説明

光多重反射点特定装置及び方法

【課題】
PONシステムの個々の加入者側光回線終端装置(ONU)に接続する分岐光ファイバ上の多重反射をもたらす反射点を特定する。
【解決手段】
OTDR計測装置(44)を局側光回線終端装置(OLT)の変わりに幹線光ファイバ(50)に接続し、光伝送路上の反射点の位置をOTDRにより計測する。多重反射計測装置(10)を幹線光ファイバ(50)に接続し、多重反射計測装置(10)は、各ONU(56−1〜56−n)を順に指定して上り光信号を送出させ、受信光中に上り光信号に続く多重反射光信号がある場合の、上り光信号に対する多重反射光信号の遅延時間を計測する。CPU(20)の反射点特定機能(42)が、OTDR計測装置(44)の計測結果と多重反射計測装置(10)の計測結果とから多重反射をもたらす反射点の位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局側光回線終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が複数の加入者側光回線終端装置(ONU:Optical Network Unit)を収容するPON(Passive Optical Network)システムにおいて、光伝送路上に発生した光多重反射点を特定する光多重反射点特定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FTTH(Fiber to the Home)サービスを経済的に提供する手段として、光伝送路とその通信帯域を複数の加入者で共有するPONシステムが知られている。PONシステムでは、1台の局側光回線終端装置(OLT)が、受動光伝送路を介して複数の加入者側光回線終端装置(ONU)を収容する。
【0003】
PONシステムは、上り方向と下り方向とで異なる波長を使用することで、上下光信号間の干渉を回避している。複数のONUが上り光信号に同じ波長を使用するPONシステムでは、各ONUの出力する上り光信号を時間軸上の互いに異なる位置に配置するTDMA(Time Division Multiple Access)方式を採用し、OLTが、全ONUで共用される光伝送路上で各ONUの上り光信号が衝突しないように、各ONUの発光時間及び発光タイミングを制御している。
【0004】
光伝送路上において光ファイバコネクタの接触不良など何らかの障害が存在する場合、当該障害点は光信号を反射する反射点となる。上下に異なる波長を使用しているPONシステムでは、このような反射点において発生した反射光が受信器側に与える影響は小さいが、光伝送路上に反射点が2点存在する場合、光信号が複数回反射を起こした多重反射光が発生する。上り光信号の多重反射光は、上り光信号と同様にOLTの受光器に入射する。
【0005】
OLTの上り光信号を受信する光受信装置は、一般に伝送距離の異なるONUからの光強度の異なる上り光信号を受信することから、受信信号パワーレベルを一定とする自動利得制御(AGC:Auto Gain Control)機能を具備することが多い。このようなAGCは光アンプ又は電気アンプで実現される。
【0006】
通常、反射光は元の光信号に比べて大きく減衰しており、多重反射光の光パワーレベルは、正常な光信号と比較して遥かに小さいが、OLTの光受信装置によるAGC機能により、多重反射光のように微弱な光信号も、無視できないレベルに増幅されることがある。多重反射光は、正常な上り光信号から遅れてOLTに入射し、ときに同じ又は別のONUからの上り光信号と衝突する。この結果、多重反射光がフレームロスやONUリンク断など、PONシステムの通信性能に大きな影響を及ぼす。従って、光伝送路上の反射点を簡易かつ早期に特定する技術が求められる。
【0007】
光伝送路上の反射点を特定する技術として、OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)法が知られている(特許文献1,2)。OTDR法では、光伝送路にプローブパルス光を入射すると、当該プローブパルス光と同じ波長の後方散乱光が入射方向の逆側に伝搬する性質を用いて、入射端において当該後方散乱光の観測時とプローブパルス光入射時との時間差から、光伝送路上の反射点までの距離を測定する。
【0008】
また、特許文献1,2に記載の技術では、分岐光ファイバのユーザ側端部に、互いに異なる波長を反射波長とするファイバグレーティングを配置し、各反射波長のプローブ光又は試験光をOLT側から入射し、各ファイバグレーティングによる反射光の後方散乱光が当該ファイバグレーティングで再度反射されることによるOTDR波形の相違を計測することで、曲がり等による反射点がどの分岐光ファイバ上に存在するかを計測できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−63377号公報
【特許文献2】特開2010−38882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
PONシステムの受動光伝送路は、当該受動光伝送路の途中に配置される光カプラとOLTとを接続する幹線光ファイバと、当該光カプラと各ONUとを個別に接続する分岐光ファイバとからなり、多重反射をもたらす反射点が何れかの分岐光ファイバ上に存在する場合、OLT側からのOTDRでは、その反射点がどの分岐光ファイバ上に存在するかを特定できない。多重反射をもたらす2つの反射点が共に幹線光ファイバ上に存在する場合、OLT側からのOTDRでその反射点の位置を計測できる。
【0011】
他方、加入者側からOTDR法を適用するのは、全ての加入者宅に作業者を派遣しなければならず、運用保守コストの観点から現実的ではない。
【0012】
特許文献1,2に記載の技術は、各分岐光ファイバのユーザ側端部に、互いに異なる波長を反射波長とする反射器を装備しなければならず、また、反射点特定のために各反射波長に対応する複数の波長光源又は波長可変光源を用意しなければならず、設置コストが大幅に増大し、運用負担も増大する。基本的に、非常に微弱な散乱光のレベルで反射点の位置を判定することになり、正確な位置判定が難しい。
【0013】
本発明は、より簡易な構成で、受動光伝送路上の多重反射をもたらす2つの反射点の位置を特定できる光多重反射点特定装置及び方法を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る光多重反射点特定装置は、局側光回線終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が接続する幹線光ファイバと、複数の加入者側光回線終端装置(ONU:Optical Network Unit)のそれぞれに接続する分岐光ファイバと、当該幹線光ファイバと複数の当該分岐光ファイバとを光学的に結合する光結合器であって、当該幹線光ファイバからの下り光を分割して当該各分岐光ファイバに供給し、当該各分岐光ファイバからの上り光を当該幹線光ファイバに供給する光結合器とからなる受動光伝送路上で、何れかの加入者側光回線終端装置からの上り光信号に多重反射をもたらす反射点の位置を特定する光多重反射点特定装置であって、当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置が接続される側から、当該受動光伝送路上の反射点の位置をOTDRにより計測するOTDR計測装置と、当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置の接続される側に配置される多重反射計測装置であって、各加入者側光回線終端装置を順に指定して上り光信号を送出させ、当該上り光信号に続く多重反射光信号がある場合の、当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測する多重反射計測装置と、当該OTDR計測装置の計測結果と当該多重反射計測装置の計測結果とから当該反射点の位置を特定する反射点特定装置とを具備することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る光多重反射点特定方法は、局側光回線終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が接続する幹線光ファイバと、複数の加入者側光回線終端装置(ONU:Optical Network Unit)のそれぞれに接続する分岐光ファイバと、当該幹線光ファイバと複数の当該分岐光ファイバとを光学的に結合する光結合器であって、当該幹線光ファイバからの下り光を分割して当該各分岐光ファイバに供給し、当該各分岐光ファイバからの上り光を当該幹線光ファイバに供給する光結合器とからなる受動光伝送路上で、何れかの加入者側光回線終端装置からの上り光信号に多重反射をもたらす反射点の位置を特定する光多重反射点特定方法であって、当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置が接続される側から、当該受動光伝送路上の反射点の位置をOTDRにより計測するOTDR計測ステップと、当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置の接続される側に配置される多重反射計測ステップであって、各加入者側光回線終端装置を順に指定して上り光信号を送出させ、当該上り光信号に続く多重反射光信号がある場合の、当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測する多重反射計測ステップと、当該OTDR計測ステップの計測結果と当該多重反射計測ステップの計測結果とから当該反射点の位置を特定する反射点特定ステップとを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で、分岐光ファイバを有する受動光伝送路上で光多重反射をもたらす反射点の位置を特定できる。OLTなどの局側に配置する装置のみで反射点を特定できるので、設置コスト及び運用管理コストを極度に高めることなく、簡易且つ迅速に反射点を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例の概略構成ブロック図である。
【図2】本実施例の多重反射点特定動作を示すメインフローチャートである。
【図3】ONUの発光制御と上り受信信号及びトリガ信号のタイミング例である。
【図4】加算平均処理後の上り光信号と多重反射光信号の波形例である。
【図5】本実施例の多重反射計測処理のフローチャートである。
【図6】ONU情報の一例である。
【図7】本実施例による計測例である。
【図8】OLT内に多重反射計測装置を組み込む構成の概略構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る光多重反射点特定システムの一実施例の概略構成ブロック図を示す。図2は、本実施例のメイン動作のフローチャートを示す。
【0020】
PONシステムは、通常運用時には、局側光回線終端装置であるOLTに幹線光ファイバ50が接続され、幹線光ファイバ50の他端に接続される1:nの光カプラ52が、個別の分岐光ファイバ54−1〜54−nを介して、ユーザ宅のONU56−1〜56−nに接続する。光カプラ52は、幹線光ファイバ50から入射する光信号を等分割して各分岐光ファイバ54−1〜54−nに供給し、分岐光ファイバ54−1〜54−nからの光信号を幹線光ファイバ50に供給する受動素子である。光カプラ52は模式的に図示されており、実際には、複数の光カプラが使用されることもある。
【0021】
OLTが例えば、複数台のONUにおいてフレームロスが定期的に発生することや、複数台のONUが一度にリンク断を引き起こしたことを検出した場合に、光多重反射の発生が疑われる。OLTが、光多重反射が原因と思われる障害を検知した旨の警報を発した場合に、オペレータは、当該OLTを幹線光ファイバ50から外し、OTDR計測装置44を破線46で示すように幹線光ファイバ50に光学的に接続する(S1)。そして、OTDR計測装置44を使って、幹線光ファイバ50及び各分岐光ファイバ54−1〜54−n上の反射点を計測する(S2)。この計測では、分岐光ファイバ54−1〜54−n上の反射点は、どの分岐光ファイバ上に存在するかを特定できないが、幹線光ファイバ50のOLT端からの絶対距離を計測できる。
【0022】
次に、オペレータは、多重反射計測装置10を幹線光ファイバ50に光学的に接続する(S3)。詳細は後述するが、多重反射計測装置10は、各ONU56−1〜56−nに個別に上り光信号を送出させ、その上り光信号に対する多重反射光の遅延時間を計測することで、多重反射をもたらす複数の(通常は、2つの)反射点間の距離(相対距離)を計測する(S4)。
【0023】
図3は、多重反射計測装置10による遅延時間計測処理を説明する波形例を示す。ステップS4の処理では、例えば、図3(a)に示すように、多重反射計測装置10は、順に指定するONU56−iに上り光信号の出力を指示する発光制御信号G(1)〜G(4)・・・を発光周期Tで送信する。指定されたONU56−iは、図3(b)に示すように、この発光制御信号G(1)〜G(4)・・・に従い発光期間Dの上り光信号R(1)〜R(4)・・・を発光周期Tで分岐光ファイバ54−iに出力する。分岐光ファイバ54−i上又は幹線光ファイバ50上に多重反射をもたらす反射点が存在する場合、その反射点間の距離に依存した遅延時間Sで、多重反射光信号Q(1)〜Q(4)・・・が、上り光信号R(1)〜R(4)・・・に追随する。多重反射光信号Q(1)〜Q(4)・・・は一般に微弱であることから、多重反射計測装置10は、図3(c)に示すように、多重反射計測装置10に上り光信号R(1)〜R(4)・・・に入射する時点を示す周期Tのトリガ信号を生成し、このトリガ信号により幹線光ファイバ50からの入射光をサンプリングし、その波形を加算平均又は累積する。
【0024】
なお、発光期間Dは、ONUが送信する上り光信号G(1)〜G(4)・・・と、光多重反射点が存在する場合に遅延して受信する多重反射光信号Q(1)〜Q(4)・・・とが衝突しない程度に十分に短い期間に設定する。発光周期Tも、多重反射光信号Q(1)〜Q(4)・・・とこれに続く上り光信号G(2)〜G(4)・・・と衝突しないように十分に長い時間に設定する。
【0025】
図4は、上り光信号と、これに続く多重反射光信号の加算平均結果の波形例を示す。加算平均された多重反射光信号のピークパワーZ(i)が、所定の閾値Wより大きい場合、有意な多重反射を検出したと判定し、上り光信号に対する多重反射光信号の遅延時間Sを計測する。この遅延時間Sは、多重反射をもたらす2つの反射点間の往復遅延時間であり、反射点間の伝送距離に変換できる。多重反射が何れかの分岐光ファイバ上で起きている場合、その多重反射を起こす反射点がどの分岐光ファイバ54−i上にあるかを特定できる。
【0026】
OTDR計測装置44によるOTDR計測の後に、多重反射計測装置10による計測を行っても、同様に、多重反射を起こす複数の反射点の受動光伝送路上の位置を特定できる。
【0027】
図5は、図2の多重反射計測(S4)の詳細なフローチャートを示す。多重反射計測装置10のCPU20は、図5に示す処理を開始する前に、OLTから登録済みのONU56−1〜56−nを示すONU情報を取得し、ONU情報記憶装置40に記憶する。ONU情報をOLTから取得する方法としては、OLTからONU情報を外部メモリ等に読み出し、その外部メモリを多重反射計測装置10に接続する方法や、OLTと多重反射計測装置10が共にアクセス可能なメモリ又は記憶装置を経由する方法等がある。図6は、ONU情報記憶装置40に記憶するONU情報の一例である。ONU情報は、ONU56−1〜56−nが登録された順番を示すONU番号と、ONU56−1〜56−nに固有の識別子であるMAC(Media Access Control)アドレスからなる。
【0028】
多重反射計測装置10のCPU20は、各ONU56−1〜56−nに上り光信号を発生させる際の初期パラメータを設定する(S11)。この初期パラメータは、例えば、発光周期T、発光期間D(<T)、発光制御回数M、及び、光多重反射の判定閾値Wからなる。CPU20は、ONU情報記憶装置40から各ONUの情報を取得する(S12)。
【0029】
CPU20は、制御対象のONUを特定する変数iを1で初期化する(S13)。変数iで特定されるONU(i)は、例えば、ONU56−iである。ある種のPONシステムでは、ONU(i)の発光動作を制御するには、多重反射計測装置10がONU(i)との間で論理リンクを確立している必要がある。そこで、CPU20は、タイマ24及びONU情報記憶装置40を参照し、ONU登録プロセスを利用してONU(i)に対する論理リンクを確立する(S14)。タイマ24は現在時刻を計時している。
【0030】
具体的には、CPU20は、ONU(i)に対して、新規ONUの登録要求を確認するDiscovery_GATEメッセージを制御フレーム生成装置22に生成させ、ONU(i)から登録要求信号であるRegister_REQメッセージを受信する時刻の直後に、固有の論理リンクを割り当てるRegisterメッセージをONU(i)向けに制御フレーム生成装置22に生成させる。このような登録プロセスの流用により、多重反射計測装置10は、ONU(i)に対して、ユニークな論理リンクID(LLID:Logical Link Identifier)を付与し、ONU(i)との間で論理リンクを確立する。多重反射光信号の影響で多重反射計測装置10がONU(i)からの上り光信号を正しく受信できない場合であっても、CPU20は、ONU(i)に対して論理リンクの確立を模擬でき、ONU(i)の発光を遠隔制御できる。
【0031】
なお、電気/光(E/O)変換器26は、制御フレーム生成装置22から供給された制御フレーム(電気信号)を光信号、すなわち下り光信号に変換し、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)光カプラ28に供給する。WDM光カプラ28は、E/O変換器26からの下り光信号を幹線光ファイバ50に出力する。この下り光信号は,幹線光ファイバ50、光カプラ52及び各分岐光ファイバ54−1〜54−nを介してONU56−1〜56−nに入射する。ONU(i)、例えばONU56−iは、多重反射計測装置10からのRegisterメッセージにより、自己に割当てられた論理リンクを認識し、記憶する。
【0032】
CPU20は、タイマ24を参照し、ONU(i)に対し、発光周期T及び発光期間Dの上り光送信をM回実行させることで、ONU(i)からの上り光信号とこれによる多重反射光の有無と遅延時間を計測する(S15〜S18)。
【0033】
具体的には、まず、制御回数を示す変数kを1で初期化する(S15)。CPU20は、ONU(i)に発光期間Dを示す発光制御信号、例えば、ONU(i)に上り送信許可を指示するGateメッセージを制御フレーム生成装置22に生成させる(S16)。このGateメッセージは、このメッセージを受信してから所定時間後に発光期間Dの上り光信号を出力するようにONU(i)を指示する発光制御信号である。
【0034】
制御フレーム生成装置22の生成するGateメッセージは、E/O変換器26、WDM光カプラ28、幹線光ファイバ50、光カプラ52及び分岐光ファイバ54−1〜54−nを介してONU56−1〜56−nに入射する。但し、このGateメッセージには、ONU(i)、例えば、ONU56−iを受信端末として指定するヘッダが付加されているので、ONU(i)のみがこのGateメッセージを受信し、他のONUは、Gateメッセージを受信せずに破棄する。
【0035】
ONU(i)、例えば、ONU56−iは、多重反射計測装置10からのこのGateメッセージに従い、発光期間Dの上り光信号を分岐光ファイバ54−iに出力する。この上り光信号は、この時点で送信すべきデータと、次の機会に送信すべきデータ量を申告するReportメッセージを含む。発光期間に満たない部分には所定のアイドルパターンが挿入される。
【0036】
分岐光ファイバ54−i上又は幹線光ファイバ50上に、多重を起こす少なくとも2つの反射点が存在する場合、ONU(i)から出力される上り光信号は、その少なくとも2つの反射点間の距離に相応して遅延する多重反射光信号を伴う。上り光信号、及び、存在する場合の多重反射光信号は、図3(b)に示すように、分岐光ファイバ54−i、光カプラ52、幹線光ファイバ50を伝搬して、多重反射計測装置10のWDM光カプラ28に入射する。WDM光カプラ28は、幹線光ファイバ50から入射する上り光を光/電気(O/E)変換器に供給する。
【0037】
O/E変換器30は、結局、幹線光ファイバ50から入射する上り光(ONU(i)からの上り光信号と、存在する場合の多重反射光信号)を電気信号に変換し、低域通過フィルタ(LPF)32に供給する。低域通過フィルタ32は、後段でのA/D変換での波形サンプリング時のエイリアシングを防止するために設けられる。アナログ/デジタル(A/D)変換器34は、フィルタ32の出力波形をデジタル化し、S/N改善のための加算平均装置38に供給する。
【0038】
トリガ生成装置36は、タイマ24を参照し、発光制御しているONU(i)の発光周期Tに同期したトリガ信号(図3(c))を生成し、加算平均装置38に供給する。加算平均装置38は、トリガ生成装置36からのトリガ信号に同期して、A/D変換器34の出力信号を累積する(S17)。ONU(i)から出力される上り光信号と、これによる多重反射光信号とを発光周期Tで加算平均又は累積することで、不規則ノイズ成分を低減し、微弱な多重反射光信号成分を検出できる。
【0039】
ステップS16,S17をM回、繰り返す(S18,S19)。すなわち、kがMに等しくなければ(S18)、kをインクリメントして(S19)、ステップS16に戻る。kがMに等しくなると(S18)、CPU20は、加算平均装置38から加算平均した上り受信信号波形を読み出し、ONU(i)からの上り光信号を受信しないT−Dの期間において雑音ピークレベルZ(i)を計算する(S20)。
【0040】
雑音ピークレベルZ(i)が所定の閾値Wを越える場合(S21)、CPU20は、そのONU(i)からの上り光信号により無視できない多重反射が発生しており、検出される雑音が多重反射光信号であると判断する(S22)。そして、CPU20は、判定した多重反射光信号の、上り光信号からの遅延時間Sを累積受信波形から算出し、遅延時間Sを多重反射点間距離に換算する(S23)。多重反射点間距離は、光ファイバ上の光速度に遅延時間Sの半分を乗算した結果に等しい。
【0041】
他方、雑音ピークレベルZ(i)が所定の閾値Wを越えない場合(S21)、CPU20は、多重反射を起こしていないと判断する。
【0042】
ステップS14〜S24の処理を全部のONU56−1〜56−nについて実行する。具体的には、iがnに等しくなければ(S25)、iをインクリメントして(S26)、ステップS14に進み、iがnに等しくなれば(S25)、処理を終了する。
【0043】
なお、分岐光ファイバ54−iがそもそも破断している場合、ONU56−iは、発光制御信号を受信できず、従って、多重反射計測装置10は、ONU56−iからの上り光信号を受信しない。このように、ONU(i)からの上り光信号を受信できない場合、多重反射計測装置10は、分岐光ファイバ54−iの破断を想定する。
【0044】
多重反射計測装置10による遅延計測では、分岐光ファイバ上に存在する反射点がどの分岐光ファイバ上に存在するかを特定できるものの、受動伝送路上での絶対位置は計測できない。しかし、OTDR計測装置44のOTDR計測は、反射点の絶対距離を計測できる。そこで、CPU20の反射点特定機能42が、OTDR計測装置44による計測結果と、多重反射計測装置10による計測結果を対比し、多重反射をもたらす反射点の位置を、どの分岐光ファイバ54−1〜54−n上に位置するかを含めて、特定する(S5)。
【0045】
図7は、OTDR計測装置の計測結果から多重反射点を特定する例を示す。図7(a)は多重反射を起こす反射点Ra,Rbが分岐光ファイバ54−1上にある例を示し、図7(b)は、反射点Ra,RbをOTDR計測装置44で計測した場合の反射レベルの距離変化を示す。OTDR計測装置44では、反射点Ra,Rbが幹線光ファイバ50の端部から距離La,Lbの位置にあることが分かる。他方,多重反射計測装置10による計測では、反射点Ra,Rbが分岐光ファイバ54−1上にあることと、反射点Ra,Rb間の距離Dabが分かる。多重反射計測装置10による多重反射点間距離Dab(相対距離)をOTDR計測結果と対比することで、反射点Ra,Rbの位置(絶対距離La,Lbとどの分岐光ファイバ上にあるか)を決定できる。
【0046】
多重反射が最も悪影響を与えるのは、多重反射をもたらす反射点が同じ分岐光ファイバ上に存在する場合であり、本実施例では、このようなケースに対し、OTDR計測結果を併用することで、反射点がどの分岐光ファイバ上のどの位置にあるかを特定できる。なお、多重反射をもたらす2つの反射点の一方が幹線光ファイバ50上にあり、他方が何れかの分岐光ファイバ54−iにある場合、本実施例によっても、反射点がどの分岐光ファイバ上にあるかを特定できないものの、このようなケースでは、光カプラ52による減衰が追加されるので、多重反射光による悪影響は少ない。
【0047】
いうまでもないが、OTDR計測装置44による反射点の位置計測値がタイムドメインで表現される場合、多重反射計測装置10による反射点間の距離も、タイムドメインで表現されるものでよい。最終的に、CPU20の反射点特定機能42は、特定した反射点を所定端(通常は、幹線光ファイバ50のOLTを接続する端面又は光カプラ52)からの距離と、分岐光ファイバを特定する情報で表現する。
【0048】
このように、本実施例では、個々の分岐光ファイバを特定する反射器とか、特別の波長の光源等を用意しなくて済む簡易な構成で、多重反射をもたらす分岐光ファイバ上の反射点の位置を特定できる。従って、上り光伝送を不安定化するような多重反射を早期に解消することが可能になる。
【実施例2】
【0049】
多重反射計測装置10は、OLTに組み込んでもよい。図8は、多重反射計測機能を有するOLTの概略構成ブロック図を示す。図8に示すOLT100は、ONU56−1〜56−nと上位ネットワークとの間の通信を管理する通常のOLTとして動作するOLTモードに加えて、多重反射計測装置10と同様の機能を奏する多重反射計測モードでも動作する。スイッチ120は、OLTモードでは端子Aに接続し、多重反射計測モードでは端子Bに接続する。
【0050】
OLTモードでのOLT100の動作を簡単に説明する。OLT100は、ネットワークインタフェース(NW I/F)110を介して上位ネットワークに接続する。NW I/F110は、上位ネットワークからの下り信号を下りフレーム転送装置112に供給する。下りフレーム転送装置112は、NW I/F112から供給された下り信号に、CPU130が生成する下り制御フレームを時間軸上で多重し、電気/光(E/O)変換器114に供給する。E/O変換器114は、下りフレーム転送装置112から転送された下り電気信号を光信号へ変換し、波長分割多重(WDM)光カプラ116に供給する。WDM光カプラ116は、WDM光カプラ28と同様に、幹線光ファイバ50にONU56−1〜56−n向けの下り光信号を供給する。
【0051】
WDM光カプラ116は、幹線光ファイバ50から入力するONU56−1〜56−nが送信する上り光信号を光/電気(O/E)変換器118に供給する。O/E変換器118は、WDM光カプラ116からの上り光信号を電気信号に変換し、その出力電気信号は、スイッチ120を介して制御フレーム分離装置122に入力する。
【0052】
制御フレーム分離装置122は、スイッチ120からの上り電気信号を、上位ネットワークに向かう上りデータフレームと、ONU56−1〜56−nから送信される登録/要求信号等の制御フレームとに分離し、前者を上りデータフレームに、後者をCPU130に供給する。上りフレーム転送装置124は、上りデータフレームをNW I/F110を介して上位ネットワークに転送する。制御フレーム分離装置122において分離された上り制御フレームは、より具体的には、Register_REQ、Register_ACK又はREPORTのメッセージである。
【0053】
CPU130は、各ONU56−1〜56−nからの制御フレームを受信すると、各ONU56−1〜56−nの上り光送信タイミング及び発光期間を計算し、制御フレーム生成機能132により、算出した上り光送信タイミング及び発光期間を指示するための下り制御フレームを生成する。下り制御フレームは、より具体的には、登録プロセスの段階に応じて、Discovery_GATE、Register又はGATEのメッセージからなる。制御フレーム生成機能132は、ONU情報記憶装置134及びタイマ136を参照して、適切なタイミングで下り制御フレームを生成する。
【0054】
PONシステムにおいて光多重反射に起因する障害が発生した場合、CPU130はスイッチ120を端子Bに切り替え、多重反射計測モードに切り替わる。スイッチ120の切り替えは、OLT100がフレームロスや全ONUリンク断等の異常を検出して自動で行っても、オペレータの制御により手動で行っても良い。
【0055】
多重反射計測モードでは、OLT100は、図1に示す実施例の多重反射計測装置10と同様に動作する。すなわち、フィルタ126、A/D変換器128、加算平均装置138及び反射点特定機能140は、それぞれ、図1に示す実施例の、フィルタ32、A/D変換器34、加算平均装置38及び反射点特定機能42と同様に動作する。WDM光カプラ116は、OTDR計測装置44の出力するプローブ光を幹線光ファイバ50に転送し、幹線光ファイバ50から入力する、当該プローブ光の後方散乱光及び反射光をOTDR計測装置44に転送する機能を具備する。
【0056】
CPU130の反射点特定機能140は、OTDR計測装置44のOTDR計測結果と、多重反射計測モードでの多重反射計測結果とから、図1に示す実施例で説明したように、多重反射をもたらす反射点の位置を特定する。
【0057】
本発明により、一部を複数の端末で共有する受動光伝送路に対して、光多重反射点がどの分岐光ファイバ上にあるのかを特定できる。また、OLTなどの局側装置のみで特定できるので、設置コスト及び運用管理コストを極度に高めることなく、低廉かつ簡易に実現できる。
【0058】
特定の説明用の実施例を参照して本発明を説明したが、特許請求の範囲に規定される本発明の技術的範囲を逸脱しないで、上述の実施例に種々の変更・修整を施しうることは、本発明の属する分野の技術者にとって自明であり、このような変更・修整も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
10:多重反射計測装置
20:CPU
22:制御フレーム生成装置
24:タイマ
26:電気/光(E/O)変換器
28:波長分割多重(WDM)光カプラ
30:光/電気(O/E)変換器
32:フィルタ
34:アナログ/デジタル(A/D)変換器
36:トリガ生成装置
38:加算平均装置
40:ONU情報記憶装置
42:反射点特定機能
44:OTDR計測装置
50:幹線光ファイバ
52:光カプラ
54−1〜54−n:分岐光ファイバ
56−1〜56−n:ONU
100:OLT
110:ネットワークインタフェース(NW/IF)
112:下りフレーム転送装置
114:電気/光(E/O)変換器
116:波長分割多重(WDM)光カプラ
118:光/電気(O/E)変換器
120:スイッチ
122:制御フレーム分離装置
124:上りフレーム転送装置
126:フィルタ
128:アナログ/デジタル(A/D)変換器
130:CPU
132:制御フレーム生成機能
134:ONU情報記憶装置
136:タイマ
138:加算平均装置
140:反射点特定機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局側光回線終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が接続する幹線光ファイバと、複数の加入者側光回線終端装置(ONU:Optical Network Unit)のそれぞれに接続する分岐光ファイバと、当該幹線光ファイバと複数の当該分岐光ファイバとを光学的に結合する光結合器であって、当該幹線光ファイバからの下り光を分割して当該各分岐光ファイバに供給し、当該各分岐光ファイバからの上り光を当該幹線光ファイバに供給する光結合器とからなる受動光伝送路上で、何れかの加入者側光回線終端装置からの上り光信号に多重反射をもたらす反射点の位置を特定する光多重反射点特定装置であって、
当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置が接続される側から、当該受動光伝送路上の反射点の位置をOTDRにより計測するOTDR計測装置(44)と、
当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置の接続される側に配置される多重反射計測装置であって、各加入者側光回線終端装置を順に指定して上り光信号を送出させ、当該上り光信号に続く多重反射光信号がある場合の、当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測する多重反射計測装置(10)と、
当該OTDR計測装置の計測結果と当該多重反射計測装置の計測結果とから当該反射点の位置を特定する反射点特定装置(42)
とを具備することを特徴とする光多重反射点特定装置。
【請求項2】
当該多重反射計測装置が、
当該各加入者側光回線終端装置を順に指定し、所定回数、上り光信号の送出を指示する手段と、
当該幹線光ファイバから入射する光信号を受光する受光手段と、
当該受光手段の出力信号を当該所定回数、加算平均する加算平均手段と、
当該加算平均手段の出力から当該多重反射光を検出する手段と、
当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測する手段
とを具備することを特徴とする請求項1に記載の光多重反射点特定装置。
【請求項3】
当該多重反射計測装置が更に、当該上り光信号の受信に同期するトリガ信号を発生するトリガ生成手段を具備し、
当該加算平均手段が、当該トリガ信号に同期して、当該受光手段の出力信号を当該所定回数、加算平均する
ことを特徴とする請求項2に記載の光多重反射点特定装置。
【請求項4】
局側光回線終端装置(OLT:Optical Line Terminal)が接続する幹線光ファイバと、複数の加入者側光回線終端装置(ONU:Optical Network Unit)のそれぞれに接続する分岐光ファイバと、当該幹線光ファイバと複数の当該分岐光ファイバとを光学的に結合する光結合器であって、当該幹線光ファイバからの下り光を分割して当該各分岐光ファイバに供給し、当該各分岐光ファイバからの上り光を当該幹線光ファイバに供給する光結合器とからなる受動光伝送路上で、何れかの加入者側光回線終端装置からの上り光信号に多重反射をもたらす反射点の位置を特定する光多重反射点特定方法であって、
当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置が接続される側から、当該受動光伝送路上の反射点の位置をOTDRにより計測するOTDR計測ステップ(44)と、
当該幹線光ファイバの、当該局側光回線終端装置の接続される側に配置される多重反射計測ステップであって、各加入者側光回線終端装置を順に指定して上り光信号を送出させ、当該上り光信号に続く多重反射光信号がある場合の、当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測する多重反射計測ステップ(10)と、
当該OTDR計測ステップの計測結果と当該多重反射計測ステップの計測結果とから当該反射点の位置を特定する反射点特定ステップ(42)
とを具備することを特徴とする光多重反射点特定方法。
【請求項5】
当該多重反射計測ステップが、
当該各加入者側光回線終端装置を順に指定し、所定回数、上り光信号の送出を指示するステップと、
当該幹線光ファイバから入射する光信号を受光手段により受光する受光ステップと、
当該受光手段の出力信号を当該所定回数、加算平均する加算平均ステップと、
当該加算平均ステップの加算平均結果から当該多重反射光を検出するステップと、
当該上り光信号に対する当該多重反射光信号の遅延時間を計測するステップ
とを具備することを特徴とする請求項4に記載の光多重反射点特定方法。
【請求項6】
当該多重反射計測ステップが更に、当該上り光信号の受信に同期するトリガ信号を発生するトリガ生成ステップを具備し、
当該加算平均ステップが、当該トリガ信号に同期して、当該受光手段の出力信号を当該所定回数、加算平均する
ことを特徴とする請求項5に記載の光多重反射点特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173184(P2012−173184A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36666(P2011−36666)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】