説明

光吸収色素およびこれを用いた光吸収材

【課題】 ほぼ800〜1100nmの波長における光吸収特性が良好であって、単独で用いられても、あるいは他の色素と混合して用いられてもその吸収能が経時的に大きく低下することのない光吸収色素およびそれを用いた光吸収材を提供すること。
【解決手段】 一般式(1);


(式中、RおよびRは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜8のアルキルアミノ基、モルホリノ基、ピペリジノ基、ピロリジノ基、チオモルホリノ基、ピペラジノ基またはフェニル基を、Mは遷移金属原子を示す。)で表される置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンと、シアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含む光吸収色素およびこれを用いた光吸収材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収色素およびこれを用いた光吸収材に関する。さらに詳しくは、置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンとシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含む光吸収色素およびこれを用いた光吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光を吸収する成分を含む光吸収材が種々の分野で使用されている。例えば、プラズマディスプレイパネル用近赤外線カットフィルム、近赤外線を吸収・カットする機能を有する半導体受光素子用の光学フィルター、省エネルギー用に熱線を遮断する近赤外線吸収フィルムや近赤外線吸収板、太陽光の選択的な利用を目的とする農業用近赤外線吸収フィルム、レーザー光等を用いる感光性平版印刷版および近赤外線の吸収熱を利用する記録媒体等として広く用いられている。特に、プラズマディスプレイパネル用近赤外線カットフィルム等においては、ほぼ800〜1100nmの波長における光吸収特性が良好な光吸収材が重要視されている。
【0003】
上記した光吸収材においては、一般に、フタロシアニン系色素やジイモニウム塩系色素、シアニン系色素等の光吸収色素が用いられている。また、これら光吸収色素の特性を改善するための種々の方法が知られている。
【0004】
例えば、フタロシアニン系色素は、溶媒に対する溶解性や樹脂との相溶性が不十分であることから、中心金属や置換基等の異なる種々のフタロシアニン系色素が提案されている(特許文献1参照)。また、ジイモニウム塩系色素は、モル吸光係数が低く、また他の色素と混合するとその吸収能が経時的に大きく低下することから、用いる光吸収色素をそれぞれ別の支持体上に塗布する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、これらの光吸収色素やこれらの光吸収色素を用いた光吸収材は、製造コストが高くなるといった問題がある。
【0005】
一方、シアニン系色素は、安価ではあるが、経時的に吸収能が大きく低下するといった問題がある。
【特許文献1】特開平10−182995号公報
【特許文献2】特開2002−156521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ほぼ800〜1100nmの波長における光吸収特性が良好であって、単独で用いられても、あるいは他の色素と混合して用いられてもその吸収能が経時的に大きく低下することのない光吸収色素およびそれを用いた光吸収材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記に示す通りの光吸収色素およびこれを用いた光吸収材に関する。
項1. 下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、置換基を有してもよいモルホリノ基、置換基を有してもよいピペリジノ基、置換基を有してもよいピロリジノ基、置換基を有してもよいチオモルホリノ基、置換基を有してもよいピペラジノ基または置換基を有してもよいフェニル基を示す。Mは、遷移金属原子を示す。)で表される置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンと、
1)下記一般式(2):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数1〜8のアルコキシ基を、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、Rは、CH=CR−CHまたは
【0012】
【化3】

で表される基を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)
2)下記一般式(3);
【0013】
【化4】

(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。Rは、CH=CR10−CHまたは
【0014】
【化5】

で表される基を示す。R10は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)
3)下記一般式(4);
【0015】
【化6】

【0016】
(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。R11およびR12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R13は、CH=CR14−CHまたは
【0017】
【化7】

【0018】
で表される基を示す。R14は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)
4)下記一般式(5);
【0019】
【化8】

【0020】
(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。QおよびQは、独立して、置換基を有してもよい縮合環を形成するに必要な原子群を示す。R15およびR16は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R17は、CH=CR18−CHまたは
【0021】
【化9】

【0022】
で表される基を示す。R18は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)
よりなる群から選択される少なくとも一種のシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含む光吸収色素。
【0023】
項2. 項1に記載の光吸収色素を基板上に層状に塗布形成して得られる光吸収材。
項3. 項1に記載の光吸収色素とモノマーとを含む組成物を、該モノマーの重合により硬化して得られる光吸収材。
項4. 項1に記載の光吸収色素と樹脂とを混練して得られる樹脂組成物を所定形状に成形して得られる光吸収材。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の光吸収色素は、置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンとシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含むものである。
【0026】
本発明に用いられる置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンは、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0027】
【化10】

【0028】
一般式(1)中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、置換基を有してもよいモルホリノ基、置換基を有してもよいピペリジノ基、置換基を有してもよいピロリジノ基、置換基を有してもよいチオモルホリノ基、置換基を有してもよいピペラジノ基または置換基を有してもよいフェニル基を、Mは、遷移金属原子を示す。
【0029】
炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基およびイソヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
炭素数1〜8のアルキルアミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−イソプロピルアミノ基、N−n−プロピルアミノ基、N−n−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−メチルエチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−エチルイソプロピルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N,N−ジ−n−プロピルアミノ基およびN,N−ジ−n−ブチルアミノ基等が挙げられる。
【0031】
置換基を有してもよいモルホリノ基としては、例えば、モルホリノ基、2−メチルモルホリノ基、3−メチルモルホリノ基、4−メチルモルホリノ基、2−エチルモルホリノ基、4−n−プロピルモルホリノ基、3−n−ブチルモルホリノ基、2,4−ジメチルモルホリノ基、2,6−ジメチルモルホリノ基および4−フェニルモルホリノ基等が挙げられる。
【0032】
置換基を有してもよいピペリジノ基としては、例えば、ピペリジノ基、2−メチルピペリジノ基、3−メチルピペリジノ基、4−メチルピペリジノ基、2−エチルピペリジノ基、4−n−プロピルピペリジノ基、3−n−ブチルピペリジノ基、2,4−ジメチルピペリジノ基、2,6−ジメチルピペリジノ基および4−フェニルピペリジノ基等が挙げられる。
【0033】
置換基を有してもよいピロリジノ基としては、例えば、ピロリジノ基、2−メチルピロリジノ基、3−メチルピロリジノ基、4−メチルピロリジノ基、2−エチルピロリジノ基、4−n−プロピルピロリジノ基、3−n−ブチルピロリジノ基、2,4−ジメチルピロリジノ基、2,5−ジメチルピロリジノ基および4−フェニルピロリジノ基等が挙げられる。
【0034】
置換基を有してもよいチオモルホリノ基としては、例えば、チオモルホルノ基、2−メチルチオモルホリノ基、3−メチルチオモルホリノ基、4−メチルチオモルホリノ基、2−エチルチオモルホリノ基、4−n−プロピルチオモルホリノ基、3−n−ブチルチオモルホリノ基、2,4−ジメチルチオモルホリノ基、2,6−ジメチルチオモルホリノ基および4−フェニルチオモルホリノ基等が挙げられる。
【0035】
置換基を有してもよいピペラジノ基としては、例えば、ピペラジノ基、2−メチルピペラジノ基、3−メチルピペラジノ基、4−メチルピペラジノ基、2−エチルピペラジノ基、4−n−プロピルピペラジノ基、3−n−ブチルピペラジノ基、2,4−ジメチルピペラジノ基、2,6−ジメチルピペラジノ基、4−フェニルピペラジノ基および2−ピリミジルピペラジノ基等が挙げられる。
【0036】
置換基を有してもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−n−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−クロロ−4−ブロモフェニル基、4−アミノフェニル基、2,4−ジアミノフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、2−アセチルフェニル基、4−アセチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−メチルチオフェニル基および4−メチルチオフェニル基等が挙げられる。
【0037】
前記一般式(1)において、有機溶媒への溶解性に優れている観点から、RおよびRは、独立して、N,N−ジエチルアミノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、ピペラジノ基またはフェニル基であることが好ましい。
【0038】
Mで表される遷移金属原子の具体例としては、ニッケル原子、銅原子、コバルト原子等が挙げられる。
【0039】
本発明に用いられる前記置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンは、置換ベンゼンジチオール金属錯体から誘導される。該置換ベンゼンジチオール金属錯体は、例えば、特開平9−309886号公報や特開平10−45767号公報に開示されている方法と同様の方法で合成することができる。すなわち、まず置換ハロゲノベンゼンと水硫化ナトリウム等の水硫化物とを、硫黄および鉄粉の存在下、極性有機溶媒中で反応させ、置換ベンゼンジチオールの鉄錯体を形成させる。得られた置換ベンゼンジチオールの鉄錯体と遷移金属のハロゲン化物とを反応させ、次いで、アンモニウム塩またはホスホニウム塩と反応させることにより、置換ベンゼンジチオール金属錯体を得ることができる。
【0040】
本発明に用いられるシアニン系色素カチオンは、特に限定されるものではないが、好ましくは下記一般式(2)〜(5)で表されるシアニン系色素カチオンである。
【0041】
一般式(2):
【0042】
【化11】

【0043】
一般式(2)中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数1〜8のアルコキシ基を、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、Rは、CH=CR−CHまたは
【0044】
【化12】

【0045】
で表される基を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。
【0046】
およびRで示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等が挙げられる。また、RおよびRで示される炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0047】
およびRで示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、RおよびRで示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等を、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を、それぞれ挙げることができる。
【0048】
で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、Rで示される炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基およびプロピル基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を挙げることができる。さらに、Qで示される置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基および2−tert−ブチルトリメチレン基等が挙げられる。
【0049】
一般式(3):
【0050】
【化13】

【0051】
一般式(3)中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。Rは、CH=CR10−CHまたは
【0052】
【化14】

【0053】
で表される基を示す。R10は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。
【0054】
およびAが、炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子である場合の炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0055】
10で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、R10で示される炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基およびプロピル基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を挙げることができる。さらに、Qで示される置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基および2−tert−ブチルトリメチレン基等が挙げられる。
【0056】
一般式(4):
【0057】
【化15】

【0058】
一般式(4)中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。R11およびR12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R13は、CH=CR14−CHまたは
【0059】
【化16】

【0060】
で表される基を示す。R14は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。
【0061】
およびAが、炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子である場合の炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0062】
11およびR12で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、R11およびR12で示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等を、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を、それぞれ挙げることができる。
【0063】
14で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、R14で示される炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基およびプロピル基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を挙げることができる。さらに、Qで示される置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基および2−tert−ブチルトリメチレン基等が挙げられる。
【0064】
一般式(5):
【0065】
【化17】

【0066】
一般式(5)中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。QおよびQは、独立して、置換基を有してもよい縮合環を形成するに必要な原子群を示す。R15およびR16は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R17は、CH=CR18−CHまたは
【0067】
【化18】

【0068】
で表される基を示す。R18は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。
【0069】
およびAが、炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子である場合の炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等が挙げられる。また、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等が挙げられる。
【0070】
およびQを含んで示される、置換基を有してもよい縮合環としては、例えば、ベンゼン環、クロロベンゼン環、メチルベンゼン環、エチルベンゼン環、メトキシベンゼン環、エトキシベンゼン環、ナフタレン環およびクロロナフタレン環等が挙げられる。
【0071】
15およびR16で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、R15およびR16で示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基およびトリフルオロメチル基等を、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基およびテトラフルオロプロポキシ基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を、それぞれ挙げることができる。
【0072】
18で示されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子およびヨウ素原子等が挙げられる。また、R18で示される炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基およびプロピル基等を、アリール基としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基およびクロロフェニル基等を挙げることができる。さらに、Qで示される置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基および2−tert−ブチルトリメチレン基等が挙げられる。
【0073】
本発明において、上記の種々のシアニン系色素カチオンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
本発明に用いられる種々のシアニン系色素カチオンは、それぞれ、相当するシアニン系色素から誘導される。一般式(2)において、より好ましいシアニン系色素としては、下記式(6)および(7)で表されるものが挙げられる。
【0075】
【化19】

【0076】
【化20】

【0077】
これらシアニン系色素は、それぞれ市販のものを用いることができる。例えば、式(6)で表される色素はエフ・イー・ダブリュ ケミカルズ社の商品名S0813を、式(7)で表される色素はエフ・イー・ダブリュ ケミカルズ社の商品名S0734をそれぞれ用いることができる。
【0078】
また、一般式(3)において、より好ましいシアニン系色素としては、下記式(8)で表されるものが挙げられる。
【0079】
【化21】

【0080】
これらシアニン系色素は、市販のものを用いることができる。例えば、式(8)で表される色素は、アメリカンダイソース社の商品名ADS956BPを用いることができる。
【0081】
また、一般式(4)において、より好ましいシアニン系色素としては、下記式(9)で表されるものが挙げられる。
【0082】
【化22】

【0083】
これらシアニン系色素は、市販のものを用いることができる。例えば、式(9)で表される色素は、アメリカンダイソース社の商品名ADS1040Pを用いることができる。
【0084】
また、一般式(5)において、より好ましいシアニン系色素としては、下記式(10)および(11)で表されるものが挙げられる。
【0085】
【化23】

【0086】
【化24】

【0087】
これらシアニン系色素は、それぞれ市販のものを用いることができる。例えば、式(10)で表される色素はシントン社の商品名ST1292を、式(11)で表される色素はシントン社の商品名ST1458をそれぞれ用いることができる。
【0088】
本発明の光吸収色素は、前記置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンと、前記一般式(2)〜(5)で表されるシアニン系色素カチオンよりなる群から選択される少なくとも一種のシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含むものである。
【0089】
本発明の光吸収色素を構成する対イオン結合体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、前記置換ベンゼンジチオール金属錯体と前記シアニン系色素とを、有機溶媒中で反応させ、次いで、前記置換ベンゼンジチオール金属錯体に由来するカチオンと前記シアニン系色素に由来するアニオン等のイオンを除去した後、得られた結晶を乾燥させる方法を挙げることができる。
【0090】
シアニン系色素の使用量は、置換ベンゼンジチオール金属錯体1モルに対して、0.8〜1.2モル、好ましくは0.9〜1.1モルであることが望ましい。シアニン系色素の使用量が0.8モル未満の場合、収率が低下するおそれがある。また、シアニン系色素の使用量が1.2モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でない。
【0091】
前記反応で用いられる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルが好適に用いられる。
【0092】
これら有機溶媒の使用量は、置換ベンゼンジチオール金属錯体100重量部に対して、1000〜100000重量部、好ましくは4000〜20000重量部であることが望ましい。有機溶媒の使用量が1000重量部未満の場合、均一に混合できなくなるおそれがある。また、有機溶媒の使用量が100000重量部を超える場合、容積効率が悪化し経済的でない。
【0093】
反応温度は、シアニン系色素の分解を抑制する観点から、60℃以下、好ましくは10〜50℃であることが望ましい。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、反応は瞬時に完結する。
【0094】
前記反応において、置換ベンゼンジチオール金属錯体とシアニン系色素とは、有機溶媒に溶解するが、目的物である対イオン結合体は、反応の進行とともに一部析出し、反応液はスラリー状となる。
【0095】
得られた反応液から置換ベンゼンジチオール金属錯体に由来するカチオンとシアニン系色素に由来するアニオンを除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、置換ベンゼンジチオール金属錯体に由来するカチオンおよびシアニン系色素に由来するアニオン等のイオンは溶解し、目的物である対イオン結合体は溶解しない溶媒を反応液に添加して、冷却し、対イオン結合体を析出させた後、濾過する方法を挙げることができる。また、これらのイオンを十分に除去する観点から、得られた対イオン結合体を再結晶することが望ましい。
【0096】
前記溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。これらの中でも、不要なイオンを効率よく除去できるという観点から、水およびメタノールが好適に用いられる。
【0097】
前記溶媒の使用量は、置換ベンゼンジチオール金属錯体100重量部に対して、1000〜100000重量部、好ましくは5000〜20000重量部であることが望ましい。
【0098】
本発明の光吸収色素は、前記対イオン結合体の単独であってもよいし、前記対イオン結合体に他のシアニン系色素等の種々の色素を混合した組成物であってもよい。
【0099】
本発明において、光吸収色素を使用するに際しては、該光吸収色素を溶媒やモノマーに混合したり、あるいは樹脂と混練する。その後、用途や目的等に応じて種々の形状に形成し、光吸収材として用いることができる。以下に、その実施の態様を説明する。
【0100】
(1)第1の実施態様(基板への色素溶液の塗布形成)
本発明の光吸収色素を溶媒に溶解して得られた色素溶液を、ガラスまたは樹脂の基板上に塗布し、乾燥させて溶媒を除去する。溶媒を除去した後の基板上には光吸収色素を含む層が残り、板状、シート状またはフィルム状等の光吸収材を得ることができる。
【0101】
上記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類等が挙げられる。これらの溶媒は単独で、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0102】
前記光吸収色素の使用量は、溶媒100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。0.01重量部より少ないと光吸収能が十分ではなく、また10重量部を超えて用いても不溶部分が残り、不均一な部分が形成されるおそれがある。
【0103】
上記基板としては、ガラス、樹脂等の透明部材が用いられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂等の透明性の高い樹脂が好ましい。上記基板は、フレキシブルなものであっても、ハードなものであってもよい。
【0104】
上記色素溶液の上記基板への塗布方法としては、例えば、バーコート法、スピンコート法等が挙げられる。この場合、上記色素溶液にバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂、酢酸セルロース、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0105】
(2)第2の実施態様(色素とモノマーとを含む組成物の硬化)
本発明の光吸収色素、モノマーおよび重合開始剤を含む組成物を、モールドに注入し重合硬化させるか、あるいはガラス板上にキャストして重合硬化させて光吸収材を得る。この光吸収材は、例えば、シート状や板状の構造を採ることができる。
【0106】
上記モノマーとしては、例えば、メタクリル酸エステル類、アクリル酸エステル類、芳香族および脂肪族ビニル類、グリシジルエーテル類、ビニルスルフィド類、ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0107】
メタクリル酸エステル類としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、エチレングリコールジメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド等が挙げられる。
【0108】
アクリル酸エステル類としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、エチレングリコールジアクリレート、グリシジルアクリレート等が挙げられる。
【0109】
芳香族および脂肪族ビニル類としては、例えば、スチレン、クロロスチレン、ヒドロキシスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4−ビニルシクロへキセン、1,5−シクロオクタジエン等が挙げられる。
【0110】
グリシジルエーテル類としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、トリメチロールプロパングリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0111】
ビニルスルフィド類としては、例えば、プロピルビニルスルフィド、フェニルビニルスルフィド、ビス(4−ビニルチオフェニル)スルフィド等が挙げられる。
【0112】
ビニルエーテル類としては、例えば、プロピルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で、または2種以上を混合して用いてもよい。
【0113】
光吸収色素の使用量は、モノマー100重量部に対して0.005〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部である。0.005重量部より少ないと光吸収能が十分ではなく、また20重量部を超えて用いても分散状態が不充分で、不均一な部分が形成されるおそれがある。
【0114】
重合硬化方法としては、特に限定されず、例えば、熱重合硬化法、紫外線や電子線等を用いる光重合硬化法等から用途等により適宜選択すればよい。
【0115】
熱重合硬化法において用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物;メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。
【0116】
光重合硬化法において用いられる重合開始剤としては、例えば、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ベンゾインイソプロピルエーテル、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0117】
上記の両重合硬化法における重合開始剤の使用量は、モノマー100重量部に対して0.005〜5重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜3重量部である。硬化温度および硬化時間は、本発明の光吸収材の用途、形状および使用する重合開始剤の種類により異なるが、硬化温度は0〜200℃が好ましく、より好ましくは10〜150℃である。硬化時間は0.5分〜50時間が好ましく、より好ましくは1分〜20時間である。
【0118】
(3)第3の実施態様(色素を含有する樹脂組成物からの形成)
本発明の光吸収色素と樹脂(例えば、樹脂粉体や樹脂ペレット)とを含む樹脂組成物を溶融押出機にて混練・押出し、シート、フィルム、その他の形状に成形する。さらに、成形したシート(原反)を周知の延伸方法により1軸ないしは2軸に延伸してフィルムとしてもよい。
【0119】
上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂等の透明性の高い樹脂が好ましい。また、樹脂組成物中には上記樹脂以外に紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、分散剤等を含有させてもよい。
【0120】
光吸収色素の使用量は、樹脂100重量部に対して0.005〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部である。0.005重量部より少ないと光吸収能が十分ではなく、また20重量部を超えて用いても分散状態が不充分で、不均一な部分が形成されるおそれがある。溶融温度としては100〜350℃が好ましく、より好ましくは200〜300℃である。
【発明の効果】
【0121】
本発明の光吸収色素は、置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンとシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含んでいるため、単独で用いられても、あるいは他の色素と混合して用いられてもその吸収能が経時的に大きく低下することのないものである。また、本発明の光吸収色素は、溶媒、モノマー等への溶解度が高く、樹脂との相溶性も良好であることから、さまざまな光を遮断するのに十分な量を、溶媒やモノマー等に溶解させたり、均一に樹脂と混練することができる。従って、本発明の光吸収色素を用いた光吸収材は、とりわけ800〜1100nmの波長において長期間にわたり十分な光吸収能を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0122】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0123】
合成例1
4−(モルホリノスルホニル)−1,2−ジクロロベンゼン59.2g(0.2モル)に、N,N−ジメチルホルムアミド183gおよび70重量%水硫化ナトリウム水溶液33.6g(0.42モル)を加え、65℃で3時間反応させた。この溶液に、鉄粉5.9g(0.11モル)および硫黄末6.7g(0.21モル)を添加し、90〜95℃で6時間反応させた。
【0124】
得られた反応液に室温でメタノール1080gを加えた後、28重量%ナトリウムメチラート溶液77.2g(ナトリウムメチラートとして0.21モル)を添加して1時間攪拌し、塩化銅(II)2水和物17.0g(0.1モル)を添加して、さらに室温で3時間反応させた。次いで、この反応液にテトラブチルアンモニウムブロマイド32.2g(0.1モル)を添加し、室温で空気を吹き込みながら2時間反応させた。
【0125】
かくして得られた反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、目的とする緑色の置換ベンゼンジチオール金属錯体D1(下記の表1を参照)36.6gを得た。
【0126】
合成例2
合成例1において、塩化銅(II)2水和物17.0g(0.1モル)に代えて、塩化ニッケル(II)6水和物23.8g(0.1モル)を用いた以外は合成例1と同様にして、置換ベンゼンジチオール金属錯体D2を合成した。得られた各置換ベンゼンジチオール金属錯体に対応する置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンの構造を、上記置換ベンゼンジチオール金属錯体D1についてのものと併せて表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
実施例1
置換ベンゼンジチオール金属錯体D1の8.8g(0.01モル)とシアニン系色素E1(下記の表2を参照、エフ・イー・ダブリュ ケミカルズ社の商品名;S0813)7.0g(0.01モル)とを、N,N−ジメチルホルムアミド500gに溶解、混合し、50℃に30分保持して反応させた。得られた反応液から不要なイオンを除去するため、メタノール600g、続いて水900gを加えて混合し、冷却、濾過した。この操作を2回繰り返した後、メタノール洗浄し乾燥して、対イオン結合体10.8gを得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびテトラフルオロホウ素酸イオンは検出されなかった。
【0129】
次に、得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.2gおよびアクリル樹脂10gをメチルエチルケトン100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0130】
実施例2
実施例1において、シアニン系色素E1に代えて、シアニン系色素E2(下記の表2を参照、エフ・イー・ダブリュ ケミカルズ社の商品名;S0734)を用いた以外は実施例1と同様にして、対イオン結合体を得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびテトラフルオロホウ素酸イオンは検出されなかった。
【0131】
次に、得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.2gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0132】
【表2】

【0133】
実施例3〜4
実施例2と同様にして各種の対イオン結合体を得た。さらに、それらの対イオン結合体からなる光吸収色素を用いて、実施例2と同様にして、膜厚10μmの光吸収材を得た。各実施例で使用した置換ベンゼンジチオール金属錯体とシアニン系色素を表3に示す。なお、実施例3および4で得られた対イオン結合体についても、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、置換ベンゼンジチオール金属錯体に由来するカチオンおよびシアニン系色素に由来するアニオンは検出されなかった。
【0134】
【表3】

【0135】
実施例5
実施例1において、シアニン系色素E1に代えて、シアニン系色素E3(下記の表4を参照、シントン社の商品名;ST798)を用いた以外は実施例1と同様にして、対イオン結合体を得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびトルエンスルホン酸イオンは検出されなかった。
次に、この得られた対イオン結合体0.2gに実施例1で得られた対イオン結合体0.2gを混合して、光吸収色素を得た。得られた光吸収色素0.4gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0136】
【表4】

【0137】
実施例6
実施例2で得られた対イオン結合体0.2gに別のシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを混合して、光吸収色素を得た。さらに、得られた光吸収色素0.3gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をポリエチレンテレフタレート基板上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0138】
実施例7
ジビニルベンゼン1000gに、実施例1で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.5gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを溶解した。この組成物をガラス製のモールドに注入し、35℃で3時間加熱した後、5時間かけて80℃まで昇温し、最後に100℃で2時間加熱して硬化させた。冷却後、ガラス板を剥離して厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0139】
実施例8
実施例7において、ジビニルベンゼン1000gに代えて、エチレングリコールジメタクリレート1000gを用いた以外は実施例7と同様にして、厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0140】
実施例9
ポリメチルメタクリレート樹脂のペレット1000gと、実施例1で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.3gとを、ニーダーで150℃に加熱、溶融混合した後、押出機を用いて厚さ1mmの光吸収材を形成した。
【0141】
比較例1
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10gおよびシアニン系色素E1の0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0142】
比較例2
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10g、シアニン系色素E1の0.1gおよびシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0143】
評価
実施例1〜9および比較例1〜2で得られた光吸収材について、光吸収能の経時的変化を調べるために、以下のモデル試験を行った。
【0144】
まず、実施例1〜9および比較例1〜2で得られた光吸収材について、測定波長が820nmおよび1000nmでの透過率(%)をそれぞれ分光光度計を用いて測定した(試験前透過率)。次いで、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−240)を用いて、80℃で250時間静置した後の透過率(透過率A)を、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−220)を用いて、60℃、90%RHで250時間静置した後の透過率(透過率B)を、および、光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所社の商品名;LT−120)を用いて、5000lxで250時間照射した後の透過率(透過率C)を、上記の方法と同様にしてそれぞれ測定した(試験後透過率)。これらの結果を表5に示す。
【0145】
【表5】

【0146】
表5に示された結果から、実施例1〜9で得られた光吸収材は、820nmおよび1000nmにおける透過率が24%以下と光吸収能に優れており、また、試験前透過率と試験後透過率の差が小さく、光吸収能の経時的低下が抑制されていることがわかる。
【0147】
実施例10
置換ベンゼンジチオール金属錯体D1の8.8g(0.01モル)とシアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS956BP)6.4g(0.01モル)とを、N,N−ジメチルホルムアミド500gに溶解、混合し、50℃に30分保持して反応させた。得られた反応液から不要なイオンを除去するため、メタノール600g、続いて水900gを加えて混合し、冷却、濾過した。この操作を2回繰り返した後、メタノール洗浄し乾燥して、対イオン結合体10.0gを得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0148】
次に、得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.2gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0149】
実施例11
実施例10において、置換ベンゼンジチオール金属錯体D1に代えて、置換ベンゼンジチオール金属錯体D2を用いた以外は実施例10と同様にして、対イオン結合体を得て、引き続き膜厚10μmの光吸収材を得た。なお、得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0150】
実施例12
実施例10において、シアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS956BP)に代えて、シアニン系色素E3(上記の表4を参照、シントン社の商品名;ST798)を用いた以外は実施例10と同様にして、対イオン結合体を得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびトルエンスルホン酸イオンは検出されなかった。
次に、この得られた対イオン結合体0.2gに実施例10で得られた対イオン結合体0.2gを混合して、光吸収色素を得た。得られた光吸収色素0.4gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0151】
実施例13
実施例10で得られた対イオン結合体0.2gに別のシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを混合して、光吸収色素を得た。さらに、得られた光吸収色素0.3gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をポリエチレンテレフタレート基板上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0152】
実施例14
ジビニルベンゼン1000gに、実施例10で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.5gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを溶解した。この組成物をガラス製のモールドに注入し、35℃で3時間加熱した後、5時間かけて80℃まで昇温し、最後に100℃で2時間加熱して硬化させた。冷却後、ガラス板を剥離して厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0153】
実施例15
実施例14において、ジビニルベンゼン1000gに代えて、エチレングリコールジメタクリレート1000gを用いた以外は実施例14と同様にして、厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0154】
実施例16
ポリメチルメタクリレート樹脂のペレット1000gと、実施例10で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.3gとを、ニーダーで150℃に加熱、溶融混合した後、押出機を用いて厚さ1mmの光吸収材を形成した。
【0155】
比較例3
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10gおよびシアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS956BP)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0156】
比較例4
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10g、シアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS956BP)0.1gおよびシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0157】
評価
実施例10〜16および比較例3〜4で得られた光吸収材について、光吸収能の経時的変化を調べるために、以下のモデル試験を行った。
【0158】
まず、実施例10〜16および比較例3〜4で得られた光吸収材について、測定波長が820nmおよび1000nmでの透過率(%)をそれぞれ分光光度計を用いて測定した(試験前透過率)。次いで、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−240)を用いて、80℃で250時間静置した後の透過率(透過率A)を、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−220)を用いて、60℃、90%RHで250時間静置した後の透過率(透過率B)を、および、光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所社の商品名;LT−120)を用いて、5000lxで250時間照射した後の透過率(透過率C)を、上記の方法と同様にしてそれぞれ測定した(試験後透過率)。これらの結果を表6に示す。
【0159】
【表6】

【0160】
表6に示された結果から、実施例10〜16で得られた光吸収材は、820nmおよび1000nmにおける透過率が25%以下と光吸収能に優れており、また、試験前透過率と試験後透過率の差が小さく、光吸収能の経時的低下が抑制されていることがわかる。
【0161】
実施例17
置換ベンゼンジチオール金属錯体D1の8.8g(0.01モル)とシアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS1040P)8.5g(0.01モル)とを、N,N−ジメチルホルムアミド500gに溶解、混合し、50℃に30分保持して反応させた。得られた反応液から不要なイオンを除去するため、メタノール600g、続いて水900gを加えて混合し、冷却、濾過した。この操作を2回繰り返した後、メタノール洗浄し乾燥して、対イオン結合体12.9gを得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0162】
次に、得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.2gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0163】
実施例18
実施例17において、置換ベンゼンジチオール金属錯体D1に代えて、置換ベンゼンジチオール金属錯体D2を用いた以外は実施例17と同様にして、対イオン結合体を得て、引き続き膜厚10μmの光吸収材を得た。なお、得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0164】
実施例19
実施例17において、シアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS1040P)に代えて、シアニン系色素E3(上記の表4を参照、シントン社の商品名;ST798)を用いた以外は実施例17と同様にして、対イオン結合体を得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびトルエンスルホン酸イオンは検出されなかった。
次に、この得られた対イオン結合体0.2gに実施例17で得られた対イオン結合体0.2gを混合して、光吸収色素を得た。得られた光吸収色素0.4gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0165】
実施例20
実施例17で得られた対イオン結合体0.2gに別のシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを混合して、光吸収色素を得た。さらに、得られた光吸収色素0.3gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をポリエチレンテレフタレート基板上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0166】
実施例21
ジビニルベンゼン1000gに、実施例17で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.5gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを溶解した。この組成物をガラス製のモールドに注入し、35℃で3時間加熱した後、5時間かけて80℃まで昇温し、最後に100℃で2時間加熱して硬化させた。冷却後、ガラス板を剥離して厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0167】
実施例22
実施例21において、ジビニルベンゼン1000gに代えて、エチレングリコールジメタクリレート1000gを用いた以外は実施例21と同様にして、厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0168】
実施例23
ポリメチルメタクリレート樹脂のペレット1000gと、実施例17で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.3gとを、ニーダーで150℃に加熱、溶融混合した後、押出機を用いて厚さ1mmの光吸収材を形成した。
【0169】
比較例5
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10gおよびシアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS1040P)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0170】
比較例6
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10g、シアニン系色素(アメリカンダイソース社の商品名;ADS1040P)0.1gおよびシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0171】
評価
実施例17〜23および比較例5〜6で得られた光吸収材について、光吸収能の経時的変化を調べるために、以下のモデル試験を行った。
【0172】
まず、実施例17〜23および比較例5〜6で得られた光吸収材について、測定波長が820nmおよび1000nmでの透過率(%)をそれぞれ分光光度計を用いて測定した(試験前透過率)。次いで、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−240)を用いて、80℃で250時間静置した後の透過率(透過率A)を、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−220)を用いて、60℃、90%RHで250時間静置した後の透過率(透過率B)を、および、光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所社の商品名;LT−120)を用いて、5000lxで250時間照射した後の透過率(透過率C)を、上記の方法と同様にしてそれぞれ測定した(試験後透過率)。これらの結果を表7に示す。
【0173】
【表7】

【0174】
表7に示された結果から、実施例17〜23で得られた光吸収材は、820nmおよび1000nmにおける透過率が22%以下と光吸収能に優れており、また、試験前透過率と試験後透過率の差が小さく、光吸収能の経時的低下が抑制されていることがわかる。
【0175】
実施例24
置換ベンゼンジチオール金属錯体D1の8.8g(0.01モル)とシアニン系色素E4(下記の表8を参照、シントン社の商品名;ST1292)8.2g(0.01モル)とを、N,N−ジメチルホルムアミド500gに溶解、混合し、50℃に30分保持して反応させた。得られた反応液から不要なイオンを除去するため、メタノール600g、続いて水900gを加えて混合し、冷却、濾過した。この操作を2回繰り返した後、メタノール洗浄し乾燥して、対イオン結合体11.7gを得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0176】
次に、得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.2gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0177】
実施例25
実施例24において、シアニン系色素E4に代えて、シアニン系色素E5(下記の表8を参照、シントン社の商品名;ST1458)を用いた以外は実施例24と同様にして、対イオン結合体を得て、引き続き膜厚10μmの光吸収材を得た。なお、得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよび過塩素酸イオンは検出されなかった。
【0178】
【表8】

【0179】
実施例26
実施例24において、シアニン系色素E4に代えて、シアニン系色素E3(上記の表4を参照、シントン社の商品名;ST798)を用いた以外は実施例24と同様にして、対イオン結合体を得た。得られた対イオン結合体について、イオンクロマトグラフィーを用いて測定したところ、テトラブチルアンモニウムイオンおよびトルエンスルホン酸イオンは検出されなかった。
次に、この得られた対イオン結合体0.2gに実施例24で得られた対イオン結合体0.2gを混合して、光吸収色素を得た。得られた光吸収色素0.4gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をガラス基板上にスピンコート法で塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0180】
実施例27
実施例24で得られた対イオン結合体0.2gに別のシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを混合して、光吸収色素を得た。さらに、得られた光吸収色素0.3gおよびアクリル樹脂10gをクロロホルム100gに溶解した後、この光吸収色素溶液をポリエチレンテレフタレート基板上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0181】
実施例28
ジビニルベンゼン1000gに、実施例24で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.5gおよび重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.2gを溶解した。この組成物をガラス製のモールドに注入し、35℃で3時間加熱した後、5時間かけて80℃まで昇温し、最後に100℃で2時間加熱して硬化させた。冷却後、ガラス板を剥離して厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0182】
実施例29
実施例28において、ジビニルベンゼン1000gに代えて、エチレングリコールジメタクリレート1000gを用いた以外は実施例28と同様にして、厚さ1mmの光吸収材を得た。
【0183】
実施例30
ポリメチルメタクリレート樹脂のペレット1000gと、実施例24で得られた対イオン結合体からなる光吸収色素0.3gとを、ニーダーで150℃に加熱、溶融混合した後、押出機を用いて厚さ1mmの光吸収材を形成した。
【0184】
比較例7
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10gおよびシアニン系色素E4の0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0185】
比較例8
クロロホルム100gに、アクリル樹脂10g、シアニン系色素E4の0.1gおよびシアニン系色素(シントン社の商品名;ST798)0.1gを溶解した。得られた溶液をポリエステルフィルム上にメイヤーバーで塗布し、常温で乾燥して、膜厚10μmの光吸収材を得た。
【0186】
評価
実施例24〜30および比較例7〜8で得られた光吸収材について、光吸収能の経時的変化を調べるために、以下のモデル試験を行った。
【0187】
まず、実施例24〜30および比較例7〜8で得られた光吸収材について、測定波長が820nmおよび1000nmでの透過率(%)をそれぞれ分光光度計を用いて測定した(試験前透過率)。次いで、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−240)を用いて、80℃で250時間静置した後の透過率(透過率A)を、小型環境試験器(タバイエスペック社の商品名;SU−220)を用いて、60℃、90%RHで250時間静置した後の透過率(透過率B)を、および、光安定性試験装置(ナガノ科学機械製作所社の商品名;LT−120)を用いて、5000lxで250時間照射した後の透過率(透過率C)を、上記の方法と同様にしてそれぞれ測定した(試験後透過率)。これらの結果を表9に示す。
【0188】
【表9】

【0189】
表9に示された結果から、実施例24〜30で得られた光吸収材は、820nmおよび1000nmにおける透過率が21%以下と光吸収能に優れており、また、試験前透過率と試験後透過率の差が小さく、光吸収能の経時的低下が抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の光吸収色素およびそれを用いた光吸収材は、光吸収能の経時的低下が抑制されたものであるため、長期間にわたりその光吸収能を維持することが可能である。従って、本発明の光吸収材を用いると、光吸収能に優れた近赤外線カットフィルム、近赤外線吸収フィルム、光学フィルター、感光性平版印刷版および記録媒体等を製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

(式中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルアミノ基、置換基を有してもよいモルホリノ基、置換基を有してもよいピペリジノ基、置換基を有してもよいピロリジノ基、置換基を有してもよいチオモルホリノ基、置換基を有してもよいピペラジノ基または置換基を有してもよいフェニル基を示す。Mは、遷移金属原子を示す。)で表される置換ベンゼンジチオール金属錯体アニオンと、
1)下記一般式(2):
【化2】

(式中、RおよびRは、独立して、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数1〜8のアルコキシ基を、RおよびRは、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、Rは、CH=CR−CHまたは
【化3】

で表される基を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)、
2)下記一般式(3);
【化4】

(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。Rは、CH=CR10−CHまたは
【化5】

で表される基を示す。R10は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)、
3)下記一般式(4);
【化6】

(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。R11およびR12は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R13は、CH=CR14−CHまたは
【化7】

で表される基を示す。R14は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)、および
4)下記一般式(5);
【化8】

(式中、AおよびAは、独立して、硫黄原子、酸素原子または炭素数1〜8のアルキル基もしくは炭素数1〜8のアルコキシ基を有する窒素原子を示す。QおよびQは、独立して、置換基を有してもよい縮合環を形成するに必要な原子群を示す。R15およびR16は、独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基またはアリール基を、R17は、CH=CR18−CHまたは
【化9】

で表される基を示す。R18は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアリール基を示す。Qは、置換基を有してもよい炭素数2または3のアルキレン基を示し、それが結合する2つの炭素原子および該2つの炭素原子間の1つの炭素原子と一緒になって5員または6員の環状構造を形成する。)
よりなる群から選択される少なくとも一種のシアニン系色素カチオンとの対イオン結合体を含む光吸収色素。
【請求項2】
請求項1に記載の光吸収色素を基板上に層状に塗布形成して得られる光吸収材。
【請求項3】
請求項1に記載の光吸収色素とモノマーとを含む組成物を、該モノマーの重合により硬化して得られる光吸収材。
【請求項4】
請求項1に記載の光吸収色素と樹脂とを混練して得られる樹脂組成物を所定形状に成形して得られる光吸収材。

【公開番号】特開2006−291183(P2006−291183A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63635(P2006−63635)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】