説明

光回路およびその作製方法

【課題】 光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、基板の上面または下面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、クロストークの劣化を防ぐ。
【解決手段】 基板31上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、光導波路37の出射方向の光軸上に、光導波路37を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、光導波路37と光学的に結合する第2の光導波路40を備え傾斜面に形成された反射膜38がミラーとなって、基板31の上面に配置された光学素子41へ光路変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路およびその作製方法に関し、より詳細には、光回路内の光を、基板表面または裏面に対し垂直の光路に変換する光回路およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信需要の拡大とともに、光通信システムの高度化が世界的に推進されてきた。それに伴い、光デバイスの価格競争が世界的に広がり、より安価で高性能なものが求められている。中でも、アクセス系に用いられる送受信機は、最も価格競争が激しく、性能を維持したまま如何に実装コストを削減するかが、低価格化の鍵となっている。
【0003】
従来の送受信機において、受光素子と光導波路とは、レンズを介して光学的に結合されているので、これら光学部品の位置合わせ行う必要がある。従って、実装に多くの時間と工程が必要となり、実装コストが高い原因となっている。
【0004】
近年、このようなレンズを介した光学的結合を用いないタイプの送受信機が、幾つか提案されている。最も低コスト化が期待されているタイプは、平面型の光回路に受光素子を直接搭載する集積型の送受信機である(例えば、特許文献1参照)。光導波路を伝搬してきた信号光を、光回路内に設けたミラーにより、光回路の上面もしくは下面に反射させ、搭載した受光素子に光を結合させる(例えば、特許文献2参照)。受光素子と光導波路端面との距離を小さくできるため、信号光の広がりを最小限に抑えることができ、結合損失を最小限にできる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−326662号公報
【特許文献2】特開平8−234034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の集積型の送受信機では、受光素子のクロストークが劣化するという問題があった。クロストークとは、受光素子で受信する信号の内、雑音に対する所望の光信号強度である。図1に、従来の集積型の送受信機の光回路を示す。例えば、石英系ガラス材料からなる光回路10内に、光導波路11が形成されており、光回路10の上面には、受光素子12が配置されている。光導波路11を伝搬してきた信号光Sigは、光回路内に設けたミラー13で反射して、受光素子12に結合される。
【0007】
集積型の送受信機において、所望の信号光は、ミラー13の前段にある光導波路11を伝搬してきた光であり、光導波路11から出射され、ミラー13で反射された後に受光素子12に直接入射する信号光である。しかしながら、実際の光回路では、様々な原因で光導波路以外を伝搬する漏えい光Leakが存在する。漏えい光Leakが受光素子13に入射すると、雑音の増大につながり、受光素子13のクロストークが劣化する。
【0008】
このような予期しない漏えい光が存在する原因はいくつか考えられる。例えば、受信部、送信部などの複数の機能部分が同一の光回路に存在する場合、他の機能部分に配置されたミラーで乱反射された光、光回路中の曲線導波路部分において漏れた光、送信部に搭載されたレーザから漏れてきた光などが漏えい光となる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、送受信機におけるクロストークの劣化を防ぐ光回路およびその作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、前記光導波路と光学的に結合する第2の光導波路を備え、前記ミラーは、前記傾斜面に形成された反射膜であることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の前記第2の光導波路は、スラブ導波路であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の下面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、前記光導波路は、前記光導波路の出射方向の端面に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、前記ミラーは、前記傾斜面に形成された反射膜であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の光回路において、前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、前記光導波路と光学的に結合する第2の光導波路をさらに備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面の一部に形成され、前記ミラーとなる反射膜と、前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路と光学的に結合され、前記光導波路から出射された光の残りが入射される第2の光導波路とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光回路において、前記傾斜面に形成する前記反射膜の高さを調整することにより、前記光学素子へ光路変換する光と、前記第2の光導波路に入射される光との分岐比とが決定されることを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路の作製方法において、前記基板上に傾斜面を作製するための犠牲層を形成する第1工程と、前記光回路を構成する石英系材料により、下部クラッド層、コア層および第1上部クラッド層を、異方性堆積により堆積する第2工程と、前記犠牲層上に堆積された前記石英系材料を取り除く第3工程と、前記基板上に堆積された前記石英系材料をフォトリソグラフィーにより加工する第4工程と、取り除かれた前記犠牲層の周囲に堆積された傾斜面に、前記ミラーとなる反射膜をコーティングする第5工程とを備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の前記第1工程は、前記犠牲層を、前記下部クラッド層、前記コア層および前記第1上部クラッド層の膜厚の合計の50%〜80%の膜厚で形成することを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の前記第3工程は、HF処理により前記犠牲層の両壁に堆積された前記石英系材料を除去する工程と、有機溶剤により前記犠牲層を溶解して、前記犠牲層と前記石英系材料とを除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項7、8または9に記載の光回路の作製方法において、前記基板全体を覆う第2クラッド層を堆積する第6工程をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、光導波路から出射された信号光を基板上面または基板下面へ光路変換するミラーからの漏えい光を第2の光導波路に結合させ、他の機能部分で発生した漏えい光を第2の光導波路に結合させるので、クロストークの劣化を防ぐことが可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、異方性堆積を用いて堆積された傾斜面に形成された反射膜をミラーとするので、平坦度の高いミラーを形成することが可能となる。さらに、エッチングやダイシング等の加工を必要とせずに、傾斜面を形成することができるので、プロセスの簡易化、作製時間の短縮、歩留まり向上、低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の光回路は、光導波路からの信号光をミラーにより基板上面に反射し、上面に搭載された光学素子へ光路変換できる構造を有する。上述したように、受光素子のクロストークを改善するために、
(1)他の受信部などの機能部分への悪影響を抑制するため、光路変換部で発生する漏えい光を抑制する。
(2)送信部などの他の機能部分で発生した漏えい光が、受光素子に入射するのを抑制する。
の2点の対策を行う。
【0023】
図2に、本発明の一実施形態にかかる集積型の送受信機の光回路を示す。上述の対策(1)について説明する。送受信機の光回路20内に、光導波路21が形成されており、光回路20の上面には、受光素子22が配置されている。ミラー23は、光導波路21と受光素子22とを光学的に結合する。ミラー23の作製誤差等により、光導波路21からの出射光の一部は、ミラー23で反射されずそのまま透過し、漏えい光となる場合がある。このような漏えい光は、上述したように、他の受信部などに入射しクロストークの劣化を引き起こす他、他の導波路へ再結合し光回路の性能を劣化させる。
【0024】
そこで、ミラー23を挟んで、光回路20内の光導波路21と対向する位置に、光導波路21と同じ高さのスラブ導波路24を設ける。ミラー23面で反射されずに漏えい光となった光は、スラブ導波路24に結合される。スラブ導波路24が無い場合、漏えい光は、図1に示したように放射光として伝搬するため、あらゆる方向に光が伝搬する。この構成によれば、スラブ導波路24に結合させることで、漏えい光Leakを、放射光ではなく伝搬光として扱うことができる。
【0025】
伝搬光として扱うことができるので、遮光剤により漏えい光を遮断したり、光回路20の下面方向へスラブ導波路を曲げることにより、基板に漏えい光を吸収させることもできる。このようにして、スラブ導波路を設けることにより、ミラーで発生した漏えい光が、他の機能部分へ悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0026】
上述の対策(2)について説明する。送信部などの他の機能部分で発生した漏えい光が受光素子へ入射し、クロストークが劣化することがある。そこで、図3に示したように、ミラー23の後方から伝搬してきた漏えい光Leakを、スラブ導波路24に結合させる。さらに、ミラー23の直近に設けたスラブ導波路の曲げ部分により、漏えい光Leakを、光回路20の下面方向へ光路変換して吸収させ、漏えい光Leakが受光素子22に入射することを防ぐ。
【0027】
上述の構成によれば、信号光Sig以外の光が受光素子22に入射しない構造にするとともに、信号光Sigを受光素子22に効率良く結合させ、他の機能部分への漏えい光を発生させない構造にする。これにより、受光素子のクロストークの劣化を防ぐことができる。
【0028】
(ミラーの作製方法)
従来のミラー作製方法は、ミラーを形成する材料を、エッチングやダイシング、レーザ加工等により加工して、ミラーとなる傾斜面を形成する。しかしながら、このような加工によって作製されたミラー面は面精度が低いため、反射効率の低下を招くという問題があった。そこで、本実施形態では、ミラー材料の堆積と同時に、ミラーとなる傾斜面が自己形成される方法を提供する。本実施形態は、ミラーを形成する面と対向する場所に、傾斜面を作製するための犠牲層を形成し、ECR−CVD(Electron Cyclotron Resonance − Chemical Vapor Deposition)、スパッタ法などの異方性を有する堆積方法により石英系材料を堆積する。犠牲層の上に堆積された石英系材料をリフトオフすることにより、ミラー面を形成することができる。詳細は、図4,7を参照して説明する。
【0029】
この方法によれば、クラッド層やコア層の石英系材料を堆積すると同時に、ミラーとなる傾斜面を作製することができるため、エッチングやダイシング等の加工の必要がない。そのため、非常に面精度の優れた傾斜面を作製することができ、効率の高い光路変換用のミラーを形成することができる。また、エッチングやダイシング等の加工を必要とせずに、傾斜面を形成することができるので、プロセスの簡易化、作製時間の短縮、歩留まり向上、低コスト化を図ることができる。
【0030】
さらに、ダイシング等によるミラーの形成方法と比較して、光導波路とミラー面を近接させて作製することができるので、信号光が導波路端面から出射され受光素子に入射するまでの伝搬距離が非常に短くなる。従って、ミラーで発生する漏えい光を抑制することができ、同時に他の機能部分で発生した漏えい光が、受光素子に入射するのを防ぐことができる。
【実施例1】
【0031】
図4に、実施例1にかかるミラーの作製方法を示す。最初に、基板31上にミラーとなる傾斜面を形成するための犠牲層32をパターニングする(図4(a))。次に、石英系ガラス材料からなる下部クラッド層33、コア層34、第1上部クラッド層35の順に、異方性を有する堆積方法により堆積する(図4(b))。実施例1では、異方性の強いECR−CVDにより、犠牲層32の両側に45度の傾斜面を実現する。本実施例では、基板31としてSi基板または石英基板を用いる。
【0032】
下部クラッド層33、コア層34、第1上部クラッド層35の全てにおいて、45度の傾斜面を得るために、犠牲層32の膜厚は、下部クラッド層33、コア層34、第1上部クラッド層35の膜厚の合計と同じか、またはより厚く設定した。膜厚の合計の30%〜100%が、犠牲層32の膜厚として好適であるが、膜厚の合計の50%〜80%が最適である。なお、膜厚の合計の10%〜200%の範囲であっても、傾斜面を形成することができる。本実施例では、犠牲層32としてレジストを用いる。
【0033】
次に、犠牲層32を取り除き、犠牲層32上の石英系材料36をリフトオフする(図4(c))。図5に、犠牲層の上の石英系材料をリフトオフする方法を示す通常のリフトオフでは、犠牲層32の厚さがリフトオフする石英系材料36の厚さに比べて十分厚い必要がある。実施例1では、異方性を用いた堆積を行っているため、犠牲層32上に堆積された石英系材料36のうち犠牲層32の両壁に堆積されたものは密度が低くなっている(図5(a))。そこで、HF10%溶液に10秒程度浸すHF処理を行うことにより、犠牲層32の両壁に堆積された石英系材料36の一部のみを取り除く(図5(b))。このようにして、犠牲層32の両側に空間を設けるようにして、犠牲層32を溶解・除去するための有機溶剤を侵入しやすくする。その結果、犠牲層32を容易に取り除くことができ、犠牲層32よりも厚い石英系材料36であっても、リフトオフすることができる(図5(c))。
【0034】
その後、フォトリソグラフィーによるパターニングを行って、光導波路37を形成する。ミラー部分についても、傾斜面を除く部分を、フォトリソグラヒィーによってパターニングして、スラブ導波路40を形成する(図4(d))。このようにして、ミラー23を挟んで、光回路内の光導波路31の出射方向の光軸上に、光学的に結合されるスラブ導波路24を設ける。このとき傾斜面は、パターニングされない様に、マスクを行っておく。次に、Auなどの材料を蒸着して、傾斜面に反射膜38をコーティングする(図4(e))。
【0035】
最後に、CVDにより、第2上部クラッド層39の埋め込みを行う(図4(f))。実施例1では、反射膜38のAuの融点を超えない900度以下の低温CVDにより、第2上部クラッド層39の埋め込みを行う。ただし、さらに高温での耐性の有する反射膜材料ならば、FHD(火炎堆積法)等の方法で第2クラッド層39を堆積してもよい。第2上部クラッド層39で全体を埋め込むことにより、光導波路37から出射された光が、反射膜38に反射し、基板31上面に光路変換する過程において、光の広がりを抑え、散乱損の少ない光の伝播が可能となる。
【0036】
図6に、実施例1にかかる集積型の送受信機の光回路を示す。送受信機の光回路内に、光導波路37が形成されており、光回路の上面には、受光素子41が配置されている。ミラーとなる傾斜面の上の反射膜38は、光導波路37と受光素子41とを光学的に結合する。反射膜38を挟んで、光回路内の光導波路37と対向する位置に、光導波路37と同じ高さのスラブ導波路40が形成されているので、ミラーで反射されずに漏えい光となった光は、スラブ導波路40に結合される。また、スラブ導波路40は、異方性堆積を用いて堆積された傾斜面に沿って、基板の下面方向に曲げられているので、スラブ導波路40に結合された漏えい光を基板に吸収させることもできる
このようにして、高反射率のミラーにより、光導波路37から出射された信号光を受光素子41に効率良く結合させ、他の機能部分への漏えい光を発生させない構造とすることができる。また、漏えい光をスラブ導波路40に結合させることにより、高いクロストークを有する受信機の作製を、低コストで実現することができる。
【実施例2】
【0037】
図7に、実施例2にかかるミラーの作製方法を示す。最初に、基板51上にミラーとなる傾斜面を形成するための犠牲層52をパターニングする(図7(a))。次に、石英系ガラス材料からなる下部クラッド層53、コア層54、第1上部クラッド層55の順に、異方性を有する堆積方法により堆積する(図7(b))。実施例2では、異方性の強いECR−CVDにより、犠牲層52の両側に45度の傾斜面を実現する。
【0038】
下部クラッド層53、コア層54、第1上部クラッド層55の全てにおいて、45度の傾斜面を得るために、犠牲層52の膜厚は、下部クラッド層53、コア層54、第1上部クラッド層55の膜厚の合計と同じか、またはより厚く設定した。膜厚の合計の30%〜100%が、犠牲層32の膜厚として好適であるが、膜厚の合計の50%〜80%が最適である。なお、膜厚の合計の80%〜200%の範囲であっても、傾斜面を形成することができる。本実施例では、犠牲層としてレジストを用いる。
【0039】
次に、犠牲層52を取り除き、犠牲層52上の石英系材料56をリフトオフする。(図7(c))。リフトオフの方法は、図5に示した方法と同じである。その後、フォトリソグラフィーによるパターニングを行って、光導波路57を形成する。ミラー部分についても、傾斜面を除く部分を、フォトリソグラヒィーによってパターニングして、光導波路60を形成する(図7(d))。このとき傾斜面は、パターニングされない様に、マスクを行っておく。次に、Al、Auなどの材料を低温CVDにより、傾斜面に反射膜58をコーティングする(図7(e))。
【0040】
最後に、CVDにより、第2上部クラッド層59の埋め込みを行う(図7(f))。埋め込みの方法は、実施例1と同じである。第2上部クラッド層59で全体を埋め込むことにより、光導波路57から出射された光が、反射膜58に反射し、基板51下面に光路変換する過程において、光の広がりを抑え、散乱損の少ない光の伝播が可能となる。
【0041】
図8に、実施例2にかかる集積型の送受信機の光回路を示す。送受信機の光回路内に、光導波路57が形成されており、光回路の下面には、受光素子61が配置されている。ミラーとなる傾斜面の上の反射膜58は、光導波路57と受光素子61とを光学的に結合する。また、反射膜58を挟んで、光回路内の光導波路57と対向する位置に、光導波路57と同じ高さの光導波路60が形成されている。このようにして、高反射率のミラーにより、光導波路57から出射された信号光を受光素子61に効率良く結合させ、他の機能部分への漏えい光を発生させない構造とすることができる。また、漏えい光を光導波路60に結合させることにより、高いクロストークを有する受信機の作製を、低コストで実現することができる。
【実施例3】
【0042】
図9に、実施例3にかかる集積型の送受信機の光回路を示す。光導波路から出射された信号光の一部のみを、受光素子へ入射させるタップ回路を実現する。図4に示した方法と同じく、基板71上にミラーとなる傾斜面を形成するための犠牲層をパターニングし、石英系ガラス材料からなる下部クラッド層、コア層、第1上部クラッド層を、異方性のある堆積方法で堆積する。実施例3では、ECR−CVDにより、犠牲層の両側に45度の傾斜面を実現する。
【0043】
次に、犠牲層を取り除き、犠牲層上の石英系材料をリフトオフし、フォトリソグラフィーによるパターニングを行って、光導波路72を形成する。ミラー部分については、45度の傾斜面のうち、コア層の上面より低いミラー部分を残すように、フォトリソグラヒィーによるパターニングを行う。パターニングによって残されたコア層の上面より低いミラー部分75には、Auなどの材料を蒸着して、傾斜面に反射膜75をコーティングする。このミラーは、光導波路72から出射された光の一部を受光素子へ入射させる。一方、ミラーを挟んで、光回路内の光導波路72と対向する位置には、光導波路72と同じ高さの光導波路73を設ける。光導波路73は、光導波路72から出射された光の残りが入射される。この構成において、残されたミラー部分74の高さにより、受光素子77へ分岐する信号光と光導波路73へ入射される光との分岐比を調整することができる。
【0044】
従来の光回路では、傾斜面にコーティングする反射膜の反射率を制御することにより、分岐比を決定していた。しかしながら、傾斜面にコーティングする反射膜の反射率を正確に制御することは困難であり、光回路の歩留まりが低いという問題があった。実施例3によれば、エッチングによって残されたミラー部分74の高さを調整することにより、分岐比を正確に制御できるので、歩留まりを向上することができる。
【0045】
最後に、CVDにより、第2上部クラッド層76の埋め込みを行う。埋め込みの方法は、実施例1と同じである。このようにして、信号光の一部のみを、受光素子77へ入射させるタップ回路を含む送受信機を、低コストで実現することができる。
【0046】
以上説明した本実施形態において、反射膜の材料としては、Au,Al,W,Si,Mo,Ti,Ni,Ag等の金属薄膜、SiO,TiO,TaO,GeO、ZnO,Al等の酸化膜を用いることもできる。また、反射膜のコーティング方法としては、蒸着、CVD、スパッタ法、メッキ等の方法を用いることができる。さらに、第2上部クラッド層上部または基板下部を、光導波路側に掘り下げと、ミラーと受光素子との距離を短くすることにより、光損失の小さい光回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の集積型の送受信機の光回路を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる集積型の送受信機の光回路を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるスラブ導波路の他の機能を示す断面図である。
【図4】実施例1にかかるミラーの作製方法を示す図である。
【図5】犠牲層の上の石英系材料をリフトオフする方法を示す図である。
【図6】実施例1にかかる集積型の送受信機の光回路を示す断面図である。
【図7】実施例2にかかるミラーの作製方法を示す図である。
【図8】実施例2にかかる集積型の送受信機の光回路を示す断面図である。
【図9】実施例3にかかる集積型の送受信機の光回路を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10,20 光回路内
11,21,37,57,60,72,73 光導波路
12,22,41,61,77 受光素子
13,23 ミラー
24,40 スラブ導波路
31,51,71 基板
32,52 犠牲層
33,53 下部クラッド層
34,54 コア層
35,55 第1上部クラッド層
36,56 石英系材料
38,58,75 反射膜
39,59,76 第2上部クラッド層
74 残されたミラー部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、
前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、前記光導波路と光学的に結合する第2の光導波路を備え、
前記ミラーは、前記傾斜面に形成された反射膜であることを特徴とする光回路。
【請求項2】
前記第2の光導波路は、スラブ導波路であることを特徴とする請求項1に記載の光回路。
【請求項3】
基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の下面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、
前記光導波路は、前記光導波路の出射方向の端面に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、
前記ミラーは、前記傾斜面に形成された反射膜であることを特徴とする光回路。
【請求項4】
前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面を有し、前記光導波路と光学的に結合する第2の光導波路をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の光回路。
【請求項5】
基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路において、
前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路を形成するときに異方性堆積を用いて堆積された傾斜面の一部に形成され、前記ミラーとなる反射膜と、
前記光導波路の出射方向の光軸上に、前記光導波路と光学的に結合され、前記光導波路から出射された光の残りが入射される第2の光導波路と
を備えたことを特徴とする光回路。
【請求項6】
前記傾斜面に形成する前記反射膜の高さを調整することにより、前記光学素子へ光路変換する光と、前記第2の光導波路に入射される光との分岐比とが決定されることを特徴とする請求項5に記載の光回路。
【請求項7】
基板上に形成された石英系ガラス材料からなる光回路であって、該光回路内の光導波路から出射された光の少なくとも一部を、前記基板の上面に配置された光学素子へ光路変換するミラーを含む光回路の作製方法において、
前記基板上に傾斜面を作製するための犠牲層を形成する第1工程と、
前記光回路を構成する石英系材料により、下部クラッド層、コア層および第1上部クラッド層を、異方性堆積により堆積する第2工程と、
前記犠牲層上に堆積された前記石英系材料を取り除く第3工程と、
前記基板上に堆積された前記石英系材料をフォトリソグラフィーにより加工する第4工程と、
取り除かれた前記犠牲層の周囲に堆積された傾斜面に、前記ミラーとなる反射膜をコーティングする第5工程と
を備えたことを特徴とする光回路の作製方法。
【請求項8】
前記第1工程は、前記犠牲層を、前記下部クラッド層、前記コア層および前記第1上部クラッド層の膜厚の合計の50%〜80%の膜厚で形成することを特徴とする請求項7に記載の光回路の作製方法。
【請求項9】
前記第3工程は、HF処理により前記犠牲層の両壁に堆積された前記石英系材料を除去する工程と、有機溶剤により前記犠牲層を溶解して、前記犠牲層と前記石英系材料とを除去する工程とを含むことを特徴とする請求項7または8に記載の光回路の作製方法。
【請求項10】
前記基板全体を覆う第2クラッド層を堆積する第6工程をさらに備えたことを特徴とする請求項7、8または9に記載の光回路の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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