説明

光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム及びその製造方法、光学素子及びその製造方法

【課題】高屈折率高分散特性を有し、精密プレス成形に好適な光学ガラス、精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、ならびに前記光学ガラスよりなる光学素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 必須成分として、P25、Bi23、Nb25、TiO2を含み、モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%を含み、屈折率(nd)が1.85超であるリン酸塩光学ガラス。モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、TiO2を0%超かつ30%以下、WO3を1〜40%、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%、B23を0〜14%含み、屈折率(nd)が1.85超であるリン酸塩光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率で、低温軟化性を有する光学ガラス、前記ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム及びその製造方法、並びに前記ガラスからなる光学素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、カメラ機能付き携帯電話、DVD記録装置などの普及に伴い、これらの装置に搭載される光学素子の需要が爆発的に高まっている。例えば、デジタルカメラやカメラ機能付き携帯電話などでは、シンプルな構成で高性能な撮像光学系を得るために、非球面レンズが使用されている。また、DVD記録装置では記録メディアにデータを書き込んだり、メディアに記録された情報を読み取ったりするためにピックアップレンズと呼ばれるレンズや、データの読み書きに使用するレーザビームをコリメートするためのレンズが使用されている。
これらのガラス製レンズは研削、研磨加工が難しく、高い生産性が得られず、上記需要に応じることができないという問題がある。そこで、従来の研磨加工とは全く別の方法により上記光学素子の量産が行われている。
【0003】
この方法は、精密プレス成形と呼ばれている方法で(モールドオプティクス成形とも呼ばれる)、予め精密に加工したプレス成形型を用いて、このプレス成形型の成形面を精密に光学ガラスに転写することにより、非球面レンズなどの従来の研削、研磨加工では高い生産性を得ることができなかった光学素子を低コストで量産することを可能にしている。
このように精密プレス成形法は従来の研削、研磨加工による光学素子の製造法とは一線を画するものであるから、自ずと両方法に使用されるガラス材料に要求される性質は異なる。研削、研磨加工用のガラス材料には、研削、研磨しやすい硬さや、研磨時に表面が変質しないといった性質が特に要求されるのに対し、精密プレス成形用のガラス材料には、低温軟化性が求められる。その理由は、精密プレス成形では高価なプレス成形型の寿命を延ばすため、ガラスを比較的低温でプレス成形する必要があり、そのためにはガラスが比較的低温で軟化することが必要であるからである。
【0004】
したがって、従来から知られている光学ガラスの組成系であっても、このガラスを精密プレス成形用に使用するには、上記観点から一から組成の構築を行わなければならないというのが当該技術分野における現状である。
以上が、精密プレス成形に関する背景技術であるが、次に、上記光学素子に使用されるガラスとして特に有用な高屈折率高分散ガラスについて説明する。このようなガラスとしては、従来、特許文献1に記載されているようなPbOを多量に含むガラスが知られていた。しかし、このようなガラスを精密プレス成形に使用すると次のような問題が生じる。
【特許文献1】特開平1−308843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
精密プレス成形はプレス成形型の成形面の酸化による劣化を防止するため、不活性雰囲気あるいは弱還元雰囲気中で行われる。このような雰囲気中でPbOを多量に含むガラスを精密プレス成形するとガラス中のPbが還元されて金属鉛としてガラス表面に析出し、これがプレス成形型の成形面に付着して得られる光学素子の面精度を低下させる。また、成形面に付着した金属鉛を除去するには、生産を停止してメンテナンス作業をしなければならず、高い生産性を得る上での大きな妨げになってしまう。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、高屈折率、高分散特性を備え、精密プレス成形に好適な光学ガラス、前記光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォームとその製造方法、並びに前記光学ガラスからなる光学素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
(請求項1)
必須成分として、P25、Bi23、Nb25、TiO2を含むリン酸塩光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とするリン酸塩光学ガラス。
(請求項2)
モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、TiO2を0%超かつ30%以下、WO3を1〜40%、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%、B23を0〜14%含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とするリン酸塩光学ガラス。
(請求項3)
Bi23含有量に対するNa2O含有量の割合Na2O/Bi23(モル比)が1.5以下であることを特徴とする請求項1または2のリン酸塩光学ガラス。
(請求項4)
22重量%を超えるBi23を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
(請求項5)
Bi23、Nb25、TiO2およびWO3の合計含有量が40モル%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
(請求項6)
Bi23、Nb25、TiO2およびWO3の合計含有量が42モル%超である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
(請求項7)
精密プレス成形に用いるガラスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
(請求項8)
請求項7に記載のリン酸塩光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
(請求項9)
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラスからなる光学素子。
(請求項10)
熔融ガラスを流出し、ガラス製の精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
熔融ガラスを流出して前記プリフォームの重量に相等する重量の熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊が冷却する過程で請求項7に記載のリン酸塩光学ガラスからなるプリフォームに成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
(請求項11)
光学ガラスからなるプリフォームを加熱、精密プレス成形するガラス製の光学素子の製造方法において、
請求項8に記載のプリフォームまたは請求項10に記載の製造方法により作製したプリフォームを使用することを特徴とする光学素子の製造方法。
(請求項12)
プレス成形型に前記プリフォームを導入し、プレス成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形することを特徴とする請求項11に記載の光学素子の製造方法。
(請求項13)
プレス成形型と前記プリフォームを別々に予熱し、予熱したプリフォームをプレス成形型に導入して精密プレス成形することを特徴とする請求項11に記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高屈折率、高分散特性、低温軟化性を兼ね備える光学ガラス、特に精密プレス成形に好適な光学ガラスを提供することができる。
また、上記光学ガラスからなり、安定した精密プレス成形を可能にする精密プレス成形用プリフォーム及びその製造方法を提供することもできる。
さらに、前記プリフォームを加熱し、精密プレス成形することにより高屈折率、高分散特性を有する光学ガラスからなる非球面レンズ等の光学素子、並びに前記光学素子を高い生産性のもとに製造することができる光学素子の製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[リン酸塩光学ガラス及びその製造方法]
本発明のリン酸塩光学ガラスは2つの態様を有する。
第1の態様(ガラスIという)は、必須成分として、P25、Bi23、Nb25、TiO2を含むリン酸塩光学ガラスにおいて、モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%を含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とする。
【0010】
第2の態様(ガラスIIという)は、モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、TiO2を0%超かつ30%以下、WO3を1〜40%、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%、B23を0〜14%含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とする。
【0011】
前記ガラスはいずれも、P25をネットワーク形成成分とするリン酸塩ガラスであり、高屈折率、高分散特性を実現し、かつガラスの安定性を維持するために、ガラス成分としてBi23、Nb25、TiO2が共存している。ガラスの屈折率を高めるには、これら高屈折率付与成分を増量することになるが、それに伴い、ガラスの安定性は低下する。しかし、Bi23については比較的この傾向が小さい。本発明はこの点に着目し、増量によって比較的ガラスの安定性を低下させやすいNb25の含有量を、Bi23の含有量との関係で制限することにより、屈折率を高めつつ、ガラスの安定性をも維持することを可能にした。
【0012】
以下、ガラスI、ガラスIIにおける各成分の働きと、組成範囲限定の理由について説明する。なお、各成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、モル%にて表示するものとし、含有量同士の比率、含有量と合計含有量の比率はモル比にて表示するものとする。
【0013】
25は、ネットワーク形成成分であり、製造可能な安定性を付与するための必須成分である。過少の導入により、ガラスの失透傾向が強くなり、過剰の導入によりガラス転移温度が上昇し、精密プレス成形に適さなくなるとともに、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。したがって、その含有量を12〜34%、好ましくは14〜30%、より好ましくは16〜28%とする。
【0014】
Bi23は、高屈折率、高分散特性を付与し、ガラスの耐候性や安定性を高める必須成分である。過少の導入により、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。一方、過剰の導入により、失透傾向が強まるとともに、ガラスが着色してしまう。したがって、その含有量を6%超かつ28%以下、好ましくは前記範囲内において22重量%超、より好ましくは23重量%超、さらに好ましくは25重量%超、一層好ましくは15モル%超とする。
【0015】
Nb25は、PbOを使用せずに高屈折率、高分散特性を付与するための必須成分である。過少の導入により、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。一方、過剰の導入により、ガラスの安定性が悪化し、高温熔解性も悪化する。またガラス転移温度が上昇し、精密プレス成形時にガラスが発泡したり、着色したりするなど精密プレス成形に適さなくなってしまう。したがって、その含有量は、0%を超えかつBi23の含有量の3倍未満、好ましくは30重量%未満、より好ましくは12〜25%とする。
なお、Bi23含有量に対するNb25含有量の割合Nb25/Bi23(モル比)は2.1以下とすることが好ましく、2.0以下とすることがより好ましく、1.9以下とすることがさらに好ましく、1.83以下とすることが一層好ましい。
【0016】
TiO2は、高屈折率、高分散特性を付与し、ガラスの安定性を高める必須成分である。過少の導入により、屈折率が低下し、アッベ数も増大するとともに、ガラスの安定性が悪化する。一方、過剰の導入により、失透傾向が強まるとともに、着色が強まり、ガラス転移温度や液相温度が急上昇してしまう。また、精密プレス成形によりガラスが着色しやすくなってしまう。したがって、ガラスIにおいては、TiO2を必須成分すなわち含有量を0%超とし、好ましくは1〜30%、より好ましくは1〜24%、さらに好ましくは1〜18%、一層好ましくは2〜12%とする。ガラスIIにおいては、TiO2の含有量を1〜30%、好ましくは1〜24%、より好ましくは1〜18%、さらに好ましくは2〜12%とする。
【0017】
Li2Oは、ガラスの安定性を向上させるとともに、ガラス転移温度や液相温度を低下させ、精密プレス成形に使用するプレス成形型との濡れ性を抑制し、離型性を向上させる働きをする任意成分である。また、ガラスの熔解性を向上させる働きもする。過剰の導入により、ガラスの安定性が低下し、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。したがって、その含有量は、0〜28%、好ましくは前記範囲において3重量%超とする。
【0018】
Na2Oもガラスの安定性を向上させるとともに、ガラス転移温度や液相温度を低下させ、精密プレス成形に使用するプレス成形型との濡れ性を抑制し、離型性を向上させる働きをする任意成分である。また、ガラスの熔解性を向上させる働きもする。過剰の導入により、ガラスの安定性が低下し、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。したがって、その含有量は、0〜16%、好ましくは前記範囲において5重量%未満、より好ましくは4.5重量%未満とする。
【0019】
WO3は、PbOを使用せずに高屈折率、高分散特性を付与し、低温にて精密プレス成形を可能にするための成分であり、ガラスIIにおいては必須成分である。精密プレス成形に使用するプレス成形型との濡れ性を抑制し、離型性を向上させる働きをする。過少の導入では上記効果が得られず、また精密プレス成形時にガラスが発泡しやすくなる。一方、過剰の導入により、ガラスが着色しやすくなるとともに、高温における粘性が低くなるので、熔融状態のガラスから直接、精密プレス成形に使用するプリフォームを成形するのが難しくなる。したがって、ガラスIにおいては、その含有量を1〜40%とすることが好ましく、1〜24%とすることがより好ましく、2〜16%とすることがさらに好ましい。また、ガラスIIにおいても、その含有量を1〜40%、好ましくは1〜24%、より好ましくは2〜16%とする。
【0020】
なお、所望の高屈折率、高分散を得るためにはBi23、Nb25、TiO2及びWO3の合計含有量(Bi23+Nb25+TiO2+WO3)を40%以上にすることが好ましく、42%超とすることがより好ましく、42.5%以上とすることがさらに好ましく、43%以上とすることがより一層好ましく、45%超とすることがさらに一層好ましい。また、上限は、85%以下とすることが好ましく、70%以下とすることがより好ましい。
【0021】
23は、ガラスの熔解性を向上し、均質化に有効な任意成分である。少量の導入により、ガラス内部のOHの結合性を変え、精密プレス成形時にガラスの発泡を抑制するという働きをするが、過剰の導入により、高屈折率の付与と高いガラス安定性の付与を両立するのが難しくなる。したがって、ガラスIIにおいて、その含有量は0〜14%とし、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜8%とする。ガラスIにおいてもB23の含有量を前記各範囲をとすることが望ましい。
【0022】
BaOはガラスI、IIにおいて任意成分であり、屈折率やガラスの安定性を高め、液相温度を低下させる働きをする。WO3の導入によるガラスの着色傾向を抑制する働きもする。過剰の導入により、ガラスの失透傾向が強まるとともに、ガラス転移温度も上昇し、精密プレス成形に適さなくなる。したがって、その含有量を0〜15%とすることが好ましく、0〜10%とすることがより好ましい。
【0023】
ZnOもガラスI、IIにおいて任意成分であり、高屈折率、高分散特性を付与し、ガラス転移温度や液相温度を低下させる働きをする。過剰の導入により、ガラスの失透傾向が強まり、液相温度が上昇する。したがって、その含有量を0〜15%とすることが好ましく、0〜10%とすることがより好ましい。
【0024】
2OもガラスI、IIにおいて任意成分であり、ガラスの安定性を向上させるとともに、ガラス転移温度や液相温度を低下させ、精密プレス成形に使用するプレス成形型との濡れ性を抑制し、離型性を向上させる働きをする。また、ガラスの熔解性を向上させる働きもする。過剰の導入により、ガラスの安定性が低下し、屈折率が低下し、アッベ数も増大してしまう。したがって、その含有量を0〜14%、好ましくは0〜9%、より好ましくは0〜4%とする。
【0025】
なお、精密プレス成形温度を上昇させることなく屈折率を上昇させ、かつガラスの耐失透性を向上させることにより、プリフォームの成形性や精密プレス成形性を向上させる上から、Bi23含有量に対するNa2O含有量の割合Na2O/Bi23(モル比)を3/2(1.5)以下(ただし、前記割合を重量比にした場合は0.2未満)とすることが好ましく、10/7以下とすることがより好ましく、4/3以下とすることがさらに好ましく、5/4以下とすることが一層好ましい。
【0026】
Sb23は清澄剤として導入可能であり、ガラスの着色を防止する上で有効な添加剤でもある。特にTiO2を含むガラスやBi2O3含有量の多いガラスにおいて、ガラスの着色を防止する働きをするために有用な成分である。したがって、清澄剤として使用される範囲であって、0%を超える量添加することが好ましく、外割で0.0001〜1重量%導入することがより好ましい。
【0027】
上記諸目的を達成する上から、P25、Bi23、Nb25、TiO2、WO3、Li2O、Na2O、K2O、B23、BaO、ZnOの合計含有量を95%超とすることが好ましく、97%超とすることがより好ましく、98%超とすることがさらに好ましく、99%超とすることが一層好ましく、100%とすることが特に好ましい。なお、上記成分に加えてSbO3を添加したガラスも好ましい。
【0028】
上記ガラスI、IIはPbOを導入しなくても所望の屈折率、分散特性を実現できる。従って、ガラスI、IIは、精密プレス成形において上記問題発生の原因となり、しかも環境影響が懸念されるPbOを含まないことが望ましい。環境影響上の問題から、ガラスI、IIは、Cd、Cr、Asも導入しないことが望ましい。
【0029】
ガラスI、IIには、その他、SiO2、La23、Y23、Gd23、ZrO2、Ta25、CaO、MgO、Cs2O、GeO2も導入することはできる。また、その導入量は合計で5%未満にとどめることが好ましく、3%未満にすることがより好ましく、2%未満にすることがさらに好ましく、1%未満にすることが一層好ましく、導入しないことがより一層好ましい。
【0030】
また、上記ガラスI、IIは高価なGeO2の導入を排除するものではないが、GeO2を導入せずに所期の光学特性を実現することができるから、コスト面に配慮するとGeO2も導入しないことが望ましい。その場合、上記合計含有量はSiO2、La23、Y23、Gd23、ZrO2、Ta25、CaO、MgO及びCs2Oの合計含有量とする。
【0031】
次にガラスIとガラスIIの特性について説明する。前記ガラスはいずれも屈折率(nd)が1.85超である。このように高屈折率を備えたガラスは屈折率がさほど高くないものと比べて、レンズ面の曲率を大きくしなくても焦点距離の短縮化が可能であり、したがって、光学素子を小型化できるというメリットを有する。屈折率(nd)の好ましい範囲は、1.86以上、より好ましい範囲は1.91超、さらに好ましい範囲は2.0超である。屈折率(nd)の上限は特に限定されない。
【0032】
ガラスIとガラスIIは、高分散特性を示す。アッベ数(νd)によって好ましい範囲を示すと23.5未満であり、より好ましい範囲は22.5未満、さらに好ましい範囲は22.0未満である。アッベ数(νd)の下限は特に限定されない。
【0033】
ガラスI、IIはともに低温軟化性を有し、精密プレス成形に好適なガラスである。低温軟化性を示す指標としては、ガラス転移温度(Tg)を用いることができる。ガラス転移温度(Tg)の好ましい範囲は480℃未満、より好ましい範囲は475℃未満、さらに好ましい範囲は470℃未満である。ガラス転移温度を上記範囲にすることにより、精密プレス成形時におけるプレス成形型の成形面とガラスとの反応を抑え、光学素子の精密プレス成形性を高めることができる。
【0034】
ガラスI、IIはともに上記光学特性、低温軟化性に加え、液相温度が低いという特徴も備えている。ガラスI、IIにおいて液相温度の好ましい範囲は950℃以下であり、より好ましい範囲は920℃以下であり、さらに好ましい範囲は890℃以下である。液相温度が低いと熔融ガラスから精密プレス成形用プリフォームなどのガラス成形体を成形する場合、ガラスを失透させることなく成形温度を低下させることができ、その結果、成形時のガラスの粘性を高めることができて、成形が容易になる。
このような観点から、液相温度におけるガラスの粘度を上記熔融ガラスの成形性の指標と考えることもできる。ガラスI、IIでは液相温度におけるガラスの粘度の好ましい範囲は、3dPa・s以上、より好ましい範囲は4dPa・s以上である。この特性は熔融ガラスから直接、精密プレス成形用プリフォームを成形する場合、特に重要である。
【0035】
次にガラスI、IIの着色度について説明する。ガラスI、IIはガラスを着色させる目的でCu、Coなどの着色イオンを添加しない限り、可視光領域にわたり高い透過率が得られる。ガラスの着色の度合いを表すには、当該技術分野において広く使用されているλ70という指標を導入する。λ70はガラスを厚さが10mmの互いに平行な2つの平面を有する試料を用いて測定される。対向する2つの平面は光学研磨が施されている。この試料に前記平面に対して垂直な方向から光を入射させ、他方の平面から出射する光の強度を測定する。入射光強度に対する出射光強度の割合(出射光強度/入射光強度)を波長280nmから700nmまでの波長にわたり測定する。(分光透過率を測定する。)上記試料の透過率は平面における反射損失も含まれており、通常、外部透過率と呼ばれる。上記分光透過率の測定の結果、外部透過率が70%になる波長がλ70である。ガラスI、IIのλ70の好ましい範囲は600nm以下、より好ましい範囲は570nm以下、さらに好ましい範囲は520nm以下、一層好ましい範囲は470nm以下である。ガラスI、IIにおいて好ましいものは、可視光領域における上記λ70よりも長波長側の透過率が70%よりも高いガラスである。屈折率を高めるため、ガラスI、IIではガラスを着色させやすいBi23、Nb25、TiO2、WO3を多量に導入しているが、上記のように各成分の含有量をバランスよく配分することにより、上記のように良好な光透過率特性を得ることができる。なお、前述のようにSb23を所定量添加することにより、光透過率特性を改善することもできる。
【0036】
次に本発明の光学ガラスの製造方法について説明する。ガラスI、ガラスIIの原料としては、P25についてはH3PO4、メタリン酸塩、五酸化二燐など、B23についてはH3BO3、B23などを用い、他の成分については炭酸塩、硝酸塩、酸化物などを適宜に用いることが可能である。これらの原料を所定の割合に秤取し、混合して調合原料とし、これを例えば1000〜1150℃に加熱した熔解炉に投入し、熔解、清澄、攪拌し、均質化してから鋳型に鋳込み、徐冷することにより、上記リン酸塩光学ガラスを得ることができる。
【0037】
[精密プレス成形用プリフォームとその製造方法]
次に、本発明の精密プレス成形用プリフォームおよびその製造方法について説明する。
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、上記ガラスI又はガラスIIからなることを特徴とする。
精密プレス成形用プリフォームは、精密プレス成形品に等しい重量のガラス製成形体である。プリフォームは精密プレス成形品の形状に応じて適当な形状に成形されているが、その形状として、球状、回転楕円体状などを例示することができる。プリフォームは、精密プレス成形可能な粘度になるよう、加熱して精密プレス成形に供される。
【0038】
上記回転楕円体形状も含め、プリフォームの形状としては回転対称軸を一つ備えるものが好ましい。このような回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものがある。また、前記断面におけるプリフォームの輪郭線上の任意の点と回転対称軸上にあるプリフォームの重心を結ぶ線と、前記輪郭線上の点において輪郭線に接する接線とのなす角の一方の角の角度をθとしたとき、前記点が回転対称軸上から出発して輪郭線上を移動するときに、θが90°から単調増加し、続いて単調減少した後、単調増加して輪郭線が回転対称軸と交わる他方の点において90°になる形状が好ましい。
【0039】
上記プリフォームには、必要に応じて離型膜などの薄膜を表面に備えていてもよい。離型膜としては炭素含有膜、自己組織化膜などを例示することができる。上記プリフォームは、所要の光学恒数を有する光学素子のプレス成形が可能である。
【0040】
本発明の精密プレス成形用プリフォームの製造方法は、熔融ガラスを流出し、ガラス製の精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、熔融ガラスを流出して前記プリフォームの重量に相等する重量の熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊が冷却する過程で、本発明のリン酸塩光学ガラスからなるプリフォームに成形することを特徴とし、本発明のプリフォームを製造する方法として好適である。
【0041】
この製造方法では上記リン酸塩光学ガラスの塊を熔融状態のガラスから成形し、それを固化して形成するが、固化後、機械加工することなしに精密プレス成形用プリフォームとして使用することもできる。前記方法によれば、切断、研削、研磨などの機械加工が不要という利点がある。機械加工が施されたプリフォームでは、機械加工前にアニールを行うことによって破損しない程度にまでガラスの歪を低減しておかなければならない。しかし、上記プリフォームの製造方法によれば、破損防止用アニールは不要である。また表面が滑らかなプリフォームを成形することもできる。
【0042】
さらに、上記プリフォームの製造方法において、滑らかなで清浄な表面を付与するという観点から、プリフォームは風圧が加えられた浮上状態で成形することが好ましい。また、全表面が熔融状態のガラスが固化して形成されたプリフォーム、表面が自由表面からなるプリフォームすなわち全表面が自由表面であるプリフォームが好ましい。さらに、シアマークと呼ばれる切断痕のないものが望ましい。シアマークは、流出する熔融ガラスを切断刃によって切断する時に発生する。シアマークが精密プレス成形品に成形された段階でも残留すると、その部分は欠陥となってしまう。そのため、プリフォームの段階からシアマークを排除しておくことが好ましい。切断刃を用いず、シアマークが生じない熔融ガラスの分離方法としては、流出パイプから熔融ガラスを滴下する方法、あるいは流出パイプから流出する熔融ガラス流の先端部を支持し、所定重量の熔融ガラス塊を分離できるタイミングで上記支持を取り除く方法(降下切断法という。)などがある。降下切断法では、熔融ガラス流の先端部側と流出パイプ側の間に生じたくびれ部でガラスを分離し、所定重量の熔融ガラス塊を得ることができる。続いて、得られた熔融ガラス塊が軟化状態にある間にプレス成形に供するために適した形状に成形することでプリフォームが得られる。
【0043】
上記プリフォームの製造方法では、プリフォーム1個分の熔融ガラス塊を分離し、このガラス塊が軟化点以上の高温状態にある間にプリフォームに成形するが、本発明のプリフォームは前記製法により製造されるものに加え、熔融ガラスを鋳型に流し込んで上記光学ガラスからなるガラス成形体を成形し、このガラス成形体に機械加工を加えて所望重量のプリフォームとする製法によるものも含まれる。なお機械加工を加える前にガラスが破損しないよう、ガラスをアニールすることにより十分除歪処理を行うことが好ましい。
【0044】
[光学素子とその製法]
本発明の光学素子は、上記光学ガラスからなるものであり、例えば上記プリフォームを加熱し、精密プレス成形して作製することができる。
本発明によれば、光学素子を構成するガラスが光学ガラスであるので、前記ガラスの各特性(屈折率(nd)、アッべ数(νd))を備えており、所要の光学恒数を有する光学素子を提供することができる。
【0045】
本発明の光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。上記光学素子としては、プリフォームを加熱、軟化し精密プレス成形して得られたものであることが望ましい。
なお、この光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
【0046】
次に光学素子の製造方法について説明する。本発明の光学素子の製造方法は、光学ガラスからなるプリフォームを加熱、精密プレス成形するガラス製の光学素子の製造方法において、本発明のプリフォームまたは本発明の製造方法により作製したプリフォームを使用することを特徴とする。
【0047】
精密プレス成形法は前述の如く、モールドオプティクス成形法とも呼ばれ、既に当該発明の属する技術分野においてはよく知られたものである。
光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。精密プレス成形法はプレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
したがって、本発明の方法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する際に最適である。
【0048】
本発明の光学素子の製造方法によれば、上記光学特性を有する光学素子を作製できるとともに、プリフォームを構成するガラスの転移温度(Tg)が低く、ガラスの精密プレス成形としては比較的低い温度でプレスが可能になるので、プレス成形型の成形面への負担が軽減され、プレス成形型の寿命を延ばすことができる。またプリフォームを構成するガラスが高い安定性を有するので、再加熱、精密プレス成形工程においてもガラスの失透を効果的に防止することができる。さらに、ガラス熔解から最終製品を得る一連の工程を高生産性のもとに行うこともできる。
【0049】
精密プレス成形法に使用するプレス成形型としては公知のもの、例えば炭化珪素、超硬材料、ステンレス鋼などの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができるが、炭化珪素製のプレス成形型が好ましい。離型膜としては炭素含有膜、貴金属合金膜などを使用することができるが、耐久性、コストの面などから炭素含有膜が好ましい。
高屈折率付与成分を含有するリン酸塩ガラスでは、精密プレス成形時にガラスとプレス成形型表面の離型膜、特に炭素含有膜とが反応し、精密プレス成形品表面に傷や泡が発生しやすい。しかし、上記プリフォームを使用することにより、上記傷や泡の発生を低減、防止することができる。プレス成形型は上型及び下型を備え、必要に応じて胴型も備える。
精密プレス成形法では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つため成形時の雰囲気を非酸化性ガス(不活性ガス雰囲気や前記雰囲気に還元性ガスを混合した雰囲気など)にすることが望ましい。非酸化性ガスとしては窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。
次に本発明の光学素子の製造方法に特に好適な精密プレス成形法について説明する。
【0050】
(精密プレス成形法1)
この方法は、プレス成形型に前記プリフォームを導入し、プレス成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形するというものである(精密プレス成形法1という)。
精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが106〜1012dPa・sの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPa・s以上、より好ましくは1014dPa・s以上、さらに好ましくは1016dPa・s以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
【0051】
(精密プレス成形法2)
この方法は、プレス成形型と前記プリフォームを別々に予熱し、予熱したプリフォームをプレス成形型に導入して精密プレス成形するというものである(精密プレス成形法2という)。
この方法によれば、前記プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
なお、プレス成形型の予熱温度をプリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、前記型の消耗を低減することができる。
【0052】
精密プレス成形法2において、前記プリフォームを構成するガラスが109dPa・s以下、より好ましくは109dPa・sの粘度を示す温度に予熱することが好ましい。また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜109dPa・s、より好ましくは105.5dPa・s以上109dPa・s未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
また、プレス開始と同時又はプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。なお、プレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温させるが、前記ガラスが109〜1012dPa・sの粘度を示す温度を目安にすればよい。
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
精密プレス成形された光学素子はプレス成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに説明する。
(実施例1〜13)
表1〜3に各実施例のモル%表示によるガラスの組成、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(Ts)、液相温度(LT)、液相温度における粘度(LT粘性)、比重、特定透過率波長を示す。いずれのガラスとも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び硝酸塩を使用し、ガラス化した後に表1に示す組成となるように前記原料を秤量し、十分混合した後、白金坩堝に投入して電気炉で1000〜1150℃の温度範囲で熔融し、攪拌して均質化を図り、清澄してから適当な温度に予熱した金型に鋳込む。鋳込んだガラスを転移温度まで冷却してから直ちにアニール炉に入れ、室温まで徐冷して各光学ガラスを得た。
【0054】
得られた光学ガラスについて、屈折率(nd)、アッべ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、屈伏点(Ts)、液相温度(LT)、液相温度における粘度(LT粘性)、比重、特定透過率波長を以下のようにして測定した。結果を表3に示す。なお、表1の重量%表示による組成は表1のモル%表示による組成に基づいて換算したものである。
【0055】
(1)屈折率(nd)及びアッべ数(νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)及び屈伏点(Ts
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)液相温度(LT)
白金ルツボにガラス試料約50gを入れ、約1000〜1150℃にて約15〜30 分溶融し、ガラス転移温度以下に冷却した後、再加熱してそれぞれ840℃、850 ℃、860℃、870℃、880℃、890℃、900℃、910℃、920℃、9 30℃、940℃、950℃、960℃、970℃にて2時間保温したものを冷却し て結晶析出の有無を光学顕微鏡により拡大観察し、結晶の認められない最低温度を液 相温度(LT)とした。
(4)液相温度における粘度(LT粘性)
JIS規格Z8803、共軸二重円筒型回転粘度計による粘度測定方法により、粘度 を測定した。
(5)比重
アルキメデス法を用いて算出した。
(6)特定透過率波長
前述のように両面が互いに平行に光学研磨された厚さ10mmのガラス試料に、光学 研磨面に対して垂直な方向から光を入射して波長280nmから700nmにわたる 分光透過率を測定する。外部透過率が80%になる波長をλ80、外部透過率が70% になる波長をλ70、外部透過率が5%になる波長をλ5とする。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
(実施例14)
次に実施例1〜13に相当する清澄、均質化した熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定流量で流出し、滴下又は降下切断法にて目的とするプリフォームの重量の熔融ガラス塊を分離し、熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながらプレス成形用プリフォームを成形した。熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより直径2〜30mmの球状プリフォームを得る。プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかなものであった。
なお、上記熔融ガラスを鋳型に鋳込み、ガラスブロックを成形し、アニールして歪を低減してから切断してガラス片を作り、このガラス片に研削、研磨加工を施してプリフォームを作ることもできる。
【0060】
(実施例15)
実施例14で得られたプリフォームを、図1に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。具体的にはプリフォームをプレス成形型を構成する下型2及び上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を成形されるガラスが108〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するレンズであった。精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けてもよい。
【0061】
(実施例16)
実施例14で得られたプリフォームを、浮上しながらプリフォームを構成するガラスの粘度が108dPa・sになる温度に予熱する。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱し、前記ガラスが109〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して精密プレス成形する。プレスの圧力は10MPaとした。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するレンズであった。精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】非球面レンズを精密プレス成形するためのプレス装置の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として、P25、Bi23、Nb25、TiO2を含むリン酸塩光学ガラスにおいて、
モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とするリン酸塩光学ガラス。
【請求項2】
モル%表示で、P25を12〜34%、Bi23を6%超かつ28%以下、Nb25をBi23含有量(モル%)の3倍未満、TiO2を0%超かつ30%以下、WO3を1〜40%、Li2Oを0〜28%、Na2Oを0〜16%、B23を0〜14%含み、屈折率(nd)が1.85超であることを特徴とするリン酸塩光学ガラス。
【請求項3】
Bi23含有量に対するNa2O含有量の割合Na2O/Bi23(モル比)が1.5以下であることを特徴とする請求項1または2のリン酸塩光学ガラス。
【請求項4】
22重量%を超えるBi23を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
【請求項5】
Bi23、Nb25、TiO2およびWO3の合計含有量が40モル%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
【請求項6】
Bi23、Nb25、TiO2およびWO3の合計含有量が42モル%超である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
【請求項7】
精密プレス成形に用いるガラスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラス。
【請求項8】
請求項7に記載のリン酸塩光学ガラスからなる精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリン酸塩光学ガラスからなる光学素子。
【請求項10】
熔融ガラスを流出し、ガラス製の精密プレス成形用プリフォームに成形する精密プレス成形用プリフォームの製造方法において、
熔融ガラスを流出して前記プリフォームの重量に相等する重量の熔融ガラス塊を分離し、前記ガラス塊が冷却する過程で請求項7に記載のリン酸塩光学ガラスからなるプリフォームに成形することを特徴とする精密プレス成形用プリフォームの製造方法。
【請求項11】
光学ガラスからなるプリフォームを加熱、精密プレス成形するガラス製の光学素子の製造方法において、
請求項8に記載のプリフォームまたは請求項10に記載の製造方法により作製したプリフォームを使用することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
プレス成形型に前記プリフォームを導入し、プレス成形型と前記プリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形することを特徴とする請求項11に記載の光学素子の製造方法。
【請求項13】
プレス成形型と前記プリフォームを別々に予熱し、予熱したプリフォームをプレス成形型に導入して精密プレス成形することを特徴とする請求項11に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111499(P2006−111499A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301979(P2004−301979)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】