。一部の実施形態において、光受容細胞の死および/またはアポトーシスは、網膜剥離、加齢黄斑変性、外傷、癌、腫瘍、炎症、ぶどう膜炎、糖尿病、遺伝性網膜変性症、および/または光受容細胞に影響を及ぼす疾患によって引き起こされる。一部の実施形態において、本発明は、(例えば網膜剥離および/または網膜剥離をともなわない視覚病態時に)光受容細胞の生存力を強化し、および/または、光受容細胞の死を抑制する。一部の実施形態において、本発明は、黄斑変性症(例えば、乾燥型変性症、滲出型黄斑変性症、非滲出型黄斑変性症、滲出型/血管新生型黄斑変性症)、眼球腫瘍、遺伝性網膜変性症(例えば、網膜色素変性症、シュタルガルト病、アッシャー症候群など)、眼球の炎症性疾患(例えばぶどう膜炎)、眼感染症(例えば、細菌性感染症、真菌感染症、ウイルス性感染症)、自己免疫性網膜炎(例えば感染によって引き起こされる自己免疫性網膜炎)、外傷、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、網膜虚血、網膜血管閉塞性疾患(例えば、網膜静脈分枝閉塞症、網膜中心静脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、網膜中心動脈閉塞症など)、病的近視、網膜色素線条症、黄斑浮腫(例えば任意の病因学の黄斑浮腫)、中心性漿液性網脈絡膜症などを含むが、これらの例に限定されない種々の病態および/または疾患において、光受容細胞の生存力を強化する際に、および/または、光受容細胞の死を抑制する際に有効である。一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞の死(例えばアポトーシス)を抑制するために、組成物を投与することを含む。一部の実施形態において、組成物は、医薬品、小分子、ペプチド、核酸、分子の複合体などを含む。一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞のアポトーシスを抑制するために、光受容細胞保護性を有するポリペプチドを投与することを提供する。一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、当業者にとって公知の方法によって調製可能である。例えば、請求項に記載のポリペプチドは、固相ポリペプチド合成法(例えばFmoc)を用いて合成可能である。あるいは、該ポリペプチドは、組換え型DNA技術(例えば細菌型発現系または真核生物型発現系)を用いて合成可能である。これに応じて、このような方法の実行を容易にするために、本発明は、発明にかかるポリペプチドをコードする配列を備えた遺伝子ベクター(例えばプラスミド)を、このようなベクターを備えた宿主細胞とともに提供する。さらに、本発明は、組換え型の方法で生成されるポリペプチドを提供する。
【0052】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する組成物(例えば、光受容細胞保護性を有するペプチド、ポリペプチド、小分子、核酸、保護性を有するペプチドをコードする核酸など)を投与することを提供する。一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞のアポトーシスを抑制するポリペプチド(例えば、IL−6、XIAP、MET、これらの断片など)を投与することを提供する。一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞のアポトーシスを抑制するポリペプチド(例えば、IL−6、XIAP、MET、これらの断片など)をコードする核酸を投与することを提供する。一部の実施形態では、投与された組成物がアポトーシス経路を抑制する。一部の実施形態では、ポリペプチドMETが(例えば被験体、細胞、または、細胞群に)アポトーシスの抑制剤および/または光受容細胞保護性を有するペプチドとして投与される。一部の実施形態では、ポリペプチドMET12が投与される。一部の実施形態では、METまたはMET12に対して少なくとも50%の相同性(例えば、少なくとも60%の相同性、少なくとも70%の相同性、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性、少なくとも95%の相同性、少なくとも99%の相同性など)を有するポリペプチドが投与される。一部の実施形態では、IL−6に対して少なくとも50%の相同性(例えば、少なくとも60%の相同性、少なくとも70%の相同性、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性、少なくとも95%の相同性、少なくとも99%の相同性など)を有するポリペプチドが投与される。一部の実施形態において、XIAPに対して少なくとも50%の相同性(例えば、少なくとも60%の相同性、少なくとも70%の相同性、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性、少なくとも95%の相同性、少なくとも99%の相同性など)を有するポリペプチドが投与される。一部の実施形態では、ペプチド、核酸、または、薬剤状の小分子を被験体または細胞に投与することによって、アポトーシス経路を抑制し、アポトーシスを抑制し、および/または光受容細胞の死に対して保護する。
【0053】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、単離および/または精製(または、実質的に単離および/または実質的に精製)される。これに応じて、本発明は、実質的に単離された状態のポリペプチドを提供する。一部の実施形態において、ポリペプチドは、例えば固相タンパク質合成の結果として他のポリペプチドから単離される。あるいは、ポリペプチドは、細胞溶解後の組換え産物に含まれる他のタンパク質から実質的に単離可能である。タンパク質精製の標準的な方法(例えばHPLC)を採用して、ポリペプチドを実質的に精製してもかまわない。
【0054】
一部の実施形態において、本発明は、所望の使用方法に応じて、様々な形態で調合されたポリペプチドの調製物を提供する。例えば、上記ポリペプチドが実質的に単離される(または、他のタンパク質からほとんど完全に単離される)場合には、該ポリペプチドを適切な保存用培地溶液中で(例えば、冷蔵条件または凍結条件の下で)配合してもかまわない。このような調製物は、例えばバッファ、保存料、凍結防止剤(例えばトレハロースなどの糖)などの保護薬を含有していてもよい。本調製物の形態は溶液やゲルであってもよく、上記発明にかかるポリペプチドは、一部の実施形態では、凍結乾燥状態で調製される。また、本調製物は、所望に応じて、例えば、小分子またはその他のポリペプチドおよびタンパク質などの、他の所望の薬剤を含有していてもよい。実際に、本発明は、上記発明にかかるポリペプチドの複数の実施形態(例えば、上述の複数のポリペプチド種)の混合物を含む調製物を提供する。
【0055】
一部の実施形態において、本発明は、1つ以上のポリペプチド(これらの混合物を含む)と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物をさらに提供する。キャリア内のベクターを破壊せずにポリペプチドを供給することができる任意のキャリアが適したキャリアであり、このようなキャリアは当該技術分野において周知である。組成物は、非経口的投与、経口投与、または、局所投与に合わせて配合可能である。例えば、非経口配合物は、即時放出性または徐放性の液体調製物、乾燥粉末、乳濁液、懸濁液、または、任意のその他の標準的な配合物からなっていてもよい。上記薬学的組成物の経口配合物は、例えば液体溶液(効果的な量の組成物を、例えば、水、生理食塩水、分泌液などの希釈剤で希釈した希釈液、適切な液体に懸濁した懸濁液、適切な乳濁液)であってもよい。経口配合物は錠剤の形態で送達されてもよく、賦形剤、着色剤、希釈液、緩衝剤、湿潤剤、保存料、調味料、および、薬理学的に適用可能な賦形剤を含有してもかまわない。局所投与用配合物は、皮膚またはその他の患部を介する有効成分の吸収または浸透を促進する化合物(例えばジメチルスルホキシドやこれに関連する類似体)を含有していてもよい。上記薬学的組成物は、経皮性のデバイス(例えばパッチ)を用いて局所的に送達されてもよい。ここで当該パッチは、例えば粘着系を有する適切な溶媒系(例えばアクリル性乳濁液)中の上記組成物とポリエステルパッチとを備える。組成物は、点眼またはその他の局所的に眼球へ送達する方法によって送達されてもよい。組成物は、眼球内、つまり、例えば硝子体腔、前房などを含めた眼球のどこに送達されてもよい。組成物は、一般にルセンティス(ラナビズマブ(ranabizumab))、アバスチン(ベバシズマブ)、トリアムシノロンアセトニド、抗生物質などとともに硝子体内注射するように、硝子体内に送達されてもよい。組成物は、眼窩周囲(例えば眼球の周囲の組織、ただし骨眼窩内)に送達されてもよい。組成物は、眼内のインプラント(例えばガンシクロビルインプラント、フルオシノロンインプラントなど)を介して送達されてもよい。眼内のインプラントを用いて送達する場合、本発明の組成物を備えたデバイスは、(例えば硝子体腔内に)外科的に移植され、薬剤を(例えば所定の速度で)眼に放出する。組成物は、本発明の組成物(例えばMet12)を生成および分泌するように構成された遺伝子組換え細胞を用いるカプセル化細胞技術(例えばNeurotech社)を用いて投与されてもよい。組成物は、眼球の隣に縫合または設置された、眼中に拡散する薬をゆっくりと溶出させるデバイスを用いて、経強膜薬物送達によって送達されてもよい。
【0056】
一部の実施形態において、本発明は、ポリペプチドを用いて、光受容細胞および/または網膜において、TNFRスーパーファミリーに属する1つ以上のメンバー、望ましくはFasおよび/またはTNFRの活性化を減弱する方法を提供する。一部の実施形態において、この方法を用いて、例えば細胞および組織において細胞死(例えばアポトーシス)を抑制する。また、該方法は、インビボで用いても、エキソビボで用いても、または、インビトロで用いてもかまわない。こうすることによって、本発明は、該方法にしたがって、細胞死(例えば網膜の細胞死)を減弱するために上記発明にかかるポリペプチドの使用方法を提供する。インビトロで適用する場合には、上記発明にかかるポリペプチドは細胞に供給される。一般的には、(例えば緩衝溶液などの適切な調製物内の)細胞集団に、細胞内でアポトーシスを抑制するために、または、炎症を抑制するために十分な量と時間で上記ポリペプチドは供給される。所望に応じて、上記発明にかかるポリペプチドで処置していないコントロール集団を観察して、同様の細胞の集団内の細胞死または炎症の抑制の低減に関する上記発明にかかるポリペプチドの効果を確認してもよい。
【0057】
一部の実施形態において、本発明の方法はインビボで用いられる。一部の実施形態において、ポリペプチドは、ヒトまたは動物である被験体に、患者(例えば所望の組織内)においてアポトーシスまたは炎症を抑制または減弱するために十分な量で、かつ、同様の趣旨が達成できる位置に送達される。ポリペプチドは、適切な薬学的組成物中に、(例えば、上述のように、あるいは当業者に公知の他の方法で)配合されて、被験体中へ送達されてもかまわない。上記送達は、(例えば、処置したい所望の組織において注射または移植することによって)局所的に実施しても、(例えば、静脈注射または非経口注射によって)全身的に実施してもかまわない。
【0058】
一部の実施形態において、本発明は、上記の網膜剥離および/または網膜障害に罹患し、治療を必要とする患者を治療する方法を提供する。一部の実施形態では、少なくとも1つの本発明のポリペプチドを含む薬学的組成物が、このような患者に、障害または疾患を治療するために十分な量で、かつ、同様の趣旨が達成できる位置に送達される。一部の実施形態では、本発明のポリペプチド(または本発明のポリペプチドを含む薬学的組成物)は、全身的または局所的に患者に送達されてもよく、治療にとってもっとも適切な送達経路、送達時間、および、投与量を確認することは、このような患者を治療する医療従事者の普通の技能の範囲内である。発明にかかる患者治療方法を適用することによって、このような症状を実質的に軽減または消滅させられればもっとも好ましいことは理解できるであろう。しかし、多くの治療の場合のように、上記発明にかかる方法の適用は、上記発明にかかる方法の実施中、実施後、または、該方法の適用の結果、患者における疾患または障害の症状が確認できる程度にまで鎮静化すれば、成功したとみなしてよい。
【0059】
一部の実施形態において、本発明は、光受容細胞保護性を有する薬学的組成物を投与することを含む、光受容細胞の生存率を増加させる方法を提供する。上記医薬化合物は、良好な薬務にしたがって、薬学的に許容可能なキャリア、および、必要に応じて賦形剤、免疫賦活剤などと配合される組成物の形態で投与されてもよい。光受容細胞保護性を有する薬学的組成物は、例えば粉末、溶液、エリキシル剤、シロップ、懸濁液、クリーム、ドロップ、ペースト、および、スプレーなどの、固体、半流動性、または、液体剤形の形態であってもよい。選択した投与経路(例えば点眼、注射など)に応じて、組成物の形態が決定されることは、当業者であれば理解し得る。一般に、活性医薬化合物を容易にかつ高精度で投与するために、発明にかかる抑制剤を一単位量の剤形で使用することが好ましい。一般に、上記治療上効果的な医薬化合物は、組成物全体に対して約0.5重量%〜約99重量%の濃度レベルを有する剤形、つまり、所望の一単位投与量を提供するために十分な量で存在する。一部の実施形態において、上記薬学的組成物は、一度に投与されても、複数回に分けて投与されてもよい。特定の投与経路および投与計画は、治療対象となる個人の健康状態、および、治療に対するその個人の応答を追跡していく中で、当業者によって決定される。一部の実施形態において、被験体に投与するための一単位量剤形の光受容細胞保護性を有する薬学的組成物は、医薬化合物と、1つ以上の無毒な薬学的に許容可能なキャリア、免疫賦活剤、または、媒体とを含む。このような物質と組み合わせられて単位量剤形を形成する可能性のある有効成分の量は、上記において示したようにさまざまな要因に応じて変化する。医薬品分野における利用可能性に応じて、種々の物質が、本発明の組成物中においてキャリア、免疫賦活剤、および、媒体として使用可能である。油性溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用調製物は、必要であれば適切な分散剤または湿潤剤、および、懸濁剤を用いて、当該技術分野において公知の方法で配合されてもよい。無菌の注射用調製物は、例えば非加熱無菌水や1.3−ブタンジオールなどの無毒で非経口的に許容可能な希釈液または溶媒を用いてもよい。使用してもかまわない他の許容可能な媒体および溶媒としては、5%のブドウ糖注射、リンゲル注射、および、等張塩化ナトリウム注射(USP/NFにおいて詳述)などがある。さらに、無菌の不揮発性油を、従来のように溶媒または懸濁媒体として用いてもかまわない。この目的を実現するために、合成モノグリセリド、合成ジグリセリド、または、合成トリグリセリドを含めた、任意の無刺激性不揮発性油を使用してもかまわない。注射用の組成物の調製において、脂肪酸(例えばオレイン酸)も使用してかまわない。
【0060】
一部の実施形態において、本発明の光受容細胞保護性を有する組成物は、例えばここに記載の手法および/または当業者にとって公知である他の手法(例えば注射、局所投与など)を用いて、眼に投与される(例えば、Janoria et al. Expert Opinion on Drug Delivery. July 2007, Vol. 4, No. 4, Pages 371-388; Ghate & Edelhauser. Expert Opin Drug Deliv. 2006 Mar;3(2):275-87.; Bourges et al. Adv Drug Deliv Rev. 2006 Nov 15;58(11):1182-202. Epub 2006 Sep 22.; Gomes Dos Santos et al. Curr Pharm Biotechnol. 2005 Feb;6(1):7-15.を参照。いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。
【0061】
一部の実施形態において、本発明の光受容細胞保護性を有する組成物は、キットの一部として提供される。一部の実施形態において、本発明のキットは、1つ以上の光受容細胞保護性を有する組成物および/または光受容細胞保護性を有する薬学的組成物を備えている。一部の実施形態において、光受容細胞保護性を有する組成物を備えたキットは、1つ以上のさらに別の組成物(例えば複数の薬学的組成物)を共投与できるように構成されている。一部の実施形態において、1つ以上の光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞の効果的な保護および/またはアポトーシスの抑制を実現するために、1つ以上のその他の薬剤とともに共投与される。
【0062】
〔実験〕
<実施例1.組成物および方法>
(網膜剥離の実験用モデル)
本発明の実施形態を完成させる過程において実施したすべての実験は、眼科および視覚研究における動物使用に関するアルボ宣言(ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)、および、動物の使用およびケアに関するミシガン大学委員会(the University Committee on Use and Care of Animals of the University of Michigan)が制定した指針にしたがって実施した。雄の成体のBrown−Norwayラット(300g〜400g)(Charles River Laboratories社、Wilmington, MA)、野生型C57BLマウス(年齢3週間〜6週間)(Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)、および、C57BLのバックグラウンドのIL−6−/−型マウス(年齢3週間〜6週間)(Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)(Zacks et al. Arch Ophthalmol. 2007;125(10):1389-1395.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)において、剥離を形成した。ケタミン(100mg/ml)とキシラジン(20mg/ml)との50:50の混合物を用いてげっ歯動物に麻酔をかけ、局所的にフェニレフリン(2.5%)およびトロピカミド(1%)を用いて瞳孔を拡張した。20ゲージのマイクロ硝子体網膜用刃(Walcott Scientific社、Marmora, NJ)を使用して、レンズの損傷を慎重に回避しながら、角膜輪部の2mm後ろ側に強膜切開術を行った。グレーザ式網膜下注射器(Glaser subretinal injector)(先端は32ゲージ;BD Ophthalmic Systems社、Sarasota, FL)を、上記強膜切開術によって硝子体腔中へ導入し、次に周縁の網膜切開術によって網膜下腔に導入した。ヒアルロン酸ナトリウム(10mg/ml)(Pharmacia and Upjohn Co.社、Kalamazoo, MI)をゆっくり注射して、神経感覚網膜をその下層にある網膜色素上皮から剥離させた。神経感覚網膜の約1/3〜1/2を剥離させた。剥離は左眼に形成し、右眼はコントロールとして放置した。一部の眼では、0.15μgの抗ヒトIL−6中和抗体(NAB)(R&D Systems社、Minneapolis, MN)、または、15ngの外来性のヒトIL−6(R&D Systems社、Minneapolis, MN)のいずれかを、剥離した網膜下腔に10μlの体積で剥離形成時またはその後の時点に注射した。投与量は、インビトロ活性アッセイに基づく製造業者の推奨に基づいている。
【0063】
(ウエスタンブロット分析)
剥離を起こした実験用眼球から得られた網膜と、剥離を起こしていないコントロール眼球から得られた網膜とを、網膜剥離から3日後にRPE脈絡膜から切除し、ホモジナイズし、バッファ液に溶解させた。このバッファ液は、10mMのHEPES(pH値7.6)、0.5%のIgEPal、42mMのKCl、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1mMのジチオスレイトール(DTT)、および、5mMのMgClを含有し、さらに、バッファ液10ml当たり1錠剤のプロテアーゼ抑制剤(Complete Mini; Roche Diagnostics GmbH社、Mannheim,ドイツ)を含有する。上記ホモジネートを氷上でインキュベートし、22,000g、4℃で60分間遠心分離した。そして、上清のタンパク質濃度を決定した(DC Protein Assay kit; Bio−Rad Laboratories社、Hercules CA)。上記タンパク質試料を装填して、SDSPageポリアクリルアミドゲル(Tris−HCl Ready Gels; Bio−Rad Laboratories社)上で流動させた。電気泳動によって分離した後に、上記タンパク質をフッ化ビニリデン樹脂(“PVDF”;polyvinylidene fluoride)膜(Immobilon−P; Amersham Pharmacia Biotech社、Piscataway, NJ)上に転写した。タンパク質のバンドをPonceau S染色法で視覚化し、各レーンをすべてのレーンにわたって存在する非特異的なバンドの濃度によって等しいロード量となるようにして評価した。次に、製造業者の指示にしたがって、一次抗体の1:1000の希釈液を用いて、免疫ブロット用キット(それぞれ、PhosphoPlus(登録商標) Stat1(Tyr701)抗体キット#9170、または、PhosphoPlus(登録商標) Stat3(Tyr705)抗体キット#9130、Cell Signaling Technology社、Danvers, MA)を用いて、phopho−STAT1(Tyr701)またはphopho−STAT3(Tyr705)について、膜を免疫ブロットした。
【0064】
(TUNEL染色および組織学的解析)
剥離の形成からさまざまな期間の後に、動物を安楽死させて、眼球を除核した。TUNEL染色を行うために、眼球全体を、4%のパラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝食塩水(pH値7.4)中で4℃で一晩固定した。上記標本をパラフィンに埋め込んで、5μm〜6μmの厚さの切片を作製した。ApopTag Fluorescein In Situ Apoptosis Detection Kit(Millipore社、Billerica, MA)を用いて、製造業者の指示にしたがって、上記切片に対してTUNEL染色を実施した。光学顕微鏡分析を行うために、0.1%のホウ酸バッファ中で0.5%のトルイジンブルーを用いて、パラフィン切片を染色した。
【0065】
(データ分析)
光受容細胞のアポトーシスを、外顆粒層(ONL)中のTUNEL陽性を示すすべての細胞の割合(%)として数値化した。切片ごとに、RDの高さが最大の箇所における3つの重畳しない強拡大視野(40×)を選択し、平均を求めた。ただし、重畳しない強拡大視野が3つ未満の場合には、3つ未満の視野を使用した。眼球ごとに、1つの代表的な切片を使用した。ONL中の細胞の総数を同様に測定した。網膜全体の厚さ(ONLの外側よりの縁部から内側の境界膜まで)を、切片ごとにRDの高さが最大の箇所における3つの重畳しない強拡大視野(40×)のそれぞれの3箇所で測定し、各眼球について平均を求めた。光受容細胞の内節および外節は、網膜全体の厚さの測定には含めなかった。これは、神経感覚網膜の剥離後にこれらの部分の退縮にバラツキがあり、光受容細胞の再付着後の生存可能性と必ずしも相関しないからである(Guerin et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1993;34(1):175-183.; Lewis et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1995;36(12):2404-2416.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。トルイジンブルーで染色した標本については、切片を作製する角度において起こり得る差異による影響を排除して試料間の比較を可能にするために、ONLの細胞数を各切片の網膜全体の厚さ(つまり、網膜全体の厚さで割ったONLの細胞数)に正規化した。ラット実験の各グループのONLの細胞数および網膜全体の厚さも、試料間の比較を可能にするために、当該グループの剥離していない網膜の対応する値に正規化した。各実験グループについて、眼球ごとに個体が異なる4個〜11個の眼球から得られた3つの切片に対して測定を行った。
【0066】
ONL中のTUNEL陽性細胞の割合(%)をグループ間で比較し、ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比をグループ間で比較する統計的解析を、等分散を仮定せずに両側のスチューデントt検定を用いて実施した。
【0067】
<実施例2.網膜剥離の実験モデルにおける光受容細胞神経保護薬としてのインターロイキン−6>
IL−6受容体のシグナル伝達のすぐ下流側のトランスデューサーは、シグナル伝達性転写因子である(“STAT”;Signal Transducer and Activator of Transcription)(Heinrich et al. Biochem J. 2003;374(Pt 1):1-20., Samardzija et al. FASEB J. 2006;20(13):2411-2413.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜のRPE脱離に関連して、STAT1およびSTAT3の転写レベルおよびタンパク質レベルは増加する(Zacks et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2006;47(4):1691-1695.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。剥離した網膜におけるSTAT1およびSTAT3のリン酸化(つまり活性化)の増加と、剥離していない網膜におけるSTAT1およびSTAT3のリン酸化(つまり活性化)の増加とを比較した。剥離時にIL−6中和抗体を網膜下腔に注射すると、リン酸化STAT3のレベルが約50%低下した。リン酸化STAT1のレベルは一切低下しなかった。このデータは、網膜のRPE脱離後に、IL−6の効果は圧倒的にSTAT3によって誘発されるのであって、STAT1によって誘発されるのではないことを示している。
【0068】
本発明の実施形態を完成させる過程において、野生型マウスC57BLおよびIL−6−/−型マウスにおいて網膜のRPE剥離を形成する、実験を実施した。剥離から3日後、眼球を回収し、網膜内のアポトーシスをTUNEL染色によって評価した。実験的なRDに関する先の研究と同様に、TUNEL陽性細胞は光受容細胞のONL内に局在していた。剥離した網膜のONL中のTUNEL陽性細胞の割合(%)は、IL−6−/−型マウスの方が、野生型マウスに比べて大幅に高かった(図2参照)。
【0069】
野生型マウスおよびIL−6−/−型マウスにおいて剥離を形成し、1ヶ月および2ヶ月維持した。そして眼球を回収してトルイジンブルーで染色した。野生型マウスの剥離していない網膜とIL−6−/−型マウスの剥離していない網膜とを比較したところ、ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比は非常に類似していた(図3参照)。野生型マウスおよびIL−6−/−型マウスのどちらの場合にも、時間がゼロの時点における剥離していない網膜と、1ヶ月の時点とを比較すると、正規化後のONLの細胞数は1ヶ月の時点では減少した。ただし、光受容細胞の細胞死の速度はIL−6−/−型マウスの方が大幅に高かった(図3参照)。剥離から2ヶ月後に、ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比はさらに減少した。IL−6−/−グループの方が、野生型動物より、最終的なONLの細胞数が低かった(図3参照)。Brown Norwayラットにおいて網膜のRPE脱離を形成し、媒体を単独で、または、媒体を0.15μgの抗ヒトIL−6 NABとともに、剥離時に網膜下に注射した。剥離から3日後にラットの眼をTUNEL染色すると、抗IL−6 NABで処置した網膜のONL中のTUNEL陽性細胞の割合(%)が、媒体だけで処置したものに比べて大幅に高いことがわかった(図4A〜図4D、図4G参照)。15ngの組換え型IL−6を剥離形成時に網膜下に注射した。網膜下において外来性IL−6で処置したラットのグループのTUNEL陽性細胞の割合(%)は、媒体単独で処置したラットと比べて差が一切なかったが、網膜下において抗IL−6 NABで処置したラットに比べると、依然として大幅に低かった(図4参照)。
【0070】
網膜のRPE脱離の期間を4週間および8週間まで延長した場合には、剥離時の抗IL−6 NABの網膜下注射によって、媒体のみの網膜下注射に比べて、剥離から4週間後の正規化後のONLの細胞数が大幅に低くなった(図5B、図5D、図5H参照)。これとは対照的に、剥離時の外来性IL−6の網膜下における投与によって、媒体だけを注射したコントロールに比べて、剥離から4週間後のONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比が大幅に高かった(図5B、図5F、図5H参照)。外来性IL−6を網膜下に投与することによって、剥離から1ヶ月の間は光受容細胞喪失の速度が遅くなったようである。しかし、該速度は剥離から2ヶ月目に加速し、その結果外来性IL−6の保護性を有するという利点が失われ、さらに、ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比は、剥離から8週間後には、媒体だけで処置したグループ、抗IL−6 NABで処置したグループ、および、外来性IL−6で処置したグループを比較してもほぼ同じであった(図5C、図5E、図5G、図5H参照)。
【0071】
剥離形成時にラットに外来性IL−6を注射し、剥離から4週間後に同じ投与量の外来性IL−6を再度注射した。RD形成から8週間後に、ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比は、コントロールグループより、4週間目にIL−6を再度注射したラットの方が依然として大幅に高かった(図5H参照)。
【0072】
網膜のRPE脱離を上記プロトコールにしたがって形成し、RDの形成から2週間後に外来性IL−6を注射した。剥離から4週間後、6週間後、および、8週間後(つまり、IL−6の網膜下注射からそれぞれ2週間後、4週間後、および、6週間後)に、眼球を回収し、トルイジンブルーで染色した。ONLの細胞数と網膜全体の厚さとの比は、IL−6の注射を2週間遅らせたグループの方が、IL−6の注射を剥離形成時に実施したグループに比べると、わずかながら低かった、また、コントロールグループに比べると大幅に高かった(図5H参照)。網膜のRPE脱離時にIL−6で処置した動物の場合と同様に、遅れてIL−6を注射した効果は、剥離から4週間の時点では低下したようであり、ONL細胞の個数は剥離から8週間までにコントロール値に到達した。
【0073】
<実施例3.X連鎖アポトーシス抑制タンパク質に関連する組成物および方法>
(動物)
生後少なくとも6週間の、雄の成体のBrown NorwayラットをHarlan社(Indianapolis, IN)およびCharles River Laboratories社(Wilmington, MA)から購入した。ラットは標準的な研究室の条件下で飼育し、すべての手順は、眼科および視覚研究における動物使用に関するアルボ宣言(ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research)、および、オタワ大学の動物ケアおよび獣医学サービス(the University of Ottawa Animal Care and Veterinary Service)の指針の双方にしたがった。ラットは2つのグループに分けた。一方のグループにはXIAP遺伝子治療を実施し、もう一方のグループには緑色蛍光タンパク質(GFP)コントロールを実施した。
【0074】
(組換え型アデノ随伴ウイルス(“rAAV”;Recombinant Adeno−Associated Virus)ベクターの構築物)
N末端赤血球凝集素(HA)タグを有するヒトXIAPの完全長のオープンリーディングフレームをコードするcDNA構築物を、ニワトリβ−アクチンプロモーターの制御下において、pTRベクターに挿入した。外科およびウイルスコントロールとして使用するために、GFP構築物を同様に構築した。ウッドチャック肝炎ウイルス由来の転写後制御因子(“WPRE”;woodchuck hepatitis virus post−transcriptional regulatory element)を該構築物の3’非翻訳領域に挿入することによって、X連鎖アポトーシス抑制タンパク質(XIAP)のウイルス性導入遺伝子発現を強化した。血清型5rAAVを調製し(Hauswirth et al. Methods Enzymol 2000;316:743-761., Zolotukhin et al. Methods 2002;28:158-167.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)、精製した(Leonard et al. PLoS ONE 2007;2:e314.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。ウイルス性タイターは、rAAV−GFPの場合が2.33×1012physical particles/ml、rAAV−XIAPの場合が1.87×1013physical particles/mlであった。感染性粒子に対するphysical particlesの比は100未満であった。
【0075】
(網膜下注射)
XIAPおよびGFPのいずれかを搬送するrAAVを、各ラットの左眼の網膜下腔に注射した。右眼は無処置のコントロールとした。ラットには、2%のイソフルオラン(isofluorane)ガスの吸入によって麻酔をかけた。1%のトロピカミド(Mydriacyl; Alcon Canada社、Mississauga, ON、カナダ)および2.5%のフェニレフリン塩酸塩(Mydfrin; Alcon社)を用いて、眼球を拡張した。プロパラカイン塩酸塩の液滴(0.5%、Alcaine; Alcon社)を、局所麻酔として投与した。疼痛管理をブプレノルフィンの注射(0.04mg/kg)によって達成した。作業全体を通じて潤滑性を維持するために、0.3%のヒプロメロース(Gentealゲル; Novartis Pharmaceuticals Inc.社、Mississauga, ON、カナダ)を眼に塗布した。20ゲージのV型ランスナイフ(Alcon社)を用いて角膜輪部の約2mm後ろ側に強膜切開術を行うことによって、網膜下注射を実施した。レンズに接触すると白内障の発達を誘発する可能性があるので、レンズには接触しないように注意をした。Gentealでコーティングしたカバーガラスを眼球上に設置して、眼球の後ろ側を拡大して可視化した。10mlのシリンジに取り付けた33ゲージの先端がとがっていない針(Hamilton Company社、Reno, NV)を強膜の穿刺を通して挿入して側方へレンズまで誘導し、網膜を通して挿入した。フルオレセイントレーサー(50:1v/v)と組み合わせた2μLの体積を有するrAAV−XIAPまたはrAAV−GFPを、眼の網膜下腔に送達した。上記フルオレセインによって、注射位置を即時に可視化および評価することが可能になり、網膜下への送達の成功が確認できるようになる。注射は、一貫した方法で、12:00の位置と2:00の位置との間に施された。術後のケアは、抗菌剤である0.3%のシプロフロキサシン塩酸塩(Ciloxan; Alcon社)および非ステロイド性抗炎症剤である0.03%のフルルビプロフェンナトリウム(Ocufen; Allergan, Irvine, CA)を、注射後5日間投与することからなっていた。
【0076】
(網膜剥離)
上記ウイルス注射の約2週間後に、各ラットの左眼に網膜剥離を形成した。この剥離は、10mg/mlのヒアルロン酸ナトリウム(Healon; AMO社、Santa Ana, CA)を、ウイルス注射の部位付近の網膜下腔に注射することによって形成した。網膜の約1/3〜1/2を剥離させて、残りの付着している部分を放置して内部コントロールとした。剥離から24時間後、3日後、および、2ヶ月後に、動物に対してサンプリングを行った。
【0077】
(カスパーゼアッセイ:剥離から24時間後)
剥離形成から24時間後に、剥離を形成しなかった右網膜(内部コントロール)、および、左網膜の剥離した部分を、XIAP(N=15)ラットおよびGFP(N=15)ラットから回収し、タンパク質を抽出した(Zacks et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2004;45:4563-4569.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。カスパーゼ9の活性は、製造業者の指示にしたがってCaspase 9 Colorimetric Assay Kit(BioVision Research Products社、Mountain View, CA)を用いて測定した。このアッセイは、標識済みの基質LEHD−pNAから切断された後の発色基質由来のp−ニトロアニリド(“pNA”: chromophore p−nitroanilide)の検出に基づいている。カスパーゼ3の活性は、製造業者の指示にしたがってCaspase 3 Colorimetric Assay kit(Chemicon International社、Billerica, MA)を用いて測定した。このアッセイは、活性化されたカスパーゼ3によるpNADEVD基質の切断に基づいている。
【0078】
(組織の固定化および処理)
致死量のEuthansolをラットに注射し、組織構造を保存するために、続いて4%のパラホルムアルデヒド(PFA)を用いて灌流した。核形成および埋め込み時に向きの確認ができるように、白色の高温の針を用いて左眼に傷をつけた。固定液の貫入を可能にすべく、眼球に針で穴を開け、眼球を4%のPFA中に一晩放置した。そして、この試料に対して一連の脱水ステップを実施して、最後にパラフィンに埋め込んだ。眼球から、組織学的解析用に10mmの切片を作製した。
【0079】
(組織学的解析)
網膜剥離の場所を確定するために、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を10mmの切片に対して実施した。一旦剥離を特定した後は、XIAPまたはGFPの存在を確認するために、続くスライドを免疫組織学的解析にかけた。XIAPは、抗HAマウスIgG一次抗体(Roche Applied Science社、Laval, QC)、続いて、ヤギの抗マウスIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.社、West Grove, PA)を用いて検出した。GFPは、抗GFPウサギIgG(Invitrogen社、Eugene, OR)、続いて、ヤギの抗ウサギIgG(Invitrogen社、Eugene, OR)を用いて検出した。B630モノクローナル抗体を用いてロドプシンを検出した。核染色剤4’,6’−ジアミンジノ−2−フェニルインドール塩酸塩(“DAPI”:4’,6’− diamindino−2−phenylindole)を用いて、27スライドを対比染色した。Zeiss AxioCam HRcカメラを搭載したZeiss Axioskop光学顕微鏡を用いて、画像を取得した。
【0080】
(タネル(“TUNEL”;Terminal uridine deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling)染色)
TUNEL染色を行って、XIAPを用いて処置した試料とGFPを用いて処置した試料との、剥離から3日後の剥離領域におけるアポトーシスのレベルを比較した。Apoptag Peroxidase in situ Apoptosis Detection Kit(Chemicon社、Temecula, CA)を用いて、TUNEL陽性細胞を検出した。観察者による偏りを取り除くために、TUNEL陽性細胞は、数学ソフトウェアであるMATLAB(R2007a版、The Mathworks Inc.社)を用いて開発されたプログラムを用いて検出した。このプログラムによって、剥離した網膜の外顆粒層(ONL)のPhotoshop画像(Adobe Systems Inc.社)を分析した。TUNEL陽性を示す神経核を特定し、RGB値を記録した。上記ソフトウェアで画像を画素ごとに走査して、陽性の神経核のRGB値の2つの標準偏差の範囲内にある画素の個数を決定した。そして「TUNEL陽性」を示す画素の個数を全組織の画素で割って、その切片の「TUNEL陽性」を示す画素の比を求めた。
【0081】
(網膜の厚さの比較)
剥離から2ヶ月後にサンプリングを行った眼球を、組織学的解析用に処置した。H&Eで染色した10μmの切片の画像を撮影した。剥離した網膜のONL全体の核層の個数を、同一網膜の剥離していない部分のONL全体の核層の個数で割って得られる比として、ONLの厚さを測定した。網膜の厚さは視神経からの距離にともなって変化する。ONLの測定が視神経乳頭から同じ距離で行われることを保証するために、内顆粒層(“INL”;inner nuclear layer)の厚さをコントロールとして使用した。剥離していない領域および剥離した領域のどちらの場合にも、各個体について少なくとも4回のカウントを行って、平均値を求めた。
【0082】
<実施例4.X連鎖アポトーシス抑制タンパク質>
(カスパーゼ活性のアッセイ)
rAAV−GFPを、光受容体の変性速度を示すベクターおよび外科的コントロールとして用いた。rAAV−GFPが神経保護の効果を有することを示す証拠も、光受容細胞の変性を加速することを示す証拠も存在しない。rAAV−GFPを導入した眼(GFPOS)の網膜剥離によって、剥離を形成しなかったそのままの網膜に比べると、予想通りカスパーゼ3およびカスパーゼ9の活性が上昇した(図6参照)。XIAPを用いて処置した網膜(XIAP−OS)におけるカスパーゼ活性レベルは剥離が誘発する上昇を一切示さず、対応する剥離していないコントロールとほぼ同じであった。すべてのカスパーゼ活性を剥離から24時間後(この時点でカスパーゼ活性がピークに達することは、上記の記載において示した)に測定した。
【0083】
(TUNEL分析)
網膜の形成から3日後に眼球をサンプリングし、免疫組織化学およびTUNEL分析用に埋め込み、切片を作製し、処置した。3日という時点を選択した理由は、動物モデルにおける先行する実験研究が、網膜剥離から3日後にTUNEL陽性染色のピークを示していたからである(Zacks et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2003;44:1262-1267., Lewis GP, Charteris et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 2002;43:2412-2420.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。rAAV−GFPのウイルス注射およびrAAV−XIAPのウイルス注射のどちらの場合にも、免疫組織化学によって強い発現を確認した(図7A、図7B参照)。GFPまたはXIAPの抗体によって、網膜剥離領域中の光受容細胞の細胞体並びに内節および外節において、強い染色が特定された。このシグナルが完全な剥離を常にカバーするわけではなく、網膜の剥離していない部分においても時折見られる。このことは、ウイルスの導入と剥離とが常に完全には重なっていないことを示唆している。TUNEL染色をコンピュータによって自動的に数値化することによって、rAAV−XIAPで処置した眼の方が、rAAV−GFPで処置した眼に比べてTUNEL陽性細胞が少ないことが示される(図7C〜図7E参照)。XIAPに関連するTUNEL陽性細胞の個数の減少は、GFPを用いて処置した眼と比較すると統計的有意性を有するには到らないものの、この結果はXIAPに関連するカスパーゼの減少とのよく相関している(図6参照)。
【0084】
(慢性的剥離における光受容体の生存)
光受容細胞の長期間にわたる構造の保護を評価するために、網膜剥離から2ヶ月後にサンプリングした眼球に対して組織学的検査を実施した。GFP(図8A、図8B参照)またはXIAP(図8D、図8E参照)に対する免疫組織化学を用いて、rAAVウイルスを注射した部位を可視化して、これを組織学的検査と関連付けた。形態学的な差異が、XIAPを用いて処置した網膜とGFPを用いて処置した網膜との間に観察された。XIAPを用いて処置した試料の内節および外節の方が、同じ眼球の剥離していない領域よりは組織化の度合いが低かったものの、GFPを用いて処置した網膜に比べれば一般に組織化の度合いが高かった。ロドプシン染色によって、保存された光受容細胞は生存可能であり、機能性タンパク質を生成したことが確認された(図8C、図8F参照)。ONL中の光受容細胞の核の層をカウントし、rAAV−XIAPおよびrAAV−GFPのいずれかを用いて処置した剥離網膜と、正常な剥離していない網膜との間で比較した。眼の周縁に向かって自然に発生する網膜厚の減少の影響を排除するために、カウントは、常に視神経から鉛直方向の経線に沿って同じ距離で実施した。全般的に、XIAPを用いて処置した剥離網膜では、ONLが非常によく保存されていた(図8および図9参照)。これらの網膜は、4〜8の核層を有していた(一方で、同じ眼球の剥離していない領域では6〜11の核層を有していた)。GFPを用いて処置した剥離網膜は、0〜7の核層を有していた(一方で、同じ眼球の剥離していない部分では6〜14の核層を有していた)。各動物について、剥離していない領域に対する、剥離した領域のONL核の比を算出した(図9E参照)。
【0085】
<実施例5.網膜のアポトーシスに対するMETの効果>
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験において、標準化動物モデル(ラット)を用いて、網膜剥離を形成した。網膜剥離時に、3つの化合物(mMET、MET、DMSO)のうちの1つを注射した。剥離から72時間後に眼球を回収し、TUNEL染色を実施するための処置を行った。METによって、TUNEL陽性細胞の個数が大幅に減少した(図10参照)(つまり、アポトーシスを起こした細胞の個数が減少した)。
【0086】
本発明の実施形態を完成させる過程において実施した実験において、標準化動物モデル(ラット)を用いて、網膜剥離を形成した。剥離から24時間後に眼球を回収し、カスパーゼ8の活性アッセイを実施するために処置を行った。カスパーゼ8は、FAS受容体の活性化の最初の下流ターゲットである。カスパーゼ8の活性が増加するということは、FAS受容体の活性化の程度が高いことを意味する。α−Met(実験用化合物)は、網膜剥離が引き起こすカスパーゼ8の活性の増加を防止した(図11参照)。同様の結果が、経路のさらに下流側の別の2つのカスパーゼ(カスパーゼ3およびカスパーゼ9)についても観察された。
【0087】
<実施例6.組成物および方法>
1%のヒアルロン酸を網膜下注射することによって、Brown Norwayラットにおいて網膜のRPE脱離を形成した。Met12は腫瘍性タンパク質MetのFas結合細胞外領域に由来する。このMet12を、脱離時に網膜下腔に注射した。同様に投与した変異体ペプチドまたは媒体を、不活性な状態のコントロールとして使用した。Met12の存在下で、または、非存在下でFas活性化抗体を用いて、661W細胞において外因性のアポトーシス経路を誘発した。カスパーゼ3、カスパーゼ8、および、カスパーゼ9の活性を、網膜からの抽出物および細胞の可溶化物において熱量測定アッセイおよび発光性アッセイを用いて測定した。タネル(“TUNEL”;terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick−end labeling)を、脱離から3日後に網膜の切片において実施した。組織学的検査を、網膜剥離から2ヶ月後に網膜の切片において実施した。
【0088】
(網膜剥離の実験用モデル)
ケタミン(100mg/ml)とキシラジン(20mg/ml)との50:50の混合物を用いてラットに麻酔をかけ、局所的にフェニレフリン(2.5%)およびトロピカミド(1%)を用いて瞳孔を拡張した。20ゲージのマイクロ硝子体網膜用刃(Walcott Scientific社、Marmora, NJ)を使用して、レンズの損傷を慎重に回避しながら、角膜輪部の2mm後ろ側に強膜切開術を行った。手術用顕微鏡で直接可視化しながら、グレーザ式網膜下注射器(Glaser subretinal injector)(先端は32ゲージ;BD Ophthalmic Systems社、Sarasota, FL)を、上記強膜切開術によって硝子体腔中へ導入し、次に周縁の網膜切開術によって網膜下腔に導入した。ヒアルロン酸ナトリウム(10mg/ml)(Pharmacia and Upjohn Co.社、Kalamazoo, MI)をゆっくり注射して、神経感覚網膜をその下層にある網膜色素上皮から剥離させた。すべての実験において、鼻の上の神経感覚網膜の約1/3〜1/2を剥離させた。網膜の細胞数を直接比較できるように、試験に用いたすべてのラットの同じ位置に剥離を形成した。剥離は左眼に形成し、右眼はコントロールとして放置した。一部の眼では、ハミルトンシリンジ(Hamilton Company社、Reno, NV)を用いて、野生Met型のYLGA 12−mer(HHIYLGAVNYIY(配列番号1)、Met12、50μg)、変異体Met12−mer(HHGSDHERNYIY(配列番号2)、mMet、50μg)、または、媒体(DMSO)を、剥離領域の網膜下腔に10μlの体積で剥離形成の直後に注射した。
【0089】
(細胞培養)
10%のウシ胎仔血清、300mg/Lのグルタミン、32mg/Lのプトレシン、40μL/Lのβ−メルカプトエタノール、40μg/Lのヒドロコルチゾン21−半コハク酸塩、および、40μg/Lのプロゲステロンを含有するダルベッコ変法イーグル培地中で、661Wの株化細胞を維持した。この培地は、さらに、ペニシリン(90ユニット/ml)およびストレプトマイシン(0.09mg/ml)を含有していた。5%の二酸化炭素および95%の空気からなる加湿雰囲気中で、細胞を37℃で増殖させた。
【0090】
(カスパーゼ活性のアッセイ)
カスパーゼ3、カスパーゼ8、および、カスパーゼ9の活性を、製造業者の指示にしたがって、比色分析によるテトラペプチド切断アッセイキット(Bio−Vision社、Mountain View, CA)を用いて測定した。網膜のタンパク質を、前記のプロトコール(Zacks et al. IOVS 2003;44(3):1262-1267.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)にしたがってすべて抽出した。剥離していない網膜および剥離した網膜のいずれかから取得した総量が100μgの網膜のタンパク質を、カスパーゼ3基質(DEVD−pNA)、カスパーゼ8基質(IETD−pNA)、または、カスパーゼ9基質(LEHD−pNA)とともに200μMの最終濃度で60分間インキュベートした。マイクロプレート読み取り装置(Spectra−MAX 190, Molecular Devices社、Sunnyvale, CA)において、吸光度を405nmで測定した。ネガティブコントロールとして、網膜のタンパク質を、テトラペプチドを含まないアッセイバッファとともにインキュベートした。別のネガティブコントロールとして、アッセイバッファだけをテトラペプチドとともにインキュベートした。ポジティブコントロールとして、精製済みカスパーゼ3、カスパーゼ8、または、カスパーゼ9をテトラペプチドのみとともにインキュベートした。剥離した網膜におけるカスパーゼ活性を、同時点における剥離していない網膜におけるカスパーゼ活性に対して正規化した。各グループについて、データは、複数(例えば5個)の互いに独立した試料の平均のカスパーゼ活性レベルを表わしており、各試料は5個の眼球から得られたタンパク質からなる。
【0091】
細胞培養実験において、カスパーゼ8の活性を、市販の発光性テトラペプチド(“LETD”;luminescent tetrapeptide)切断アッセイキット(Promega社、Madison, WI)を用いて測定した。661W細胞を、処置に先立って、96個のウェルを有するプレート(Nunc社、Rochester, NY)において1ウェル当たり1500個の細胞の割合で24時間播種した。細胞は、500ng/mlのFas拮抗性のJo2モノクローナル抗体(BD Biosciences社、San Jose, CA)で処置する前に、さまざまな濃度のMet12、mMet、または、媒体で1時間前処置された。製造業者の指示にしたがって96個のウェルを有するプレートにおいて上記細胞を発光促進性基質ともにインキュベートすることによって、カスパーゼ8の活性をさまざまな時点で測定した。コントロールには、無処置の細胞と細胞を含まないウェルとを含めた。プレート読み取り装置ルミノメーター(Turner Biosystems社、Sunnyvale CA)において、発光を測定した。
【0092】
(ウエスタンブロット分析)
剥離を起こした実験用眼球から得られた網膜と、剥離を起こしていないコントロール眼球から得られた網膜とを、RPE脈絡膜から切除し、ホモジナイズし、バッファ液に溶解させた。このバッファ液は、10mMのHEPES(pH値7.6)、0.5%のIgEPal、42mMのKCl、1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1mMのジチオスレイトール(DTT)、および、5mMのMgClを含有し、さらに、バッファ液10ml当たり1錠剤のプロテアーゼ抑制剤(Complete Mini; Roche Diagnostics GmbH社、Mannheim,ドイツ)。上記ホモジネートを氷上でインキュベートし、22,000g、4℃で60分間遠心分離した。そして、上清のタンパク質濃度を決定した(DC Protein Assay kit; Bio−Rad Laboratories社、Hercules CA)。上記タンパク質試料を装填して、SDSポリアクリルアミドゲル(Tris−HCl Ready Gels; Bio−Rad Laboratories社)上で流動させた。電気泳動によって分離した後に、上記タンパク質をフッ化ビニリデン樹脂(“PVDF”;polyvinylidene fluoride)膜(Immobilon−P; Amersham Pharmacia Biotech社、Piscataway, NJ)上に転写した。タンパク質のバンドをPonceau S染色法で視覚化し、各レーンを、すべてのレーンにわたって存在する非特異的なバンドの濃度によって等しいロード量となるようにして評価した。次に、製造業者の指示にしたがって、膜を、切断されたカスパーゼ3、切断されたカスパーゼ8、および、切断されたカスパーゼ9(Cell Signaling Technology社、Danvers, MA)について免疫ブロットした。
【0093】
(TUNEL染色および組織学的解析)
剥離の形成からさまざまな期間の後に、動物を安楽死させて、眼球を除核した。TUNEL染色を行うために、眼球全体を、4%のパラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝食塩水(pH値7.4)中で4℃で一晩固定した。上記標本をパラフィンに埋め込んで、5μm〜6μmの厚さの切片を作製した。ApopTag Fluorescein In Situ Apoptosis Detection Kit(Millipore社、Billerica, MA)を用いて、製造業者の指示にしたがって、上記切片に対してTUNEL染色を実施した。光学顕微鏡分析を行うために、0.1%のホウ酸バッファ中で0.5%のトルイジンブルーを用いて、パラフィン切片を染色した。
【0094】
(細胞のカウントおよび網膜厚の測定)
光受容細胞のアポトーシスを、外顆粒層(ONL)中のTUNEL陽性を示すすべての細胞の割合(%)として数値化した。切片ごとに、網膜剥離の高さが最大の箇所における3つの重畳しない強拡大視野(40×)を選択し、平均を求めた。ただし、重畳しない強拡大視野が3つ未満の場合には、3つ未満の視野を使用した。眼球ごとに、1つの代表的な切片を使用した。ONL中の細胞の総数を同様に測定した。網膜全体の厚さ(ONLの外側よりの縁部から内側の境界膜まで)を、切片ごとに網膜剥離の高さが最大の箇所における3つの重畳しない強拡大視野(40×)のそれぞれの3箇所で測定し、各眼球について平均値を求めた。光受容細胞内節および外節は、網膜全体の厚さの測定には含めなかった。これは、神経感覚網膜の剥離後にこれらの部分の退縮にバラツキがあり、光受容細胞の再付着後の生存可能性と必ずしも相関しないからである(Zou et al. Nat Med. 2007 Sep;13(9):1078-85., Guerin et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1993;34(1):175-183.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。トルイジンブルーで染色した標本については、切片を作製する角度において起こり得る差異による影響を排除して試料間の比較を可能にするために、ONLの細胞数を各切片の網膜全体の厚さ(つまり、網膜全体の厚さで割ったONLの細胞数)に正規化した。ラット実験の各グループのONLの細胞数および網膜全体の厚さも、試料間の比較を可能にするために、当該グループの剥離していない網膜の対応する値に正規化した。各実験グループについて、眼球ごとに動物が異なる複数(例えば10個)の眼球から得られた複数(例えば3つ)の切片に対して測定を行った。
【0095】
<実施例7.Met12のインビトロ分析>
661Wの株化細胞は、ヒトの光受容体間レチノール結合タンパク質(“IRBP”;interphotoreceptor retinol−binding protein)プロモーターの制御下においてSV40−T抗原の発現によって不死化された光受容株化細胞である(Al-Ubaidi et al. J Cell Biol. 1992; 119(6):1681-1687.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。661W細胞は、青色および緑色の錐体視物質、トランスデューシン、ならびに、錐体アレスチンを含めた、錐体光受容細胞マーカーを発現させ(Tan et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2004; (3):764-768.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)、カスパーゼが誘発する細胞死を起こす(Kanan et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2007; 48(1):40-51.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。本発明を完成させる過程において以前に実施した実験によって、Fasシグナル伝達が、インビボにおけるカスパーゼ8の活性化および光受容細胞のアポトーシスにおいて決定的な役割を果たすことが実証される。661W細胞をFas活性化抗体(Fas−Ab)を用いて処置した。Fas−Abを添加すると、細胞死が起こった。661W細胞の可溶化物において測定したカスパーゼ8の活性は、Fas−Abの濃度の増加にともなって上昇し、投与量が500ng/mlの場合にピークに達する(図12A参照)。661W細胞を、500ng/mlのFas−Abを用いて処置し、活性レベルをさまざまな時点で測定した。カスパーゼ8の活性は、Fas−Abに曝露された661W細胞において、48時間後に大幅に増加した(図12B参照)。
【0096】
MetはFas経路を抑制する。低分子の12−merペプチドであるMet12はMetのFas結合YLGAモチーフの周囲のアミノ酸を含有し、FasLが誘発するアポトーシスからジャーカット細胞(Jurkat cells)を保護する(Zou et al. Nat Med. 2007 Sep;13(9):1078-85.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。661W細胞を、Met12または不活性な変異体ペプチドであるmMetの存在下でFas−Abを用いて処置した。なお、mMet中では、YLGAモチーフを含む中心の6個のアミノ酸がランダムに変化している。処置から48時間後に、カスパーゼ8の活性をFas受容体経路活性化の尺度として決定した。Fas−Abが誘発するカスパーゼ8の活性化は、Met12で処置することによって、投与量に依存して抑制された(図12C参照)。これとは対照的に、細胞をmMetペプチドまたは媒体だけで処置しても、Fasが誘発するカスパーゼ8の活性化に対して一切効果はなかった。661W細胞のFas細胞死受容体経路は変化しない。Met12ペプチドは、インビトロの光受容細胞モデルにおいてFasシグナル伝達を抑制することができる。
【0097】
<実施例8.Met12のインビボの効果>
本発明を完成させる過程において実施した実験によって、網膜剥離が、Fas/FasL経路の活性化およびカスパーゼ8の切断を引き起こすことが実証された(Zacks et al. IOVS 2003;44(3):1262-1267., Zacks et al. Arch Ophthalmol 2007;125:1389-1395., Zacks et al. IOVS 2004;45(12):4563-4569.8.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。網膜剥離から24時間後の光受容細胞カスパーゼ8の活性化に対するMet12の効果を調べた。ラットの網膜を、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体の存在下で剥離させた。剥離していない網膜と比較すると、媒体またはmMetを注射した剥離網膜において、カスパーゼ8の活性が大幅に増加した(図13参照)。網膜剥離時のMet12ペプチドの網膜下注射によって、カスパーゼ8の活性が約50%低下した。これらの結果によって、661W細胞と同様に、剥離網膜をMet12で処置すると、光受容細胞において、Fasが誘発するカスパーゼ8の活性化が抑制されることが実証された。
【0098】
齧歯類の光受容細胞のアポトーシスの際に、Fas/FasLシグナル伝達は、内因性の死経路の上流調節因子として作用する。このことは、FasおよびFasLのいずれかに対する中和抗体を、剥離した網膜下腔に注射した後にカスパーゼ9の活性を低下させることによって実証される(Zacks et al. IOVS 2004;45(12):4563-4569.8.、この文献はその全体が参照によってここに引用されるものとする)。カスパーゼ3およびカスパーゼ9の活性レベルを、網膜剥離から24時間後にMet12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体の存在下で測定した。Met12を網膜下に注射することによって、カスパーゼ3の活性が24時間後に約50%低下した(図13参照)。同様に、Met12を注射した剥離網膜において、カスパーゼ9の活性も約50%低下した(図13参照)。これとは対照的に、mMetを網膜下注射しても、これらいずれのカスパーゼの活性レベルにも影響しなかった。カスパーゼ3および9の切断と同様に、プロカスパーゼ8が切断されたカスパーゼ8に変換したことが、ウエスタンブロットで確認された(図13参照)。これらの結果によって、Met12が誘発するFas受容体の抑制が、剥離した光受容細胞において内因性細胞死経路の活性化の低下を引き起こすことが実証された。
【0099】
齧歯類の眼球において、TUNEL染色のピークは網膜のRPE脱離から3日後に発生して、TUNEL陽性細胞が急速に減少して7日目までに脱離前のレベルに達する(Zacks et al. IOVS 2003;44(3):1262-1267., Zacks et al. Arch Ophthalmol 2007;125:1389-1395.、いずれの文献もその全体が参照によってここに引用されるものとする)。ラットの網膜をMet12、mMet、または、媒体の存在下で剥離させた。網膜剥離から3日後には、TUNEL陽性細胞は、光受容細胞のONLにしか見られなかった(図14A参照)。脱離から3日目に、ONL細胞の約5%がTUNEL陽性を示した(図14B参照)。Met12を網膜下腔に注射することによって、TUNEL陽性を示す光受容細胞は、mMetを注射した脱離網膜と比較すると、〜約77%少なくなった(図14B参照)。媒体だけを注射しただけでは、肉眼で見えるほどの組織学的な変化は一切検出することができなかった。
【0100】
ラットの網膜を上述のように剥離させて、剥離時にMet12、mMet、または、媒体を網膜下腔に注射した。2ヶ月後に、剥離した網膜は、剥離していない網膜に比べて、ONLの厚さが大幅に低下した(図15A参照)。Met12を注射したラットの網膜は、網膜剥離から2ヶ月が経過したmMetを注射した網膜に比べて、ONLの細胞数が37%増加し(図15B参照)、かつ、ONLの厚さの測定値が27%増加した(図15C参照)。これらの結果によって、Fasシグナル伝達およびカスパーゼ活性化をMet12によって抑制することによって、網膜がRPEから脱離した状態が長期間継続した後でも、光受容細胞の生存率が増加することが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、剥離していない網膜および剥離した網膜において、活性型STAT1のレベルおよび活性型STAT3のレベルのウエスタンブロット解析を示している。一番左の2つのレーンは剥離から1日、中央2つのレーンは剥離から3日、一番右の2つのレーンは剥離から7日が経過したものである。網膜のRPE脱離を左眼に形成した。剥離していない網膜を同じ動物の反対側の眼から得た。すべてのレーンについてロード量が等しいことを確認した。
【図2】図2は、野生型マウスの網膜のTUNEL染色と、剥離から3日で回収したIL6−/−型マウスの網膜のTUNEL染色との対比をして示している。AおよびBは野生型マウスであり、CおよびDはIL−6−/−型マウスである。AおよびCはTUNEL陽性細胞のフルオレセインイソチオシアネート(“FITC”;fluorescein isothiocyanate)蛍光を示し、BおよびDはすべての核のヨウ化プロピジウム(“PI”;propidium iodide)蛍光を示している。Eは、野生型マウスの網膜および剥離から3日のIL−6−/−型マウスの網膜のTUNEL染色の結果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【図3】図3は、野生型マウスにおける外顆粒層の細胞数と、と網膜剥離後のIL6−/−型マウスにおける外顆粒層の細胞数との対比を示している。A〜Cは野生型マウス、D〜FはIL−6−/−型マウスである。AおよびDは剥離していない網膜であり、BおよびEは剥離を形成してから1ヶ月で回収した網膜であり、CおよびFは剥離を形成してから2ヶ月で回収した網膜である。Gは、野生型マウスおよびIL−6−/−型マウスにおいて、網膜剥離から1ヶ月および2ヶ月の網膜全体の単位厚さ当たりのONLの細胞数をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【図4】図4は、IL−6中和抗体または外来性IL−6を用いて処置を行った、剥離したラットの網膜のTUNEL染色を示している。AおよびBは剥離形成時にのみ媒体を網膜下注射した場合であり、CおよびDは剥離形成時に0.15μgの抗IL−6中和抗体(NAB)を網膜下注射した場合であり、EおよびFは剥離形成時に15ngの外来性IL−6を網膜下注射した場合である。A、C、および、EはTUNEL陽性核のFITC蛍光を示し、B、D、および、Fはすべての核のPI蛍光を示している。Gは、剥離から3日で行ったラットの網膜のTUNEL染色における、網膜下における抗IL−6 NABおよび外来性IL−6の効果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【図5】図5は、ラットの網膜の外顆粒層の細胞数について、IL−6中和抗体の効果と外来性IL−6の効果との対比を示している。Aは剥離していない網膜である。BおよびCは、剥離形成時にのみ媒体を網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。DおよびEは、剥離形成時に0.15μgの抗IL−6 NABを網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。FおよびGは、剥離形成時に15ngの外来性IL−6を網膜下注射した後、それぞれ1ヶ月および2ヶ月で回収した網膜である。Hは、網膜剥離から1ヶ月および2ヶ月後のラットの網膜の外顆粒層の細胞数について、網膜下における抗IL−6 NABおよび外来性IL−6の効果をまとめたグラフである。結果は平均値±平均値の標準誤差で示す。
【図6】図6は、GFPを用いて処置した網膜およびXIAPを用いて処置した網膜における、網膜剥離後のカスパーゼ3およびカスパーゼ9のアッセイを示している。動物の左眼(OS)について、rAAV−GFPまたはrAAV−XIAPの網膜下注射後に、網膜を剥離した。右眼(OD)を無処置のコントロールとして用いた。
【図7】図7は、GFP(A)に対する抗体、およびXIAP(B)のHAタグに対する抗体の免疫組織化学によって、両方のrAAV構築物から、細胞体ならびに光受容細胞の内節(“IS”;inner segment)および外節(“OS”;outer segment)において、強力な過剰発現が起きていることが確認できたことを示している。GFPおよびXIAPに対する一次抗体コントロールが、それぞれCおよびDにおいて一切示されていない。TUNEL分析によって、GFPを用いて処置した網膜の方が、XIAPを用いて処置した網膜に比べて、アポトーシスを起こした核が多いことが確認できた(EおよびFにおける茶色の色素、および、挿入図の黒い矢印)。TUNEL陽性の個数(ボックスプロット、G)は、免疫組織化学の結果を支持していた。各ボックスには25%から75%までの間の値が入り、ボックス内の線は中央値を示している。各ボックスの上および下のバーは、それぞれ90%および10%を示している。ボックスプロットは、SigmaPlot(バージョン8.0、SPSS Inc.社)を用いて作成した。ONLは外顆粒層を指す。
【図8】図8は、GFP(AおよびB)ならびにXIAP(DおよびE)の免疫組織化学によって、剥離から2ヶ月後に発現が継続していることが確認できたことを示している。ウイルス性導入遺伝子を発現する光受容細胞が多数死んでしまったので、GFPシグナル(緑色)は微弱であった。これとは対照的に、XIAPシグナル(赤色)は明るく、これにともなって光受容細胞の個数が増加した。なお、XIAPシグナルが抑制された網膜の領域(矢頭)では、光受容細胞の喪失が著しかった。GFPを注射した(C)網膜およびXIAPを注射した(F)網膜におけるロドプシン染色(赤色)は、維持された光受容細胞が機能性タンパク質を合成することができることを示している。外顆粒層を矢印で示す。拡大率を示すバーは50mmである。
【図9】図9は、XIAPを用いて処置した動物およびGFPを用いて処置した動物において、剥離していない網膜(AおよびC)と剥離した網膜(BおよびD)との比較を示している。剥離から2ヶ月後には、XIAPを用いて処置した網膜(D)の方が、GFPを用いて処置した網膜(B)に比べて一貫して厚く、かつ内節および外節はより組織化されていた。眼の剥離領域のONL中の核層の個数を、同じ眼の剥離していない網膜のONL中の核層の個数によって割ることによって、比を求めた(E)。拡大率を示すバーは50mmである。
【図10】図10は、網膜剥離後のTUNEL陽性細胞の個数に対する、METの効果を表わすグラフを示している。
【図11】図11は、網膜剥離によって誘発されるカスパーゼ活性に対する、METの効果を表わすグラフを示している。
【図12】図12は、Fasが誘発するカスパーゼ8の活性化が661W細胞中のMet12によってブロックされることを示している。A)661W細胞を、さまざまな濃度のFas活性化抗体(“Fas−Ab”;Fas−activating antibody)を用いて処置した。カスパーゼ8の活性を48時間後に測定した。処置を行わなかった場合と比較すると、カスパーゼ8の活性の増加は、Fas−Abのどの濃度についても統計学的に有意であった。B)661W細胞を500ng/mlのFas−Abを用いて処置し、カスパーゼ8の活性をさまざまな時点で測定した。データを各時点において無処置のコントロールに正規化した。C)661W細胞を、Met12、mMet、または、媒体(DMSO)の存在下で500ng/mlのFas−Abを用いて処置した。コントロールグループに対してはFas−Abを用いた処置を行わなかった。カスパーゼ8の活性を48時間後に測定した。
【図13】図13は、Met12がカスパーゼの活性化を抑制することを示している。A)剥離した網膜の網膜下腔にMet12を注射すると、カスパーゼ8の活性が低下する。ラットの網膜を、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で剥離させた。このように剥離させてから24時間後に、回収した網膜において、カスパーゼ8の活性化を測定した。データは、剥離していない網膜を基準として、剥離した網膜におけるカスパーゼ活性の増加倍率で表わされる。ウエスタンブロットは、Met12の存在下ではカスパーゼ8の切断が減少することを示している(挿入図)。可溶化液の試料(ブランク)も、組換え型カスパーゼ8も一切含まないアッセイコントロールを図中に示す。B)網膜剥離時にMet12を用いて処置することによって、カスパーゼ3の活性が大幅に低下した。C)カスパーゼ9の活性も、Met12によって大幅に低下した。データは、剥離していない網膜を基準として、剥離した網膜におけるカスパーゼ活性の増加倍率で表わされる。可溶化液の試料(ブランク)も、組換え型カスパーゼ8またはカスパーゼ9も含まないアッセイコントロールを図中に示す。
【図14】図14は、Met12が誘発するFas経路のシグナル伝達の抑制によって、光受容細胞がアポトーシスカスケードに入ることが防止されることを示している。ラットの網膜を、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で剥離させた。眼を72時間後に除核し、TUNEL染色のために網膜から切片を作製した。A)網膜剥離から72時間後の、TUNEL染色済み光受容細胞の代表的な顕微鏡写真である。網膜細胞の核はヨウ化プロピジウム(PI)で染色されている。INLは内顆粒層(Inner nuclear layer)、ONLは外顆粒層(Outer nuclear layer)を示す。B)ONL中のTUNEL陽性細胞を数値化した結果を示す。平均値±S.E.、n=3〜6である。剥離していない網膜のONL中には、TUNEL染色された細胞が一切存在しなかった。
【図15】図15は、カスパーゼ活性化の低下、および、TUNEL陽性細胞の個数が、光受容細胞の長期生存の向上に関係することを示している。剥離時に網膜下腔に注射された、Met12(50μg)、mMet(50μg)、または、媒体(DMSO)の存在下で、網膜は剥離された。眼を剥離から2ヶ月後に除核し、パラフィン切片を0.5%のトルイジンブルーを用いて染色した。A)代表的な顕微鏡写真である。INLは内顆粒層(Inner nuclear layer)、ONLは外顆粒層(Outer nuclear layer)を示す。B)網膜の厚さに対して正規化されたONLの細胞数を示す。C)網膜の厚さに対して正規化されたONLの厚さを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光受容細胞保護性を有する組成物を投与することを含む、光受容細胞の生存率を増加させる方法。
【請求項2】
上記光受容細胞の生存率の増加が、光受容細胞のアポトーシスの抑制を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞保護性を有するポリペプチド、または、光受容細胞保護性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、IL−6またはIL−6の断片を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、XIAPまたはXIAPの断片を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
上記光受容細胞保護性を有するポリペプチドが、METまたはMETの断片を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
上記METの断片がMET12を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記METの断片がMET12に対して少なくとも70%の配列類似性を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
上記光受容細胞のアポトーシスが、FASが誘発する光受容細胞のアポトーシスを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が細胞の集団に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記細胞の集団において光受容細胞の生存率を向上させるために十分な量で投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が被験体に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記被験体が、視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患に罹患する危険性がある被験体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記被験体が、視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患に罹患している、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が、網膜剥離、黄斑変性症、網膜色素変性症、眼炎、自己免疫性網膜症、外傷、癌、腫瘍、ぶどう膜炎、遺伝性網膜変性症、糖尿病性網膜症、脈絡膜血管新生、網膜虚血、病的近視、網膜色素線条症、黄斑浮腫、または、中心性漿液性網脈絡膜症を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が網膜剥離である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記視覚的病状、視覚疾患、または、視覚の健康に影響する病状もしくは疾患が黄斑変性症である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が、上記被験体において光受容細胞の生存率を向上させるために十分な量で投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
光受容細胞保護性を有する組成物と、
点眼用に構成された薬剤キャリアとを含む、組成物。
【請求項20】
上記光受容細胞保護性を有する組成物が、光受容細胞保護性を有するポリペプチド、または、光受容細胞保護性を有するポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項19に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−519696(P2012−519696A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553091(P2011−553091)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/026112
【国際公開番号】WO2010/102052
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(506277410)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (19)
【Fターム(参考)】