説明

光学ガラス及び分光透過率の劣化抑制方法

【課題】分光透過率の経時的な劣化が抑制された光学ガラス及びガラスの分光透過率の劣化抑制方法を得る。
【解決手段】光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSb成分の含有量が0.5%以下であり、ソラリゼーション(波長450nmにおける分光透過率の劣化量)が5.0%以下のものである。また、ガラスの分光透過率の劣化抑制方法は、ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス及び分光透過率の劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられる球面レンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
【0003】
こうした光学素子の製造には、ガラス材料を加熱軟化して成形(リヒートプレス成形)して得られた成形ガラスを研削研磨する方法や、ゴブ又はガラスブロックを切断し研削研磨したプリフォーム材、若しくは公知の浮上成形等により成形されたプリフォーム材を加熱軟化して、高精度な成形面を持つ金型で加圧成形する方法(精密プレス成形)が用いられている。
【0004】
このようなリヒートプレス成形や精密プレス成形に用いられるガラスとして、SiO成分、並びにNb成分及び/又はTiO成分を含有する光学ガラスが知られている。このような光学ガラスとして、特許文献1及び2に代表されるような組成を有するガラス知られている。例えば、屈折率(n)が1.63〜1.75、アッベ数(ν)が23〜35の光学ガラスが特許文献1に示されており、屈折率(n)が1.80以上、アッベ数(ν)が30以下の光学ガラスが特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−087841号公報
【特許文献2】特開2004−155639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2で開示されたガラスでは、太陽光等に含まれる紫外線によって分光透過率が低下するソラリゼーションの問題があった。ソラリゼーションの大きいガラスは、紫外線が長時間照射されることにより着色するため、製造当初の所望の分光透過率を維持することは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、分光透過率の経時的な劣化が抑制された光学ガラス及び分光透過率の劣化抑制方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、光学ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減し、より好ましくは光学ガラス中に混入されるPt成分,Fe成分の含有量を調整することによって、光学ガラスのソラリゼーションが低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSb成分の含有量が0.5%以下であり、ソラリゼーション(波長450nmにおける分光透過率の劣化量)が5.0%以下である光学ガラス。
【0010】
(2) Pt成分の含有量が15ppm以下である(1)記載の光学ガラス。
【0011】
(3) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、Fe成分の含有量が50ppm以下である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0012】
(4) SiO成分及びNb成分、及び/又はTiO成分を含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0013】
(5) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下、及びNb成分を10.0%以上65.0%以下含有し、TiO成分の含有量が40.0%以下である(4)記載の光学ガラス。
【0014】
(6) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜40.0%、及び/又は
GeO成分 0〜30.0%、及び/又は
Al成分 0〜15.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%、及び/又は
Ta成分 0〜20.0%、及び/又は
WO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%、及び/又は
MgO成分 0〜20.0%、及び/又は
CaO成分 0〜30.0%、及び/又は
SrO成分 0〜30.0%、及び/又は
BaO成分 0〜30.0%、及び/又は
LiO成分 0〜20.0%、及び/又は
NaO成分 0〜30.0%、及び/又は
O成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(7) 酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜50.0%、及び/又は
Gd成分 0〜30.0%、及び/又は
成分 0〜30.0%、及び/又は
Ga成分 0〜20.0%、及び/又は
TeO成分 0〜50.0%、及び/又は
Bi成分 0〜50.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(8) 部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(9) ガラス転移点(Tg)が400℃以上650℃以下である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(10) (1)から(9)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0019】
(11) (1)から(9)のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【0020】
(12) (1)から(9)のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【0021】
(13) (11)又は(12)記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【0022】
(14) ガラスの分光透過率の劣化抑制方法であって、ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減する分光透過率の劣化抑制方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、光学ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減し、より好ましくは光学ガラス中に混入されるPt成分,Fe成分の含有量を調整することによって、紫外線の長時間照射による光学ガラスのソラリゼーションが低減された光学ガラス及び分光透過率の劣化抑制方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】Sb成分の含有量とソラリゼーションの関係を示す図である。
【図2】各Sb成分含有量における、Pt成分の含有量とソラリゼーションの関係を示す図である。
【図3】Fe成分の含有量とソラリゼーションの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSb成分の含有量が0.5%以下であり、ソラリゼーション(波長450nmにおける分光透過率の劣化量)が5.0%以下である。光学ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減することによって、ガラスのソラリゼーションが低減される。このため、分光透過率の経時的な劣化が抑制された光学ガラス及び光学素子を得ることができる。
【0026】
また、本発明のガラスの分光透過率の劣化抑制方法は、ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減するものである。ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減することで、光学ガラスのソラリゼーションが低減される。このため、分光透過率の経時的な劣化が抑制されたレンズプリフォームや光学素子をより確実に作製することができる。
【0027】
以下、本発明の光学ガラス、及び分光透過率の劣化抑制方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
[光学ガラス]
まず、本発明の光学ガラスの成分及び物性について説明する。なお、本発明の分光透過率の劣化抑制方法で用いられるガラスは、Sb成分の含有量が所定以下のガラスである限り特に限定されないが、その中でも、以下に述べるような光学ガラスであることが好ましい。
【0029】
以下、本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は特に断りがない場合は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0030】
<含有量を抑えるべき成分について>
まず、本発明の光学ガラスにおいて含有量を抑えるべき成分について説明する。
【0031】
Sb成分は、ガラスを溶融する際に脱泡効果を有する成分であるが、紫外線照射によって光学ガラスのソラリゼーションが高まる一因となる。特に、図1に示すように、Sb成分の含有量を0.5%以下にすることで、ソラリゼーションが5.0%以下に低減され易くなるため、長期間用いても分光透過率が劣化し難い光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは0.5%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.2%を上限とする。なお、Sb成分の含有量は、この範囲内であれば技術的には特に不利益は無いが、図1に示すように、Sb成分の含有量を0%より多くすることで、Sb成分を含有しない場合に比べてソラリゼーションを低くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSb成分の含有量は、好ましくは0%より多く、より好ましくは0.0001%、最も好ましくは0.001%を下限とする。Sb成分は、原料として例えばSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0032】
Pt成分は、光学ガラスを製造する際に、例えば白金坩堝等の部材から光学ガラス中に混入する成分であるが、紫外線照射によって光学ガラスのソラリゼーションが高まる一因となる。特に、図2に示すように、光学ガラスのPt成分の含有量を15ppm以下にすることで、ソラリゼーションが低減され易くなるため、長期間用いても分光透過率が変化し難い光学ガラスを得易くすることができる。従って、光学ガラスにおけるPt成分の含有量は、好ましくは15ppm、より好ましくは10ppm、最も好ましくは7ppmを上限とする。Pt成分は、材料としてPt成分を含まなくても白金坩堝等の白金部材からの溶出によって光学ガラス中に含まれる成分であるが、例えば白金坩堝におけるガラスの溶融時間を短縮し、或いはガラスの溶融温度を低くすることで、光学ガラス中への混入量を低減することができる。なお、図2に示すように、Pt成分の含有量の抑制に加えて、Sb成分の含有量の抑制を同時に行うことで、光学ガラスのソラリゼーションがより低減され易くなる。このときも、Sb成分の含有量を0%より多くすることで、Sb成分を含有しない場合に比べてソラリゼーションを低くすることができる。
【0033】
Fe成分は、光学ガラスを製造する際に、例えば光学ガラスの原料の不純物として光学ガラス中に混入する成分であるが、紫外線照射によって光学ガラスのソラリゼーションが高まる一因となる。特に、図3に示すように、Fe成分の含有量を50ppm以下にすることで、ソラリゼーションが5.0%以下に低減され易くなるため、長期間用いても分光透過率が変化し難い光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するFe成分の含有量は、好ましくは50ppm、より好ましくは10ppm、最も好ましくは5ppmを上限とする。Fe成分は、例えばFe成分の少ない光学ガラスの原料を選ぶことで、光学ガラス中への混入量を低減することができる。なお、Fe成分の含有量の抑制に加えて、Sb成分及びPt成分の含有量の抑制を同時に行うことで、光学ガラスのソラリゼーションがより低減され易くなる。
【0034】
<必須成分、任意成分について>
次に、本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスの必須成分及び任意成分について説明する。
【0035】
SiO成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分である。特に、SiO成分の含有量を1.0%以上にすることで、安定なガラスが得られる程度にガラスの網目構造が増加するため、ガラスの耐失透性を高めることができる。一方、SiO成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、所望の屈折率を有する光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは10.0%を下限とし、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、最も好ましくは40.0%を上限とする。SiO成分は、原料として例えばSiO、KSiF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0036】
Nb成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの屈折率を高める成分である。特に、Nb成分の含有量を65.0%以下にすることで、耐失透性の低下が抑えられ、所望の分散性を有するガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは65.0%、より好ましくは60.0%、最も好ましくは55.0%を上限とする。また、本発明の光学ガラスでは、Nb成分の含有量を10.0%以上にすることで、所望の屈折率及び部分分散比(θg,F)を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とする。Nb成分は、原料として例えばNb等を用いてガラス内に含有することができる。
【0037】
TiO成分は、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低下させる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。TiO成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスへの着色を低減し、特に可視短波長(500nm以下)における内部透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、TiO成分を含有しなくとも、ソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することはできるが、TiO成分を含有することで、所望の屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有量は、好ましくは0%を超え、より好ましくは0.1%、最も好ましくは1.0%を下限とする。TiO成分は、原料として例えばTiO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0038】
成分は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの骨格を形成する為に有用な成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、B成分の含有量を40.0%以下にすることで、ガラスの屈折率が低下し難くなり、可視光短波長領域における内部透過率が悪化し難くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。B成分は、原料として例えばHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いてガラス内に含有することができる。なお、本発明の光学ガラスでは、B成分を含有しなくとも、ソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することはできるが、B成分の含有量を0.1%以上にすることで、耐失透性の改善された光学ガラスをより得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。
【0039】
GeO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスを安定化させて成形時の失透を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、GeO成分の含有量を30.0%以下にすることで、高価なGeO成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGeO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。GeO成分は、原料として例えばGeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0040】
Al成分は、ガラスの化学的耐久性を改善する成分である。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al成分は、原料として例えばAl、Al(OH)、AlF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0041】
ZrO成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を高め、かつガラスの化学的耐久性を改善する成分であり、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させる効果のある任意成分である。特に、ZrO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは11.0%を上限とする。ZrO成分は、原料として例えばZrO、ZrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0042】
Ta成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を維持することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTa成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Ta成分は、原料として例えばTa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0043】
WO成分は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有量を20.0%以下にすることで、特に可視短波長(500nm以下)における透過率を悪化し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。WO成分は、原料として例えばWO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
ZnO成分は、ガラスの失透温度を下げ、ガラス転移点(Tg)を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0045】
MgO成分は、ガラスの溶融温度を低下する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgO、MgCO、MgF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0046】
CaO成分は、ガラスの失透温度を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。CaO成分は、原料として例えばCaCO、CaF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
SrO成分は、ガラスの失透温度を下げ、ガラスの屈折率を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。SrO成分は、原料として例えばSr(NO、SrF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
BaO成分は、ガラスの失透温度を下げ、ガラスの光学定数を調整する成分である。特に、BaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。BaO成分は、原料として例えばBaCO、Ba(NO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
本発明の光学ガラスでは、RO成分(式中、RはZn、Mg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)は、上述のようにガラスの失透温度を下げ、屈折率を調整するために有用な成分であるが、これらRO成分の合計含有量が多すぎると、ガラスの耐失透性が悪化し易くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、RO成分を含有しなくともソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することは可能であるが、RO成分の合計含有量を1.0%以上にすることで、ガラスの光学定数の調整を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRO成分の合計含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。
【0050】
LiO成分は、ガラスの部分分散比(θg,F)を低下させ、ガラスの失透温度を下げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ソラリゼーションが高まり難くなるため、ソラリゼーションの低減された光学ガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、LiO成分を含有しなくともソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することは可能であるが、LiO成分の合計含有量を0.1%以上にすることで、ガラス転移点(Tg)を低くしてプレス成形を行い易いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の合計含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、最も好ましくは1.0%を下限とする。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0051】
NaO成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、NaO成分を含有しなくともソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することは可能であるが、NaO成分の合計含有量を0.1%以上にすることで、ガラス転移点(Tg)を低くしてプレス成形を行い易いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の合計含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは3.0%を下限とする。NaO成分は、原料として例えばNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0052】
O成分は、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは2.0%を上限とする。KO成分は、原料として例えばKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いてガラス内に含有することができる。
【0053】
本発明の光学ガラスでは、RnO成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、20.0%以下であることが好ましい。この質量和を20.0%以下にすることで、ガラスの失透温度の上昇を抑えてガラス化を容易にすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の含有量の質量和は、好ましくは20.0%、より好ましくは17.0%、最も好ましくは15.0%を上限とする。なお、本発明の光学ガラスでは、RnO成分を含有しなくともソラリゼーションの低減された光学ガラスを作製することは可能であるが、RnO成分の合計含有量を1.0%以上にすることで、ガラス転移点(Tg)を低くしてプレス成形を行い易いガラスを得ることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するRnO成分の合計含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、最も好ましくは5.0%を下限とする。
【0054】
La成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、La成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。La成分は、原料として例えばLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0055】
Gd成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスのアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Gd成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Gd成分は、原料として例えばGd、GdF等を用いることができる。
【0056】
成分は、ガラスの屈折率を高めつつ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Y成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの液相温度の上昇が抑えられるため、溶融状態からガラスを作製したときにガラスを失透し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Y成分は、原料として例えばY、YF等を用いることができる。
【0057】
本発明の光学ガラスでは、Ln成分(式中、LnはLa、Y、Gdからなる群より選択される1種以上)の含有量の質量和が、30.0%以下であることが好ましい。この質量和を30.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLn成分の含有量の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。
【0058】
Ga成分は、ガラスの屈折率を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ga成分の含有量を20.0%以下にすることで、高価なGa成分の使用量が低減されるため、ガラスの材料コストを低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGa成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。Ga成分は、原料として例えばGa等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
TeO成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、TeO成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTeO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、最も好ましくは10.0%未満とする。TeO成分は、原料として例えばTeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
Bi成分は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点(Tg)を低くする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減し、ガラスの内部透過率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBi成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、最も好ましくは10.0%未満とする。Bi成分は、原料として例えばBi等を用いてガラス内に含有することができる。
【0061】
CeO成分は、ガラスの光学定数を調整し、ガラスのソラリゼーションを改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、CeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスのソラリゼーションを低下させることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。但し、CeO成分を含有すると可視域の特定の波長に吸収が生じ易くなるため、ガラスの着色の面では、CeO成分を実質的に含まないことが好ましい。CeO成分は、原料として例えばCeO等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤や脱泡剤、或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0063】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0064】
本発明の光学ガラスには、他の成分をガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0065】
ただし、Ti、Zr、Nbを除く、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0066】
さらに、PbO等の鉛化合物及びAs等のヒ素化合物、並びに、Th、Cd、Tl、Os、Be、Seの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0067】
本発明の光学ガラスとして好ましく用いられるガラスは、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
SiO成分 1.0〜70.0モル%及び
Nb成分 3.0〜25.0モル%
並びに
TiO成分 0〜50.0モル%及び/又は
成分 0〜55.0モル%及び/又は
GeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Al成分 0〜15.0モル%及び/又は
ZrO成分 0〜15.0モル%及び/又は
Ta成分 0〜5.0モル%及び/又は
WO成分 0〜10.0モル%及び/又は
ZnO成分 0〜40.0モル%及び/又は
MgO成分 0〜45.0モル%及び/又は
CaO成分 0〜55.0モル%及び/又は
SrO成分 0〜30.0モル%及び/又は
BaO成分 0〜20.0モル%及び/又は
LiO成分 0〜55.0モル%及び/又は
NaO成分 0〜45.0モル%及び/又は
O成分 0〜20.0モル%及び/又は
La成分 0〜15.0モル%及び/又は
Gd成分 0〜10.0モル%及び/又は
成分 0〜15.0モル%及び/又は
Ga成分 0〜10.0モル%及び/又は
TeO成分 0〜30.0モル%及び/又は
Bi成分 0〜20.0モル%及び/又は
CeO成分 0〜3.0モル%
【0068】
<物性>
本発明の光学ガラスは、ソラリゼーションが5.0%以下であることが好ましい。これにより、光学ガラスを組み込んだ機器は、長期間の使用によってもカラーバランスが悪くなり難くなる。特に、使用温度が高いほどソラリゼーションはより大きく低減するため、車載用等、高温下で用いられる場合に、本発明の光学ガラスは特に有効である。従って、本発明の光学ガラスのソラリゼーションは、好ましくは5.0%、より好ましくは4.8%、最も好ましくは4.5%を上限とする。なお、本明細書中において「ソラリゼーション」とはガラスに紫外線を照射した場合の450nmにおける分光透過率の劣化量を表すものであり、具体的には、日本光学硝子工業会規格JOGIS04−1994「光学ガラスのソラリゼーションの測定方法」に従い、高圧水銀灯の光を照射した前後の分光透過率をそれぞれ測定することにより求められる。
【0069】
また、本発明の光学ガラスは、アッベ数(ν)との関係式において所望の部分分散比(θg,F)を有し、レンズの色収差をより高精度に補正できる。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、且つ、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす。これにより、低いソラリゼーションを有しつつ所望の部分分散比(θg,F)を有する光学ガラスが得られるため、光学機器におけるレンズの色収差を、長期間にわたり高精度に補正することができる。ここで、ν≦25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6346)、より好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6366)、最も好ましくは(−1.60×10−3×ν+0.6386)を下限とする。また、ν>25における光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6571)、より好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6591)、最も好ましくは(−2.50×10−3×ν+0.6611)を下限とする。一方で、光学ガラスの部分分散比(θg,F)の上限は、好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7207)、より好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7187)、さらに好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7177)、最も好ましくは(−4.21×10−3×ν+0.7172)である。なお、特にアッベ数(ν)が小さい領域では、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)はノーマルラインよりも高い値にあり、一般的なガラスの部分分散比(θg,F)とアッベ数(ν)の関係は曲線で表される。しかしながら、この曲線の近似が困難であるため、本発明では、一般的なガラスよりも部分分散比(θg,F)が低いことを、ν=25を境に異なった傾きを有する直線を用いて表した。
【0070】
また、本発明の光学ガラスは、400℃以上650℃以下のガラス転移点(Tg)を有することが好ましい。ガラス転移点(Tg)が400℃以上であることにより、ガラスに対して研磨加工を行う際に発生する摩擦熱による悪影響を低減することができる。一方で、ガラス転移点(Tg)が650℃以下であることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、モールドプレス成形に用いる金型の酸化を低減して長寿命化を図ることができる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは400℃、より好ましくは450℃、最も好ましくは500℃を下限とし、好ましくは650℃、より好ましくは620℃、最も好ましくは600℃を上限とする。
【0071】
また、本発明の光学ガラスは、450℃以上700℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点(At)は、ガラス転移点(Tg)と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点(At)が450℃以上のガラスを用いることにより、ガラスに対して研磨加工を行う際に発生する摩擦熱による悪影響を低減することができる。また、屈伏点(At)が700℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは450℃、より好ましくは500℃、最も好ましくは540℃を下限とし、好ましくは700℃、より好ましくは670℃、最も好ましくは650℃を上限とする。
【0072】
また、本発明の光学ガラスは、所定の屈折率及び分散(アッベ数)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.78、より好ましくは1.80、最も好ましくは1.82を下限とし、好ましくは1.95、より好ましくは1.92、最も好ましくは1.90を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは18、より好ましくは20、最も好ましくは22を下限とし、好ましくは30、より好ましくは28、最も好ましくは27を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、更に素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0073】
[ガラスの分光透過率の劣化抑制方法]
次に、本発明のガラスの分光透過率の劣化抑制方法について説明する。本発明の分光透過率の劣化抑制方法では、ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減する。これにより、紫外線を照射してもガラスのソラリゼーションが低減される。このため、分光透過率の経時的な劣化が抑制された光学ガラスを得易くすることができる。ここで、Sb成分の含有量を低減する手段は、例えば原料に含まれるSb成分の含有量を低減する手段が用いられるが、これに限定されない。また、Pt成分、Fe成分を低減させる方法を併用すると更に有効である。
【0074】
[ガラス及びガラス成形体の作製]
本発明の光学ガラス、及び本発明の分光透過率の劣化抑制方法で用いられるガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝又は白金合金坩堝に入れて所定の温度範囲で所定時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、溶融ガラスの温度を下げ、金型に鋳込んで徐冷することにより、光学ガラスが作製される。ここで、白金坩堝を用いて材料を溶融した場合、高温でのガラスの溶融が可能になるため、溶解温度の高いガラス、例えば上述のSiO成分、並びにNb成分及び/又はTiO成分を含有するガラスであっても効率よく溶解することができるが、白金坩堝からガラスにPt成分が溶出し易くなる。従って、ガラスへのPt成分の溶出を低減するには、ガラスの溶解温度は好ましくは1400℃、より好ましくは1300℃、最も好ましくは1200℃を上限とし、ガラスの溶融時間は好ましくは6時間、より好ましくは4時間、最も好ましくは2時間とする。
【0075】
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のレンズプリフォームを作製し、このレンズプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、例えば研磨加工を行って作製したレンズプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0076】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子に有用であるが、その中でも特に、レンズやプリズム等の光学素子の用途に用いることが好ましい。これにより、光学素子の分光透過率の経時的な劣化が抑制されるため、長期間の使用によっても光学素子のカラーバランスを悪くなり難くすることができる。
【実施例】
【0077】
本発明の実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)の組成、並びに、これらのガラスのPt成分及びFe成分の濃度、屈折率(n)、アッベ数(ν)、光照射前後における波長450nmの分光透過率、ソラリゼーション、部分分散比(θg,F)、ガラス転移点(Tg)、並びに屈伏点(At)の結果を表1〜表22に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0078】
本発明の実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1〜表22に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200〜1350℃の温度範囲で2〜4時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1100〜1200℃に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0079】
ここで、実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスのPt成分及びFe成分の含有量は、実施例及び比較例の組成を有するガラスを粉末状にし、酸処理することにより得られた溶液について、ICP発光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製 Vista−PRO)を用いて測定した。
【0080】
また、実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスのソラリゼーションは、日本光学硝子工業会規格JOGIS04−1994「光学ガラスのソラリゼーションの測定方法」に準じて、光照射前後における波長450nmの光透過率の変化(%)を測定した。ここで、光の照射は、光学ガラス試料を100℃に加熱し、超高圧水銀灯を用いて波長450nmの光を4時間照射することにより行った。
【0081】
また、実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν)及び部分分散比(θg,F)の値について、関係式(θg,F)=−a×ν+bにおける、傾きaが0.0016、0.0020及び0.00421のときの切片bを求めた。なお、本測定に用いたガラスは、徐冷降温速度を−25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。
【0082】
また、実施例(No.1〜No.159)及び比較例(No.1〜No.2)のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、示差熱測定装置(ネッチゲレテバウ社製 STA 409 CD)を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプル粒度は425〜600μmとし、昇温速度は10℃/minとした。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
【表11】

【0094】
【表12】

【0095】
【表13】

【0096】
【表14】

【0097】
【表15】

【0098】
【表16】

【0099】
【表17】

【0100】
【表18】

【0101】
【表19】

【0102】
【表20】

【0103】
【表21】

【0104】
【表22】

【0105】
表1〜表22に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもソラリゼーションが5.0%以下、より詳細には4.3%以下であり、所望の範囲内であった。一方で、比較例のガラスは、ソラリゼーションが5.0%より大きかった。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて紫外線の長時間照射による光学ガラスのソラリゼーションが低減されていることが明らかになった。
【0106】
本発明の実施例の光学ガラスは、ν≦25のものは部分分散比(θg,F)が(−1.60×10−3×ν+0.6346)以上、より詳細には(−1.60×10−3×ν+0.6497)以上であった。また、ν>25のものは、部分分散比(θg,F)が(−2.50×10−3×ν+0.6571)以上、より詳細には(−2.50×10−3×ν+0.6670)以上であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は(−4.21×10−3×ν+0.7207)以下、より詳細には(−4.21×10−3×ν+0.7187)以下であった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。一方、本発明の比較例のガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が(−4.21×10−3×ν+0.7187)を超えていた。従って、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べ、アッベ数(ν)との関係式において部分分散比(θg,F)が小さいことが明らかになった。
【0107】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.78以上、より詳細には1.82以上であるとともに、この屈折率(n)は1.95以下、より詳細には1.90以下であり、所望の範囲内であった。
【0108】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が18以上、より詳細には22以上であるとともに、このアッベ数(ν)は30以下、より詳細には27以下であり、所望の範囲内であった。
【0109】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が400℃以上、より詳細には500℃以上であるとともに、このガラス転移点(Tg)は650℃以下、より詳細には600℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0110】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈伏点(At)が450℃以上、より詳細には540℃以上であるとともに、この屈伏点(At)は700℃以下、より詳細には650℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0111】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いてリヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工してガラス成形体を得た。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用のレンズプリフォームを形成し、このレンズプリフォームを精密プレス成形加工してガラス成形体を得た。その結果、本発明の実施例の光学ガラスは、Sb成分の含有量が所定量以下であり、得られたガラス成形体はソラリゼーションが少なく、長期間にわたりレンズ及びプリズムとして所定の分光透過率を有することが可能なガラス成形体を得ることができた。一方で、比較例のガラスは、所定以上のSb成分が含まれており、得られたガラス成形体は紫外線によって容易に着色した。このため、本発明の実施例の光学ガラスから作製されるガラス成形体は、比較例のガラスから作製されるガラス成形体に比べて、ソラリゼーションが低減されており、分光透過率の経時的な劣化が抑制されていることが明らかになった。
【0112】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSb成分の含有量が0.5%以下であり、ソラリゼーション(波長450nmにおける分光透過率の劣化量)が5.0%以下である光学ガラス。
【請求項2】
Pt成分の含有量が15ppm以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、Fe成分の含有量が50ppm以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
SiO成分及びNb成分、及び/又はTiO成分を含有する請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%でSiO成分を1.0%以上60.0%以下、及びNb成分を10.0%以上65.0%以下含有し、TiO成分の含有量が40.0%以下である請求項4記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
成分 0〜40.0%、及び/又は
GeO成分 0〜30.0%、及び/又は
Al成分 0〜15.0%、及び/又は
ZrO成分 0〜20.0%、及び/又は
Ta成分 0〜20.0%、及び/又は
WO成分 0〜20.0%、及び/又は
ZnO成分 0〜30.0%、及び/又は
MgO成分 0〜20.0%、及び/又は
CaO成分 0〜30.0%、及び/又は
SrO成分 0〜30.0%、及び/又は
BaO成分 0〜30.0%、及び/又は
LiO成分 0〜20.0%、及び/又は
NaO成分 0〜30.0%、及び/又は
O成分 0〜20.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全質量に対して、質量%で
La成分 0〜50.0%、及び/又は
Gd成分 0〜30.0%、及び/又は
成分 0〜30.0%、及び/又は
Ga成分 0〜20.0%、及び/又は
TeO成分 0〜50.0%、及び/又は
Bi成分 0〜50.0%、及び/又は
CeO成分 0〜10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
部分分散比(θg,F)がアッベ数(ν)との間で、ν≦25の範囲において(−1.60×10−3×ν+0.6346)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たし、ν>25の範囲において(−2.50×10−3×ν+0.6571)≦(θg,F)≦(−4.21×10−3×ν+0.7207)の関係を満たす請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
ガラス転移点(Tg)が400℃以上650℃以下である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【請求項13】
請求項11又は12記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【請求項14】
ガラスの分光透過率の劣化抑制方法であって、
ガラスに含まれるSb成分の含有量を低減する分光透過率の劣化抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105902(P2010−105902A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185320(P2009−185320)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】