説明

光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置

【課題】溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、フィルムの生産速度を上昇させても、ドープの流延時に支持体に薄膜状態で同伴している空気(同伴空気)の巻き込みによるフィルムの発泡を無くし、膜厚ムラのない平面性の優れた光学フィルムを製造する。生産効率が高く、品質にすぐれた高速製膜可能な光学フィルム、その製造方法、偏光板、及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】光学フィルムの製造方法は、流延ダイ3直前の支持体7表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置4を備え、流延ダイからのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガスを吹き付ける。易溶解性ガス供給装置4より上流側の支持体7表面近くに、さらに排気装置5を備え、排気装置5により支持体7上の同伴空気を排気した後、該支持体7のドープ流延箇所に易溶解性ガスを吹き付けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示装置(LCD)は、低電圧かつ低消費電力でIC回路への直結が可能であり、しかも薄型化が可能であるから、ワードプロセッサーやパーソナルコンピュータ等の表示装置として広く使用されている。
【0003】
ところで、このLCDの基本的な構成は、液晶セルの両側に偏光板を設けたものである。偏光板は、一定方向の偏波面の光だけを通すので、LCDにおいては、電界による液晶の配向の変化を可視化させる重要な役割を担っており、偏光板の性能によってLCDの性能が大きく左右される。偏光板は偏光子と、偏光子の両面に積層された保護フィルムとよりなる。そして、このような偏光板の保護フィルムとして、セルロースエステルフィルム(以下、単にフィルムともいう)が広く用いられている。液晶表示装置には、偏光板保護フィルムのほかにも、位相差フィルムや視野角拡大フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムを用いることが知られているし、液晶表示装置以外の表示装置にも光学フィルムは用いられている。その光学フィルムの材料としては、セルロースエステル以外の材料も知られている。
【0004】
これらの光学フィルムは、専ら溶液流延製膜法によって製造されてきた。光学フィルムを溶液流延製膜装置により製造する場合、大別して2つのドープ流延方式がある。その1つは、一対のドラム間に支持体としてのエンドレスベルトを巻き掛けた構造のベルト流延方式であり、もう1つは回転ドラム自身を支持体とするドラム流延方式である。
【0005】
本発明は、上記のベルト流延方式とドラム流延方式の両方式による光学フィルムの製造方法に関わるものである。
【0006】
最近の大画面化に伴って、フィルム幅が広く、長い巻長のフィルム原反が要望されている。従来から溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂のドープを無限移行する無端の支持体上に流延ダイから流延し、ドープ膜(ウェブ)を形成した後、ウェブを支持体から剥離し、剥離後のウェブを搬送して乾燥させ、得られたフィルムを巻き取るものである。
【0007】
この溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法では、製膜速度が遅く、いろいろな特許公報などに速度を上げる方法が開示されているが、これらの方法を使って速度を上げても、セルローストリアセテートフィルムなどよりなる光学フィルムの品質、特に、同伴空気の巻き込みの問題点があった。
【0008】
例えば、特許文献1および2には、流延ダイの上流側に遮風物や遮風板を設置することによって同伴風を遮る方法が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、減圧チャンバー構造を改良して、同伴空気を低減する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004−114328号公報
【特許文献2】特開2006−281772号公報
【特許文献3】特開2006−123500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1および2に記載されているように、遮風物や遮風板を置いて同伴空気を遮ることができても、速度と共に同伴空気量は増大するために、生産速度の上昇には限界があった。
【0011】
また、特許文献3に記載されているように、減圧チャンバーの改善による対処法も挙げられるが、減圧度を上げすぎると、圧力の脈動による膜厚ムラが生じるおそれがあるという問題があった。
【0012】
このように、セルローストリアセテートフィルム等の光学フィルムの製膜において、流延ダイから流延されて形成されたドープ膜に、同伴空気を巻き込むことによる発泡や密着性の低下、剥離性の劣化や膜厚ムラの発生等、いろいろな欠陥あるいは作業効率の低下を来す故障が通常の生産においてよく起こる。これらの欠陥は、光学フィルムの生産性の向上を妨げるもので、これらを極力低減することが望まれていた。
【0013】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、まず第1に、光学フィルムの生産速度を上昇させても、ドープの流延時に金属支持体に薄膜状態で同伴している空気(同伴空気)の巻き込みによるフィルムの発泡を無くし、つぎに第2に、膜厚ムラのない平面性の優れた光学フィルムを製造することができ、そして第3に、支持体からのウエブの剥離を容易にして、生産効率の高い、しかも品質にもすぐれた高速製膜可能な光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び液晶表示装置を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、溶液流延製膜法による光学フィルムの連続生産において、ドープが金属支持体に流延される直前において、金属支持体に薄膜状態で同伴している空気(同伴空気)を、ドープに易溶解のガスに置き換える、または流延部位を易溶解ガス雰囲気にすることによって、ドープを金属支持体に流延する際にドープと金属支持体との間に巻き込まれる空気を無くし、現行と比較して、高速領域での製膜を可能にし、フィルムの生産条件が広がることにより、生産性が向上すること、また高速領域において製膜することにより、流延ダイから吐出されるドープと金属支持体との接液角度を小さくしても、同伴空気を巻き込むことが無く、かつフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産できること、これらより、光学フィルムの高品質化の要求に応え、かつ光学フィルムの安定な高生産性化が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂のドープを無限移行する無端の支持体上に流延ダイから流延し、ドープ膜(ウェブ)を形成した後、ウェブを支持体から剥離し、剥離後のウェブを搬送して乾燥させ、得られたフィルムを巻き取る、光学フィルムの製造方法であって、流延ダイ直前の支持体表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置を備え、流延ダイからのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けることを特徴としている。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、易溶解性ガスが、二酸化炭素、エタン、またはアセチレンであることを特徴としている。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、易溶解性ガス供給装置より上流側の支持体表面近くに、さらに排気装置を備え、排気装置により支持体上の同伴空気を排気した後、該支持体のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けることを特徴としている。
【0018】
請求項4の光学フィルムの発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【0019】
請求項5の偏光板の発明は、請求項4に記載の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして、偏光膜の両面のうちのいずれか少なくとも一方の面に有することを特徴としている。
【0020】
請求項6の液晶表示装置の発明は、請求項5に記載の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、流延ダイ直前の支持体表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置を備え、流延ダイからのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けるもので、請求項1の発明によれば、溶液流延製膜法による光学フィルムの連続生産において、ドープが金属支持体に流延される直前において、金属支持体に薄膜状態で同伴している空気(同伴空気)を、ドープに易溶解のガスに置き換える、または流延部位を易溶解ガス雰囲気にすることによって、ドープを金属支持体に流延する際にドープと金属支持体との間に巻き込まれる空気を無くし、現行と比較して、高速領域での製膜を可能にし、フィルムの生産条件が広がることにより、生産性が向上すること、また高速領域において製膜することにより、流延ダイから吐出されるドープと金属支持体との接液角度を小さくしても、同伴空気を巻き込むことが無く、かつフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産できること、これらより、光学フィルムの高品質化の要求に応え、かつ光学フィルムの安定な高生産性化が可能となるという効果を奏する。
【0022】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、易溶解性ガスが、二酸化炭素、エタン、またはアセチレンであるもので、請求項2の発明によれば、金属支持体に薄膜状態で同伴している空気(同伴空気)を、これらのドープ易溶解ガスに置き換える、または流延部位を易溶解ガス雰囲気にすることによって、ドープを金属支持体に流延する際にドープと金属支持体との間に巻き込まれる空気を無くし、現行と比較して、高速領域での製膜を可能にし、フィルムの生産条件が広がることにより、生産性が向上することができ、また高速領域において製膜することにより、流延ダイから吐出されるドープと金属支持体との接液角度を小さくしても、同伴空気を巻き込むことが無く、かつフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産することができるという効果を奏する。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、易溶解性ガス供給装置より上流側の支持体表面近くに、さらに排気装置を備え、排気装置により支持体上の同伴空気を排気した後、該支持体のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けるもので、請求項3の発明によれば、排気装置により支持体上の同伴空気が予め排気され、その後に、該支持体のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けるため、同伴空気を、これらのドープ易溶解ガスに確実に置き換える、または流延部位を易溶解ガス雰囲気に確実にすることができて、上記の効果を確実に果たすことができるという効果を奏する。
【0024】
請求項4の光学フィルムの発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするもので、請求項4の光学フィルムの発明によれば、搬送方向の膜厚ムラが低減されかつ平滑性の良好であり、これにより、光学フィルムの高品質化の要求に応えることができるという効果を奏する。
【0025】
請求項5の偏光板の発明は、請求項4に記載の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして、偏光膜の両面のうちのいずれか少なくとも一方の面に有することを特徴とするもので、請求項5の偏光板の発明によれば、膜厚ムラが低減されかつ平滑性の良好な光学フィルムを偏光板保護フィルムとして、偏光膜の両面のうちの少なくとも一方の面に有するものであるから、この偏光板を液晶パネルに組み込んだ際、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れているという効果を奏する。
【0026】
請求項6の液晶表示装置の発明は、請求項5に記載の優れた光学特性を有する光学フィルムを具備する偏光板を用いているものであるから、請求項6の液晶表示装置の発明によれば、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れているという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
図1は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の第1実施形態を示すフローシートである。なお、本発明の実施にあたっては、以下に示す図面のプロセスに限定されるものではない。
【0029】
同図において、まず、溶解釜(1)で、例えばセルロースエステル系樹脂などよりなる熱可塑性樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0030】
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプ(2)を通して、導管によって流延ダイ(3)に送液し、無限に移送する例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体(7)上の流延位置に、流延ダイ(3)からドープを流延する。
【0031】
図3に詳しく示すように、本発明による光学フィルムの製造方法では、流延ダイ(3)直前の支持体(7)表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置(4)を備え、流延ダイ(3)からのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスを吹き付けるものである。
【0032】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、ドープを流延する支持体(7)表面に同伴する空気をドープ対する溶解度の高いガスを吹き付けて置き換える、あるいは流延部周辺を溶解度の高いガス雰囲気とすることにより、生産速度を上昇させた場合においても、同伴空気を巻き込まずに、発泡の無いフィルムを得ることができる。また高速領域において製膜することにより、流延ダイ(3)から吐出されるドープと金属支持体(7)との接液角度を小さくしても、同伴空気を巻き込むことが無く、かつフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができて、表面平滑性の良いフィルムを得ることができるものである。
【0033】
ドープに対する溶解度の高い具体的なガスとしては、二酸化炭素(炭酸ガス)、エタンガス、アセチレンガスが有効である。
【0034】
また、易溶解性ガスの供給量(ガス風量)は、有効フィルム幅1m当たり、20〜1000L/minが好ましく、さらに40〜500L/minが望ましい。
【0035】
また、図3に詳しく示すように、本発明においては、易溶解性ガス供給装置(4)より上流側の支持体(7)表面近くに、さらに排気装置(5)が備えられ、排気装置(5)により支持体(7)上の同伴空気が排気された後、該支持体(7)のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスを吹き付けることが好ましい。
【0036】
これにより、排気装置(5)により支持体(7)上の同伴空気が予め排気され、その後に、該支持体(7)のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスを吹き付けるため、同伴空気を、これらのドープ易溶解ガスに確実に置き換える、または流延部位を易溶解ガス雰囲気に確実にすることができて、上記の作用効果を確実に果たすことができる。
【0037】
なお、流延ダイ(3)によるドープの流延には、流延されたウェブをブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイを用いる方法が好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、いずれも好ましく用いられる。ここで、流延ダイ(3)としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0038】
ところで、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)として、例えばセルロースエステルを用いる場合、セルロースエステル溶液の固形分濃度は、15〜30重量%であるのが、好ましい。セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、15重量%未満であれば、支持体(7)上で充分な乾燥ができず、剥離時にドープ膜の一部が支持体(7)上に残り、ベルト汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、支持体(7)上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0039】
支持体(7)として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、ベルト支持体(7)は、前後一対のドラム(15)(15)および中間の複数のロール(図示略)より保持されている。
【0040】
回転駆動エンドレスベルト支持体(7)の両端巻回部のドラム(15)(15)の一方、もしくは両方に、ベルト支持体(7)には図示しない張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってベルト支持体(7)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0041】
金属支持体(7)の幅は1700〜2500mm、セルロースエステル溶液の流延幅は1600〜2400mm、巻き取り後のフィルムの幅は1400〜2500mmであるのが好ましい。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用光学フィルムを製造することができる。
【0042】
支持体(7)としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0043】
なお、支持体(7)の周速度(搬送速度)が40〜200m/minであるのが、好ましい。そして、このときの流延ドープの支持体(7)表面に対する接液角度:θは、10°〜50°であるのが好ましい。
【0044】
上記のようにして支持体(7)表面に流延されたドープは、剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フィルム強度)が増加する。
【0045】
金属製支持体(7)としてエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(7)上では、ウェブ(10)が金属製支持体(7)から剥離ロール(8)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(10)中の残留溶媒量が60〜160重量%まで乾燥させるのが好ましく、80〜130重量%が、より好ましい。また、金属製支持体(7)からウェブ(10)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(10)は、金属製支持体(7)からの剥離直後に、金属製支持体(7)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0046】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0047】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを温度110℃で、3時間乾燥させたときの重量である。
【0048】
支持体(7)上に流延されたドープにより形成されたウェブ(10)を、支持体(7)上で加熱し、支持体(7)からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0049】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体(7)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0050】
ウェブ(10)を支持体(7)から剥離する際のウェブ(10)の残留溶媒量は、60〜160重量%であるのが、好ましい。
【0051】
支持体(7)上のウェブ(10)は、剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(10)を支持体(7)から剥離し、ついで、後述する延伸工程のテンター(11)においてウェブ(10)を延伸する。
【0052】
図2は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の第2実施形態を示すフローシートで、支持体として、例えば表面にハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム(6)を用いた場合を例示するものである。
【0053】
なお、図2の光学フィルム製造装置のその他の点は、上記図1の光学フィルム製造装置の場合と同様であるので、図面において同一のものには、同一の符号を付した。
【0054】
本実施形態の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0055】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0056】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上、3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内方向リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0057】
本実施形態に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0058】
本実施形態において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
【0059】
本実施形態において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0060】
本実施形態による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いることができる。
【0061】
セルロースエステルフィルムをIPSモードで動作する液晶表示装置の視野角拡大に用いる場合には、厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが重要であるが、このような厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0062】
一般に、セルロースエステルフィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0063】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0064】
一般式(1) B1−(G−A−)mG−B1
一般式(2) B2−(G−A−)nG−B2
上記式中、B1はモノカルボン酸成分を表わし、B2はモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B1、B2、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0065】
B1で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0066】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0067】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0068】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0069】
B2で表わされるモノアルコール成分としては、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
【0070】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0071】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0072】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0073】
ポリエステルの重量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0074】
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応のいずれかの方法により用意に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0075】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0076】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40重量%含有することが好ましい。特に5〜15重量%含有することが好ましい。
【0077】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0078】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、いずれも本実施形態において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0079】
有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0080】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0081】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0082】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0083】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0084】
本明細書において、アクリル系ポリマーというのは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0085】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0086】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30重量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40重量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0087】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0088】
本実施形態において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20重量%含有することが好ましい。
【0089】
本実施形態の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量500以上、3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0090】
また、本実施形態の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量5000以上、30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0091】
本実施形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーの重量平均分子量が500以上、3000以下、あるいはまたポリマーの重量平均分子量が5000以上、30000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0092】
本実施形態において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20重量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0093】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20重量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0094】
また、本実施形態においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0095】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本実施形態において、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する利点を有する。
【0096】
本実施形態において、有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0097】
上述した厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して5〜25重量%含有させることが好ましい。厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量が5重量%未満であれば、フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減する効果が発現しないので、好ましくない。また厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤の含有量が25重量%を超えると、いわゆるブリードアウトが生じるなど、フィルム中の安定性が低下するので、好ましくない。
【0098】
本実施形態による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒という。
【0099】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0100】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0101】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0102】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0103】
本実施形態におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させてもよい。
【0104】
本実施形態において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0105】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0106】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0107】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0108】
本実施形態に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(3)で表される。
【0109】
一般式(3) R−(OH)n
式中、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表わす。
【0110】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0111】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0112】
本実施形態の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0113】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0115】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0116】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0117】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0118】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0119】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0120】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0121】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本実施形態では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0122】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1重量%未満、好ましくは0.1重量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0123】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0124】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0125】
本実施形態におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0126】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0127】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0128】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0129】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0130】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm2中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0131】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加された粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0132】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0133】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0134】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。高圧分散装置とは、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0135】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm2以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm2以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0136】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名、マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0137】
本実施形態において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0138】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0139】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0140】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0141】
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましく、5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
【0142】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0143】
本実施形態において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0144】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0145】
本実施形態において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0146】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(いずれもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0147】
また、本実施形態において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0148】
本実施形態において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0149】
また、本実施形態の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0150】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0151】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0152】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0153】
その他、図1と図2に示す本実施形態の光学フィルムの製造方法を実施する装置において、延伸工程は、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(またはフィルム)(10)の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0154】
延伸工程のテンター(11)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、10〜35重量%であることが好ましい。
【0155】
、延伸工程のテンター(11)におけるウェブの延伸率が3〜100%であり、5〜80%であることが好ましく、さらに5〜60%であることが望ましい。またテンター(11)における温風吹出しスリット口から吹き出す温風の温度が100〜200℃であり、110〜190℃であることが好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。
【0156】
延伸工程のテンター(11)の後には、乾燥装置(12)を設けることが好ましい。乾燥装置(12)内では、側面から見て千鳥配置せられた複数の搬送ロールによってウェブ(10)が蛇行せられ、その間にウェブ(10)が乾燥せられるものである。また、乾燥装置(10)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥温度等に影響を受けるが、乾燥時のフィルム搬送張力は、30〜300N/m幅であり、40〜270N/m幅が、より好ましい。
【0157】
なお、ウェブ(フィルム)(10)を乾燥させる手段は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(12)の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風(14)によって乾燥され、乾燥装置(12)の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風(14)の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0158】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0159】
搬送乾燥工程を終えた例えばセルロースエステルフィルムに対し、巻取工程に導入する前段において、一般に、エンボス加工装置によりフィルムにエンボスを形成する加工が行なわれる。
【0160】
ここで、エンボスの高さh(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wは、フィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。エンボスは、フィルムの両面に形成してもよい。この場合、エンボスの高さh1+h2(μm)は、フィルム膜厚Tの0.05〜0.3倍の範囲、幅Wはフィルム幅Lの0.005〜0.02倍の範囲に設定する。例えばフィルム膜厚40μmであるとき、エンボスの高さh1+h2(μm)は2〜12μmに設定する。エンボス幅は5〜30mmに設定する。
【0161】
乾燥が終了したフィルムを巻取り装置(13)によって巻き取り、光学フィルムの元巻を得るものである。乾燥を終了するフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0162】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0163】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0164】
本発明による光学フィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1200〜2500mmであることが好ましい。
【0165】
本発明においては、光学フィルムの乾燥後の膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましく、さらに、30〜80μmの範囲が好ましい。ここで、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5重量%以下の状態のフィルムを言うものである。
【0166】
上記のように、本発明による光学フィルムの製造方法では、流延ダイ(3)直前の支持体(7)表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置(4)を備え、流延ダイ(3)からのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスを吹き付けるものであるが、本発明の光学フィルムの製造方法により製造された光学フィルムは、膜厚偏差(Δhμm)が、0.05〜0.2μmであるのが好ましく、0.05〜0.15μmであるのが、さらに好ましい。
【0167】
なお、巻き取り後のセルロースエステルフィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイの口金のスリット間隙、流延ダイの押し出し圧力、支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0168】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことはもちろんである。
【0169】
本実施形態において、セルロースエステルフィルムは、含水率としては0.1〜5%が好ましく、0.3〜4%がより好ましく、0.5〜2%であることがさらに好ましい。
【0170】
本実施形態において、セルロースエステルフィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
【0171】
また、本実施形態の方法により製造された光学フィルムは、3枚重ねた場合のヘイズが、0.3〜2.0であるもので、ヘイズが非常に低いものであり、透明性、平面性に優れた光学特性を有するものである。
【0172】
ここで、光学フィルムのヘイズの測定は、例えば、JIS K6714に規定される方法に従って、ヘイズ・メーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を用いて測定すればよい。
【0173】
また、本実施形態による光学フィルムの製造方法で製造されたセルロースエステルフィルムの機械方向(MD方向)の引張弾性率が、1500MPa〜3500MPa、機械方向に垂直な方向(TD方向)の引張弾性率が、3000MPa〜4500MPaであるのが好ましく、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.40〜1.90であるのが好ましい。
【0174】
ここで、光学フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.40未満であれば、1650mmを超える幅のフィルムの巻取りでは中央部のたるみが大きくなり、巻き芯のフィルムの貼り付きが多くなるため、好ましくない。また、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.90を超えると、偏光板での過熱後のそりが生じたり、液晶パネルに組み込んだ際にバックライトの熱によりバックライト側と表面側の偏光板の寸法変化の挙動が大きく異なることにより、コーナーにムラが生じるので、好ましくない。
【0175】
フィルムのMD方向、及びTD方向の引張弾性率の具体的な測定方法としては、例えばJIS K7217の方法が挙げられる。
【0176】
すなわち、引っ張り試験器(ミネベア社製、TG−2KN)を用い、チャッキング圧:0.25MPa、標線間距離:100±10mmで、サンプルをセットし、引っ張り速度:100±10mm/分の速度で引っ張る。その結果、得られた引張応力−歪み曲線から、弾性率算出開始点を10N、終了点を30Nとし、その間に引いた接線を外挿し、弾性率を算出するものである。
【0177】
本実施形態の光学フィルムでは、下記式で定義される面内方向リタデーション(Ro)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で30〜300nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で70〜400nmであることが好ましい。
【0178】
Ro=(nx−ny)×d
Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、Roはフィルム面内リタデーション値、Rtはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表わす。
【0179】
なお、リタデーション値Ro、Rtは、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
【0180】
本発明が対象とする光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ、特に液晶ディスプレイに用いられる機能フィルムのことであり、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルムを含むものである。
【0181】
本発明による光学フィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の方法により製造された光学フィルムは好ましく用いられる。
【0182】
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0183】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
【0184】
上記偏光板には、本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の方法により製造された位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0185】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0186】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0187】
本発明の方法により製造された光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0188】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0189】
本発明の方法により製造された光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。さらに、この偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0190】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0191】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0192】
実施例1
(ドープの調製)
下記の素材を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解、濾過し、ドープを調製した。なお、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後、添加した。
【0193】
(ドープ組成)
セルローストリアセテート(アセチル置換度2.88) 100重量部
トリフェニルホスフェート 8重量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(液体の可塑剤) 4重量部
5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロ
キシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(液体紫外線吸収剤)1重量部
メチレンクロライド 418重量部
エタノール 23重量部
アエロジル R972V 0.1重量部
(セルローストリアセテートフィルムの作製)
上記のドープを用いて、以下のようにして、セルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0194】
図1と図3に示す製造装置を用いて製膜を行なった。同図を参照すると、濾過したドープを、ドープ温度35℃で、温度20℃のSUS316製のエンドレスベルトからなる支持体(7)上にコートハンガーダイよりなる流延ダイ(3)より均一に流延し、流延膜(ウェブ)(10)を形成する。
【0195】
図3に詳しく示すように、この実施例においては、流延ダイ(3)直前の支持体(7)表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスとして二酸化炭素(炭酸ガス)を供給する易溶解性ガス供給装置(4)を備えている。
【0196】
一方、この実施例では、易溶解性ガス供給装置(4)より上流側の支持体(7)表面近くに、さらに排気装置(5)を設置し、排気装置(5)により支持体(7)上の同伴空気を、10m /minの排気量で排気した後、該支持体(7)のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスとして二酸化炭素を、10m /minの給気量で吹き付けた。
【0197】
流延ドープの支持体(7)表面に対する接液角度:θを測定したところ、10(°)であった。また、膜厚偏差(Δhμm)を測定したところ、0.05μmであった。得られた結果を下記の表1に示した。
【0198】
その後、支持体(7)上での乾燥風の温度は30℃で一定とし、支持体(7)の搬送速度を適宜調整することで、剥離時のウェブ(10)の残留溶媒量を80重量%となるように調整した。
【0199】
支持体(7)からウェブ(10)を剥離ロール(8)により剥離した後、搬送ロール(9)で搬送しながら乾燥させ、テンター(11)で、残留溶媒量10%のとき、温度100℃の雰囲気内で、ウェブ(10)を幅方向に1.06倍延伸した後、幅保持を解放して、ロール搬送しながら温度125℃の乾燥ゾーン(12)で乾燥を終了させ、フィルム両端に幅10mm、高さ8μmのナーリング加工を施して、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。フィルム幅は1300mm、巻き取り長は1500mとした。
【0200】
なお、セルローストリアセテートフィルムは、最終的な残留溶媒量が0.2重量%の状態で巻取り機(13)により巻き取った。
【0201】
実施例2と3
上記実施例1の場合と同様に、支持体(7)のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置(4)より易溶解性ガスとして二酸化炭素を吹き付けて、ドープの流延を実施して、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、流延ドープの支持体(7)表面に対する接液角度が、実施例2では25°、実施例3では50°となるように、各実施例で支持体(7)の搬送速度を変化させて、実施した点にある。
【0202】
そして、このときの各実施例での膜厚偏差(Δhμm)を測定し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0203】
実施例4〜6
上記実施例1の場合と同様に実施して、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、易溶解性ガスとしてエタンガスを使用した点にある。そして、流延ドープの支持体(7)表面に対する接液角度が、実施例4では10°、実施例5では25°、実施例6では50°となるように、各実施例で支持体(7)の搬送速度を変化させて実施した。
【0204】
そして、このときの各実施例での膜厚偏差(Δhμm)を測定し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0205】
比較例1〜3
上記実施例1の場合と同様に実施して、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製するが、上記実施例1の場合と異なる点は、易溶解性ガスおよび排気装置を使用せずに、実施した点にある。そして、流延ドープの支持体(7)表面に対する接液角度が、比較例1では10°、比較例2では25°、比較例3では50°となるように、各実施例で支持体(7)の搬送速度を変化させて実施した。
【0206】
そして、このときの各実施例での膜厚偏差(Δhμm)を測定し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0207】
(フィルムの評価)
上記実施例1〜6、および比較例1〜3においてそれぞれ作製したフィルムについて、フィルムの性能を評価するために、フィルムの泡発生の有無、および「フィルム」評価を行ない、得られた評価結果を、下記の表1に示した。
【0208】
(フィルムの泡発生有無の評価方法)
本発明の実施例1〜6、および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルム試料から全幅で長手方向に1mの長さに切り出し、このフィルム試料について、フィルム表面の泡発生の有無を、目視により評価した。
【0209】
(泡発生の有無評価)
「無」:泡の発生無し
「有(小)」:泡の発生が少し有り
「有(大)」:泡の発生が多く有り
(フィルムの評価)
本発明の実施例1〜6、および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルム試料を、下記の基準で評価した。
【0210】
◎:泡の発生が無く、膜厚偏差が小さい
○:泡の発生は無いが、膜厚偏差がやや大きい
×:泡の発生が有り
【表1】

【0211】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の易溶解性ガスを用いた実施例1〜6で作製したセルローストリアセテートフィルムによれば、フィルム表面の泡の発生を無くすことができた。そして、フィルムの膜厚偏差を小さくするために、接触角を10度まで小さくしても、泡の発生が見られなかった。
【0212】
つぎに、実施例1〜6および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いて、下記の方法によって各種の偏光板を作製し、それらの評価を行った。
【0213】
(偏光膜の作製)
厚さ120μmの長尺のポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gの比率からなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gの比率からなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し長尺の偏光膜を得た。
【0214】
(偏光板の作製)
ついで、下記工程1〜5に従って、偏光膜と実施例1〜6および比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルム光学フィルムとを貼り合わせて偏光板を作製した。
【0215】
工程1:実施例1〜15および比較例1〜4で作製したセルローストリアセテートフィルム作製した長尺の光学フィルムを、2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に、温度50℃で、90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥させた。
【0216】
一方、市販の長尺のセルロースエステルフィルムを2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液に、温度50℃で、90秒間浸漬し、ついで水洗、乾燥させた。
【0217】
工程2:上記の長尺の偏光膜を、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
【0218】
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、それを工程1でアルカリ処理した実施例1〜6および比較例1〜3の長尺のセルローストリアセテートフィルムと、市販の長尺のセルロースエステルフィルムとで挟み込んで、積層配置した。
【0219】
工程4:2つの回転するローラにて20〜30N/cm の圧力で約、2m/minの速度で、これらのフィルムを張り合わせた。このとき気泡が入らないように注意して実施した。
【0220】
工程5:80℃の乾燥機中にて、工程4で作製したフィルム試料を2分間乾燥処理し、偏光板を作製した。
【0221】
(液晶表示パネルの作製)
市販の液晶表示パネル(NEC製カラー液晶ディスプレイ、MultiSync、LCD1525J、型名LA−1529HM)の最表面の偏光板を注意深く剥離し、上記作製した各種の偏光板を、偏光方向を合わせて張り付けて、液晶表示パネルを作製した。
【0222】
(偏光板の目視評価)
上記のようにして作製した各液晶表示パネルについて、複数の評価者で目視にて、正面および斜めから見たときの白っぽく見える色ムラを観察して、偏光板の評価とした。
【0223】
その結果、実施例1〜6で作製したセルローストリアセテートフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた液晶表示パネルでは、どの評価者も、色ムラが全く見えず、偏光板は、優れた性能を有するものであった。これに対し、比較例1〜3で作製したセルローストリアセテートフィルムを偏光板用保護フィルムとして用いた液晶表示パネルでは、多くの評価者で、色ムラが確認でき、偏光板製品としては使用できないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の第1実施形態を示す概略フローシートである。
【図2】同第2実施形態を示す概略フローシートである。
【図3】図1の装置の要部拡大側面図である。
【符号の説明】
【0225】
1:溶解釜
2:ポンプ
3:流延ダイ
4:易溶解性ガス供給装置
5:同伴空気排気装置
6:回転駆動ドラム(支持体)
7:エンドレスベルト(支持体)
8:ウェブ搬送ロール
9:ウェブ搬送ロール
10:ウェブ
11:テンター
12:ロール搬送乾燥装置
13:巻取り機
14:温風(乾燥風)
15:前後巻回ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法により熱可塑性樹脂のドープを無限移行する無端の支持体上に流延ダイから流延し、ドープ膜(以下、ウェブとも呼ぶ)を形成した後、ウェブを支持体から剥離し、剥離後のウェブを搬送して乾燥させ、得られたフィルムを巻き取る、光学フィルムの製造方法であって、流延ダイ直前の支持体表面近くに、ドープに対して易溶解性のガスを供給する易溶解性ガス供給装置を備え、流延ダイからのドープの流延の際に、ドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けることを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
易溶解性ガスが、二酸化炭素、エタン、またはアセチレンであることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
易溶解性ガス供給装置より上流側の支持体表面近くに、さらに排気装置を備え、排気装置により支持体上の同伴空気を排気した後、該支持体のドープ流延箇所に易溶解性ガス供給装置より易溶解性ガスを吹き付けることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする、光学フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の光学フィルムを偏光板用保護フィルムとして、偏光膜の両面のうちのいずれか少なくとも一方の面に有することを特徴とする、偏光板。
【請求項6】
請求項5に記載の偏光板を、液晶セルの少なくとも一方の面に有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−69646(P2010−69646A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237374(P2008−237374)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】