説明

光学ガラス、プレス成形用プリフォームおよび光学素子

【課題】 屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であり、かつ低温軟化性と優れた耐候性を有する光学ガラスを提供する。
【解決手段】 屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有する光学ガラス、あるいは、モル%表示で、B23 22〜40%、SiO2 12〜40%、Li2O 2〜20%、CaO 5〜15%、ZnO 2〜14%、La23 0.5〜4%、Gd23 0〜3%、Y23 0〜3%(ただし、La23とGd23とY23との合計1%以上)、Al23 0〜5%、ZrO2 0〜3%およびBaO 0〜5%を含み、上記成分の合計量が96%より多く、かつ屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65の光学ガラスなどである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プレス成形用プリフォームとその製造方法、並びに光学素子とその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、特定の光学恒数を有すると共に、優れた耐候性を備えた光学ガラス、特にモールドプレス成形に適した低温軟化性を有する光学ガラス、並びに前記光学ガラスからなるプレス成形用プリフォームと光学素子およびそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65の光学恒数を有する光学ガラスは、レンズなどの光学素子の材料として有用であり、日本硝子製品工業会発行「硝子データブック」にSKタイプのガラスとして紹介されている。しかしながら、これらのガラスは、一般にガラス転移温度が560℃よりも高く、精密モールドプレス用ガラスとして適さない。モールドプレス用ガラスにおいて、成形温度が高温となると、プレス用型の表面に損傷が生じたり、型材の耐久性が低くなったりして問題となるため、ガラスのガラス転移温度はなるべく低い方が望ましい。このような問題を解決するため、Li2Oなどのアルカリを多く導入したガラス、例えば、SiO2−B23−SrO−Li2O系ガラス(特許文献1参照)、あるいはアルカリやTeO2を導入したガラス、例えばSiO2−B23−BaO系ガラス(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
ところで、本発明者らは、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65付近のガラスは、一般に耐候性が不十分であることに着目した。ガラス素材としての耐候性は、レンズなどの光学素子を長期にわたり、良好な状態で使用する上で極めて重要な特性である。
【0004】
しかしながら、前記の特許文献1に記載のガラスは、多くのSrOとLi2Oが導入されているため、耐候性が悪く、プレスした際に、プレス成形品がくもりやすいという欠点を有している。また、特許文献2に記載のガラスは、アルカリやTeO2を導入してガラス転移温度の低下を図っているが、化学的耐久性がかなり悪化しているため、モールドプレス用ガラス(精密プレス成形用ガラス)としては不適当である。
【特許文献1】特許公報第2872899号
【特許文献2】特許公報第3150992号 このような現状のもと、本発明者らは上記光学恒数とモールドプレス成形が可能な低温軟化性を有し、優れた耐候性をも備えた光学ガラスを提供することは当該技術が属する産業の発展に大きく寄与すると考えた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であり、低温軟化性と優れた耐候性を有する光学ガラス、および前記光学ガラスからなるプレス成形用プリフォームならびに光学素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、光学素子の製造上、使用上、保管上の面から、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65の範囲の光学ガラスで低温軟化性を付与したとき、ヘイズ値が3%以下の耐候性をも付与しなければならないという知見を見出すと共に、ガラスの成分としてBaO及びSrOの代わりにZnOを
多く導入することでガラスの転移温度(Tg)を大きく低下させることができると同時に、ガラスの耐久性をも改善できること、さらに、少量のLa23の導入によりガラスの耐候性を大幅に向上させることができるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有することを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIと称す。)、
(2)屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有し、精密プレス成形用であることを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIIと称す。)、
(3)B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnOおよびLa23を含み、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有することを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIIIと称す。)、
(4)モル%表示で、B23 22〜40%、SiO2 12〜40%、Li2O 2〜20%、CaO 5〜15%、ZnO 2〜14%、La23 0.5〜4%、Gd23 0〜3%、Y23 0〜3%(ただし、La23とGd23とY23との合計1%以上)、Al23 0〜5%、ZrO2 0〜3%およびBaO 0〜5%を含み、上記成分の合計量が96%より多く、かつ屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であることを特徴とする光学ガラス(以下、光学ガラスIVと称す。)、
(5)上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用プリフォーム、
(6)上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子、(7)溶融ガラス流から所定重量の溶融ガラス塊を分離し、上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるガラスプリフォームを成形することを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法、および
(8)上記(5)項に記載のプレス成形用プリフォームまたは上記(7)項に記載の方法で得られたプレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であり、かつ低温軟化性と優れた耐候性を有する光学ガラスを提供することができる。
【0009】
また、本発明によれば、所望の光学恒数を有し、耐候性に優れた光学素子をプレス成形によって得るためのプレス成形用プリフォームならびにその製造方法を提供することができる。
【0010】
さらに、本発明によれば、所望の光学恒数を有し、耐候性に優れた光学素子ならびにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の光学ガラスには、光学ガラスI〜IVの4つの態様があり、まず、光学ガラスIについて説明する。
【0012】
本発明の光学ガラスIは、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有するガラスである。
【0013】
上記ガラス転移温度(Tg)が560℃を超えると急激に精密プレス成形性が低下し、精密プレス成形によって良好な光学素子を製造するのが難しくなる。好ましいガラス転移温度(Tg)は550℃以下、より好ましくは540℃以下である。
【0014】
また、ヘイズ値が3%を超えると長期のわたる使用や保管、レンズなどのように通常の環境下、あるいはさらに厳しい環境下において光学素子としての性能を十分発揮させるのが難しくなる。光学ガラスIを精密プレス成形した際に、良好な表面を有する光学素子を得る上からも光学ガラスIにおいてヘイズ値を3%以下に限定した。好ましいヘイズ値は2%以下、より好ましくは1%以下である。
【0015】
本発明の光学ガラスIIは、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有する精密プレス成形用のガラスである。
【0016】
光学ガラスIIにおいて耐候性を上記のように規定した理由は、前記光学ガラスIにおける規定の理由と同じである。好ましいヘイズ値は2%以下、より好ましくは1%以下である。
【0017】
本発明において、精密プレス成形とは、予め成形されたガラスプリフォームを加熱、軟化してプレス成形型によりプレスして、プレス成形型の成形面の形状を精密に光学ガラスに転写するとともに、所望の形状のプレス成形品を作製する方法であり、上記成形面を転写した面に機械加工を施さずに精密なガラス物品を作製可能な方法を言う。例えば、光学素子を精密プレス成形により作製する場合、光学素子としての使用時に光線を透過したり、反射させたり、屈折させたり、回折させたりする面、すなわち光学機能面を、プレス成形型の成形面を転写させることにより、機械加工を加えることなく作製できる。精密プレス成形は、モールドオプティクス成形とも呼ばれ、非球面形状、球面形状、回折格子などの微細な溝など精密さが要求される光学機能面を機械加工を加えることなしに成形できるものである。
【0018】
この光学ガラスIIにおいては、ガラス転移温度(Tg)は560℃以下が好ましく、より好ましくは550℃以下、さらに好ましくは540℃以下である。
【0019】
本発明の光学ガラスIIIは、B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnOおよびLa23を含み、 屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有するガラスである。
【0020】
光学ガラスIIIにおいて、ガラス転移温度(Tg)を560℃以下に限定した理由は、前記光学ガラスIにおける限定理由と同じであり、好ましくは550℃以下、より好ましくは540℃以下である。また、ヘイズ値を3%以下に限定した理由は、前記の光学ガラスI、IIにおける限定理由と同じであり、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。
【0021】
ここでヘイズ値は、光学ガラスの研磨した表面に生じる曇りの程度を定量化したものであり、ヘイズメーターの2つの所定位置の一方に試料をセットしたときと、他方の所定位置にセットしたときの透過率の差を上記透過率の一方で割った値を百分率で示したものである。具体的には、20×20×2mmの板状のガラス試料を用意し、その両面を光学研磨する。光学研磨が良好になされているかどうかは、研磨面に砂目が観察されないことにより容易に確認することができる。研磨された試料を洗浄した後、クリーンブース(クラス1000)内で、温度65℃、相対湿度0%に設定した環境試験機(エスペック(株)
製クリーン恒温恒湿器「PCR−3SP」)内に一時間保持した後、温度65℃、相対湿度95%(超純水を使用)で2週間保持した。このようにして準備されたガラス試料のヘイズ値をヘイズメーター(「AUTOMATIC HAZE MATER MODEL TC-H III DPK」東京電色社製)を用いて測定する。
【0022】
なお、上記寸法のガラス試料がとれない場合は、同様の組成を有するガラスを溶融して上記寸法の板状に加工したものを用いてヘイズ値の測定を行えばよい。
【0023】
この光学ガラスIIIにおいて、B23はガラスの網目構造を構成する成分であって、ガラスに低分散性を与え、軟化温度を低下させる成分である。SiO2はB23と同様ガラスの網目構造を構成する主成分であり、ガラスの耐久性を向上させるための成分でもある。Li2Oはガラスの低温軟化性を改善するために導入された成分である。CaOはB23及びSiO2と共存することによりガラスの低軟化性や所望の光学恒数を付与するための成分である。ZnOはガラスの低温軟化性や高耐候性を維持するために重要な成分である。La23はガラスの耐久性及び耐候性を向上させるためにも、光学恒数を調整するためにも導入する。上記成分の加え、Gd23、Y23、Al23、ZrO2、BaOを導入することもできる。光学ガラスIIIにおいて、好ましいものは、B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnO、La23、Gd23、Y23、Al23、ZrO2からなるガラス、B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnO、La23、Gd23、Y23、Al23、ZrO2、BaOからなるガラス、前記2つのガラスに脱泡剤を加えたガラスの各ガラスである。
【0024】
次に、本発明の光学ガラスIVは、モル%表示で、B23 22〜40%、SiO2 12〜40%、Li2O 2〜20%、CaO 5〜15%、ZnO 2〜14%、La23 0.5〜4%、Gd23 0〜3%、Y23 0〜3%(ただし、La23とGd23とY23との合計1%以上)、Al23 0〜5%、ZrO2 0〜3%およびBaO 0〜5%を含み、上記成分の合計量が96%より多く、かつ屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65のガラスである。
【0025】
光学ガラスIVにおいて、上記各成分の組成範囲を定めた理由は次のとおりである。なお、以下、含有量はモル%により表示するものとする。
【0026】
23はガラスの網目構造を構成する成分であって、ガラスに低分散性を与え、軟化温度を低下させるために必要な成分である。その含有量が22%未満では、ガラスの転移温度(Tg)が高くなるとともに、所望の光学恒数を付与する上から好ましくない。40%を超えると、ガラスの耐久性や耐酸性が悪化してしまうおそれが生じる。したがって、その導入量は22〜40%の範囲に限定される。好ましくは24〜38%の範囲である。
【0027】
SiO2はB23と同様ガラスの網目構造を構成する主成分であり、ガラスの耐久性を向上させるための成分でもある。その含有量が12%未満では耐久性が急激に悪くなる傾向があり、一方、40%を超えて導入すると、低温軟化性を付与する上から、また所望の光学恒数を付与する上から好ましくない。したがって、その導入量は12〜40%の範囲に限定される。好ましくは15〜35%の範囲である。
【0028】
Li2Oはガラスの低温軟化性を改善するために導入された成分である。その含有量が2%未満では、軟化温度が高くなり、プレスに困難をもたらす一方、20%を超えて導入すると、ガラスの液相温度が急激に高くなり、耐候性も悪化するため、その導入量は2〜20%の範囲に限定される。好ましくは5〜18%の範囲である。
【0029】
CaOは本発明において特定範囲のB23及びSiO2と共存することにより、ガラス
の低軟化性や目標の光学恒数を維持することができる。しかし、その含有量が5%未満ではガラスの転移温度が高くなり、光学恒数も目標の範囲から外れてしまうのに対し、15%を超えて導入すると、逆に耐久性及び耐候性が悪化してしまうおそれがある。したがって、その導入量は5〜15%の範囲に限定される。好ましくは6〜12%の範囲である。
【0030】
ZnOはガラスの低温軟化性や高耐候性を維持するために非常に重要な成分である。特に、BaOの代わりに多くのZnOを導入すると、耐候性が大幅に改善される。本発明の光学恒数を有する従来のガラスにはZnOはBaO、CaOと同様光学恒数の調整に用いられているが、本発明の組成系においてZnOは他の2価成分と比べ、ガラスの耐候性を大幅に高める上、低温軟化性の改善や光学恒数の調整の点で最も優れている成分である。その導入量が2%未満では目標の耐候性と低温軟化性を維持することができなくなる一方、14%より多く導入すると、ガラスの安定性が悪化し、液相温度も急上昇するため、熱間プリフォームの成形に支障が出るおそれがある。したがって、その導入量は2〜14%の範囲に限定される。好ましくは3〜12%の範囲である。
【0031】
La23はガラスの耐久性及び耐候性を向上させるためにも、光学恒数を調整するためにも必要な成分である。しかし、その含有量が4%を超えると、ガラスの屈折率が所望の範囲より高くなり、アッベ数も低くなるおそれがあるため、4%以下とする。また、0.5%未満では耐候性を向上させる効果が薄れるので、その導入量は0.5〜4%の範囲に限定される。好ましくは1〜3%の範囲である。
【0032】
以上は、光学ガラスIVの必須成分である。
Gd23、Y23は何れもガラスの耐候性の向上や光学恒数の調整に使われる成分であるが、それぞれの導入量が3%より多くなると、光学恒数が所望の範囲より外れやすくなり、低温軟化性も悪化するので、それぞれの導入量を0〜3%とする。ただし、ガラスの高耐候性を維持するため、La23、Gd23、Y23の合計量を1%以上にする。
【0033】
Al23はガラスの耐久性及び耐候性を向上させるために導入される成分であるが、その導入量が5%を超えると、ガラス転移温度(Tg)が急上昇し、光学恒数も所望の範囲から外れるおそれがあるため、0〜5%とする。好ましくは0〜4%である。
【0034】
ZrO2はガラスの耐候性の向上や光学恒数の調整に使われる成分であるが、導入量が3%より多くなると、光学恒数が所望の範囲より外れやすくなり、低温軟化性も悪化するので、導入量を0〜3%とする。
【0035】
BaOはガラスの光学恒数を調整するために導入される成分であるが、ガラスの耐候性を悪化させるため、可能な限りその導入量を少なく抑えたほうがよい。特に5%より多く導入する場合、ガラスの耐候性がかなり悪化するので、0〜5%とする。好ましくは0〜4%である。
【0036】
この光学ガラスIVにおける好ましい組成範囲は、B23 24〜38%、SiO2 15〜35%、Li2O 5〜18%、CaO 6〜12%、ZnO 3〜12%、La23 1〜3%、Gd23 0〜3%、Y23 0〜3%、Al23 0〜4%、ZrO2 0〜3%およびBaO 0〜4%である。
【0037】
なお、本発明の光学ガラスIVにおいては、上記成分のほか、通常使用されるSb23などの脱泡剤や、ガラスの特性を悪化させない範囲での少量のF、P25、Na2O、K2O、SrOなどの成分を添加することも可能であるが、所望の光学恒数、低温軟化性、耐候性を付与する上からB23、SiO2、Li2O、CaO、ZnO、La23、Gd23、Y23、Al23、ZrO2、BaOの合計含有量を96%より多くする。好ましくは上
記合計含有量を98%以上、より好ましくは99%以上とする。なお、脱泡剤を別にすれば、上記合計含有量を100%にすることがさらに好ましい。中でも、B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnO、La23、Gd23、Y23、Al23、ZrO2からなるガラス、B23、SiO2、Li2O、CaO、ZnO、La23、Gd23、Y23、Al23、ZrO2、BaOからなるガラス、前記2つのガラスに脱泡剤を加えたガラスが好ましい。
【0038】
また、この光学ガラスIVにおいてもガラス転移温度(Tg)を低温軟化性の指標とすることができ、ガラス転移温度を560℃以下とすることが好ましく、550℃以下とするのがより好ましく、540℃以下とするのがさらに好ましい。
【0039】
さらに、ヘイズ値についても3%以下とするのが好ましく、2%以下とするのがより好ましく、1%以下とするのがさらに好ましい。
【0040】
なお、光学ガラスI〜IVのいずれにおいても、鉛、トリウム、カドミウム、テルルなどの有害物質をガラス原料から排除することが望ましい。また、ヒ素化合物も環境影響の上から使用しないことが望ましい。
〈プレス成形用プリフォームとその製造方法〉
プレス成形用プリフォーム(以下、プリフォームという。)は、加熱、軟化することによりプレス成形に供されるガラス素材であり、予めプレス成形に好適な形状に成形されたガラス成形予備体である。一般にプレス成形前後でガラスの容量は変化しないので、所望の容量のプレス成形品を作製するには、プリフォームの容量もプレス成形品の容量に合わせる。通常、ガラスの容量は重量によって管理される。
【0041】
レンズなどのように回転対称性を有する光学素子をプレス成形するには、プリフォームの形状も同様の対称性をもたせることが望ましく、球状、マーブル状などが好ましい形状として例示できる。
【0042】
特に、精密プレス成形用のプリフォームは、プレス成形のみで光学機能面を形成したり、形状精度を極めて高いものにするから、プリフォームの重量管理を厳密に行う必要がある。また、プリフォームの形状もプリフォームとプレス成形型の成形面の間にガスがトラップされないよう、成形面の曲率などを配慮し、プレス成形品の寸法を考慮して決めることが望ましい。
【0043】
本発明のプリフォームは、前述の光学ガラスI〜IVのいずれかのガラスからなるものである。プリフォームは、すぐにプレス成形に供される場合と、在庫として保管しておき、必要に応じてプレス成形に供する場合があるが、本発明のプリフォームによれば、光学ガラスI〜IVが備える優れた耐候性によって長期にわたり保管しても、また、通常の気候条件下で保管しても表面が劣化し、曇りを生じることがない。
【0044】
したがって、このようなプリフォームを使用することにより優れた表面を有する光学素子をプレス成形によって作製することができる。特に精密プレス成形により光学素子を製造する場合、プリフォームの表面は光学素子の表面層に残存し、研磨などの機械加工によって除去されない。したがって、プリフォーム表面の曇りは光学素子の表面、特に光学機能面の曇りなどの欠陥となってしまう。上記プリフォームによれば、優れた耐候性のガラス材料を使用しているので、良好な表面を有するプレス成形品を製造することができる。
【0045】
次に本発明のプリフォームの製造方法について説明する。まず、光学ガラスI〜IVのいずれかのガラスが得られる溶融ガラスを、通常使用されるような酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物などのガラス原料を用いて溶解、清澄、攪拌することにより
用意する。そして、この溶融ガラスを温度制御された白金製などのノズルから一定の流下速度で流下させて型に受け、プリフォームに成形する。ここで一定重量の溶融ガラス塊を溶融ガラス流から分離する方法としては、ノズルから溶融ガラス滴として滴下させる方法、ノズルより流下する溶融ガラス流の先端部を支持部材で受けて溶融ガラス流にくびれを形成し、所望の重量の溶融ガラス塊が分離できるタイミングで上記支持部材を急降下(溶融ガラス流の流下速度よりも大きな速度で降下)させ、支持を失った溶融ガラス流先端部を上記くびれから分離する方法などを例示できる。
【0046】
型で受けた溶融ガラス塊は、ガスを吹き付けて風圧により浮上させたり、回転させたりしてプリフォームに成形することができる。ガラスの温度がガラス転移温度付近にまで低下してから、プリフォームを型から取り出す。なお、取り出したプリフォームは急激な温度変化によって破損しないようアニールしてもよい。
【0047】
これらの方法では、耐候性に優れた光学ガラスI〜IVを使用するので、良好な表面を有するプリフォームを得ることができる。この方法は、精密プレス成形用プリフォームの製造に好適である。
【0048】
このプリフォームは耐候性に優れたガラスからなるので、洗浄などによる表面の曇りを効果的に抑えることができる。プリフォームの表面には必要に応じて公知の方法により薄膜を形成してもよい。
〈光学素子およびその製造方法〉
本発明の光学素子は、前述の光学ガラスI〜IVのいずれかの光学ガラスからなるものである。したがって、耐候性に優れた光学素子を提供することができる。上記光学素子は、プレス成形によって得られるもの、さらに研削、研磨加工して得られるもの、精密プレス成形によって得られるもの、溶融ガラスを鋳込んで成形されたガラス成形体をアニールして除歪した後、切断、切削、研削、研磨などの機械加工して得られるものを含んでいる。光学素子としては球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ、マイクロレンズアレイ、ピックアップレンズ、シリンドリカルレンズなどの各種光学レンズ、回折格子、プリズムなどを例示できる。これら光学素子には必要に応じて反射防止膜、部分反射膜、高反射膜などの光学多層膜を形成することもできる。このような多層膜を形成する際、光学素子を構成するガラスの耐候性が優れているので、表面が清浄に保たれ、良好な成膜が可能となる。また、長期にわたり使用してもこれらの膜は剥がれるといった不具合が生じることもない。
【0049】
次に光学素子の製造方法について説明する。まず、上記プリフォームを非酸化性雰囲気、例えば窒素雰囲気や窒素と水素の混合ガス雰囲気において加熱、軟化して、成形面が精密に加工された成形型を用いて精密プレス成形し、得られた成形品をアニールしてレンズなどの光学素子を作製する。なお、プレス成形されたガラス成形品に研削、研磨を施してレンズなどの光学素子に仕上げてもよい。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜28
それぞれのガラス成分に対応する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物など、例えば、SiO2、Al23、Al(OH)3、CaCO3、ZnO、La23、Gd23、Y23、ZrO2、Li2CO3などを適宜用いて、表1、表2に示した組成のガラスが得られるように、250〜300g秤量し、十分に混合して調合バッチと成し、これを白金るつぼに入れ、1200〜1250℃で攪拌しながら空気中で2〜4時間、ガラスの溶解を行った。溶解後、ガラス融液を40×70×15mmのカーボンの金型に流し、ガ
ラスの転移温度(Tg)まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラスの転移温度付近で約1時間アニールして炉内で室温まで放冷した。このようにして得られた実施例1〜28のガラスは顕微鏡で観察できる結晶が析出しなかった。なお、各実施例において脱泡剤として通常使用される程度のSb23を外割添加してもよい。
【0051】
次に実施例1〜28の光学ガラスについて、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、転移温度(Tg)、ガラスの耐候性を以下のようにして測定すると共に、密度を測定した。これらの結果を表3に示す。
(1)屈折率(nd)及びアッベ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)耐候性評価
試料(20×20×2mm)を砂目が見えない程度まで光学研磨した。洗浄後、クリーンブース(クラス1000)内で、温度65℃、相対湿度0%に設定した環境試験機(エスペック(株)製クリーン恒温恒湿器「PCR−3SP」)内に一時間保持した後、温度65℃、相対湿度95%(超純水を使用)で2週間保持した。これをヘイズメーター(「AUTOMATIC HAZE MATER MODEL TC-H III DPK」東京電色社製)を用いてヘイズ値を測定した。
【0052】
このように、屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65、ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、ヘイズ値が3%以下の耐候性を有する光学ガラスを作製することができた。また、密度は2.9〜3.4の範囲であった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

実施例29
実施例1〜28の各ガラスが得られる溶融ガラスを多量に溶解し、清澄、攪拌した後、白金製の温度制御されたノズルから一定の速度で流下させ、ノズルの先端から常に一定の重量の溶融ガラス滴を受け型に滴下させて、上記重量の球形状のプリフォームを浮上、回転させながら成形した。
【0056】
さらに、支持部材でノズルから流下する溶融ガラス流の先端部を受け、所定重量の溶融ガラス塊が得られるタイミングで支持部材を急降下させて溶融ガラス塊を受け型上に受け、この溶融ガラス塊にガスを吹き付けて浮上、回転させながらプリフォームを成形した。
【0057】
このようにして重量制御された実施例1〜28の各ガラスからなる直径2〜30mmのプリフォームを作製した。
実施例30
実施例29で得られたプリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形により非球面レンズを得た。
【0058】
図1において、非球面形状の成形面を有する下型2及び上型1の間に実施例29の各種プリフォーム4を静置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して
石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度をガラスの転移温度+20〜60℃となる温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押してプレス成形型内のプリフォーム4をプレス成形した。成形圧力を8MPa、成形時間を30秒とし、プレスの後に成形圧力を低下させ、精密プレス成形された非球面レンズを下型2及び上型1と接触させたままの状態でガラスの転移温度−30℃の温度までに徐冷し、次いで室温まで急冷して非球面レンズをプレス成形型から取り出した。なお、図1において、符号3は案内型、9は支持棒、10は支持台、14は熱伝対である。
【0059】
このようにして得られた各種非球面レンズは、きわめて精度の高いレンズであった。
【0060】
本実施例では非球面レンズを例に説明したが、その他の光学素子についても同様にして作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1で使用した精密プレス成形装置の1例の概略断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 上型
2 下型
3 案内型(胴型)
4 プリフォーム
9 支持棒
10 支持台
11 石英管
12 ヒーター
13 押し棒
14 熱伝対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%表示で、B23 22〜40%、SiO2 12〜40%、Li2O 2〜20%、CaO 5〜15%、ZnO 2〜14%、La23 0.5〜4%、Gd23 0〜3%、Y23 0〜3%(ただし、La23とGd23とY23との合計1%以上)、Al23 0〜5%およびZrO2 0〜3%を含み、上記成分の合計量が96%より多く、BaOを含まず、かつ屈折率(nd)が1.57〜1.67、アッベ数(νd)が55〜65であることを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
ガラス転移温度(Tg)が560℃以下であり、かつヘイズ値が3%以下の耐候性を有する請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
ヘイズ値が3%以下の耐候性を有し、精密プレス成形用である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用プリフォーム。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
溶融ガラス流から所定重量の溶融ガラス塊を分離し、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるガラスプリフォームを成形することを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のプレス成形用プリフォームまたは請求項6に記載の方法で得られたプレス成形用プリフォームを加熱、軟化し、プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−182381(P2007−182381A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40466(P2007−40466)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【分割の表示】特願2002−194178(P2002−194178)の分割
【原出願日】平成14年7月3日(2002.7.3)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】