説明

光学フィルム、及びその製造方法

【課題】 液晶表示装置の偏光板用保護フィルム等に用いられる光学フィルムについて、フィルムの生産速度を上昇させても、同伴空気の巻き込みによる発泡を無くすとともに、膜厚ムラを低減し、滴下されたスケール溶解液の余剰液分の液滴飛散による転写故障がなく、平面性の優れた光学フィルムが得られ、生産効率の高い、しかも品質にもすぐれていて、高速製膜可能な、薄膜かつ広幅の光学フィルムを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁と後壁の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁を設けて、減圧チャンバの左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室を形成しておき、主減圧室の減圧力よりも副減圧室の減圧力を、−30〜−300Paの範囲で大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、テレビや大型モニター等の液晶表示装置の薄型軽量化、大型画面化、高精細化の開発が進んでいる。それに伴って、液晶偏光板用の保護フィルムもますます薄膜化、広幅化、高品質化の要求が強くなってきている。
【0003】
さらに、光学フィルムの低コスト化が進む中、製膜速度の高速化技術が求められている。
【0004】
一般に、溶液流延製膜法により例えばセルロースエステルフィルムを製造する方法では、流延ダイからセルロースエステルの樹脂溶液(ドープ)を、エンドレスに走行する支持体上に流延し、該支持体が約1周したところの剥離点でウェブ(流延膜)を剥離し、ロール群を引き回しながら乾燥装置で乾燥し、巻き取ることによってセルロースエステルフィルムを製造している。
【0005】
この溶液流延製膜法によれば、製膜速度が遅く、従来より特許公報などに製膜速度を上げる方法が種々開示されているが、いずれの方法を使って速度を上げても、セルロースエステルフィルムの品質、特に縦スジ、ムラ、同伴空気の巻き込みによる発泡や、密着性の低下等の問題点が多々あった。
【0006】
そこで、支持体上にドープを流延してウェブを形成する際、安定した高速流延を可能とするために、ウェブが支持体上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段として減圧チャンバを設けることが実施されている。
【0007】
そして、製膜の高速化に伴い、同伴空気除去のための減圧を、これまでより下げることにより、フィルムヘの同伴空気の泡の巻き込みを防いできた。
【0008】
下記の特許文献1には、このような減圧チャンバを備えるとともに、流延ダイよりドープを流延する際、流延ダイエッジにおいてヒゲ状皮膜(すなわち、スケール)の発生を防止するスケール溶解液滴下手段を備えた溶液製膜方法が開示されており、ドープの溶質に対する良溶媒をスケール溶解液として、これを流延ダイエッジにおいてウェブの耳部に滴下し、吸引操作に伴う耳部のバタツキを抑制するとともに、流延ダイエッジでのドープの溶媒ガス濃度を一定に保つことにより、流延ダイエッジにおけるスケールの発生を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−193691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、製膜時に同伴空気除去のために減圧チャンバの減圧度を下げることにより、減圧チヤンバへの吸引風による流延ダイからの流延液膜の振動が生じて、膜厚ムラが増大したり、スケール発生防止のために流延ダイエッジに滴下されたスケール溶解液の余剰液分の液滴飛散による支持体汚れの蓄積、およびこれに起因するフィルム生産性の低下、あるいはまた該飛散液滴のフィルム本体への転写故障といった問題が発生した。
【0011】
そして、上記特許文献1に記載の溶液流延製膜法において、高速・高減圧化に伴い、スケール発生防止のためのスケール溶解液を、樹脂溶液(ドープ)のいわゆる良溶媒にするというスケール溶解液成分の変更だけでは、減圧チャンバへの吸引風によるスケール溶解液余剰液分の飛散を防ぐことはできないという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、まず第1に、光学フィルムの生産速度を上昇させても、同伴空気の巻き込みによる発泡を無くすとともに、減圧チヤンバ吸引風による流延ダイからの流延液膜の振動による膜厚ムラを低減し、つぎに第2に、滴下されたスケール溶解液の余剰液分の液滴飛散による転写故障がなく、平面性の優れた光学フィルムが得られるとともに、スケール溶解液の余剰液分の液滴飛散による支持体汚れの蓄積がなく、生産効率の高い、しかも品質にもすぐれていて、高速製膜可能な、薄膜かつ広幅の光学フィルムを製造することができる、光学フィルムの製造方法、およびこの方法により製造された光学フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法により光学フィルムを製造する方法で、金属製回転エンドレスベルトまたは金属製回転ドラム(支持体)上に光学フィルムの原料溶液であるドープを流延し、支持体上に流延膜(ウェブ)を形成する際、ウェブが支持体上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバを備えるとともに、流延ダイよりドープを流下する時、流延ダイのフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部(流延ダイエッジ)に、ヒゲ状皮膜(スケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段を備えている光学フィルムの製造方法において、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁と後壁の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁を設けて、減圧チャンバの左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室を形成しておき、主減圧室の減圧力よりも副減圧室の減圧力を、−30〜−300Paの範囲で大きくすることを特徴としている。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁および後壁と、これらに対向する副減圧室の左右両外側壁および後部外側壁との間の間隙を、10〜300mmとすることを特徴としている。
【0015】
請求項3の光学フィルムの発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明は、溶液流延製膜法により光学フィルムを製造する方法で、金属製回転エンドレスベルトまたは金属製回転ドラム(支持体)上に光学フィルムの原料溶液であるドープを流延し、支持体上に流延膜(ウェブ)を形成する際、ウェブが支持体上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバを備えるとともに、流延ダイよりドープを流下する時、流延ダイのフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部(流延ダイエッジ)に、ヒゲ状皮膜(スケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段を備えている光学フィルムの製造方法において、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁と後壁の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁を設けて、減圧チャンバの左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室を形成しておき、主減圧室の減圧力よりも副減圧室の減圧力を、−30〜−300Paの範囲で大きくすることを特徴とするもので、請求項1の発明によれば、減圧チヤンバの流延ダイに接する面以外の壁面を二重化して、副減圧室を形成し、減圧チヤンバ外側部の副減圧室の減圧力を、同内側部の主減圧室の減圧力よりも大きくして、強く吸引することにより、流延液膜の吐出方向に対して側面部からの流延液膜への吸引風の流れを遮断し、光学フィルムの生産速度を上昇させても、同伴空気の巻き込みによる発泡を無くすことができるとともに、高速製膜に伴うドープ吐出速度の上昇による減圧度アップに対しても、流延液膜の安定性を向上させ、高速製膜領域においても、流延液膜の振動に起因するフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産することができる。
【0017】
また、製膜中に流延ダイエッジにおいてスケール溶解液滴下手段からウェブの幅手方向両端部に滴下されたスケール溶解液の余剰液分を、副減圧室の方に吸引回収することができ、これによって滴下されたスケール溶解液の余剰液分の飛散液滴による転写故障がなく、平面性の優れた光学フィルムが得られるとともに、スケール溶解液の余剰液分の飛散液滴による支持体汚れの蓄積がなく、生産効率の高い、しかも品質にもすぐれていて、高速製膜可能な、薄膜かつ広幅の光学フィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁および後壁と、これらに対向する副減圧室の左右両外側壁および後部外側壁との間の間隙を、10〜300mmとすることを特徴とするもので、請求項2の発明によれば、減圧チヤンバをいわゆる内外二重化し、減圧チヤンバ外側部の所定の間隙を有する副減圧室から、減圧チヤンバ内側部の主減圧室の減圧力よりも大きい減圧力で同伴空気を相対的に強く吸引することにより、流延液膜端部に対する側面部からの吸引風を低減することができて、安定流延を実現し、また流延ダイエッジ(左右両端部)から吹き飛ばされたスケール溶解液の余剰液分を、支持体外部の強い吸引力(減圧力)を有する副減圧室の方に回収することができて、高品質のフィルムを高生産速度で、長期間安定して生産することができるという効果を奏する。
【0019】
請求項3の光学フィルムの発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とするもので、請求項3の発明によれば、光学フィルムは、搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性にすぐれている。またスケール発生防止のために流延ダイエッジに滴下されたスケール溶解液の余剰液分の飛散液滴による転写故障がなく、光学フィルムの高品質化の要求に応えかつ安定な高生産性化が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置の第1の実施形態を示す概略フローシートである。
【図2】図1の装置の流延ダイと減圧チャンバ部分の要部拡大縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大底面図である。
【図4】図1の装置の流延ダイと減圧チャンバ部分の要部拡大斜視図である。
【図5】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する溶液流延製膜装置の第2の実施形態を示す概略フローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
この明細書において、前方とはフィルムの搬送方向をいゝ、左右は、前方に向かっていうものとする。
【0023】
図1は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の具体例を示すフローシートである。
【0024】
同図において、まず溶解釜(1)で、例えばセルロースエステル等の樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0025】
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプ(2)を通して、導管によって流延ダイ(3)に送液し、無限に移送する例えば回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体(6)上の流延位置に、流延ダイ(3)からドープを流延し、これにより形成された流延膜(ウェブ)(9)を、エンドレスベルト支持体(6)上に接触させる。エンドレスベルト支持体(6)は、前後一対のドラム(5)(5)および中間の複数のロール(図示略)より保持されており、エンドレスベルト支持体(6)の両端巻回部のドラム(5)(5)の一方、もしくは両方に、エンドレスベルト支持体(6)には図示しない張力を付与する駆動装置が設けられ、これによってエンドレスベルト支持体(6)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0026】
図5は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置のいま1つの具体例を示すフローシートで、流延支持体として、例えば表面にハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム(7)を用いた場合を例示するものである。
【0027】
なお、図5の光学フィルム製造装置のその他の点は、上記図1の光学フィルム製造装置の場合と同様であるので、図面において同一のものには、同一の符号を付した。
【0028】
流延ダイ(3)によるドープの流延には、流延されたウェブ(流延膜)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイを用いる方法が好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0029】
なお、流延ダイ(3)としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0030】
図2〜図4に詳しく示すように、本発明の方法においては、回転駆動エンドレスベルトまたは回転駆動ドラムよりなる支持体(6)(7)上にウェブ(9)を形成する際、ウェブ(9)が支持体(6)(7)上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバ(4)を備えるとともに、流延ダイ(3)よりドープを流下する時、流延ダイ(3)のフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部(流延ダイエッジ)に、ヒゲ状皮膜(スケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段(40)を備えている。
【0031】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、主減圧室(20)を有する減圧チャンバ(4)の左右両側壁(21)(22)と後壁(23)の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁(31)(32)(33)を設けて、減圧チャンバ(4)の左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室(30)を形成しておき、主減圧室(20)の減圧力よりも副減圧室(30)の減圧力を、−30〜−300Paの範囲で大きくするものである。
【0032】
ここで、主減圧室(20)と副減圧室(30)との減圧差(ΔP)が、−30Pa未満であれば、製膜中に流延ダイエッジにおいて滴下手段(40)からウェブ(9)の幅手方向両端部に滴下されたスケール溶解液の余剰液分(飛散液滴)を副減圧室(30)の方に吸引することができず、余剰液分の飛散液滴が主減圧室(20)の壁面に付着し、ついには、該液滴が支持体(6)(7)上に落下してしまうので、好ましくない。また、主減圧室(20)と副減圧室(30)との減圧差(ΔP)が、−300Paを超えると、フィルム端部が、上流方向と幅手方向の両方から大きな減圧を受けることとなることから、フィルム端部のバタツキが生じ、厚みムラが生じてしまうので、好ましくない。
【0033】
なお、図2〜図4において、(24)は減圧チャンバ(4)の頂壁、(25)は減圧チャンバ(4)前端部の傾斜壁、(26)は減圧チャンバ(4)の頂壁(24)に設けられた吸引ダクト、(27)はそのダクト開口部である。
【0034】
また、(34)は副減圧室(30)の頂壁、(35)は副減圧室(30)前端部の傾斜壁、(36)は副減圧室(30)の頂壁(34)に設けられた吸引ダクト、(37)はそのダクト開口部である。
【0035】
上記のように、本発明においては、光学フィルムの連続生産において、流延ダイ(3)から支持体(6)(7)に流延される液膜に対して、液膜上流側に配置された減圧チャンバ(4)の流延ダイ(3)に接する面以外の壁面を二重化して、副減圧室(30)を形成し、減圧チャンバ(4)の主減圧室(20)と副減圧室(30)との減圧差ΔPが−30〜−300Paとなるように、減圧チャンバ(4)外側部の副減圧室(30)を、同内側部の主減圧室(20)の減圧力よりも大きい減圧力で減圧することによって、流延液膜の吐出方向に対して側面部からの流延液膜への吸引風の流れを遮断し、高速製膜に伴うドープ吐出速度の上昇による減圧度アップに対しても、流延液膜の安定性を向上させ、高速製膜領域においても、流延液膜の振動に起因するフィルム搬送方向の膜厚ムラを低減することができ、平滑性の良いフィルムを生産することができる。
【0036】
また、製膜中に流延ダイ(3)からドープが支持体(6)(7)に流延される際の流延ダイリップ(3a)のダイエッジにおいて、滴下手段(40)からウェブ(9)の幅手方向両端部に滴下されたスケール溶解液の余剰液分(飛散液滴)を副減圧室(30)の方に吸引回収することができて、飛散液滴の支持体(6)(7)への付着を防止し、かつそのスケール溶解液の飛散液滴がフィルム本体に転写するのを防止することができ、高品質のフィルムを長期間安定して製造することができる。これにより、光学フィルムの高品質化の要求に応えかつ安定な高生産性化が可能となる。
【0037】
本発明の光学フィルムの製造方法において、減圧チヤンバ(4)の主減圧室(20)の左右両側壁(21)(22)および後壁(23)と、これらに対向する副減圧室(30)の左右両外側壁(31)(32)および後部外側壁(33)との間の間隙(D)は、10〜300mmとするのが、好ましい。
【0038】
ここで、この副減圧室(30)の間隙(D)が、10mm未満であれば、飛散液滴が回収されずに減圧チャンバ外部に飛散し、工程汚染につながるので、好ましくない。また、この間隙(D)が、300mmを超えると、減圧ファンの開度が大きくなりすぎ、減圧チャンバに振動が伝播することにより、膜厚ムラが生じるので、好ましくない。
【0039】
つぎに、溶液流延製膜法について、さらに詳しく説明する。
【0040】
溶液流延製膜法において、流延ダイ(3)から図1に示す回転駆動エンドレスベルト(6)または図5に示す回転駆動ドラム(7)よりなる支持体上に流延するセルロースエステル等の樹脂溶液(ドープ)の固形分濃度は、15〜30重量%であるのが、好ましい。セルロースエステル等の樹脂溶液(ドープ)の固形分濃度が、15重量%未満であれば、支持体(6)(7)上で充分な乾燥ができず、剥離時にウェブの一部が支持体(6)(7)上に残り、ベルト汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、支持体(6)(7)上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0041】
また、支持体(6)(7)の幅は1700〜2500mm、セルロースエステル等の樹脂溶液の流延幅は1600〜2400mm、巻き取り後のフィルムの幅は1400〜2400mmであるのが好ましい。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用光学フィルムを製造することができる。
【0042】
支持体(6)(7)としてエンドレスベルトを用いる場合には、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶媒の沸点未満の温度、混合溶媒では最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶媒沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。なお、支持体(6)(7)の周速度が40〜200m/minであるのが、好ましい。
【0043】
上記のようにして支持体(6)(7)表面に流延されたドープは、剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フィルム強度)が増加する。
【0044】
回転駆動エンドレスベルトまたは回転駆動ドラムよりなる支持体(6)(7)上では、ウェブ(9)が支持体(6)(7)から剥離ロール(8)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(9)中の残留溶媒量が150重量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120重量%が、より好ましい。また、支持体(6)(7)からウェブ(9)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(9)は、支持体(6)(7)からの剥離直後に、支持体(6)(7)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶媒蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0045】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0046】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを温度110℃で、3時間乾燥させたときの重量である。
【0047】
支持体(6)(7)上に流延されたドープにより形成されたウェブ(9)を、支持体(6)(7)上で加熱し、支持体(6)(7)から剥離ロール(8)によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0048】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体(6)(7)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0049】
支持体(6)(7)とウェブ(9)を剥離ロール(8)によって剥離する際の剥離張力は、JIS Z 0237のような剥離力測定で得られる剥離力より大きな張力で剥がしているが、これは高速製膜時に、剥離張力をJIS測定法で得られた剥離力同等にすると剥離位置が下流側に持っていかれたりする場合があるため、安定化のため高めで行なっている。但し、工程で同じ剥離張力で製膜していても、JIS測定方法による剥離力が下がると、フィルムのクロスニコル透過率(CNT)のバラツキが大きく低減することも確かめられている。
【0050】
工程での剥離張力値としては、通常、50〜250N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明の方法により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ(9)の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
【0051】
支持体(6)(7)上でウェブ(9)が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(9)を剥離ロール(8)によって剥離し、ついで、延伸工程のテンター(10)においてウェブ(9)を延伸する。
【0052】
延伸工程では、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(9)の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0053】
延伸工程のテンター(10)に入る直前のウェブ(9)の残留溶媒量は、10〜35重量%であることが好ましい。
【0054】
延伸工程のテンター(10)におけるウェブの延伸率が3〜100%であり、5〜80%であることが好ましく、さらに5〜60%であることが望ましい。
【0055】
またテンター(10)における温風吹出しスリット口から吹き出す温風の温度が100〜200℃であり、110〜190℃であることが好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。
【0056】
延伸工程のテンター(10)の後には、乾燥装置(11)を設けることが好ましい。乾燥装置(11)内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによってウェブ(29)が蛇行させられ、その間にウェブ(29)が乾燥されるものである。また、乾燥装置(11)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥温度等に影響を受けるが、乾燥時のフィルム搬送張力は、10〜300N/m幅であり、20〜270N/m幅が、より好ましい。
【0057】
なお、ウェブ(フィルム)(9)を乾燥させる手段は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(11)の温風入口から吹込まれる乾燥風(12)によって乾燥され、乾燥装置(11)の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風(12)の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
【0058】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0059】
搬送乾燥工程を終えた例えばセルロースエステル等の樹脂フィルム(F)に対し、巻取工程に導入する前に、光学フィルム(F)の端部に多数の凹凸を有するエンボス部を形成するのが、好ましい。
【0060】
つぎに、エンボス部の形成加工が終了したフィルムを、巻取り装置(13)によって巻き取り、光学フィルムの元巻を得るものである。乾燥を終了するフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0061】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0062】
本発明による光学フィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1400〜2400mmであることが好ましい。
【0063】
セルロースエステル等の樹脂フィルムの乾燥後の膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましい。ここで、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5重量%以下の状態のフィルムを言うものである。
【0064】
ここで、巻取り後のセルロースエステル等の樹脂フィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来のセルロースエステル等の樹脂フィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイの口金のスリット間隙、流延ダイの押し出し圧力、支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0065】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは、もちろんである。
【0066】
ところで、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、主材としてセルロースエステル等の樹脂を含む樹脂溶液(ドープ)に、可塑剤、リタデーション調整剤、紫外線吸収剤、微粒子、及び低分子量物質のうちの少なくとも1種以上の物質、及び溶媒が含くまれている。以下、これらについて説明する。
【0067】
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルを用いるのが好ましい。
【0068】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の方法に用いられるセルロースエステルには、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0069】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上、3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0070】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0071】
セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0072】
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるのが、好ましい。
【0073】
セルロースエステルフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPSモードで動作する液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、このような厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0074】
一般に、セルロースエステルフィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0075】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0076】
一般式(1) B1−(G−A−)mG−B1
一般式(2) B2−(G−A−)nG−B2
上記式中、B1はモノカルボン酸成分を表わし、B2はモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B1、B2、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0077】
B1で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0078】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0079】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0080】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0081】
B2で表わされるモノアルコール成分としては、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
【0082】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0083】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0084】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0085】
ポリエステルの重量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0086】
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0087】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0088】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40重量%含有することが好ましい。特に5〜15重量%含有することが好ましい。
【0089】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0090】
本発明の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル、リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
【0091】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0092】
有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0093】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0094】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0095】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0096】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0097】
アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0098】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0099】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30重量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40重量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0100】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0101】
水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20重量%含有することが好ましい。
【0102】
溶液流延製膜法の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量500以上、3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0103】
また、溶液流延製膜法の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量5000以上、30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0104】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーの重量平均分子量が500以上、3000以下、あるいはまたポリマーの重量平均分子量が5000以上、30000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0105】
厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20重量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0106】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20重量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0107】
また、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0108】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する利点を有する。
【0109】
有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0110】
溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0111】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0112】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブをゲル化させ、ウェブを丈夫にして、支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0113】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0114】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶媒として最も好ましいのは、塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶媒である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0115】
溶液流延製膜法により製造される光学フィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
【0116】
溶液流延製膜法において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0117】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0118】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0119】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0120】
溶液流延製膜法に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表される。
【0121】
一般式(1) R1−(OH)n
(ただし、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0123】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0124】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0126】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0127】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0128】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0129】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0130】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0131】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0132】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0133】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1重量%未満、好ましくは0.1重量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0134】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0135】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0136】
溶液流延製膜法におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0137】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0138】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0139】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0140】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0141】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm 中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0142】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加された粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0143】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0144】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0145】
微粒子の分散は、微粒子と溶媒を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。溶液流延製膜法で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0146】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm 以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm 以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0147】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0148】
溶液流延製膜法において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶媒中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶媒に溶解したドープと混合し、該混合液を支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0149】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0150】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0151】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶媒を用いることが好ましい。
【0152】
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
【0153】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0154】
溶液流延製膜法において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0155】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0156】
有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0157】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0158】
また、溶液流延製膜法において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0159】
これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の使用量が多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0160】
また、溶液流延製膜法の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0161】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0162】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0163】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0164】
本発明による光学フィルムは、上記の光学フィルムの製造方法で製造されたものであり、フィルムの膜厚は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、20〜150μmの範囲が好ましい。
【0165】
本発明が対象とする光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ、特に液晶ディスプレイに用いられる機能フィルムのことであり、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルムを含むものである。
【0166】
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0167】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
【0168】
上記偏光板には、本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の方法により製造された位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0169】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0170】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0171】
本発明の方法により製造された光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、常圧プラズマ照射処理等の方法で設けることができる。
【0172】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0173】
本発明において、液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つものである。
【0174】
なお、本発明による偏光板は、平面性に優れた光学フィルムを、少なくとも一方の面に用いるものであるから、偏光板を液晶パネルに組み込んだ際、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れている。
【0175】
また、本発明による表示装置は、この平面性に優れた光学フィルムを具備する偏光板を用いているものであるから、液晶パネルのコントラスト低下や濃淡ムラを生じることがなく、視認性に優れているものである。
【0176】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0177】
つぎに、本発明の実施例を比較例とともに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0178】
実施例1
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
【0179】
(ドープ組成)
セルローストリアセテート(アセチル置換度2.88) 100重量部
トリフェニルホスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
チヌビン326 1重量部
AEROSIL 200V 0.1重量部
メチレンクロライド 418重量部
エタノール 23重量部
つぎに、図1に示す溶液流延製膜装置によりセルローストリアセテートフィルムを製造した。すなわち、上記のドープを流延する支持体(6)としては、SUS316製、走査型原子間力顕微鏡(AFM)による3次元表面粗さ(Ra)が、平均1.0nmの超鏡面に研磨したエンドレスベルトを用いた。
【0180】
上記のように濾過したドープを、ドープ温度35℃で、温度20℃のSUS316製のエンドレスベルト支持体(6)上にコートハンガーダイよりなる流延ダイ(3)により均一に流延した。
【0181】
本発明の方法においては、支持体(6)上にウェブ(9)を形成する際、ウェブ(9)が支持体(6)上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバ(4)を備えるとともに、流延ダイ(3)よりドープを流下する時、流延ダイ(3)のフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部(流延ダイエッジ)に、ヒゲ状皮膜(スケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段(40)を備えている。なお、この実施例では、スケール溶解液として、メチレンクロライドを用いた。
【0182】
図2〜図4に詳しく示すように、本発明の光学フィルムの製造方法においては、主減圧室(20)を有する減圧チャンバ(4)の左右両側壁(21)(22)と後壁(23)の外側に、これらの壁との間に所定の間隙(D=50mm)をおいてそれぞれ外側壁(31)(32)(33)を設けて、減圧チャンバ(4)の左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室(30)を形成しておき、主減圧室(20)の減圧力よりも副減圧室(30)の減圧力を、減圧差:ΔP=−60Paと大きくすることにより、流延ダイ(3)の左右両端部のダイエッジにおいて、製膜中に滴下手段(40)からウェブ(9)の幅手方向両端部に滴下されたスケール溶解液(メチレンクロライド)の余剰液分を、副減圧室(30)の方に吸引回収させた。
【0183】
こうして、支持体(6)上に形成されたウェブ(9)を、該支持体(6)上で搬送しながら温度30℃で一定とした乾燥風により乾燥した後、支持体(6)から剥離ロール(8)によって剥離し、その後、テンター(10)で、残留溶媒量10%のとき100℃の雰囲気内で幅方向に1.06倍延伸した後、幅保持を解放して、ロール搬送しながら125℃の乾燥装置(11)で乾燥を終了させ、巻き取り装置(13)により巻き取った。
【0184】
得られたセルローストリアセテートフィルム(F)の膜厚は40μmであり、フィルム幅は2000mm、およびフィルムの巻取り長は3000mであった。
【0185】
実施例2〜6
上記実施例1の場合とほゞ同様に実施して、本発明によるセルローストリアセテートフィルムを製造するが、実施例1の場合と異なる点は、主減圧室(20)と副減圧室(30)との減圧差:ΔPを、下記の表1に記載されているように、種々変更して設定した点にある。
【0186】
比較例1
比較のために、上記実施例1の場合とほゞ同様に実施するが、実施例1の場合と異なる点は、減圧チャンバ(4)の外側部に副減圧室を設けることなく、従来の溶液流延製膜装置によりセルローストリアセテートフィルムを製造した点にある。
【0187】
比較例2
比較のために、上記実施例1の場合とほゞ同様に実施するが、実施例1の場合と異なる点は、主減圧室(20)と副減圧室(30)との減圧差:ΔPを、本発明の範囲外である−400Paとして、セルローストリアセテートフィルムを製造した点にある。
【0188】
実施例7〜14
上記実施例1の場合とほゞ同様に実施して、本発明によるセルローストリアセテートフィルムを製造するが、実施例1の場合と異なる点は、主減圧室(20)の外側部に設けた副減圧室(30)の間隙:Dを、下記の表1に記載されているように、種々変更して設定した点にある。
【0189】
つぎに、上記実施例1〜14、および比較例1と2で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料を、以下の方法で評価し、得られた結果を、下記の表1に示した。
【0190】
(膜厚偏差の評価)
上記実施例1〜14、および比較例1と2で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、それぞれ膜厚偏差の評価は、ミツトヨ社製の表面粗さ測定機(SURFTEST SV−3100)にて、フィルムを50mm角の測定で実施し、その評価を、下記のランクにより行なった。
【0191】
◎:膜厚偏差が0.15μm以下。目視で全くスジが見られず、フィルムに
キャスト横段故障が全くない
○:膜厚偏差が0.15μmを超え、0.20μm以下。点光源光にフィルム
を動かしながら、かざすと、かすかにスジが見られるが、フィルムに
キャスト横段故障がほとんどなく、製品としての使用には全く問題ない
△:膜厚偏差が0.20μmを超え、0.25μm以下。点光源光にフィルム
をかざすと、スジが見られ、フィルムにキャスト横段故障がわずかにある
が、製品としてギリギリ使用可能なレベルである
×:膜厚偏差が0.25μmを超える。一目でスジがわかり、フィルムに
キャスト横段故障があり、製品として使えない
なお、フィルムのキャスト横段故障とは、流延ダイからエンドレスベルトにドープが流延される際に、エンドレスベルトの振動等で流延リボン(ドープの流延膜)が揺れて、フィルムとして幅手方向に伸びるスジが、長手方向に数mm〜数10mmピッチで並んだ故障をいう。フィルムにキャスト横段故障が目立つと、フィルムを偏光板の一部として液晶表示パネルに装着した際に、そのスジ部分で光が散乱して、ムラ状あるいはスジ状の横段故障が見えて非常に目立ってしまい、フィルムが製品として使えなくなってしまう。
【0192】
(転写故障:飛散液滴による転写故障の評価)
上記実施例1〜14、および比較例1と2で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、それぞれ転写故障:飛散液滴による転写故障の評価は、フィルム生産の終了後、スケール溶解液(メチレンクロライド)の余剰液分の飛散液滴によるベルト表面汚れと、フィルム表面汚れとを目視で評価し、その評価を、下記のランクにより行なった。
【0193】
◎:ベルト、フィルムともに飛散液滴が全く無い
○:ベルト端部にのみ飛散液滴が見られ、フィルムには飛散液滴が無い
△:後工程で裁断されるフィルム端部にのみ飛散液滴が見られる
×:後工程で裁断されるフィルムの製品部に飛散液滴が見られる
【表1】

【0194】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜14で得られたセルローストリアセテートフィルムによれば、膜厚偏差が非常に小さいものであり、フィルムにキャスト横段故障が全くないか、またはほとんどなく、製品としての使用には全く問題ないものであった。また、エンドレスベルトの表面、およびフィルム製品の表面のいずれにも、スケール溶解液(メチレンクロライド)の余剰液分の飛散液滴が全く無いか、またはベルト端部にのみ飛散液滴が見られ、フィルムには飛散液滴が無いものであった。
【0195】
これに対し、比較例1と2で得られたセルローストリアセテートフィルムでは、膜厚偏差が大きいものであり、これによってフィルムにキャスト横段故障がみられ、また後工程で裁断されるフィルムの製品部(幅中央部)に飛散液滴が見られ、いずれにしても、製品として使えないものであった。
【符号の説明】
【0196】
1:溶解釜
2:ポンプ
3:流延ダイ
4:減圧チャンバ
5:前後巻回ドラム
6:流延用ステンレス鋼製エンドレスベルト(支持体)
7:流延用回転駆動ステンレス鋼製ドラム(支持体)
8:剥離ロール
9:ウェブ
10:テンター
11:ロール搬送乾燥装置
12:温風(乾燥風)
13:巻取り機
F:フィルム
20:主減圧室
21:減圧チャンバの左側壁
22:減圧チャンバの右側壁
23:減圧チャンバの後側壁
24:減圧チャンバの頂壁
25:減圧チャンバの傾斜壁
26:吸引ダクト
27:ダクト開口部
30:副減圧室
31:副減圧室の左外側壁
32:副減圧室の右外側壁
33:副減圧室の後外側壁
34:副減圧室の頂壁
35:副減圧室の傾斜壁
36:吸引ダクト
37:ダクト開口部
40:スケール溶解液滴下手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法により光学フィルムを製造する方法で、金属製回転エンドレスベルトまたは金属製回転ドラム(以下、支持体ともいう)上に光学フィルムの原料溶液であるドープを流延し、支持体上に流延膜(以下、ウェブともいう)を形成する際、ウェブが支持体上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧チャンバを備えるとともに、流延ダイよりドープを流下する時、流延ダイのフィルム幅手方向両端部に対応する左右両端部に、ヒゲ状皮膜(すなわちスケール)が発生するのを防止するために、スケール溶解液を滴下するスケール溶解液滴下手段を備えている光学フィルムの製造方法において、主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁と後壁の外側に、これらの壁との間に所定間隔をおいてそれぞれ外側壁を設けて、減圧チャンバの左右両側部と後部の外側に位置しかつ下方に開口した副減圧室を形成しておき、主減圧室の減圧力よりも副減圧室の減圧力を、−30〜−300Paの範囲で大きくすることを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
主減圧室を有する減圧チャンバの左右両側壁および後壁と、これらに対向する副減圧室の左右両外側壁および後部外側壁との間の間隙を、10〜300mmとすることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法により製造されたことを特徴とする、光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253723(P2010−253723A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104051(P2009−104051)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】