説明

光学フィルタ、該フィルタを有する固体撮像素子及び撮像装置

【課題】 偏光依存性を抑えると共に、可視域の青の波長を透過するGR(Guided Resonance)モードのシリコンを用いた光学フィルタを提供すること。
【解決手段】 基板と、シリコンで構成された部材の複数を前記基板の表面上に周期的に配してなる周期構造と、を備え、前記周期構造に入射する光の内、第1の波長の光を前記基板方向に選択的に透過させる光学フィルタであって、前記部材は、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配されていると共に、前記部材の前記表面に平行な方向の大きさを120nm以上160nm以下の範囲内として、第1の波長の透過スペクトルの極大値を400nm以上500nm以下の範囲内に発現させた光学フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波モード共鳴を用いた光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、色素を用いた一般的なカラーフィルタとは別に、導波モード共鳴(GRモード:Guided Resonance Mode)を用いたカラーフィルタが提案されている。導波モード共鳴を用いたカラーフィルタは、導波路で生ずる導波モードと回折光の共鳴を利用するもので、光の利用効率が高く、シャープな共鳴スペクトルが得られるという特徴がある。
【0003】
非特許文献1は、シリコンを用いて一次元回折格子を構成し、シリコンの周期構造内に発生する導波モード共鳴を用いるカラーフィルタを開示する。
【0004】
非特許文献1に開示されたフィルタは、特定の偏光成分を持つ入射光に対してRGB(Red,Green,Blue)光を透過させるものであり、赤用フィルタと緑用フィルタは、TE偏光を、青用フィルタには、TM偏光をそれぞれ入射させている。
【0005】
一方、特許文献1は、同じくシリコンを用いて、二次元回折格子を構成することでR、G光を透過するフィルタを開示し、更に、完全な二次元回折格子とすることで偏光依存性を低減させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−41555号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Photonics Technology Letters,Vol18,No.20,Oct 15,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示されたカラーフィルタは、一次元回折格子を用いるため、回折格子の格子構造と、これに入射する偏光との角度が入射偏光の角度により様々な値をとり得るため、その透過特性に強い偏光依存性がある。このような強い偏光依存性は、例えば、デジタルカメラ等のイメージセンサに用いるには不都合を生ずる。
【0009】
一方、特許文献1では、二次元回折格子を用いることで赤、緑用のカラーフィルタの偏光依存性を低減させることを開示するものの、3原色を構成する青用のカラーフィルタを実現できていない。
【0010】
カラー画像の撮像を必須とするイメージセンサへの適用を考慮すると、青色を含めた3原色を高い透過率で透過させるカラーフィルタの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明により提供される光学フィルタは、基板と、シリコンで構成された部材の複数を前記基板の表面上に周期的に配してなる周期構造と、を備え、前記周期構造に入射する光の内、第1の波長の光を前記基板方向に選択的に透過させる光学フィルタであって、前記部材は、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配されていると共に、前記部材の前記表面に平行な方向の大きさを120nm以上160nm以下の範囲内として、第1の波長の透過スペクトルの極大値を400nm以上500nm以下の範囲内に発現させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、入射光の偏光依存性を極力抑制すると共に、青(Blue)の波長域で透過率が高い、光学フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の原理を示す模式図
【図2】本発明の一例を示す模式図
【図3】本発明の特性を示すグラフ
【図4】本発明の一例を示す模式図
【図5】本発明の一例を示す模式図
【図6】本発明の実施例1の説明図
【図7】本発明の特性を示すグラフ
【図8】本発明の実施例2の説明図
【図9】従来の光学フィルタに基づいて算出した波長と透過率の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、先に述べた背景技術に記載の光学フィルタの特性を詳細に検討して本発明に至った。ここでは、従来の光学フィルタについての検討事項を踏まえて説明する。
【0015】
非特許文献1では、シリコンを用いて一次元回折格子を構成し、シリコンの周期構造内に発生する導波モード共鳴を用いてカラーフィルタを構成している。
【0016】
そして、特定の偏光成分を持つ入射光に対してRGB光を透過させるものであり、赤用フィルタと緑用フィルタは、TE偏光を、青用フィルタには、TM偏光を入射させている。
【0017】
つまり、シリコンで構成した一次元回折格子がもつ偏光依存性を積極的に用いて色特性を発現させている。
【0018】
これは一次元回折格子に対してTE偏光の入射を想定した青用のフィルタを設計すると、青色の波長域での損失が大きく、透過率を高くすることが困難なことと、青色の波長域に透過率の極大値を持たせる素子構造の設計が困難なためであると発明者は推察した。
【0019】
そこで、非特許文献1に記載のカラーフィルタの課題である偏光依存性を無くすために、非特許文献1に記載の一次元回折格子を単純に二次元化してカラーフィルタを構成した場合の波長に対する透過率を数値計算により算出した。
【0020】
図9は、その計算結果に基づくグラフである。ここでの計算は、転送行列法(TMM法:Transfer Matri Method)によった。
【0021】
図9より、B(青)のスペクトル901は、透過率が極大となる波長が580nm付近となり、青の波長域から大きくずれていることが理解される。
【0022】
この理由は、構造が2次元構造になることで、一次元回折格子のTM偏光(Transverse Magnetic Wave)入射の場合の光学特性だけを選択的に発現させることができず、TE波(Transverse Electric Wave)の特性が強く現れるためである。つまり、二次元構造(ドットアレイ構造)では一次元の導波構造の場合に生じる単純なTEモードもしくはTMモードではなく、これらが複雑に混成したモードが発生する。
【0023】
そして、G(緑)の二次元化スペクトル902やR(赤)の二次元化スペクトル903に関しても、同様にTEモードとTMモードが複雑に混ざり合ったモードが発現しているものと考えられる。
【0024】
従って、R(赤)用のフィルタやG(緑)用のフィルタに対応する回折格子を単純に二次元化した光学素子が発現する上記のスペクトル902、および903が一次元構造の場合のスペクトルと透過率極大波長が大きくずれていないのは偶然と考えるべきものである。
【0025】
一方、GRの波長やスペクトル形状は導波路構造が持つ周期性と有効屈折率が求まれば粗い予測は可能である。
【0026】
ところが、導波路の有効屈折率(及びこれに伴う実効的な周期性)が、精度良く導出可能なのは、導波路の屈折率分布がスラブ導波路に近い場合、つまりFilling Factorが極端に高い場合や低い場合であり、中間的なFilling Factorを有する場合等では、GR波長やそのスペクトル形状を制御し、所望の光学スペクトルを得ることは容易ではない。
【0027】
このため、解析的に所望の光学特性をもつ光学素子の構造を予測することは実際には困難となる。
【0028】
現に上述の通り、特許文献1では、シリコンによる二次元回折格子を用いてR、G光を透過するフィルタを構成することを開示するものの、B(青)は2次元で構成できていないことが、その証左であろう。
【0029】
さらにイメージング素子等に用いる光学フィルタの特性としては、注目する波長域において、透過率の極大値が、80%以上、且つ良好な色特性を得るためには極小透過率は40%以下であることが望ましいが、上述の非特許文献1、及び特許文献1では、2次元構造のB(青)については、当然ながら実現できていない。
【0030】
本願発明は、透明な基板上(誘電体)に半導体を用いた微細構造が2次元的に周期的に配列している構造を含む光学フィルタを鋭意検討してなされた。
【0031】
本願発明により提供される光学フィルタは、基板と、シリコンで構成された部材の複数を前記基板の表面上に周期的に配してなる周期構造と、を備え、前記周期構造に入射する光の内、第1の波長の光を前記基板方向に選択的に透過させる光学フィルタであって、前記部材は、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配されていると共に、前記部材の前記表面に平行な方向の大きさを120nm以上160nm以下の範囲内として、第1の波長の透過スペクトルの極大値を400nm以上500nm以下の範囲内に発現させたことを特徴とするものである。
【0032】
本発明によれば、青の波長域を含む3原色の各波長域において透過率が高く、透過スペクトル幅の狭い、光学フィルタを提供できる。
【0033】
本願発明は、前記表面に平行な方向の大きさを200nm以上240nm以下の範囲内とし、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配した複数の部材を更に備え、透過スペクトルの極大値を600nm以上700nm以下の範囲内に発現させた光学フィルタを前記基板の異なる表面上に配置したものを包含する。
【0034】
また、本願発明は、前記表面に平行な方向の大きさを160nm以上200nm以下の範囲内とし、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配した複数の部材を更に備え、透過スペクトルの極大値を600nm以上700nm以下の範囲内に発現させた光学フィルタを前記基板の異なる表面上に配置したものを包含する。
【0035】
本願発明では、シリコンで構成された部材の厚みを50nm以上150nm以下の範囲とすることも可能である。
【0036】
本願発明は、本発明の光学フィルタを備えた固体撮像素子を包含する。更に、本願発明は、本発明の固体撮像素子を備えた撮像装置を包含する。
【0037】
GRモードは、誘電体や半導体などで構成される導波路構造がその面内方向に周期構造を有する場合に、この周期構造による回折光が面内導波モードとカップリングして生じるモードのことである。
【0038】
GRモードが生じる波長においては、導波層に損失が無い場合には、理論上反射率100%も可能である。これはつまり透過スペクトルで考えると、GRモードの波長では透過率が低下し、理論上は0%になることを示している。
【0039】
つまり、この導波路層構造を透過型の光学フィルタとして用いる場合には、導波路層構造を適切に制御し、上述のGRモードの波長を所望の波長に設定することで、その透過スペクトルの形状を所望の形状に制御できることを示している。
【0040】
また、GRモードが生じ得る波長より長波長側の波長帯では透過率が急激に高まってしまうので、このような波長域がなるべく注目する波長域に入らないようにするために、最長のGRモードがなるべく長くなるような素子構造が好適である。
【0041】
また実際の物質では光学的な伝搬損失を伴うため、光学素子を設計する際には光学的な周期性を考慮してGR波長を決めるだけでなく、伝搬損失による透過率低下の影響も考慮する必要がある。
【0042】
本発明の光学素子は、GRモードにより発生する透過率が極小となる領域に挟まれた透過率極大となる領域を用いる。つまり本発明で使用する波長は、あるGRモードと他のGRモードの間にある透過率の山になる部分である。
【0043】
本発明の光学素子は2次元構造をもつ導波路層と見ることも出来る。
【0044】
2次元構造をもつ導波路層内の伝搬モードは上述した通り一次元回折格子における単純なTEモードやTMモードではなく、またこれらが複雑に混成しあったモードの伝搬定数と、周期構造による回折光の周期構造面内での波数と、が一致することが基本的なGRの発生条件となる。
【0045】
本発明の光学素子ではGR波長が短波長(青の波長域よりも短い)と長波長(緑から赤の波長域)に発現することで青色の波長域に透過率の極大値が来る様に設計してある。
【0046】
つまり周期構造を短くすることで導波路層内に取り込まれる回折光の波数を増大し、これにあわせて発現するGR波長を短波長化すると同時に、導波路厚さを薄くしてモード間隔を広げることで長波長側のGRの波長を緑から赤に発現させることが好適である。
【0047】
一方、構造体の周期が短いと一般にFilling Factorが増大してしまい、その結果、特に青の波長域では導波層における伝搬ロスが増大してしまう。
【0048】
この点に着目すると透過率極大の低下をもたらしてしまうため、この方針のみで青の波長域で好適な光学特性をもつ光学フィルタを設計することは困難である。また、TEモードはTMモードと比較して回折効率が高く導波路層に取り込まれやすいことから、導波路層を伝搬中の伝搬ロスが大きくなりやすいため、TEモードとTMモードが混成しているモードが発現する導波路層のFilling Factorはむしろ低い方が好ましい。
【0049】
ところが、シリコンという屈折率が高い部材を用いて、Filling Factorが小さく、かつ周期性が短い構造を想定すると、その実寸法が非常に小さくなってしまう。
【0050】
そして、光学素子としての機能を発現させるための素子構造はそもそも作製自体が困難もしくは不可能になってしまうため、この設計指針も実際の素子設計に適用することは好適ではない。
【0051】
発明者等はこれらの状況を踏まえ鋭意検討した結果、低損失であり且つ高コントラスト、加えて、実際に素子の作製が可能な現実的寸法を有する素子を提案する。具体的には、青の波長域において透過率極大値が80%以上、極小値が40%以下となりイメージングデバイスに用いる光学素子として好適な光学特性となる好適な素子構成を提案する。
【0052】
このような光学素子の設計方針は以下のとおりである。
GRの波長は基本的に構造の光学的な周期で決まる。構造が周期構造であるため、この周期性により入射光が回折し、その一部が導波路層内に取り込まれる。したがってその依存性は周期構造が持つ周期性が増大するに連れてGRモードの発現波長も増大する。
【0053】
例えば短波長側にGRモードやこれらの間にある透過率極大を発現させるには周期構造が持つピッチを短くするか、もしくは周期構造の中に占めるSiドットの割合を小さくすることが望ましい、つまりFiling Factorを小さくし導波路がもつ実効的な屈折率を下げて、GRモードが所望の短波長域に発現するように設定すればよい。
【0054】
一方GRモードの波長域の間にある透過率極大値での透過率はFilling Factorに影響される。つまり透過率極大値におけるロスはSi中を光が伝搬する際の吸収に伴うものであるため、透過率と導波路構造のFilling Factorは負の相関になる。
【0055】
この相関を踏まえて導波路構造設計の際には透過率極大値が所望の値になるように導波路構造のFilling Factorを設計すればよい。
【0056】
これらの条件を考慮した設計を行い本発明ではB(青)において好適な光学特性を有する光学フィルタの構造を与える。
【0057】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の光学素子の原理を示す模式図である。図1において、110は基板で、120は基板110よりも屈折率の大きなシリコンで構成された部材である。基板110上には、シリコンで構成された部材120の複数がスペース130を空けて周期的に配されている。125は、部材120で構成された周期構造である。ここで、Dは、部材120の基板表面に平行な方向の大きさを示し、Pは、部材120が配された周期(ピッチ)を示す。Tは、部材120の厚みである。170は、周期構造125に入射する光を示し、この光は、少なくとも第一の波長の光172と、第二の波長の光171とを含んでいる。
【0058】
図1では、入射光170のうち、第二の波長の光171が、周期構造125内に生ずる導波モードとカップリングして伝播する波長の光(GRモード)を示しており、カップリングしない第一の波長の光172が選択的に基板110を透過している。つまり、図1は、GRを用いた波長選択フィルタ(光学フィルタ)の原理を示している。
【0059】
次に図2を参照して本発明の光学フィルタを説明する。
【0060】
図2は、石英基板(誘電体材料)110上に配置されたシリコン(Si)からなるドット120を周期的に配したアレイを示しており、図2(a)は、図2(b)のA−A’断面を示している。
【0061】
図2に示した構造では、Siのドットアレイ層が周期構造を有しているため、この層が回折格子として機能する。また、石英基板110と比較して、Siは可視光の波長域では屈折率が高いため、Siのドットアレイ層を導波路層として機能させることが可能である。
【0062】
Siドットは第一の方向140に、第一の長さ141と第一の周期142を有し、第二の方向に、第二の長さ151と第二の周期152を有し、そして厚さ160を有する構造である。
【0063】
本発明の光学フィルタの入射偏光依存性の軽減を考慮すると、第一の長さ141と第二の長さ151は等しくするのが好適であり、同様の理由から第一の周期142と第二の周期152は等しくするのが好適である。図2において、Siドットは、正方形として描かれているが、長方形、多角形をも採用でき、また、円形とすることもできる。円形の場合、ドットの大きさという場合、円の直径を意味するものとする。
【0064】
このシリコンのドットアレイ構造に対して、例えば、入射光が垂直入射した場合、周期構造が、回折格子として機能するため、その入射光が所定の波長を持つ場合には回折光が生じ、そしてその一部がドットアレイ層である導波路層に取り込まれる。
【0065】
そして導波路層内をある程度の距離伝搬した後、導波光は導波路層の外へ放射される。このとき、導波光は空気側と基板側の両方に放出される可能性があるが、放出される光と、入射光との位相が反転している場合には、両者の干渉の結果導波路層から出射側の光の強度が減少する。
【0066】
この状況において透過スペクトルの測定を行うと、図3に示すようにGRモードが生じている波長では透過率が減少し、透過スペクトルに谷が生じる。図3の透過スペクトルR201は半導体層を構成する半導体がSiでありそのドット径が220nm、周期440nm、厚さ100nmの場合の透過スペクトルである。
【0067】
透過スペクトルG202は同様にドット径170nm、周期460nm、厚さ100nm、透過スペクトルB203はドット径140nm、周期450nm、厚さ100nmの場合の透過スペクトルを示している。
【0068】
従って、図3に示すように、例えば可視域の赤と青の波長にGRで透過率スペクトルに谷を生じさせることで、相対的にその中間波長帯の緑に透過率の山(極大値)を生成することが可能となる。このようにスペクトル整形を行うことで、本発明では透過型のRGBBカラーフィルタを半導体部材と誘電体部材を用いて構成することが可能となる。
【0069】
また、スペクトル上に透過率の谷を形成する方法は上記のGRモードの発現に限るものではなく、その他の機構(例えばウッズのアノマリーなど)でもよい。
【0070】
本発明の周期構造体を構成するシリコン部材の配列は正方格子状であっても良いし、また三角格子状や六方格子状であっても良い。三角格子や六方格子に配列することで、本発明の光学フィルタの光学特性の偏光依存性が緩和され、あるいは斜入射による光学特性の変化が緩和される効果が期待される。一方、正方格子状の場合には、光学特性の設計が容易となる点が挙げられる。
【0071】
本発明の光学フィルタを、例えば、同一の支持基板上の表面上(面内)に配列させる場合、RGB各色に対応する光学フィルタをベイヤー配列とすることも、イメージングセンサ応用を想定した際には好適である。
【0072】
図4はベイヤー配列の配置例である。図4において領域R301は赤色カラーフィルタであり、領域G302は緑色カラーフィルタ、領域B303は青色カラーフィルタの機能を有するシリコン周期構造体(微細構造体)である。それぞれの領域にドット径と周期の少なくとも1つは異なる構造体をアレイ状に配置することで、RGB原色カラーフィルタがベイヤー配列になっているカラーフィルタとしての機能を発現する。
【0073】
各色の配列はベイヤー配列に限るものではなく、各種応用に適宜対応させることが好ましい。
【0074】
周期構造体の配列周期や構造体の大きさは前述の様に単一でも複数であっても良い。またこれら配列周期や構造体の大きさが異なる各々の周期構造体群は、誘電体支持基板上の相違なる領域に配置されていることが好ましい。
【0075】
また本発明では半導体層は単結晶シリコンに限るものではなく、アモルファスシリコンやポリシリコン等であっても良い。アモルファスシリコンやポリシリコンは薄膜状に作製するプロセスが単結晶の場合と比較して容易であるため、作製プロセス難易度の観点から好適である。
【0076】
シリコン部材を支持する基板としては、誘電体材料からなる基板を挙げ、石英(二酸化シリコン)を用いて説明したが本発明の基板は石英に限るものではなく、特に可視光波長域で透明度が高い絶縁体であれば好適である。例えば二酸化チタンや窒化シリコンなどでもよい。
【0077】
そして、本発明の光学フィルタは単層構造に限るものではなく、図5のように積層構造であっても良い。積層構造は例えば支持基板501上に第1の半導体微細構造体層502を形成し、この上から透明誘電体503を成膜し、更に第2の半導体微細構造体層504を形成することで作製可能である。
【0078】
本発明の光学フィルタを、各々の導波モードがカップリングしないような積層間隔にして積層構造を形成する場合、積層された光学フィルタの光学特性は基本的に積層前の光学フィルタが有する光学特性の積になる。したがって、例えば同じ光学フィルタを2層積層させることでより透過スペクトルのピーク幅を狭帯域にする等のスペクトル整形が可能である。
【0079】
これに対し、各層の導波モードが結合してしまうほど積層間隔が小さい場合にはその構造や積層間隔に依存して光学特性が複雑に変化するため、光学特性の設計容易性という観点からは各光学フィルタの導波モードが互いに結合しないように積層間隔を取ることが好適である。
【0080】
また、本発明の光学フィルタを構成する周期構造体はその表面が全て可視光域でほぼ透明な誘電体で覆われていることも好適である。
【0081】
本発明の光学フィルタは、必ずしもその表面を誘電体保護層で覆われていなくともその機能を発現することは可能である。ただし誘電体層で覆うことで、周期構造体の外気による酸化やその他の化学変化を抑制し耐久性を向上することが可能である。さらには周期構造体にゴミ等の異物が付着することを抑制することが可能であり、前述の化学変化抑制を含め本発明の光学フィルタの光学特性の安定化に貢献する効果もある。
【0082】
また、周期構造体を覆う誘電体が、支持基板と同じ誘電率を有する結果、導波路層の両面にあるクラッド層が同じ誘電率の部材で構成されている場合、この導波路層は対称型の導波路層となる。対称型の導波路層では非対称型の構成と比較して、光学特性の設計が容易であることやGRモードのピークを狭帯域化可能であることなどの利点もある。
【0083】
ところで、一般的な光学フィルタである誘電体多層膜フィルタや色素フィルタなどをデバイスに用いようとすると、光の波長以上の膜厚が必要となり、具体的には、1μm程度かそれ以上の膜厚になってしまう。
【0084】
一方、本発明に係る光学フィルタでは、導波路層の厚さが200nm程度かそれ以下の膜厚のフィルタを構成することが可能である。導波路層の上に保護層を100nm程度積層したとしても全層の膜厚が300nm程度に抑制できるため、色素等を用いた従来のフィルタと比較して膜厚が薄いフィルタを提供することができる。
【0085】
これにより、本発明に係る光学フィルタをCCDセンサやCMOSセンサ等の受光素子に用いれば、受光素子の小型化が可能となる。また、本発明に係る光学フィルタを受光素子に用いれば、受光素子の高画素数化に伴う各画素の見込み角の減少による受光光量不足を緩和することも可能となる。
【0086】
本発明の効果として、従来型の色素フィルタと比較して膜厚が薄いカラーフィルタを構成できること、耐久性が有機材料のカラーフィルタと比較して向上すること、半導体と誘電体で構成されるため半導体プロセス親和性が高いこと、バッチ処理で塗り分け不要であること、構造を変化させることで光学特性を所望の特性にできること等が挙げられる。
【0087】
さらに2次元アレイ状構造であるため光学特性の入射光偏光依存性が従来技術の1次元グレーティング形状の光学素子と比較して小さいことが挙げられる。
【0088】
また、所望の波長域で最大透過率80%以上、且つ最小透過率が40%以下となりコントラストで2以上の優れた光学特性をもつことも挙げられる。
【0089】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0090】
単層構造
実施例1では、RGBの透過フィルタの構造、作製方法と光学特性について説明する。
【0091】
図6(a)は、厚さ525μmの石英基板からなる誘電体基板601の表面に、半導体層602として厚さ100nmのシリコンが形成されていて、その上に電子線描画(EB)用レジスト層603を塗布したものを示す。なお、半導体層602の作製方法は単結晶の場合はSOI基板を用意しその薄膜シリコン層の膜厚を薄くすることで作製可能であるが、これに限られるものではない。
【0092】
次に、EB描画装置を用いて、レジスト603をパターニングする。レジストパターンの形状は、1辺が約140nmの正方形であり、周期約450nmで正方格子状に配列した形状を作製する。このレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ素系の混合気体のプラズマでドライエッチングすることで半導体周期構造体604を形成する。なお、ドライエッチングガスはフッ素系に限るものではなく、アルゴン、塩素、酸素、その他のガスでも良い。
【0093】
また、エッチングマスクの作製方法はEB描画に限るものではなく、フォトリソグラフィー等でも良い。さらに、半導体層602のパターニング方法は、誘電体基板601上にEB描画やフォトリソグラフィ−等によりレジストパターンを形成し、半導体層602を成膜した後にリフトオフプロセスにより形成しても良い。
【0094】
リフトオフプロセスの場合レジストパターンは前述の工程に対しネガポジ反転させておく必要がある。
【0095】
また、収束イオンビーム加工装置(FIB加工装置)を用いて、半導体層602を直接加工しても良い。
【0096】
図7(A)には、このようにして作製した光学フィルタの透過スペクトルを示す。数値計算により透過スペクトルBは符号703のように求まり、本フィルタは波長480nm付近に透過率の極大値を持つ。そして、透過ピークを示す波長は可視域の青色に対応するため、本フィルタは青を透過する原色フィルタとして機能することが理解される。
【0097】
また、周期構造体604を一辺約170nm、厚さを約100nm、周期を約460nmの配列とすることで符号702で示される透過スペクトルGが得られる。同様に、一辺を約220nm、厚さを100nm、周期を約440nmとすることで符号701で示される透過スペクトルRが得られる。これらはそれぞれRGBを透過する光フィルタであり、原色フィルタとして機能する。
【0098】
また、本実施例のフィルタの反射スペクトルは、透過率が最大になる波長とほぼ同じ波長で反射率が最小になる。
【0099】
そのため、図7(B)に示すように、本実施例の光学フィルタは、反射フィルタとして用いることで、透過スペクトルBを有するフィルタからは符号704で示される反射スペクトルBを得ることができる。同様に、透過スペクトルGを有するフィルタは符号705で示される反射スペクトルG、透過スペクトルRを有するフィルタは符号706で示される反射スペクトルRを得ることができる。このように、これらの光学フィルタはそれぞれ可視域の赤、緑、青の補色を強く反射する光学フィルタとして機能させることが可能である。
【0100】
本実施例の光学フィルタを用いた固体撮像素子を構成することも可能であり、また、その固体撮像素子を用いた撮像装置を構成することも可能である。
【実施例2】
【0101】
ベイヤー配列
実施例2ではベイヤー配列のRGBフィルタの作製方法と光学特性について説明する。
図8(a)は、厚さ525μmの石英基板からなる誘電体基板801の表面に、半導体層802として厚さ100nmのシリコンが形成し、レジスト803を塗布したものを示している。
【0102】
次に、EB描画装置を用いて、レジスト803をパターニングする。レジストパターンのうち、1辺が約220nmの正方形を周期約440nmで正方格子状に配列した形状を約10μm角にパターニングした部分をパターン部A804とする。また、1辺が約170nmの正方形を周期約460nmで正方格子状に配列した形状をパターン部B805とし、1辺が約140nmの正方形を周期約450nmで正方格子状に配列した形状をパターン部C806とする。これらの各パターン部を10μmの隙間を空けて図8(b)のように配置した構造を作製する。
【0103】
このレジストパターンをエッチングマスクとして、フッ素系の混合気体のプラズマでドライエッチングすることで半導体微細構造体807を作製する。このとき半導体微細構造体の形状は正方形に限らない。正多角形や円形でも構わない。これは実施例1と同様の理由からである。
【0104】
なお、上述のパターン部の間の領域は、混色防止のために遮光層を形成しても良い。また、本実施例のように、各パターン部を構成する金属薄膜構造体の厚みを同一にすれば、各パターン部を同一プロセス内で作製することが可能となり、各パターン部間の境目をなくすことも可能である。
【0105】
このようにして作製したパターン部A,B,C,は、符号701で示された透過スペクトルR、符号702で示された透過スペクトルG、符号703で示された透過スペクトルBを有する。これらはそれぞれRGBに対する原色フィルタとして機能することが出来る。
【0106】
さらに、本実施例のように、全てのパターン部について厚みを同一に作製しておけば、同一バッチにてRGB原色フィルタを作製することが出来るため、従来の色素を用いたカラーフィルタでベイヤー配列構造を作製するために必要なRGB三色の塗り分けのプロセスが必要なくなり、作製プロセス時間短縮、作製プロセス簡略化が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の光学フィルタは、光学機器分野、電気機器分野、医用機器、計測機器分野等の種々の分野の各種装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
110 基板
120 シリコンからなる部材
125 周期構造
140 第1の方向
141 第1の長さ
145 第1の周期
150 第2の方向
151 第2の長さ
155 第2の周期
160 厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、シリコンで構成された部材の複数を前記基板の表面上に周期的に配してなる周期構造と、を備え、前記周期構造に入射する光の内、第1の波長の光を前記基板方向に選択的に透過させる光学フィルタであって、
前記部材は、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配されていると共に、前記部材の前記表面に平行な方向の大きさを120nm以上160nm以下の範囲内として、第1の波長の透過スペクトルの極大値を400nm以上500nm以下の範囲内に発現させたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記表面に平行な方向の大きさを200nm以上240nm以下の範囲内とし、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配した複数の部材を更に備え、透過スペクトルの極大値を600nm以上700nm以下の範囲内に発現させた光学フィルタを前記基板の異なる表面上に配置したことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記表面に平行な方向の大きさを160nm以上200nm以下の範囲内とし、周期を400nm以上500nm以下の範囲内として二次元的に配した複数の部材を更に備え、透過スペクトルの極大値を600nm以上700nm以下の範囲内に発現させた光学フィルタを前記基板の異なる表面上に配置したことを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記部材の厚みが50nm以上150nm以下の範囲にある請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記基板は、誘電体材料からなる請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記周期構造が、誘電体材料で覆われていることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記基板を構成する誘電体材料の誘電率と、前記周期構造を覆う誘電体材料の誘電率と、が等しいことを特徴とする請求項6に記載の光学フィルタ。
【請求項8】
前記誘電体材料は、二酸化シリコンからなることを特徴とする請求項5に記載の光学フィルタ。
【請求項9】
請求項1に記載の光学フィルタを有することを特徴とする固体撮像素子。
【請求項10】
請求項9に記載の固体撮像素子を有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−13330(P2011−13330A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155666(P2009−155666)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】