説明

光学ガラスの製造方法

【課題】BiやTeOを多量に含有する光学ガラスにおいて、溶融及び/又は成形時の着色を抑えることができ、かつ大量生産時の種々の負荷にも耐えうる高強度の金属材料からなる部材を使用する光学ガラスを提供する。
【解決手段】本発明の光学ガラスは、金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなる部材を使用して、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有するガラス原料を溶融し、且つ/又は、ガラス原料が溶融した溶融ガラスを成形した光学ガラスである。金属材料からなる溶融槽を使用して、ガラス原料を溶解している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bi成分及び/又はTeO成分を多量に含有する光学ガラスの製造方法に関する。特に、本発明はBi成分及び/又はTeO成分を多量に含有し、屈折率が高く、ガラス転移点が低い光学ガラスを所定の部材を用いて前記光学ガラスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高屈折率、高分散領域の光学ガラスは酸化鉛を多量に含有する組成系が代表的であり、これらのガラスの安定性がよく、かつガラス転移点(Tg)が低いため、精密プレス成形に使用されてきた。例えば、特許文献1には酸化鉛を多量に含有する精密プレス用の光学ガラスが開示されている。しかしながら精密プレス成形を実施する場合、金型の酸化防止のために還元性雰囲気下でプレスすることが多く、ガラス成分に酸化鉛を含有しているとガラス表面から還元された鉛が析出し、金型表面に付着してしまい、金型の精密面を維持できなくなるという問題点があった。また、酸化鉛は環境に対して有害であり、環境上、常にフリー化が望まれてきた。
【0003】
鉛を主成分とせず、かつ精密プレス成形に使用しうるような低温軟化特性を有するガラスとしてはBiやTeOを多量に含有するガラスが公知である。例えば、特許文献2には0.8μmの光線に対する屈折率が1.9以上で、精密プレス成形に適した低温軟化性光学ガラスが記載されている。特許文献3にはBiを主成分とし、可視域での透明性が高く、屈折率(n)が1.85以上及びアッベ数(ν)が10〜30の範囲の光学定数を有する光学ガラスが記載されている。特許文献4にはBiを主成分とし、可視域での透明性が高く、屈折率(n)が1.75以上及びアッベ数(ν)が15〜40の範囲の光学定数を有する光学ガラスが記載されている。
【0004】
通常、ガラス転移点の低い光学ガラスを製造する場合、白金や白金合金、強化白金等の耐熱容器内で原料を溶融することによってガラス化する方法が採用されている。
【0005】
しかし、BiやTeOを多量に含有する光学ガラスは、一般に、様々な原因により可視光線透過性が悪くなりやすいという欠点があり、光学ガラスとして使用するには困難を伴うことが多い。特に上記ガラスを溶融する際及び成形する際に、溶融ガラスと溶融槽や流路材料として通常使用されている白金族合金と溶融ガラスとの間で反応を起こし、ガラスが着色することが多かった。これら着色は光学ガラス用途においては著しい不利益となる。また、これら溶融ガラスと白金族合金との反応は、着色性悪化による不利益のみならず、溶融部材の劣化を促進するためガラス漏れ等の危険性があり、安定な生産を阻害する要因ともなっていた。
【0006】
上記不利益を解消するために、Biなどのガラスを溶融する際の部材についても、種々の研究がなされている。
【0007】
特許文献5には溶融ガラスを収容する坩堝にパラジウム含有合金を使用することが記載されている。特許文献6には、Biを多量に含有する低融点ガラスを製造するに際し、原料バッチの溶融ガラス化を、Au又はAu合金から作製された耐熱容器内で行うことが記載されている。
【0008】
しかし、特許文献5に記載された坩堝では、BiやTeOを多量に含有するガラスを溶融した場合に、着色抑制効果が必ずしも十分でなく、光学ガラスの溶融部材としては使用するにはさらなる改良が必要である。また、特許文献6に記載された坩堝では、ガラスに対する着色抑制効果は大きく、実験室レベルでの小規模生産においては非常に効果的である。しかし加熱時の強度が不十分であるため、多量の温度、圧力等の負荷がかかる大量生産時には不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−308843号公報
【特許文献2】特開2002−201039号公報
【特許文献3】特開2006−327925号公報
【特許文献4】特開2006−327926号公報
【特許文献5】特開2004−59362号公報
【特許文献6】特開2004−18312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、BiやTeOを多量に含有する光学ガラスにおいて、溶融及び/又は成形時の着色を抑えることができ、かつ大量生産時の種々の負荷にも耐えうる高強度の金属材料からなる部材を使用する光学ガラスの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記問題を解決するために、BiやTeOを多量に含有する光学ガラスに対して着色抑制作用がある金に強化含有させたいわゆる強化金で作成された部材を用いて、上記ガラスを好適に溶融及び/又は成形し、透明性に優れ光学用途に適した光学ガラスを製造する方法を見出した。
【0012】
本発明の第1の構成は、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有する光学ガラスを、金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなる部材を使用して、溶融及び/又は成形する工程を含む光学ガラスの製造方法である。
【0013】
本発明の第2の構成は、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有する光学ガラスを、金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなる溶融槽にて溶解する工程を含む光学ガラスの製造方法である。
【0014】
本発明の第3の構成は、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有する光学ガラスを、金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなる流路を通して溶融槽から流出させる工程を含む光学ガラスの製造方法である。
【0015】
本発明の第4の構成は、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有する光学ガラスを、金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなるスターラーにより攪拌する工程を含む光学ガラスの製造方法である。
【0016】
本発明の第5の構成は、前記強化材が金属酸化物である前記構成1〜4の製造方法である。
【0017】
本発明の第6の構成は、前記金属酸化物が、Ti、Zr、Hf、Y、Nb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物である前記構成5の製造方法である。
【0018】
本発明の第7の構成は、前記金属酸化物が、金の全質量に対し0.05質量%以上含有される前記構成5及び6の製造方法である
【発明の効果】
【0019】
上記構成を採用することにより、BiやTeOを多量に含有する光学ガラスにおいて、溶融及び/又は成形時の着色を抑えることができ、かつ大量生産が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述のように、本発明はBi及び/又はTeOを多量に含有する光学ガラスを溶融及び/又は成形処理する際に、所定の耐着色性および高強度を有する部材を用いることにより、光学ガラスを製造する方法であるが、特にBi及び/又はTeOの含有量が多いほど、通常の白金合金を用いて作製されたガラスはその透明性が低下するため、本発明の製法の効果が顕著になる。具体的には酸化物基準で、Bi及び/又はTeOを30質量%以上、特に35質量%以上、とりわけ40質量%以上含む光学ガラス製造において、その効果が顕著である。なお本明細書中において「酸化物基準」とは、ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0021】
本発明の製造方法において使用される金属材料は、金を主成分とし強化材を分散させたもの(以下、本明細書中において「強化金」とする)であるが、これは純金に強化材を分散させたものでも、金と他の金属、特に白金、ロジウム、イリジウム、パラジウムとの合金に強化材を分散させたものでもよい。金と他の金属との合金を使用する場合には、金の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることが最も好ましい。金の含有量が低すぎるとガラスに対する着色抑制が十分でなく、光学ガラスとしては透明性が低下し、不適格な材料となりやすい。
【0022】
さらに、前記強化金に使用する強化材としては公知の金属用強化材が使用できるが、金属酸化物を分散させることが最も好ましい。このような金属酸化物を強化材として分散させた強化金を使用することにより、溶融ガラスとの接触による磨耗の減少、加熱時の変形抑制などの効果が期待できる。この場合、強化材が少なすぎると、物理的強度が不十分になりやすい。金の全質量に対して好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.08%以上、最も好ましくは0.10%以上の強化材が分散される。
【0023】
強化材として使用することができる金属酸化物は、Ti、Zr、Hf、Y、Nb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物であることが好ましく、Ti、Zr、Hf、Yのいずれか1種以上の酸化物であることがより好ましく、酸化ジルコニウムを使用することが最も好ましい。
【0024】
Bi及び/又はTeOを多量に含有するガラスの溶融及び/又は成形は、まずガラス原料(粉体原料或いはカレット)を溶融槽にて溶融し、溶融槽に接続された流路から溶融ガラスを流出させ、流路先端から成形型上に流下させ、光学ガラスを成形する工程によりなる。本発明の製造方法では特に溶融槽(坩堝)、流路、攪拌用スターラーに、前記強化金を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、前記金属材料を光学ガラスの溶融槽として使用する場合は、少なくともガラスと接触する面、すなわち内壁が前記強化金であることが好ましいが、溶融槽製作上の便宜から、溶融槽全体が強化金で作製されることが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、前記金属材料を光学ガラス流出の際の流路として使用する場合は、少なくともガラスと接触する面、すなわち流路内壁が前記強化金で作成されることが好ましいが、流路製作上の便宜から、流路全体が強化金からなることが好ましい。
【0027】
本明細書中において「流路」とは、前記溶融槽に接続され、溶融ガラスを型に流出させる際の、ガラス流が通過する流路全体及び流出口を含む概念である。つまりいわゆるパイプ、オリフィス、ノズルはすべて「流路」に含まれることとなる。
【0028】
本発明の製造方法において、前記金属材料を溶融された光学ガラスを攪拌するためのスターラーとして使用する場合は、少なくとも前記スターラーの溶融ガラスとの接触部分が前記表面層で形成されていることが好ましいが、スターラー製作上の便宜から、スターラー全体が強化金からなることが好ましい。
【実施例】
【0029】
本発明を下記実施例により詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0030】
酸化物基準の質量%で、Bi 80%、B 8%、SiO 2%を有するガラス組成となるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の通常のガラス原料を所定量秤量し、均一に混合した後、石英坩堝に投入し、800℃で1時間粗溶解した。その後、溶解物をキャストすることによりカレットを作製した。
【0031】
(実施例1)
前記カレット400gを、酸化ジルコニウムを0.1%分散させた強化金製の坩堝(Φ100mm、高さ100mm、厚み1.0mm)に入れ、800℃で24時間保温した。その後キャストし、ガラスの着色は比較例1,2と並べて着色具合を目視比較し、坩堝内壁の状態は目視で観察した。結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
前記カレット400gを純金製の坩堝(Φ100mm、高さ100mm、厚み1.0mm)に入れ、800℃で24時間保温した。その後冷却し、ガラスの着色は実施例と並べて着色具合を目視比較し、坩堝内壁の状態は目視で観察した。結果を表1に示す。
【0033】
(比較例2)
前記カレット400gを、酸化ジルコニウムを0.1%分散させた強化白金製の坩堝(Φ100mm、高さ100mm、厚み1.0mm)にいれ、1000℃で24時間保温した。その後キャストし、ガラスの着色は実施例と並べて着色具合を目視比較し、坩堝内壁の状態は目視で観察した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
このように、実施例1のガラスは比較例2に比べ、溶融時の着色を抑えることができ、また溶解時の損傷も防止できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金を90%質量以上含有しかつ強化材を分散させた金属材料からなる部材を使用して、酸化物基準でBi及び/又はTeOを30質量%以上含有するガラス原料を溶融し、且つ/又は、
前記ガラス原料が溶融した溶融ガラスを成形したことを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
前記金属材料からなる溶融槽を使用して、前記ガラス原料を溶解したことを特徴とする請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
前記金属材料からなるスターラーを使用して、前記溶融ガラスを攪拌したことを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
前記金属材料からなる流路を通して、前記溶融ガラスを溶融槽から流出させたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載の光学ガラス。
【請求項5】
前記強化材が金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載の光学ガラス。
【請求項6】
前記金属酸化物が、Ti、Zr、Hf、Y、Nb、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される1種以上の金属の酸化物であることを特徴とする請求項5に記載の光学ガラス。
【請求項7】
前記金属酸化物が、金の全質量に対し0.05質量%以上含有されることを特徴とする請求項5又は6に記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2012−106928(P2012−106928A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17250(P2012−17250)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【分割の表示】特願2007−106854(P2007−106854)の分割
【原出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】