説明

光学ガラスおよびレンズ

【課題】開口数のより大きなレンズを得るべくより屈折率の高いガラスが求められている。
【解決手段】モル%で、B 25〜57%、ZnO 5〜25%、La 5〜30%、Ga 1〜20%、TiO+WO 1〜15%、LiO 0〜15%、GeO 0〜20%、TeO 0〜20%、Ta 0〜10%、ZrO+In+Y+Gd 0〜20%、B+GeO 30〜60%である光学ガラス。また、ガラス転移点が600℃以下である前記光学ガラス。また、波長405nmの光に対する屈折率が1.85以上、アッベ数が35以上である前記光学ガラス。前記光学ガラスからなるレンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD、CD−R、CD−RW、DVD、MO等の光記録媒体の記録または読み取りに使用される対物レンズ、レーザー用コリメートレンズ等に好適な光学ガラスおよびレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
CD等の光記録媒体への記録はレーザー光をコリメートレンズによって平行光とし、これを対物レンズによって集光して行われる。
このような用途に用いられるレンズは通常、球面状または非球面形状であり、ガラスまたは樹脂のプリフォームを軟化温度まで加熱し精密プレスして作製される。
【0003】
近年、光記録媒体の記録密度を高くするために波長が400〜415nmの青紫色レーザー光(典型的な波長は405nm)の利用が提案されている。また、この青紫色レーザー光と従来使用されている赤色または近赤外レーザー光との互換利用も提案されている。
このような用途には、波長400〜800nmの光に対する透過率が高く、精密プレスが可能であり、かつ屈折率が高いガラスが求められ、そのようなガラスの提案もされている(たとえば特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特許第3195789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されているガラスの屈折率は1.58〜1.67であって高屈折率ガラスというべきものであるが、開口数のより大きなレンズを得るべくより屈折率の高いガラスが求められている。
本発明はこのような課題を解決できる光学ガラスおよびレンズの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記酸化物基準のモル%表示で、B 25〜57%、ZnO 5〜25%、La 5〜30%、Ga 1〜20%、TiO+WO 1〜15%、LiO 0〜15%、GeO 0〜20%、TeO 0〜20%、Ta 0〜10%、ZrO+In+Y+Gd 0〜20%、から本質的になり、B+GeOが30〜60%である光学ガラスを提供する。
また、前記光学ガラスからなるレンズを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透過率が高く、精密プレスが可能であり、かつ屈折率が高い光学ガラスが得られる。また、この光学ガラスからなるレンズを光記録媒体への記録に用いられるコリメートレンズまたは対物レンズとして用いることにより、光記録媒体への記録密度を高くすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の光学ガラス(以下、単に本発明のガラスという。)は先に述べたようなコリメートレンズまたは対物レンズに好適である。
このようなレンズはすなわち本発明のレンズであり、典型的には本発明のガラスを加工してプリフォームとし、このプリフォームを加熱して軟化させ金型を用いてプレス成形(精密プレス)して作製される。なお、前記プリフォームは溶融状態のガラスを成形して作製してもよい。
【0009】
本発明のガラスのガラス転移点(Tg)は600℃以下であることが好ましい。600℃超では成形温度が高くなってプレス成形時に成形型またはその成形面の保護膜が損傷を受けるおそれがある。より好ましくは570℃以下、特に好ましくは565℃以下である。
【0010】
本発明のガラスの液相温度(T)は1100℃以下であることが好ましい。1100℃超では、生産性を向上させるべく溶融ガラスをノズルから滴下成形し直接ガラスプリフォームやゴブを作製しようとするとその滴下成形ガラスが失透するおそれがある。より好ましくは1080℃以下である。
【0011】
本発明のガラスの波長405nmの光に対する屈折率(n)は1.85以上であることが好ましい。1.85未満では、青紫色レーザー光による光記録媒体への記録に適用可能な薄さであってかつ所望の開口数を有する対物レンズを得ることが困難になる。好ましくは1.86以上である。なお、nは典型的には1.92以下である。
本発明のガラスのアッベ数(νd)は好ましくは35以上、典型的には39以上である。
【0012】
本発明のガラスの波長405nmの光に対する内部透過率の1mm厚み換算値(T405)は99%以上であることが好ましい。
405はたとえば次のようにして測定される。すなわち、両面が鏡面研磨され、大きさが2cm×2cm、厚みが1mmと5mmの2枚の板状試料について、日立製作所社製分光光度計U−3500(商品名)を用いて波長405nmの光に対する透過率を測定する。厚みが1mm、5mmの板状試料の透過率測定値をそれぞれT、Tとして、次式によりT405を算出する。
405=100×exp[(2/3)×log(T/T)]。
【0013】
次に、本発明のガラスの成分について説明する。なお、たとえばBの含有量としてはBがBの形でガラス中に存在するとしたときのモル%表示含有量を用い、単に%と表記する。
はガラス骨格を形成し、またTgを低下させる成分であり、必須である。25%未満ではガラスが不安定になる、またはTgが高くなる。好ましくは30%以上、より好ましくは32%以上である。なお、Tをより低くしたい場合には、好ましくは33%以上、より好ましくは35%以上である。Bが57%超ではnが低くなる。好ましくは47%以下、より好ましくは40%以下である。
【0014】
ZnOはガラスを安定化させる成分であり、必須である。5%未満ではガラスが不安定になる。好ましくは7%以上である。25%超ではガラスが不安定になる。好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。
【0015】
Laはnを高くする成分であり、必須である。5%未満ではガラスが不安定になる。好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上である。30%超ではTgが高くなる。好ましくは24%以下、より好ましくは20%以下、特に好ましくは17%以下である。
【0016】
Gaはガラスを安定化させる、またはnを高くする成分であり、必須である。1%未満ではガラスが不安定になる、またはnが低くなる。好ましくは4%以上である。20%超ではかえってガラス化しにくくなる。好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0017】
TiOおよびWOはガラスを安定化させる、またはnを高くする成分であり、いずれか1種以上を含有しなければならない。TiOおよびWOの含有量の合計が1%未満ではガラスが不安定になる、またはnが低くなる。好ましくは2%以上である。前記合計が15%超ではνdが大きくなりすぎる、またはT405が低下するおそれがある。好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下である。
【0018】
TiOを含有する場合その含有量は1%以上または12%以下であることが好ましい。より好ましくは10%以下である。
WOを含有する場合その含有量は1%以上または10%以下であることが好ましい。より好ましくは6%以下である。
【0019】
LiOは必須ではないが、ガラスを安定化させる、Tgもしくは溶解温度を低下させるために15%まで含有してもよい。15%超ではかえってガラス化しにくくなるおそれがある。好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、特に好ましくは10%以下である。LiOを含有する場合その含有量は、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、特に好ましくは6%以上である。
【0020】
GeOは必須ではないが、ガラスを安定化させる、またはnを高くするために20%まで含有してもよい。20%超ではTgが高くなる。好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。GeOを含有する場合その含有量は好ましくは1%以上、典型的には3%以上である。
【0021】
およびGeOの含有量の合計は60%以下であることが好ましい。60%超ではTgが高くなる。好ましくは45%以下である。
また、同合計は30%以上であることが好ましい。30%未満ではガラス化が困難になる、またはガラスが不安定になるおそれがある。より好ましくは31%以上である。
【0022】
TeOは必須ではないが、ガラスを安定化させる、nを高くする、Tgを低下させる、溶融状態における白金または白金合金との接触角を大きくして白金または白金合金からなる流出パイプから溶融ガラスを滴下して精密プレス用の球状プリフォームを作製する場合のそのプリフォームの質量ばらつき率を小さくする等のために20%まで含有してもよい。20%超ではνdが大きくなりすぎるおそれがある、またはT405が低下するおそれがある。好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。TeOを含有する場合その含有量は好ましくは0.1%以上である。
【0023】
Taは必須ではないが、T405の低下またはνdの増大を起すことなくnを高くする等のために10%まで含有してもよい。10%超では溶解時にLa等希土類酸化物との化合物が生成されそれが未融物となって残存する等、均質性が低下するおそれがある。好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下である。
【0024】
ZrO、In、YおよびGdはいずれも必須ではないが、T405を低下させることなくnを高くする等のために合計で20%までの範囲で含有してもよい。20%超ではガラスが不安定になるおそれがある。好ましくは合計で15%以下である。これらの成分のいずれかを含有する場合、その成分の含有量は単独で1%以上であることが好ましい。
【0025】
nをより高くしたい等の場合、Bが30〜40%、ZnOが5〜15%、Laが10〜20%、Gaが4〜12%、TiO+WOが1〜10%、LiOが4〜12%、GeOが1〜10%、TeOが0〜15%、であることが好ましい。
【0026】
本発明のガラスは本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。そのような成分を含有する場合それら成分の含有量の合計は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0027】
次に、このような成分について例示する。
成形時の失透を抑制したい等の場合、Alをたとえば4%まで含有してもよい。
ガラスをより安定化させたい、nまたは密度を調整したい、等の場合にはMgO、CaO、SrOまたはBaOを合計でたとえば4%までの範囲で含有してもよい。4%超ではガラスがかえって不安定になる、またはnが小さくなるおそれがある。
【0028】
溶解温度をより低下させたい等の場合、NaO、KO、RbOまたはCsOを合計でたとえば4%までの範囲で含有してもよい。4%超ではガラスが不安定になる、nが低くなる、硬度が小さくなる、または化学的耐久性が低下するおそれがある。なお、硬度を大きくしたい、または化学的耐久性を向上させたい場合にはこれらはいずれも含有しないことが好ましい。
【0029】
nをより高くしたい、Tgをより低くしたい等の場合、SnOをたとえば4%まで含有してもよい。
nをより高くしたい等の場合、TiOをたとえば6%または4%まで含有してもよい。
溶解温度またはTgをより低下させたい等の場合、FをFの形で溶解原料に添加して溶解してもよい。その添加量はガラスを100モルとして3モルまでの範囲の割合であることが好ましい。3モル超の割合で添加すると、ガラスが不安定になる、nが低下する、硬度が小さくなる、ガラスが不均質になる、または化学的耐久性が低下するおそれがある。
【0030】
nをより高くしたい、または化学的耐久性を高くする等のためにNbを含有してもよいが、T405をより高くしたい場合にはNbを含有しないことが好ましい。
なお、本発明のガラスはPbOおよびTlOのいずれも含有しないことが好ましい。
また、本発明のガラスはFeを含有しないことが好ましいが、通常は原料から不可避的に混入する。しかし、その場合でもFe含有量は質量百分率表示で0.1%以下であることが好ましい。0.1%超ではT405が小さくなるおそれがある。
【実施例】
【0031】
表のBからNbまでの欄にモル%表示で示す組成のガラスが得られるように原料を調合して白金製るつぼに入れ、1100〜1300℃で2.5時間溶解した。この際白金製スターラにより1時間撹拌して溶融ガラスを均質化した。均質化された溶融ガラスは流し出して板状に成形後、徐冷を行った。
【0032】
原料としては、関東化学社製の特級の酸化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸リチウム、硝酸リチウム、二酸化ジルコニウム、炭酸ナトリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、信越化学工業社製の純度99.9%酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ガドリニウム、レアメタル社製の特級の酸化ガリウム、新興化学工業社製の純度99.999%以上の二酸化テルル、アサヒメタル社製の特級の酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化タングステン、高純度化学研究所社製の純度99.9%以上の酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化ガリウムを使用した。
【0033】
得られたガラスについて、Tg(単位:℃)、T(単位:℃)、T405(単位:%)、n、nd、νdを測定した。例1〜10は実施例、例11〜13は比較例である。
Tg、T、n、nd、νdの測定法を以下に述べる。
【0034】
Tg:直径5mm、長さ20mmの円柱状に加工したサンプル、リガク社製熱機械分析装置TMA8140(商品名)を用いて5℃/分の昇温速度で測定した。
:1辺が10mmの立方体形状に加工したサンプルを白金製の皿に載せ、一定温度に設定した電気炉内で2時間静置した後に取り出したものを10倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の析出が見られない最高温度をTとした。
n、nd、νd:ガラスを一辺が30mm、厚みが10mmの三角形状プリズムに加工し、カルニュー光学社製精密分光計GMR−1(商品名)により測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0037】
対物レンズ、コリメートレンズ等に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記酸化物基準のモル%表示で、B 25〜57%、ZnO 5〜25%、La 5〜30%、Ga 1〜20%、TiO+WO 1〜15%、LiO 0〜15%、GeO 0〜20%、TeO 0〜20%、Ta 0〜10%、ZrO+In+Y+Gd 0〜20%、から本質的になり、B+GeOが30〜60%である光学ガラス。
【請求項2】
が30〜40%、ZnOが5〜15%、Laが10〜20%、Gaが4〜12%、TiO+WOが1〜10%、LiOが4〜12%、GeOが1〜10%、TeOが0〜15%である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
+GeOが45%以下である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
Nbを含有しない請求項1、2または3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラス転移点が600℃以下である請求項1〜4のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項6】
波長405nmの光に対する屈折率が1.85以上、アッベ数が35以上である請求項1〜5のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項7】
波長405nmの光に対する内部透過率が1mm厚み換算で99%以上である請求項1〜6のいずれかに記載の光学ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学ガラスからなるレンズ。

【公開番号】特開2006−131450(P2006−131450A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322080(P2004−322080)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】