説明

光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、光学素子およびそれらの製造方法

【課題】屈折率が1.70以上、アッベ数が50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラスの提供。
【解決手段】屈折率が1.70以上、アッベ数が50以上であって、モル%表示にてB23を20〜80%、SiO2を0〜30%、Li2Oを1〜25%、ZnOを0〜20%、La23を4〜30%、Gd23を1〜25%、Y23を0〜20%、ZrO2を0〜5%、MgOを0〜25%、CaOを0〜15%、SrOを0〜10%含むとともに、前記成分の合計量が97%以上、モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下、かつモル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下であり、任意成分としてTa25を含むことができ、かつモル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]が0.4以下である光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上の光学恒数を有する光学ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム、および前記ガラスからなる光学素子とそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラおよびカメラ付携帯電話の登場により、光学系を使用する機器の高集積化、高機能化が急速に進められている。それに伴い、光学系に対する高精度化、軽量・小型化の要求もますます強まっている。
【0003】
近年、上記要求を実現するために、非球面レンズを使用した光学設計が主流となりつつある。このため、高機能性ガラスを使用した非球面レンズを低コストで大量に安定供給するために、研削・研磨工程を経ずにプレス成形で直接に光学機能面を形成する精密プレス成形技術(モールド成形技術とも言う)が注目され、精密プレス成形に好適な低温軟化性を有する光学ガラスに対する要求が年々増加している。このような光学ガラスの中に、高屈折率低分散のガラスがある。このようなガラスの一例が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−249337
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記精密プレス成形技術のメリットを活かすには、プレス成形に供するプリフォームと呼ばれるガラス素材を熔融ガラスから直接作製することが望ましい。この方法はプリフォームの熱間成形法と呼ばれ、熔融ガラスを流出してプリフォーム1個分に相当する量の熔融ガラス塊を次々と分離し、得られた熔融ガラス塊が冷却する過程で滑らかな表面を有するプリフォームに成形するものである。したがって、この方法は、熔融ガラスから大きめのガラスブロックを成形し、このブロックを切断、研削、研磨する方法と比べてガラスの利用率が高く、加工時に生じるガラス屑が出ず、加工の手間とコストもかからないという優れた特徴を有する。
【0006】
その反面、熱間成形法では、プリフォーム1個分に相当する量の熔融ガラス塊を正確に分離し、失透、脈理などの欠陥ができないようにプリフォームに成形しなければならない。したがって、熱間成形には高温域において優れたガラス安定性を備えたガラスが必要となる。
【0007】
ところで、アッベ数νdを所定値以上に維持しつつ、屈折率ndを高めると、ガラスが結晶化しやすい傾向が強くなり、遂にはガラス化困難になってしまう。精密プレス成形用のガラスではさらに低温軟化性を付与するため、ガラス安定性の低下が助長される傾向が生じる。したがって、アッベ数νdを50以上、好ましくは52以上に保ちつつ、屈折率ndを1.70以上に高め、更に精密プレス成形に適した低温軟化性を付与しつつ、プリフォームの熱間成形が可能なレベルのガラス安定性を実現することは困難であった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、および前記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] 屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 20〜80%、
SiO2 0〜30%、
Li2O 1〜25%、
ZnO 0〜20%、
La23 4〜30%、
Gd23 1〜25%、
23 0〜20%、
ZrO2 0〜5%、
MgO 0〜25%、
CaO 0〜15%、
SrO 0〜10%、
を含むとともに、前記成分の合計量が97%以上であり、
モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下、かつモル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下であり、
任意成分としてTa25を含むことができ、かつモル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]が0.4以下である光学ガラス。
[2] Li2OおよびZnOの合計量が2〜30%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が6以下である、[1]に記載の光学ガラス。
[3] 屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす[1]または[2]に記載の光学ガラス。
d≧2.235−0.01×νd・・・(1)
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
[5] [1]〜[3]のいずれかに記載の光学ガラスからなる光学素子。
[6] 流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
[1]〜[3]のいずれかに記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
[7] [4]に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは[6]に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形する光学素子の製造方法。
[8] 精密プレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入して、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱して精密プレス成形する[7]に記載の光学素子の製造方法。
[9] 精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形する[7]に記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、低温軟化性を有するとともに優れたガラス安定性を示す光学ガラスを提供することができる。更に、本発明によれば、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、および前記ガラスからなる光学素子とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】精密プレス装置の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
[光学ガラス]
本発明の光学ガラスは、屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 20〜80%、
SiO2 0〜30%、
Li2O 1〜25%、
ZnO 0〜20%、
La23 4〜30%、
Gd23 1〜25%、
23 0〜20%、
ZrO2 0〜5%、
MgO 0〜25%、
CaO 0〜15%、
SrO 0〜10%、
を含むとともに、前記成分の合計量が97%以上であり、
モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下、かつモル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下であり、
任意成分としてTa25を含むことができ、かつモル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]が0.4以下である。
【0013】
以下、特記しない限り、各含有量とその合計量はモル%とし、含有量同士の比や合計量同士の比、含有量と合計量の比はモル比にて表示するものとする。
【0014】
また、本発明において、モル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]とは、La23、Gd23およびY23の合計含有量に対するCaOとSrOとBaOの合計含有量の割合、モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]とは、La23、Gd23およびY23の合計含有量に対するZnOの含有量の割合、モル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]とはLa23、Gd23およびY23の合計含有量に対するZrO2とTa25の合計含有量の割合を意味する。
【0015】
23はガラスネットワーク形成成分であり、低分散特性を付与するとともに、ガラス転移温度を低下させる働きのある必須成分である。その含有量が20%未満ではガラスの安定性が低下し、液相温度が上昇してプリフォームの成形が困難になる。一方、過剰の導入により屈折率が低下する。よって、本発明の光学ガラスにおけるB23の含有量は20〜80%とする。好ましい範囲は25〜75%、より好ましい範囲は25〜72%である。
【0016】
SiO2は適量導入することによりガラスの安定性を向上させるとともに、熔融ガラスからプリフォームを成形する場合、成形に適した粘性を付与する働きをする任意成分である。但し、過剰の導入によって屈折率が低下し、ガラスの熔融性が低下する。よって、その含有量は0〜30%、好ましくは1〜27%、より好ましくは2〜25%とする。
【0017】
Li2Oは他のアルカリ金属酸化物成分に比べ、屈折率を高めるとともに、ガラス転移温度を大幅に低下させる働きをする必須成分であり、ガラスの熔融性を良化する働きもする。過少導入では上記効果を得ることが困難であり、過剰の導入により、ガラスの耐失透性が低下し、流出する熔融ガラスから直接、高品質なプリフォームを成形することが難しくなるとともに、耐候性も低下する。したがって、その含有量は1〜25%、好ましくは2〜20%、より好ましくは3〜18%とする。
【0018】
なお、ガラス転移温度、ガラスの安定性などの観点から、ネットワーク形成成分とLi2Oの配分を最適化することが好ましく、モル比[Li2O/(B23+SiO2)]を0.02〜0.25の範囲にすることが好ましく、0.04〜0.20の範囲にすることがより好ましく、0.06〜0.18の範囲にすることが更に好ましい。
【0019】
ZnOは熔融温度や液相温度およびガラス転移温度を低下させ、ガラスの化学的耐久性、耐候性を向上させるとともに、屈折率を高める働きをする成分である。しかし、過剰に導入するとアッベ数νdを50以上に維持することが困難になるので、その含有量を0〜20%、好ましくは0〜16%、より好ましくは1〜14%とする。
【0020】
本発明の光学ガラスでは、所要の低温軟化性を実現するため、Li2OおよびZnOの合計含有量(Li2O+ZnO)を2%以上とすることが好ましい。但し、前記合計量が過剰になるととガラスの耐失透性が低下し、または分散が大きくなるので、Li2O+ZnOを2〜30%とすることが好ましい。より好ましくは3〜25%、さらに好ましくは4〜23%である。
【0021】
さらに、所要の低温軟化性を付与しつつ、アッベ数νdを50以上に保つため、モル比(ZnO/Li2O)を6以下にすることが好ましい。前記モル比は、好ましくは0〜5、より好ましくは0.2〜4とする。
【0022】
La23は低分散性を維持しつつ屈折率を高めるとともに、化学的耐久性、耐候性を高める働きをする必須成分である。しかし、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇するので、その含有量を4〜30%、好ましくは4〜25%、より好ましくは5〜22%、更に好ましくは6〜20%とする。
【0023】
Gd23もLa23と同様の働きをする必須成分であるが、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇するので、その含有量を1〜25%、好ましくは1〜20%、より好ましくは1〜18%、更に好ましくは2〜18%、いっそう好ましくは3〜16%とする。
【0024】
なお、ガラスの安定性向上の観点から、La23量とGd23量の配分を調整することが好ましく、モル比でLa23/Gd23を0.5〜5.0の範囲にすることが好ましく、0.8〜4.8の範囲にすることがより好ましく、0.8〜4.6の範囲にすることが更に好ましく、0.9〜4.4の範囲にすることがいっそう好ましく、1.0〜4.2の範囲にすることがよりいっそう好ましい。
【0025】
23もLa23、Gd23と同様の働きをする任意成分であり、少量の導入によってガラスの熱安定性を高め、液相温度を低下させるメリットがある。但し、過剰の導入によって、ガラスの安定性が低下し、ガラス転移温度も上昇するので、その含有量を0〜20%、好ましくは0.1〜20%、より好ましくは0.2〜20%、更に好ましくは0.3〜20%、よりいっそう好ましくは0.3〜15%、なおいっそう好ましくは0.3〜10%とする。特にnd≧1.7かつνd≧52の高屈折率・低分散性を得るためには、その含有量は0.5〜20%とすることが好ましく、0.5〜15%とすることがより好ましく、1〜12%とすることが更に好ましい。また、高屈折率・低分散特性を維持しつつ、ガラスの熱安定性を良好にするためには、Y23を必須成分として導入することが好ましい。
【0026】
本発明の光学ガラスは、ガラス成分としてLa23、Gd23およびY23が共存することが好ましい。このように希土類酸化物成分を3種類以上導入することによって、希土類酸化物成分を2種類以下含む場合と比べ、ガラスの安定性をよりいっそう高めることができる。
【0027】
ZrO2はガラスの耐候性の向上や光学恒数の調整のために導入される任意成分であり、少量の導入によってガラスの安定性を高める働きをするが、過剰の導入によってガラスの安定性が低下し、分散も大きくなるので、その含有量を0〜5%、好ましくは0〜4.5%、より好ましくは0〜4%とする。特にnd≧1.7かつνd≧52の高屈折率・低分散性を得るためには、その含有量は0〜3%とすることが好ましく、0〜2%とすることがより好ましく、0〜1.5%とすることがいっそう好ましく、0〜0.5%とすることが特に好ましい。
【0028】
MgOはZnOやLi2Oの代わりに導入すると、ガラスを低分散化するとともに化学的耐久性を向上させることもできるが、過剰の導入により屈折率の低下やガラス転移点の上昇が起こるため、その含有量を0〜25%、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%とする。
【0029】
CaOはガラス転移温度を低下させるとともに、光学特性を調整する働きをするが、過剰の導入によりガラスの安定性が低下し、かつ液相温度を高めてしまうため、その含有量を0〜15%、好ましくは0.2〜14%、より好ましくは0.5〜12%とする。
【0030】
SrOは化学的耐久性を高め、光学特性を調整する働きをするが、過剰の導入によりガラスの安定性が低下し、かつ液相温度を高めてしまうため、その含有量を0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%とする。
【0031】
本発明の光学ガラスは、高屈折率・低分散性を高める観点から、モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]を0.8以下とする。前記モル比が0.8を超えると、所望の光学恒数を得ることが困難となる。前記モル比は、0.75以下とすることが好ましく、0.7以下とすることがより好ましく、0.65以下とすることが更に好ましく、0.6以下とすることがよりいっそう好ましい。
【0032】
更に、アルカリ土類成分としてイオン半径の大きい成分よりも小さい成分を導入するほうが、nd≧1.7の高屈折率とガラスの安定性を両立させるという観点から好ましい。そのため、本発明の光学ガラスにおいて、モル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]は0.8以下とする。前記モル比が0.8を超えると、高屈折率とガラス安定性を両立することが困難となる。前記モル比は、0.6以下とすることが好ましく、0.5以下とすることがより好ましく、0.4以下とすることが更に好ましい。
【0033】
本発明の光学ガラスにおいては、前記成分の合計含有量を97%以上とする。本発明の光学ガラスに前記成分以外の成分を多量に導入すると低分散特性が損なわれたり、高屈折率特性が損なわれたり、ガラスの安定性が損なわれるなどの不都合が生じる。そのため、前記成分の合計量を高めることが望ましい。前記合計含有量は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、更に好ましくは100%である。
【0034】
その他の成分としては、Ta25、F、Al23、Yb23、Sc23、Lu23などがある。
Ta25は屈折率を高める働きをするが、分散を大きくする働きをするため、その導入量を控えるべきである。本発明の光学ガラスでは、高屈折率付与成分であるLa23、Gd23、Y23、ZrO2、Ta25を、低分散特性を維持するグループ(La23、Gd23、Y23)と分散を高めるグループ(ZrO2、Ta25)に分け、それぞれのグループの合計量の比を最適化することにより任意成分であるTa25の導入量を制限する。すなわち、本発明の光学ガラスにおいて、モル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]は0.4以下とする。前記モル比が0.4を超えると、低分散特性を維持することが困難となる。前記モル比は、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.27以下、更に好ましくは0.255以下、いっそう好ましくは0.225以下、よりいっそう好ましくは0.2以下、なおいっそう好ましくは0.18以下、更にいっそう好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.05以下、最も好ましくは0である。
【0035】
Ta25の含有量は、上記理由から0〜3%の範囲に抑えることが好ましく、0〜2%がより好ましく、0〜1%が更に好ましく、0〜0.5%がいっそう好ましく、0〜0.2%がよりいっそう好ましく、0〜0.1%がなおいっそう好ましく、導入しないことが特に好ましい。
【0036】
また、高屈折率・低分散特性を維持しつつ、ガラスの熱安定性を良好にするためには、前述のように、Y23を必須成分として導入するか、または、[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]を低く抑えるか、Ta25の含有量を少なくするか、もしくはTa25を導入しないことが好ましい。
【0037】
Fは、B23−La23系の組成において、光学特性面においてガラス化可能な範囲を拡大するとともに、ガラス転移温度を低下させる働きをする。しかし、B23と共存することにより、高温で著しい揮発性を示し、ガラス熔融、成形時に揮発するため、屈折率が一定のガラスを量産することを難しくする。また、精密プレス成形時にガラスからの揮発物がプレス成形型に付着し、このような型を繰り返し使用することによりレンズの面精度が低下してしまうという問題も生じる。したがって、Fの含有量は10%以下に抑えることが好ましく、5%以下に抑えることがより好ましい。熔融ガラスからプリフォームを直接成形する方法では揮発による脈理が発生して光学的に均質なプリフォームを得ることが困難になるため、F含有量を3%以下に抑えることが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0038】
Al23は化学的耐久性を向上させる働きがあるが、過剰の導入により屈折率が低下し、ガラス転移温度も上昇する。したがって、その含有量は0〜10%とすることが好ましく、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜5%とする。
【0039】
Sc23はLa23、Gd23、Y23と同様の働きをし、少量の導入によってガラスの熱安定性を高め、液相温度を低下させるメリットがあるが、過剰の導入によっては、上記メリットが失われ、ガラスの安定性が低下し、また屈折率も低下する。なお、Sc23は高価な成分であり、産業上の用途によってはコスト削減の観点から使用しないほうが望ましい。以上の点から、その含有量は0〜20%とすることが好ましく、より好ましくは0〜18%、更に好ましくは0〜13%、より一層好ましくは0.1〜10%、特に好ましくは0.1〜5%とする。
【0040】
Yb23、Lu23もそれぞれ導入することができるが、ガラスの熱安定性の低下と液相温度の上昇が著しいため、Yb23については、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは0〜0.5%の範囲に抑えるべきである。また、Lu23についても、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、さらに好ましくは0〜0.5%の範囲に抑えるべきである。Yb23、Lu23はそれぞれ高価な成分であり、本発明の光学ガラスはこれら成分を必ずしも要するものではないから、コスト低減の上からYb23、Lu23ともに導入しないことがより好ましい。
【0041】
GeO2についても、例えば0〜10%の範囲で導入することもできるが、高価な成分であることから、その導入量を5%以下に抑えることが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0042】
BaOは少量の導入によりガラスの安定性が著しく低下するので、その含有量を2%以下に制限することが好ましく、導入しないことがより好ましい。
【0043】
Nb25、TiO2も分散を大きくする働きが強く、少量の導入によってもアッベ数νdが大きく上昇するため、アッベ数νd50以上を維持するためには、Nb25の量を2%以下とすることが好ましく、1%以下とすることがより好ましく、導入しないことが最も好ましい。また、アッベ数νd50以上を維持するためには、TiO2については、その量は2%以下とすることが好ましく、1%以下とすることが好ましく、導入しないことが最も好ましい。
【0044】
WO3、Bi23も、Nb25、TiO2と同様の挙動を示すので、それぞれの量を好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下とする。さらに好ましくは導入しない。
【0045】
Nb25、TiO2、WO3、そしてBi23は分散を大きくするだけでなく、ガラスの着色を増大させる。本発明の光学ガラスは、光学ガラス一般として見ても優れた光線透過性を有するため、このような特質を活かす上からも、Nb25、TiO2、WO3、Bi23を導入しないことが好ましい。
【0046】
環境へ悪影響を及ぼさないという点に配慮すると、Pb、Cr、Cd、As、Th、Te、Uの導入も避けるべきである。Pbは従来、屈折率を高めるために光学ガラスの主要成分として使用されてきたが、上記問題に加え、非酸化性ガス雰囲気中での精密プレス成形によって容易に還元され、析出した金属鉛がプレス成形型の成形面に付着し、プレス成形品の面精度を低下させるなどの問題を引き起こす。As23も従来、清澄剤として添加されてきたが、上記問題に加え、プレス成形型の成形面を酸化して型の寿命を短くするという問題も引き起こすので、導入するべきでない。
【0047】
ガラスを着色する物質、例えば、Fe、Cu、Coなども、ガラスに所要の分光特性を付与する目的以外は導入しないことが望ましい。
【0048】
Sb23は清澄剤として用いられる任意添加剤であり、また少量の添加によってFe等の不純物の還元による吸収を小さくし、ガラスの着色を抑制することもできる。しかし、過剰に添加すると上記の効果が失われると同時に、精密プレス成形時にプレス成形型の成形面を酸化してプレス成形型の寿命に悪影響を及ぼしたりするなど、精密プレス成形の面から好ましくない。したがって、その添加量を外割で0〜0.5質量%とすることが好ましく、0〜0.2質量%とすることがより好ましい。
【0049】
本発明の光学ガラスは屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上のガラスである。この範囲の光学恒数を有するガラスについては、光学素子の材料としてはより高い屈折率、より低い分散(より大きなアッベ数)が望まれている。一方で、ガラス転移温度を低くしつつ、屈折率を高めたり、分散を低くしたりすると、ガラスの安定性低下が著しくなるので、従来、この領域で一層の高屈折率化、低分散化を図ることは困難であった。それに対し、本発明の光学ガラスは精密プレス成形用のガラスとしての最適化が図られているので、下記式(1)を満たす屈折率ndとアッベ数νdを実現することができる。
d≧2.235−0.01×νd・・・(1)
上記式(1)を満たす光学ガラスは、光学素子材料としてより一層高い価値を有するものである。
【0050】
なお、精密プレス成形用プリフォームを熔融ガラス塊から直接成形するような場合には、ガラスの安定性を良好な状態に維持する上から、過度な高屈折率化、低分散化は好ましくなく、下記式(2)を満たす範囲に光学特性を設定することが好ましく、下記式(3)を満たす範囲に光学特性を設定することがより好ましい。但し、これらの場合でも、式(1)を満たす範囲に光学特性を設定することが更に好ましい。
d≦2.285−0.01×νd・・・(2)
d≦2.275−0.01×νd・・・(3)
【0051】
本発明の光学ガラスはアッベ数νdが50以上の低分散ガラスである。ガラスの低分散性という観点からは、アッベ数νdは51以上であることが好ましく、52以上であることがより好ましく、52.5以上であることが更に好ましく、53以上であることがいっそう好ましく、54以上であることが特に好ましい。
【0052】
更に、本発明の光学ガラスによれば、精密プレス成形に適した低ガラス転移温度を実現することができる。ガラス転移温度の好ましい範囲は635℃以下、より好ましくは620℃以下である。一方、ガラス転移温度を過剰に低下させるとより一層の高屈折率化、低分散化が困難になり、かつ/またはガラスの安定性や化学的耐久性が低下する傾向を示すため、ガラス転移温度を535℃以上、好ましくは555℃以上、より好ましくは565℃以上にすることが望ましい。
【0053】
本発明の光学ガラスは、優れたガラス安定性を有する。例えば、熔融ガラスからガラスを成形するような場合に求められる高温域での安定性の目安として、液相温度が1090℃以下のガラスを実現することができる。このように本発明の光学ガラスは、高屈折率低分散ガラスでありながら液相温度を所定温度以下に維持することができるので、熔融ガラスから直接、精密プレス成形用プリフォームを成形することができる。好ましい液相温度の範囲は1060℃以下、より好ましくは1050℃以下、更に好ましくは1040℃以下である。
【0054】
前述のように、本発明の光学ガラスは優れた光線透過性を示すことができる。定量的にはλ80(nm)が例えば410nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは390nm以下、更に好ましくは380nm以下、いっそう好ましくは370nm以下、よりいっそう好ましくは360nm以下、特に好ましくは350nm以下という低着色度を実現することができる。前記λ80(nm)は以下のようにして求める。厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料を用い、前記平面の一方に強度Iinの光を垂直に入射し、他方の平面から出射する光の強度Ioutを測定して、外部透過率(Iout/Iin)を算出する。波長280nmから700nmの範囲で外部透過率を求め、外部透過率が80%となる波長をλ80(nm)とする。本発明の光学ガラスのように着色剤を添加しない一般の光学ガラスでは、紫外域から可視域にかけての吸収端より長波長側においては、ほとんど吸収が認められないため、λ80(nm)から1550nmまでの波長領域では、厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料において、80%を超える内部透過率が得られ、λ80+20(nm)から1550nmまでの長波長領域では、厚さ10.0±0.1mmで光学研磨された互いに平行な平面をもつガラス試料において、90%を超える高い内部透過率が得られる。また、後述する表1に示すλ70(nm)、λ5(nm)は外部透過率がそれぞれ70%、5%となる波長であり、算出法はλ80に準じる。
【0055】
本発明の光学ガラスは、撮像光学系を構成するレンズなどの材料として好適なのは勿論、DVD、CDなどの光ディスクへの記録再生に使用する光学系を構成するレンズなどにも好適である。一例を挙げると、優れた光線透過性を活かし、青紫光(例えば、波長405nmの半導体レーザ光)を用いてデータの記録再生を行うための光学素子として好適である。より具体的には、例えば、23GBの高記録密度のDVD用の対物レンズに好適である。この対物レンズは開口数0.85の非球面レンズが主流である。このようなレンズは有効径に対する中心肉厚の比が大きいが、本発明の光学ガラスは、低分散性を備えつつ屈折率が高いので前記比を減少させることができる。これにより、青紫光を透過するレンズの肉厚を薄くすることができるので、ガラスの優れた光線透過性と相俟って青紫光のロスを少なくすることができる。また、中心肉厚/有効径の比を減少させることは、精密プレス成形を行う上からも好ましい。すなわち、精密プレス成形用プリフォームの体積はレンズの体積によって決められる。上記対物レンズは小さいので、成形に使用するプリフォームは球状または回転楕円体状のものが適している。球状プリフォームを使用する場合、レンズ凸面の曲率が大きい(曲率半径が小さい)と、プレス成形型とガラスの間に雰囲気ガスが閉じ込められ、その部分にガラスが行き渡らないガストラップと呼ばれるトラブルが生じやすい。中心肉厚/有効径の比を減少させることはレンズ凸面の曲率を大きくすることにつながるので、精密プレス成形によって面精度の高いレンズを作る上からも好ましい。
【0056】
次に本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。本発明の光学ガラスは、ガラス原料を加熱、熔融することにより製造することができる。ガラス原料としては、炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を適宜用いることが可能である。これらの原料を所定の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを、例えば1200〜1300℃に加熱した熔解炉に投入し、熔解・清澄・攪拌し、均質化することにより、泡や未熔解物を含まず均質な熔融ガラスを得ることができる。この熔融ガラスを成形、徐冷することにより、本発明の光学ガラスを得ることができる。
【0057】
[精密プレス成形用プリフォームおよび精密プレス成形用プリフォームの製造方法]
次に、本発明の精密プレス成形用プリフォームおよびプリフォームの製造方法について説明する。プリフォームは、精密プレス成形品に等しい質量のガラス製成形体である。プリフォームは精密プレス成形品の形状に応じて適当な形状に成形されているが、その形状として、球状、回転楕円体状などを例示することができる。プリフォームは、精密プレス成形可能な粘度になるよう、加熱して精密プレス成形に供される。
【0058】
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、前述の本発明の光学ガラスからなるものである。本発明のプリフォームは、必要に応じて離型膜などの薄膜を表面に備えていてもよい。上記プリフォームは、所望の光学恒数を有する光学素子の精密プレス成形が可能である。更に、ガラスの高温域における安定性が高く、かつ熔融ガラスの流出時の粘度を高めることができるので、パイプ流出した熔融ガラスを分離して得られたガラス塊を冷却過程でプリフォームに成形する方法で、高品質のプリフォームを高い生産性のもとに製造することができるという利点がある。
【0059】
本発明の精密プレス成形用プリフォームの製造方法は、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、本発明の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形するものであり、前記本発明のプリフォームを製造するための方法の1つである。具体例としては、パイプ等から流出する熔融ガラス流から所定重量の熔融ガラス塊を分離して、ガラス塊を冷却する過程で、所定重量のプリフォームを成形することにより製造する方法を示すことができる。この方法は、切断、研削、研磨などの機械加工が不要という利点がある。機械加工が施されたプリフォームでは、機械加工前にアニールを行うことによって破損しない程度にまでガラスの歪を低減しておかなければならない。しかし、上記方法によれば、破損防止用アニールは不要である。また表面が滑らかなプリフォームを成形することもできる。この方法では、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、風圧が加えられた浮上状態でプリフォームを成形することが好ましい。また、表面が自由表面からなるプリフォームが好ましい。さらに、シアマークと呼ばれる切断痕のないものが望ましい。シアマークは、流出する熔融ガラスを切断刃によって切断する時に発生する。シアマークが精密プレス成形品に成形された段階でも残留すると、その部分は欠陥となってしまう。そのため、プリフォームの段階からシアマークを排除しておくことが好ましい。切断刃を用いず、シアマークが生じない熔融ガラスの分離方法としては、流出パイプから熔融ガラスを滴下する方法、または流出パイプから流出する熔融ガラス流の先端部を支持し、所定重量の熔融ガラス塊を分離できるタイミングで上記支持を取り除く方法(降下切断法という。)などがある。降下切断法では、熔融ガラス流の先端部側と流出パイプ側の間に生じたくびれ部でガラスを分離し、所定重量の熔融ガラス塊を得ることができる。続いて、得られた熔融ガラス塊が軟化状態にある間にプレス成形に供するために適した形状に成形する。
【0060】
本発明のプリフォームを製造するための方法としては、熔融ガラスからガラス成形体を作り、この成形体を切断または割断し、研削、研磨して作る方法を用いることもできる。この方法では、熔融ガラスを鋳型に流し込んで前記光学ガラスからなるガラス成形体を成形し、このガラス成形体に機械加工を加えて所望重量のプリフォームを作る。機械加工する前にガラスが破損しないよう、ガラスをアニールすることにより十分除歪処理を行うことが好ましい。
【0061】
[光学素子および光学素子の製造方法]
本発明の光学素子は、前述の本発明の光学ガラスからなるものである。本発明の光学素子は、光学素子を構成する本発明の光学ガラスと同様、高屈折率低分散であるという特徴を有する。
【0062】
本発明の光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。用途面からは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、一眼レフカメラ、携帯電話搭載カメラ、車載カメラなどの撮像光学系を構成するレンズ、DVD、CDなどの光ディスクへのデータ読み書きを行うための光学系を構成するレンズ(例えば、前述の対物レンズ)などを例示することができる。
【0063】
上記光学素子としては、本発明のプリフォームを加熱、軟化し精密プレス成形して得られたものであることが望ましい。
なお、この光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
【0064】
次に光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法は、本発明のプリフォームまたは本発明のプリフォームの製造方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形して光学素子を製造するものである。
【0065】
精密プレス成形法はモールドオプティクス成形法とも呼ばれ、既に当該発明の属する技術分野においてはよく知られたものである。
光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。精密プレス成形法はプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
したがって、本発明の光学素子の製造方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0066】
本発明の光学素子の製造方法によれば、上記光学特性を有する光学素子を作製できるとともに、低温軟化性を有する光学ガラスからなるプリフォームを使用するため、ガラスのプレス成形としては比較的低い温度でプレスが可能になるので、プレス成形型の成形面への負担が軽減され、成形型(成形面に離型膜が設けられている場合には離型膜)の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、プレス工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラス熔融から最終製品を得る一連の工程を高生産性のもとに行うことができる。
【0067】
精密プレス成形法に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、超硬材料、ステンレス鋼などの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができる。離型膜としては炭素含有膜、貴金属合金膜などを使用することができる。プレス成形型は上型および下型を備え、必要に応じて胴型も備える。中でも、プレス成形時のガラス成形品の破損を効果的に低減ないしは防止するためには、炭化珪素からなるプレス成形型および超硬合金製プレス成形型(特にバインダーを含まない超硬合金製、例えばWC製プレス成形型)を使用することがより好ましく、前記型の成形面に炭素含有膜を離型膜として備えるものがさらに好ましい。
【0068】
精密プレス成形法では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガスにすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。特に、炭素含有膜を離型膜として成形面に備えたプレス成形型を使用する場合や、炭化珪素からなるプレス成形型を使用する場合には、上記非酸化性雰囲気中で精密プレス成形するべきである。
【0069】
次に本発明の光学素子の製造方法に特に好適な精密プレス成形法について説明する。
(精密プレス成形法1)
この方法は、プレス成形型にプリフォームを導入し、プレス成形型とプリフォームを一緒に加熱して精密プレス成形するというものである(精密プレス成形法1という)。
精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが106〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0070】
(精密プレス成形法2)
この方法は、精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形することを特徴とするものである(精密プレス成形法2という)。この方法によれば、プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
【0071】
プレス成形型の予熱温度は前記プリフォームの予熱温度よりも低くすることが好ましい。このような予熱によりプレス成形型の加熱温度を低く抑えることができるので、プレス成形型の消耗を低減することができる。
【0072】
精密プレス成形法2において、前記プリフォームを構成するガラスが109dPa・s以下、より好ましくは109dPa・sの粘度を示す温度にプリフォームを予熱することが好ましい。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜109dPa・s、より好ましくは105.5dPa・s以上109dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
また、プレス開始と同時またはプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
なお、プレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温することが好ましく、前記ガラスが109〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
【0073】
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0075】
光学ガラスの製造
表1に例1〜30のガラスの組成を示す。いずれのガラスとも、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を使用し、ガラス化した後に表1に示す組成となるように前記原料を秤量し、十分混合した後、白金坩堝に投入して電気炉で1200〜1300℃の温度範囲で熔融し、攪拌して均質化を図り、清澄してから適当な温度に予熱した金型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを転移温度まで冷却してから直ちにアニール炉に入れ、室温まで徐冷して各光学ガラスを得た。
【0076】
上記方法で得た各光学ガラスについて、以下の方法で、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、比重、ガラス転移温度、液相温度を測定した。結果を表1に示す。併せて、例1〜17の各光学ガラスについて、前記方法にてλ80、λ70およびλ5を測定した結果を表1に示す。
(1)屈折率(nd)およびアッベ数(νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)比重
アルキメデス法を用いて算出した。
(4)液相温度(L.T.)
白金ルツボにガラス試料約50gを入れ、約1200℃〜1300℃にて約15〜60分熔融後、それぞれ980℃、990℃、1000℃、1010℃、1020℃、1030℃、1040℃、1050℃、1060℃、1070℃、1080℃、1090℃、1100℃にて2時間保温したものを冷却して結晶析出の有無を顕微鏡により観察し、結晶の認められない最低温度を液相温度(L.T.)とした。
【0077】
【表1】




【0078】
精密プレス成形用プリフォームの製造
次に例1〜30に相当する清澄、均質化した熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定流量で流出し、滴下または降下切断法にて目的とするプリフォームの質量の熔融ガラス塊を分離し、熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら精密プレス成形用プリフォームを成形した。熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより球状プリフォームと、扁平球状プリフォームを得た。
【0079】
光学素子(非球面レンズ)の製造
上記方法で得られたプリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。具体的にはプリフォームを、プレス成形型を構成する下型2および上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター(図示せず)に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を成形されるガラスが108〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2および上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。なお、図1において、保持部材10が下型2と胴型3を保持し、支持棒9が上型1、下型2、胴型3、保持部材10を支持するとともに、押し棒13によるプレスの圧力を受け止める。下型2の内部には熱電対14が挿入されプレス成形型内部の温度をモニターしている。
上記レンズは撮像光学系を構成するレンズとして好適なものであった。更に、プレス成形型およびプリフォームを適当なものに変えて、開口数0.85のDVD用の対物レンズを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、精密プレス成形に好適な高屈折率低分散光学ガラスを提供することができる。本発明の光学ガラスから、精密プレス成形用プリフォームを製造することができる。更に、本発明によれば、高屈折率低分散ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1:上型
2:下型
3:胴型
4:精密プレス成形用プリフォーム
9:支持棒
10:保持部材
11:石英管
13:押し棒
14:熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率ndが1.70以上、アッベ数νdが50以上であって、
モル%表示にて、
23 20〜80%、
SiO2 0〜30%、
Li2O 1〜25%、
ZnO 0〜20%、
La23 4〜30%、
Gd23 1〜25%、
23 0〜20%、
ZrO2 0〜5%、
MgO 0〜25%、
CaO 0〜15%、
SrO 0〜10%、
を含むとともに、前記成分の合計量が97%以上であり、
モル比[ZnO/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下、かつモル比[(CaO+SrO+BaO)/(La23+Gd23+Y23)]が0.8以下であり、
任意成分としてTa25を含むことができ、かつモル比[(ZrO2+Ta25)/(La23+Gd23+Y23)]が0.4以下である光学ガラス。
【請求項2】
Li2OおよびZnOの合計量が2〜30%であり、かつモル比(ZnO/Li2O)が6以下である、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
屈折率ndとアッベ数νdが下記式(1)を満たす請求項1または2に記載の光学ガラス。
d≧2.235−0.01×νd・・・(1)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊が冷却する過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームを成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の精密プレス成形用プリフォームまたは請求項6に記載の方法により作製した精密プレス成形用プリフォームを加熱して精密プレス成形する光学素子の製造方法。
【請求項8】
精密プレス成形用プリフォームをプレス成形型に導入して、前記プリフォームと成形型を一緒に加熱して精密プレス成形する請求項7に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
精密プレス成形用プリフォームを加熱し、次いで予熱したプレス成形型に導入して精密プレス成形する請求項7に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105599(P2011−105599A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38307(P2011−38307)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【分割の表示】特願2006−89116(P2006−89116)の分割
【原出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】