説明

光学ガラス

【課題】本発明は、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下、かつ溶融・冷却後の熱処理なしに70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下の高屈折率、高分散性及び高透過性でしかも液相温度が低く、軟化点近傍の耐失透性に優れた、光学素子の小型化・薄型化に好適な、リン酸塩系光学ガラスを提供する。
【解決手段】酸化物基準の質量%で、P:15〜35、Nb:35〜60、TiO:6〜20、WO:0.1〜15、B:0.1〜1.0未満、KO:0.1〜10、NaO:0.1〜5.5未満、LiO:0〜3、SiO:0〜3、Bi:0〜5.0未満、BaOを実質的に含有せず、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下、かつ70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下である光学ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率、高分散性及び高透過性でしかも液相温度が低く、軟化点近傍の耐失透性に優れたリン酸塩系光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下の高屈折率・高分散のP−TiO系ガラスが提案されているが、熱処理しない場合には、紫色に着色し70%分光透過率を与える波長λ70(以下、単にλ70と略記することもあり)が620nm以上と透過特性が悪い。また、透過特性を改善するための熱処理によりガラス内部に失透が発生し、所望の透過特性を維持できないおそれがある。また、工程の複雑化、透過率の不均一化等のおそれもある。
【0003】
特許文献2では、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下の高屈折率・高分散のP−B−Nb−TiO系ガラスが提案されているが、軟化点失透性が良好なガラスは、液相温度が1140℃と高く、生産性やガラス成形設備の耐久性などの点で問題がある。
【0004】
特許文献3では、屈折率n;1.9以上、アッベ数ν;20以下、かつλ70が520nm以下の高屈折率、高分散性及び高透過性の、Sbを添加した、P−B−Nb−TiO−BaO系ガラスが提案されているが、軟化点付近で失透し、透過率が低下しやすくなるという問題点がある。
【0005】
特許文献4では、高屈折率、高分散性のP−Nb−Bi−TiO系のプレス成形用光学ガラスが提案されているが、屈折率n;1.9以上、アッベ数ν;20以下のものは具体的組成としては提案されていない。また、P系ガラス中のTiイオン又はNbイオンが還元されて着色するのを防止するためSbを含有するが、その含有量によっては光透過性が悪化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−345481号公報
【特許文献2】特開平8−104537号公報
【特許文献3】特開2005−206433号公報
【特許文献4】特開2003−160355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下、かつ溶融・冷却後の熱処理なしに70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下の高屈折率、高分散性及び高透過性でしかも液相温度が低く、軟化点近傍の耐失透性に優れた、光学素子の小型化・薄型化に好適な、リン酸塩系光学ガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸化物基準の質量%で、
:15〜35、
Nb:35〜60、
TiO:6〜20、
WO:0.1〜15、
:0.1〜1.0未満、
O:0.1〜10、
NaO:0.1〜5.5未満、
LiO:0〜3、
SiO:0〜3、
Bi:0〜5.0未満、
BaOを実質的に含有せず、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下、かつ70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下である光学ガラスを提供する。なお、特に断りがない場合は、上記化学組成の数値範囲の「下限値」は「以上」を、「上限値」は「以下」を、それぞれ示すものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、P−Nb−B−TiO系ガラスに、WO、KO及びNaOを必須成分とすることにより、屈折率n:1.9以上、アッベ数ν:20以下で、溶融・冷却後の熱処理なしに70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下と光線透過性に優れる光学ガラスが得られることを見出した。
【0010】
本発明では、KOを適正量含み、且つWOを必須成分とすることにより、液相温度を大幅に下げることができ、ガラス融液の酸化還元状態を容易に制御できる。しかも、併せてアルカリ量を適正量に制御することで、軟化点付近での失透(乳白)、すなわち透過率の低下を防止できる。本発明の光学ガラス(以下、本ガラスという)により、光学製品の小型化・薄型化に最適な光学レンズなどの光学素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本ガラスの各成分範囲を設定した理由は、以下のとおりである。なお、本明細書では、以下、特に断りのない限り%は質量%を意味するものとする。また、化学組成は、酸化物基準とする。
【0012】
は必須の成分であり、ガラスを形成する主成分(ガラス形成酸化物)であるとともに、ガラスの粘性を高める成分である。本発明において、P含有量が少なすぎると、液相温度が高くなるか、或いは軟化温度近傍の耐失透性が悪化する。したがって、本ガラスのP含有量は15%以上である。P含有量が、20%以上であると好ましく、P含有量が、23%以上であるとさらに好ましい。一方、P含有量が過剰であると屈折率が1.9を下回ってしまう。したがって、本ガラスのP含有量は35%以下である。P含有量が、30%以下であると好ましく、P含有量が、28%以下であるとさらに好ましい。
【0013】
本ガラスにおいて、Nbはガラスの屈折率を高める効果を有する重要な必須の成分である。含有量が少なすぎると前記効果が不充分となることから、本ガラスにおいて、Nb含有量は35%以上である。本ガラスにおいて、Nb含有量が38%以上であると好ましく、Nb含有量が40%以上であるとさらに好ましい。一方、Nb含有量が多くなると、ガラスが着色しやすくなるだけでなくガラス化しにくくなることから、本ガラスのNb含有量は60%以下である。Nb含有量が、55%以下であると好ましく、Nb含有量が53%以下であるとさらに好ましい。
【0014】
本ガラスにおいて、TiOはガラスを高屈折率化させるほか、高分散化にも大きな効果を有する重要な必須の成分である。TiO含有量が少なすぎると前記効果が低くなるため、本ガラスのTiO含有量は6%以上である。本ガラスにおいて、TiO含有量が7%以上であると好ましく、TiO含有量が8%以上であるとさらに好ましい。
【0015】
一方、本ガラスにおいて、TiO含有量が多くなると可視域の光透過特性が低下するほか、ガラスが不安定となり、さらに液相温度も高くなることから、本ガラスのTiO含有量は20%以下である。本ガラスにおいて、TiO含有量が18%以下であると好まく、TiO含有量が16%以下であるとさらに好ましい。
【0016】
本ガラスにおいてWOはガラスを高屈折率化させるほか、高分散化にも大きな効果を有する重要な必須の成分である。また、TiO成分での置換が可能で、高屈折率、高分散を維持しながら、耐失透性にも優れるガラスが得られる。本ガラスにおいて、WO含有量が少なすぎると前記効果が低くなるため、WO含有量は0.1%以上である。本ガラスにおいて、WO含有量が1%以上であると好ましく、WO含有量が2%以上であるとさらに好ましい。
【0017】
一方、本ガラスにおいて、WO含有量が多くなると可視域の光透過特性が低下すると共にガラスが不安定になることから、WO含有量は15%以下である。本ガラスのWO含有量が14%以下であると好ましく、WO含有量が12%以下であるとさらに好ましい。
【0018】
本ガラスにおいてBは、ガラスを形成するほか、微量添加することで、液相温度の低下に大きな効果が得られる成分で必須の成分である。本ガラスにおいて、B含有量は0.1%以上である。本ガラスのB含有量が0.2%以上であると好ましく、B含有量が0.25%以上であるとさらに好ましい。一方、B含有量が多すぎると軟化点近傍の耐失透性が著しく悪化するため、本ガラスのB含有量は1.0%未満である。B含有量が0.97%以下であると好ましく、B含有量が0.94%以下であるとさらに好ましい。
【0019】
本ガラスにおいて、KOは軟化点付近の失透性を悪化させることなく、液相温度を低下させ、Tiイオン、Nbイオンの還元に起因したガラスの着色を抑制するのに効果的な成分であり、重要な必須の成分である。前記効果のためには、本ガラスのKO含有量は0.1%以上である。本ガラスのKO含有量が1%以上であると好ましく、KO含有量が1.5%以上であるとさらに好ましい。KO含有量が2%以上であると特に好ましい。一方、KO含有量が過剰になると屈折率が1.9を下回ってしまうため、本ガラスのKO含有量は10%以下である。本ガラスのKO含有量が9%以下であると好ましく、KO含有量が8%以下であるとさらに好ましい。
【0020】
本ガラスにおいて、NaOは液相温度を低下させ、ガラスの着色を抑制するのに効果的な成分であり、必須の成分である。NaO含有量が少ないと液相温度が上昇してしまうおそれがあることから、本ガラスのNaO含有量は0.1%以上である。本ガラスのNaO含有量が1%以上であると好ましく、本ガラスのNaO含有量が2%以上であるとさらに好ましい。一方、本ガラスにおいて、NaO含有量が過剰であると、軟化点近傍の耐失透性を悪化させてしまう。そのため、本ガラスのNaO含有量は5.5%未満である。本ガラスのNaO含有量が5.4%以下が好ましい。
【0021】
LiOは液相温度の低下に効果のある成分であるが同時に軟化点近傍の耐失透性を悪化させる成分でもあり、本ガラスにおいては、必須の成分ではない。LiOを含有する場合の含有量は軟化点近傍の耐失透性を悪化させてしまうため3%以下とするのが好ましい。本ガラスの、LiO含有量が0.3%未満であるとさらに好ましく、本ガラスにおいてLiOを実質的に含まないことが特に好ましい。
【0022】
また、本ガラスにおいて、軟化点付近の耐失透性、及び低い液相温度を両立させる上から、KO、NaO及びLiOの含有量をバランスさせることが好ましい。具体的には、KOに対するNaO及びLiOの合計量の質量比(KO/(NaO+LiO)、以下、この質量比をK−NaLi比とも称する)が、3.5以下であると好ましく、K−NaLi比が3以下であるとさらに好ましい。本ガラスにおいて、2.5以下であると特に好ましい。一方、本ガラスにおいて、低い液相温度を維持するためには、K−NaLi比を0.43以上とするのが好ましい。本ガラスのK−NaLi比を0.44以上とするとさらに好ましい。本ガラスのK−NaLi比を0.4以上とすると特に好ましい。
【0023】
SiOは、ガラス形成成分であり、粘度を調整する場合などに添加しても差し支えない成分で、本ガラスでは必須の成分ではない。SiO含有量が多すぎると屈折率が1.9を下回ってしまうため、含有する場合の本ガラスのSiO含有量は3%以下である。本ガラスのSiO含有量は、0.5%未満であると好ましく、SiO含有量が0.3%未満であるとさらに好ましい。
【0024】
Biはガラスを高屈折率化させるとともにガラスを軟化させる効果があるが、本ガラスでは必須の成分ではない。Bi含有量が多くなると、軟化点付近の耐失透性の低下又はアッベ数νが大きくなってしまうため、本ガラスにおいて、添加する場合のBi含有量は、5%以下であると好ましい。Bi含有量が1%以下であるとさらに好ましく、Biを実質的に含まないことが特に好ましい。
【0025】
本ガラスにおいて、Sbは、ガラス溶融の際の清澄剤として働く以外に、TiイオンやNbイオンの還元に起因した着色を抑制する消色剤として有効な成分であるが、必須の成分ではない。以下、Sbの含有量を規定した理由を説明するが、本明細書において、Sbの含有量は、Sb以外の成分を100%とした場合の外掛表示で記載する。
【0026】
前記効果のためには、Sbの含有量は0.03%以上であると好ましく、0.05%以上であるとさらに好ましい。一方、含有量が多くなり過ぎると、Sbイオンの吸収により光線透過性を悪化させるので、Sbの含有量は1%以下が好ましく、0.8%以下であるとさらに好ましく、0.5%以下であると特に好ましい。
【0027】
本ガラスにおいて、上記成分の合計が95%以上であると、諸特性のバランスが取れるため好ましい。上記成分の合計が98%以上であるとさらに好ましく、本ガラスが上記成分から実質的になると特に好ましい。なお、本明細書において、「上記成分から実質的になる」とは、「不可避的不純物を除いては、上記成分からなる」との意味である。
【0028】
MgO、CaO、SrO、ZnOは適量添加することにより、ガラスの液相温度を下げ、耐失透性を良好にできる成分であるが、本ガラスにおいては、必須の成分ではない。一方、これらの成分は、アッベ数νdを下げにくくする成分でもある。したがって、添加する場合であっても、それぞれ単独で含有量を10%以下とするのが好ましく、3.0%以下とするとさらに好ましく、特には、含有しないことが好ましい。なお、高分散にするために、本ガラスではBaOは不可避的不純物を除いては、含有しない。
【0029】
本ガラスにおいて、Al、GeO、Ga、ZrO、Gd、La、Y、Taのいずれか1種以上を光学特性を調整するための成分として添加できるが、必須の成分ではない。但し前記各成分は、含有量が多くなるとガラスが不安定になり、また原料が比較的高価であるため、工業上はこれらの元素を極力含有量を抑えることが好ましい。したがって、添加する場合であってもそれぞれの含有量は単独で10%以下とするのが好ましく、3.0%以下とするとより好ましく、含有しないことが特に好ましい。
【0030】
また、本ガラスにおいては、環境面への影響等からPbO、TeO、F、Asを不可避的な不純物として混入するものを別にして、含有しないことが好ましい。
【0031】
本発明の目的とする光学素子の小型化・薄型化のためには、本ガラスの屈折率nは1.9以上である。本ガラスの屈折率nが、1.91以上が好ましく、本ガラスの屈折率nが1.92以上がさらに好ましい。一方で、液相温度、光線透過性を維持するためには、本ガラスの屈折率nを2.00以下とするのが好ましく、1.99以下がさらに好ましく、本ガラスの屈折率nが1.98以下が特に好ましい。
【0032】
本ガラスにおいて、必要な色収差補正のためには、液相温度及び光透過特性とのバランスを考えると、アッベ数νは20以下である。本ガラスのアッベ数νは19以下が好ましく、アッベ数νが18以下であると特に好ましい。
【0033】
一般に高分散の光学ガラスは紫外域の透過特性が悪いので、できるだけ70%分光透過率を与える波長λ70が低波長側にあるほど好ましい。本ガラスのλ70が520nm以下である。本ガラスのλ70が510nm以下であると好ましく、本ガラスのλ70が500nm以下であると特に好ましい。同様にして、5%分光透過率を与える波長λが低波長側にあるほど好ましい。本ガラスのλが420nm以下であると好ましく、λが415nm以下であるとさらに好ましく、本ガラスのλが410nm以下であると特に好ましい。
【0034】
本ガラスのガラス転移点Tとしては、700℃以下であると成形温度を低くでき、成形装置及び成形金型に及ぼす熱不可が軽減されるため好ましい。生産設備の長寿命化のためには本ガラスのT690℃以下がより好ましく、本ガラスのT680℃以下が特に好ましい。
【0035】
本ガラスの屈伏点Atとしては、ガラス転移点Tと同様の理由で750℃以下であると好ましい。本ガラスの屈伏点Atが740℃以下であるとさらに好ましい。本ガラスの屈伏点Atが730℃以下であると特に好ましい。
【0036】
また、本ガラスの液相温度Lとしては、生産性の観点及び成形装置の耐久性の観点から、1100℃以下であることが好ましい。ガラスを流出して板成形やゴブ成型をする前の融液をLよりも少し高い温度で保持することで融液の酸化還元状態(Redox)をガラスの透過率の向上に有利な酸化状態(Ti,W,Biでは大きな原子価では着色の程度が小さいために透過率が高い)にすることができ、ガラスの着色を抑制することにより透過率の高い光学レンズを得ることができる。本ガラスの液相温度Lが1080℃以下であるとより好ましく、本ガラスの液相温度Lが1060℃以下であると特に好ましい。
【0037】
本ガラスは、上述したような成分構成を有するので、軟化点付近の耐失透性に優れる。本明細書において、軟化点付近の耐失透性は、屈伏点(At)+80℃の温度で10分保持後の分光透過率(表面反射損失を含む)の劣化量で評価する。分光透過率の劣化量が1%以下であると好ましく、0.5%以下であるとさらに好ましい。分光透過率の劣化量が0.3%以下であると特に好ましい。
【0038】
また、本ガラスにおいて溶融時の粘度(dPa・s)の常用対数(以下、単に対数と略す)が0.2未満であると、ガラス融液中の内部泡及び坩堝との界面に付着した泡が効果的に上昇するため、泡品質が良好となる事を確認した。粘度(dPa・s)の対数が0.2の時の温度が高いガラス程、清澄温度を高く設定しなければならず、Pt、及びPt合金等の坩堝からの溶出物が混入しやすくなり、溶出したPtイオンの吸収により可視域の透過率を劣化させる要因となってしまう。
【0039】
したがって、坩堝からの不純物の溶出を抑制しつつ良好な品質のガラスを得るためには、本ガラスにおいて、粘度(dPa・s)の対数が0.2の時の温度(以下、Tlogη=0.2とも称す)は1300℃以下が好ましく、Tlogη=0.2が1270℃以下がより好ましく、Tlogη=0.2が1230℃以下が最も好ましい。
【0040】
上記の通り、低い粘度曲線を維持して清澄温度を低く抑えるためには、本ガラスにおいて、LiO、NaO及びKOの合計量を3%以上とすることが好ましく、前記合量が5%以上であるとさらに好ましい。本ガラスにおいて、前記合量が7%以上であると特に好ましい。一方、前記合量が多すぎると軟化点付近の耐失透性が悪化するため、本ガラスにおいて前記合量が10%未満が好ましく、9.5%以下であるとさらに好ましく、本ガラスの前記合量が9%以下であると特に好ましい。
【0041】
本ガラスの製造法としては、特に制限されるものではなく、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の通常の光学ガラスで用いられる原料を秤量・混合し、白金ルツボ、金ルツボ、石英ルツボ、アルミナルツボ等通常光学ガラスで用いられるルツボに入れて、約1000〜1400℃で2〜10時間溶融、清澄、撹拌後、液相温度Lよりもわずかに高い温度で融液を保持して400〜500℃に予熱した金型に鋳込等した後、徐冷して製造できる。
【0042】
ガラス融液の酸化還元状態(Redox)を調節するための手段として、セラミックスなどの耐熱性を有する材料で作ったパイプに酸化性雰囲気ガスを通して、融液中にガスを送り込みバグリングすることにより遷移金属を高原子価状態とし透過率を向上させることができる。酸化性雰囲気ガスとしては、例えば、酸素ガスが挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例等を説明する。例1〜例31が本発明の実施例である。なお、本発明は、これら実施例に限定されて解釈されるものではない。なお、表中、「−」は、データがないことを示す。
【0044】
[化学組成・試料作製法]
表1〜表5に示す化学組成(%)となるように原料を秤量した。本発明の原料としては、Pについては、正リン酸(HPO)、メタリン酸等を使用して他の成分については、炭酸塩、硝酸塩、酸化物等を適宜、純度やコストに応じて選択できる。
【0045】
秤量した原料を混合し、内容積約300ccの石英ルツボ内に入れて、1100〜1300℃で1〜3時間溶融、撹拌後、白金坩堝にガラス融液を入れ替え1050℃で1.0〜0.5時間保持し、およそ600℃に予熱した縦100mm×横50mmの長方形のモールドに鋳込み後、約0.5℃/分で徐冷して測定試料を得た。なお、表中、ROはアルカリ成分(KO、NaO及びLiO)の合量を示す。
【0046】
[評価方法]
・屈折率nはヘリウムd線に対する屈折率であり、屈折率計(カルニュー光学工業社製、商品名:KRP−2000)で測定した。屈折率の値は、小数点以下第5位まで測定し、小数点以下第5位を四捨五入して小数点以下第4位として記載した。
・アッベ数νは、ν=(n−1)/(n−n)により算出し、小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位として記載した。ただし、n、nは、それぞれ水素F線及びC線に対する屈折率である。
・透過率λ、λ70;10mm厚板の分光透過率(表面反射損失を含む)を日本光学硝子工業会規格JOGIS02−2003に準じて測定した。
・液相温度Lは、白金坩堝に約100gのガラスを入れ、それぞれ1000℃〜1100℃まで10℃刻みにて1時間保持したものを自然放冷により冷却した後、結晶析出の有無を顕微鏡により観察して、結晶の認められない最低温度を液相温度とした。
・透過率は、分光光度計(パーキンエルマー社製、商品名:Lambda950)を用い、厚さ10mmに両面研磨した試料について、1nmきざみで測定した。
・Tlogη=0.2;回転円筒法?により溶融時の粘性ηの温度依存性を測定し、logη=0.2での温度を求めた。
・軟化点付近の耐失透性は、100mm×100mm×厚さ10mmのサンプルを使用し、屈伏点+80℃で10min.保持後と、加熱前の分光透過率を上記の分光光度計により測定し、前後での透過率の劣化量(表中、単に劣化量と記載)から算出した。なお、ガラス転移点Tg及び屈伏点Atは、得られた各ガラスを棒状に加工し、熱分析装置(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TMA4000SA)で熱膨張法により、昇温速度5℃/分で測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、高屈折率、高分散性で、高透過率の光学ガラスであり、小型化や薄型化の要求が厳しい光学レンズなどの各種光学素子への応用に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、
:15〜35、
Nb:35〜60、
TiO:6〜20、
WO:0.1〜15、
:0.1〜1.0未満、
O:0.1〜10、
NaO:0.1〜5.5未満、
LiO:0〜3、
SiO:0〜3、
Bi:0〜5.0未満、
BaOを実質的に含有せず、屈折率nが1.9以上で、アッベ数νが20以下、かつ70%分光透過率を与える波長λ70が520nm以下である光学ガラス。
【請求項2】
Biを実質的に含有しない請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
Sbを他の成分の合量100%に対して外掛で0.05〜1.0質量%含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
液相温度Lが1100℃以下である請求項1〜3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
ガラス融液の粘性(dPa・s)の常用対数が0.2の時の温度が1300℃以下である請求項1〜4に記載の光学ガラス。
【請求項6】
屈伏点+80℃で10分保持後の分光透過率の劣化量が1%未満である請求項1〜5に記載の光学ガラス。
【請求項7】
5%分光透過率を与えるλが420nm以下である請求項1〜6記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2011−57509(P2011−57509A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209440(P2009−209440)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】