説明

光学フィルムの製造方法、及び製造装置

【課題】 溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、金属製エンドレスベルト支持体裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを充分に清掃する。金属ロールの経時的な劣化を防止し、ベルト支持体の振動による膜厚変動や、気泡の発生を非常に少なくする。光学フィルム製造装置の稼働率を向上する。生産能力のアップにより、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分応えることができる。
【解決手段】 光学フィルムの製造方法は、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/またはベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置を設置し、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体裏面および/またはロール表面を清掃する。磁力発生装置は、永久磁石または電磁石、特にソレノイド式電磁石が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルムの製造方法、及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置用光学フィルムは、液晶表示装置の大型化と普及により、年々生産量が増大しており、それに対応すべく、フィルムの生産速度の向上やフィルム幅の拡大が、検討実施されている。
【0003】
光学フィルムは、一般に金属製エンドレスベルト支持体を用いる溶液流延製膜法により製造されているが、近年、光学フィルムの製造工場では、生産能力アップに伴い、エンドレスベルト支持体のベルト長が長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCS(キャティング・スピード)も速くなってきている。その影響で、ベルト支持体裏面の削れに起因して金属粉汚れが発生し、ベルト支持体を支える金属ロールが、上記の金属粉汚れによって経時的に劣化し、しかもこのような金属ロールの劣化が、これまでと比較して早くなってきており、金属粉汚れによる金属ロール表面の汚染がひどくなると、ベルト支持体の振動が大きくなり、ドープの流延リボンにこの振動が伝わって、膜厚変動の原因になったり、ひどい場合には、ドープの同伴空気の巻き込みにより、流延膜(ウェブ)とベルト支持体との間に空気が入り込み、気泡が発生する。そのような場合は、光学フィルムの生産を中止して、ベルト支持体の裏面、及びすべての金属ロールの表面を清掃する必要があり、光学フィルム製造装置の稼働率が低下するという問題があった。
【0004】
汚れの原因は、例えばステンレス鋼製エンドレスベルト支持体と、ベルト支持体を支える前後一対の巻回ロール等の金属ロールの接触により、ベルト支持体の裏面が削れることにより発生する金属粉である。
【0005】
ここで、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、エンドレスベルトを支持するロールの清掃方法については、つぎのような特許文献がある。
【特許文献1】特開2003−1654号公報 特許文献1には、溶液流延製膜法によるフィルムの製造方法で、ドープ流延部においてエンドレスベルトの裏面に接触してエンドレスベルトを支持するバックロールの周面を間欠的または連続的に清掃し、バックロール周面の清掃を、清掃用不織布をバックロールの回転方向後方に送りながら、押圧ロールによってバックロールに所定圧力で線接触させることにより行なうことが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、エンドレスベルト支持体裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを清掃することについては記載されておらず、上記の金属粉汚れによって金属ロールが経時的に劣化して、膜厚変動の原因になったり、ひどい場合には、流延膜(ウェブ)に気泡が発生し、そのような場合には、ベルト支持体裏面及び金属ロール表面の清掃ために光学フィルムの生産を中止し、光学フィルム製造装置の稼働率が低下する問題を解決することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、エンドレスベルト支持体裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを充分に清掃することができて、金属ロールの経時的な劣化を防止し、ベルト支持体の振動による膜厚変動や、気泡の発生を非常に少なくすることができ、光学フィルム製造装置の稼働率を向上することができるばかりか、エンドレスベルト支持体のベルト長を長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCS(キャティング・スピード)をも速く設定することができて、生産能力のアップにより、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分応えることができる、光学フィルムの製造方法、及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、金属製エンドレスベルト支持体の材質は、一般にステンレス鋼であるが、このようなステンレス鋼製エンドレスベルト支持体と、ベルト支持体を支える前後一対の巻回ロール等の金属ロールとの接触により、磨耗して削れて生じる金属粉は、微細な鉄を主成分とする粉体であるため、磁化されやすく、磁力で除去可能であることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属製エンドレスベルト支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体から剥離し、剥離したウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取る溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置を設置し、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体裏面および/またはロール表面を清掃することを特徴としている。
【0010】
ここで、磁力発生装置は、永久磁石または電磁石であることが好ましい。
【0011】
請求項3の発明は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を流延して流延膜(ウェブ)を形成する金属製エンドレスベルト支持体と、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体上から剥離する剥離装置と、剥離後のウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取る巻取り装置とを備えた溶液流延製膜装置による光学フィルムの製造装置であって、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置が設置され、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れが吸着除去されて、該支持体裏面および/またはロール表面が清掃されることを特徴としている。
【0012】
ここで、磁力発生装置は、永久磁石または電磁石、とくにソレノイド式電磁石であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法において、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置を設置し、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体裏面および/またはロール表面を清掃するもので、請求項1の発明によれば、エンドレスベルト支持体裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを充分に清掃することができて、金属ロールの経時的な劣化を防止し、ベルト支持体の振動による膜厚変動や、気泡の発生を非常に少なくすることができ、光学フィルム製造装置の稼働率を向上することができるばかりか、エンドレスベルト支持体のベルト長を長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCS(キャティング・スピード)をも速く設定することができて、生産能力のアップにより、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分応えることができるという効果を奏する。
【0014】
請求項3の発明は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造装置において、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置が設置され、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れが吸着除去されて、該支持体裏面および/またはロール表面が清掃されるもので、請求項3の発明によれば、エンドレスベルト支持体裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを充分に清掃することができて、金属ロールの経時的な劣化を防止し、ベルト支持体の振動による膜厚変動や、気泡の発生を非常に少なくすることができ、光学フィルム製造装置の稼働率を向上することができるばかりか、エンドレスベルト支持体のベルト長を長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCSをも速く設定することができて、生産能力のアップにより、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分応えることができることができるという効果を奏する。
【0015】
なお、磁力発生装置としては、永久磁石または電磁石を用いることができるが、とくにソレノイド式電磁石を用いることにより、磁力の発生の時期、および磁力の強さを簡単に調節することができ、上記の効果をより一層向上し得るので、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属製エンドレスベルト支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体から剥離し、剥離したウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取るものである。
【0018】
そして、本発明では、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置を設置し、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体裏面および/またはロール表面を清掃するものである。
【0019】
ここで、磁力発生装置は、永久磁石または電磁石であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造装置は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を流延して流延膜(ウェブ)を形成する金属製エンドレスベルト支持体と、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体上から剥離する剥離装置と、剥離後のウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取る巻取り装置とを備えているものである。
【0021】
そして、本発明では、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置が設置され、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れが吸着除去されて、該支持体裏面および/またはロール表面が清掃されるものである。
【0022】
なお、磁力発生装置としては、永久磁石または電磁石を用いることができるが、とくにソレノイド式電磁石を用いることが好ましい。
【0023】
以下、本発明について詳述する。
【0024】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステルが好ましい。
【0025】
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0026】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0027】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0028】
本発明において、セルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。本発明で用いられるセルロースエステルは、Mw/Mn比が1.4〜3.0が好ましく、さらに好ましくは1.4〜2.3である。
【0029】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
【0030】
測定条件は以下の通りである。
【0031】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806,K805,K803G(昭和電工株式会社製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1重量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製)
流量:1.0ml/分
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1,000,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0032】
セルロースエステルの総アシル基置換度は2.3〜2.9が用いられ、2.6〜2.9が好ましく用いられる。総アシル基置換度はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0033】
本発明において、セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
【0034】
本発明による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステルと厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるのが、好ましい。
【0035】
本発明において、光学フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPSモードで動作する液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、本発明において、このようなリタデーション低減添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0036】
一般に、光学フィルムのリタデーションは、セルロースエステル由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステルのリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステルの配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステルの配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0037】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0038】
一般式(1) B−(G−A−)mG−B
一般式(2) B−(G−A−)nG−B
上記式中、Bはモノカルボン酸成分を表わし、Bはモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B、B、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0039】
で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0040】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0042】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0043】
で表わされるモノアルコール成分としては、、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12である
ことが特に好ましい。
【0044】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0045】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0046】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0047】
ポリエステルの重量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0048】
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0049】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0050】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステルに対し、1〜40重量%含有するとが好ましい。特に5〜15重量%含有するとが好ましい。
【0051】
本発明において、リタデーション低減添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0052】
本発明の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル、リタデーション低減添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
【0053】
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0054】
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0055】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるリタデーション低減添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0056】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0057】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0058】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0059】
本発明において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0060】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0061】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30重量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40重量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0062】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0063】
本発明において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20重量%含有することが好ましい。
【0064】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての重量平均分子量500以上3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0065】
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステルと、リタデーション低減添加剤としての重量平均分子量5000以上30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0066】
本発明において、リタデーション低減添加剤としてのポリマーの重量平均分子量が500以上3000以下、あるいはまたポリマーの重量平均分子量が5000以上30000以下のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後の光学フィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0067】
本発明において、リタデーション低減添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20重量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0068】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20重量%含有したものは、勿論、セルロースエステルとの相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0069】
また、本発明においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0070】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、セルロースエステルに対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
【0071】
本発明において、有用なリタデーション低減添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0072】
上述したリタデーション低減添加剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して5〜25重量%含有させることが好ましい。リタデーション低減添加剤の含有量が5重量%未満であれば、フィルムのリタデーション低減効果が発現しないので、好ましくない。またリタデーション低減添加剤の含有量が25重量%を超えると、いわゆるブリードアウトが生じるなど、フィルム中の安定性が低下するので、好ましくない。
【0073】
本発明による光学フィルムの製造方法において、上記セルロース誘導体に対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒または主たる(有機)溶媒という。
【0074】
良溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、γ−ブチロラクトン等のエステル類の他、メチルセロソルブ、ジメチルイミダゾリノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルフォキシド、スルホラン、ニトロエタン、塩化メチレン、アセト酢酸メチルなどが挙げられるが、1,3−ジオキソラン、THF、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル及び塩化メチレンが好ましい。
【0075】
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40重量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらは、ドープを金属支持体に流延した後、溶媒が蒸発し始めてアルコールの比率が多くなることで、ウェブ(金属支持体上にセルロース誘導体のドープを流延した以降のドープ膜の呼び方をウェブとする)をゲル化させ、ウェブを丈夫にして、金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロース誘導体の溶解を促進したりする役割もある。
【0076】
炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、かつ毒性がないことなどからエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独ではセルロース誘導体に対して溶解性を有しておらず、貧溶媒という。
【0077】
このような条件を満たす好ましい高分子化合物であるセルロース誘導体を高濃度に溶解する溶剤として最も好ましい溶剤は塩化メチレン:エチルアルコールの比が95:5〜80:20の混合溶剤である。あるいは、酢酸メチル:エチルアルコール60:40〜95:5の混合溶媒も好ましく用いられる。
【0078】
本発明におけるフィルムには、フィルムに加工性・柔軟性・防湿性を付与する可塑剤、フィルムに滑り性を付与する微粒子(マット剤)、紫外線吸収機能を付与する紫外線吸収剤、フィルムの劣化を防止する酸化防止剤等を含有させても良い。
【0079】
本発明において使用する可塑剤としては、特に限定はないが、フィルムにヘイズを発生させたり、フィルムからブリードアウトあるいは揮発しないように、セルロース誘導体や加水分解重縮合が可能な反応性金属化合物の重縮合物と、水素結合などによって相互作用可能である官能基を有していることが好ましい。
【0080】
このような官能基としては、水酸基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カルボン酸残基、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルホン酸残基、ホスホニル基、ホスホン酸残基等が挙げられるが、好ましくはカルボニル基、エステル基、ホスホニル基である。
【0081】
このような可塑剤の例として、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、カルボン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることができるが、特に好ましくは多価アルコールエステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤等の非リン酸エステル系可塑剤である。
【0082】
多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0083】
本発明に用いられる多価アルコールは、つぎの一般式(1)で表される。
【0084】
一般式(1) R−(OH)n
(ただし、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数を表す)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0085】
好ましい多価アルコールの例としては、アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0086】
本発明の多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0087】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロース誘導体との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0089】
好ましい脂肪族モノカルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0090】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0091】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
【0092】
多価アルコールエステルの分子量は、特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが、さらに好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロース誘導体との相溶性の点では、小さい方が好ましい。
【0093】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0094】
グリコレート系可塑剤は、特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するグリコレート系可塑剤を、好ましく用いることができる。好ましいグリコレート系可塑剤としては、例えばブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート等を用いることができる。
【0095】
リン酸エステル系可塑剤では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等を用いることができるが、本発明では、リン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0096】
ここで、「実質的に含有しない」とは、リン酸エステル系可塑剤の含有量が1重量%未満、好ましくは0.1重量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0097】
これらの可塑剤は、単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0098】
可塑剤の使用量は、1〜20重量%が好ましい。6〜16重量%がさらに好ましく、特に好ましくは8〜13重量%である。可塑剤の使用量が、セルロース誘導体に対して1重量%未満では、フィルムの透湿度を低減させる効果が少ないため、好ましくなく、20重量%を越えると、フィルムから可塑剤がブリードアウトし、フィルムの物性が劣化するため、好ましくない。
【0099】
本発明におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0100】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0101】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0102】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0103】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステルフィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0104】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0105】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加されたの粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステルと複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0106】
ここで、微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0107】
上記の微粒子は、セルロースエステルに対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0108】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0109】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0110】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0111】
本発明において、微粒子は、低級アルコール類を25〜100重量%含有する溶剤中で分散した後、セルロースエステル(セルロース誘導体)を溶剤に溶解したドープと混合し、該混合液を金属支持体上に流延し、乾燥して製膜することを特徴とするセルロースエステルフィルムを得る。
【0112】
ここで、低級アルコールの含有比率としては、好ましくは50〜100重量%、さらに好ましくは75〜100重量%である。
【0113】
また、低級アルコール類の例としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。
【0114】
低級アルコール以外の溶媒としては、特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0115】
微粒子は、溶媒中で1〜30重量%の濃度で分散される。これ以上の濃度で分散すると、粘度が急激に上昇し、好ましくない。分散液中の微粒子の濃度としては、好ましく、5〜25重量%、さらに好ましくは、10〜20重量%である。
【0116】
フィルムの紫外線吸収機能は、液晶の劣化防止の観点から、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムなどの各種光学フィルムに付与されていることが好ましい。このような紫外線吸収機能は、紫外線を吸収する材料をセルロース誘導体中に含ませても良く、セルロース誘導体からなるフィルム上に紫外線吸収機能のある層を設けてもよい。
【0117】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報に記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0118】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0119】
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0120】
また、紫外線吸収剤の市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を、好ましく使用できる。
【0121】
また、本発明において使用し得る紫外線吸収剤であるベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0122】
本発明において、これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル(セルロース誘導体)に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。紫外線吸収剤の使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、紫外線吸収剤の多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合があるので、好ましくない。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0123】
また、本発明の光学フィルムに用いることのできる紫外線吸収剤は、特開平6−148430号公報及び特開2002−47357号公報に記載の高分子紫外線吸収剤(または紫外線吸収性ポリマー)を好ましく用いることができる。とりわけ特開平6−148430号公報に記載の一般式(1)、あるいは一般式(2)、あるいは特開2002−47357号公報に記載の一般式(3)(6)(7)で表される高分子紫外線吸収剤が、好ましく用いられる。
【0124】
酸化防止剤は、一般に、劣化防止剤ともいわれるが、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中に含有させるのが好ましい。すなわち、液晶画像表示装置などが高湿高温の状態に置かれた場合には、光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの劣化が起こる場合がある。酸化防止剤は、例えばフィルム中の残留溶媒中のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸などによりフィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0125】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0126】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して重量割合で1ppm〜1.0重量%が好ましく、10〜1000ppmがさらに好ましい。
【0127】
以下、本発明による光学フィルムの製造方法について詳しく述べる。フィルムは、溶液流延製膜方法により作製できる。
【0128】
図1は、溶液流延製膜法による本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の具体例を示すフローシートであり、図2は、図1の金属製エンドレスベルト支持体部分の拡大側面図である。なお、本発明の実施にあたっては、これらの図のプロセスに限定されるものではない。
【0129】
同図を参照すると、本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属製エンドレスベルト支持体(1)上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブ(10)を金属製エンドレスベルト支持体(1)から剥離し、剥離したウェブ(10)をテンター(8)により幅手方向に延伸し、延伸後のウェブ(10)を乾燥して、フィルムとして巻き取るものである。
【0130】
金属製支持体(1)として回転駆動エンドレスベルトを具備する図示の製膜装置では、該ベルト金属製支持体(1)は、前後一対の巻回ロール(3)(4)及びその中間に配置されかつエンドレスベルト金属製支持体(1)の上部移行部及び下部移行部をそれぞれ裏側より支えている複数の中間サポートロール(5)を含む金属ロールを具備している。
【0131】
回転駆動エンドレスベルト金属製支持体(1)の両端巻回部のロール(3)(4)の一方、もしくは両方に、ベルト金属製支持体(1)に張力を付与する駆動装置(図示略)が設けられ、これによってベルト金属製支持体(1)は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0132】
本発明の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法について、さらに詳しく述べると、まず、図示しない溶解釜において、熱可塑性樹脂、例えばセルロースエステル系樹脂を、良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに上記の可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。
【0133】
ついで、溶解釜で調整されたドープを、例えば加圧型定量ギヤポンプを通して、導管によって流延ダイ(2)に送液し、図1に示す無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる金属製支持体(1)上の流延位置に、流延ダイ(2)からドープを流延する。
【0134】
流延ダイ(2)によるドープの流延には、流延されたドープ膜(ウェブ)をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。
【0135】
なお、流延ダイ(2)としては、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。
【0136】
本発明による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20〜30重量%であるのが、好ましい。
【0137】
ここで、セルロースエステル溶液(ドープ)の固形分濃度が、20重量%未満であれば、金属支持体(1)上で充分な乾燥ができず、剥離時にドープ膜の一部が金属支持体(1)上に残り、ロール汚染につながるため、好ましくない。また固形分濃度が30%を超えると、ドープ粘度が高くなり、ドープ調整工程でフィルター詰まりが早くなったり、金属支持体(1)上への流延時に圧力が高くなり、押し出せなくなるため、好ましくない。
【0138】
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、金属支持体の幅は1800〜3000mm、セルロースエステル溶液の流延幅は1750〜2800mm、巻き取り後のフィルムの幅は1000〜2500mmである。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用セルロースエステルフィルムを製造することができるものである。
【0139】
ここで、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上記の下限値未満では、近年の液晶表示装置の大型化には、対応することができず、また、金属支持体(1)の幅、セルロースエステル溶液の流延幅、および巻き取り後のフィルムの幅が、それぞれ上限値を超えると、剥離後のフィルムの残留溶媒量が多い状態で、後述する延伸工程のテンター入り口でフィルムが垂れ下がり、幅手の伸びにムラが生じ、リタデーションのばらつきが大きくなり、好ましくない。また垂れ下がったフィルムがテンターのガイドに当たり、フィルムが破断し生産をとめてしまう場合もある。
【0140】
また、本発明の光学フィルムの製造方法では、金属支持体(1)の周速度が50〜200m/minであるのが、好ましい。
【0141】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる本発明の方法では、製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度、混合溶剤では最も沸点の低い溶剤の沸点未満の温度で流延することができ、さらには5℃〜溶剤沸点−5℃の範囲が、より好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。
【0142】
上記のようにして金属支持体(1)表面に流延されたドープは、冷却ゲル化によりゲル膜の強度(フイルム強度)が増加して、さらに剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フイルム強度)が増加する。
【0143】
また、製膜速度を上げるために、加圧流延ダイ(2)を流延用金属製支持体(1)上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層製膜してもよい。
【0144】
金属製支持体(1)としてエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)上では、ウェブ(10)が金属製支持体(1)から剥離ロール(7)によって剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させるため、ウェブ(10)中の残留溶媒量が150重量%以下まで乾燥させるのが好ましく、80〜120重量%が、より好ましい。また、金属製支持体(1)からウェブ(10)を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃が好ましい。また、ウェブ(10)は、金属製支持体(1)からの剥離直後に、金属製支持体(1)密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶剤蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
【0145】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0146】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mは、フィルムの任意時点での重量、Nは、重量Mのものを110℃で3時間乾燥させた後の重量を表わす。
【0147】
エンドレスベルト金属製支持体(1)上に流延されたドープにより形成されたドープ膜(ウェブ)を、金属製支持体(1)上で加熱し、金属製支持体(1)から剥離ロール(7)によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
【0148】
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法、及び/または金属製支持体(1)の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等がある。
【0149】
金属製支持体(1)にエンドレスベルトを用いる方式においては、金属製支持体(1)とウェブ(10)を剥離ロール(7)によって剥離する際の剥離張力は、通常100N/m〜200N/mで剥離が行なわれるが、従来よりも薄膜化されている本発明により作製された光学フィルムでは、剥離の際にウェブ(10)の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすいため、剥離できる最低張力〜170N/mで剥離することが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜140N/mで剥離することである。
【0150】
金属支持体(1)上でウェブ(10)が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ(10)を剥離ロール(7)によって剥離する。
【0151】
本発明は、近年、光学フィルムの製造工場では、生産能力アップに伴い、エンドレスベルト支持体(1)のベルト長が長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCS(キャティング・スピード)も速くなり、その影響で、ベルト支持体(1)裏面の削れに起因して金属粉汚れが発生し、ベルト支持体(1)、およびベルト支持体(1)を支える前後一対の巻回ロール(3)(4)及び中間のサポートロール(5)を含む金属ロールが、上記の金属粉汚れによって経時的に劣化し、しかもこのような金属ロールの劣化が、これまでと比較して早くなってきており、これに起因して、光学フィルム製造装置の稼働率が低下するという問題に鑑みなされたもので、本発明では、金属製エンドレスベルト支持体(1)の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール(3)(4)(5)の表面に近接して、磁力発生装置(6)を設置し、該磁力発生装置(6)から生じる磁力によって、支持体(1)裏面および/またはロール(3)(4)(5)表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体(1)裏面および/またはロール(3)(4)(5)表面を清掃するものである。
【0152】
ここで、磁力発生装置(6)としては、永久磁石または電磁石、とくにソレノイド式電磁石を用いることが好ましい。
【0153】
また、本発明において、金属粉汚れを吸着除去するために、磁力発生装置(6)を近接設置するのは、ベルト支持体(1)の裏面自体、ベルト支持体(1)を支える前後一対の巻回ロール(3)(4)の表面、及び中間のサポートロール(5)の表面のうちのいずれか1つ以上の金属ロールの表面に対してであれば、良い。
【0154】
このような本発明の方法によれば、エンドレスベルト支持体(1)裏面の削れに起因して発生する金属粉汚れを充分に清掃することができて、金属ロール(3)(4)(5)の経時的な劣化を防止し、ベルト支持体(1)の振動によるフィルム膜厚の変動や、気泡の発生を非常に少なくすることができ、光学フィルム製造装置の稼働率を向上することができる。しかも、エンドレスベルト支持体(1)のベルト長を長く、また、樹脂原料溶液(ドープ)のCS(キャティング・スピード)をも速く設定することができて、生産能力のアップにより、近年の偏光板用保護フィルム等の薄膜化、広幅化、及び高品質化の要求に充分応えることができるものである。
【0155】
なお、磁力発生装置(6)としては、永久磁石または電磁石を用いることができるが、とくにソレノイド式電磁石を用いることにより、磁力の発生の時期、および磁力の強さを簡単に調節することができ、上記の効果をより一層向上し得るものである。
【0156】
つぎに、剥離後のウェブ(10)は、延伸工程のテンター(8)に導入する。本発明の方法において、延伸工程におけるテンター(8)としては、ピン・テンター、およびクリップ・テンターを用いることができるが、中でも、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ(またはフィルム)(10)の両側縁部をクリップで固定して延伸するクリップテンターであることが好ましく、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
【0157】
延伸工程のテンター(8)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量が、10〜50重量%であることが好ましい。
【0158】
延伸工程においては、テンター(8)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温風が吹込まれ、テンター(8)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)が延伸されるとともに、乾燥される。
【0159】
本発明において、テンター(8)におけるウェブ(10)の延伸率は、3〜80%であることが好ましく、さらに6〜60%であることが好ましい。
【0160】
テンター(8)におけるウェブ(10)の幅手方向の延伸率が3%未満であれば、最も幅広いベルトや流延幅の装置を用いても、広幅のフィルムを得ることが不可能となるので、好ましくない。またテンター(8)におけるウェブ(10)の幅手方向の延伸率が80%を超えると、延伸温度によってはフィルムが裂けてしまうので、好ましくない。
【0161】
なお、本発明における延伸工程における温風吹出し手段とは、具体的には、延伸工程のテンター(8)の温風吹出しスリット口をいうが、温風の吹き出しによりフィルムを効率的に加熱する形状であれば、特に限定されない。温風の温度は、165〜190℃であることが好ましく、さらに170〜185℃であることが望ましい。
【0162】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)は、ロール搬送乾燥装置(9)に導入する。乾燥装置(9)においては、非駆動のフリーロールよりなる搬送ロール(8)により搬送しながら乾燥する。
【0163】
この乾燥装置(9)内では、50〜1000本の側面から見て千鳥配置せられた搬送ロール(8)によってウェブ(10)が蛇行せられ、その間にウェブ(10)が乾燥せられるものである。また、乾燥装置(9)でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時及びフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥装置(9)での温度等に影響を受けるが、30〜250N/mが好ましく、60〜150N/mがさらに好ましい。80〜120N/mが最も好ましい。
【0164】
なお、ウェブ(またはフィルム)(10)を乾燥させる手段は、特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましく、例えば乾燥装置(9)の底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる乾燥風によって乾燥され、乾燥装置(9)の天井の後寄り部分の出口から排気風が排出せられることによって乾燥される。乾燥風の温度は40〜160℃が好ましく、50〜160℃が平面性、寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
【0165】
これら流延から最終的な後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0166】
乾燥装置(9)による乾燥後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター(12)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除する。
【0167】
さらに、スリット後のフィルム(10)の左右両端部に、製品用エンボスリング(13)及びバックロール(14)よりなる製品用ナール加工装置により製品用エンボス加工(製品用ナール加工)を施して、フィルム端部に製品用エンボス部(図示略)を付与した後、製品用エンボス部を具備するフィルム(F)を、巻取り装置(15)によって巻き取る。
【0168】
巻取り装置(15)によって巻き取るフィルムの残留溶媒量は、0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0169】
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0170】
巻取りコア(巻芯)への、フィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでも良い。
【0171】
本発明による光学フィルムは、巻き取り後のフィルムの幅が、1000〜2500mmであることが好ましい。
【0172】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は20〜200μmで、最近の薄手傾向にとっては20〜120μmの範囲が好ましく、特に20〜100μmの範囲が好ましい。なお、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5重量%以下の状態のフィルムを言うものである。
【0173】
ここで、巻き取り後の光学フィルムの膜厚が薄過ぎると、例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。フィルムの膜厚が厚過ぎると、従来の光学フィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、流延ダイ(2)の口金のスリット間隙、流延ダイの押し出し圧力、金属支持体(1)の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0174】
本発明において、光学フィルムは、透過率が90%以上であることが望ましく、さらに好ましくは92%以上であり、さらに好ましくは93%以上である。
【0175】
また、本発明の方法により製造された光学フィルムは、3枚重ねた場合のヘイズが、0.3〜2.0であるもので、本発明の光学フィルムによれば、フィルムのヘイズが非常に低いものであり、透明性、平面性に優れた光学特性を有するものである。
【0176】
ここで、光学フィルムのヘイズの測定は、例えば、JIS K6714に規定される方法に従って、ヘイズ・メーター(1001DP型、日本電色工業株式会社製)を用いて測定すれば、良い。
【0177】
また、本発明による光学フィルムの製造方法で製造されたセルロースエステルフィルムの機械方向(MD方向)の引張弾性率が、1500MPa〜3500MPa、機械方向に垂直な方向(TD方向)の引張弾性率が、2000MPa〜4500MPaであるのが好ましく、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.20〜1.90であるのが好ましい。
【0178】
ここで、セルロースエステルフィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.20未満であれば、1650mmを超える幅のフィルムの巻取りでは中央部のたるみが大きくなり、巻き芯のフィルムの貼り付きが多くなるため、好ましくない。また、フィルムのTD方向弾性率/MD方向弾性率の比が、1.90を超えると、偏向板での過熱後のそりが生じたり、液晶パネルに組み込んだ際にバックライトの熱によりバックライト側と表面側の偏光板の寸法変化の挙動が大きく異なることにより、コーナーにムラが生じるので、好ましくない。
【0179】
フィルムのMD方向、及びTD方向の引張弾性率の具体的な測定方法としては、例えばJIS K7217の方法が挙げられる。
【0180】
すなわち、引っ張り試験器(ミネベア社製、TG−2KN)を用い、チャッキング圧:0.25MPa、標線間距離:100±10mmで、サンプルをセットし、引っ張り速度:100±10mm/分の速度で引っ張る。その結果、得られた引張応力−歪み曲線から、弾性率算出開始点を10N、終了点を30Nとし、その間に引いた接線を外挿し、弾性率を算出するものである。
【0181】
本発明の光学フィルムでは、下記式で定義される面内リタデーション(Ro)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で30〜300nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、温度23℃、湿度55%RHの条件下で70〜400nmであることが好ましい。
【0182】
Ro=(nx−ny)×d
Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、Roはフィルム面内リタデーション値、Rtはフィルム厚み方向リタデーション値、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表わす。
【0183】
なお、リタデーション値Ro、Rtは、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
【0184】
本発明の方法で製造された光学フィルムは、位相差フィルムの場合、フィルムの面内リタデーション(Ro)が、45〜80nm、厚み方向リタデーション(Rt)が、100〜150nmであり、面内リタデーション(Ro)と厚み方向リタデーション(Rt)との比:Ro/Rtが、1.6〜2.6であることが好ましい。
【0185】
ここで、Rt/Roの値が1.6未満になると、本発明の方法で製造された光学フィルムを、VAモードのパネルに使用した場合、視野角が狭くなり、好ましくない。またRt/Roの値が2.6を超えると、同様にVAモードパネルに使用の際、視野角が狭くなるのに加え、表示ムラの原因となりやすいので、好ましくない。
【0186】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の方法により製造された光学フィルムは好ましく用いられる。
【0187】
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0188】
ところで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルロースエステルフィルムを接着して偏光板としている。
【0189】
上記偏光板には、本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムとして貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の方法により製造された光学フィルムを位相差フィルムと保護フィルムとを兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の方法により製造された位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0190】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードや、電圧無印加時に液晶性分子が実質的に水平かつねじれ配向しているTNモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0191】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、光学フィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0192】
本発明の方法により製造された光学フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0193】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0194】
本発明の方法により製造された光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。さらに、この偏光板あるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができる。
【0195】
本発明の方法により製造された光学フィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0196】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0197】
実施例1
(ドープ組成)
セルローストリアセテート 100重量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 8重量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2重量部
メチレンクロライド 440重量部
エタノール 40重量部
チヌビン109(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
チヌビン171(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 0.5重量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2重量部
上記のドープ組成の材料を、密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。ついで、ドープを、図1と図2に示すベルト流延装置を用い、温度35℃で、幅2000mmのステンレス鋼製エンドレスベルト支持体(1)上に幅1800mmに均一に流延した。エンドレスベルト支持体(1)の駆動速度は、100(m/min)とした。
【0198】
エンドレスベルト支持体(1)上で、残留溶媒量が100重量%になるまで溶媒を蒸発させ、ウェブ(フィルム)(10)をエンドレスベルト支持体(1)から剥離した。ついで、テンター(8)でウェブ(10)の幅手方向(TD方向)の両端部を把持し、ウェブ(10)の幅手方向に延伸率6%で延伸した。なお、延伸工程のテンター(8)に入る直前のウェブ(フィルム)(10)の残留溶媒量を、30重量%とした。
【0199】
延伸工程においては、テンター(8)の底の前寄り部分の温風吹出し手段すなわち温風吹出しスリット口から温度1800℃で温風が吹込まれ、テンター(8)の天井の後寄り部分の排出口から排気風が排出せられることによって、ウェブ(10)を延伸するとともに、乾燥した。
【0200】
つぎに、延伸後のフィルム(ウェブ)(10)を、ロール搬送乾燥装置(9)に導入する。ついで、このフィルム(ウェブ)(10)を、ロール搬送乾燥装置(9)において表面粗さ(Rmax)0.8μmの鏡面搬送ロール(面長2200mm、径110mm)よりなる500本の非駆動のフリーロールによって構成される搬送ロール(8)により搬送しながら乾燥した。乾燥装置(9)でのフィルム搬送張力は、80N/mとした。
【0201】
乾燥装置(9)では、これの底の前寄り部分の温風入口から吹込まれる温度120℃の乾燥風によって乾燥させた。
【0202】
乾燥装置(9)による乾燥後に、フィルム両端部を、上下一対のスリッター(12)(12)により製品となる幅にスリットして、断裁切除した。
【0203】
ついで、スリット後のフィルム(10)の左右両端部に、製品用エンボスリング(13)及びバックロール(14)によって製品用エンボス加工(製品用ナール加工)を施して、フィルム端部に10mm幅の製品用エンボス部(図示略)を付与した後、製品用エンボス部を具備する最終製品幅1490mm、および膜厚80μmのセルローストリアセテートフィルム(F)を、巻取り装置(15)によって巻き取った。このフィルムは、偏光板保護フィルムとして使用するものである。
【0204】
そして、この実施例では、本発明の方法により、金属製エンドレスベルト支持体(1)の裏面(ウェブの非接触面)、およびベルト支持体(1)を支える前後一対の巻回ロール(3)(4)のうちの前部巻回ロール(3)の表面に近接して、ソレノイド式電磁石よりなる磁力発生装置(6)(6)をそれぞれ設置し、該磁力発生装置(6)(6)から生じる磁力によって、支持体(1)裏面および前部巻回ロール(3)表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体(1)裏面および前部巻回ロール(3)表面を清掃した。
【0205】
この実施例においては、製膜開始時から磁力発生装置(6)(6)を起動させて、磁力による金属粉汚れの吸着除去を製膜開始時から行ない、また磁力の強さを3000ガウスとした。
【0206】
そして、セルローストリアセテートフィルムの製膜を10日間実施し、10日目に、製膜したセルローストリアセテートフィルムから所定長さのフィルム試料を取り出し、フィルムの横段状の膜厚ムラの評価を、下記のようにして行なった。
【0207】
(フィルムの横段状の膜厚ムラの評価方法)
上記実施例1において製膜したセルローストリアセテートフィルムから長手方向から3m(全幅)のフィルム試料を取り出し、準備した。一方、40Wの8本の蛍光灯を10cm間隔に並べた照明板を準備した。一枚のフィルム試料を、点灯した該照明板の下、1.5mのところに置き、フィルムの平面性を目視により観察した。フィルム試料に生じている横段状の膜厚ムラは、規則的な場合もあるが、不規則的な場合もあるので、あらゆる角度から全面積を観察し、下記のようなランクで評価した。得られた結果を、下記の表1に示した。
【0208】
なお、ランクA〜Dであれば、製品上実害は無いものである。
【0209】
A:横段状の膜厚ムラが全くない
B:弱い横段状の膜厚ムラらしきものが1個だけある
C:弱い横段状の膜厚ムラらしきものが2〜3個ある
D:弱い横段状の膜厚ムラらしきものが4〜8個ある
E:規則性のある弱い横段状の膜厚ムラらしきものが多数ある
F:はっきりとした横段状の膜厚ムラが1〜3個ある
G:はっきりした横段状の膜厚ムラが4〜8個ある
H:規則性のあるはっきりした横段状の膜厚ムラが多数ある
実施例2〜7
上記実施例1の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、下記の表1に示すように、上記実施例1の場合とは異なる条件設定により製膜を行なった。
【0210】
実施例2では、製膜開始後3日目より磁力発生装置(6)(6)を起動させて、磁力による金属粉汚れの吸着除去を行ない、磁力の強さを5000ガウスとした。また実施例3では、製膜開始後7日目より磁力発生装置(6)(6)を起動させて、磁力による金属粉汚れの吸着除去を行ない、また磁力の強さを5000ガウスとした。
【0211】
実施例4と実施例5では、実施例1の場合と同様に製膜初期より磁力発生装置(6)(6)を起動させて、磁力による金属粉汚れの吸着除去を行なったが、エンドレスベルト支持体(1)の駆動速度を、実施例4では50(m/min)、実施例5では150(m/min)とした。
【0212】
実施例6と実施例7では、実施例3の場合と同様に製膜開始後7日目より磁力発生装置(6)(6)を起動させて、磁力による金属粉汚れの吸着除去を行なったが、エンドレスベルト支持体(1)の駆動速度を、実施例6では50(m/min)、実施例7では150(m/min)とした。
【0213】
そして、得られた実施例2〜7のセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの横段状の膜厚ムラを、上記実施例1の場合と同様に評価し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【0214】
比較例1〜3
比較のために、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、ソレノイド式電磁石よりなる磁力発生装置を設置しない従来法により製膜を行なった。また比較例1〜3のそれぞれにおいて、エンドレスベルト支持体(1)の駆動速度を、実施例4では50(m/min)、100(m/min)、および150(m/min)とした。
【0215】
そして、得られた比較例1〜3のセルローストリアセテートフィルムについて、フィルムの横段状の膜厚ムラを、上記実施例1の場合と同様に評価し、得られた結果を、下記の表1にあわせて示した。
【表1】

【0216】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1、実施例4および実施例5で作製したセルローストリアセテートフィルムはランクAで、横段状の膜厚ムラが全くなかった。実施例2および実施例6で作製したセルローストリアセテートフィルムはランクBで、弱い横段状の膜厚ムラらしきものが1個だけあった。実施例3で作製したセルローストリアセテートフィルムはランクCで、弱い横段状の膜厚ムラらしきものが2〜3個ああった。実施例7で作製したセルローストリアセテートフィルムはランクDで、弱い横段状の膜厚ムラらしきものが4〜8個あり、製品上実害は無いものであった。
【0217】
これに対し、比較例1〜3作製したセルローストリアセテートフィルムは、ランクF〜Gで、はっきりとした横段状の膜厚ムラがみられ、光学フィルム製品としての使用に実害があるものであった。
【0218】
(※ ここで、実害とは何を意味するのでしょうか?)
【図面の簡単な説明】
【0219】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の概略断面図である。
【図2】同要部拡大側面図である。
【符号の説明】
【0220】
1:ステンレス鋼製エンドレスベルト支持体
2:流延ダイ
3:前部巻回ロール
4:後部巻回ロール
5:中間サポートロール
6:ソレノイド電磁石
7:剥離ロール
8:テンター
9:ロール搬送乾燥装置
10:ウェブ
11:搬送ロール
12:スリッターロール
13:製品用エンボスリング
14:バックロール
15:巻取り装置
F:セルローストリアセテートフィルム(光学フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を金属製エンドレスベルト支持体上に流延して流延膜(ウェブ)を形成し、溶剤の一部を蒸発させた後に、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体から剥離し、剥離したウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取る溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置を設置し、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れを吸着除去して、該支持体裏面および/またはロール表面を清掃することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
磁力発生装置が、永久磁石または電磁石であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂溶液(ドープ)を流延して流延膜(ウェブ)を形成する金属製エンドレスベルト支持体と、ウェブを金属製エンドレスベルト支持体上から剥離する剥離装置と、剥離後のウェブを乾燥後にフィルムとして巻き取る巻取り装置とを備えた溶液流延製膜装置による光学フィルムの製造装置であって、金属製エンドレスベルト支持体の裏面(ウェブの非接触面)、および/または金属製エンドレスベルト支持体回転用ロール表面に近接して、磁力発生装置が設置され、磁力発生装置から生じる磁力によって、支持体裏面および/またはロール表面に付着蓄積した金属粉汚れが吸着除去されて、該支持体裏面および/またはロール表面が清掃されることを特徴とする、光学フィルムの製造装置。
【請求項4】
磁力発生装置が、永久磁石または電磁石であることを特徴とする、請求項3に記載の光学フィルムの製造装置。
【請求項5】
磁力発生装置が、ソレノイド式電磁石であることを特徴とする、請求項3または4に記載の光学フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−83114(P2009−83114A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251962(P2007−251962)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】