説明

光合成による水素の生産

水素の生産方法であって、(i)光合成微生物であって、光合成「光」反応経路を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物を提供する段階と、(ii)該微生物をマイクロオキシック条件及び照射条件下培養する段階と、(iii)発生した水素を回収する段階とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素の生産に関し、より詳細には、天然の水素生産能を有する光合成微生物における水素生産の向上に関する。特に本発明は、ヒドロゲナーゼによって水から水素を生産できるシアノバクテリアや藻類等の光合成微生物に関する。本発明はまた、水素生産を向上させるために、これら微生物の生理機能を操作することに関する。
【背景技術】
【0002】
未来に向けて、クリーンで持続可能であると共に経済的に実行可能なエネルギー供給の開発は、我々の世代における最も切迫した課題の一つとなっている。産油量は、今後5〜30年程でピークを迎えると考えられており、経済的に利用しうる石油埋蔵量の大部分は2050年までに枯渇するとされている。しかしながら、最近の報告によれば、産油量は既に2000年がピークであった可能性が示唆されている。水素経済の実現には、クリーンで持続可能であり経済的な水素生産方法が必要となる。現在、水素生産の殆どは非再生可能資源の利用(即ち、天然ガスの水蒸気改質や石炭ガス化、更には原子力を利用した水の電気分解)に依存している。これらのアプローチは、当初は水素経済への移行を押し進めるものと思われたが、生成した水素は、その源である非再生可能エネルギー源より高価で且つ含有エネルギーが低い。更に、化石燃料と原子力の使用は持続性に欠ける。従って、経済的に実行可能である水素生産手段を確立する必要性は明白である。
【0003】
究極のエネルギー源が太陽エネルギーであることを考えると、光合成生物を利用した水素生産はとりわけ望ましい選択肢である。藻類生育池技術は光電池等の代替技術と比較して安価であると思われる。更に、そして製造時に最初のCO排出ペナルティーが課されることになる、他の全ての持続可能なエネルギーシステム(バイオマスを除く)とは対照的に、藻類は、その複雑な太陽光集光器を自ら組立てる一方、COを切り離して自らの中に取り込む(sequester)ことができるという利点を有する。従って、炭素取引が実施されるようになることを考えると、藻類の持つ固有の価値は一層注目される。
【0004】
太陽エネルギーはデンプン、その他タンパク質等の分子の形態の中に捕捉・貯蔵される。続いて、これらの分子が燃料として用いられ、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化プロセスによるATP生成を駆動する(図1)。ある種の緑藻類は、嫌気的条件下、デンプンに貯蔵されたHとeからH生産を行う能力を進化させてきた。従って、藻類のバイオリアクタを用いた水素生産が有望視されている。光合成の第一の段階において、光化学系II(PSII)により生物学において知られた酸化反応のうち最も強力な酸化反応が駆動され、HOが酸素(O)、プロトン(H)そして電子(e)に分解される(図1)。Oは大気中へ放出され、地球上の好気的生物の生命を維持する。生じたeは、光合成のe伝達鎖(図2)に沿って移動し、プラストキノン(PQ)を介してPSIIからシトクロムbf(cytbf)へ、次いで光化学系I(PSI)に至り、最終的にはNADPHの生成に用いられる。この並行プロセス(光リン酸化)において、Hはチラコイド内腔(図1)に放出されそこでH勾配が作られて、ATP合成酵素によるATP生成を駆動する。NADPHとATPは続いてデンプンや他の生体分子の生成に用いられる。
【0005】
ATPとNADPH/NADHは、全生細胞にとって必須要素である。PSIIを阻害(例えば、暗所におけるインキュベーションにより)すると、葉緑体での光リン酸化によるATPとNADPHの生成に利用されるHとeの供給が阻止される。一時的には、PSIIの阻害により引き起こされたATPとNADPHの不足は、ミトコンドリアのe伝達鎖(図1)が媒介する好気呼吸(デンプンやタンパク質、脂質の代謝)により補われ得る。名称から分かるように、酸化的リン酸化にはOが必要とされる。ミトコンドリアの複合体IVの働きにより、OはHとeに結合し、HOが生成される(HOは、本質的にHとeのシンク(sink;溜り場)として働く)(図1)。嫌気的条件下では、複合体IVの働きが阻害され、複合体I、II、III及びシトクロムオキシダーゼ(複合体IVとも呼ばれる)から構成されるe伝達鎖の残部におけるe伝達が阻止される。絶対嫌気的条件下では光合成生物の大部分が死滅する。しかしながら、緑藻類C.reinhardtii等のごく一部の光合成生物は第3の機構を有し、ATPとNADPH生成モードへ切替えることができる(図2)。光を照射した嫌気的条件において、これらの生物は葉緑体でATPを生成すると同時に、一時的なH/eのシンクとしてHOの代わりにHを生成する。このプロセスには、葉緑体のストロマに存在するヒドロゲナーゼHydAが関与している(フロリン(Florin)ら、2001、ハッペ(Happe)とカミンスキ(Kaminski)、2002)。HydAの転写及び活性は、Oによって強力に阻害される(ジラルディ(Ghirardi)ら、1997)。酸素感受性は、嫌気的条件になった時、そのことをHydAに知らせる分子制御スイッチとして働くと考えられる。
【0006】
明暗の遷移状態の光照射下におけるATPとNADPH生成の最適化のため、植物や藻類はLHC状態遷移と呼ばれるレドックス制御調節機構(redox-controlled regulation mechanism)を発達させた。このプロセスは通常、集光アンテナ(LHCIとLHCII)のサイズ調節、特にこれら2個の光化学系間にLhcbタンパク質を往復させることによって、PSIとPSIIのターノーバー速度のバランスをとる(状態1:大きなPSIIアンテナ;状態2:大きなPSIアンテナ)。緑藻C.reinhardtiiにおいては、このプロセスは線状から環状への光合成電子伝達への切替えをもたらし、その結果、PSIの還元側で、eに関しFe−ヒドロゲナーゼHydAと競合する。嫌気的条件下で状態1において阻害を受けた細胞は、Cytb6fに電子を送り返す環状電子伝達を行わない。こうした条件では、Fe−ヒドロゲナーゼHydAはもはやCytb6f媒介の環状電子伝達と競合してPSI由来の電子を獲得する必要がない。
【0007】
藻類のH生産についての最初の報告は、1930年代にまで遡る(ステファンソン(Stephenson)とスティックランド(Stickland)、1931)。光照射下でOによる阻害にきわめて敏感な反応により、一定の緑藻類とシアノバクテリアがHガスを生産できることが発見された。光合成微生物を利用しHOからHを持続的に生産させることは極めて興味深いことであったが、2000年になってメリス(Melis)とその共同研究者らがこの阻害を克服する方法について初めて報告した。(メリス(Melis)、2000、米国特許出願第2001/005343号)。メリス(Melis)が記載するプロセスでは、Oを生成するHOスプリット反応(PSIIにより触媒される)を、O感受性H生産反応(葉緑体ヒドロゲナーゼ(HydA)によって触媒される)から一時的に分離することにより阻害を解消した。この分離は、まず、硫黄存在下でC.reinhardtiiを培養して内在性基質の貯蔵庫を構築し、次いで硫黄非存在下において培養することにより達成された。硫黄は、PSIIの反応中心を構成するD1タンパク質のde novo合成に必要とされ、もちろん、その他多数の細胞構成有機成分の合成にも必要である。D1タンパク質の半減期は約30分であり、最適でない条件では自身が駆動する強力な酸化反応により損傷を受ける。硫黄存在下では、活性型PSIIが高レベルに維持され、HOはH、e及びOに分解される。硫黄欠乏培地での硫黄レベルが下がると、HydAによりHとeは再結合されてHを生産しOによるヒドロゲナーゼの阻害が解消される。これにより初めて、野生型(WT)C.reinhartiiを用いた長期に亘るH生産が容易に行えるようになった。
【0008】
しかしながら、メリス(Melis)のプロセスは、実用面で大きな制約がある。実際の水素ガス蓄積率は細胞の有する光合成能のせいぜい15〜20%(メリス(Melis)とハッペ(Happe)、2001)であり、またS欠乏下での藻類の水素生産は無期限に継続して行えないという本質的な制限がある。S除去から約40〜70時間後には収量が横ばいとなり減少し始め、S除去から約100時間後には、各種の内在性基質を補充するために、藻類は通常の光合成状態に戻る必要がある。
【0009】
国際公報WO03/067213号には、Chlamydomonas reinhardtiiを用いる水素生産プロセスが記載されており、これによると、この藻にアンチセンス配列を挿入することで遺伝的変更を加え、サルフェート透過酵素CrcpSulPの発現をダウンレギュレーションさせている。これは、水素生産を誘導するために必要とされる、含硫黄栄養素の成長培地からの物理的除去を不要とするもので、従来の硫黄除去技法を廃れさせたといわれている。この技法により細胞の硫黄取込み量を減少させると、葉緑体の主要タンパク質(ルビスコやD1、LHCII等)のレベルを実質的に低下させるだけでなく、それ以外のタンパク質の生合成に使用される硫黄も細胞から奪い取ってしまう。
【0010】
結果として、持続性があり且つ効率のよい光合成利用水素生産プロセスであって、更に硫黄除去を解消できるプロセスを見極める必要がある。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、光照射下におけるミトコンドリアの酸化的リン酸化経路の調節の崩壊によって、葉緑体中のデンプンレベルの上昇、光合成循環的電子伝達の阻害、PSIIによる酸素生産の低下という影響を細胞に与えるものの、PSI及びFdへの線形電子伝達は許容されるため、PSIからの電子を受け入れるヒドロゲナーゼ(HydA)は作用できると共に本来的な酸素阻害が低減するという驚くべき観察結果に基づくものである。
【0012】
従って、本発明はその第1の様相において、水素の生産方法であって、
(i)光合成微生物であって、光合成「光」反応を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物を提供する段階と、
(ii)該微生物をマイクロオキシック条件及び照射条件下培養する段階と、
(iii)発生した水素を回収する段階とを含む方法を提供する。
【0013】
種々の生物が、この方法に使用するのに生理学的に適している。とりわけ、水素生産の間接的基質として水を用いることができヒドロゲナーゼを含有する光合成微生物が用いられる。この例としては、シアノバクテリアや藻類、特に緑藻類だけでなく青緑藻類(例えばSynechococcus sp.)や赤藻類、特にChlorococcalesやVolvocales、とりわけChlamydomonas spp.(Chlamydomonas reinhardtii、Chlamydomonas MGA161等)、Scenedesmus spp.(Scenedesmus obliquus等)、Chlorococcum spp.(Chlorococcum littorale等)、Chlorella spp.(Chlorella fusca等)、Platymonas spp.(Platymonas subcordisiformis等)、Trichomonas spp.(Trichomonas vaginalis等)の藻類が挙げられる。中でも藻類Chlamydomonas reinhardtiiは、生物の遺伝操作のためのプロセスが十分開発されておりその一倍体ゲノムは既に配列解析されているため、特に好ましい。
【0014】
酸化的リン酸化を崩壊させる任意の適切な手段を用いることができる。一実施形態においては、微生物が、ミトコンドリアの酸化的リン酸化経路の調節を崩壊させる一手段である。この場合、moc1ノックアウトの場合と同様、酸化的リン酸化を調節する核コードミトコンドリア転写終結因子の活性を低下させるかなくすることにより崩壊を行う。このような高い水素生産能を有する変異体はChlamydomonas reinhardtii Stm6である。Stm6は、試験条件下においては野生株の3.5〜7倍の速度で水素を生産することが分かった。
【0015】
光合成電子輸送鎖からのATPシンターゼのアンカップラーを添加することにより、水素生産速度を更に上昇させることができる。アンカップラーの例としては、カルボニルシアニドm−クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)、1,3−ジクロロ−ヘキシルカルボジイミド(DCC)、塩化アンモニウム、ベンツリシジン(Venturicidin)、カルボニルシアニド p−トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)、2,4−ジニトロフェノール、グラミシジン(Gramicidin)、ニゲリシン(Nigericin)が挙げられ、これらを用いることにより野生株の約15倍の速度が達成される。このようなアンカップラーは、基本的にチラコイド内腔からストロマへのHの流れを増加させ、ストロマにおいてHはHydAの基質として利用可能となる。
【0016】
外部栄養源の存在下において好気性条件或いは嫌気性条件下、バイオマスを増大(expand)させるため、上述の微生物を照射条件下培養することができる。一実施形態においては、廃棄物流をこの培養の炭素源として用いると廃棄物流から炭素が除去されるため、これは例えば廃棄物流を処理して有機汚染物質を除去するのに有用であろう。更に、バイオマスを増大させるために、微生物を好気性条件下且つ照射条件下培養後、次の各段階、即ち、
i)増大されたバイオマスをガス化する段階と、
ii)生産された水素を回収する段階とを行うことができる。
【0017】
これは、嫌気性条件下で照射を行った場合に培養物から水素を直接回収する代替法を提供する。
【0018】
本発明はその更なる様相において、光合成微生物であって、光合成「光」反応経路を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物を提供する。
【0019】
一実施形態においては、微生物は、藻類、例えばChlamydomonas reinhardtii、特にChlamydomonas reinhardtii Stm6(2003年7月1日にCCAP受託番号11/129で藻類及び原生動物培養保存機関(Culture Collection of Algae and Protozoa)(CCAP)に寄託された)のMoc1ノックアウトである。
【0020】
本明細書中では従来技術に係る多くの刊行物に言及したが、これらの文献のいずれかがオーストラリアや他の国において当分野の共通一般知識の一部を構成しているということを自認するものではないことは明確に理解されよう。
【0021】
本明細書においては、「含む(comprising, comprises)」という単語は「含み、これらに限定されるものではない」という意味であることは明瞭に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例及び図面により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
光合成のレドックス制御調節にとって重要な細胞成分を特定するため、スクリーニングによって状態遷移が混乱した突然変異体を見出すというアプローチをとった。これは、光化学系Iと光化学系IIの間の電子の流れ(ボナベンツラ(Bonaventura)とマイエルス(Myers)、1969;ムラタ(Murata)、1969)に関与する2種の光合成反応中心の励起の平衡を維持するレドックス制御機構である。プラストキノンプール(PSIIとPSIをつなぐ光合成電子伝達鎖の一成分)が極端に低減されると、移動性集光アンテナがPSIIから離れ、続いてレドックス活性化リン酸化(redox-activated phosphorylation)が起こってPSIに入り、PSIの励起を増大させPQプールをより酸化する(いわゆる、状態2に入る)。PQがより酸化されると逆のプロセスが起こる(状態1を達成するため)(アレン(Allen)ら、1981;ホートン(Horton)ら、1981)。ラピッドクロロフィル−蛍光ベーススクリーニング(rapid chlorophyll-fluorescence based screen)を用いて、状態遷移(状態1と状態2の内部転換)を阻害(クルース(Kruse)ら、1999;フレイヒマン(Fleichmann)ら、1999)したモデル生物である緑藻Chlamydomonas reinhardtiiのコロニーの同定を行い、状態遷移に重要な遺伝子を同定した。驚くべきことに、遺伝子産物は核にコードされたタンパク質のうち葉緑体ではなくミトコンドリアを標的とするタンパク質であることが分かり、ミトコンドリアの遺伝子発現の調節に関わる。
【0024】
本明細書において「単離された(isolated)」とは、精製されたポリヌクレオチド分子或いはポリペプチド分子を意味する。本明細書に用いる場合、「精製された(purified)」とは、ネイティブな状態において通常結合している、実質的に全ての他の分子から分離されたポリヌクレオチド分子或いはポリペプチド分子を意味する。調製物の大部分を占める種が実質的に精製された分子であることがより好ましい。実質的に精製された分子とは、天然混合物の状態で(in the natural mixture)存在する他の分子種(溶媒を除く)の60%超が除去されたものであり、好ましくは75%除去、より好ましくは90%除去、更に95%除去されたものが最も好ましい。本明細書において「単離された」とはまた、天然のポリヌクレオチドに通常隣接結合(flank)している核酸を分離したポリヌクレオチド分子も意味する。よって、例えば組換え技法を用いた結果、通常は結合対象とならない調節配列或いはコード配列に結合した(fused)ポリヌクレオチドは、本明細書では単離されたとみなされる。このような分子は、例えば宿主細胞の染色体や核酸溶液中に存在していても単離されたとみなされる。本明細書において「単離された」と「精製された」という用語は、ネイティブな状態で存在する分子を包含することを意図したものではない。
【0025】
本明細書において「野生型」とは、現在開示されている一以上の転写因子をノックアウト或いは過剰発現させる遺伝的変更を受けていない微生物を意味する。野生型生物を対照として用い、転写機能を改変した生物或いは異所的(ectopically)発現を行わせた生物(例えば、ノックアウト或いは過剰発現させた生物)と比較して、発現レベル、特性変化の程度及びその性質について知ることができる。
【0026】
本明細書中の「配列同一性(sequence identity)」とは、最適整合された2種類のポリヌクレオチド配列或いはぺプチド配列が、各成分(例えば、ヌクレオチド或いはアミノ酸)の並びのウィンドウ(window)を通して一致する程度を意味する。試験配列と基準配列の位置あわせしたセグメントについて「同一フラクション(identity fraction)」とは、位置合わせした2つの配列が共に有する一致成分の個数を、基準配列セグメント(即ち、全基準配列或いは基準配列のより少ない特定部分)中の成分の全数によって除した数である。「一致率」とは、同一フラクション×100である。周知の多数の方法を用いて、各配列の比較を行い一致率を求めることができる。このような方法としては例えば、数学的アルゴリズムを用いた方法(配列分析プログラムBLASTスイートのアルゴリズム等)を挙げることができる。
【0027】
本明細書中、調節の「抑制(suppression)」或いは「破壊(disruption)」とは、調節タンパク質の活性低下を意味し、こうした活性の低下は各種機構、例えばアンチセンス、突然変異によるノックアウト或いはRNAi等によって引き起こすことができる。アンチセンスRNAによる場合、タンパク質の発現レベルが低下し、結果的にタンパク質活性が野生型の活性レベルよりも低いものとなる。タンパク質コード遺伝子の突然変異の場合、タンパク質の発現レベルを低下させる及び/又は発現したタンパク質の機能を妨害することによって、タンパク質の活性を低下させることができる。
【0028】
本明細書中において「ポリペプチド」は、一方のアミノ酸のカルボキシル基と他方のアミノ酸のアミノ基がアミド結合によって共有結合的に結合された各アミノ酸残基からなる非分岐状鎖を意味する。ポリペプチドという用語は、タンパク質のフラグメントを包含し得ると共に、タンパク質全体(即ち、特定の遺伝子にコードされた機能タンパク質)を包含し得る。更に「タンパク質」は、一以上のポリペプチド鎖からなる分子をも含む。従って、本発明においてポリペプチドは、複数のポリペプチド鎖を有する機能性オリゴタンパク質の一部分のみならず、全遺伝子産物を構成することもできる。
【0029】
本明細書に用いられる用語「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸フラグメント」及び「単離された核酸フラグメント」は相互変換可能である。これらの用語はヌクレオチド配列等を包含する。ポリヌクレオチドは、RNA或いはDNAの1本鎖或いは2本鎖のポリマーであり得、合成、非天然或いは改変したヌクレオチド塩基を含んでいてもよい。DNAポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA或いはそれらの混合物の一以上のセグメントからなり得る。各ヌクレオチド(通常、5’−1リン酸の形態)は、次の一文字表記によって表される。即ち、RNA或いはDNAの各場合において、「アデニル酸」或いは「デオキシアデニル酸」は「A」、「シチジル酸」或いは「デオキシシチジル酸」は「C」、「グアニル酸」或いは「デオキシグアニル酸」は「G」、「ウリジル酸」は「U」、「デオキシチミジル酸」は「T」、プリン塩基(A或いはG)は「R」、ピリミジン塩基(C或いはT)は「Y」、G或いはTは「K」、A、C或いはTは「H」、イノシンは「I」、そして、任意の一ヌクレオチドは「N」で表記する。
【0030】
本明細書に使用する「機能的に等価であるところのサブフラグメント」と「機能的に等価であるサブフラグメント」は相互変換可能である。これらの用語は、遺伝子発現を改変する能力或いは一定の表現型を提供する能力を保持している単離された核酸フラグメントの一部分或いはそれに続く部分(subsequence)を意味し、該フラグメント或いはサブフラグメントが活性な酵素をコードしているかどうかは関係がない。例えば、該フラグメント或いは該サブフラグメントをキメラ遺伝子の設計に用いて、藻類を形質転換して所望の表現型をもたらすことができる。キメラ遺伝子は核酸フラグメント或いはそのサブフラグメントが活性な酵素をコードしているかどうかに関係なく、これと植物のプロモーター配列に対してセンス或いはアンチセンス方向に結合することによって機能抑制を行うように設計することができる。
【0031】
本明細書に使用される「相同」、「相同な」、「実質的に同様」及び「実質的に対応している」は相互に置換え可能である。これらは、一以上のヌクレオチド塩基が異なっていても、各核酸フラグメントの有する遺伝子発現媒介能力或いは一定の表現型を提供する能力が変わらない核酸フラグメントを意味する。これらの用語はまた、本発明における核酸フラグメントの変更を意味する。これらの変更としては例えば、変更の結果生じた核酸フラグメントの機能的特性が未変更の元のフラグメントに対して実質的に変わらない一以上のヌクレオチドの欠失或いは挿入を挙げることができる。従って、本発明は例として用いた特定の配列以外の、当業者であれば想到するであろう配列も包含する。
【0032】
更に、当業者には容易に理解されることであるが、中程度にストリンジェントな条件(例えば、0.5×SSC、0.1%SDS、60℃)で、本明細書に例示した配列或いは本明細書に開示のヌクレオチド配列の一部とハイブリダイズし得れば、実質的に同様な核酸配列として本発明に包含され、これは本明細書に開示の核酸配列の任意のものと機能的に等価である。スクリーニング対象である或る程度似たフラグメント(例えば、遠縁生物由来の相同な配列)や高度に似たフラグメント(例えば、近縁生物からの機能的酵素の複製物を生じさせる遺伝子)等に応じて、ストリンジェントな条件を調整できる。ストリンジェントな条件はハイブリダイゼーション後の洗浄によって決まる。設定条件としては、始めに6×SSC、0.5%SDSを用い室温で15分間洗浄を行い、次いで2×SSC、0.5%SDSを用い45℃で30分間行って、更に0.2×SSC、0.5%SDSを用い50℃で30分間の洗浄を2回行う一連の洗浄を含む条件が好ましい。ストリンジェントな条件のより好ましい設定としては、より高温で洗浄を行うものであり、上述の洗浄の最終2回(30分間、0.2×SSC、0.5%SDS使用)の温度を60℃に上げる(それ以外は同様)。よりストリンジェントな条件の別の好ましい設定としては、最終2回の洗浄を0.1×SSC、0.1%SDSを用いて65℃で行う。
【0033】
「遺伝子」とは、特定のタンパク質を発現する核酸フラグメントを意味し、コード配列前方に位置する調節配列(5’非コード配列)及び後方に位置する調節配列(3’非コード配列)を含む。「ネイティブ遺伝子」とは、天然の遺伝子で自身の調節配列を有する遺伝子を意味する。「キメラ遺伝子」とは、ネイティブ遺伝子ではない任意の遺伝子を意味し、天然には共存しない調節配列とコード配列を含む。従って、キメラ遺伝子は異なるソース由来の調節配列とコード配列を含んでいてもよいし、同一ソース由来であるが、天然のものとは異なる配置となっている調節配列とコード配列を含んでいてもよい。
【0034】
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を意味する。「調節配列」とは、コード配列上流(5’非コード配列)、コード配列内部或いはコード配列下流(3’非コード配列)に位置するヌクレオチド配列を意味し、これらの配列は、転写、RNAプロセシング、RNAの安定性、或いは関連のあるコード配列の翻訳に影響を及ぼす。
【0035】
調節配列としては、プロモーターや翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル酸認識配列(polyadenylation recognition sequences)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
「プロモーター」とは、コード配列或いは機能的RNAの発現を調節できるDNA配列を意味する。プロモーター配列は上流側近傍のエレメントと上流側のより遠方に位置するエレメントからなる。後者のエレメントはエンハンサーと呼ばれることが多い。従って、「エンハンサー」とは、プロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、エンハンサーはプロモーターの固有のエレメント或いは挿入された異種エレメントであり、プロモーターのレベル或いは組織特異性を向上させ得る。プロモーター全体がネイティブ遺伝子由来でもよいし、天然の各種プロモーターに由来する各種エレメントから構成されていてもよいし、或いは合成DNAセグメントを含んでいてもよい。各種プロモーターは、各種組織又は細胞型において、或いは各種発生段階で、或いは各種環境条件に応じて、遺伝子発現を指令し得ることは当業者に知られたところである。更に、調節配列としての正確な区分が完全には定義されていない場合が多いため、数種のバリエーションを有するDNAフラグメントが同一のプロモーター活性を有することもあることが認識される。多くの細胞型においてよく(at most times)遺伝子を発現させるプロモーターは通常、「構成プロモーター(constitutive promoters)」と呼ばれる。
【0037】
「翻訳リーダー配列」とは、遺伝子のプロモーター配列とコード配列の間に位置するポリヌクレオチド配列を意味する。翻訳リーダー配列は充分にプロセシングされたmRNAの翻訳開始配列上流に位置する。翻訳リーダー配列はmRNAの一次転写産物のプロセシング、mRNAの安定性或いは翻訳効率に影響を与える。翻訳リーダー配列の例としては次の記載がある:ターナー(Turner),R.とフォスター(Foster),G.D.(1995)Mol.Biotechnol.3:225〜236。
【0038】
「3’非コード配列」とは、コード配列下流に位置するDNA配列を意味し、ポリアデニル酸認識配列、及びmRNAプロセシング或いは遺伝子発現に影響を及ぼす調節シグナルをコードするその他の配列を含む。ポリアデニル酸シグナルは通常、mRNA前駆体3’末端へのポリアデニル酸トラクト(tracts)の付加に影響を及ぼすことを特徴とする。各種3’非コード配列の使用については、インゲルブレヒト(Ingelbrecht),I.L.ら(1989)Plant Cell、1:671〜680に例示されている。
【0039】
「RNA転写物」とは、RNAポリメラーゼの触媒作用によるDNA配列の転写によって生じた産物を意味する。RNA転写物が対応のDNA配列と完全に相補的なコピーである場合、これは一次転写物と呼ばれる。RNA転写物が、転写後のプロセシングを受けた一次転写物に由来するRNA配列である場合、これを成熟RNAと呼ぶ。「メッセンジャーRNA(mRNA)」とは、イントロンが除かれ、細胞でタンパク質に翻訳され得るRNAを意味する。「cDNA」とは、mRNAと相補的で、mRNAテンプレートから逆転写酵素により合成したDNAを意味する。cDNAは1本鎖であることもできるし、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントにより2本鎖とすることもできる。「センス」RNAとは、mRNAを含み、細胞内或いはin vitroでタンパク質に翻訳され得るRNA転写物を意味する。「アンチセンスRNA」とは、標的とする一次転写物或いはmRNAの全部或いは一部に相補的であり、標的遺伝子の発現を阻害するRNA転写物を意味する(米国特許第5107065号)。アンチセンスRNAは、特定の遺伝子転写物の任意の部分(即ち、5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン或いはコード配列)と相補的であってもよい。「機能的RNA」とは、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、或いは細胞内プロセスに影響を及ぼすが翻訳されないことがあるその他のRNAを意味する。本明細書中、mRNA転写物について使用される用語「相補」と「逆相補」は相互変換可能であり、その情報のアンチセンスRNAを示す。
【0040】
「操作可能に結合(operably linked)」とは、単一の核酸フラグメントに核酸配列を結合させ、一方の機能を他方により調節させる結合を意味する。例えば、プロモーターがコード配列に結合しそのコード配列の発現を調節できる場合(即ち、該コード配列はプロモーターによる転写制御を受けている)、プロモーターはコード配列と操作可能に結合している。コード配列は調節配列に、センス方向或いはアンチセンス方向に操作可能に結合させることができる。別の例では、本発明における相補的なRNA領域は、標的のmRNAの5’、標的のmRNAの3’或いは標的のmRNA内部に操作可能に結合させることができる(直接或いは間接的に)。ここで、最初の相補性領域が5’である場合、その相補物は標的とするmRNAの3’である。
【0041】
本明細書中で用いる標準的な組換えDNA技法と分子クローニング技法は、本技術分野において周知であり、サムロック(Sambrook),J.、フリッチ(Fritsch),E.F.及びマニアティス(Maniatis),T.によるMolecular Cloning:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory Press:Cold Spring Harbor,1989に詳細な記載がある。形質転換法については当業者に周知であり、次に説明する。
【0042】
「組換え」とは、異なる方法で分離された2種類の配列セグメントの人工的な組合せ(例えば、化学合成による、或いは単離した核酸セグメントの遺伝子工学技法を用いた操作による)を意味する。
【0043】
本明細書中に使用する用語「組換え構築物」、「発現構築物」、「キメラ構築物」、「構築物」及び「組換えDNA構築物」は相互変換可能である。組換え構築物は核酸フラグメントの人工的な組合せ(例えば、天然にはない調節配列とコード配列の組合せ)を含む。例えば、キメラ構築物は異なるソース由来の調節配列とコード配列を含んでいてもよいし、同一ソース由来の調節配列とコード配列を含んでいてもよいが、天然のものとは異なる配置となっている。このような構築物はそれ自体で使用することもできるし、ベクターと共に用いることもできる。当業者に周知のように、ベクターを使用する場合には、宿主細胞を形質転換させる方法に応じてベクターを選択する。例えば、プラスミドベクターを用いることができる。宿主細胞の形質転換を首尾よく行い、本発明における単離した核酸フラグメントを含む宿主細胞を選択し増殖させるために、当業者はベクターに存在させるべき遺伝的エレメントを熟知している。当業者はまた、個々の独立した形質転換イベントに応じて、発現レベルや発現パターンが異なるということを認識し(ジョーンズ(Jones)ら(1985)EMBO J.4:2411〜2418;デ アルメイダ(De Almeida)ら(1989)Mol.Gen.Genetics 218:78〜86)、これにより、所望の発現レベル及び発現パターンを示す株を得るためには多数のイベントをスクリーニングする必要があることを認識する。このようなスクリーニングは、DNAを対象としたサザン分析、mRNAの発現を対象としたノザン分析、タンパク質発現を対象としたイムノブロッティング分析、或いは表現型分析等を用いて行うことができる。本明細書中において「発現」とは、機能的な最終産物(mRNA或いはタンパク質(前駆体或いは成熟体)等)の産生を意味する。
【0044】
「成熟した」タンパク質とは、翻訳後にプロセシングされたポリペプチドを意味する。即ち、一次翻訳産物に存在するプレペプチド或いはプロぺプチドが除去されたタンパク質である。「前駆体」タンパク質とは、mRNAが翻訳された一次産物を意味する。即ち、プレペプチドとプロペプチドが存在している状態のタンパク質である。プレペプチド及びプロペプチドは細胞内局在化シグナルであり得るが、これらに限定されない。
【0045】
「安定性形質転換」とは、宿主生物のゲノム(核ゲノムとオルガネラゲノムのいずれも含む)への核酸フラグメントの伝達を意味し、これにより遺伝学的に安定な形質を獲得する。一方、「一過性形質転換」とは、宿主生物の核或いはDNA含有オルガネラへの核酸の伝達を意味し、組込まれずに遺伝子発現が行われ、従って安定な遺伝形質の獲得には至らない。核酸フラグメントを含有する形質転換された宿主生物は「トランスジェニック」生物と呼ばれる。
【0046】
「アンチセンス阻害」とは、標的タンパク質の発現を抑制することが可能なアンチセンスRNA転写物の産生を意味する。「共抑制」とは、同一或いは実質的に同様な外来遺伝子或いは内在性遺伝子(endogenous genes)の発現を抑制することが可能なセンスRNA転写物の産生を意味する(米国特許第5231020号)。植物においては、内在性mRNAと相同性を有する核酸配列(センス方向)の過剰発現に着目して、既に共抑制構築物が設計されており、過剰発現した配列と相同性を有するRNAがいずれも減少した(バウチェレト(Vaucheret)ら(1998)Plant J. 16:651〜659;グラ(Gura)(2000)Nature 404:804〜808参照)。この現象の全体的な効率は低く、RNA減少の程度は様々に変化する。最近の研究によれば、mRNAコード配列の全部或いは一部を相補的方向に組入れた「ヘアピン」構造(発現RNAが「ステムループ」構造になり得る)の使用についての記載がある。これにより、再生した(recovered)トランスジェニック植物における共抑制の頻度が上昇する。ヘアピン構造には、ヘアピンのステム或いはループを形成する標的RNAが含まれていてもよい。他に、植物ウィルスの配列を用いて、近傍のmRNAコード配列を抑制(すなわち「サイレンシング」)させる例も記載されている(国際公開WO98/36083)。いずれの共抑制現象もその機構については未だ明らかでないとはいえ、遺伝学的証拠によりこの複雑な現象が解明されつつある(エルマヤン(Elmayan)ら(1998)Plant Cell 10:1747〜1757)。
【0047】
抑制に使用するポリヌクレオチド配列は、抑制対象となる遺伝子中のポリヌクレオチド配列と必ずしも100%相補的である必要はない。抑制対象のポリヌクレオチドと少なくとも75%同一であるポリヌクレオチドは、所望の標的物に対し効果的な抑制作用を示した。該ポリヌクレオチドは所望の標的物に対し、少なくとも80%同一、好ましくは少なくとも90%同一、より好ましくは少なくとも95%同一である必要があり、100%同一であってもよい。
【0048】
一実施形態においては、アンチセンス分子を用いて核遺伝子の発現のダウンレギュレーションを行い、moc1等の細胞のミトコンドリア活性を調節する。アンチセンス試薬としては、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)やネイティブな核酸に化学修飾を施し特別に合成したODN、RNAのようなアンチセンス分子を発現する核酸構築物を挙げることができる。アンチセンス配列は標的遺伝子のmRNAと相補的であり、標的とする遺伝子産物の発現を抑制する。アンチセンス分子は種々の機構を介して、例えば、翻訳に用いられるmRNA量を低減させたり、RNAse Hを活性化させたり、或いは立体障害をもたらして遺伝子発現を阻害する。各アンチセンス分子は単独或いは組み合わせて用いることができ、組合せた場合は2以上の異なる配列を含んでいてよい。
【0049】
アンチセンス分子は、標的とする遺伝子配列の全部或いは一部を好適なベクターに組込んで発現させ生成できる。ベクター中、転写開始はアンチセンス鎖がRNA分子として生成されるように方向付ける。或いは、アンチセンス分子は合成オリゴヌクレオチドである。配列長としては10〜3000ヌクレオチドが好ましく、より好ましくは100〜2000ヌクレオチド、更に好ましくは600〜1200ヌクレオチド、最も好ましくは800〜1000ヌクレオチドである。この長さは、阻害効率や特異性(例えば、交差反応が生じない)等に応じて決定する。しかしながら、7〜8塩基長の短オリゴヌクレオチドが遺伝子発現を強力且つ選択的に阻害する例も知られている(ワグナー(Wagner)ら(1996)Nature Biotechnol.14:840〜844参照)。
【0050】
内在性センス鎖mRNA配列の領域のうち、既述遺伝子配列(例えば、Genbank受託番号AF53142のmoc1の遺伝子配列)に基づいて作製したアンチセンス配列と相補的である特定の一領域或いは複数の領域が選択される。オリゴヌクレオチドの特定配列は、いくつかの候補配列についてアッセイを行い、in vivoモデルにおける標的遺伝子の発現阻害を調べる経験的方法を用いて選択することができる。各配列は組み合わせて用いてもよく、この場合アンチセンス配列と相補性を有するmRNA配列の数領域が選ばれる。
【0051】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは本技術分野において公知の方法により化学的に合成できる(ワグナー(Wagner)ら(1993)上掲、参照)。細胞内安定性と結合親和性を向上させるために、ネイティブなホスホジエステル構造に化学修飾を施したオリゴヌクレオチドが好ましい。
【0052】
本発明の核酸組成物は、標的とするポリペプチドの全部或いは一部をコードし得る。DNA配列の2本鎖或いは1本鎖フラグメントは、従来法(制限酵素による消化、PCR増幅法等)に従って化学的にオリゴヌクレオチドを合成することにより得られ得る。大部分の場合、DNAフラグメントは少なくとも25ntであり、通常は少なくとも50nt、75nt或いは100ntであるが、200nt、240nt、270nt、300nt、更には400ntであってもよい。小さなDNAフラグメントはPCR用プライマー、ハイブリダイゼーション用スクリーニングプローブ等として有用である。PCR等の増幅反応に用いる場合、一対のプライマーが使用される。プライマー配列の正確な組成は本発明にとって重要ではないが、本技術分野で知られているように、大抵の場合、プライマーはストリンジェントな条件で本発明における配列にハイブリダイズする。少なくとも約50nt、好ましくは少なくとも約100ntの増幅産物を産生する一対のプライマーを選択するのが好ましい。プライマー配列の選択に用いるアルゴリズムは一般に知られており、市販のソフトウェアパッケージとなっているものを利用できる。増幅用プライマーはDNA相補鎖にハイブリダイズし、互いに反対方向へと合成を進める。
【0053】
核酸或いは遺伝子の配列(フランキングプロモーター領域やコード領域等)は本技術分野において公知の種々の方法を用いて変異させ、プロモーター強度やタンパク質のコード配列等に所望の変更を加えることができる。このような変異の結果生成されたDNA配列或いはタンパク質は、通常、本明細書に示した各配列と実質的に同様である。即ち、異なっているとしても少なくとも1アミノ酸残基であり、1或いは2残基異なっている場合もあるが約10残基は超えない。配列に変化をもたらすものとしては、置換、挿入或いは欠失を挙げることができる。欠失は更に、ドメインやエキソンの欠失等の大きな変化を含む。
【0054】
クローニングした遺伝子にin vitroで変異を誘発させる技法が知られている。部位特異的な変異誘発のためのプロトコルの例については、ガスティン(Gustin)ら、Biotechniques 14:22(1993);バラニー(Barany)、Gene 37:111〜23(1985);コリセリ(Colicelli)ら、Mol Gen Genet 199:537〜539(1985);プレンキ(Prentki)ら、Gene 29:303〜313(1984)に記載されている。部位特異的な変異誘発方法については、サムロック(Sambrook)ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、CSH Press 1989、pp.15.3〜15.108;ワイナー(Weiner)ら、Gene 126:35〜41(1993);サイヤーズ(Sayers)ら、Biotechniques 13:592〜596(1992);ジョーンズ(Jones)とウィニストーファー(Winistorfer)、Biotechniques 12:528〜530(1992);バートン(Barton)ら、Nucl.Acids Res.18:7349〜7355(1990);マロッティ(Marotti)とトミチ(Tomich)、Gene Anal Tech 6:67〜70(1989);ツ(Zhu)、Anal.Biochem.177:120〜124(1989)に記載されている。これらの方法により、ミトコンドリアの調節タンパク質を不活性な形態で発現させることができる。更に、ミトコンドリアのレギュレーターを発現する遺伝子を米国特許第5464764号と同第5487992号に記載の「ノックアウト」技術によって除去できる。また、これらの開示の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。特に、内在性遺伝子の除去方法の開示及び記載のために援用する。
【0055】
遺伝子からのタンパク質発現の抑制に用いられる周知の方法としては、センス抑制やアンチセンス抑制、RNAi抑制を挙げることができる。dsRNAの転写によるRNAi遺伝子抑制については、米国特許第6506559号、米国特許出願公開2002/0168707 A1、WO98/53083、WO99/53050及びWO99/61631に記載されており、これらの開示の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。RNAiによる遺伝子抑制は、その遺伝子のゲノムDNAのセグメントのセンス及びアンチセンス要素を含むDNA要素に操作可能に結合するプロモーターを有する組換えDNA構築物を用いて行うことができる。遺伝子のゲノムDNAのセグメントは例えば少なくとも約23のヌクレオチドからなるセグメント、より好ましくは約50〜200のヌクレオチドからなるセグメントであり、そのセグメントにおいては、転写されたRNAがハイブリダイズしてヘアピン構造を形成するときにループを形成できる人工DNAセグメント或いはイントロンによって、センス及びアンチセンスDNA成分は直接的に結合或いは接合することができる。
【0056】
好適な微生物の培養方法及び発生した水素の回収方法は当業者に公知であり、例えば、メリス(Melis)による米国特許出願第2001/005343号(メリス(Melis)、2000)及びWO03/067213に記載されている。また、これらの開示の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0057】
水素生産は光照射条件下で行われる。光は連続的に照射するのが好ましく、光源として日中は太陽光を、夜間或いは曇りの場合には人工照明を用いる。また、夜間に照明を用いずに太陽光のみを用いることもできるが、この場合、水素の収量が低下する。
【0058】
水素生産は「マイクロオキシック(microoxic)条件」で行われる。「マイクロオキシック(microoxic)条件」とは、酸素濃度を最小限に維持しヒドロゲナーゼの不活性化を防ぐ条件であり、一般には実質的嫌気的環境を意味する。ヘリウムガス等の添加によりシステムから強制的に酸素を排除できる。或いは、そしてより好ましくは、酸素除去を行わないで最初にシステムを外部環境から遮断してもよい。藻類の光合成量が乏しい場合、時間と共にシステム内の酸素量が自然減少し、システムの環境は実質的に嫌気的となり、効率的な水素生産を行うことができる。
【0059】
本明細書において「光照射条件」とは、光合成を行うのに充分な強度の光が存在することを意味する。光としては、人工光源或いは天然の太陽光を用いることができる。一実施形態において、光の強度は15〜3100μmol m−2 sec−1であり(更にこの範囲に収まる全範囲、例えば、100〜3000や1000〜2000等)、連続照射時間は最大で120時間であるが、より短時間であってもよい(例えば、24時間、48時間、64時間、96時間)。
【0060】
本発明に用いる培地としては、藻類の培養に使用され、更に硫黄を含有する標準的な市販調製物でよい。好ましくは、TAP培地を用いる。藻類の培養は液体培地或いは固形培地で行うことができ、液体培地がより好ましい。
【0061】
実施例1:変異株の単離
株及び培養条件
Chlamydomonas reinhardtii株WT13及びCC1618(arg7 cw15、mt)をクラミドモナス・ジェネティックス・センター・コレクション(Chlamydomonas Genetics Center Collection)(米国デューク大学(Duke University))から得た。使用する株は全て、混合栄養状態(mixotrophically)でTAP培地(Tris−酢酸−リン酸、pH7.0)中、40μmol m−2 sec−1の白色光を照射し、20℃で培養した(Harris 1989)。培養は、12時間の明暗サイクルで細胞密度が2×10個/mLになるまで行った。
【0062】
(アルギニン要求性の株CC1618に対して)必要な場合は、培地にアルギニン110μg/mLを添加した。
【0063】
変異株の構成及び遺伝子分析
核形質転換をKindleら、1989及びPurtonとRochaix、1995に記載の方法で次の通り行った。
【0064】
Chlamydomonas reinhardtiiアルギノコハク酸分解酵素遺伝子(Debuchyら 1989)の7.8kbゲノムDNAフラグメント及びバクテリオファージφX174 DNA(GumpelとPurton 1994)の0.4kbフラグメントを含むプラスミドpArg7.8を形質転換実験に用いた。pArg7.8は、BamHIで消化して線状にしてから用いた。
【0065】
遺伝子交差(Genetic crosses)を、WT13とその変異体を用いてHarris(1989)に記載の方法で行った。
【0066】
タグのフランキングDNA配列を、ライゲーション・メディエーティッド・サプレッションPCR(ligation mediated suppression PCR)(LMS−PCR)(Straussら、2001)とプラスミドレスキュー(plasmid rescue)(TamとLefebvre、1993)とによりクローニングした。
【0067】
状態遷移変異体の単離
C.reinhardtii内の状態遷移に関与する遺伝子を特定するために、アルギニン無添加TAP培地で増殖できる変異体のライブラリーをスクリーニングした。この変異体は、アルギニン要求性の株CC1618の核遺伝子にArg7遺伝子を導入したプラスミドpArg7.8のランダム挿入後に生成されたものである(Debuchyら、1989;GumpelとPurton、1994)。WT内の状態遷移を誘起する光照射前後に個々のコロニーが発するクロロフィルの蛍光を記録するプレートベース蛍光ビデオ画像化スクリーニング(Kruseら、1999)を用いて潜在的な状態遷移変異株(stm)を特定した。スクリーニング対象の2×10個のコロニーの内、可能性のある4種のstm変異体を特定した。そのうち変異体Stm6は、水素生産が増加していることが示された。
【0068】
蛍光ビデオ画像化と77K蛍光分光測定
状態遷移欠陥について変異体のスクリーニングを前述の通りビデオ画像化により行った(Kruseら、1999)。画像化は、室温ではFluorCam700MF装置(フォトン・システム・インスツルメンツ(Photon System Instruments))を用い、77Kでは蛍光/発光分光分析計(パーキン・エルマー LS50B)を用いて行った。試料の測定は、40μmol m−2−1白色光(状態2)の照射後或いは20分間の710nm(ドイツ国スコット・フィルター(Schott filter))PSI光(状態1)の照射後に行った。或いは、Bulteら(1990)に従い、窒素雰囲気下、暗所で30分間インキュベートすることにより細胞が状態2となるように調整した。
【0069】
藻類の培養
WT及びStm6の細胞培養物を増殖させた。増殖は、暗所で或いは照射(60μmol/m.s−1白色光)下、TAP寒天プレート上或いはTAP培地中、細胞密度が約2×10個/mLに達するまで行った。
【0070】
実施例2:水素放出測定
WT及びStm6培養物の両方について、液相及びその上方の気体ヘッド空間のH濃度を測定した(OD750nm=0.8の細胞密度)。溶解H濃度の測定は、硫黄飽和TAP培地中或いは硫黄除去TAP培地中の暗所細胞培養物(1L)を用い、クラーク型(Clark type)水素電極(デンマーク国、ユニセンス(Unisense)PA2000)を用いて白色光照射により行った。5μM カルボニルシアニド m−クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)の存在下及び非存在下のH濃度を、暗所培養物を用い照射(白色光、300μmol m−2.s−1)前後(1h)に測定した。気体ヘッド空間のH濃度の測定は質量分析計(Delta Finnigan MAT)を用いて行った。細胞培養物は低真空下、30分間暗所に置き、培地及びヘッド空間のO及びHを除去してから、連続或いはパルス化した白色光に照射した(周波数3.3Hz、5μsフラッシュ;光強度範囲15〜3000μmol.m−2.s−1)。
【0071】
図3を参照すると、硫黄の非存在下においては、Stm6はWTの3.5倍のHを生成したことが分かる(即ち、面積積分値146/41=3.5)。
【0072】
野生株及びStm6 Chlamydomonas reinhardtii培養物の水素生産に対する光強度の影響をガス質量分析により推定した。これは、(暗所に30分間置いた)WT細胞及びStm6細胞に種々の照射レベルで連続照射を1分間行い、H発生(相対速度)を測定して行った。Stm6は常に、野生株に比べて(ピークの表示で示すように)500〜700%高い速度で水素を生産した。
【0073】
アンカップラーであるCCCPは、WTよりも約1500%高いレベルでH生産速度を安定化させる。これは、水素クラーク電極測定(ユニセンス(UniSense))により算定した。このことから、HydA活性は基質供給速度により限定され得ることが分かる。
【0074】
実施例3:光合成によるH生産中のガス発生量の測定
目的:光合成によるH生産中にStm6が発生させるガスの量及び組成を測定する。
方法:実験は白色光下で行った(80μmol.m−2.s−1)。硫黄除去条件下、培養物を暗所で40時間インキュベートした。細胞は、追加の炭素源としてアセテートを添加したTAP培地中で、OD750(750nmにおける光学密度)が約1.0になるまで増殖させた。培養量は300mLとし、発生ガスのデータは培養物1Lに標準化した。水素測定はAgilent Microガスクロマトグラフを用いて行った。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例4:WT培養物及びStm6培養物における酸素濃度測定
目的:高H表現型のStm6は培養物中の低O濃度を維持する能力と関連付けられるかを確認する。
方法:溶解酸素濃度測定をクラーク型酸素電極(ユニセンス)を用いて行い、図12に示すデータを得た(パネルA及びB)。
【0077】
パネルA:細胞培養物を密度0.1μg Chl/mLになるまで硫黄飽和TAP培地中で一定の照射条件(300μmolm−2−1)下で増殖させた。硫黄除去TAP培地に細胞を移した時を時間0とした。
【0078】
パネルB:暗所で光培養細胞調製物(30μg Chl/mL)±5mM KCNを用いて細胞呼吸測定を行った。
【0079】
WT及びStm6中の細胞酸素濃度の測定結果を図12に示す。
【0080】
時間=0は、培養物を硫黄除去培地に移した時間を示す。時間=0においては、PSIIはまだ阻害されていない。しかしながら、Stm6培養物の溶解酸素濃度は野生型の40%しかなかった。その後、野生型及びStm6培養物のいずれにおいても溶解酸素濃度は同程度に減少し、最終的にはPSIIは完全に阻害された。これは硫黄非存在下では損傷したD1タンパク質の修復が不可能であるからである。
【0081】
呼吸速度:Stm6における呼吸レベルの増加もパネルAに示すStm6の溶解酸素濃度の低下の一要因であるかを確認するために、PSII活性低下に加え、呼吸レベルも暗所(PSII不活性)±5mM KCN(複合体IVの阻害剤)条件にて測定した。Stm6の呼吸速度は、KCNの存在下においても非存在下においても野生株よりも60%高いことが分かった。この結果から、Stm6の呼吸レベルが高いことが分かるだけでなく、酸素の取り込みは通常の酸化的リン酸化を介してではなく、恐らく代替的酸化(oxidate)経路を介して行われることも分かる。
【0082】
低レベル光条件下における増殖速度
図16は、低レベル光下におけるStm6及び野生株の増殖速度の比較を示す。バイオマス生成においては、バイオリアクタ条件では、光レベルが制限要因となることが多い。Stm6及び野生株の増殖速度をアセテート添加TAP培地中で低レベル光(24℃において10μm m−2−1、24時間光照射)で比較したところ、Stm6の増殖速度は野生株よりも大きかった。このことは、Stm6はバイオリアクタ増殖条件下におけるバイオマス生成に有利であり得ることを示唆している。
【0083】
実施例5:Stm6変異体の特性
(i)Stm6は状態1においてブロックされPSII-LHCIIリン酸化が低下する
クロロフィル蛍光アッセイを蛍光発光分光分析により77Kで行い(図5)、クロロフィルビデオ画像化を化学線620nm光で室温にて行った(図5)ところ、Stm6は状態1においてブロックされることが分った。WTと対照的に、PSIIに優先的に吸収される光は細胞を状態2に遷移させることができなかった。これは、PSIからの720nmの蛍光の増加により監視した(図5)。暗所における嫌気生活(anaerobiosis)によりPQプールを還元させた場合にも状態2への遷移はブロックされた(データは示さず)。
【0084】
状態2は、PSIIの集光(LHC)アンテナタンパク質のスレオニン残基のリン酸化に関与しているため(Allenら、1981)、イムノブロットにおけるリン酸化レベルを評価するのに抗ホスホスレオニン抗体を用いた。WTにおけるCP29(P9)及びLHC−P11タンパク質のリン酸化を促進する照射条件において、Stm6はこれらタンパク質のリン酸化レベルを著しく減少させた(図5)。対照のイムノブロットにより、Stm6はWTレベルのLHCタンパク質を含有したままであることが確認された(図5)。
【0085】
Stm6においてPQプールを更に還元できるかを試験するため、クロロフィル蛍光測定を行い、光化学消光(photochemical quenching)パラメータq(PQプールの還元状態の指標)を求めた(Lundeら、2000)。生育光条件下、Stm6についてはWTよりも更に還元された状態にPQプールを置いた(1−qはStm6では0.77、WTでは0.59)(表1)。Stm6におけるPSI及びPSIIの活性レベルは、WTと同等であった(表1)。
【0086】
(ii)Stm6は高レベル光に対する感受性が強い
Stm6変異体の顕著な表現型は、状態遷移に対する影響に加え、その光ストレスに対する感受性であった。1000μmol m−2s−1の高レベル光を4時間照射後、変異体の細胞は生残性の著しい低下を示したが、WT及び相補株B13は殆ど影響されなかった(図6)。Stm6は、照射により細胞内の一重項酸素の著しい増加を示した。これは脂質ヒドロペルオキシドの蓄積により評価した(表1)。
【0087】
【表2】

【0088】
(iii)Stm6における単一のmterf型遺伝子の崩壊が状態遷移欠陥と光感受性の原因である
プラスミドpArg7.8が担持するargマーカーがStm6と緊密に関連しているかを試験するため、WT13とStm6の間の遺伝子交差を行い、アルギニン非含有培地で増殖し状態遷移を行う能力についてその子孫をビデオ画像化により評価し記録した。調査した全50個の子孫においては、アルギニン非含有TAP培地で増殖できるクローンは正常な状態遷移を示したが、アルギニン要求性を示すクローンも程度は弱いが状態遷移を示した(データは示さず)。これらデータから、Stm6はargタグ化変異体であることが示唆された。
【0089】
プラスミドレスキューとライゲーション・メディエイティッド・サプレッション(LMS)−PCR(Straussら、2001)を組み合わせることにより、Stm6におけるargマーカーの挿入位置を特定することができた。より詳細な分析の結果、2個のpArg7.8プラスミドが縦列にStm6に挿入されていることが分かった(図7)。
【0090】
続いて行った配列解析及び相同性検索の結果、pArg7.8プラスミドのランダム組込みによって2個遺伝子が影響を受けていることが分かった。その内の一方は核トランスポソン(toc1)として既に記述されており(Dayら、1988)、他方は未知のものであったため、その配列はGenBankデータベースにmoc1(Genbank受託番号AF531421)として提出した。Stm6DNAにおいて影響を受けたゲノム挿入部位の正確な位置は、最終的には配列解析及びPCR解析により確認した(図7)。
【0091】
非相同組換えによるランダム挿入により約2kbのゲノムDNAの欠失が生じた。欠失したものの中には、moc1遺伝子の3’領域の610bpsとtoc1遺伝子の5’末端の880bpsとが含まれていた(図7)。
【0092】
Stm6及びWTにおいて5’特異的moc1プライマーとその核挿入配列由来の第2のプライマーを用いてPCR解析を行ったところ、Stm6においては1005bpのPCR産物が増幅された。このことから、挿入によって生じた欠失はmoc1の一部のみであり、この遺伝子の5’領域は何ら影響を受けていないことが確認された。Stm6における核挿入の5’領域に存在するmoc1の残りの512bpsと核挿入の3’領域に存在するtoc1の残りの4782bpsとを特定したところ、この変異は3’−moc1/5’−toc1遺伝子領域に完全に限定され、可能性のある他の全ての隣接コード領域には影響を及ぼさないことが分かった。
【0093】
相補性実験を行ったところ、Stm6において状態遷移がない原因はmoc1のシングルコピーであることが分かった(図5、図6、図9参照)。相補株B13は同時形質転換(co-transformation)アプローチより単離した。このアプローチには、moc1含有コスミドを、主要な選択可能なマーカーとしてエメチン耐性を与えるcry1遺伝子(Nelsonら、1994)を含有する第2のベクターと組み合わせて用いた。37kbのコスミドはコスミドライブラリーから単離した(英国UCLのSaul Purton博士からご提供頂いた)。挿入領域の配列解析の結果、moc1はこのコスミドに挿入された唯一の遺伝子であることが分かった。
【0094】
評価を行ったエメチン耐性を有する約5000のコロニーの内、正常な状態遷移を行うものが4個あることが分かり(蛍光ビデオ画像化により評価)、これら4個は全てmoc1遺伝子を含んでいた。
【0095】
moc1遺伝子は35kDaタンパク質をコードしているが、その中には幾分驚くべきことであるが、ミトコンドリアトランジット配列と推定される配列と、DNA結合タンパク質に特徴的なロイシンジッパーモチーフを有する2個のミトコンドリア転写終結因子ドメイン(mterf)(Dagaら、1993)とが含まれている。総じて、顕著な類似性が、35kDaヒトmTERFタンパク質(図8)に対して(配列全長に亘るアライメントに基づいて34%)、更にDrosophila melanogaster(DmTTF、Robertiら、2003)及びsea urchin(mtDBP、Loguericioら、1999)中の相同体に対して見られた。ヒトmTERFはtRNA遺伝子の下流に結合し、ミトコンドリア内でのtRNA及びrRNAの合成量の制御と、他のミトコンドリア遺伝子の発現と、延いてはミトコンドリア呼吸鎖の機能性に関与していると考えられる(Fernandez−Silvaら、1997;Selwood、2000;Hessら、1991)。興味深いことに、mterfドメインを有するMOC1の9個の相同体がArabidopsis thalianaのゲノムにおいて特定されており、その内の4個(At1g61980、At2g44020、At4g02990、At2g03050)がミトコンドリアをターゲットとし、1個(At5g55580)が葉緑体をターゲットとしていると予想される。最近開放されたChlamydomonas核ゲノムデータベースの解析に加えDNAハイブリダイゼーション実験を行ったところ、C.reinhardtiiにはmoc1のコピーが1個だけ存在することが示唆された。
【0096】
(iv)MOC1はミトコンドリアタンパク質であり、MOC1が存在しないことによりシトクロムオキシダーゼの発現が影響を受ける
MOC1は実際には葉緑体ではなくミトコンドリアをターゲットとしたものであること(図9)と、MOC1はStm6変異体には存在しないこととを確認するため、MOC1に対する抗ペプチド抗体を用いた。重要なことであるが、MOC1の発現は、暗い状態から明るくするとRNA及びタンパク質レベルにおいてアップレギュレートされた(図10)。
【0097】
MOC1が存在しないことがミトコンドリアの呼吸複合体の発現に影響を与えるか否かを評価するために各種実験を行った。イムノブロットの結果、シトクロムオキシダーゼのサブユニット90の蓄積(Lownら、2001)(COX90)はStm6では減少したものの(図9)、溶解性のシトクロムCのレベルは影響を受けず、代替的オキシダーゼ1(Alternative oxidase 1)(AOX1)のレベルは変異によって増加した(図9)。相補的な株B13においては、シトクロムオキシダーゼのサブユニット90はほぼWTのレベル迄回復した。イムノブロットのデータは、暗所増殖させたWT細胞及びStm6細胞から単離したミトコンドリアにおけるシトクロムオキシダーゼの活性測定の結果と良く一致した(図10)。光処理に伴い、Stm6におけるシトクロムオキシダーゼ活性は著しく低下した。光照射下増殖させたStm6細胞におけるATPレベルはWT及びB13の約50%であり(図10)、この結果は、光合成由来還元体(photosynthetically derived reductant)からのATPの生成におけるシトクロムオキシダーゼの役割と一致しており、先の示唆(KroemerとHeldt、1991)と合っている。
【0098】
(v)MOC1は光曝露によるミトコンドリアゲノムの転写の変化に関与している
MOC1がヒトmTERFと共通の転写因子をコードしていると仮定し、ミトコンドリアゲノムの転写産物プロファイルに対して可能性のある変動要因(perturbations)を検出することを目的とした各種実験を行った。C.reinhardtiiの場合は、ミトコンドリアゲノムは15.8kbの線形ゲノムから構成される(GrayとBoer、1988)。このゲノムは複数の呼吸サブユニットをコードしており、その中にはシトクロムオキシダーゼのサブユニット1(cox1遺伝子産物)、複合体Iの5個のサブユニット(nad1−2、nad4−6遺伝子産物)、及びアポシトクロムb(cob遺伝子産物が含まれている。
【0099】
nad2遺伝子及びcox1遺伝子の半定量的RT−PCR解析を行った結果、暗所増殖細胞の光曝露後にはWTとStm6の転写産物レベルに大きな差があることが分かった。WTに比べてStm6は常に、cox1転写産物レベルが低く、cox1の直ぐ下流に位置するnad2遺伝子由来の転写産物レベルは高かった(図10)。
【0100】
これらの結果をまとめると、MOC1は、シトクロムオキシダーゼ活性レベルをcox1の転写レベルに制御することにおいて重要な役割を担っていることが示唆される。COX1はシトクロムオキシダーゼ複合体に組み立てられる最初のサブユニットであるため、COX1発現レベルは酵素合成量の重要な決定要素である可能性がある(Nijtmansら、1998)。
【0101】
(vi)光ストレス中のミトコンドリア呼吸鎖の調節におけるMOC1の役割のモデル
ミトコンドリア機能におけるMOC1の役割モデルを図11に示す。ミトコンドリアゲノムは二方向に転写されて2個の一次転写産物を作成し、これらは処理されてより小さな転写産物となる(GrayとBoer、1988)。本発明者らの結果から分かるように、MOC1は、cox1mRNAのレベルを下流のnad2転写産物のレベルよりも高く維持するのに重要である。従って、可能性のあるMOC1結合部位は、転写終結因子である可能性が高く、cox1とnad2の間に存在するであろう。このクラスの転写因子の結合部位の多様性が、この段階においては、可能性のあるMOC1結合部位を予想することを困難にしている(Robertiら、2003)。
【0102】
本発明者らのモデルにおいては、MOC1の作用を受けてミトコンドリアは、cox1の転写を下流のnad遺伝子と切り離し、更なるシトクロムオキシダーゼ複合体の合成に必要なCOX1の相対的な発現量を増加させることができる。これは、複合体Iに無関係であるロテノン非感受性ミトコンドリアNADHデヒドロゲナーゼが光によって誘起され(SvenssonとRasmussen、2001)より多くのシトクロムオキシダーゼを合成する必要がある場合に特に適している。ゲノムあたり一を超えるMOC1結合部位が存在し(Robertiら、2003)DNAだけでなくRNAに結合する可能性があるとするならば、ミトコンドリア遺伝子発現に対するMOC1作用の効果はむしろ複雑であろう。
【0103】
(vii)循環的電子輸送の測定
目的:循環的電子輸送は、Stm6において好気的条件下或いは嫌気的条件下阻害されるか否かを決定する。
【0104】
方法:循環的電子輸送速度(図14)を分光分析により測定した。測定は、20μMジクロロフェニルジメチル尿素(DCMU:PSIIからcytbfへのeの輸送を阻害する)又は5μM 2,5−ジブロモ−6−イソプロピル−3−メチル−1,4−ベンゾキノン(DBMIB:cytbfからプラストシアニンへのeの輸送を阻害する)の存在下、cyt fの光誘起レドックス変化を測定することにより行った。PSI活性及びPSII活性は、シングルターンオーバーフラッシュ励起後の電荷分離測定から分光分析により推定した。これを行うため、測定前に細胞を暗所に2時間置くか、200μmol/m.s−1白色光を10分間照射した(Trebstら(1980))。
【0105】
このようにしてCytレドックス状態の変化を伴う循環的電子輸送測定を行った結果、循環的e輸送は、Stm6において好気的条件と嫌気的条件の両方において阻害された。
【0106】
(viii)PSII活性レベル
目的:PSII活性レベルは、状態1におけるPSIIの大きなアンテナサイズのために光照射下ダウンレギュレートされるか否かを決定する。
方法:PSI活性及びPSII活性(図14)をシングルターンオーバーフラッシュ励起後の電荷分離測定から分光分析により推定した。これを行うために測定前に細胞を暗所に2時間置くか、200μmol/m.s−1の白色光を10分間照射した。
【0107】
暗所での培養物においては、WT細胞とStm6細胞のPSII(PSII−D)及びPSI(PSI−D)活性は同等であった。予想通り、PSI活性レベルは10分間のプレ照射時は一定のままであった(PSI−L)。これに対し、10分間のプレ照射段階によって、WTとStm6の双方においてPSII(PSII−L)の光阻害が生じた。このことから、PSIIは光阻害を受けやすいことが分かる。しかしながら、Stm6の場合は不活性化が更に顕著に現れた(PSII−L)。これは、状態1遷移中であるためStm6のPSIIアンテナサイズが大きいからである(Finnazziら(2003))。
【0108】
(ix)リンゴ酸デヒドロゲナーゼのダウンレギュレーション
葉緑体からミトコンドリアへのH及びeの移動に関与するリンゴ酸NADPHデヒドロゲナーゼの活性がStm6においてダウンレギュレートされるかを確認するため鋭意検討した。ダウンレギュレーションがあれば、H及びeはミトコンドリアに供給されるよりもHydAを介したH生産のため葉緑体に残るということを示している。図15に示すように、WT及びStm6細胞培養物におけるリンゴ酸NADPH−デヒドロゲナーゼ活性測定の結果、この酵素の活性はStm6においてダウンレギュレートされていることが分かる(Lemaireら(2003))。
【0109】
考察
生産を達成するには次の三条件を満たさなければならない。第1に、HydAの酸素誘起阻害を高めなければならない。第2に、ストロマに位置するHydAは高い基質(Hとe)供給速度を有さなければならない。第3に、ストロマへのe輸送にPSIを伴うため、HydAを介した光学的なH生産には光が必要である。要約すると、HydAを介したバイオ水素生産は「嫌気性光合成」の状態において生じる(図2)。
【0110】
生産能力が改善された変位体を迅速に特定するため、まずC.reinhardtiiノックアウトを状態遷移プロセスの崩壊に関してスクリーニングした(図2)。このプロセスのPSI及びPSIIのターンオーバー速度は通常、バランスを保持されている(図1)。これは、光集光アンテナ(それぞれLHCI及びLHCII)のサイズを調節することにより、具体的には二種の光化学系(状態1:大きなPSIIアンテナ;状態2:大きなPSIアンテナ)の間にLhcbタンパク質を往復させることにより行う。C.reinhardtiiの場合、このプロセスによって線形光合成電子輸送から循環的光合成電子輸送に切り替わり、これはPSIの還元側においてeに関してHydAと競合する(図2)。嫌気的条件下状態1においてブロックされた細胞は循環的電子伝達を行わない。これらの条件下では、HydAはもはやPSI由来の電子に関してCytbf仲介循環的電子輸送と競合する必要はなく(図2)、光誘導性(light-driven)H生産の効率向上が期待できる。選択された変異体の内、moc1の核ノックアウト変異体であるStm6(Genbank寄託番号AF531421)は、状態1においてブロックされH生産能力が向上すること(図3)、循環的電子輸送において阻害されること(図14)、葉緑体内に多量のデンプンを蓄積させること(HydAのためのH/eの貯蔵)(図4)、及び常にPSII−LHCIIアンテナ複合体が大きいことによって光阻害に対する感受性が高いためPSII活性が低いことが分かった。更に、Stm6の細胞酸素濃度は約60%減少しており、これは恐らく代替的オキシダーゼの活性が高いためであろう。このように多岐に亘り複雑な表現型の特性によって、Stm6は本質的に、捕捉した太陽エネルギーを主にPSIによって動かされる「嫌気性光合成経路」を介して化学エネルギー(Hの形)へ変換するように仕向けられる。
【0111】
Moc1は核にコードされたミトコンドリアDNA結合タンパク質であり、その欠失は光照射によるミトコンドリア電子輸送経路のデレギュレーションを生じさせる。特に、Moc1欠失は複合体IVの著しいダウンレギュレーションを惹き起こす。この変異は更に、ミトコンドリアH勾配を維持しミトコンドリアFATPaseを介してATPを合成する能力において、ミトコンドリア電子輸送(複合体I→複合体IV)の低下を惹き起こす。従って、光合成による生成物のシンク(sink;溜り場)として作用するミトコンドリアの能力を著しく減退させてしまう(図2)。このようなミトコンドリアと葉緑体の間の相互作用の減少により、Stm6は、一時的なH/eのシンクとして、生成されたHを用いてPSII由来のH/eをヒドロゲナーゼHydAに供給する。Stm6において観察された葉緑体の準自律機能及びそれに伴う光合成循環的電子流の阻害の全体的な効果として、この株において観察されたH生産増加という価値ある性質が提供される。
【0112】
長期間(6日間)のH生産実験(図3)により、バイオ水素生産に対しStm6が有益である点を幾つか見出した。第1に、(PSII修復を阻害するための)硫黄非存在下において、野生株(WT)よりも早く水素生産が開始された。第2に、Stm6は、より高いH生産速度を達成した。第3に、水素生産時間が約45時間(WT)から約120時間(Stm6)まで延びた。これら観測された3点の改良点を合わせると、WTよりもH生産が約350%増加した。尚、照射に先立ち、培養物を2時間暗所に置いておいた。照射フェーズ開始後、Stm6において直ぐにH生産が観察されたことも注目される。この知見は、Stm6の呼吸速度がHydA発現の酸素誘起阻害を防止するのに十分高いということを示唆するので重要である。
【0113】
Stm6には、更に収量を増加させる可能性がある。より短期間の実験の結果、WTに対して水素生成量が約500〜700%増加した。この増加は、15〜3100μmol/m.s−1の照射範囲に亘って見られた。これは、水素バイオリアクタにおける使用に関してもStm6は有益であることを示しており重要である。即ち、バイオリアクタ内では、細胞が曝露される光の照射強度は光源からの距離によって広範囲に亘るからである。
【0114】
WTに比べると、Stm6を用いた場合には、HydAへの基質(H/e)供給速度を高めることにより更に高いH収量を達成できる。光合成時のストロマのアルカリ化のため、ストロマに位置するHydAへのH供給はH生産速度、特に、循環的流れの阻害によってHydAへの電子搬送速度がWTよりも高いStm6におけるH生産速度を制限するであろう(図2)。この仮説を調べるため、Hの迅速なチラコイド膜通過輸送を助けると考えられているプロトノフォアであるCCCPをStm6及びWT培養物に添加した。CCCPはWTには殆ど影響しなかった(恐らく、e輸送がH生産を制限しているため)が、Stm6は少なくとも30分間の間に約1500%のH生産の増加を示した。この結果から、内腔からストロマへのH輸送がStm6におけるH生産の改善における律速段階であることは明らかである。
【0115】
要約すると、Stm6は、HOを基質として使用できる将来の太陽光利用H生産システムの開発に価値ある複数の性質を有している。第1に、Stm6の葉緑体は準自律的に機能して、HO由来のH及びeをミトコンドリア電子輸送鎖にではなくH生産のためのHydAに供給する。第2に、Stm6においては循環的電子輸送がオフにされるため、この変異体は、HydAへのe供給の恒久的且つ高速のルートとなる。第3に、Stm6の細胞O濃度は低く維持されるため、HydA活性が顕著に高い。最後に本発明者らは、Stm6は、CCCPの存在下においてWTよりも15倍速い速度でHを生産できることを示した。この15倍の増加は、経済的に実行可能なH生産システムの開発に向けた重要な第一歩である。
【0116】
明確さと理解のため本発明を幾分詳細に説明したが、本明細書に開示した本発明の概念から逸脱することなく本明細書に記載した実施形態や方法に対して各種の変更や変形を行うことができることは当業者には明らかであろう。
【0117】
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【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】好気的条件或いは嫌気的条件下でのStm6或いはWTにおける光合成H生産に関連する各生化学的経路を示す図である。各区分は、葉緑体(CHL)、サイトゾル及びミトコンドリア(MIT)を示す。濃い矢印及び薄い矢印はそれぞれ電子及びプロトンの流れを示し、濃い線及び薄い線は同時のプロトン及び電子の流れを示す。○で囲った黒の×は阻害された経路を示す。○で囲った黒の矢印はダウンレギュレートされた経路を示す。
【図2】好気的条件或いは嫌気的条件下でのC.reinhardtiiの葉緑体におけるH/eの流れを示す。 a:好気的条件下、PSIIの水分解(water splitting)反応由来の電子を光合成電子輸送鎖に沿って通過させる(黒実線矢印)。これは、NADPH及びデンプンの生成に使用する前に、プラストキノン(PQ)、シトクロムbf(Cyt bf)、光化学系I(PSI)、及びフェロドキシン(ferrodoxin)(Fd)経由で行う。PSII及びPQ/PQHサイクルがチラコイド内腔に放出したH(プロトンの流れを薄灰色実線矢印で示す)はプロトン勾配を形成し、この勾配によってATPシンターゼによるATP生成が駆動される。破線は、Stm6において阻害されたH(薄灰色)及びe(黒)の移動経路を示す。 b:嫌気的条件下、デンプン及びNADPHに貯蔵されたH/eをH生産のためのHydAに供給する。Stm6においては循環的電子輸送(FdとCyt bfとを結ぶ黒破線)が阻害される。
【図3】野生株(WT)と変異体(M)C.reinhardtiiのH生産特性を示す。 A:WT及びStm6 Chlamydomonas reinhardtii培養物の長期間水素生産。溶解H濃度の測定は、クラーク型水素センサシステム(デンマーク国、ユニセンス(UniSense))と暗所増殖させた1リットルのWT及びStm6細胞培養物(照射あたりの細胞密度OD750nm=0.8は等しい)を用いて行った。硫黄非存在下においては、Stm6の生産するH量はWTの3.5倍多かった(即ち、面積積分値146/41=3.5)。 B:ガス質量分析により推定した、野生株及びStm6 Chlamydomonas reinhardtii培養物の水素生産に対する光強度の影響。様々な照射レベルで1分間連続照射したときの(暗所で30分置いた)WT及びStm6細胞による水素発生(相対速度)。Stm6は常に、野生株に比べて(ピークの表示で示すように)500〜700%高い速度で水素を生産した。 C:水素クラーク電極測定値(ユニセンス(UniSense))により推定されるように、アンカップラーであるCCCPは、WTに比べて約1500%高いレベルでH生産速度を安定させる。これは、HydA活性は基質供給速度により限定され得ることを示している。
【図4】WT及び高H生産変異体C.rheinhardtiiの染色切片の電子顕微鏡写真である。C−葉緑体、G−ゴルジ、M−ミトコンドリア、N−核、S−デンプン。尚、1)変異体のグラナはWTに比べて層数が少ない。これは変異体の光捕捉特性を示唆している。変異体には、デンプンの形の炭水化物が多く貯蔵されているように見られる。水由来のH及びeは、HydAによってHに変換される前はデンプンに貯蔵されている。
【図5】葉緑体における光誘起短時間適応機構の分析結果を示す。 a)WT、B13及びStm6において77K蛍光分光分析によって分析した状態遷移 b)状態2及び状態1においてTAP寒天プレート上で行ったWT、B13及びStm6の蛍光ビデオ画像(化学線620nm光照射±15分 710nmPSI光照射) c)状態2適用WT及びStm6細胞から単離したチラコイド膜のインビボリン酸化タンパク質パターン
【図6】Stm6は光ストレスに対して感受性を有することを示す。 a)WT、B13及びStm6株。TAP培地中、対数増殖期中期まで培養し、1000μmol m−2−1の白色光に4時間曝露した後、TAP寒天プレート上に接種し40μmol m−2−1の白色光下7日間増殖させた。 b)高レベル光細胞生残率。WT、B13及びStm6株に対し4時間に亘って高レベル光処理を行った。細胞は、光処理に先立ち、1×10個/mLに希釈した。
【図7】2個のpArg7.8プラスミドの縦列核挿入によって影響を受けたStm6のゲノムDNA部位を示す。 −染色体歩行(LMS−PCR)後の配列解析による、及び: −特異的moc1、toc1、pArg7.8の各プライマーを用いたPCR解析による。 2本の黒矢印の組は、PCRに用いた各プライマーを示す。 2本の灰色矢印は、WTにおける核挿入の組込み部位を示す。
【図8】MOC1のタンパク質配列、及びヒト転写終結因子mTERFとのアライメントを示す。この模式図及び黒枠は、MOC1におけるミトコンドリアトランジット配列及び特定されたmTERFドメイン構造の位置を示す。
【図9】WT、Stm6及びB13のウェスタン解析及びATP測定値レベルを示す。 a)シトクロムオキシダーゼサブユニットCOX90に特異的な抗体を用いた光増殖細胞のイムノブロット。 b)抗ペプチド抗体を用いたイムノブロット。MOC1が葉緑体ではなくミトコンドリアに局在化していることを示すため(葉緑体及びミトコンドリアに対する対照としてそれぞれ抗D2及び抗Cyt c ブロットを行った)、及びStm6におけるAOX1のアップレギュレーションを示すために行った。濃度計で測定した交差反応の相対強度を示す。 c)光増殖或いは暗所増殖させたWT、Stm6及びB13細胞のATPレベル。
【図10】光誘起ミトコンドリア転写調節におけるMOC1の役割を示す。 a)暗所増殖培養物、及び暗所増殖後に光照射(3時間、200μmol m−2−1)した培養物のnad2及びcox1の半定量的RT−PCR;mRNAレベルはアクチンに標準化した。 b)暗所増殖WT及び光照射増殖WTから単離した全RNAのmoc1ノーザンブロット。 c)高レベル光(800μmol m−2−1)に0〜180分曝露したWT細胞から単離したミトコンドリアの抗MOC1及び抗シトクロムイムノブロット。対照としてStm6ブロットを行った。 d)WT及びStm6から単離したミトコンドリアにおけるシトクロムオキシダーゼ活性測定値(3時間、200μmol m−2−1)。
【図11】高光ストレス時のミトコンドリア呼吸電子輸送調節におけるMOC1の役割と、葉緑体における光誘起レドックス対照プロセスに対するその影響とを説明するモデルを示す。灰色の枠は細胞小器官を示す。
【図12】溶解酸素濃度測定値を示す。 パネルA:一定照射下、硫黄飽和TAP培地中細胞培養を行い、時間=0において硫黄除去TAP培地に移した。 パネルB:光培養細胞調製物(30μg Chl/mL)±5mM KCNを用いて暗所で細胞呼吸測定を行った。
【図13】循環的電子輸送の分光分析測定を示すグラフである。測定は、20μMジクロロフェニルジメチル尿素(DCMU:PSIIからcytbfへのeの輸送を阻害する)又は5μM 2,5−ジブロモ−6−イソプロピル−3−メチル−1,4−ベンゾキノンの存在下、cyt fの光誘起レドックス変化を測定することにより行った。上向き矢印:光オン、下向き矢印:光オフ。吸光度は、cyt fの酸化に対応して減少する。
【図14】WT Chlamydomonas reinhardtii及びStm6におけるPSII及びPSI活性レベルを示すグラフである。
【図15】WT Chlamydomonas reinhardtii及びStm6細胞培養物におけるリンゴ酸NADPH−デヒドロゲナーゼ活性測定値を示すグラフである。
【図16】低光レベルにおけるStm6及び野生株Chlamydomonas reinhardtiiの増殖速度の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の生産方法であって、該方法は、
(i)光合成微生物であって、光合成「光」反応経路を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物を提供する段階と、
(ii)該微生物をマイクロオキシック条件及び照射条件下培養する段階と、
(iii)発生した水素を回収する段階とを含む方法。
【請求項2】
該微生物がアセテート含有培地において培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二酸化炭素が炭素源である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
照射を最大120時間継続する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
照射を太陽光の照射により行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
照射を人工光源により行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
照射光の強度が15〜3100μmol m−2−1である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
光合成電子輸送鎖からのATPシンターゼのアンカップラーを添加する段階をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アンカップラーは、カルボニルシアニド 3−クロロ−フェニルヒドラゾン(CCCP)、1,3−ジクロロ−ヘキシルカルボジイミド(DCC)、塩化アンモニウム、ベンツリシジン、カルボニルシアニド p−トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)、2,4−ジニトロフェノール、グラミシジン及びニゲリシンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
呼吸電子伝達鎖を調節するミトコンドリア転写因子の活性が低減されるかなくされる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ミトコンドリア転写因子はMOC1である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ミトコンドリア転写因子の活性は、RNAiを用いてアンチセンス分子を導入することにより、不活性化変異を導入することにより、或いはミトコンドリア転写因子の阻害剤を導入することにより低減されるかなくされる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
シトクロムオキシダーゼ(複合体IV)がダウンレギュレートされる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
cox1転写産物のレベルがnad2より低減される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
葉緑体における循環的電子輸送が阻害される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
微生物は藻類或いはシアノバクテリアである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
藻類は緑藻類の内の一種である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
藻類は、Synechococcus sp.、Chlorococcales及びVolvocales、とりわけChlamydomonas spp.、Scenedesmus spp.、Chlorococcum spp.、Chlorella spp.、Platymonas spp.及びTrichomonas spp.の藻類からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
藻類がVolvocales目に属する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
藻類がChlamydomonas spp.に属する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
藻類がChlamydomonas reinhardtiiである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
藻類が、2003年7月1日に受託番号11/129で藻類及び原生動物培養保存機関(Culture Collection of Algae and Protozoa)(CCAP)に寄託されたChlamydomonas reinhardtii Stm6である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
バイオマス生産を向上させる方法であって、該方法は、
(i)光合成微生物であって、光合成「光」反応経路を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物を提供する段階と、
(ii)照射条件下且つ炭素源の存在下、該微生物を培養してバイオマスを増大させる段階とを含む方法。
【請求項24】
増大されたバイオマスをガス化して水素を生産する段階を更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
外部の栄養源から炭素を切り離す(sequestering)方法であって、該方法は、
(i)光合成微生物であって、光化学系I及びII(PS I及びPS II)を伴う光合成「光」反応経路を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、ヒドロゲナーゼの固有の酸素阻害を低減するかなくするように酸化的リン酸化経路の調節が崩壊される光合成微生物を提供する段階と、
(ii)照射条件下、該微生物を培養してバイオマスを増大させる段階とを含み、
外部の栄養源を前記培養の炭素源として用い、そのためにその栄養源から炭素がなくなる方法。
【請求項26】
外部の栄養源が廃棄物流である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
光合成微生物の実質的に純粋な培養物であって、光合成「光」反応経路を介し且つ酸化的リン酸化経路を伴う呼吸電子伝達鎖を介して電子伝達を行うことができると共にヒドロゲナーゼを発現し、酸化的リン酸化経路の調節が崩壊された結果、呼吸電子伝達鎖に沿ったシトクロムオキシダーゼ(複合体IV)への電子の流れが低減された光合成微生物の実質的に純粋な培養物。
【請求項28】
2003年7月1日に受託番号CCAP11/129で藻類及び原生動物培養保存機関(Culture Collection of Algae and Protozoa)(CCAP)に寄託されたChlamydomonas reinhardtii Stm6。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−525199(P2007−525199A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517902(P2006−517902)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000913
【国際公開番号】WO2005/003024
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(506008700)ユニバーシティ オブ クイーンズランド (3)
【Fターム(参考)】