説明

光変流器

【課題】光センサファイバのガラスファイバ素線に対して加わる機械的応力を抑制し、電流測定の誤差の少ない光変流器を提供する。
【解決手段】通電導体1の周囲に、ガラスファイバ素線10Aに保護被覆材10Bを施した光センサファイバ10を配置する。光センサファイバ10は、その一端側に偏/検光子部11を設けると共に、他端側には保護被覆材10Bを除去したガラスファイバ素線10Aの端部にフェルール15を固着し、かつフェルール15を固着したガラスファイバ素線10Aの端面に反射部材12を設けている。光センサファイバ10Aの他端側に、ガラスファイバ素線10Aの端部を光軸方向に移動可能な自由端にする熱応力吸収部20を設ける。熱応力吸収部20は、反射部材12側を閉鎖して形成されて光センサファイバ10の端部を包囲する保護カバー21と、これを保護被覆材10Bの外周面に固着する接着部22とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光変流器に係り、特に保護被覆材を施したガラスファイバ素線に加わる応力を抑制できて電流の測定に好適な光変流器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガス絶縁開閉装置等の電気機器の通電導体に流れる電流を測定するため、貫通型変流器に代えて光変流器の使用が検討されている。光変流器は、通電導体の周りにファラデー効果を利用する光センサファイバを配置している。そして、光路となる光センサファイバ内に光源からの光を、光学系部品で直線偏波光にして通過させ、通電導体に流れる電流の磁気作用で回転する直線偏波光の回転角を計測し、電流値を測定するものである。
【0003】
反射形の光変流器は、図3に一点鎖線で示す通電導体1の周囲に、鉛ガラスファイバ等を用いた光センサファイバ10を配置している。光センサファイバ10は、一端側に偏/検光子部11を配置すると共に、他端側に周知の手段によって形成する反射部材12を設けている。そして、偏/検光子部11には、光源に連なる信号伝送ファイバ13、及び電流検出部に連なる信号伝送ファイバ14をそれぞれ設け、光変流器を構成している。
【0004】
光センサファイバ10のガラスファイバ素線は、良く知られるように極めて細いから、これに過度の曲げ力や引っ張り力が加わると折損することがある。ガラスファイバ素線に機械的応力が加わると、通過する光の透過損失が増大する所謂マイクロベンド現象が発生する。この現象による透過損失の増大は、光センサファイバ10を使用する光変流器にとって、電流値の測定の際に測定誤差を引き起す要因の一つになる。
【0005】
一般に、光センサファイバはガラスファイバ素線の取扱いを容易にし、また湿度から保護するため、絶縁性や気密性及び可撓性のある材料の保護被覆材を施して使用される。この種の光センサファイバは、特許文献1の記載や通信用光ファイバ線の接続部構造の如く、端部にフェルールを取り付け、ガラスファイバ素線更には保護被覆材を固着することで、ガラスファイバ素線を折れ難くしている。
【0006】
また、光センサファイバの終端の構造は、特許文献2に記載のように反射部材全体をスリーブ内に挿入するものが提案されている。この光センサファイバはフェルールで固定され、双方の終端面を研磨した上で、反射部材を構成する1/4波長板と反射ミラーとを光学的接着剤で接着している。スリーブと反射部材との間には、弾性体を挟むことで反射ミラーを押え付け、1/4波長板と反射ミラーの剥離を防止している。
【0007】
光センサファイバのガラスファイバ素線(HNと表記)と、保護被覆材(HA及びHBと表記)の線膨張係数を検討した結果を、表1に示している。
【0008】
【表1】

【0009】
保護被覆材なしのガラスファイバ素線(HN)の線膨張係数は8.2×10−6Kであるのに対し、PEEK(登録商標)と称されて市販されているポリエーテルエーテルケトンの保護被覆材(HAと表記)は前者の約5.7倍、またハイトレル(登録商標)と称されて市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマーの保護被覆材(HBと表記)は同様に約25.6倍もある。
【0010】
ガラスファイバ素線の保護被覆材にはナイロンが用いられてきたが、耐熱性に優れる材料としてハイトレル(登録商標)が、またこれより線膨張係数が小さい材料であるPEEK(登録商標)が使用される。
【0011】
上記表1の線膨張係数のため、図4に示す如く保護被覆材なしのガラスファイバ素線(HN)と、保護被覆材(HA及びHB)ありでは、常温(20℃)±60℃の周囲温度の変化に対する出力変化率は、それぞれ実線、一点鎖線及び破線で区別表示しているように、温度変化に伴い大きくなる。特に、一点鎖線と破線で示す保護被覆材(HA、HB)ありでは、低温側での出力変化率が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−27142号公報
【特許文献2】特開平9−274056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した如く光変流器の光センサファイバの各端部側に、偏/検光子部と反射部材を設けてガラスファイバ素線と保護被覆材を固定、或いは特許文献2のように反射部材全体をスリーブ内に挿入して固定すると共に、反射部材を構成する1/4波長板と反射ミラーを弾性体で押え付け単純に固定する構造では、ガラスファイバ素線と保護被覆材の相互間の伸縮が拘束されてしまうことになる。
【0014】
この結果、周囲温度の変化で光軸である光センサファイバの長さ方向の移動ができない状態になり、線膨張係数の大きな保護被覆材の伸縮より、ガラスファイバには機械的応力が発生する。光変流器に使用する光センサファイバは、その長さを例えば2mとすると、ガラスファイバ素線と保護被覆材の相互間は、図4の温度範囲で熱による膨張係数の差から、少なくとも数mmの寸法差が生じる。このため、ガラスファイバに機械的応力が発生することで光の透過損失が増大し、光変流器では電流測定の誤差が大きくなる問題が生じる。
【0015】
本発明の目的は、光センサファイバのガラスファイバ素線に対して加わる機械的応力を抑制でき、電流測定の誤差の少ない光変流器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光変流器は、通電導体の周囲に、ガラスファイバ素線に保護被覆材を施した光センサファイバを配置し、前記光センサファイバはその一端側に偏/検光子部を設けると共に、前記光センサファイバの他端側に保護被覆材を除去したガラスファイバ素線の端部にフェルールを固着し、かつ前記フェルールを固着したガラスファイバ素線の端面に反射部材を設ける際に、前記光センサファイバの他端側に、前記ファイバ素線の端部を光軸方向に移動可能な自由端にする熱応力吸収部を設け、前記熱応力吸収部は、前記反射部材側を閉鎖して形成されて前記光センサファイバの端部を包囲する保護カバーと、前記保護カバーを前記センサファイバの保護被覆材の外周面に固着する接着部とから構成したことを特徴としている。
【0017】
また、本発明の光変流器は、通電導体の周囲に、ガラスファイバ素線に保護被覆材を施した光センサファイバを配置し、前記光センサファイバはその一端側に偏/検光子部を設けると共に、前記光センサファイバの他端側に、保護被覆材を除去したガラスファイバ素線の端部にはフェルールを固着し、かつ前記フェルールを固着したガラスファイバ素線の端面に反射部材を設ける際に、前記光センサファイバの他端側には前記ガラスファイバ素線及び前記保護カバーの端部を光軸方向に移動可能な自由端にする熱応力吸収部を設け、前記熱応力吸収部は、前記反射部材側を閉鎖して形成されて前記光センサファイバの端部を包囲する保護カバーと、前記保護カバーをフェルール及び反射部材を有する前記ガラスファイバ素線の端部に固着する接着部と、前記保護被覆材の外周面を摺動可能に密封する封止部材とから構成したことを特徴としている。
【0018】
好ましくは、前記封止部材は、前記保護カバーの内周面に設けた円周溝と、前記円周溝内に配置されたOリングで構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のように光変流器を構成すれば、光センサファイバのガラスファイバ素線と保護カバーとの相互間に熱膨張率の違いがあっても、使用時の温度変化でガラスファイバ素線に機械的応力が加わるのを効果的に抑制できる。このため、光センサファイバの透過損失が大幅に減少するから、温度変化に対する出力変化の増減がなくなり、より一層誤差の少ない電流の測定が行える光変流器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例である光変流器に用いる光センサファイバの端部を示す部分断面図である。
【図2】本発明の別の実施例である光変流器に用いる光センサファイバの端部を示す部分断面図である。
【図3】従来の光変流器を示す概略図である。
【図4】光センサファイバの周囲温度における出力変化率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光変流器は、通電導体の周囲に、ガラスファイバ素線に保護被覆材を施した光センサファイバを配置し、前記光センサファイバはその一端側に偏/検光子部を設けると共に、前記光センサファイバの他端側に保護被覆材を除去したガラスファイバ素線の端部にフェルールを固着し、かつ前記フェルールを固着したガラスファイバ素線の端面に反射部材を設けている。光センサファイバは、この他端側である反射部材を有する部分に、光センサファイバのファイバ素線の端部を自由端とする熱応力吸収部を設けている。熱応力吸収部は、前記反射部材側を閉鎖して形成されて前記光センサファイバの端部を包囲する保護カバーと、前記保護カバーを前記センサファイバの保護被覆材の外周面に固着する接着部とから構成している。
【実施例1】
【0022】
以下、図1を用いて本発明の光変流器に使用する光センサファイバ10の一例を説明する。光センサファイバ10は、保護被覆材10Bの内径をガラスファイバ素線10Aの外径より大きくしたものを用い、ガラスファイバ素線10Aが光軸方向に移動できるようにする。この光センサファイバ10も従来と同様に、一端側に偏/検光子部を設けると共に、他端側に反射部材12を設ける構造であるが、この反射部材12を設ける光センサファイバ10の端部側は、本発明により図1に例を示す熱応力吸収部20を設ける特別な構造としている。
【0023】
光センサファイバ10の保護被覆材10Bの一部を除去してガラスファイバ素線10Aを露出させ、このガラスファイバ素線10Aの端部に、従来と同様に接着材からなる接着部16によりフェルール15を固着し、かつフェルール15及びガラスファイバ素線10Aの端面に反射部材12を設けている。
【0024】
熱応力吸収部20を構成するため、一部を露出させたガラスファイバ素線10Aの端部側、即ち反射部材12側を閉鎖して形成された保護カバー21を用いている。この保護カバー21で、ガラスファイバ素線10Aとフェルール15、及び残された保護被覆材10Bの一部分を含めて包囲し、内部に存在させている。そして、保護カバー21に覆われる保護被覆材10B部分の外周面と保護カバー21との相互間は、接着部22で気密に固着している。なお、接着部22は、耐候性があって長期間に亘って保護カバー21内の気密を維持できるような、例えばシリコンゴムやエポキシ系の接着剤を用いて形成する。
【0025】
光センサファイバ10の他端側に熱応力吸収部20を設け、保護カバー21の内径をフェルール15の外径より大きくしている。この気密を維持する保護カバー21内に、ガラスファイバ素線10Aとフェルール15及び保護被覆材10Bの端部を存在させることにより、ガラスファイバ素線10Aとフェルール15が、保護カバー21内で光軸方向に移動可能な構造の自由端にしている。
【0026】
当然のことながら、保護カバー21内の上記した各要素を収納する収納空間における光軸方向の長さは、ガラスファイバ素線10Aと保護カバー21の熱伸縮による寸法差を考慮した寸法に形成し、内部存在物であるガラスファイバ素線10Aと保護カバー21の相対的な移動を可能にする。また、保護カバー21内の特に反射部材12部分の移動範囲を磁界に対する不感帯とすれば、光軸方向に移動する内部構造物の移動に基づく電流測定誤差を少なくし、精度を向上させることができる。
【0027】
なお、保護カバー21は磁気シールドに用いられるパーマロイや珪素綱板等の強磁性体で形成、或いは防錆力に優れるステンレス等で形成し、更にその外側に別途磁気シールドを施したものを使用することができる。
【0028】
上記した熱応力吸収部20を設けた光センサファイバは、ガラスファイバ素線10Aと保護被覆材10B間に熱膨張率の違いがあっても、使用温度変化の範囲内においてガラスファイバ素線10Aやフェルール15等は、保護被覆材10Bに拘束されず自由に移動可能なため、ガラスファイバ素線10Aに加わる機械的応力を抑制することができる。端部を包囲する保護カバー21を設けた光センサファイバ10は、ガラスファイバ素線10Aの保護被覆材10Bに、上記表1に記載のポリエーテルエーテルケトンや熱可塑性ポリエステルエラストマーを使用することができる。
【0029】
本発明の熱応力吸収部20を設けた光センサファイバ10を使用した光変流器は、大掛かりな対策を行うことなく光センサファイバのガラスファイバ素線10Aの透過損失が大幅に減少するから、温度変化に対する出力が抑制され、電流検出の出力特性に関する温度依存性を少なくでき、より一層誤差の少ない電流測定を行うことができる。
【実施例2】
【0030】
図2に、本発明の光変流器に用いる上記と同様な構造の光センサファイバ10の実施例を示している。この例においては、ガラスファイバ素線10Aの他端側の露出させた端部に、上記した例と同じようにフェルール15を接着部16により固着している。そして、光センサファイバ10の他端側に、ガラスファイバ素線10A及び保護カバー21の端部を、光軸方向に移動可能な自由端にする特別の構造の熱応力吸収部20を設けている。
【0031】
この図2の熱応力吸収部20は、上記と同様に光センサファイバ10の端部を包囲するように反射部材12側を閉鎖して形成された保護カバー21を用いて構成している。保護カバー21は、光センサファイバ10の端部の反射部材12側を閉鎖し、かつ上記した実施例1と同様に予め定めた光軸方向の長さが確保できる寸法に設定して形成する。この保護カバー21で、露出させたガラスファイバ素線10Aやフェルール15及び反射部材12、更には保護被覆材10Bの一部を含めて包囲している。
【0032】
保護カバー21の内面(図2の左側内面)は、フェル−ル15及び反射部材12を設けるガラスファイバ素線10Aの端部の部分を含めて、接着部23によって一体に固着している。しかも、固着しない保護カバー21の部分(図2の右側)は、内周面に円周溝24を設けている。この円周溝24内には、気密性のあるOリング25等の封止部材を配置して湿気の影響を防ぐと共に、保護被覆材10Bの外周面と摺動可能にしている。
【0033】
なお、封止部材は気密性及び可撓性を有する材質からなる伸縮性のある管継手、例えばゴム製の蛇腹状管継手を使用し、保護カバー21と保護被覆材10Bに装着することもできる。この封止部材の使用で、内部に固着したガラスファイバ素線10A等の構造物及び保護カバー21の端部は、光軸方向に移動可能な自由端となり、保護カバー21内の気密を維持した状態で移動可能にできる。
【0034】
このように光センサファイバ10の他端側に熱応力吸収部20を構成し、ガラスファイバ素線10Aや保護カバー21等が移動できる自由端としても、上記実施例と同様な効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…通電導体、10…光センサファイバ、10A…ガラスファイバ素線、10B…保護被覆材、11…偏/検光子部、12…反射部材、13、14…信号伝送ファイバ、15…フェルール、16…接着部、20…熱応力吸収部、21…保護カバー、22、23…接着部、24…円周溝、25…Oリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電導体の周囲に、ガラスファイバ素線に保護被覆材を施した光センサファイバを配置し、前記光センサファイバはその一端側に偏/検光子部を設けると共に、前記光センサファイバの他端側には保護被覆材を除去したガラスファイバ素線の端部にフェルールを固着し、かつ前記フェルールを固着した光ガラスファイバ素線の端面に反射部材を設けた光変流器において、前記光センサファイバの他端側に、前記ガラスファイバ素線の端部を光軸方向に移動可能な自由端にする熱応力吸収部を設け、前記熱応力吸収部は、前記反射部材側を閉鎖して形成されて前記光センサファイバの端部を包囲する保護カバーと、前記保護カバーを前記光センサファイバの保護被覆材の外周面に固着する接着部とから構成したことを特徴とする光変流器。
【請求項2】
通電導体の周囲に、ガラスファイバ素線に保護被覆材を施した光センサファイバを配置し、前記光センサファイバはその一端側に偏/検光子部を設けると共に、前記光センサファイバの他端側には保護被覆材を除去したガラスファイバ素線の端部にフェルールを固着し、かつ前記フェルールを固着したガラスファイバ素線の端面に反射部材を設けた光変流器において、前記光センサファイバの他端側に、前記ガラスファイバ素線及び前記保護カバーの端部を光軸方向に移動可能な自由端にする熱応力吸収部を設け、前記熱応力吸収部は、前記反射部材側を閉鎖して形成されて前記光センサファイバの端部を包囲する保護カバーと、前記保護カバーをフェルール及び反射部材を有する前記ガラスファイバ素線の端部に固着する接着部と、前記保護被覆材の外周面を摺動可能に密封する封止部材とから構成したことを特徴とする光変流器。
【請求項3】
請求項2において、前記封止部材は、前記保護カバーの内周面に設けた円周溝と、前記円周溝内に配置されたOリングで構成したことを特徴とする光変流器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−247236(P2012−247236A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117606(P2011−117606)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000220907)東光電気株式会社 (73)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】