説明

光学フィルムの製造方法

【課題】マット剤を含有させなくても、フィルム表面に凹凸を付与できる光学フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】表層部の残留溶媒量が30〜80重量%のポリマーフィルム1に対して沸点70〜150℃の液体のミスト2を吹き付けることを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学フィルムは、反射防止性(防眩性)等のフィルム機能およびフィルムの円滑搬送、巻きズレ防止もしくはフィルム同士のブロッキング防止等の製造特性の観点から、表面に凹凸を付与することが行われている。
【0003】
フィルム表面に凹凸を付与するために、フィルム内に無機微粒子等のマット剤を含有させることが知られている。しかしながら、マット剤によりフィルムのヘイズ値が上昇することが問題となっていた。
【0004】
そこで、水と水よりも低沸点な溶剤とアセチルセルロースとを含有する製膜原液を用いる技術が開示されている(特許文献1〜4)。しかしながら、この技術では膜全体として多孔質な膜が得られるため、光学フィルムとしての使用には耐えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231321号公報
【特許文献2】特開2008−231322号公報
【特許文献3】特開2008−237946号公報
【特許文献4】特開2008−238410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マット剤を含有させなくても、フィルム表面に凹凸を付与できる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表層部の残留溶媒量が30〜80重量%のポリマーフィルムに対して沸点70〜150℃の液体のミストを吹き付けることを特徴とする光学フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マット剤を含有させることなく、光学フィルム表面に凹凸を付与できる。ミストの粒径を調整することにより、凹凸寸法、例えば表面粗さ、すべり性を制御できる。またミストにより凹凸を付与するので、付与された凹凸はバラツキが比較的小さい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(A)は、本発明の一実施形態において、ポリマーフィルムにミストを吹き付けた直後の、ポリマーフィルムの断面模式図であり、(B)は、(A)のポリマーフィルムからミストを蒸発させた後の、ポリマーフィルムの断面模式図である。
【図2】図1(B)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例を、フィルムの幅方向から見たときの断面模式図を示す。
【図3】図2のミスト吹き付け装置を、フィルム搬送方向から見たときの断面模式図を示す。
【図4】(A)および(B)はそれぞれ、本発明の別の一実施形態において製造されたポリマーフィルムの断面模式図である。
【図5】図4(A)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例を、フィルムの搬送方向から見たときの断面模式図を示す。
【図6】図4(B)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例を、フィルムの搬送方向から見たときの断面模式図を示す。
【図7】本発明に係る光学フィルムの製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ミスト吹き付け工程>
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、所定のポリマーフィルム(以下、単にフィルムということがある)に対して所定の液体ミストを吹き付けるミスト吹き付け工程を有するものである。これによって、乾燥後、フィルムのミスト吹き付け面のみに凹凸が付与されるようになる。詳しくは、フィルム表面においてミストが付着した領域は凹部を形成し、ミストが付着しなかった領域は凸部を形成するようになる。ミストの吹き付けによって、フィルム表面に凹凸が付与されるメカニズムの詳細は以下のメカニズムに基づくものと考えられる。本工程に供されるポリマーフィルムは表層部が所定量の溶媒を含有するので、表面が適度な柔軟性を有する。そのため、フィルム1の表面に付着したミスト2は、例えば図1(A)に示すように、自重によってフィルム2中に適度に沈降する。そのため、乾燥によってミストを蒸発させると、図1(B)に示すように、ミスト2が付着していた領域は、ミスト2が付着していなかった領域よりも、低くなり、結果として凸部と凹部が形成されるものと考えられる。図1(A)は、本発明の一実施形態において、ポリマーフィルムにミストを吹き付けた直後の、ポリマーフィルムの断面模式図であり、図1(B)は、図1(A)のポリマーフィルムからミストを蒸発させた後の、ポリマーフィルムの断面模式図である。なお、図1(A)〜図1(B)(以下、まとめて単に図1と呼ぶことがある)において、TDはフィルムの幅方向を示す。
【0011】
ミストとは、所定の液体からなる微小液滴群であり、当該液滴の粒径を調節することにより、フィルム表面に付与される凹凸の大きさを制御できる。例えば、ミストの粒径を大きくすると、自重が大きくなり、沈降速度が大きくなるため、凹部深さが大きくなり、結果として表面粗さRaが大きくなる。また例えば、ミストの粒径を小さくすると、自重が小さくなり、沈降速度が小さくなるため、凹部深さが小さくなり、結果として表面粗さRaが小さくなる。
【0012】
ミストを構成する液体は、沸点が70〜150℃、好ましくは70〜130℃、より好ましくは80〜120℃のものが使用される。沸点が低すぎるミストを用いると、当該ミストは、本ミスト吹き付け工程と同時に、または当該工程の後に行われる乾燥によって、過度に速やかに蒸発する。そのため、フィルム表面においてミストが十分に沈降しないので、凹凸が十分に付与されない。沸点が高すぎるミストを用いると、当該ミストは、蒸発し難いため、過度に沈降する。そのため、ミストがフィルム中に埋包され、蒸発できなくなるので、フィルム表面において凹凸が十分に付与されないだけでなく、光学フィルムとしての使用に耐えないフィルムしか得られない。
【0013】
ミストを構成する液体は、沸点が上記範囲内のものである限り特に制限されない。ミストを構成する液体の具体例として、例えば、水、アルコール、炭化水素、およびそれらの混合物等が挙げられる。アルコールとしては炭素数2〜6の脂肪族飽和モノアルコールが使用可能であり、具体例として、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール等が挙げられる。炭化水素としては炭素数6〜9の脂肪族飽和炭化水素が使用可能であり、具体例として、ヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン等が挙げられる。好ましいミストは水、プロパノール、ヘキサンまたはそれらの混合物からなるものである。
【0014】
ミストを吹き付けるポリマーフィルムは少なくとも表層部の残留溶媒量が30〜80重量%、好ましくは35〜70重量%のものである。残留溶媒量が少なすぎると、フィルム表面が過度に硬いために、ミストが十分に沈降しない。そのため、フィルム表面において凹凸が十分に付与されない。残留溶媒量が多すぎると、フィルム表面が過度に軟らかいために、ミストが過度に沈降する。そのため、ミストがフィルム中に埋包され、蒸発できなくなるので、フィルム表面において凹凸が十分に付与されないだけでなく、光学フィルムとしての使用に耐えないフィルムしか得られない。
【0015】
本発明では、ポリマーフィルム表面へのミストの付着によって凹凸を付与するので、上記した残留溶媒量は、ポリマーフィルムの表層部において達成されていればよい。従って、ミスト吹き付け工程に供されるポリマーフィルムとしては、例えば、いわゆる溶液流延法による製造過程で、未だ十分に乾燥が行われていないフィルムを用いてもよいし、または公知の方法(例えば、いわゆる溶融流延法、溶液流延法)で製造された十分な乾燥状態のフィルムに対して樹脂コート層を設ける過程で、樹脂コート溶液を塗布した後、樹脂コート層の乾燥が未だ十分に行われていないフィルムを用いても良い。ミスト吹き付け工程で使用される好ましいポリマーフィルムは、前者のフィルムであり、特に溶液流延法において、ポリマーフィルムを流延支持体から剥離した直後のポリマーフィルムである。
【0016】
本発明において上記残留溶媒量が達成されていればよいポリマーフィルム表層部は、表面から深さ10μmまでの部分である。表層部の残留溶媒量は、ミスト吹き付け工程直前において、以下の方法によって測定された値を用いている。フィルムの表層部をサンプルとして採取し、当該サンプル重量Mを測定し、十分に乾燥させた後、サンプル重量Mを測定する。これらの測定値に基づいて下記式(1);
{(M−M)/M}×100 (1)
によって算出する。
【0017】
ミストの吹き付けは、ミスト雰囲気中でポリマーフィルムを搬送することによって達成できる。ミスト雰囲気は通常、ミスト発生器により発生させたミストをミスト室内に供給することによってミスト室内に形成される。具体的には、例えば図2および図3に示すように、ミスト室4内において、搬送ロール3によって、ポリマーフィルム1を搬送しながら、当該フィルム1の一方の面を、ミスト2の雰囲気に晒す。図2は、図1(B)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例10Aを、フィルムの幅方向から見たときの断面模式図を示す。図3は、図2のミスト吹き付け装置10Aを、搬送方向MDから見たときの断面模式図を示す。図2および図3中、MDはフィルムの搬送方向を示し、TDはフィルムの幅方向を示す。
【0018】
ミストのポリマーフィルムに対する吹き付け量は、本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は1〜50cm/m、好ましくは1〜10cm/mである。
【0019】
ミストの吹き付け量は、ミストの吹き付け前後における、ポリマーフィルム重量の測定値と、当該測定されたポリマーフィルムの面積とを用いることによって算出できる。後述するようにミスト吹き付け工程を乾燥と同時に行う場合であっても、ミストの吹き付け量は、乾燥を行うことなく、ミスト吹き付け工程を行ったものと仮定したときの値である。
【0020】
ミストの粒径は20〜2000nmの範囲内で調整され、当該ミスト粒径を調節することにより、フィルム表面に付与される凹凸の大きさ、例えば表面粗さRa、すべり性を制御できる。なお、ミストの粒径は、ミスト発生器において予めユーザーによって設定されるべき条件のひとつであり、当該ミスト発生器により発生させた直後のミスト粒径の値を意味するものとする。ミスト粒径を大きくすると、得られるフィルムの表面粗さRaは大きくなる。一方で、ミスト粒径を小さくすると、得られるフィルムの表面粗さRaは小さくなる。具体的には、例えば、本ミスト吹き付け工程を常温で行う場合、ミスト粒径を上記範囲内で調整すると、ほぼ当該ミスト粒径値(nm)に相当する値の表面粗さ(nm)をフィルムに付与できる。また例えば、本ミスト吹き付け工程を、後述するように、乾燥と同時に行う場合、ミストの粒径はフィルム表面に付着するまでの間に乾燥によって小さくなるので、ミストの粒径は所望の表面粗さよりも大きく設定する必要がある。その小粒径化の程度は、ミスト室4内にミストが導入される供給口からフィルム表面までの距離、および乾燥温度、密度、吐出速度等に依存するので、一概に規定できるものではないが、例えば上記距離が100〜300mm、乾燥温度が100〜160℃の場合、ミスト粒径を上記範囲内で調整すると、フィルムに付与される表面粗さ(nm)は5〜500nmの範囲内で制御できる。
【0021】
ミスト発生器(図示せず)は、所定粒径のミストを発生させることができれば特に制限されず、例えば、液体と空気のそれぞれを、圧縮してノズルから噴射させ、互いにぶつけ合う方式のものであってもよいし、液体だけを圧縮し、ノズルから空気中に噴射させる方式のものであってもよい。ミスト発生器は市販品として容易に入手可能である。
【0022】
ミスト発生器は、液体および/または空気の圧縮の程度、1サイクルの吐出量等の設定条件を調整することによって、ミストの粒径を上記範囲内で制御可能である。
【0023】
ミスト発生器によるミスト発生量およびミスト室内でのミスト濃度は、上記ミストの吹き付け量が達成されるような範囲であればよい。
【0024】
ミスト発生器はミスト室4に直接的または間接的に連結され、当該室内においてミスト雰囲気を形成する。ミスト発生器は詳しくは、例えば、ミスト室4内におけるポリマーフィルムのミスト吹き付け面側に直接的に連結されてミストを発生させ、ミスト雰囲気を形成してもよいし、または一旦、予備室に連結されて、当該予備室で発生させたミストをミスト室4内に誘導してミスト雰囲気を形成してもよい。ミスト発生器の使用台数は、ミスト室内のミスト濃度をフィルム幅方向で略均一に確保できれば特に制限されず、例えば、図2および図3に示すように、ミスト室4がフィルム幅方向で仕切板を有さず、かつフィルムの幅方向長さが1300〜2000mmの場合、通常は3〜10台、好ましくは5〜8台である。複数のミスト発生器を使用する場合、当該複数のミスト発生器は各供給口がフィルム幅方向に略等間隔で並ぶように設置される。
【0025】
ミスト吹き付け工程は、加熱による乾燥を行いながら実施してもよいし、またはミスト吹き付け工程を10〜30℃の常温で実施した後、加熱による乾燥工程を実施してもよい。表面粗さを簡便に制御する観点から好ましくは、ミスト吹き付け工程は乾燥と同時に行う。
【0026】
ミスト吹き付け工程を乾燥と同時に行う場合、上記した図2および図3において、ミスト室4内をミスト雰囲気にするとともに、当該ミスト室4内の温度を上げる。この場合における、ミスト室4内の温度は通常、ミストを構成する液体の沸点をTb(℃)としたとき、Tb+0〜Tb+40℃であり、好ましくはTb+10〜Tb+30℃である。ミストが2種類以上の液体からなる場合、沸点が最も高い液体の沸点をTbとすればよい。
【0027】
ミスト吹き付け工程を乾燥と同時に行う場合における乾燥は、フィルムの残留溶媒量が45〜85重量%、好ましくは55〜75重量%になるまで行えばよい。このときの残留溶媒量は、サンプルとして当該ミスト吹き付け工程直後のフィルム全体を用いること以外、前記した表層部の残留溶媒量と同様の方法によって測定できる。ここでフィルム全体とはフィルムの厚み方向において全体という意味である。
【0028】
ミスト吹き付け工程を常温で実施した後、加熱による乾燥工程を実施する場合、乾燥は、ミスト吹き付け工程後、速やかに行う。乾燥方法は、従来から光学フィルムの製造の分野で行われている乾燥方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、乾燥室内でポリマーフィルムを幾つかの搬送ローラに張架させて搬送する方法が挙げられる。この場合の乾燥は、フィルムの残留溶媒量が、ミスト吹き付け工程を乾燥と同時に行う場合と同様の範囲内になるまで行えばよい。
【0029】
本発明においては、ミストがフィルム幅方向で略均一な粒径分布を有する場合、当該粒径分布に応じた表面粗さ分布を有するフィルムを得ることができる。ミストの略均一な粒径分布は、フィルム幅方向で分割されていないミスト室に所定粒径のミストを供給することによって達成できる。例えば、図3に示すように、ミスト室4がフィルム幅方向で仕切板を有さず、かつ使用される1またはそれ以上のミスト発生器が同じミスト粒径値に設定される場合、フィルムに対して表面粗さをフィルム幅方向で比較的均一に付与できる(例えば、図1(B)参照)。例えば、フィルム幅方向の表面粗さの偏差(全体)として2.0以内、好ましくは1.0以内を達成できる。
【0030】
表面粗さの偏差は、以下の方法によって算出できる。フィルムの凹凸形成表面において、フィルム幅方向の端面から50mmまでの両端部の表面粗さRaE1およびRaE2ならびに幅方向長さ(幅)50mmの中央部の表面粗さRaを測定する。各部の表面粗さRaE1、RaE2およびRaは、各部において任意の10点で測定された値の平均値を用いる。各部領域において、測定値より、(最大値−最小値)/最小値を算出し、当該値を各部領域の偏差とする。また全ての測定値より、(最大値−最小値)/最小値を算出し、当該値を全体偏差とする。
本明細書中、表面粗さはニュー・ビュー(New View)5000(ZYGO社製)によって測定されたRa値を用いている。
【0031】
本発明においては、ミストがフィルム幅方向で粒径勾配を有する場合、当該粒径勾配に応じた表面粗さ勾配を有するフィルムを得ることができる。例えば、ミストがフィルム幅方向で、粒径が中央部側から両端部側に向かって増加する粒径勾配を有すると、表面粗さがフィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって増加する表面粗さ勾配を有するフィルムが得られる(例えば、図4(A)参照)。また例えば、ミストがフィルム幅方向で、粒径が中央部側から両端部側に向かって減少する粒径勾配を有すると、表面粗さがフィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって減少する表面粗さ勾配を有するフィルムが得られる(例えば、図4(B)参照)。
【0032】
ミストの粒径勾配は、ミスト室をフィルム幅方向について分割し、各分室に所定粒径のミストを供給することによって達成できる。例えば、各分室において1以上のミスト発生器を連結し、当該ミスト発生器のミスト粒径を各分室ごとに所定の値に設定する。
【0033】
具体的には、例えば図5に示すように、ミスト室をフィルム幅方向TDについて3つに分割し、かつ各分室(41,42,43)のミスト粒径を、フィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって増加する粒径勾配が達成されるように設定すると、表面粗さがフィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって増加する勾配を有するフィルムが得られる(例えば、図4(A)参照)。そのような表面粗さ勾配を有するフィルムは搬送時の蛇行を防止する搬送性や巻き取り時のフィルム同士のスベリを防止する巻きズレ耐性に優れている。また例えば図6に示すように、ミスト室をフィルム幅方向TDについて3つに分割し、かつ各分室(41,42,43)のミスト粒径を、フィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって減少する粒径勾配が達成されるように設定すると、表面粗さがフィルム幅方向で中央部側から両端部側に向かって減少する勾配を有するフィルムが得られる(例えば、図4(B)参照)。そのような表面粗さ勾配を有するフィルムは巻き取った後のロール保管時のフィルム同士のブロッキングを防止する耐ブロッキング性に優れている。図5は、図4(A)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例を、フィルムの搬送方向から見たときの断面模式図を示す。図6は、図4(B)の光学フィルムを連続的に製造する方法において採用されるミスト吹き付け装置の一例を、フィルムの搬送方向から見たときの断面模式図を示す。
【0034】
ポリマーフィルム1に付与される表面粗さ勾配は、段階的に変化する勾配であってもよいし、または連続的に変化する勾配であってもよい。そのような表面粗さの勾配形態は、例えば、ミスト室4をフィルム幅方向で分割するための仕切板5の下端からフィルム1までの間隙距離Lgを調整することによって制御できる。例えば図5および図6において、間隙距離Lgを小さくするほど、付与される表面粗さ勾配は段階的形態に近づくようになる。また例えば図5および図6において、間隙距離Lgを大きくするほど、付与される表面粗さ勾配は連続的形態に近づくようになる。しかし、Lgが大きすぎると、各分室ごとに所定の粒径に設定されたミストが、ミスト室4内において混在し、十分な勾配をもって表面粗さをフィルムに付与できないため、Lgは通常、100〜300mm、好ましくは150〜200mmの範囲内で調整される。
【0035】
ミスト室をフィルム幅方向について分割し、各分室において所定粒径のミストを発生させる場合においても、本ミスト吹き付け工程は、加熱による乾燥を行いながら実施してもよいし、または本ミスト吹き付け工程を常温で実施した後、加熱による乾燥工程を実施してもよい。
【0036】
<ポリマーフィルム>
ミスト吹き付け工程に供されるポリマーフィルム1は、前記したように表層部の残留溶媒量が所定の範囲内である限り特に制限されず、例えば、いわゆる溶液流延法による製造過程で、未だ十分に乾燥が行われていないフィルムを用いてもよいし、または公知の方法(例えば、いわゆる溶融流延法、溶液流延法)で製造された十分な乾燥状態のフィルムに対して樹脂コート層を設ける過程で、樹脂コート溶液を塗布した後、樹脂コート層の乾燥が未だ十分に行われていないフィルムを用いても良い。
【0037】
ポリマーフィルムを構成する材料は、特に制限されず、例えば、光学フィルムの分野で従来より使用されている公知の樹脂からなるフィルムが使用可能である。具体的には、セルロース樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ノルボルネン等が挙げられる。好ましくはセルロース樹脂からなるフィルムが使用される。
【0038】
セルロース樹脂は、セルロースエステルの構造を有するものであり、具体例として、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレート等が挙げられる。これらの中で特に好ましいセルロース樹脂として、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。セルロース樹脂は1種を単独で使用してもよいし、または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
ポリマーフィルムには紫外線吸収剤、可塑剤、(マット剤、有機微粒子、モノマー)等の添加剤が含有されていてもよい。本発明はポリマーフィルムに無機微粒子、有機微粒子等のマット剤を含有させることを妨げるものではないが、マット剤は含有させないことが好ましい。ヘイズ値の上昇を伴うマット剤を含有させなくても、フィルム表面に凹凸を十分に付与できるためである。
【0040】
ポリマーフィルムのTg(ガラス転移温度)は、加工しやすさの観点から、100〜400℃、特に120〜350℃であることが好ましい。
本明細書中、Tgは、十分に乾燥および冷却したフィルムについて、TMA8310(RIGAKU社製)によって測定された値を用いている。
【0041】
ミストが吹き付けられる直前のポリマーフィルムの乾燥厚みは本発明の目的が達成される限り特に制限されず、通常は10〜150μm、好ましくは20〜80μmである。
【0042】
<光学フィルムの製造方法>
前記ミスト吹き付け工程を、いわゆる溶液流延法を採用した光学フィルムの製造方法において実施する場合、当該ミスト吹き付け工程は通常、ポリマーフィルムを流延支持体から剥離する剥離工程の直後に実施する。
【0043】
例えば、溶液流延法がいわゆる流延工程、第1乾燥工程、剥離工程、第2乾燥工程、延伸工程、第3乾燥工程および巻き取り工程を有する場合、前記ミスト吹き付け工程は剥離工程と第2乾燥工程との間で実施する。ミスト吹き付け工程を、加熱による乾燥を行いながら実施する場合は、第2乾燥工程を省略することができる。ミスト吹き付け工程を常温で実施した後、乾燥工程を実施する場合、当該乾燥工程を第2乾燥工程として実施すればよい。また溶液流延法においては延伸工程を省略することができる。
【0044】
ミスト吹き付け工程を溶液流延法において剥離工程の直後に実施する場合における光学フィルムの製造装置の具体例の一例を図7に示す。
【0045】
図7は、溶液流延法による光学フィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。光学フィルムの製造装置20は、流延支持体(無端ベルト)12、流延ダイ13、剥離ロール14、ミスト吹き付け装置10、延伸装置16、乾燥装置17及び巻取装置18等を備える。流延ダイ13は、所定の樹脂を含むフィルム原料を溶媒に溶解/分散した樹脂溶液(ドープ)19を無端ベルト支持体12の表面上に流延する。無端ベルト支持体12は、流延ダイ13から流延されたドープ19からなるウェブを形成し、搬送させながら乾燥手段(図示しない)で乾燥させることによってフィルムとする。剥離ロール14は、フィルムを無端ベルト支持体12から剥離する。ミスト吹き付け装置10は、フィルムにミストを吹き付けながら乾燥を行うものであり、これによってフィルムに凹凸を付与する。図7中、ミスト吹き付け装置10は図2および図3に示すミスト吹き付け装置10Aであって、同時に乾燥を行うものであるが、これに制限されるものではなく、例えば図5に示すミスト吹き付け装置10Bであってもよいし、図6に示すミスト吹き付け装置10Cであってもよい。延伸装置16は、凹凸が付与されたフィルムを延伸する。乾燥装置17は、延伸されたフィルムを搬送ロールで搬送させながら、乾燥させる。巻取装置18は、乾燥したフィルムを巻き取って、フィルムロールとする。
【0046】
ドープを調製するための溶媒としては、例えばメチレンクロライド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることが出来、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。上記の溶媒に、以下の溶媒を混合して使用することがより好ましい。例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘクサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることが出来る。
【0047】
前記ミスト吹き付け工程を、いわゆる溶融流延法を採用した光学フィルムの製造方法において実施する場合、当該ミスト吹き付け工程は通常、溶融流延法で製造された十分な乾燥状態のフィルムに対して樹脂コート層を設ける過程で、樹脂コート溶液を塗布した後、実施する。樹脂コート溶液塗布工程とミスト吹き付け工程との間で乾燥工程を行い、表層部が所定の残留溶媒量を達成するようにしてもよい。なお、このように樹脂コート層を設ける過程でミスト吹き付け工程を実施する場合においては、溶融流延法の代わりに溶液流延法を採用してもよい。
【0048】
例えば、溶融流延法がいわゆる流延工程、冷却工程、剥離工程、延伸工程および巻き取り工程を有し、延伸工程と巻き取り工程との間で、樹脂コート液塗布工程および樹脂コート層乾燥工程を実施する場合、前記ミスト吹き付け工程は樹脂コート液塗布工程と樹脂コート層乾燥工程との間で実施する。ミスト吹き付け工程を、加熱による乾燥を行いながら実施する場合は、樹脂コート層乾燥工程を省略することができる。ミスト吹き付け工程を常温で実施した後、乾燥工程を実施する場合、当該乾燥工程を樹脂コート層乾燥工程として実施すればよい。また溶融流延法においては延伸工程を省略することができる。
【0049】
<光学フィルムの用途>
以上の方法で製造された光学フィルムは、例えば、プリズムシート、レンズシート、回折格子、無反射構造体等としての使用に特に適している。
【0050】
例えば、光学フィルムをプリズムシートとして使用する場合、液晶ディスプレイ用バックライト用輝度向上フィルムとして好ましく用いられる。
【0051】
また例えば、光学フィルムを無反射構造体として使用する場合、ディスプレイ最表面の反射防止フィルムとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0052】
[実験例A](流延工程−第1乾燥工程−剥離工程−ミスト吹き付け工程(同時乾燥)−延伸工程−第3乾燥工程−巻き取り工程)
<実施例1>
(ドープの調製)
メチレンクロライド400質量部及びエタノール45質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルロースアセテートプロピオーネ樹脂(アセチル基置換度:1.5、プロピオニル基置換度:1.0、総アシル基置換度:2.5、Tg150℃)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート5.5質量部及びエチルフタリルエチルグリコール5.5質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、セルロースアセテートプロピオーネ樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、得られた樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用し、以下の方法により、光学フィルムを製造した。
【0053】
(セルロースアセテートプロピオネートフィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を25℃に調整した。
【0054】
次いで、ミスト吹き付け装置10として図2および図3に示すミスト吹き付け装置10Aを用いた、図7に示す光学フィルムの製造装置20を用いて光学フィルムを製造した。
流延ダイ13から搬送速度60m/分の無端ベルト支持体12にドープ19を流延してウェブを形成し、乾燥させながら搬送した。
【0055】
無端ベルト支持体から剥離ロール14によりウェブをフィルムとして剥離した。次いで、ミスト吹き付け装置10Aにより、ミスト室4内でポリマーフィルム1の上面をミスト雰囲気に晒しながら、乾燥を行い、凹凸を付与した。ミスト吹き付け工程直前のフィルム表層部の残留溶媒量は90重量%、乾燥厚みは40μmであった。ミスト発生器は6台で用い、全てのミスト発生器において、水(沸点100℃)からなるミストを発生させ、ミスト粒径は25nmに設定した。各ミスト発生器からのミストの供給は、ミスト室4の天井面から、当該室内のミスト濃度がフィルム幅方向に均一になるように200mmの等間隔で行った。ミストの吹き付け量は2.5cm/mであった。ミスト室4内は空調により25℃に維持した。ミスト室4のミスト供給口からフィルム面までの距離は300mmであった。ミスト吹き付け工程直後のフィルム全体の残留溶媒量は80重量%であった。
【0056】
凹凸が付与されたフィルムの両端を、延伸装置(テンター)16において、クリップで把持しながら延伸した。延伸されたフィルムを乾燥装置17により140℃で乾燥し、巻き取り装置18により巻き取り、幅方向長さ1492mmおよび搬送方向長さ3900mの光学フィルムを得た。
【0057】
(評価)
光学フィルムの凹凸付与面について、表面粗さを測定した。詳しくは、フィルム幅方向の端面から50mmまでの両端部の表面粗さRaE1およびRaE2、ならびに幅方向長さ(幅)50mmの中央部の表面粗さRaを測定した。各部領域では任意の10点の測定値より、平均表面粗さおよび表面粗さの偏差を算出した。さらに全ての測定値より、表面粗さの全体偏差を算出した。
【0058】
<実施例2〜6/比較例1〜5>
ミスト吹き付け工程における各種条件を表1に示すように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により、光学フィルムの製造および評価を行った。
【0059】
【表1】

【0060】
[実験例B](流延工程−第1乾燥工程−剥離工程−ミスト吹き付け工程(同時乾燥)−延伸工程−第3乾燥工程−巻き取り工程)
<実施例7〜8>
ミスト吹き付け装置10として図5に示すミスト吹き付け装置10Bを用いたこと、およびミスト吹き付け工程における各種条件を表2に示すように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により光学フィルムの製造および評価を行った。
ミスト吹き付け装置の各分室(41,42,43)において、ミストの種類および室内温度は共通するものであり、ミスト粒径は表2に示す通りであった。2つの仕切板5はいずれもフィルム幅方向についてフィルム端面から50mmのところに設置した。仕切板5の下端からフィルム1までの間隙距離Lgは150mmであった。各分室41,43では1台のミスト発生器によりミストを天井面から等間隔で供給した。分室42では4台のミスト発生器によりミストを天井面から等間隔で供給した。
【0061】
【表2】

【0062】
[実験例C](流延工程−第1乾燥工程−剥離工程−ミスト吹き付け工程(常温)−第2乾燥工程−延伸工程−第3乾燥工程−巻き取り工程)
<実施例9〜10>
ミスト吹き付け工程を25℃の常温で行い、当該工程後、140℃の乾燥室で第2乾燥工程を行ったこと、およびミスト吹き付け工程における各種条件を表3に示すように変更したこと以外、実施例1と同様の方法により光学フィルムの製造および評価を行った。
【0063】
【表3】

【符号の説明】
【0064】
1:ポリマーフィルム
2:ミスト
3:搬送ロール
4:ミスト室
5:仕切板
10A:10B:10C:ミスト吹き付け装置
41:42:43:分室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層部の残留溶媒量が30〜80重量%のポリマーフィルムに対して沸点70〜150℃の液体のミストを吹き付けることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
ミストが、水、アルコール、炭化水素からなる群から選択される1種類以上の液体の微小液滴である請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
ミストを吹き付け量1〜50cm/mで吹き付ける請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
ミストが粒径20〜2000nmを有する請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
ミストがポリマーフィルム幅方向で略均一な粒径分布を有する請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
ミストの吹き付けが、ミスト室内のミスト雰囲気中でポリマーフィルムを搬送することによって達成され、ミストの略均一な粒径分布が、フィルム幅方向で分割されていないミスト室に所定粒径のミストを供給することによって達成される請求項5に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
ミストがポリマーフィルム幅方向で、中央部側から両端部側に向かって粒径が増加または減少する粒径勾配を有する請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
ミストの吹き付けが、ミスト室内のミスト雰囲気中でポリマーフィルムを搬送することによって達成され、ミストの粒径勾配が、ミスト室をフィルム幅方向について分割し、かつ各分室に所定粒径のミストを供給することによって達成される請求項7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリマーフィルムに対してミストを吹き付けながら、または吹き付けた後、乾燥を行う請求項1〜8のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
溶液流延法において、ポリマーフィルムを流延支持体から剥離した後、該ポリマーフィルムに対してミストを吹き付ける請求項1〜9のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245707(P2011−245707A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120137(P2010−120137)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】